(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~ 作:アルカンシェル
勝手ながら、創の軌跡のアップデートに伴い78話の最後のやり取りの部分を加筆修正させて頂いたことを報告させていただきます。
閃までは良いかもしれないですけど、創では割と致命的な要素かもしれません。どうするかはまだ未定です。
ジュノー海上要塞からオルディスに舞い戻り、リィンとエマ、そしてミルディーヌは指定された《海風亭》へとやって来た。
「ここですか?」
「ああ、話は通してくれているらしいけど……」
リィンはエマにそう答えて後ろを振り返る。
「案内してくれてありがとう。でも本当について来なくて良かったのに」
もうすぐ日が落ちる時刻。
士官学生でもない年若い少女を連れ歩くことにリィンは要塞を出発する時にした謝罪を繰り返す。
「いえ、叔父からはできるだけリィンさんと行動を共にするように言われていますので」
逆に申し訳なさそうにミルディーヌは謝る。
彼女のその様子からリィンは改めて事情を察する。
「俺の監視が目的ということか……」
ミルディーヌに聞こえない小さな声でリィンは呟く。
彼女がカイエン公に組しているとは思えないが、彼女を利用して何かを企ている可能性は十分にあり得る。
何故ならカイエン公は帝国解放戦線を支援しており、リィンは彼らの野望を何度も阻んでいる。
彼にとっては、オズボーンの息子だったことも相まって要注意人物と見做されていてもおかしくない。
「リィンさん?」
「何でもない。それよりエマ、本当にこっちで良いのか?」
ミルディーヌが不信に思わないように取り繕ってリィンはエマに話を振る。
「はい。ノーザンブリアといい、クロスベルといいリィンさんは少し目を離したらとんでもないことをしてくれましたから……
今度こそ近くで見極めさせてもらいます」
「エマ……」
決意を胸に眼鏡を光らせるエマにリィンは肩をすくめる。
「ローゼリアさんも言っていただろ?
導き手の任は一時的に解く、今は学生生活に集中し里の中では得られなかった見聞を広めることに集中しろって」
「言われましたけど……でも私は巡回魔女として、導き手として……」
納得がいかないと不満を表情に出してエマは口ごもる。
Ⅶ組の中では常に一歩退いて接しているエマにしては頑固な態度だが、それも無理はないのかもしれない。
出奔したヴィータを探すために巡回魔女となるために厳しい修練を乗り越え、それに伴う責任感もあっただろう。
「だからってあんなに鬼気迫らなくても」
「あの時のエマさんは凄かったですね」
誰がロランスチームへと交渉しに行くか決める時、誰がもう一人になるかで議論となった。
それを制したエマは決まった瞬間、彼女らしくない歓声にⅦ組一同は微笑ましい眼差しを送ることになった。
「あはは……それより早く行きましょう。先方を待たせてしまっては悪いですから」
二人の視線にその時の気恥ずかしさを思い出し、エマは誤魔化すように二人を急かす。
促されて入った店内は丁度夕食時で賑わっていた。
その一角にリィンは見覚えのある背中を見つけて声を掛ける。
「やはり貴方だったか」
「……来たか」
リィンの声にアッシュブロンドの髪の青年は振り返る。
元リベール王国情報部特務部隊隊長、ロランス・ベルガーこと、結社の《剣帝》レオンハルトがそこにいた。
「待たせてしまったみたいだな」
「ふ……気にするな」
リィンの謝罪の言葉に、ロランスは軽く笑って応える。
「むむ……これは」
「随分と気安いやり取りですけど……それはそうとドロテ部長と同じ気配が」
たったそれだけのやり取りで目を輝かせるミルディーヌに対して、エマは以前の実技テストでは気付かなかった二人の距離感に注目する。
「だが……」
ロランスは視線をミルディーヌとエマに移す。
「紹介するよ。こちらはミルディーヌ。オルディスでのⅦ組のお目付け役で、エマについては前に紹介できなかったけどヴィータさんの義妹だ」
「ほう……ヴィータの……」
「っ――」
鋭い双眸に見つめられ、エマは緊張に背筋を伸ばす。
「一応名乗っておこう。ロランス・ベルガーだ」
「その名前を使うのか……」
臆面もなく偽名を名乗る彼にリィンは肩を竦める。
「一応この名はリベールで正式に認可されているものだからな」
「それはどういう意味なんだ?」
「今の俺は《R&Aリサーチ》の契約社員という扱いになっている。分類とすればリベールの密偵だな」
「なっ!?」
王国にも帝国にどちらも属する気はないと言って別れたはずのロランスの言葉にリィンは驚く。
「勘違いするな。リベールに尽くすつもりは今もない。だが“彼”に関しては借りを返しておこうと思っただけだ」
律儀とも取れる彼の言葉にリィンは彼らしいと苦笑し、何故わざわざ“ロランス・ベルガー”の名を名乗っているのか察する。
「それじゃあ武術大会に出場しているのも大佐の命令なのか?」
「いや、それは別件だ。ともかくカウンターの席では周りの邪魔だろう。奥に場所を移すぞ」
そう促され、リィン達は改めてテーブル席に着く。
「まずあの女将軍の提案、Ⅶ組を俺のチームメイトとして受け入れるという話だが、お前ならばこちらも文句はない」
「そう言ってもらえると助かる。とは言っても俺だけじゃなくエマもだけどそれは良いのか?」
「ああ、ヴィータの義妹なら構わん。足手纏いにはならないだろう」
「う……それじゃあ一体なんで貴方は武術大会に?」
ヴィータと比べられたことに気後れしながらエマは聞き返す。
「まず前提として尋ねるが、お前達は今のオルディスの状況に気付いているか?」
「上位三属性が活性化していることなら」
リィンは頷いて答える。
「それに気付いているのなら十分だ。どうやら《結社》はこの地で古の儀式を用いて《金の騎神》を呼び込むつもりのようだ」
「金の騎神……やっぱり……」
「だがこれはヴィータの意向ではない」
「え……?」
意外な言葉にリィンは聞き返す。
「帝国側の《幻焔計画》はヴィータさんが主導で進めているはずじゃないのか?」
「ヴィータは先日、結社の技術部門の工房長に襲われ重症を負い、計画は彼に乗っ取られた」
「姉さんが重症!?」
ロランスの口から語られた言葉にエマは思わず声を上げる。
「安心しろ。命に別状はない」
ロランスはその時のことを思い出しながら詰め寄ってくるエマを宥める。
「運良くその場面に遭遇してヴィータは俺が保護した……
今はこのオルディスにいるが潜伏先からは当分動かすことはできないだろう」
「あ……」
その言葉にエマは安堵の息を吐いて肩から脱力する。
それを尻目にリィンはロランスに質問を重ねる。
「乗っ取られたと言うのは穏やかじゃないな……
その工房長が裏切り行為を働いたって言うなら、貴方はもしかしてその粛清のために武術大会に?」
「いや、おそらく誰も工房長を咎めることはないだろう」
「……結社だからなぁ」
ロランスの答えにリィンは結社の知識から納得する。
「組織としてそれは良いんでしょうか?」
しかし結社を知らないミルディーヌは納得できず首を傾げる。
「ともかくヴィータから俺とお前に借りを返してくれと頼まれたと言うわけだ」
「ヴィータさんは命の恩人だから、結社とは別に手を貸すのは構わないけど何をすれば良いんだ?」
「武術大会でお前を優勝させる。そうすれば起動者の選定は失敗する……
仮に俺が選定されたとしても工房長に騎神を渡さないで済む」
「優勝か……なかなか難しいことを言ってくれる」
参加者たちのリストを思い出しながらリィンは唸る。
「とりあえず全力を尽くすとしか言えないかな」
「それで良いだろう。ヴィータも俺達を囮にして裏で何かをやるつもりらしいからな」
肩を竦めるロランスにリィンは苦笑を返す。
「あの……リィンさん、ロランスさん」
そこで話がまとまったと察してエマはおずおずと口を開く。
「姉さんは今どこに? 会えるんですよね?」
我慢できないとそわそわした心情を隠し切れずエマは尋ねる。
「そうだな……義妹ならば顔くらい見せてやるといい」
「あ……」
ロランスからの了承を得られたことにエマは安堵した。
一同は《海風亭》を出てロランスを先頭に日が落ちたオルディスの街を歩く。
その道中――
「すーちゃん、どこ~? ふええ~ん……もう、こーさんするから出てきてよぅ」
大きなぬいぐるみを抱えた小さな女の子にリィン達は遭遇した。
あの日のその後
アルベリヒ
「おやおや、無理をするからそうなる。だが安心すると良い。君の“幻焔計画”は私が責任を持って引き継ぐのだから」
ヴィータ
「くっ……」
レーヴェ
「そこまでだ。ヴィータから離れろ」
アルベリヒ
「誰かと思えば剣帝殿ではないか? この周辺には人払いの因果が組まれているはずなのだがまあ良い。剣帝を手駒にできるのだから」
レーヴェ
「十三工房の一長が何を企んでいるか知らんが、この剣帝を前に随分な言い草だな」
アルベリヒ
「ふ……剣帝だろうと所詮は人の理の中の存在でしかない。私には《黒》の加護があるのだよ」
レーヴェ
「大した自信だ……ならば――」
ヴィータ
「ちょっ!? レオンッ!?」
レーヴェ
「黙っていろ」
アルベリヒ
「……………まさか剣帝と呼ばれた者が剣を交えず逃げの一手とは……
まあ良い。《深淵》の代わりはいるのだから」
イソラ
「…………」
………………
…………
……
レーヴェ
「このまま一気に距離を取る。少しの間、我慢していろヴィータ?」
ヴィータ
「え、ええ……べ、別の意味でちょっと危ないけど……」