自由人で、遊び人   作:おいら一人で哲学するのニャ

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ライバル! VS万丈目

万丈目準の経歴は華々しいものだ。

幼い頃から頭角を表し、最年少ジュニアチャンピオンに始まり、ブルーアイズ杯ジュニア部門優勝、全日本ドラゴン族ジュニア選手権初代チャンピオン……etc。

と、数々の同世代がしのぎを削る大会のトップを独占し、名実共に世代No.1を名乗っていた。

そんな誰もが羨むようなサクセスストーリーを歩んできた彼には、1つだけ気に入らないことがあった。

それは、自分の新入生番号が2番であることだ。

 

新入生番号とは、その名の通りアカデミアの合格した時の順位を表すものである。

仮に万丈目の学術試験の結果が芳しくなければ少しは溜飲も下がったかもしれない。

しかし、彼の学術試験の結果は1位。

だが、実技を合わせた総合順位は2位。

要するに学園側は、デュエルの腕で、1位のデュエリストよりも万丈目が劣っていると判断したのだ。

自分がNo.1であることに強い拘りを持っている万丈目にとって、その判断は看過できないことだった。

と同時に、自分の上に立つ、猫又遊というデュエリストに敵愾心を覚えた。

 

その名前に聞き覚えがなかった万丈目は、さっそく猫又遊についての情報を集め始めた。

しかし、ろくな情報は得られなかった。

少なからず得られたまともな情報は、猫又財閥の長男であること。そして、デュエルデータがないことから、国内外合わせて公式戦には一切出場していないことだった。

使用するカード1枚すら分からない。このデュエル世界では異常とも言えることだった。

 

仕方なく、万丈目は入学式の日に何かしら情報を得られることを期待した。

なぜなら、デュエルアカデミアの首席合格者には、壇上に上がり挨拶をすることが義務付けられる。これは理由もなしに欠席すれば、罰則を与えられるものであり休むことは許されない。

秘密主義者でも、ここに姿を現さないことはないと考えていた。

 

しかし、猫又遊は姿を現さなかった。代わりに大会でよく戦った天上院明日香が挨拶文を読んだ。

またもや目論見をはずされ、万丈目は唇を噛んだ。

しかし、そこで1つ疑問を覚えた。なぜ明日香だったのかということだ。

1番が来ていないのなら、順番的に2番の自分に回ってくるはずである。

なのになぜ明日香だったのか。それはプライドは関係ない単純な疑問だった。

そこで考えた、もしや明日香は新入生番号1番と関係があるのではないか。それなら、1番の失態の責任が明日香に押し付けられたのも納得がいく。

そう考えた万丈目は、入学式が終わるとすぐに明日香に接触した。

 

「天上院君。君に聞きたいことがあるんだがいいか?」

「え、万丈目君? え、ええ、構わないけど……まさかあなたまで来るとは思わなかったわ」

 

明日香は少し戸惑った様子だった。

 

(ずいぶん驚いているな。まあ、何度かデュエルはしたが、まともに話したことはないからな。無理もない)

 

万丈目はたいして気に留めず、率直に要件を話した。

「単刀直入に聞く、君は新入生番号1番のやつと知り合いなのか?」

「え? ……あ、新入生番号1番ね。万丈目君はその事を聞きたいのね?」

「そうだが?」

「そう、分かったわ。……完全に勘違いしてたわ

 

最後の言葉は小さくて聞こえなかったが、この様子なら明日香は件の人物について知っているようだ。万丈目にとっては、その事の方がずっと大事だった。

明日香はポケットからUSBを取り出すと、万丈目に差し出す。

 

「このUSBに実技試験の時の遊のデュエルのデータが入っているわ。よかったらどうぞ」

 

あっさりと求めていたものを差し出され、万丈目は面を食らった。

「やると言うなら遠慮なくもらうが、いいのか?」

「ええ、もちろん。私は他にデータ持っているし、ノーデータだと不公平だもの」

「よく俺がやつのデュエルデータをほしがっていると分かったな」

「目で分かるわよ、そのくらい」

 

どの口が言うのか。

 

「あと……お詫びも兼ねて

「最後何か言ったか?」

「いいえ、何も言ってないわ」

「そうか。まあいい。天上院君、感謝する」

 

そう言って万丈目は場を去った。

 

家に戻りパソコンにUSBを接続する。起動した音もほどほどに、映像を再生した。

 

『サイレント・バーニング!』

 

そして、遊が試験官にとどめを刺したところで映像は終わった。かけていたブルーライトカットの眼鏡を外し、万丈目は重々しく呟いた。

 

「強い……」

 

プライドの高い万丈目が素直に強いと認めるのは珍しいことだった。

「だが、絶対に勝てないほどじゃない」

 

それも素直な感想だった。

絶望的な力の差はない。むしろ力はほぼ互角と言っていい。

自分と肩を並べる力を持ったデュエリストの出現。ライバルらしい相手に恵まれなかった万丈目にとって、それは喜ばしいことと同時に壁が1つ現れたことを意味していた。

 

「俺に立ちはだかるのなら、粉砕するのみだ」

 

そうして万丈目は遊を倒すことを決意した。

 

 

 

 

そして、物語は戻る。

突然デュエルを申し込んだ万丈目。しんと痛いくらいの沈黙に、司会は戸惑いながらも遊に確認する。

『え~、猫又君。2度目なので、受けるか受けないかの決定権は君にあるがどうする?』

「もちろん受けるニャ! 世代No.1の挑戦なんて、面白そうだからニャ!」

『OK! さあ、先ほど圧倒的な強さを見せてくれた猫又君と、あの帝王(カイザー)にも劣らぬ才能と評判の天才デュエリスト万丈目準君のデュエルだ~! これは片時も目が離せないぞー!』

 

テンションを戻した司会の言葉に乗せられ、会場も歓声を取り戻す。

その中でも、万丈目は遊を睨み、遊はいつも通り頬を緩ませていた。

 

『二人とも準備はいいか~?』

「構わん」

「いつでもOKニャース!」

『それではデュエル開始だ~~!』

 

「「デュエル!!」」

 

遊LP4000 VS 万丈目LP4000

先攻を示すランプは遊のディスクに灯った。

 

「おいらの先攻ニャ、ドロー! おいらはモンスターをセット! カードを2枚伏せてターンエンドニャ!」

 

遊LP4000 手札3

 

「まずは様子見というところか。のんきなやつだ」

「ニャッハッハ! 強い相手にむやみに高レベルモンスターを並べるのは愚策だからニャ。まあ、おみゃーが本当に強いのかは知らニャいが」

 

わざとらしく挑発めいたことを言うと、万丈目は挑発と理解していたが眉をひそめた。

 

「ふん。ならば見せてやる! 俺のデュエルをな! 俺のターン、ドロー! 俺は『未来融合フューチャー・フュージョン』を発動! このカードは融合モンスターを選択し、その融合素材をデッキから墓地に送ることで、2ターン後召喚する! 俺は『F・G・D』を選択する。デッキから、『エクリプス・ワイバーン』×2、『神竜ラグナロク』、『ヘル・ドラゴン』、『ダークストーム・ドラゴン』を墓地に送る! さらにエクリプス・ワイバーンの効果で、俺は『レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン』、『創世竜』を除外する!」

「……」

 

流れるようにキーカードをサーチするお膳たてをし、加えて墓地肥やしもしてしまう。

遊は考える。こいつは強いと。

 

「さらに俺は魔法カード『天声の服従』を発動!」

「はあっ!?」

「その様子だと効果は知っているようだな。俺はライフを2000払う」

 

万丈目LP4000➡2000

 

「そして俺が宣言したカードが相手のデッキに入っていた場合、そのカードを俺の手札に加えるか、フィールドに召喚条件を無視して特殊召喚する! 俺が宣言するのは『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』だ!」

「……おいらのデッキにはレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンは入ってるニャ」

「当たり前だな。俺はレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを特殊召喚する効果を選択する。現れろレッドアイズ!」

 

レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン ATK2800

 

自分の主人に歯向かうことになってしまったレッドアイズは、どこか戸惑い気味に咆哮をあげた。

 

「さらに墓地のヘル・ドラゴンとエクリプス・ワイバーンを除外して『ライトパルサー・ドラゴン』を特殊召喚する!」

 

ライトパルサー・ドラゴン ATK2500

 

「除外されたエクリプス・ワイバーンの効果発動。俺は自分のレッドアイズを手札に加える。さらにまだ俺は通常召喚を行っていない。俺は『サファイア・ドラゴン』を召喚」

 

サファイア・ドラゴン ATK1900

 

「場のサファイア・ドラゴンを除外して、もう1体のレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを特殊召喚! さらに場の2体のレッドアイズの効果を発動! 手札からは『ミラージュ・ドラゴン』、墓地からは『ダークストーム・ドラゴン』をそれぞれ特殊召喚する!」

 

ダークストーム・ドラゴン ATK2800

 

ミラージュ・ドラゴン ATK1600

 

後攻1ターンでモンスターゾーンを埋め尽くすタクティクスを見せつけ、観客からは大きな歓声が上がる。

そんな中、デュエルを分析していた明日香たちは、戦慄を隠せなかった。

 

「すごい……っ! たった1ターンでここまで展開するなんて」

「それもミラージュ・ドラゴンまで召喚していますわ。あのカードはバトルフェイズに相手の罠カードを発動させない、いわば一時的なサイコショッカーと同意ですわ」

「ええ!? なら、猫又はこのターンで負けるってこと!?」

「いいえ。普通のデュエリストなら、そうかもしれない。でも、遊はそんなあっさりとやられるやつじゃないわ……多分」

「明日香様、途中までかっこよかったですのに、最後で台無しですわ……。それにしても、ジュンコさん。あんなに遊様のことを貶していたのに、心配してあげるなんて優しいんですね」

「べ、別に心配なんてしてないわよ! あいつのことなんて、どうでもいいし!」

 

とジュンコがツンデレをかましている間に、万丈目は攻撃に移っていた。

 

「バトル! 俺はライトパルサー・ドラゴンでセットモンスターを攻撃する!」

 

ライトパルサー・ドラゴンの口から放たれた光の光線が、セットモンスターを貫いた。

しかし、表をあげたモンスターは、破壊されることなく鎌で顔を隠していた。

 

「おいらがセットしていたのは、『魂を削る死霊』ニャ。こいつは戦闘では破壊されないニャース」

「ちぃ! 戦闘耐性を持ったモンスターか! 仕方ない、俺はカードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

万丈目LP2000 手札0

 

 

「おいらのターン、ドローニャ! ……にゃあ万丈目、おいら1つ聞きたいことがあるニャ」

「何だ、デュエル中に」

「大したことじゃねえニャ。さっきおみゃーは、おいらのデッキにレッドアイズが入ってることを知ってたニャ。おいらは公式戦に出場してないのに、どこからデータを入手したのニャ?」

「ふん。答える必要はない」

「そうかニャ」

 

万丈目は、明日香に配慮して名前は言わなかった。

しかし、答える必要はない。そう言ってしまったのは間違いだった。試験官とのデュエルを見ていたなどと答えればよかったものの、そう答えれば誰かからデータを入手したことを自白したようなものだ。

そして、自分のような無名のデュエリストのデータを持っているような人間を遊は一人しか知らない。

 

「……天上院。あいつ、後でひどいニャ」

 

静かに呟いた。

その時、明日香は寒気を感じて身を震わせた。

それはさておき、と気持ちを切り替える。どこまでばれているかは分からないが、知られてしまったものは仕方がない。

しかし、今までのように情報面で優位に立つことはできない。

遊はそこだけを胸に刻む。

 

「行くニャ。おいらは魂を削る死霊を生け贄に捧げて『サイレント・ソードマンLV5』を召喚!」

 

サイレント・ソードマンLV5 ATK2300

 

「さらに魔法カード『レベルアップ!』を発動! サイレント・ソードマンをレベルアップさせるニャ。現れろ『サイレント・ソードマンLV7』!」

 

サイレント・ソードマンLV7 ATK2800

「サイレント・ソードマンの効果、フィールド上の魔法カードの効果を無効にするニャ! これでフューチャー・フュージョンの効果は無効ニャース!」

「ちっ。まあいい。フューチャー・フュージョンが無効化されようと、俺のドラゴンを倒さねば意味がない!」

「ニャッハッハ! なら倒してみせるニャース!」

「何!?」

「おいらはリバース罠『針虫の巣窟』を発動! デッキからカードを5枚墓地に送るニャ! さらに墓地に送られた『ライトロード・ハンター・ライコウ』と『グレイブ・スクワーマー』を除外する! 現れろ『カオス・ソルジャー ー開闢の使者ー』!」

「カオス・ソルジャーだと!?」

 

カオス・ソルジャー ー開闢の使者ー ATK3000

 

カオス・ソルジャーは、後ろを向いて鎧の顔部分からちらりと鋭い瞳を覗かせると、ふっと笑った。

 

「どうやらカオス・ソルジャーも久しぶりの召喚に気合い十分みたいだニャ」

「なるほど、そのカードがお前のフェイバリット・モンスターということか」

「そうニャ! 行くぞ、おいらは伏せカード『奇跡の軌跡』を発動! モンスターを選択して、このターンそのモンスターは攻撃力が1000ポイントアップして、さらに2回攻撃することができるニャ! その代わり相手に1枚ドローさせるがニャ」

「くっ!」

 

万丈目は、悔しそうにしながら山札からドローする。

 

「おいらはサイレント・ソードマンを選択!」

 

サイレント・ソードマンLV7 ATK2800➡3800

 

「バトルニャ! おいらはサイレント・ソードマンで2体のレッドアイズに攻撃ニャ! 『沈黙の双剣撃』!」

 

眩い光を帯びた大剣がレッドアイズを襲う。

万丈目のレッドアイズは黙って斬られたが、遊のレッドアイズは、いやいや俺は仲間だと言いたげに首をふっていたがあえなく斬り殺された。

「ちょっとは手加減してやれニャ」

 

主人につっこまれたサイレント・ソードマンは、誤魔化すようにそっぽむいた。

 

「続いて、カオス・ソルジャーでライトパルサー・ドラゴンを攻撃!『開闢双破斬』!」

「ぐぅ!」

 

万丈目LP2000➡1500

 

 

「さらにカオス・ソルジャーの効果発動! このカードが攻撃によって相手モンスターを破壊した場合、もう一度続けて攻撃できるニャ! おいらはミラージュ・ドラゴンを攻撃! 時空突刃・開闢双破斬」

「ぐうぁぁぁぁぁ!」

 

万丈目LP1500➡100

 

「くっ、ライトパルサー・ドラゴンの効果発動。このカードがフィールド上から墓地に送られた時、墓地のレベル5以上のドラゴン族闇属性モンスターを特殊召喚する! 俺はレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを特殊召喚する!」

「げっ! ライトパルサー・ドラゴンってそんな効果があったのニャ……。破壊する順番ミスったニャ。おいらはカードを一枚伏せてターンエンドニャース」

 

遊LP4000 手札0

 

プレイミスのせいで相手の場に2体の高レベルモンスターが残ってしまったものの、形成的には五分にまで戻せた。ライフに関してだけ言えば、圧倒的に遊に分があるといっていい。

しかし、遊は分かっていた。ライフでいくら優位に立とうとも、このデュエルだけで言えば一瞬でひっくり返ることを。

 

「俺のターンドロー! 俺はレッドアイズの効果で墓地のライトパルサー・ドラゴンを特殊召喚する! バトルだ! ダーク・ストームドラゴンでサイレント・ソードマンに攻撃!」

 

攻撃力が互角の両者は破壊された。

だが、万丈目はただ同士討ちを狙ったわけではない。

「これで魔法カードが使えるようになる! 俺はメインフェイズ2 『一時休戦』を発動! お互いにカードを1枚ドローし、次の相手のエンドフェイズまでお互いの受けるダメージをゼロにする」

「ニャハ、立て直しってところかニャ?」

「ふん。俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

万丈目LP100 手札1

 

「おいらのターン、ドロー! おいらは『強欲な壺』を発動して2枚ドローニャ! さらに『闇の誘惑』を発動!2枚ドローして闇属性モンスターを1枚除外するニャ! おいらは『ダーク・グレファー』を守備表示で召喚するのニャ」

 

ダーク・グレファー DFF1600

 

「ダーク・グレファーの効果発動。手札の闇属性モンスターを墓地に送り、デッキから闇属性モンスターを墓地に送るニャ。おいらは手札から『ネクロ・ガードナー』、デッキから『シャードール・ビースト』を墓地に送るニャ! ビーストの効果で、このカードが墓地に送られた時カードを1枚ドローするニャース」

 

遊はカードをドローする。

 

「バトルニャ! 今度は間違えねえニャ、おいらはカオス・ソルジャーでライトパルサー・ドラゴンを攻撃! 『開闢双破斬』」

「ライトパルサー・ドラゴンの効果で墓地からダーク・ストームドラゴンを特殊召喚する!」

「無駄ニャ! リバースカード『昇天の黒角笛』発動! ダーク・ストームドラゴンの召喚を無効にして破壊ニャ!」

「ちっ!」

「さらにカオス・ソルジャーでもういっちょ攻撃ニャ! 時空突刃・開闢双破斬!」

カオス・ソルジャーがレッドアイズを斬り捨てる。

これで万丈目のフィールドにモンスターはいなくなった。

 

「おいらはカードを2枚伏せてターンエンドニャ」

 

遊LP4000 手札0

 

万丈目は見るからに劣勢だ。手札も1枚、ライフも僅かしか残っていない。伏せカードも場を逆転するには足りない。

対する遊は、ライフを4000残している。

ここまで来ると万丈目の勝利を疑っていなかった観客の中にも、あることが思い浮かぶ。

世代No.1デュエリストの万丈目の敗北。

数々の修羅場を経験してきた万丈目はその空気を一早く察知していた。

格下の連中に評価される屈辱と、実際に押されている現状へのジレンマ。複雑な胸中に万丈目は唇を噛む。

 

「もう諦めちまったかニャ?」

「何だと?」

 

突き放すような言葉に、万丈目は怪訝に面を上げる。そしてふいにターン消費時間が記された画面を見ると、そこにはすでに4分経過していた。5分過ぎるまでにターンを始めなければ、ルール上試合放棄と見なされ負けてしまう。

万丈目は慌てて山札を引いた。

 

「ドロー! ……くっ、俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

万丈目LP100 手札1枚

 

「おいらのターンドロー! おいらは伏せていた『転生の預言』を発動! 『サイレント・ソードマンLV7』と『レベル・アップ!』をデッキに戻すニャ。さらに『埋葬呪文の宝札』で墓地の魔法カード3枚を除外して2枚ドローするニャ……うん」

 

手札を増やしたものの、そこからは動かず。

 

「バトルニャ! おいらはカオス・ソルジャーで万丈目に直接攻撃ニャ!」

「罠カード『攻撃の無力化』を発動!」

「……防がれたニャ。それなら、おいらはメイン2に『レベル調整』を発動! 相手に2枚ドローさせる代わりに墓地のレベルモンスターを特殊召喚するニャース。出てこいサイレント・ソードマンLV5。さらにさっきデッキに戻した『レベルアップ!』を発動! 再度現れろサイレント・ソードマンLV7! おいらはこれでターンエンドニャ」

 

サイレント・ソードマンLV7 ATK2700

 

遊LP4000 手札0

メインフェイズ1で使わなかったのは、相手に手札誘発のカードを引かせないため。そしてここで使用したのは相手の手札補充や展開をサポートする魔法カードを封じるため。いわゆる詰めの1手である。

 

「これでおみゃーは魔法は使えないニャ。ニャハハ、さっきのターンにでも未来融合の効果を使っておけばよかったのにニャ」

 

たしかに未来融合の効果で何かしら墓地を肥やして置けば、打開策があったかもしれない。とても単純なことなのに完全に失念していた。

プレイミスといえるかは定かではない。しかし、それよりも万丈目の心を攻撃したのは、自覚した自分の心だった。

 

(俺は焦っていたのか)

 

焦り、動揺、そして自滅。それは万丈目が対戦相手を通じてよく見ていた光景だった。

劣勢になり、苦し紛れの醜い手を使う対戦相手を、万丈目は見苦しいと蔑んでいた。

だが、今はどうだ。今の自分はその見下してきたデュエリストたちと何が違うのか。

潔いのも美しいのかもしれない。

 

ーーそれでも万丈目の心に諦めの言葉は欠片もなかった。

 

「俺は……俺は絶対に負けん! ライフが1でも残っている限り、けして諦めたりはしない! 俺のターン、ドロー!」

 

自分を鼓舞するように強い言葉を叫ぶ。

そして、その思いにデッキは答えた。

 

「俺は『月読命』を召喚!」

「ニャンですと!?」

 

月読命 ATK1100

 

「月読命の効果発動! このカードを召喚したとき、相手のモンスターを裏側表示にすることができる! 俺はサイレント・ソードマンLV7を選択する!」

 

月読命は、サイレント・ソードマンの下に映し出されていたカードを掴むと、畳替えしのように裏返した。

 

「これで魔法が使えるようになった! 俺は『天使の施し』を発動! 3枚ドローして2枚捨てる。さらに手札から捨てた『代償の宝札』の効果発動、カードを2枚ドローする! さらに『強欲な壺』を発動、カードを2枚ドローする!」

 

万丈目の手札は一気に6枚まで増えた。

遊は予期していたことが起きてしまったことに渋い表情を作る。

「俺は墓地のエクリプス・ワイバーンと神竜ラグナロクを除外して『ダーク・フレアドラゴン』を特殊召喚する!」

 

ダーク・フレアドラゴン ATK2400

 

「そして除外したエクリプス・ワイバーンの効果発動! 俺は創世竜を手札に加える! さらに手札の創世竜とホワイト・ホーンズドラゴンを墓地に送り、墓地のライトパルサー・ドラゴンを特殊召喚する!」

 

ライトパルサー・ドラゴン ATK2500

 

「さらに墓地の創世竜を除外して『暗黒竜コラプサーペント』を特殊召喚!」

「おいおい、どんだけ召喚する気ニャ」

「まだだ! 魔法カード『二重召喚』を発動! これで俺はもう一度召喚する権利を得る! 俺は月読命とコラプサーペントを生け贄に捧げる。……現れろ、我が魂の竜、光と闇の竜(ライトアンドダークネスドラゴン)!」

 

光と闇の竜 ATK2800

 

現れたのは、半身は何者にも汚されていない美しい白、また半身は何者をも飲み込むような禍々しい黒。まさに光と闇を冠するのに相応しいオーラを纏ったドラゴンだった。

「コラプサーペントの効果は発動しない」

 

そう言うと、かっと目を見開き。

 

「バトル! 俺はダーク・フレアドラゴンでダーク・グレファーを攻撃!」

「罠カード『聖なるバリアミラーフォース』を発動ニャ!」

「無駄だ! 光と闇の竜の効果発動! このカードの攻撃力守備力を500ポイントダウンさせることで、カードの効果を無効にする!」

「ニャンだと!?」

光と闇の竜 ATK2800➡2300 DFF2400➡1900

 

「よって聖なるバリアミラーフォースは無効だ。バトル続行! やれ、ダーク・フレアドラゴン!」

ダーク・フレアドラゴンの黒いエネルギー波が、ダーク・グレファーを貫いた。

「さらに光と闇の竜でセットモンスターに攻撃!」

 

月読命の効果で封じられていたサイレント・ソードマンはあえなく破壊された。

 

「ぐぅ、すまんニャサイレント・ソードマン」

「これでフィールドは空いた! ライトパルサー・ドラゴンで直接攻撃!」

「待った! 墓地のネクロ・ガードナーの効果を発動ニャ!」

「無駄だと言っている! 光と闇の竜の効果発動! 攻撃力、守備力を500下げて、ネクロ・ガードナーの効果を無効にする!」

「墓地の効果も範囲なのニャ!?」

 

光と闇の竜 ATK2300➡1800 DFF1900➡1400

ネクロ・ガードナーは、自分の出番とばかりに張り切って登場したが、光と闇の竜の咆哮であっさりと戻されてしまった。

そして守る者がいない遊に、ライトパルサー・ドラゴンの光の光線が襲いかかった。

 

「にゃあああ!」

 

遊LP4000➡1500

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

万丈目LP100 手札0

 

再度形成が逆転したフィールドに、観客はわれんばかりの大歓声を浴びせる。

遊のフィールドにはカードはない。手札もゼロ。このデュエルのすべてがこの1枚のドローにかかっている。

 

「おいらのターン……」

 

遊はカードをーー

 

「ドロー!」

 

ーー引いた。

そのカードはいつもなら逆転の1手となりうるカード。しかし、今は光と闇の竜の効果で発動しても無効にされてしまう。

万事休すかと、思われた。

だが、遊は1つだけ引っ掛かりがあった。

それは光と闇の竜を召喚した時、なぜ万丈目はコラプ・サーペントの効果を発動しなかったのか。自分もよく使うカードだからこそよく理解していた。あのカードは墓地に送られた場合ワイバーン・スターを手札に加えることができるはずだ。そうすれば、さっきのターンにこのデュエルは終わっていた。

なぜしなかったのか、まるで()()()()()()()()()()()()()()

 

「はっ!」

 

遊は見つけた、僅かに残された勝利への1手を。

 

「おいらは墓地の『ギャラクシー・サイクロン』の効果を発動するニャ!」

「ちっ! 光と闇の竜の効果で攻守を500下げて効果を無効にする!」

 

光と闇の竜 ATK1800➡1300 DFF1400➡900

 

「やっぱりニャ! 光と闇の竜の無効効果は強制効果! 使用者の意思関係なく発動されるカードニャんだな!」

「気がついたか……」

「コラプ・サーペントの効果を発動しなかったところが疑問だったが、そういうことだったのニャ。おいらは、さらに墓地の『ブレイク・スルースキル』を発動!」

「光と闇の竜の効果発動!」

 

光と闇の竜 ATK1300➡800 DFF900➡400

 

「これで光と闇の竜の効果は発動できないニャ! おいらは、魔法カード『運命の宝札』を発動! ダイスをふって、その出た目の数ドローして、デッキの上からカードを除外するニャース! 回れ運命のダイス!」

 

まだ賭けは終わらない。この出た目によっては、遊の敗北だ。

しかし、強い心には、強い運が付いてくる。

 

「出た目は3! おいらは3枚ドローするニャ!」

 

手札を回復させた。

「魔法カード『死者転生』を発動! 手札を1枚捨てて、墓地のモンスターを手札に戻すニャ。おいらが戻すのはカオス・ソルジャー ー開闢の使者ーニャ!さらに墓地の光属性と闇属性を除外して、特殊召喚ニャ!」

 

再度現れた光と闇の力を携える剣士。

カオス・ソルジャーは光と闇の竜を見ると、静かに剣を向けた。

遊はその姿を静かに見ていた。

「そして魔法カード『死者蘇生』を発動! 今捨てた『人造人間サイコショッカー』を特殊召喚するニャ!」

 

人造人間サイコショッカー ATK2400

 

万丈目が伏せていたカードはどちらも罠カード。大勢は決した。

 

「終わりか……」

「楽しかったニャース、万丈目」

「ふん、知るか」

「素直じゃないやつニャ。おいらはカオス・ソルジャーで光と闇の竜を攻撃! 開闢双破斬!」

「ぐわあああああ!」

 

万丈目LP100➡0

 

 

フィールドに万丈目の断末魔が響いた。

『決まったああああああああああ! 一進一退の攻防を制したのは、新星猫又遊だああああああ!』

 

司会者のハウリングしたマイク音に乗せられて、会場全体が歓声で埋め尽くされた。

 

 

 

 

大の字になって倒れこんでいた万丈目を、遊はゆっくりと近づいて顔を覗き込んだ。

そして手を差し伸べる。

 

「立てるかニャ?」

 

万丈目は差し伸べられた手を少し見つめたが、不満そうに鼻を鳴らして押し退ける。

「ふん。いらん、一人で立てる」

「ニャハハ、そうかニャ。」

 

そんな素っ気ない態度にも、遊はからからと笑う。

負けた相手に手を貸されるなど屈辱でしかない。遊も理解していた。

微妙な空気の二人に、満足そうな顔をした明日香が近づいてきた。白熱したデュエルにいてもたってもいられなかったのだろう。しかし、それは悪手だった。

 

「二人とも、いい勝負だったわよ」

 

その瞬間、遊の目が獲物を狙う獣のように光った。

遊は素早い動きで明日香の手を取る。

 

「ちょっと、遊何を!?」

「ニャッヒャー。のこのこやって来て、飛んで火に入る夏の虫とはこの事、にゃっと!」

「きゃあ!?」

 

遊は足を上に浮かすように持ち上げて、いわゆるお姫様抱っこの形で明日香を持ち上げた。

突拍子もない行動に、回りはざわつく。

明日香は顔を真っ赤にして、身体をばたつかせながら。

 

「は、放して遊! 恥ずかしいじゃない!」

「嫌ニャース。おみゃー万丈目においらのデュエルデータ渡したニャ?」

「な、何のことかしら?」

「だからポーカーフェイスができてないニャ、アホ。バレバレニャ」

「な、何よ! 悪い!?」

「いいや、悪くないニャ。でも、人のデータ無断でやるのは悪い子ニャ。そんな悪い子にはお仕置きが必要だニャース」

「お仕置きって何を!?」

「それは後のお楽しみニャ」

 

明日香との話を打ち切り、遊は顔だけ後ろを向いて。

 

「じゃあニャ、万丈目。また今度デュエルしようニャース」

「ふん。次は俺が勝つ」

「ニャッハハ、楽しみにしてるニャ」

 

和やかにライバルしている中。

「ねえ、私を無視して話しないで!? 遊お願いだから下ろしてよ!」

「ニャッハハハハ、そうら恥ずかしがれニャ! これがおみゃーへの罰ゲームニャ!」

「あなた後で覚えてなさいよ!?」

 

ギャーギャーと恒例の喧嘩をしながら、二人は会場を後にした。

 

 

後日、二人のいちゃつきっぷりをみて、学園に天上院明日香にはものすごく強い彼氏がいると噂が立つことになる。

予期せず、明日香の男払いという第1目標は達成することになった。

明日香の羞恥心とプライドという多大な犠牲を払って……。

 

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