(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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105話 紺碧の海都Ⅳ

 

 

 

 アウロス海岸道。

 オルディスの貴族街を抜けた先、ジュノー海上要塞へ行く道とは別の街道。

 海水浴をするには時期が遅く、それに加えて深夜という時間帯にも関わらず海から砂浜へ一人の少年が息も絶え絶えにして上がって来る。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 オルディスの港から潮流に逆らって泳ぎ切ったスリーは体力の限界を超えていた。

 しかし今にも倒れそうな疲労を感じながらもスリーは高揚していた。

 

「は……はは……」

 

 思わず笑みがこぼれる。

 策謀が得意ではないスリーだが、ここまでうまく行けば気を良くしてしまう。

 

「俺は……生きてる」

 

 浜辺を見渡し、スリーは自分を両腕を見下ろして呟く。

 うまくターゲットと戦い死を装い、死体の確認が困難な方法を用いて行方をくらませる。

 ただ高飛びするよりも良いのではないかと思い、その時のためにパートナーの目を忍んでオルディス周辺の潮流を調べ、この浜辺には逃走のための荷物を隠しておいた。

 

「俺は“自由”だっ!」

 

 その事実を噛み締めるようにスリーは月に向かって吠える。

 

「ウオオオオオオオオオオッ!!」

 

 その叫びはこれまで束縛され続けていた彼の魂の慟哭だった。

 

「………………ナイン」

 

 力の限り咆えて、スリーの頭に過ったのは最初の逃亡計画――ではなくパートナーの顔だった。

 何度も生死を共にしたパートナー。

 自分よりも幼く、才能に溢れていながらもどこか抜けているような女の子。

 そんな女の子を一人、あの血にまみれた煉獄の中に置き去りにして行くことへの罪悪感が不意にスリーの中で渦巻く。

 

「…………これで、いいんだ」

 

 女の子の顔とかつての暗い過去をせめぎ合わせてスリーは雑念を振り払う。

 

「信じられるのは、自分だけだ」

 

 スリーは顔を上げ、振り返り――そこには古びたローブを身に纏う“管理人”と大きなぬいぐるみを抱えたナインがいた。

 

「…………………え?」

 

 スリーは思わず間の抜けた言葉をもらす。

 

「弁明を、聞こうか」

 

 呆けるスリーに構わず“管理人”は尋ねる。

 

「べん……めい?」

 

「君の裏切りはすでに告発された。そこの《ソードの9》によってな」

 

「なっ!?」

 

 スリーは言葉を失う。

 振り払えたと思ったはずの絶望が襲って来た。

 

 

 

 

 

「エマ、そろそろ機嫌を直してくれないか?」

 

「何のことですかリィンさん? 別に私は怒っていませんよ」

 

 合流したエマは目に見えて不機嫌であり、リィンは困惑した。

 

「あの……エマさんはお義姉さんと再会することができたんですよね?」

 

「ええ、お陰様で」

 

 ミルディーヌの質問に頷きながらエマはリィンを睨む。

 

「そのことについて聞きたいことがあるんですが、リィンさん……

 クロスベルに行く前にお婆ちゃんと一緒にヴィータさんと会っていたそうですね」

 

「あ、ああ……

 でもその時のヴィータさんはアリアンロードさんとの仲介だったし、それに――」

 

「それに?」

 

「ローゼリアさんが課題をクリアできてない未熟者は連れて行く必要はないって」

 

「うぐ……」

 

「もし文句を言われたら、当事者をそっちのけにして自分の都合をエマは優先していたはずだと言い返しておけって」

 

「むぅ……」

 

 反論とローゼリアへの恨み言が機先を制されてエマは唸る。

 

「確かにその場にいたらリィンさんを押し退けてヴィータさんに詰め寄っていましたけど……

 だからって会ったなら、それだけでも教えてくれていいじゃないですか」

 

 ブツブツと文句を言いながら俯いてしまうエマにリィンとミルディーヌは顔を見合わせて苦笑する。

 

「とにかく今日は早く戻って休もう」

 

 これ以上はエマが持たないとリィンは提案する。

 

「戻ったら台所を借りて焼き栗を作って上げるから」

 

「……リィンさん、どうしてそこで焼き栗なんですか?」

 

「ヴィータさんの好物だからエマも好きだろ?」

 

「好きですけど、好きですけど……ああああっ!」

 

 頭を抱えるエマを宥め、リィン達は装甲車で送迎をしてくれた軍人の下に戻る。

 

「…………ん?」

 

 ミルディーヌとエマを後部座席に先に座らせ、リィンは助手席に座ろうとして不意に何かを感じて空を見上げた。

 

「リィンさん?」

 

 いつまで経っても導力車に乗り込まないリィンにミルディーヌは首を傾げる。

 

「すいません、ちょっと確かめたいことができました……先に二人を送って行ってください」

 

「え……?」

 

「ちょ、リィンさん」

 

 止める間もなくリィンは踵を返し、次の瞬間一足飛びで城壁の上へと跳び上がった。

 追い駆けることもできず、そんなリィンをエマ達は見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

「いつから我が“照臨のレガリア”が揃っていないと錯覚していたのかね?」

 

 カラスの宝珠を左手に“管理人”――エンペラーは目の前でカエルのように地面に這いつくばっている二人を睥睨する。

 

「そ…………んな……壊れてなかったのなら……どうして最初から使ってなかったの……?」

 

 唯一の突破口だった四揃いの古代遺物、直前までないと油断していた宝珠を持つエンペラーにナインは苦し気に問う。

 

「ふふ……君のような賢しい者はいつもこの手で簡単にこちらの罠にはまってくれる」

 

「罠……だと……」

 

 全身を重くされ、それでも全力で立ち上がろうとしながらスリーは聞き返す。

 

「希望があるからこそ人はそこに縋りつき、それを失った時にこそ真の絶望を味わう事となる……

 君達が今まさに噛み締めているものがそれだ」

 

「く……きゃあっ!?」

 

 一瞬、重力が消え体が軽くなったと思った瞬間、エンペラーは加速してナインを蹴り飛ばす。

 蹴りの衝撃に反してナインは高く飛ばされ、次の瞬間エンペラーの宝珠が光るとナインは重力場に囚われて地面に叩きつけられた。

 

「ナインッ!」

 

 スリーはその光景を這いつくばって叫ぶことしかできなかった。

 その姿にエンペラーは笑みを浮かべる。

 

「《ソードの3》よ。君が彼女にとどめを刺したまえ。そうすれば君の命を助けてやる。あの時のようにな」

 

「っ――エンペラーッ!」

 

 その申し出にスリーは自分の中で何かが弾ける音を聞いた。

 しかしその激昂など取るに足らないとエンペラーは動じずに続ける。

 

「兄妹仲良く同じ相手、同じパートナーに殺されるなら、それも本望だろう」

 

 兜の陰に隠れているにも関わらず、その醜悪な顔がはっきりと目の前に浮かんでいるようだった。

 

「早くしなければ我が殺してしまうぞ」

 

 仰向けに倒れたナインにエンペラーは王笏の石突を置く。

 

「がぁっ!」

 

 軽い動作に反してナインの口から壊れた悲鳴が上がる。

 接触した局部に強力な重力波を伝える杖の王笏により、ナインの身体は倍加した重力を受けて軋み。

 

「さあ、どうする《ソードの3》よ?」

 

 ナインが悲鳴を上げられるギリギリの負荷を見極め、エンペラーはスリーに決断を迫る。

 

「あ……ああ……」

 

 重力場に囚われ、それを見ていることしかできないスリーは絶望に震えることしかできなかった。

 どうしてこんなにも無力なのか。

 先の戦闘も刻剣がない自分はろくに役に立てず、スリーは自分の不甲斐なさを呪う。

 

「…………た……すけて……お……にい……ちゃん……」

 

 ナインの助けを求める声にスリーは俯いて、次の瞬間――

 

「――君のお兄ちゃんじゃないけど、助けに来たよ」

 

 スリーとナインを捉えていた重力場がその言葉と共に斬断され、ナインの上にいたエンペラーは突然現れた少年の飛び蹴りを喰らって弾き飛ばされ、海へと叩き込まれた。

 

「え……?」

 

 通常の重力に戻った体を慌てて起こしてスリーが見たのは白髪に紅い学生服を纏った、ついさっきターゲットとして狙った少年――リィン・シュバルツァーの背中だった。

 

 

 

 

 

 

 ――いったいどういう状況なのだろうか?

 

 勘の赴くままにアウロス海岸に来てみたリィンが見たのは凄まじい戦闘痕だった。

 爆発物を始め、高位アーツを連発した痕跡が残る戦場を探ってみれば、黄金の鎧を纏った不審者がリィンを襲った二人の暗殺者を痛めつけて殺そうとしている所に遭遇した。

 

「…………た……すけて……お……にい……ちゃん……」

 

 状況を把握しようと思った矢先に不思議と耳に届いた女の子の言葉にリィンは思考を放棄して、一帯を包んでいる重力の結界を斬り裂き、不審者を蹴り飛ばした。

 

「……え……?」

 

「――君のお兄ちゃんじゃないけど、助けに来たよ」

 

 呆然と自分を見上げて来る女の子にリィンは安心させるように言葉を返す。

 

「…………どうして?」

 

 ただそれだけを呟いたナインにリィンは微笑みだけを返して頭を撫でて顔を上げる。

 

「君は動けるな? この子を連れて下がってろ」

 

「え……あ……何でアンタがオレたちを助けて――」

 

「いいから早くしろ!」

 

 ナインと同じように困惑しているスリーをリィンは反論は受け付けないと一喝する。

 

「は、はいっ!」

 

 這うように駆け出したスリーはリィン達に駆け寄ってナインを受け取る。

 

「くくく……まさか君の方から来てくれるとは、探す手間が省けたというものだ」

 

 エンペラーの声が聞こえて来たと思った次の瞬間、スリーはあり得ないものを見た。

 

「嘘だろ……」

 

 せり上がる水の壁。

 重力操作によって引き上げられた海水が津波の形で固まってスリーたちを見下ろし、その上にエンペラーが立っている。

 

「我が道具と共に死ぬが良い。“超帝国人リィン・シュバルツァー”!」

 

 重力場が開放され、高くそびえ立つ水の壁がリィン達に降り注ぐ。

 スリーはナインを強く抱きしめて衝撃に備えることしかできず、リィンは肩を竦めると――

 

「八葉一刀流、四の型《紅葉斬り》」

 

 一閃は津波を斬り裂き、海さえも両断する。

 自分達を避けた津波にスリーは絶句し、改めて自分達のターゲットとの実力差を思い知らされる。

 

「帰って飼い主に伝えるといい。この二人の身柄は俺が預からせてもらう」

 

 ゆっくりと降下して海の上に着地したエンペラーにリィンが太刀を向けて宣言する。

 

「ほう? そんな“人間のなり損ない”を庇い立てるつもりか?

 先程、命を狙われたばかりだというのに随分と酔狂な人間のようだ」

 

「“人間のなり損ない”……か……」

 

「そう! それらは我が育て、我が管理している“道具”、人を殺すためだけに存在する“凶器”!

 だが我に使われないのなら価値はない。持ち主として処分するのは当然のことだろう?」

 

 仰々しく、演技が掛かったエンペラーの物言いに対するリィンの眼差しは冷ややかになっていく。

 

「なら俺が引き取っても問題はないな」

 

 処分するというなら構わないだろうと、言わんばかりにあっさりと提案するリィンにエンペラーは何を聞いていたのかと憤る。

 

「物分かりが悪いようだな……

 それの両手には拭いきれない程の血で染まり、数多くの命を奪って来た……

 人間の“フリ”をしたがっている“モノ”に何故慈悲を掛ける?」

 

「生憎だが、俺は自分のことを立派な“人間”だなんて言えないな……

 唾棄するべき悪党なんかと手を組むことにしたし、少し前はそれこそ“人間”の皮を被った“怪物”なんじゃないかって悩んでいたくらいだ」

 

「ほう……」

 

「だいたい俺に限らず、この世界には様々な人がいる……

 嬉々として人を貶める外道、戦う事しか頭にない戦闘狂、平民を家畜としか思っていない貴族……そして零から道具の様に生み出された命……

 お前が言う“人間”の定義はどこまでのことを言うんだ?」

 

「ふむ……なかなか哲学的なことを言う」

 

「だいたいお前のような人でなしの“外道”が“人間”を語るな」

 

 はっきりとリィンはそんな言葉を叩きつけた。

 

「…………不愉快だ」

 

 そんなリィンにエンペラーは冷ややかな言葉を作る。

 

「たかが暗殺対象の分際で我の邪魔をするというのなら、貴様もまとめてここで終わらせよう!」

 

 エンペラーは光輝く王笏を掲げて叫ぶ。

 

「照臨のレガリアよ!」

 

 黒い波動が広がるとリィンに絡みつき、彼の重力を無くして浮き上がらせる。

 

「押し潰されるがいいっ!」

 

 さらに近くの崖が重力場によって砕かれ、リィンと共に宙を舞う。

 

「これで終いだ」

 

 エンペラーが王笏と宝珠を構えると、リィンを中心に重力場が生まれ、舞い上がった無数の岩礫がそこに目掛けて落下する。

 その技は対象を空中に飛ばし、極大の重力場の中心にすることで相手の動きを奪って岩礫で押し潰す単純なもの。

 例えどれ程の達人であっても、重力には逆らえず、無防備な空中ではまともな身動きさえできない――はずだった。

 

「この程度か?」

 

 四方から襲い掛かる重力にリィンは顔色一つ変えず、太刀を振る。

 太刀や腕の重さなど気にも留めず、無造作な一太刀が重力場を斬り、慣性のままに殺到する岩礫を体を捻り焔の一閃でまとめて薙ぎ払う。

 

「――なっ!?」

 

「嘘だろ……」

 

 エンペラーと共にスリーは夜空に舞った火閃に言葉を失う。

 

「四つ揃いの古代遺物……どれ程のものかと思ったらただ石を投げるだけの古代遺物だったか」

 

 危なげなく着地したリィンは事もなげにエンペラーの力をそう評価した。

 そんな呟きにエンペラーは眦を上げ、宝珠から重力の衝撃波を放つ。

 リィンはその衝撃波を正面から斬り払う。

 

「で、それだけか?」

 

「くっ――舐めるなっ!」

 

 余裕を崩さないリィンにエンペラーは激昂して王笏と宝珠を構えて、力を解放する。

 

「ぐっ――」

 

 全身に掛かる重圧に距離を取っていたはずのスリーは思わず呻き、周囲の砂浜に街道がエンペラーがいる場所を除いて陥没する。

 

「こんな出力が出せるなんて……」

 

 重圧だけで体がバラバラになりそうな圧力にスリーは効果範囲から逃げようとナインを抱えたまま這おうとするがまともに腕も動かせない。

 そしてその重圧の中心地に近いリィンもまた耐え切れずに膝を着く。

 

「はははっ! 潰れてしまえっ! ジオ・ラグナロクッ!」

 

 その光景に気を良くしたエンペラーはさらに重力を強くして――

 

「鬼気解放」

 

 リィンの呟きと共に解き放たれた力に重力場は弾け飛んだ。

 

「なっ――何なんだよいったい?」

 

 二転三転する状況にスリーはただ驚くことしかできなかった。

 

「こ――これが超帝国人の真の姿なのか!?」

 

 圧倒的な存在感を纏うリィンにエンペラーは慄き、リィンはエンペラーの言動に眉を顰め――ため息を吐いた。

 

「これで分かっただろ? お前では俺は倒せない。さっさと消えろ」

 

「――何? 我を見逃すと言うのか?」

 

 リィンの言葉にエンペラーは悔しさを滲ませながら言葉を返す。

 

「さっき言ったはずだ。お前達の飼い主にこの子達は俺が引き取ると伝えろと」

 

「くっ――」

 

「それに分かったはずだろ?

 どこの誰に依頼されたか知らないが、割りに合わない依頼だと。理由が足りないって言うなら俺はまだ“変身”を二回残している。その意味が分かるな?」

 

「それでまだ全力じゃないって言うのかよ?」

 

 対峙していない自分まで委縮してしまいそうなオーラを纏っているリィンの言葉にスリーは慄く。

 

「正直に言えばお前のような外道は今すぐこの場で叩き斬ってやりたいのが本音だ……」

 

 リィンは背後のスリーとナインを一瞥する。

 

「だけどそれをこの場でやるのは出しゃばり過ぎだろう」

 

 エンペラーには“組織”とやらに先程の伝言を届けてもらわなければならない。

 それに加えてあの二人がこの男との“因縁”から本当の意味で脱するにはそれこそ余計なお世話だろう。

 

「我を生かしておいたこと、後悔させてやるぞ」

 

 エンペラーは捨て台詞を吐くと、重力を操って浮き上がる。

 そして踵を返すと、夜の空へと飛び立って行った。

 その背中を見送り、リィンはぽつりと呟く。

 

「レミフェリアにもブルブランの同類はいるんだな……」

 

 そんな感想を呟き、リィンは早々にエンペラーが退散してくれたことに安堵して振り返る。

 

「がはっ――」

 

「ナインッ!? しっかりしろ!」

 

 血の塊を吐く女の子に少年は狼狽えた声で呼びかける。

 

「…………すーちゃん…………ごめ……ん……なーちゃんは……もう……ダメみたい……」

 

 重力場で直接痛めつけられたナインは血を吐きながらも、痛みを感じない体に力のない笑みを浮かべる。

 

「弱気になるなっ! もう目の前に“自由”があるんだぞ! なのにどうして――」

 

「泣かないですーちゃん……すーちゃんだけでも守れて……なーちゃんはまんぞく……だよ」

 

「違う……違う……守るって誓ったのは、俺の方なのに……何で……何でお前が……」

 

 最後の言葉を交わす二人、リィンは背中を向けているスリーの背後に立つ。

 

「おにいちゃん…………すーちゃんをたすけてくれて……あり……が……とう……」

 

「待てっ! 逝くな! 逝かないでくれっ! 俺はまだお前の本当の名前も知らない! だから――」

 

 そんな彼らの最後のやり取りにリィンは胸を手を当てて感情を呑み込み、告げる。

 

「俺がその子を治してあげよう」

 

「…………え……?」

 

 スリーはそこでようやく顔を上げてリィンを振り返る。

 

「……ただし代償は支払ってもらうよ」

 

 

 

 







NG もしもあの場面で彼の箍が外れてしまったら(ファル学風味)

自由の代償

「俺は“自由”だっ!」

 その事実を噛み締めるようにスリーは月に向かって吠える。

「ウオオオオオオオオオオッ!!」

 その叫びはこれまで束縛され続けていた彼の魂の慟哭だった。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!! 俺は“自由”だっ!」

 水を吸って体に重く纏わりつく上着を、靴を、ズボンさえも投げ捨てスリーは今上がって来たばかりの海へと踵を返して突撃する。

「しゃあああああっ!」

 波に体当たりをしてそのまま前のめりに海にダイブし、まだ足が付くその場に全裸で転がり回る。

「これが“自由”だっ! ひゃほうっ!」

 誰もいない浜辺で少年は今までの抑圧された何かを晴らすように叫び、滅茶苦茶に波と砂と戯れる。
 そして――

「何をしているんだ俺は……」

 十数分後、ようやく落ち着いたスリーは自身の奇行を振り返って頭を抱える。

「こんなことしてる場合じゃないだろ。この絶好の機会を確実にするためにすぐにここを発たないと」

 そう呟いてスリーは海から上がり、脱ぎ捨てた服を――

「…………え……?」

 誰もいないはずの浜辺に黒いローブを着込んだエンペラーがいた。

「…………え……?」

 さらに両手で目を覆い隠したナインがいた。

「すーちゃんのエッチ……」

 そしてスリーは全裸だった。
 そんな彼にエンペラーは言った。

「《ソードの3》……弁明を、聞こうか」

「やめてっ! この状態のまま話を進めないでっ!」



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