(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~ 作:アルカンシェル
「すーちゃん、どこ~? ふええ~ん……もう、こーさんするから出てきてよぅ」
ロランスの先導でオルディスの街を歩いていたリィン達の前に泣いている子供が誰かを探すように彷徨っていた。
「こんな時間に子供……?」
もう日が落ちてだいぶ経つ時分なのに家に帰ろうとしていない幼い女の子にミルディーヌは首を傾げる。
「……心配だな。ちょっと声を掛けてみるか?」
「……はい」
「好きにしろ」
リィンの提案にエマは躊躇いがちに頷き、ロランスも受け入れる。
リィンは女の子に歩み寄り、膝を着いて目線を合わせて話しかける。
「君……どうしたんだ?」
「わわっ……お兄ちゃんたちは?」
女の子は怯えた様子で後退りしながらもリィンの言葉に応える。
「ふふ……怪しい者じゃありませんよ」
微笑みを浮かべてミルディーヌも安心させるように言葉を掛ける。
「うう……」
しかし涙目の女の子はそんなミルディーヌに怯えたように体を震わせ、大きなぬいぐるみで顔を隠す。
「あ、あれ?」
「こんな夜遅くに一人でいちゃ危ないぞ。子供は家に帰る時間だろう? もしかして親御さんとはぐれてちゃったか?」
今のオルディスは武術大会の事もあってまだ賑わっている。
その人混みで両親とはぐれてしまったのか尋ねるも、女の子は首を横に振る。
「う、うん……
でもすーちゃんがどうしても今からかくれんぼしようっていうから……」
「かくれんぼ……こんな時間から?」
「うん、お昼にやった時になーちゃんにぐーぜん見つかっちゃったのがよっぽどくやしかったみたいで……
いつもはなーちゃんが見つけられなくてこーさんすることが多いんだけど……
それですーちゃんが今度こそ本気を出すからって……」
「本気のかくれんぼですか……実は私かくれんぼというものをしたことがないんですよね」
女の子の言葉にミルディーヌは興味深そうに呟く。
「いやいやそういう話じゃなくて、二人ともちゃんと家の人には伝えてあるんだよな?」
「うん……なーちゃんたちおうちがおとなり同士だから近くならかまわないって……
だけどすーちゃんったらけっこう遠くまで行っちゃったみたいで……うう……」
再び泣き出しそうになる女の子にリィンは微笑みを浮かべ尋ねる。
「なーちゃんって言うんだよね? ところで君は飴は好きかな?」
「え……うん……」
「それじゃあこれを上げる」
そう言ってリィンはこんなこともあろうかと用意していた飴玉を女の子に差し出す。
「良いの!? ありがとうお兄ちゃん」
泣き出しそうだった女の子は一転して上機嫌になる。
その間にリィンは振り返って、ロランス達に提案する。
「ちょっと心配だから俺はこの子と一緒にすーちゃんを探して来るけど、良いかな?」
「はい。それは構いませんが、それなら私達も――」
「いや、エマは先に行くと良い……
久しぶりの再会なんだろう? 積もる話もあるだろうし、その間に俺はこの子と一緒にすーちゃんを探しているよ」
「ですが……」
リィンの提案にエマは口ごもる。
特別実習として単独行動は控えるべきというべきなのだが、そもそもヴィータに会うことはエマの個人的な事情でしかない。
そしてリィンの言う通り、会えば泣いてしまうかもしれないだけにその提案は魅力的だった。
――こんなことならセリーヌとキリシャにも来てもらえば良かった……
オルディスの現状をラウラ達に説明する役目としてセリーヌは要塞に、キリシャの方は第三学生寮でナユタの傍にいさせる判断をした自分を悔やむ。
「エマのことを頼みます」
「ああ」
エマの葛藤を他所にリィンとロランスがその方向で話をまとめてしまう。
「…………ありがとうございます」
迷ったものの、かくれんぼうの相手をするだけなら大事にはならないだろうとエマは自分に言い聞かせてリィンの提案を受け入れた。
「お兄ちゃん……いいの?」
不安そうに見上げてくる女の子にリィンは振り返って頷く。
「ああ、君だって早く見つけてあげたいんだろう?
その子だって、この暗い中、寂しい思いをしているかもしれないし」
「私もお手伝いしますわ。かくれんぼうなら土地勘が必要ですよね?」
「あ、ありがとう……」
どこかワクワクとした様子でミルディーヌが主張する。
そうしてエマとロランスは一足先に彼のセーフハウスへと向かい、リィンとミルディーヌはかくれんぼうの手伝いをすることとなった。
「さて、それじゃあ隠れる場所についての手掛かりとかはあるかな?」
「えっとね……おうちの中にかくれるのはダメで……
いままですーちゃんがかくれてたことがある場所はみんなさがしたんだけど、それでもぜんぜん見つけられなくって」
「変な場所に入り込んでいなければいいんだが」
「“本気”と言うからにはいつも隠れている場所ではないでしょう」
「楽しそうだなミルディーヌ」
やる気になっているミルディーヌにリィンは苦笑しながら、ふと昔のことを思い出す。
かくれんぼうや鬼ごっこ。
そんな子供らしい遊びをしたことはもちろんリィンにはある。しかしあの日から無心で遊ぶことはした覚えがない。
「エリゼに悪いことをしたな」
まだ遊びたい盛りの子供の時分に引き籠ってしまった自分に反省すると同時にノイやリンにそういった遊びを教えていなかったことに気付く。
「Ⅶ組のみんなに協力……いや、流石にみんなは巻き込めないか」
いい歳の自分達が鬼ごっこやかくれんぼうをしようと提案することに気恥ずかしさを感じてリィンは首を振る。
「それにしても見つかりませんね」
ぬいぐるみを抱える女の子と手を繋ぎながら隠れられそうな場所を探すミルディーヌは呟く。
「もう少し人がいなければ、気配を探れるんだけど……」
辺りを見回してリィンは目を細める。
武術大会のお祭り状態のせいで夜のオルディスはまだ賑わい、多くの人が行き交っている。
この中で子供の気配を探り当てるのは至難だろう。
しかし――
「…………ふむ」
細めた目をそのままリィンは女の子に向ける。
泣いていた女の子は不安そうにしていながらもミルディーヌに手を引かれ、大人しく彼女と一緒になってすーちゃんを探している。
時折振り返る表情は無邪気な子供のそれだが、その目は蛇を想起させる。
「たしかヨシュアさんは……」
頭に過る可能性にリィンは唸り、首を振る。
何でも疑うのは良くないと思いながらも観察すれば女の子の違和感は大きくなる。
「…………ああ、レンに似ているのか」
無邪気さの奥に秘めた暗い瞳はリベールで出会った女の子を彷彿とさせた。
「ミルディーヌについて来てもらったのは失敗だったか」
単純な迷子の捜索のつもりだったので土地勘があるミルディーヌの協力を受け入れたが、女の子の目的次第では荒事になると考えて失策だったと気付く。
「どうするか……」
洞察力の高い子だが、スイッチが入っていないのかミルディーヌは女の子の違和感に気付いた様子はない。
何より彼女たちの目的がはっきりしない段階ではリィンもどう動くべきなのか判断はできない。
「どうしようか」
そう再び呟くリィンの横で一台のリムジンが停まる。
「やあ、リィン君。こんな時間に一人で何をしているのかな?」
窓が開き、咎めるような口調が半分とどこか楽し気な口調の半分を混ぜたトールズ士官学院の常任理事――ルーファスが声を掛けて来た。
*
彼は息を潜め、気配を殺し物陰に隠れて対象を観察する。
その少年は帝国西部を主に活動の場にしている殺し屋である。
今回の依頼は珍しくゼムリア大陸西部のエレボニア帝国での仕事。
現在帝国で最も名を上げているリィン・シュバルツァーの暗殺。
「ついてないな……」
溜息と共に少年は愚痴をこぼす。
本当なら少年は長年の計画を実行に移しているはずだったのだが、急なこの任務を受けることになり計画のために苦労して手に入れたリベール行きのチケットは無駄になってしまった。
「いや……前向きに考えろ」
首を振って落ち込みそうになる気持ちを切り替える。
ここは帝国の最西部。
共和国を中心に動いている“組織”の影響から最も遠く離れている。
「…………今度こそ逃げ切ってみせる」
この遠く離れた地に派遣されたのは千載一遇のチャンスでもある。
唯一の懸念は監視役を兼ねている相棒だけ。
その目さえ誤魔化せば“組織”から逃げられるのではないかと希望を見出す。
「そう……オレは“自由”に……」
不意にパートナーの女の子の顔が過る。
しかし少年はそれを頭を振って追い払い、息を整えてターゲットに視線を――
「君がすーちゃんかな?」
声は背後から。
その事実に少年は背筋を凍らせて固まる。
思考に没頭していたが、決してターゲットから意識を逸らしたわけではない。
それに気配も消していた。気付かれる要素はなかったはずなのに背後を取られるまで分からなかった。
「どうやら君たちの目的は俺みたいだけど、あんな周りくどいやり方をして何の用だ?」
背後からの質問に少年は咄嗟に言い訳をする。
「な、何のことですか? たしかにオレはあの子とかくれんぼうをしていたけど――」
「君の隠形は大したものだよ……
ただこの人混みに対して気配を消し過ぎていたな。それこそ逆に目立ってしまうくらいに、まるで凶手みたいだ」
「――っ!?」
隠形へのダメ出し、それ以上に自分の存在を言い当てられて少年は息を呑む。
「あの女の子も同じだ……
演技は完璧だけど。子供って言うのは大人の予想を上回る言動をするものだ」
――いや、成人してないのにどうしてそんな判断ができるんだよ!?
そのツッコミを少年は何とか呑み込む。
「それで目的は俺か? それともミルディーヌか?
答える気がないって言うなら、不審者として憲兵に――」
言葉の途中で少年はスタンスグレネードを背後に投げつけて駆け出した。
「くそっ……」
炸裂する閃光を背中に少年は駆け出し、真っ直ぐ相棒の下へと向かう。
「ナインッ!」
「すーちゃん!」
差し出した手を迷わず取り、少年は慣れた様子でそのまま女の子を横抱きにしてさらに速度を上げて疾走する。
「え? なーちゃん……?」
一瞬の出来事にミルディーヌは呆け、その目の前をリィンが二人を追って駆け抜ける。
「リィンさんいったい何が――」
「ミルディーヌ君、君はこちらに」
そんな彼らを追い駆けようとしたミルディーヌをルーファスが引き留めるのだった。
*
「すーちゃん、演技だけじゃなくてかくれんぼうもヘタだったんだね~」
相棒の腕の中で女の子はひどく緊張感のない、間延びした声で非難する。
「くっ……たしかにオレのミスなのは認めるが、お前の演技もバレバレだったみたいだぞ」
「ええ~そんなことないよ~」
気だるい返答をしながら、女の子は少年の背後を覗き見る。
追い駆けてくるターゲット。
「うーん。まだ本気を出してないみたい~人気のないところに誘導するつもりかな~」
すぐ追い付けるのにそうしないターゲットの心情を女の子は分析する。
「好都合だ。予定とは違うがこのままあの場所に誘導する。準備は出来ているんだよな?」
「ばっちり~」
少年の確認にやはり女の子は間延びした声で答える。
そのいつもと変わらない調子に少年は呆れると共に安堵して、動揺していた思考を冷徹に戻す。
奇襲の機会を逃してしまったが、それでもまだ自分達の有利を少年は疑わない。
そのために少年は本来誘い込むはずだった準備を済ませた戦場へ向かう。
少年の名は《ソード・オブ・スリー》。
女の子の名は《ソード・オブ・ナイン》。
二人は、殺し屋であり、今回の任務は“リィン・シュバルツァーの暗殺”だった。
*
「誘われているか……」
オルディスの波止場に立ち並ぶ倉庫の一つに駆け込んで行って少年を追い駆けてそこに辿り着いたリィンは人気のない周囲を見回して呟く。
「さてどうするか」
《ARCUS》を取り出してリィンは考える。
特別実習としてオルディスに来ている以上、単独行動のし過ぎはあまり良くない。
常任理事の一人の許可は得たとはいえ、深追いはするなと釘も刺されている。
「すいません。ルーファスさん」
目を伏せて謝り、リィンは《ARCUS》をしまう。
「せめて何故自分が狙われているのか、それが分からないとみんなの所に戻っても迷惑が掛かるからな」
追い払うだけでは意味がない。
凶手の狙いが自分ならなおのこと、Ⅶ組のみんなを自分の事情に巻き込めないとノーザンブリアでの特別実習を思い出す。
「さて、何を仕掛けてくるか……」
開きっぱなしの鉄扉から倉庫の中にリィンは踏み込む。
「鬼ごっこは終わりか?」
月明かりが差し込むだけが光源の薄暗い倉庫の中をリィンは真っ直ぐに歩き、通路の奥で堂々と待ち構えていた女の子に話しかける。
「ふふふ~かくれんぼうはお兄ちゃんの勝ちだね~」
間延びした独特な口調で女の子は答える。
周囲には少年の姿はない。
「すーちゃんから聞いたけど、なーちゃんの演技に気付いていたんだよね? どうして分かったの?」
無邪気な言葉に冷たい感情を含ませて尋ねて来る女の子にリィンは律儀に答える。
「さっきの彼にも言ったが、君の演技は子供を演じきっていた……
大人しい子供もいるだろうけど、子供を見守るっていうのは緊張するんだ。君にはそういう危うさがなかった……
それにそのぬいぐるみ、中にいろいろ仕込んでいるな? 金属音がすれば警戒もするさ」
「あらら~お兄ちゃんってば耳も良いんだ~」
「改めて聞くが、君達は俺を殺すために雇われた暗殺者か?」
「うん、そ~だよ~」
「理由を聞いても?」
「そんなのし~らない。なーちゃんたちは上司にただリィン・シュバルツァーを殺して来いって命令されただけだから」
予想通りの答えにリィンは肩を竦める。
「その命令をした君の上司は今何処にいるのかな?」
「さあ~どこだろうね~……
それにしてもお兄ちゃんってこ~んなところまでついて来ちゃうなんて油断し過ぎじゃないかな~」
「子供相手に気を張る必要はないだろ?」
「むう~言うね~。《騎神》っていうお人形がないのにすごい自信だね~」
子供と馬鹿にされ女の子は負けじと言い返す。
「自分よりも弱い敵に怯える理由はないだろ? 痛い目を見たくなかったら知っている事を全部吐いてもらおうか……
とりあえず君のことは何て呼べば良いんだ?」
リィンは女の子に向かって一歩近付く。
「ふふ~今から殺されちゃう人に名乗っても意味はないと思うけど~、うん。せめてどんな相手に殺されるか知る権利くらいあるよね~」
近付いて来るリィンに女の子は無邪気に笑う。
「なーちゃんの名前はソードの9。だからナインって呼ばれてるの」
「ナイン……」
およそ人につける名前ではない呼び方にリィンは眉を顰める。
「ねえお兄ちゃん。お兄ちゃんが強いのは認めるけど~お兄ちゃんをなーちゃんたちが殺せるかはあんまり関係ないんだよ~」
「それはどういう意味だ?」
ナインの言葉に首を傾げつつ、さらにリィンは一歩を近付く。
「――こういうことっ!」
ナインはリィンに向けて素早く腕を振る。
抱えたぬいぐるみから取り出す勢いをそのままに投げつけた毒針をリィンは難なく鞘に納めたままの太刀で打ち払う。
しかし――
「――この程度で――なっ!?」
毒針の奇襲を凌いだリィンだったが次の瞬間、四方から巻き付いてきた鋼の糸が四肢に巻き付いていた。
「動かないほうがいいよ~下手に動いたら、肉片がたくさん出ちゃうかも」
幼い女の子の容貌や表情とはひどく不釣り合いな台詞。
それは単なる脅しではない。
「くっ――この程度」
リィンは闘気を練り、焔の闘気を練って極細の鋼糸を焼き斬ろうとして――
「すーちゃんっ!」
元より長時間の拘束ができる相手だとは思っていない。
ナインがその名を呼ぶと、高い天井に張り付いていた少年が落ちてくる。
「しま――」
「遅いっ!」
少年はリィンが焔を練るより早く、右の長剣と左の短剣を交差してリィンを切りつける。
「ぐっ――」
寸前で鋼糸を焼き斬り、咄嗟に後ろに退いたが浅くない傷が深紅の制服を切り裂いて刻まれる。
「終わりだっ!」
少年は右の長剣に左の短剣を差し込み、一つの大剣にして交差した刻印を横薙ぎに切り払う。
その一撃が交差点に触れた瞬間、爆発が起きる。
零距離から爆発を受けたリィンは吹き飛ばされてコンテナに叩きつけられる。
「あはは~なーちゃんたちは殺し屋だよ~お兄ちゃんみたいな強い人に正面から戦うわけないよ~ふふ、勉強になった?」
《点撃爆発》を受けて無残な姿となったリィンにナインは無邪気な言葉を掛ける。
しかし、倒れたリィンはピクリとも動かず、ナインもそれが分かっていて言葉を掛ける。
「すごく強いって聞いていたけど、なーちゃんとすーちゃんに掛かればこんなものだよね~
これだったらこの前のマフィアの方がまだ歯応えがあったよね~」
「ナイン、無駄口を叩いてないで行くぞ」
同意を求めるナインに少年――スリーは素っ気なく返す。
後は確実を期すためと自分達の痕跡を消すために外から点撃爆発で倉庫を崩すのだとスリーは主張する。
「ねーねー、早く任務も終わったことだしさ、少しだけ遊んで行かない?」
「何を言ってるんだ? そんなことできるわけないだろ」
「でも~せっかくこんな遠い帝国の端まで来たんだし~お祭りもやってるんだからレミフェリアに帰る前に一日くらい良いでしょ~」
「お前なぁ」
脳天気なパートナーの主張にスリーは呆れ返り、同時に彼女がそう言い出したことに好機と感じ――
「分か――」
「そうか。君達はレミフェリアから来たのか」
倉庫の鉄扉から出ると、そこで壁に背中を預けて待っていたリィンがスリーの言葉を遮った。
「なっ!?」
「うそ……」
思わず二人は倉庫の奥で倒れているリィンを振り返り、その人影は二人が見ている中で霧散して消える。
「まさか……分身っ!?」
「そんな!? 糸の手応えもあったし、なーちゃんとしゃべってたのに!? いつの間にすり替わったの!?」
「すり替わったも何も、最初から俺はこの倉庫に入ってないよ」
事もなげに言われた言葉に二人は絶句し、次の瞬間慌てて武器を構える。
「くっ――こうなったら直接やるまでだ。ナイン! 行くぞっ!」
「うん、すーちゃんっ!」
スリーは大剣を構え、ナインはぬいぐるみから取り出した針を構えてリィンに向き直る。
「大人しく投降するつもりはないか? そうしてくれれば悪いようには――」
言葉の途中で二人は動き出す。
スリーが切り込み、それに合わせてナインが針と鋼糸を放つ。
「やれやれ……」
リィンは肩を竦め――
「確か……こう――だったか?」
針と鋼糸を太刀を抜くと同時に切り払い、迫るスリーの大剣にリィンは一息で二撃を交差して叩き込み、さらに一撃を当てる。
次の瞬間、スリーの導力剣は最後の一撃を受け止めた瞬間爆発して折れ飛んだ。
「………………え……?」
零距離の爆発を受けて柄だけを残して壊れた導力剣をスリーは呆けた様子で凝視する。
「うそ……今の……すーちゃんの“点撃爆発”」
「別に驚くことでもないだろ?
見たところ君の剣は剣撃と導力魔法を融合させたものだった。それなら戦技でも同じことができるはずだ」
驚く二人を他所にリィンは事もなげに言う。
もっともリィンも即興でそれを模倣したわけではなく、以前に自分が無我夢中で放った技だったからこそスリーの技を切っ掛けに自分のものにできたに過ぎないのだが、それを彼らが知る由もない。
「――逃げろナインッ!」
「すーちゃん!?」
自失から立ち直ったスリーが自棄を起こしたように叫ぶ。
「こいつはオレ達の手に負える相手じゃない! お前だけでも逃げて“管理人”に伝えろっ!」
「でも、すーちゃん! 任務失敗は――」
「それでも俺達が生き残るのはそれしかない!」
躊躇うナインをスリーは一喝し、柄だけになった導力剣を捨て、予備の武器のコンバットナイフを抜いてリィンに襲い掛かる。
「いいから行けっ!」
普段のどこか達観したスリーからは発せられた必死な声にナインは逡巡しながら、その場から逃げ出した。
「――別に俺は君達を殺すつもりはないんだけど」
「例えお前にそのつもりがなくても、任務を失敗したオレ達を“組織”が生かしておくわけがない」
唯一の例外があるとすればターゲットについて有益な情報を持ち帰った場合。
もっともナインが生かされる可能性は“管理人”の気まぐれでしかないが、そこは賭けるしかない。
「それに――まだオレは負けてないっ!」
果敢に攻めるがスリーのナイフは全て太刀を抜かないリィンに簡単に捌かれる。
「戦術オーブメント起動!」
ナインが波止場から街へと逃げた背中を確認してスリーは叫ぶように導力魔法を起動する。
それは“組織”が最後の手段として下っ端に持たせた武器であり、証拠隠滅のための手段。
スリーはコンバットナイフをリィンに投げつけると同時に突進してリィンを掴む、が次の瞬間スリーの突進の勢いをそのままに投げ飛ばされる。
そして投げる前に取られたスリーの戦術オーブメントは海に投げ込まれ爆発した。
姉妹の再会
エマ
「あ……あのロランスさん……」
ロランス
「何だ?」
エマ
「結社での義姉さんは……そのどうだったんですか?」
ロランス
「どうと言われてもな……命の恩人ではあるがあまり接点があったわけではないからな……
だが悪ぶっているが、義理は通すし頼れば助けてくれる――外道揃いの結社の中ではまともな女だったな」
エマ
「そ……そうですか……」
ロランス
「――着いたぞ」
エマ
「ここに義姉さんが……ゴクリ」
ロランス
「――今戻ったぞ。ヴィータ、お前に――」
ヴィータ
「お帰りなさいレオン。ご飯にする? それともシャワーにする? それとも――あら?」
エマ
「……………………」
ヴィータ
「……………………」
ロランス
「ヴィータ。その手の冗談はやめろといつも言っているだろ」
エマ
「……………………」
ヴィータ
「……………………コホン……久しぶりねエマ。少し見ない間に大きくなったわね」
エマ
「義姉さん…………ヴィータ義姉さんの――バカアアアアアアッ!」