(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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108話 紺碧の海都Ⅶ

 

 

 

 

 武術大会本戦の初戦第八試合。

 その日の最後となる試合にユーシスをリーダーにして出場したⅦ組の相手は《黒旋風》の異名を持つウォレスが率いるサザーランド領邦軍だった。

 

「なんとしても勝つぞっ!」

 

 ユーシスは先月の特別実習から負け続きだったこと、そして兄が見ていることもあり気合いを入れて仲間たちを鼓舞する。

 

「学生如きに遅れを取れるか!」

 

 対するサザーランド領邦軍も負けない気迫でⅦ組と相対する。

 戦術リンクという最新の技術があったとしても、軍人の意地と長い時間を掛けて培ってきた連携や己の武力によって拮抗する。

 

「はああああっ!」

 

「――砕け散れっ!」

 

 ガイウスの突撃に合わせ、その背後からラウラが跳び上がって強襲する。

 

「甘いっ!」

 

 ラウラの渾身の一撃を正面から槍で受け止め、それを盾にすかさず銃撃が撃ち込まれる。

 

「させないよっ! がーちゃんっ!」

 

 それをアガートラムが盾になって防ぐ。

 しかし、そこで軍人たちは止まらない。

 銃撃を続け、アガートラムをその場に釘付けにし、そこへ長い駆動が必要になる高位アーツが降り注ぐ。

 

「わわっ!?」

 

「任せるが良いっ! クレセントミラーッ!」

 

 慌てるミリアムを制して、ユーシスが相手に合わせて備えていた防御アーツを駆動する。

 野太い光線は幻の鏡の中へと吸い込まれ、次の瞬間術者に向かって反射される。

 しかし、軍人たちは危なげなくその光線を回避する。

 

「っ……流石ウォレス准将の直属と言うべきか。以前戦ったうちの軍人よりも遥かに手強い」

 

 思わずユーシスの口から愚痴が漏れる。

 

「戦術リンクの恩恵があって何とか渡り合えている……

 西風の旅団が特別ではなかったと思い知らされるな」

 

 仕切り直しとして戻って来たラウラの呟きに一同はレグラムでのことを思い出して苦い顔をする。

 

「だがここで負けるわけにはいかない」

 

「そうそう、リィンは簡単に初戦を突破したんだからボク達も負けられないよね」

 

 改めて気合いを入れ直すガイウスとミリアムに合わせ、ラウラとユーシスもそれぞれの武器を構え直す。

 

「気を引き締めろ。おそらくここからが本番だ」

 

 ユーシスはこれまで戦っていた三人の軍人の背後に佇んでいた浅黒い肌の男が動き出すのを見て忠告を飛ばす。

 

「ガイウスの武器と同じ十字槍……それにあの出で立ち」

 

「ああ、話には聞いていたがおそらく俺の同郷の者だろう……

 獅子戦役の頃、ノルドを離れてそのまま戻らず帝国に根を下ろした一族、その末裔がいると聞いている」

 

 ラウラの呟きにガイウスは頷き、ユーシスがそれに補足を入れる。

 

「サザーランド州のバルディアス家のことだな。彼はそこの領邦軍の准将だ」

 

「へーそんな偉い人までこんな大会に来るなんて意外だね」

 

 ミリアムは槍を携えて無造作に歩いて来るウォレスに油断なく観察する。

 

「ガイウス・ウォーゼルだったな? お前の槍はその程度か?」

 

 ウォレスは足を止め、徐に話しかける。

 

「なっ――いきなり何を?」

 

「故郷の槍の使い手が出場すると聞いていたが、思っていた程ではないと感じてな……出し惜しみをしているなら本気を出すことを薦めよう」

 

「っ――」

 

 ウォレスの言葉を貴族特有の上からの目と感じたガイウスは己の槍を軽んじられたこともあり、あえてその挑発に乗る。

 

「ならば俺の全力、受けてもらおうっ!」 

 

 気合いを高めガイウスは雄叫びを上げる。

 

「風よ! 俺に力を貸してくれ!」

 

 大きく跳躍し、翠の風の闘気を纏った槍と共に急降下――

 

「カラミティ・ホークッ!」

 

「温いっ!」

 

 ガイウスの必殺の一撃はウォレスの黒い風を纏った槍が受け止め、弾き飛ばされる。

 が、それで終わりではなかった。

 身体ごと弾き飛ばされたガイウスは槍をウォレスに投げつけて、手で印を組む。

 

「来たれ雷神っ! 空と海の狭間よりっ! 極技・雷神招来っ!」

 

 リベールの槍使いから教わった方術によって生み出された雷が風と合わさって槍を加速させる。

 

「温いと言っているっ!」

 

 しかしそれさえも黒い旋風が薙ぎ払う。

 

「そんな――」

 

 あっさりと新技を防がれたガイウスは絶句する。

 

「我がバルディアス家はノルドの槍術を源流に帝国の武術を取り入れて洗練していたものだ……

 流派としての研鑽を積んでいないお前の槍がバルディアス槍術に通じると思ったか?」

 

 そんな彼の動揺にウォレスは苦笑を浮かべ、弾いて落ちて来たガイウスの十字槍を危なげなく受け止める。

 

「多少のアレンジはあるようだが、そこがお前の限界のようだな」

 

「何ですって?」

 

 見切りをつけた物言いにガイウスは顔をしかめる。

 

「ノルドの自由を体現した良い槍術だったが、感覚と才能に頼っただけの槍ではここから大きく伸びることはないだろう」

 

「ぐっ……ならばここで限界を超え、貴方に届かせて見せるまでだ」

 

「軽々しく言ってくれるな。獅子戦役から250年、バルディアス家が積み重ねた研鑽を随分と軽んじてくれる」

 

「あ……」

 

 思わず出てしまった言葉を侮辱と取られガイウスは口ごもる。

 だがウォレスは特に気を悪くせず、ガイウスに尋ねる。

 

「強くなりたいかガイウス・ウォーゼル?」

 

「いきなり何を?」

 

「リィン・シュバルツァーは俺の良く知っている者とよく似ている……

 凡人が少しでも足踏みをすればすぐさま取り返しのつかない差を付ける。彼はそういう類の人間だ」

 

「それは……」

 

 思い当たるところがあるガイウスは思わず聞き入ってしまう。

 

「お前に本当に俺に届かせる気概があると言うなら、この戦いの中でバルディアス家が得た“真髄”を盗んで見せろ」

 

 ウォレスはガイウスの槍を投げ渡し、自分の槍を構える。

 

「盗めと言われても……」

 

 突然の申し出にガイウスは戸惑う。

 “盗む”という印象の悪い言葉に言いたいことが分かるが、抵抗を感じてしまう。

 

「難しいことを言っているわけではない。俺の“風”を感じろと言っているんだ兄弟」

 

「“風”を感じる……」

 

 ウォレスの一言にガイウスの中の戸惑いは一瞬で消える。

 

「分かりました。胸をお借りします兄弟」

 

 短い言葉で頭ではなく心で彼の言葉を理解したガイウスは鏡合わせになるようにウォレスと同じ構えを取る。

 

「ガ……ガイウス?」

 

「うむ……ガイウスにこんな一面があったとは」

 

「あははー、何かおもしろくなってきたね」

 

 突如として始まった二人だけの世界にⅦ組一同は困惑する。

 

「お前達の相手は俺達だ」

 

「准将の邪魔はさせない!」

 

「准将の手を借りずともお前達程度、俺達で倒すっ!」

 

 残された彼の部下の動揺は少なく、むしろⅦ組とガイウスを分断するように陣形を組み直す。

 

「ウオオオオオオオオッ!」

 

「ハアアアアアアアアッ!」

 

 戸惑う仲間たちを他所に二人は互いの“風”をぶつけ合うのだった。

 

 

 

 

 

「よく勝ち抜いた猛者たちよっ!」

 

 公爵邸の大ホールにカイエン公爵の声が響く。

 

「君たちの活躍、誠に大義であった」

 

 ホールに集まった猛者たちに労いの言葉を送り、さらに激励の言葉へと続ける。

 

「明日の試合のためにささやかな宴を用意させてもらった。今宵は英気を養い、明日の最後の戦いを大いに盛り上げてくれたまえ!」

 

 カイエン公が用意した立食会が始まる。

 

「おおおっ!」

 

 所狭しと並べられた豪華な料理にナ―ディアは目を輝かせる。

 

「すーちゃん、見てみて豪華な宮廷料理だよ!」

 

「おいナ―ディア落ち着け。こんなの潜入任務の時に見たことあるだろ?」

 

 興奮する相棒を宥めスウィンは肩を竦める。

 

「だってお仕事の時は食べれても味なんて楽しんでいる余裕はなかったし、ねね本当にこの料理は食べても良いんだよね?」

 

「ああ、この宴は君達への正当な報酬でもある。明日に影響を出さない範囲で楽しんで来ると良い」

 

「やったぁー! 行こうすーちゃんっ!」

 

「お、おい引っ張るな。ナ―ディア」

 

 歓声を上げ、スウィンの手を取って料理へとナ―ディアは突撃する。

 引かれた手に戸惑いながらもスウィンは抵抗せず、大人しく彼女に付き従う。

 

「……暗殺者か。こうして見ると年相応の子供だと思わないか?」

 

「さあな……だがうちのヨシュアとレンと比べればまだマシな方だろ」

 

 ルーファスが振って来た話題にマクバーンは適当に応える。

 

「あ、兄上……」

 

 そんなチームの場に恐る恐ると言った様子でユーシスが声を掛ける。

 

「やあユーシス。それにリィン君も初戦突破おめでとう」

 

 振り返ったルーファスは訪ねてきたユーシスと、彼と一緒に来たリィンを笑顔で迎える。

 

「恐縮です、ですが俺の相手は街の不良とくじ運に恵まれたに過ぎません」

 

「俺についても同じです。今回はガイウスがウォレス准将を討ち取って得た勝利です。俺自身はまだ何もできていませんでした」

 

 二人は対照的にルーファスの労いに答える。

 

「それよりも兄上。彼らと本当にこのままチームを組むのですか?」

 

「おいおい、いきなり言ってくれるな坊主」

 

 切り出しから不信を隠さないユーシスの言葉にマクバーンは楽し気な笑みを作る。

 

「当然だ。どこの馬の骨とも分からない怪しい輩たちにクロイツェン州の代表など……くっ出来る事なら俺が兄上のチームに」

 

「はは、それでは特別実習の意味がないだろ。それに彼らはよくやってくれているさ」

 

 悔やむユーシスをルーファスが宥める。

 

「ですが、この男はともかくあんな年端もいかない子供たちは――とても暗殺者とは思えません」

 

「そうは言うが、数年前オーロックス砦に侵入し、当時の准将を殺した暗殺者も今の彼等よりも幼かったと聞く……

 裏側の世界は見た目の歳では測れないということだよ」

 

「オーロックス砦の事件……《漆黒の牙》のことですか? あんな眉唾な証言を兄上は信じているんですか?」

 

「ぶっ――!?」

 

「は――?」

 

 思わぬ所で出て来た《二つ名》にリィンとマクバーンは揃って目を丸くする。

 

「おや、その様子だと二人も名前くらいは聞いたことはあるようだね……

 その存在が帝国で幅を利かせていたのは少なくても五年以上前のことなのだが」

 

 二人の反応にルーファスは説明する。

 今から七年程前に、帝国内ではとある《漆黒の牙》と呼ばれる暗殺者が存在し畏れられていた。

 その活躍はまさに神出鬼没。

 政府の要人、屈強な兵士が犠牲になり、被害の反面その目撃情報はほとんどなくその存在は闇から牙を突き立てる《漆黒の牙》と呼ばれるようになった。

 

「とはいえ、《漆黒の牙》が幅を利かせていたのは七年程前までのこと、今では一種の都市伝説のように語り継がれるだけの存在だがね」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 そういう可能性があるとは考えていたが、実際の被害を聞かされてリィンは冷や汗をかく。

 

「――ところでシュバルツァー。あの阿呆はどこだ?」

 

 話を逸らすようにマクバーンはホールに見当たらない青年の所在を尋ねる。

 

「ロランスさんなら気が乗らないって言ってもう帰りました」

 

「ちっ……その手があったか」

 

 ロランスチームのスケープゴートにされたリィンがそう答えるとマクバーンは舌打ちする。

 

「しかしそれはそうと……」

 

 控室の時から改めてマクバーンはリィンの姿を観察する。

 

「ククク……クロスベルで何かやって来たと聞いていたが良い感じに新しいものが混じっているじゃねえか……

 それにその太刀……まさか《内の理》で《外の理》に匹敵するもんを作って来るとはなぁ」

 

 今にも襲い掛かって来そうな獰猛な笑みを浮かべるマクバーンにリィンは肩を竦める。

 

「まさかとは思うが、ここで――いやこの大会で本気を出すつもりじゃないだろうな?」

 

「安心しろ。流石にあの姿を見世物にするつもりはねえ。だが今のお前なら《箱庭》で俺の力を受け止められるんじゃねえか?」

 

「それは……」

 

 マクバーンの指摘にリィンは考える。

 至宝級の力を注ぎ込まれ、昇華した今の《聖痕》ならば箱庭の維持とリィンの戦闘を両立させることは不可能ではない。

 

「仮にできたとして、あの時と同じで無条件に俺が貴方と戦う理由はありませんよ」

 

「おいおい連れねえこと言うなよ」

 

 馴れ馴れしく肩を組もうとしてくるマクバーンをリィンは躱して距離を取る。

 

「ちっ……まあ今回は味見で我慢するか」

 

「おっと私もリィン君とは改めて手合わせしたいから譲ってもらえるかな」

 

 マクバーンの発言にルーファスが異を唱える。

 

「兄上……?」

 

 楽し気にしているルーファスの見たことのない顔にユーシスは困惑した。

 

 

 

 

 

 

「モグモグ……おいしー! レグラムで食べた料理よりおいしーかも!」

 

「モグモグモグ~♪ クロスベルで食べた料理もおいしかったけど、海の幸がふんだんに使われたこの料理もなかなか……うーん、改めて復活できて良かった」

 

「ミリアムちゃん、それにイオ様も。いくら立食会だからって言ってももう少しお行儀よくしてください」

 

 好奇心と食欲が赴くままに豪勢な料理をがっつく二人の子供をエマが窘める。

 

「ミリアム、その言葉は聞き捨てならないぞ」

 

 そしてラウラはミリアムの発言に聞き捨てならないと言わんばかりに咎めるが、当のミリアムは特に気にした様子はない。むしろ――

 

「ほら、ラウラも食べてみれば分かるよ」

 

「確かにレグラムにない海の幸……それにミラに物を言わせた料理だが……むう……」

 

 勧められた料理にラウラは唸る。

 悔しいが確かにミリアムの言を認めなければならない程の差がそこにはあった。

 

「イオ様……」

 

「様なんて気軽にイオちゃんって呼んでくれていいんだよ。同じチームメイトなんだから」

 

「そ、そういうわけにはいきません……リィンさんからも言ってもらえませんか?」

 

 気安く接して来るイオに困ったエマは戻って来たリィンを振り返って懇願する。

 

「えっと……」

 

 エマの小言をスルーして豪華な宮廷料理を幸せそうに堪能するイオを見てリィンは苦笑いを浮かべる。

 

「大目に見て上げてくれ、イオさんは長い間封印されていたわけだから」

 

「だからと言ってお婆ちゃんと同格の存在なんですからもっとこう、威厳というものをですね」

 

「え……ローゼリアさんに威厳?」

 

「…………あれでもちゃんとしっかりしているんですよ」

 

 フォローする言葉の前の間についてリィンは追及しないことにした。

 

「それはそうとガイウスは……?」

 

 Ⅶ組の輪の中にガイウスがいないことに気付いたリィンは周囲を見渡し、すぐに彼の姿を見つける。

 

「ウォレスを倒した一撃、見事だったぞウォーゼル」

 

「きょ、恐縮です。オーレリア将軍」

 

 オーレリアに賞賛の言葉を送られ恐縮し切っているガイウスはそのまま弁明する。

 

「ですが、俺がウォレス准将に勝てたのは全て准将のおかげです……

 あの人が俺を高みに連れて行ってくれなければ簡単に負けていたでしょう。俺が最後に競り勝てたのは運が良かっただけです」

 

「恥じることはあるまい。それを含めて君の伸びしろがウォレスの予想を上回ったということだ」

 

「しかし――」

 

「もしも恥じる気持ちがあるのなら、明日の戦いを勝ち抜くことこそウォレスの教えへの報いとなるだろう」

 

「っ――はいっ!」

 

 試合が終わってから浮かない顔をしていたガイウスはオーレリアのその言葉に気持ちを切り替える。

 

「さて――」

 

 話は終わったとオーレリアは振り返る。

 

「シュバルツァー。ロランス・ベルガーはどこだ?」

 

「もう帰りました」

 

 期待に胸を弾ませた顔をしているオーレリアにリィンは無情な答えを返した。

 

 

 

 

 

「よう、こうしてちゃんと顔を合わせるのは初めてだな」

 

 近付いて来た気配にリィンは気を切り替えて振り返るとそこには黒いジャケットがいた。

 

「ルトガー・クラウゼル……」

 

 彼の後ろには取り巻き、腰巾着のようにゼノとレオニダスが付き従っている。

 その姿にパトリックの取り巻きを重ねてしまうが、それをあえて口にせず、彼らと共にいる同じジャケットを来た女の子に目を向ける。

 

「…………そっちの二人はともかく、貴方まで武術大会に出場するとは思っていませんでしたよ」

 

「ま、ちょっとした成り行きって奴でな」

 

 喧嘩腰とも取れるリィンの言葉にルトガーは飄々とした態度で応える。

 

「ガレリア要塞を襲撃した《紫の騎神》の起動者……テロリスト達との繋がりを認めているようなものだと思いませんか?」

 

「おいおい俺がゼクトールの起動者だって証拠はあるのか?」

 

 わざとらしい受け答えをするルトガーにリィンは嘆息する。

 

「俺に何の用ですか?」

 

「いや、フィーの奴はちゃんと元気にしているかどうか聞きたくてな」

 

「それを貴方が訊くか?」

 

 ルトガーの要件にリィンは呆れる。

 

「お前さんの言いたいことは分かるが、これも俺なりのケジメでな。ま、その様子だとフォローしてくれたみたいだな」

 

「……フィーの故郷を奪ったと言うのは本当なんですか? そっちの二人は今までそんな素振りも見せていませんでしたが」

 

 リィンはルトガーから視線をゼノとレオニダスに移して尋ねる。

 

「それについては俺らも初めて聞かされたことでな」

 

「我らが西風に入ったのは団長がフィーを拾った後、そしてフィーが西風に正式に参加するようになったのが俺達が入った後だったということになる」

 

「…………そんな体たらくで兄貴風を吹かせていたのか」

 

「ぐっ……」

 

「むっ……」

 

 リィンの鋭い言葉に二人は唸る。

 

「ははは、まあこれは俺からフィーに送る最後の教えみたいなもんだ……

 本当ならフィーの奴が成人してから伝えるつもりだったんだが、不甲斐ないことに不死者になって俺も身の振り方を考えている最中でね」

 

「真実を教えずにいればフィーは傷付かなかったと思いますが?」

 

「それでも……まあこれは俺の勝手なケジメって奴だ……

 しかし意外だな。ボースでやり合ったこともあるから仲違いしているかと思っていたが、どうやら仲良くしてくれているみたいだな」

 

「それは……」

 

 安堵するルトガーにリィンは言葉を濁す。

 ボースで戦った少年――女の子がフィーだったと最初の時点で気付いていなかったとは言えない。

 

「ところでそっちの女の子は……」

 

 話題を逸らすようにリィンは気になっていた少女に視線を送る。

 《西風》の試合ではミリアムと同じように戦術殻を操って戦っていた少女。

 

「ああ、こいつは《騎神》の武器だって渡されてな。お前には今更説明するまでもないだろ?」

 

 ルトガーの答えにリィンは顔をしかめる。

 

「フィーを捨てておいて、同じくらいの女の子を連れている……控えめに言って最低なダメ親父だと思いませんか?」

 

「ははは、違いない」

 

 リィンの皮肉にルトガーは笑って返す。その態度にリィンは嘆息して女の子に改めて向き直る。

 

「俺の名前はリィン・シュバルツァー。君の名前を教えてくれるか?」

 

「…………シオン」

 

 女の子は短く、あの子を彷彿とさせる短い言葉で名乗る。

 

「そうかシオンちゃんって言うのか。よろしくな」

 

 笑顔でリィンはシオンの頭に手を伸ばし――

 

「おいボン、シオンに何しようとしとる?」

 

「シュバルツァー。まさかシオンに手を出すつもりじゃないだろうな?」

 

 プレッシャーを掛けてくる二人にリィンはため息を呑み込み、ルトガーに視線を向ければ彼は呆れたように肩を竦めるのだった。

 

 

 

 

 クロワール・ド・カイエン。

 ラマ―ル州を治める公爵、帝国西部を支配する大貴族であり貴族派の実質的なリーダー。

 

「リィン・シュバルツァー君」

 

 宴も終盤に近付いた頃合いにクロワールはリィンを別室に呼び出し、ミルディーヌを背後に控えさせて対面する。

 

「率直に言わせてもらおう。私と手を組まないかね?」

 

「え……?」

 

「我々、貴族派が革新派と対立しているのは君の実父である《鉄血宰相》のせいだということは説明するまでもないだろう」

 

「っ……」

 

「宰相閣下のやり方はあまりにも理不尽だ……

 陛下からの信任をいいことに伝統と慣習を軽んじ、帝国の全てを意のままに造り変えんとする傲慢さ――

 彼に捨てられた君なら分かるのではないかね?」

 

「それは……」

 

「あまりに剛腕かつ強引、敵を作っても顧みないやり方。それが帝国解放戦線のような存在を生み出す諸悪の根源となっている……

 これ以上彼による被害を広げないためにも、君には是非貴族派に参加してもらいたい」

 

「御言葉ですが、俺を引き抜く理由には弱いと思います」

 

 リィンはギリアス・オズボーンの隠し子だった。

 その事実は既に隠蔽できない程に広まっている。

 そんな獅子身中の虫になりかねないリィンの存在はシュバルツァー男爵という貴族の身分を持っていてもおいそれと触れられない爆弾だった。

 

「君は自分の評価を正しく出来ていないようだな……

 もしも貴族派と革新派が争うことになった時、君という存在を獲得した陣営こそが勝者となる。それ程までに君と君の《騎神》の力は強大なのだよ」

 

「《騎神》の力を当てにしているのなら、申し訳ありませんがその話はお断りさせて頂きます」

 

「ふむ、何故かね?」

 

「《騎神》の力は閣下が仰った通り絶大です。だからこそ人同士の抗争に介入させるべきではないというのが自分の考えです」

 

「それは逆ではないのかね?

 この激動の時代に“大いなる力”を得た意味。私には“女神”が宰相閣下を倒すために君に力を与えたのではないかと考えているのだが」

 

「それは考え過ぎと言うものでしょう」

 

 いや、ある意味正解なのかもしれないと考えながらリィンはクロワールの言葉を否定する。

 

「君は君を捨てたオズボーン宰相を恨んでないのかね?

 私の目から見たら君達は対立しているように見えたのだが、私達が手を組むには十分な理由だと思うがね?」

 

「《鉄血宰相》と対立しているのは事実です。ですが、それと貴族派に組するかは話は別です……それに――」

 

「それに?」

 

「公爵閣下は先程オズボーン宰相こそが諸悪の根源だと仰っていましたが、果たして本当にそうなのですか?」

 

「君は違うと言うのかね?」

 

「俺は今日まで特別実習として帝国の各地や外国を巡って来ましたが、噂に聞いていた程のオズボーン宰相の悪事を耳にはしませんでした……

 むしろ貴族達の振る舞いの方が目に余ると感じたほどです」

 

「ふむ……」

 

 貴族を批判するリィンの言葉にも関わらず、クロワールは激昂することもなく、むしろ身内の放蕩者を思い浮かべ黙ってリィンの言葉を促す。

 

「貴族の立場をいいことに平民というだけで人を軽んじ貶める。世界は自分を中心に回っていると言わんばかりの傲慢さ――

 彼らの振る舞いが《鉄血宰相》を生み出したとしたのなら、例えここでオズボーン宰相を打倒したところで第二、第三の《鉄血宰相》が生まれるだけはないでしょうか?」

 

 皮肉にもクロワールが最初に発した誘い文句をアレンジした言葉にクロワールは閉口する。

 リィンの言葉に身内の放蕩者を浮かべてしまっただけに、クロワールは言い返す言葉を失う。

 しかし、その内心とは裏腹にクロワールの中でリィンの評価は上がる。

 

 ――あの狂犬たちとは違って扱い辛いが面白い……

 

 狂犬たちは簡単に自分の言葉を鵜吞みにして堕ちるところまで堕ちたが、確たる信念を持っているリィンを都合の良い鉄砲玉にはできないと、クロワールは早々にリィンを貴族派に引き入れることを諦める。

 しかし――

 

「気に入った」

 

「…………え?」

 

 ぽつりと呟いたクロワールの呟きにリィンは首を傾げる。

 

「リィン・シュバルツァー君。貴族派の引き抜きとは別に私の息子にならないかね?」

 

「は……?」

 

「叔父様?」

 

 突然のクロワールの言葉にリィンとミルディーヌは揃って疑問を浮かべる。

 

「君をこのままアルノールに渡すのは惜しい……

 このミルディーヌは私の兄の娘なのだが、どうかね?」

 

「ど、どうって……」

 

「叔父様っ!?」

 

 突然のクロワールの提案にミルディーヌは冷ややかな雰囲気をかなぐり捨てて狼狽えるのだった。

 

 

 

 






その頃のルーレ

アンゼリカ
「…………《C》、やはり生きていたのか」

《C》
「同志《V》――ここは私が時間を稼いでおこう。お前は先に飛行艇に乗るといい」

ヴァルカン
「チッ……分かったよ」

アンゼリカ
「《C》……いや、クロウ・アームブラスト。いい加減その仮面を取ったらどうだ!」

クリス
「えっ!?」

フィー
「クロウって、あの……?」

マキアス
「あの人はガレリア要塞で亡くなったはずじゃ」

エリオット
「………………」

《C》クロウ
「ククク……トワから聞いたのか? ちっ確実に殺しておくべきだったな」

アリサ
「本当にクロウ先輩……じゃああの死体は……」

クロウ
「死体はとある筋で偽装させてもらった。俺の本分は《C》――学院生クロウ・アームブラストはただの“フェイク”さ」

アンゼリカ
「ふざけるな! 私達と一緒に過ごした時間も! トワやジョルジュとの関係も! 全部偽物だと言うのか!?
 あの学院祭のステージも――嘘だったと本気で言っているのか!?」

クロウ
「ああ、その通りだ」

アンゼリカ
「っ――ならば本当は留年しそうだからとトワに泣きつき、個人授業を受けたことも嘘だったのか!?」

クロウ
「ああ、その…………ん……?」

アンゼリカ
「トワが貸した50ミラを持ち合わせがないと言って返さなかったこと、あまつさえ貧乏を理由にトワ手製のランチを強請って作ってもらったことも嘘だったのか!?」

クロウ
「………………」

アンゼリカ
「私に仔猫ちゃん達を取られ、モテたいと嘆いていたことも嘘だったと言うのか!?」

アリサ
「あ、アンゼリカ先輩……?」

シャーリィ
「あはははははっ!」

アンゼリカ
「答えろクロウッ!」

クロウ
「…………ああ、その通りだ」








閃Ⅳでいきなりウォレスがガイウスの兄弟子になっていたけど、バルクホルン繋がりでもちょっと無理がある設定だと思いました。

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