(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~ 作:アルカンシェル
第一回ラマ―ル州武術大会。
最大四人の一チームによる四対四の集団戦。
シード枠である四大都市の領邦軍とトールズ士官学院のⅦ組、それに加え一週間に渡る予選を勝ち抜いて来た猛者たちが十一枠。
その内の一枠であるリィン達は本戦開会式の言葉を控室で聞き流して、最後の打ち合わせをしていた。
「俺達の目的は言わば陽動だ」
「陽動?」
ロランスの言葉にリィンは聞き返す。
「ああ、ヴィータから求められた役割は俺達が大会で目立つことに尽きる……
そうやって工房長の目を俺達に引き付けて暗躍するつもりらしい」
「らしいって……安静にしてないといけないはずじゃなかったのか?」
「あいつがやると言っているのだから、任せれば良い」
いっそう冷たいとも取れる言葉だが、確かにそこまで心配をする必要はないかとリィンも判断して頷き、エマの様子を窺う。
「何ですか?」
「いや……エマはヴィータさんのことは心配じゃないのかなって思って?」
「知りません……あんな人がどうなっても私には関係ありませんから」
「…………いや……エマはそれで良いのかもしれないけど……」
義姉さんから、ヴィータさん、そしてあの人と他人行儀になっていく呼び方にリィンは苦笑いを浮かべる。
ヴィータがエマに何を言ったのか、どれだけ尋ねてもエマはそれに答えてくれない。
しかし、そんなエマの様子にリィンはある疑問を過らせる。
「何か言いたそうですねリィンさん?」
「いや……大したことじゃない」
「でしたら教えてください。あの人と私に隠れてまた取引でもしているんですか?」
凄んで来るエマにリィンは仕方ないと頭を掻き、告げる。
「もしかしてヴィータさんはわざとエマを怒らせて、諸々の追究を誤魔化したんじゃないのかな?」
「………………」
リィンの指摘にエマは固まった。
いや、まさか。と否定しながらもエマは自分が追究したかった疑問を何一つ義姉にぶつけていなかったことにようやく気付く。
「…………あ……」
「まあ、何と言うか……エマはローゼリアさん似なんだな」
リィンなりの精一杯のフォローの言葉にエマはぐぬぬと不本意だと反論しようとして――
「良いですこと。くれぐれもわたくしとシュバルツァーの戦いを邪魔するんじゃありませんわよ、アルゼイドの小娘」
「また小娘と……私にはラウラ・S・アルゼイドという名が――」
「ふん、貴女なんて小娘で十分ですわ」
「何だと!?」
通路の先、先に控室に向かったはずのラウラの声が廊下に響き渡る。
エマとリィンは珍しいラウラの怒声に顔を見合わせる。
「落ち着けラウラ」
「止めるなユーシス! 私は落ち着いてる!」
控室に行くとそこには仲裁するようにユーシスに窘められているラウラがそっぽを向いて拗ねていた。
「どうしたんだ? 廊下まで声が聞こえていたけど」
「リィン……」
「来ましたわね。リィン・シュバルツァー」
振り返ったクラスメイト達を押し退けて、ラウラと言い合いをしていた女剣士――デュバリィがリィンの前に進み出る。
「こちら側の控室に来たということは第一試合で当たることはないようですわね」
「デュバリィさん……どうして貴方がここに……いや、出場することは知っていたけど――」
控室の中、赤い鎧をまとった一団の姿を確認してリィンは尋ねる。
「よりによって“アレ”をリーダーにするなんて本当に何を考えているんですか? 正気ですか?」
「ふん、わたくしは優勝なんて興味ありませんわ……
わたくしの目的はただ一つ、貴方との再戦ですわ」
「再戦って……この大会は四対四のチーム戦。戦えるとは限らないと思うんですが?」
「そんなのわたくしと貴方が誰にも負けなければ済む問題ですわ」
本戦の出場者の顔ぶれを知ってか、知らずかデュバリィは強気な発言をする。
「まあ確かにそうだけど……」
「その上でリィン・シュバルツァー、貴方に一騎討ちを申し込みますわっ!」
声を上げてデュバリィはそう宣言する。
「一騎討ち……いやだからこの大会はチーム戦で――」
「ふ……雛鳥達などわたくしに掛かれば瞬殺ですわよ。せいぜいシュバルツァーの足を引っ張らないように…………ように……」
デュバリィはリィンの背後にいる彼に指を突きつけて――固まった。
「ああ、精々足を引っ張らないように気を付けよう」
ロランスは苦笑交じりにデュバリィの言葉を受け入れる。
「な……な……な……」
「あん? 何だお前らもこっち側か?」
リィン達の後に控室に入って来た男――マクバーンはそこにいる顔ぶれにあからさまに落胆をする。
「なっ――何で貴方までここにいるんですの!?
貴方は先日、メンドクサイと言って拒否したはずじゃ」
「ああ、気が変わった」
狼狽するデュバリィにマクバーンはあっさりとその時の言葉を翻す。
「――――っ、ま……まさか貴方のチームというのは《剣帝》と《劫炎》の二人が……」
直前まで粋がっていたデュバリィは顔を蒼白にしてリィンに振り返る。
「いや、マクバーンは俺達のチームじゃないけど」
「そういうことだ。悪いがこの二人と先に当たったとしても恨むなよ」
いつもの気だるさを感じさせず楽し気に笑うマクバーンにデュバリィは顔を引きつらせて叫ぶ。
「これだから“執行者”はっ!!」
そして――
「紳士淑女諸君、よく集まってくれた。私は本戦から審判を務めさせていただくことになったブルブランと申します。以後お見知りおきを」
「アアアアアアアアアアッ!」
司会進行として彼を紹介されてデュバリィは頭を抱えて悲鳴を上げ、リィンはそんな彼女の肩を優しく、慰めるように叩いた。
*
計十六チームからなる勝ち抜きのトーナメント戦において、そのチームは毛色が違った。
「ふふふ、戦闘データの解析は完璧だ。これで私のチームの勝利は揺るぎない」
ハイデル・ログナーは闘技場の門で中央に進んで行く機械人形を見送りほくそ笑む。
「この《レジェネンコフ》たちにはそれぞれ帝国の猛者たちのデータを入力している。この私の最強のチームに誰も勝てるはずがない」
言ってみれば“光の剣匠”に“雷神”“風の剣聖”それに加えて百式軍刀術の達人だった現役の頃の“鉄血宰相”。
この四人を従えたとも言える夢のチーム。
「超帝国人だか知らぬが増長が過ぎる浮浪児など、私の技術力の敵ではないわ」
かつてノルディア州の社交界でテオ・シュバルツァーをなじったことがあるだけにハイデルは危機感を強く感じて己を奮い立たせる。
この最強の機械人形の性能をこの大会で大々的にお披露目をし、ゆくゆくは現在貴族派が秘密裏に開発している存在に同じプログラムを組み込めば最強の軍隊をいくらでも作り出させる。
さらにこの大会の優勝賞品になっていると噂されている《騎神》を手に入れ、その技術を得ることができれば。
それこそ当主の兄を押し退け、カイエン公さえも超えて貴族派の頂点に立てると夢想する。
「さあ! 我が覇道の最初の礎となるのは誰だ!?」
すでに優勝したつもりで気を大きくしたハイデルが見たのは、試合開始と同時に爆散する四つの爆炎だった。
*
ラクウェルの悪童と呼ばれるアッシュ・カーバイドの武術大会の出場理由はただ面白そうだからという単純な理由だった。
武術を修めているわけではないが、喧嘩で鍛えた腕っぷしに自信があったから。
それに普段偉ぶって好き勝手に振る舞っている領邦軍の鼻っ柱を合法的に折って指差して笑えるチャンスだとも考えたからでもある。
予選では悪知恵を働かせ、開始前の挑発や土を使った目潰しなどを始めとしたラフプレイで本戦出場に至った。
故に、アッシュは予選と同じように挑発するように彼に話しかける。
「デカい灰色のオモチャ乗り回して、超帝国人なんて名乗ってそんなに気持ちいいんスかね?」
その言葉に朗らかに挨拶をしていたリィンは固まり、アッシュは手応えを掴んだ。
「それでは双方位置に付いてくれたまえ」
審判の紳士に促され、アッシュは仲間を率いて移動する。
「ハハ、こりゃあこの試合も楽勝だな」
「貴族ってのはどうしてあんなに煽り耐性がないんだろうな」
「本戦出場だけでも賞金は出るし、一回勝てばさらに倍。これもアッシュのおかげだな」
「…………ああ」
疼く左目を押さえながらアッシュは頷く。
「それにしてもあのリィン・シュバルツァーって奴、本当に弱そうだよな」
「ああ、それ思った。噂話からどんなバケモンかと思っていたら、一緒に出ている女二人の方が強いんじゃねえか?」
「言えてる。あんな隙だらけな奴俺でも勝てそうだぜ。あのロランスのチームに入ったのも勝ち馬に乗りたいからだって考えれば貴族らしいんじゃね?」
すでに勝った気でいる仲間たちに水を差さないようにアッシュはため息を吐く。
――たしかにシュバルツァーの方は全然大した奴には見えねえが、問題はあっちの兄ちゃんの方だ……
油断なくアッシュはリィンから意識を外して予選を一人で勝ち抜いて来たロランスという男を注視する。
予選で見せた圧倒的な力。
しかし、どの試合もアッシュの目から相手の力量に合わせてあしらっていたようにしか見えなかった。
強さの底が知れない。
同時に彼の姿を見ていると左目が疼き異常に胸がざわつく。
――何だ?
その奇妙な感覚に首を傾げていると、審判の号令が上がる。
「双方、構え! 勝負開始っ!」
その宣言にアッシュは思考を切り替えて舎弟たちに指示を出す。
「よし! 作戦Cで行くぞ――?」
言ってアッシュは奇妙な違和感を覚えた。
開始の合図と同時に向こうのチームはリィンが無造作に前に踏み出して来た。
武の知識はないものの、喧嘩という場数はいくつもこなしているアッシュの目から見ても隙だらけな動きだった。
「は、やっぱ騎神が凄いだけで、中身は大したことねえな」
ゆっくりとした足取り。
余裕で先制攻撃を仕掛けられると舌なめずりしたアッシュは次の瞬間、自身の体のおかしさに気付く。
――体が動かねえ!?
リィンは遅いくらいの普通の動きをしているのに対して、アッシュは金縛りにあったかのようにわずかにしか動けない。
彼が太刀を抜き、刃を返して峰にする。
アッシュの目にはしっかりとその動きが見えているにも関わらず、それに対応するための動きが取れない。
――何なんだ!?
ひたすらにアッシュは自分の状況に困惑する。
が、何が起きているのか理解することはできず、アッシュたちの目の前にはリィン・シュバルツァーがいた。
「これは忠告だが、挑発をするなら相手と言葉を選ぶんだな」
その言葉を最後にアッシュの意識は暗転した。
その頃のルーレ
ヴァルカン
「全てはあの野郎を……《鉄血》のクソ野郎をブチ殺して部下たちの弔いをするために……
あの男の築き上げた全てを“無かったこと”にするためになっ!」
アリサ
「………………」
フィー
「そんなことが……」
アンゼリカ
「因果な話だな」
エリオット
「ふ、ふざけるな! そんな勝手な“逆恨み”で父さんや沢山の人を殺したって言うのか!?」
クリス
「エリオット……落ち着いて」
マキアス
「同情できなくもない話だが、テロには断固たる対応を、それが常識であるし宰相の対応は間違っていたとは言えないな」
ヴァルカン
「クク、その通りだ。コイツはな、どちらが“正しい”って話じゃないのさ。俺たちは――」
シャーリィ
「え、何言ってんの?」
アリサ
「シャーリィ?」
シャーリィ
「黙って聞いてれば不幸自慢って……はあ、まさかランディ兄よりも情けない元猟兵がいるとは思わなかったな」
ヴァルカン
「何だとっ?」
シャーリィ
「猟兵が“逆恨み”? 何でシャーリィ達、猟兵が“死神”って呼ばれて畏れられていると思ってるの?
弔い? あはは、こんな血生臭い仕事をしているのに真っ当に死ねると思っていたなんて随分とぬるいんだね?」
ヴァルカン
「“血染め”……テメエにはクロスベルで同志を虐殺した恨みが――」
シャーリィ
「ぷっ――ねえシャーリィを笑い殺しにするつもりなの?
銃を持って襲って掛かっておいて返り討ちにしたら復讐?
仮にも猟兵を名乗っていたならさぁ、そんな馬鹿みたいなこと言わないでくれないかな、ウチの品性まで疑われるから……
っていうかそんな頭で猟兵を名乗って欲しくないかな。オジサンみたいな人は猟兵でも傭兵でもなくてチンピラって言うんだよ」
ヴァルカン
「貴様――」
シャーリィ
「だいたい鉄血宰相の全てをなかったことにするとか言っておいて、こんな鉱山を占領して何だって言うのさ?
本当はあの宰相と戦うのが怖いんじゃないの?
だからこうして小さな事件を起こして、俺達は鉄血宰相と戦っているんだって自己満足に浸ってるだけで、本当は復讐とか逆恨みも負け犬の自分を誤魔化すための方便なんじゃないの?」
ヴァルカン
「黙れっ! 貴様はここで殺すっ!」
シャーリィ
「あははっ! アンタみたいな三下がシャーリィを殺ろうだなんて百年経っても不可能だよっ!」
クリス
「――来る。Ⅶ組A班、迎撃準備!」