自由人で、遊び人 作:おいら一人で哲学するのニャ
猫又遊(ねこまた あそび)は、いつものように授業をサボり、小学校の敷地内にある木の上で惰眠を貪っていた。
うまい具合にバランスを取りながら、器用にのび太スタイルで寝入る。先生は注意しない、この6年間で諦めている。すでに遊が教室にいなくとも「猫又は欠席な」と流せるくらいには達観している。
しかし、そんな先生もが匙を投げた遊のことを性懲りもせずに注意し続ける生徒が一人いた。
「こらあああ、遊! 教室に戻りなさい!」
下から聞こえてきた女の子の怒声に、遊は「また来たか」とめんどうくさそうに顔をしかめる。
「いやニャース! 何でこんないい天気の日に狭い教室にいなきゃいけにゃいんだ!」
「授業中だからよ!」
「じゃあ、授業中においらを追いかけてきているお前もサボりニャース! これが同じ穴のルイーズってやつニャ!」
「私はちゃんと先生に断って来てるわよ!」
「やーい、サボり上院! お前のあだ名アースリン!」
「アスリンって呼ばないで!」
アスリンこと、天上院明日香は羞恥の感情を込めて叫ぶ。二つ上の兄が呼び始めたあだ名だが、彼女の性に合わず呼ばれるのを嫌がっているのだ。
ちなみに遊もそれを理解して煽っている。なぜなら、明日香を怒らせることである言葉を引き出したいからだ。
「いつもいつも口が減らないんだから……っ! こうなったらデュエルよ! 私が勝ったら教室に戻りなさい!」
かかったとばかりに遊はほくそえんだ。
この世界はデュエル世界。仕事も、恋愛も、デュエルで勝ち組になれる世界である。
「ニャハハ。その言葉を待っていたニャ! ほんじゃあ、おいらが勝ったらおいらのこと連れ戻そうとするの諦めるニャ」
「分かったわ」
「んじゃ、いっちょ遊んでやるニャ……よっと」
遊は木から飛び降りた。普通の子供なら足を折る高さだが、デュエリストなので問題ない。
二人は、デッキをセットして、腕に付けているデュエルディスクを構えた。
「「デュエル!!」」
先行は遊だ。
「おいらのターンからニャ! ドロー!」
遊は手札を眺めてニヤリと笑う。
「魔法カード『ワン・フォー・ワン』を発動! 手札のモンスターを捨てて、デッキからレベル1のモンスターを特殊召喚するニャ! おいらは『グレイブ・スクワーマー』を守備表示で召喚するにゃ!』
ミイラ男のような姿をした大柄な悪魔が出てきたが、すぐに膝まずいてしまった。強そうな見た目でも攻守共に0である。人は見た目によらない。悪魔だけど。
「カードを1枚伏せてターンエンドニャ」
遊 LP4000 手札2枚
気合い十分の明日香にターンが回る。
「私のターンドロー! 私は『切り込み隊長』を攻撃表示で召喚! 切り込み隊長の効果発動。このモンスターが召喚に成功したとき手札のレベル4以下のモンスターを特殊召喚できる。私は『アックス・レイダー』を特殊召喚するわ! もちろん攻撃表示よ!」
切り込み隊長ATK1200
アックス・レイダーATK1700
守備力0に対して容赦のない展開に遊は呆れ半分に。
「相変わらず女のくせに男臭いモンスターを使ってるにゃ~。そんなんだと嫁の貰い手がいなくなるニャース」
「余計なお世話よ! あなただってそんな不気味なモンスター使ってるじゃない!」
不気味と評されたグレイブ・スクワーマーは、ぐはぁ! と心臓を抉られたよう(なさそうだけど)に胸を押さえて倒れこんだ。ソリットビジョンなのに芸が細かい。
「不気味でも強ければいいのニャ!」
そして持ち主はフォローするどころか開き直った。なお、グレイブ・スクワーマーは地面に文字を書いていじけている。
「ああそう。私はアックス・レイダーでグレイブ・スクワーマーを攻撃するわ!」
遊はドン引きした様子で。
「うわぁ……酷いニャ。守備力0をわざわざ攻撃力が高い方で攻撃とか、文字通り死体蹴りニャ」
「ちゃ、ちゃんと考えて攻撃してるわよ!」
「確信犯とか、なお質悪いニャ!」
「そうじゃないわよ!」
「まあ、分かってるけどニャ。グレイブ・スクワーマーの効果発動! このカードが戦闘で破壊された時、フィールド上のカードを1枚破壊できるニャ! おいらは切り込み隊長を破壊するニャース!」
破壊されたはずのグレイブ・スクワーマーが亡霊のように現れる。そして迎え撃つ切り込み隊長を捕まえて、お前も道連れだ! と言わんばかりに墓地へ引きずり込んだ。わりとホラーである。
「上手い手ニャ。もし切り込み隊長で攻撃していたら、攻撃力の高いアックス・レイダーを失っていたからニャ。さすがは
と学年1位の実力者は上から目線で称賛する。そんなもの神経を逆撫でるだけである。特にプライドの塊であるデュエリストという生き物にとっては。
「2位を強調しないで! というか気づいてたんじゃない!」
「当たり前ニャ!。そんな簡単なことが分からなくてデュエリストやってられないニャ! ほらとっととターン進めろ。これ以上は遅延行為ニャ」
「くっ」
たしかにその通りなのだが、明日香はどこか釈然としない様子だった。
「……私はカードを2枚伏せてターンエンドよ」
明日香LP4000 手札2枚
「おいらのターンドロー! 伏せカード2枚。まあ、天上院のことだから、どうせ攻撃反応型なんだろうけどニャ」
「そ、それはどうかしらね」
ちなみに伏せているカードは、攻撃対象を自分に移す代わりに自分のモンスターの直接攻撃を可能にする『ドゥーブルパッセ』と仕事をしないでお馴染みの『聖なるバリアミラーフォース』である。
「ニャハハ! ポーカーフェイスができないやつニャ。バレバレじゃニャか」
「う、うるさいわね! 早く進めなさい!」
「そうするニャ。おいらは墓地のグレイブ・スクワーマーをゲームから除外して『輝白竜ワイバースター』を特殊召喚するニャ!」
輝白竜ワイバースター ATK1700
貶され、死体蹴りされて、果てにはゲームから除外されたグレイブ・スクワーマーには、成仏してもらうことを願うばかりである。
「このモンスターは墓地の闇属性モンスターを除外した場合のみ特殊召喚できるニャ! さらにワイバースターを生け贄に捧げて『人造人間サイコショッカー』を召喚するニャ!」
「何ですって!?」
人造人間サイコショッカー ATK2400
「サイコショッカーって、伝説のデュエリスト城之内克也が使ってたカードじゃない! 何であなたが持ってるのよ! 相当な値段のはずよ!」
「おいらの家かなり金持ちなんだニャース!」
「あなたの親、子供に甘すぎるわよ!」
「おみゃーにだけは言われたくないニャ! さらにワイバースターの効果発動! このカードがフィールドから墓地に送られた時、デッキから『暗黒竜コラプサーペント』を手札に加えるニャ! そして光属性であるワイバースターを除外してコラプサーペントを特殊召喚ニャ!」
暗黒竜コラプサーペント ATK1800
「バトル! おいらはサイコショッカーでアックス・レイダーを攻撃ニャ!」
「ちょっと、何でサイコショッカーなの!?」
「グレイブ・スクワーマーの仇ニャ!」
「あなたゲームから除外したじゃない!?」
そうだそうだと草葉の陰から抗議する声が聞こえたが、人の耳には届かなかった。
サイコショッカーのエネルギー弾にアックス・レイダーはあえなく破壊された。
「さらにコラプサーペントで直接攻撃ニャ!」
「きゃあ!」
見た目によらず紳士なのか、コラプサーペントは控えめな頭突きで攻撃した。しかし、ダメージは一定である。
明日香LP4000➡3300➡1500
「おいらはこれでターンエンドニャ! ニャハハ! さて天上院、このおいらの布陣を打ち崩せるかニャあ?」
遊LP4000 手札1枚
ちなみに相手を嘲笑して挑発するのは、逆転のフラグである。
「私は絶対に負けないっ! 私のターンドロー!」
引いたカードを見た途端、険しかった明日香の表情に喜色が見えた。
「私は魔法カード『命削りの宝札』を発動! カードを3枚ドローするわ!」
「命削りの宝札!? 何でおみゃーがそんなレアカード持ってるニャ!?」
「あなたを倒すために手に入れたのよ!」
「親にせびったニャ!? 人のこと言えないニャース!」
「違うわ! 労働と対価に入手したのよ! 大変だったんだから……料理のお手伝い」
「それは労働と言わないニャー!」
手伝いといっても食器を運んで、野菜を水に浸けただけである。ちなみに汎用性の高い『命削りの宝札』はプロでも簡単に手は出せないお値段だ。
一悶着あったが、初期手札まで手札を回復した明日香は反撃に出始める。
「私は装備魔法『早すぎた埋葬』を発動! ライフを800払って切り込み隊長を特殊召喚!」
明日香LP1500➡700
「そしてその時手札から速攻魔法『地獄の暴走召喚』を発動するわ! このカードは手札、デッキ、墓地から同名のカードを可能な限り特殊召喚することができるわ! 遊、あなたも特殊召喚できるけどする?」
「むぐぐ……コラプサーペントは通常召喚できないモンスター。サイコショッカーは召喚することはできるが複数枚なんて持ってないニャ。というか知ってて聞いてるにゃろ、おみゃー!」
「散々馬鹿にしてくれた仕返しよ。私はデッキから切り込み隊長×2を特殊召喚するわ!」
現れた切り込み隊長は、お互いを見合い、共闘を誓い合うように剣を高く掲げて重ねた。
「そして3体の切り込み隊長を生け贄に捧げて!」
召喚されて早々の退場劇に、ちょ、待てよ! という切り込み3義兄弟の叫びが聞こえてきた気がした。
「現れなさい伝説の稲妻の剣士! 『ギルフォード・ザ・ライトニング』!」
ギルフォード・ザ・ライトニング ATK2800
「ふにゃああああ!? ギルフォード・ザ・ライトニングにゃと!? 超プレミアム物のレアカードじゃにゃか! おみゃー、どんだけ金使ったのニャ!」
「失礼ね、これも労働と対価に手に入れたカードよ。大変だったんだから……お買い物」
「だからそれは労働とは言わないニャ!」
しかも、片道15分の道のりをSPが五人体制で厳重に警護していたらしい。とんだはじめてのおつかいだ。
「ギルフォード・ザ・ライトニングが3体のモンスターを生け贄して召喚された時、相手フィールド上のモンスターをすべて破壊するわ! やりなさい『ライトニング・サンダー』!」
ギルフォードが剣を天に掲げると雷雲が辺りを覆う。そして巨大な稲妻は、狙ったようにサイコショッカーとコラプサーペントを直撃し、2体は破壊された。
遊はコラプサーペントの効果でワイバースターを手札に加えたものの、焼け石に水だ。
「さらに装備魔法『巨大化』を発動! ギルフォード・ザ・ライトニングに装備するわ」
ギルフォード・ザ・ライトニング ATK2800➡5600
ギルフォードの攻撃力が、遊のLPを越えた。
「行くわ! ギルフォード・ザ・ライトニングで遊に直接攻撃! 『ライトニング・クラッシュ・ソード』!」
「リバースカードオープン! 『ガード・ブロック』を発動! 戦闘ダメージを0にするニャ!」
ギルフォードの巨大な剣が遊に振り落とされたが、寸前で黄色いドーム状の壁に阻まれた。
「おしい! あと少しだったのに!」
「危なかったニャ……。ガード・ブロックの効果で1枚ドローするニャース」
「でもこれで追い詰めたわよ遊! 私はこのままターンエンド!」
明日香LP700 手札1枚
1ターンで完全に形成が逆転してしまった。
先程まで優位に立っていた遊は、フィールドはがら空き、手札は3枚あるものの1枚はサーチしたワイバースターで、後の2枚も逆転の手札とまでは言えない。
対する明日香は、攻撃力5000越えのモンスターをフィールドに置き、伏せカードも2枚と磐石だ。
どう考えても遊の勝利は絶望的。ほとんどの人がサレンダーを進めるだろう。
しかし、そんな窮地に立たされようとも
「ニャハハハハハ! いいニャア! 楽しいデュエルニャ! やっぱり遊びはこうじゃにゃか! おいらのターン……」
自然とカードを引く時の力が強くなった。
「ドローニャ!」
引いたカードを確認すると、遊はニヤリとほくそ笑んだ。
「魔法カード『運命の宝札』を発動するニャ! このカードはサイコロをふって、でた目の枚数カードを引いて、その分デッキの上から除外するニャ!」
「何よそのカード!? インチキ効果も大概にしなさい!」
「命削り使ってたおみゃーが言うなニャ! 行くニャ! ダイスロール……でた目は4! 4枚ドローするニャ!」
これで遊の手札は一気に7枚にまで増えた。
「おいらは『創世者の化身』を召喚するニャ!」
創世者の化身 ATK1600
「創世者の化身の効果発動! このカードを生け贄に捧げることで手札から『創世神(ザ・クリエイター)』を攻撃表示で特殊召喚するニャ!」
創世神 ATK2300
「創世神の効果発動。手札の『サイレント・ソードマンLV5』を捨てて墓地のサイコショッカーを召喚するニャ! これでその伏せカードはまた使えないニャ!」
「くっ……!」
「さらに魔法カード『レベル調整』を発動。相手に2枚ドローさせる代わりに墓地の「LV」モンスターを召喚条件を無視して特殊召喚するニャ! 墓地のサイレント・ソードマンLV5を特殊召喚するニャ!」
サイレント・ソードマンLV5 ATK2300
「さらに魔法カード『レベルアップ!』を発動! サイレント・ソードマンLV5を進化されるニャ! 現れろ、サイレント・ソードマンレベル7!」
サイレント・ソードマンがまばゆい光に包まれると、中から身の丈ほどの大剣を携えた剣士が現れる。
「ついでに闇属性のコラプサーペントを除外して、ワイバースターを特殊召喚するニャ!」
これで遊のフィールドに4体のモンスターが埋めた。
「たしかにすごい展開力だけど、私のギルフォード・ザ・ライトニングを越えることはできないわ!」
「ニャハハ甘いニャ。サイレント・ソードマンの効果を忘れたかニャ?」
「サイレント・ソードマンの効果……はっ、まさか!」
「そのまさかニャ。サイレント・ソードマンLV7はフィールドの魔法カードの効果を無効にするニャース! もちろん装備カードにも有効ニャ」
ギルフォード・ザ・ライトニング ATK2800
「何ですって!?」
「やるニャ、サイレント・ソードマンで攻撃! 『沈黙の剣』!」
「迎え撃ってギルフォード!」
雷の剣と身の丈ほとも大剣がぶつかり合う。力は互角。力尽きた二人は静かに倒れこんで破壊された。
そして明日香のフィールドには発動できない伏せカードが2枚。大成は結した。
「これで終わりニャ! サイコショッカー、創世神、ワイバースター、一斉攻撃ニャース!」
「ちょっと!? 1体で十分でしょ!?」
「ついでニャ! やれ!」
「きゃあああああ!」
サイコショッカーのエネルギー弾にふっとばされ、創世神にお姫さま抱っこで身体を起こされ、ワイバースターの渾身のタックルが明日香を再度ぶっ飛ばした。
ワイバースターの殺意が高い。コラプサーペントを焼かれて思うところあるのだろうか。
尻餅を付いた明日香に、遊はいつものように憎らしい笑みを浮かべながら。
「おいらの勝ちだニャ」
「うう……どうやったら勝てるのよ」
「まあ、そう悲観するなニャ。今日のデュエルは1つ間違えれば、おいらの負けだったからニャ」
「遊……」
励ましてくれているのかと、明日香が遊のことを少し見直していたが。
「まあ、結局おいらのライフ1つも削れてニャいけど!」
「~~~っっ!!」
「ニャッハハハハハハ! いい顔ニャース!」
「少しは見直したと思ったのに……遊ぃぃ!」
「やーい、負け上院! 悔しかったら1回でもおいらに勝ってみろニャ!」
「次は絶対に負けないわよ!」
明日香の叫びとほぼ同時に学校のチャイムが鳴った。
結局明日香は、授業をサボることになってしまった。