自由人で、遊び人 作:おいら一人で哲学するのニャ
今日デュエルアカデミア中等部本校の体育館では、入学式が行われていた。
デュエルアカデミア中等部の入学式は、盛大な盛り上がりを見せることで有名である。数々の著名なデュエル学者やプロになったOB、OG。経済界、政界からも未来のプロデュエリストの卵の顔を見に集まってくる。
それにはデュエルがすべてを決めるこの世界で、将来を見越して有望株に唾をつけておきたいという大人の事情もある。
子供たちもそれを分かっているので、上昇思考の強い者はこれを気に未来のスポンサー候補を見つけようと考えている生徒も少なくない。
その時、大人側がまず最初に見るのも、生徒側がアピールするのも入学試験の番号である。2番であれば、入学試験を2番目の成績で合格したということ。10番、100番としたに続いている。これは現時点の番付を表しているのだ。
番号が高ければ高いほど渡される名刺は多くなり、番号が低ければ見向きもされない。まさにデュエル界の弱肉強食の構図を表しているのだ。
しかし、今年の入学式は少し雰囲気が違った。
観覧席でもちょっとした騒ぎになっている。
なぜなら、
◇
場所はデュエルアカデミア中等部の裏庭。自然豊かでのんびりとした雰囲気が特徴的である。
「遊ぃぃぃぃ!」
綺麗に整えられた芝生の庭に、明日香の怒声が響き渡る。
そして名前を呼ばれた遊は、めんどくさそうにしながら、仰向けで寝転んだいた身体を起こした。
「なんニャ天上院。いきなり大きな声だして」
「何だじゃないわよ! あなた入学式サボったでしょ!? あなた首席合格者は、みんなの前で代表の挨拶をしなくちゃいけないから絶対に来なさいって言ったでしょ!」
「学校側にはちゃんと連絡したニャ。不良に絡まれた女の子助けたら警察に事情聴取に協力しろって言われたから遅れるって、挨拶は入学番号3番の天上院に任せるってニャ。誰にも迷惑かけてねえニャ」
「私にとっては、とても迷惑よ! というかやっぱりあなたの差し金だったのね! いきなり先生に呼び出された時は何事かと思ったわよ!」
当日心の準備一切なく、何千人ものお偉いさんや同級生の前で挨拶文を読まされた明日香の心の内は想像を絶する。激高するのも無理はない。
普通ならぐだぐだになってもおかしくない。
それでも、しっかりこなして見せる辺りが彼女のすごいところである。
一方遊は、悪びれた様子もなく頭をかきながら。
「分かった分かった、そんな怒るなニャ。今日の昼飯奢ってやるから、それで許せニャ」
「3日分+デザートよ。それくらいしてもらわないとわりに合わないもの」
そんなんでいいのかよ。遊は心内でそうつっこんだ。
「まあいいニャ。じゃあ、久しぶりに『ホワイト・ホーンズ・食堂』でも行くかニャ」
「私は『カオス・ソルジャー・レストラン』がいいんだけど」
「おいら洒落た料理は苦手なのニャ」
「私だってお米よりパンの方が好きよ」
「金出すのはおいらなんだから、店ぐらい決めさせろニャース!」
「こういうときは女の子に譲るものでしょ!」
「女として扱われたいなら、ちょっとは女らしくしろニャ!」
「何ですって!?」
恒例の喧嘩となった。
ギャーギャーと不毛な言い合いを続けていた。いつもはここらで明日香がデュエルを提案して終わるのだが、今日は少し違った。
「天上院さん!」
明日香の名字を呼ぶ男の声。もちろん遊ではない。
二人は言い合いを中断して、声の方を向くと制服姿の眼鏡をかけた少年がいた。
遊は誰か分からず白い目をしていたが、明日香は眼鏡の少年に見覚えがあった。ジュニア大会なので何度か話したことがある。たしか名前は……。
「取巻(とりまき)君?」
「よかった。名前を覚えていてくれたんだね」
「ええ、当たり前じゃない」
実はうろ覚えであったが、わざわざ口に出すことはしない。
「それで今日はどうかしたの?」
「ああうん。えーと……」
そこでいい淀む。そしてちらりと遊の方を見た。明らかに邪魔だからどこか行けという意味を込めた目だった。
そちらが割り込んできたというのに、とても失礼な態度に遊は怒りを覚える。しかし、遊は大人しくしている質ではないが、すごい好戦的というわけでもない。良くも悪くも気分屋だ。そして今日は喧嘩を買うような気分ではないので、スルーしておいた。
「おいらのことは気にしなくていいニャ」
と遠回しにその場に居座ることを宣言する。
喧嘩は買わないが、相手の思い通りにしてやる義理はない。
明日香はその意図を理解したのか、半分呆れたようにため息をついていた。
取巻は不服そうだったが、明日香のいる手前揉めるようなことはしなかった。
「あ、ああ。今日の夜、新入生歓迎会があるだろう? もし相手がいなかったら、お、俺のバートナーにどうかな?」
緊張からか、取巻の声は震えていた。
歓迎会とは、毎年OBOGが開催する新入生歓迎パーティーのことである。基本的にその年の新入生が対象で、毎年ここを利用して同級生との仲を深めることが恒例となっている。
そしてパーティーには、自分のバートナーを連れてくることが許されている。
同級生の親睦を深める狙いの会で、そんな制度は邪魔でしかない。だが、デュエルモンスターの実力者には金持ちの比重がとても高い。そしてお金持ちの家には、家同士で将来を約束された仲。いわゆる許嫁などがあり、以前その関係で苦情が出たことがあるという経緯から、パートナーを同伴することが許されたのだ。
今ではプログラムにダンスが入れられるなど、パートナーを連れていくことが当たり前となっている。
そのためこれを気に、気になっていた異性をバートナーに誘うことは一般的なのだ。
そんな半分告白のような言葉を受けた明日香は、表情を曇らせながら。
「ごめんね取巻君。私もうパートナーは決めてるの」
「そ、そうなのか……」
フラれてしまい、取巻は露骨にテンションを落とした。
その横で遊は、「へぇ~、天上院にもそんな相手がいるんだニャ~」と他人事のような感想を抱いていた。
「ちなみに誰なのかな? まあ、天上院さんのパートナーを務めるような人なら、素晴らしい相手なんだろうけど……」
ちょっと興味があったからナイス。遊は下の名前も知らない取巻に心の中で称賛した。
聞かれた明日香は顔を赤くして、一瞬言うのを躊躇した。
しかし、完全に諦めてもらうために決心する。
明日香は指を。
「この人よ」
しっかり遊に向けた。
「え?」
「ニャ?」
「「はあああああ!? (ニャああああ!?)」」
取巻と遊の絶叫が重なった。
◇
取巻は「俺は認めない! こんなやつ天上院さんに相応しくない! 覚えてろよ!」といかにも小物な捨て台詞を吐いて去っていった。
そんな小物のことなど刹那で忘れさり、現在遊は明日香を問い詰めていた。
場所はゆっくり話せるところがいいという明日香の希望で、『レッドアイズ・カフェ』に移動している。
「それで、どういうことニャ? 何であんな嘘ついたニャ?」
「落ち着いて遊。ちゃんと話すから」
そう言うと明日香は、『レッドアイズ・ダークネス・モカ』を一口飲んだ。
「元々、あなたにパートナーを頼もうと思ってたの」
「何でニャ。おみゃー、パーティーとかはいつも兄貴と一緒じゃニャか」
「兄さんは今アメリカにデュエル留学してるの。だから、今回は参加できないわ」
「だからって、何でおいらをパートナーにする必要があるニャ? 別にパートナー連れていくのは任意で強制じゃないじゃニャか」
口が渇いたのか、そこで遊は『黒炎印のアイスコーヒー』を口に含む。
「それにおみゃーだって分かってるニャ? パーティーでおいらとパートナーとして一緒に参加する意味が? 十中八九、おいらたちが付き合ってるとか勘繰るやつが出てくるニャ」
「ええ、分かってるわ」
「じゃあ何でニャ」
「デュエルのためよ」
「意味わかんねぇニャ!?」
闘いという言葉がしっくりくるデュエルと、甘い雰囲気を思わせる恋人という言葉がどう関係するのか。遊にはまったく理解できなかった。
しかし、明日香はふざけている様子はない。とても真面目に言っているのだ。
「正確にはデュエルの勉強に集中するためよ」
「ニャあ?」
さっきより言葉が増えたが、それでも理解できない。
「さっきの取巻君みたいに、パーティーの度に私のことを誘ってくる人って結構いるのよ」
「まぁ、おみゃー見た目だけはいいからニャ」
「『だけ』は余計よ!」
「事実ニャース。おいらは家庭科の時間に食わされた、クッキーの衝撃を忘れてないニャ」
「今は人並みにできるようになってるわよ! ……たぶん」
ちなみにその特訓には、味見役の兄の存在があることをここに明記しておく。
「……話を戻すわ。今まで年に数回しかないパーティーですら、何人もの人が私を誘ってきたわ。中には20歳を越えている人もいたわね」
「普通に犯罪ニャ」
遊はゴミを見るような目をする。
yesロリータ、noタッチの精神だ。守らなければ、もれなくブタ箱行きである。
「そして学園生活を送るとなれば、そんな事がもっと増えると思うの、告白とか色々。……ぶっちゃけ断るのも面倒くさいのよ」
「本当にぶっちゃけたニャー」
モテることは女性にとっては1つのステータスであるが、明日香はデュエルに恋していると言っても過言じゃないほどのデュエル馬鹿だ。そんなもの邪魔でしかない。
「……まあでも、言いたいことは大体わかったニャ。要するにおみゃーがやりたいことは、おいらを使って男払いしたいってことニャろ?」
「そうよ。そしてデュエルに集中して力を付けて、あなたを倒すためでもあるわ!」
「ニャハハ。本当にデュエル馬鹿ニャ、おみゃー」
「最高の褒め言葉よ」
「ニャッハッハ、褒めてねえニャ」
からからと笑いながら言う。
もっと馬鹿にされると思っていたので、意外に感触がいいことに明日香は少し希望を持つ。そして再度言う。
「だからお願い遊。私と一緒に新入生歓迎パーティーに行ってくれない?」
「お断りニャ」
即答、即断。
希望は薄いと考えていたが、やはり断られるとショックだった。
しかし、元より覚悟していたこと。明日香は立ち直って、第2の手を切る。
明日香は上着のポケットからあるものを取り出す。
「もし一緒にパーティーに行ってくれたら、このカードをあげるわ」
「カード? おみゃーが持っているようなカードなんて、おいら大体持って……ニャンですと!?」
明日香が交渉材料に出してきたカードは、遊が長年ほしがっていたカードだった。とても稀少で市場には滅多に出回らないため、手に入れようがなかったのだ。
「どうやってそのカードを手に入れたニャ!?」
「まぁ、色々ね。あなたを釣るために頑張ったんだから」
「本気で手に入れようとしたら少なくとも3桁万円じゃすまないニャース! おみゃー、どんだけおいらをパートナーにしたいのニャ……」
あまりの力の入れように狂気染みたものを感じた遊は、ドン引きする。
その反応に違和感を覚えた明日香は、1度自分の行動を省みる。そして、自分がやっていることは、友人に数千万かけてアクションをかけている、超絶重くて痛い女だということに気がついた。
慌てて取り繕う。
「ち、違うわ! このカードは前にパックを買ったときに偶然当てたものよ! 別にあなたを意地でもパートナーにしたいとかじゃないだから! 勘違いしないで!」
「嘘つくなニャ! そのカードは一般に流通してニャいんだから、パックで当たるわけないニャ!」
「本当に当たったんだから、しかたないでしょ! もうこの話はいいわ! それでこのカードはいるの? いらないの?」
「いらないわけないニャ!?」
「じゃあ言うこと聞く?」
「ニャグググググ……」
答えは1つしかなかった。
「わかったニャ! 行けばいいんニャろ、行けば!」
遊はやけくそ気味に叫んだ。
◇
野球場のように広い部屋に、テーブルの上には豪華絢爛な料理が並んでいる。
高級ホテルのバイキングのようなラインナップに目移りしている者。そんなものは当たり前とばかりに、優雅にお喋りに興じている者。育った環境で個性が出ていた。
そして部屋の中央で、キョロキョロと誰かを探す素振りをする赤髪の女生徒と、それとは別に自分の好みの殿方を見ている黒髪の女生徒。
この二人は、赤髪の方が枕田ジュンコ、黒髪の方が浜口ももえ。明日香の友達である。
お目当ての人物が見当たらないことに疑問を持ったジュンコは、ももえに聞く。
「あれー? ねぇ、ももえ。今日のパーティーって明日香さんも来るのよね? どこにもいないんだけど……」
「まだパーティーが始まって間もないですし、そろそろ来るんじゃないでしょうか? ……あ、万丈目様! やっぱりイケメンはいいですわ~」
「あんた、こんな所でもイケメン探しするのね……」
「当然ですわ!」
さも当然とばかりに、ももえは胸を張って言った。
ジュンコもイケメンは嫌いじゃないが、ももえほど興味が強いわけではない。ハハハと渇いた笑みを浮かべるのが精一杯だった。
イケメンで思い出したのか、ももえは口にする。
「そういえば、いつも明日香様のパートナー勤めていらっしゃる吹雪様は、今留学しておられるんですよね? では、今日明日香様は、誰をパートナーにされたのでしょう?」
「さぁ? というかいないんじゃない? だって明日香さんに彼氏いたら、吹雪さんが黙ってないと思うし。パートナーだって強制じゃないんでしょ? 私たちだって……ほら、一人身同士だし」
少し悔しいのか、苦虫を潰したように顔をしかめながら言った。
「私はお誘いされましたけど、好きな人がいますと言ってお断りしましたわ」
「ももえ。あんた、まだあの自分勝手男のことが好きなの? いい加減諦めなさいよ」
「嫌ですわ。私の心にはあの方しかいませんもの」
「あいつのどこが、そんなにいいのよ?」
「顔ですわ!」
「あっそう……」
顔の良し悪しは個人の主観的評価に完全に委ねられてしまう。そう言われてしまうと、何も言えなかった。
ジュンコが呆れていたとき、会場のドアが開いた。
会場の空気の流れが一瞬切れる。
二人がドアの方を見ると、入ってきたのは白いドレスを着た明日香……と、その横を黒いタキシード姿で間抜けた顔で歩いている遊だった。
ジュンコは言葉を失った。二人で登場したのなら、まだ理解できる。こういう場に来たがらない遊を、世話焼きな明日香が連れてきたのだと解釈できるからだ。
しかし、その解釈だと説明できない事が1つあった。
明日香と遊は手を取り合っていたのだ。まるでパートナーのように。
驚いていたのはジュンコだけではない。
会場全体がどよめいてた。いつも兄を番犬役に連れてくる明日香が別の男を連れている。しかも、その男は有名でも何でもない、まったく見覚えのない男。注目を浴びる要素は揃っていた。
「あーあ。やっぱり騒ぎになったニャ」
「予想通りでしょ? それに遅れて入ったことにも原因があると思うわ」
「じゃあ、おみゃーのせいか。おいらは時間通りに来たニャ」
「あなたがドレスコード無視するからでしょ!? 何でパーティーに私服で来るのよ! 信じられないわ!」
「しゃーにゃいだろ。おいらパーティーとかガキの頃以来なんニャだから。そんな服持ってないニャ」
「どうなってるのよ、あなたの家……」
「放任主義何だニャース」
「放任しすぎよ!」
「少し静かにしろニャ。おみゃー、おいらをここに連れてきた意味を忘れてるニャ」
「あ……っ! な……っ! ~っ!! わ、忘れてないわよ!」
もっと言いたいことがたくさんあったのだが、たしかにあまり険悪にしていると男子生徒への牽制という第1目標を没却してしまう。明日香は唇を噛んで、何とか我慢した。
主催者に一言遅れたことのお詫びと、挨拶を済ませて、お偉いさんなどに一通り愛想笑いを振り撒いた二人は、一息付くように空いていたテーブルにお皿を置いた(立食パーティーなので椅子はない)。
遊は、疲れたため息をついた。
「やっぱり、こういう堅苦しい会は苦手ニャ~。マナーとかドレスコードとか細かいこと一々煩いニャ。おいらの肌に合わないニャース」
「文句言わないの。私だって好きじゃないけど、我慢してるのよ」
「知るかニャ。あーもう、疲れたニャ。帰っていいかニャ? もう十分ニャろ?」
「ダメよ。今日1日くらい付き合いなさい。あんまり文句言ってると、カード返してもらうわよ」
「ニャ~! 鬼、悪魔、天上院!」
「はいはい」
駄々を捏ねる子供をあやしているお母さんのような図だった。
じゃれあっている二人に、来訪者が迫っていた。
「遊様~!」
「ニャグ!?」
「遊!?」
電光石火の速さで突撃してされ、構えていなかった遊は腹部にまともに受けた。苦しそうな声をあげたが、デュエリストなので問題ない。
遊は青い顔をしながら、突撃してきた人間を睨む。
「ニャにするニャ、浜口……」
「ももえと呼んでくださいまし~」
「嫌ニャ」
「あんっ、つれない人ですわ。でも、そんなところも好きですわ~!」
「恋は盲目ニャ! 目を覚ませニャース!」
「その通りだけど、好かれてる側がいう言葉なの?」
「おみゃーも見てないでこいつ引き離すの手伝えニャ!」
何とか引き離そうと力をいれるが、恋する乙女の力(物理)が強くてびくともしない。
明日香は関わりたくなかったので、聞こえないふりをした。
その態度は、遊の中で明日香に仕返しすることを決意させた。
「もう遊様~、私に嘘つきましたの? お誘いしたときは、行かないニャの一点張りでしたのに」
「おいらだって来る気はなかったニャけど、天上院にどうしてもパートナーとして一緒に来てくださいって言われたから来てやったのニャ」
「まぁ! 明日香様がそんな情熱的に……」
「あ、明日香さん!? 本当なんですか!?」
ももえの影に隠れていたジュンコが聞いた。
「パートナーとして来てとは言ったけど、そんなにはしたなく言ってないわよ!」
「パートナーに選んだのは本当なんですか!?」
「え……え、ええ、ほほ本当よ」
「そんなー! 明日香さんが、こんな自分勝手男を選ぶなんて……」
ジュンコはショックを受けて、ガックリと項垂れてしまった。
「ケンカ売ってんのかニャ、おみゃー」
明日香のパートナーに認めてほしいなんて気持ちは微塵もないが、ここまで否定されるとムカつく。そんな複雑な心持ちだった。
「まあまあ、落ち着いて遊」
「ジュンコさんは男の人の趣味が悪いですから、遊様の魅力が分からなくても仕方ないですわ~」
「あたし!? あたしの見る目がおかしいの!?」
「ニャハハ、多数決でおみゃーの負けニャ、布団田」
「枕田よ!」
ジュンコにフォローを入れたかった明日香だが、一応遊のパートナーという立場なので自重した。味方がいなくて涙目のジュンコに、心の中で謝った。
◇
その後、司会によってプログラムは順調に消化された。主催者の言葉、教職員によるバトルシティ城ノ内VSマリクを再現した劇、ダンス(曲名はブルーアイズ・ラブソティー)と進み、対に最後のプログラムとなった。
『さあ! 最後のプログラムは、毎年恒☆例! 新入生同士のデュエルだああああああ!』
人一倍長いリーゼントの先輩が、テンションMAXで宣言すると、会場が沸き立った。
『ルールは至って簡単! 壇上に上がってデュエルする相手を指名すればOKだ! 指名された側は1度目は断ることはできないから心の準備はしっかりしていてくれ! それでは我こそは、というデュエリストは手を挙げてくれぇぇぇ!』
「俺がやる!」
『おっとおおお、早速現れたぞ!』
どこが見覚えのある眼鏡をかけた生徒が元気よく手をあげた。
『では、デュエルしたい生徒を指名してくれぇぇぇ!』
「俺が指名するのは、入学番号1番のやつだ!」
『おっとおおお、いきなり今年の新入生のトップを指名だ! 今年の新入生は元気がいいぞおお。それじゃあ、指名された生徒はあちらの壇上に上がってくれ』
司会が手を向けた先にスポットライトが当てられると、デュエルフィールドが現れた。何でパーティー会場にデュエルフィールドがあるんだと思われるかもしれないが、この世界では当たり前のことである。
指名した生徒はかつかつと自信を覗かせる足取りでフィールドに向かう。
では、指名された方はと言うと。
「むぐむぐ……この刺身なかなかうまいニャ。天然かニャ?」
のんきに鮪の刺身に舌鼓をうっていた。
「遊様~、指名が入ってますわ~」
「えぇ、おいら今食事中にゃんだが……」
「早く行きなさいよ! 相手の人待ってるんだから!」
「いててて! 分かったニャ! 分かったから、押すニャ! 食べたものが出るニャろ、馬鹿シーツ田!」
「枕田よ! いい加減名字ぐらい覚えなさい!」
その意見は華麗にスルーして、口をもぐもぐさせながらデュエルフィールドに向かって歩き始める。後ろから叫び声が聞こえるが、おそらく冥福からなので気にしない。
横を歩いている明日香から声をかけられる。
「相手は取巻君ね。全国大会に何度も出場している実力者よ。油断したいでね」
「正直気分乗らないけどニャー。まあ、軽く遊んでくるニャース」
からからと笑い、遊はデュエルフィールドに入った。
所定の位置に着き、取巻と向き直る。
取巻は、遊が来たことを確認すると不敵な笑みを浮かべた。
「よく来たな入学番号1番! いや、
「ニャあ? 偽り? 何のこと言っているニャ?」
「とぼけるな! 調べはついているんだ、お前が試験官を買収して点数を操作したってことはな!」
その言葉が会場に伝わった途端、ざわめきが群衆を支配する。
しかし、遊の実力を知っている明日香やももえたちを除いて、誰一人としてそんなことはあり得ないという生徒はいないようだった。
「元々、ジュニアNo.1の万丈目さんを抜いてお前がトップなんて裁定がおかしいんだ! 言い逃れなんてできると思うなよ!」
そう世代No.1の万丈目を押さえて1位に座っていることが、彼らの不信感を増大させていた。
遊にはデュエリストに必要なものが揃っている。カード知識も、ドロー力も、タクティクスもトップクラスの才能を持っている。しかし、1つだけ欠けているものがある。
それは公式戦に出場していない故に、力を証明する実績がないことだ。例えるなら、野球のドラフト会議で県大会に出場もしていないチームの選手がドラフト1位で指名されたようなもの。もちろんファン、改め生徒は納得行かない。
そういう噂が流れていてもおかしくない。
噂は、真偽がどうあれ、信じられればそれは真実になる。
そして今、それが現実になろうとしている。
理不尽だろうか、不条理だろうか。遊はずるなど一切していない。彼の人柄を知っていれば、全員が鼻で笑って否定するだろう。
しかし、誰も遊のことを知らない。状況はアウェーだった。
今なら、人助けをしようとも点数稼ぎだのと騒ぎ出すやからが出てくるだろう。
ーーだが、彼は自由人。他人の作った空気など、踏み倒して行く。
「くっだらニャ」
吐き捨てるように言った。
「何かごちゃごちゃ言ってたみたいニャが、デュエリストならデュエルで語れニャ。おいら、おみゃーみたいな口だけ達者なやつは、鼠の次に嫌いニャース」
「いいだろう! お前のメッキを剥がしてやる!」
『い、いろいろあったがデュエル開始です!』
「「デュエル!!」」
遊LP4000 VS 取巻LP4000
取巻のデュエルディスクに青いランプが灯る。
「俺の先攻だ! ドロー! 俺は『砦を守る翼竜』を攻撃表示で召喚!」
砦を守る翼竜 ATK1400
「さらに魔法カード『二重召喚』を発動! 俺はこのターンもう一度通常召喚ができる。砦を守る翼竜を生け贄に『カース・オブ・ドラゴン』を攻撃表示で召喚!」
カース・オブ・ドラゴン ATK2000
「装備魔法『ドラゴンの秘宝』を発動! カース・オブ・ドラゴンに装備する。これでカース・オブ・ドラゴンの攻撃力は2300だ!」
カース・オブ・ドラゴン ATK2000➡2300
「俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ! フハハ俺の完璧な布陣に手も足も出まい!」
取巻LP4000 手札0
「そういうノリ恥ずかしいからやめてほしいニャ。おいらのターン、ドロー。おいらは永続魔法『漆黒のトバリ』を発動するニャ。さらに魔法カード『天使の施し』で3枚ドローして2枚捨てるニャ。続けて『強欲な壺』を発動カードを2枚ドローするニャ。カードを二枚伏せてターンエンド」
「慌ただしいな。早速手札事故か?」
遊LP4000 手札4枚
明らかに馬鹿にしたニュアンスだったが、遊はスルーする。
「俺のターンドロー!」
「その時リバースカード『威嚇する咆哮』を発動! このターンおみゃーはバトルフェイズを行えないニャ」
「ちっ。命拾いしたようだな。俺はこのままターンエンドだ」
取巻LP4000 手札1
「おいらのターンドロー! そして、漆黒のトバリの効果発動。ドローしたとき、闇属性モンスターを引いた場合そのカードを相手に見せて墓地に捨てて1枚ドローするニャ。おいらが引いたのは『ネクロガードナー』墓地に捨てて1枚ドロー、引いたカードは『ダーク・ホルス・ドラゴン』捨ててドロー、引いたのは『人造人間サイコ・ロード』捨ててドロー、引いたのは『ダーク・ジェネラルフリード』捨ててドロー……ここまでニャ」
たったワンドローで、墓地に闇属性モンスターを4体も貯めるが、行動の意味を理解していないのか取巻は余裕にしていた。
「おいらは『闇の誘惑』を発動! カードを2枚ドローして、手札の闇属性モンスターを除外するニャ……やっときたかニャ」
闇の誘惑でドローした1枚に語りかけるように言った。どうやら、お目当てのカードを引き当てたらしい。
「おいらの『ダーク・クリエイター』を特殊召喚するニャ!」
ダーク・クリエイター ATK2300
「何だ……ダーク・クリエイター? 創世神とは違うのか?」
「ほぼ同じニャ。このカードは墓地の闇属性モンスターが5体以上のときに召喚できるニャ。おいらはダーク・クリエイターの効果発動! 墓地の闇属性モンスターをゲームから除外して、墓地から闇属性モンスターを特殊召喚するニャース! おいらは『ダーク・ホルス・ドラゴン』を特殊召喚ニャ!」
ダーク・ホルス・ドラゴン ATK3000
「攻撃力3000だと!?」
「そんなんで驚いてるんじゃねえニャ! 出てくるニャ、長年おいらが探していたモンスター! 墓地の闇属性モンスターが3体のとき、おいらは『ダーク・アームド・ドラゴン』を特殊召喚するニャ!」
「『ダーク・アームド・ドラゴン』だと!?」
ダーク・アームド・ドラゴン ATK2800
「そのカードは一般に出回っていないようなレアカード! どうやって手に入れた!?」
「また、いちゃもんつける気かニャ。これは天上院にもらったカードニャ。文句言うなら、あいつに言えニャ」
「天上院さんが……? そんな、嘘だ、嘘だ! 嘘だ!」
「うるせえニャ。おいらはダーク・アームド・ドラゴンの効果発動! 墓地の闇属性モンスターを除外して、フィールド上のカードを破壊するニャ。おいらは、3枚除外して、おみゃーの伏せカードとカース・オブ・ドラゴンを破壊するニャ」
破壊された伏せカードは『聖なるバリアミラーフォース』と『竜の逆鱗』。おそらく遊が攻めてきたらミラーフォースで防御して、守ってきたら竜の逆鱗の貫通効果で越える算段だったのだろう。しかし、その目論みは脆くも崩れ去り、残ったカードはなかった。
「終わりニャ。ダーク・ホルス・ドラゴンで直接攻撃」
「ぐあああっ!?」
取巻LP4000➡1000
「ダーク・アームド・ドラゴンで止めニャ! 『ダーク・アームド・パニッシャー』!」
「ぐわああああああああ!?」
取巻LP1000➡0
断罪イベントにより異様な盛り上がりを見せたデュエルは、ワンターンキルという結果に終わった。
◇
「嘘だ! 俺がこんなイカサマ野郎に負けるなんてっっ!」
「現実見ろニャ。おみゃーはおいらにワンターンでボッコボコにされて負けた。それだけニャ」
「黙れ! もう一度やれば、絶対に俺がっっ!」
「無理だ。貴様ではそいつに百年かかろうと勝てん」
横から聞こえてきた声に、遊は顔を視線を向けた。
その先にいたのは、ツンツンに尖っていた髪型をしていて、どこかクールさを感じさせる少年だった。
見覚えがないため、遊は首をひねる。
「誰ニャ、おみゃー?」
「お前知らないのか!? この方はジュニア大会で何度も優勝した世代No.1デュエリスト! 万丈目準さんだ!」
「ああ~。さっきおみゃーがごちゃごちゃ言ってたやつニャ。そんで、そんな世代No.1デュエリスト様が何のようニャ? もしかしてそいつの敵討ちかニャ?」
「ふん。なぜ俺がそんな喚くしか能がない雑魚の敵討ちをしなければならん」
「ざ、雑魚……」
雑魚と評された取巻は白い顔をして、項垂れた。自業自得だが。
「お前が猫又遊だな」
「そうニャース」
遊が答えると、万丈目は指先をビシッと向けて。
「お前にデュエルを申し込む!」
そう高らかに宣言した。
私はアニメの万丈目さんよりも、漫丈目さんの方が好きなんです。