(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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111話 紺碧の海都Ⅹ

 

 

 

「みんな俺の後ろにっ!」

 

 試合開始の合図と同時に闘技場を埋め尽くした熱気にリィンは仲間たちに叫ぶ。

 

「え――?」

 

「はいはーい」

 

 エマが困惑して首を傾げるが、イオに促されて言われた通りリィンの背後に避難する。

 

「そら――まずは景気づけだっ!」

 

 そう叫んでマクバーンが放ったのは人を容易に呑み込み焼き尽くす巨大な火球。

 骨まで焼き尽くす劫炎の焔にリィンは“八耀”を抜いて捧げるように横に構える。

 光り輝く太刀を盾にして迫る火球を受け止め――

 

「――避けろよっ!」

 

 忠告を一つ入れてリィンは劫炎の焔を宿した太刀を唐竹割りに振り下ろす。

 焔の剣閃が闘技場を二分にするように一直線の斬痕を刻み付ける。

 

「いやいやいや……」

 

「すげえとは思っていたけど、あの焔をそのまま返すのかよ」

 

 挨拶代わりのお返しと言わんばかりの一撃を回避し、ナ―ディアとスウィンは絶句する。

 

「鏡火水月の太刀、話には聞いていたが君の必殺技まで返すとは恐れ入る」

 

 ルーファスもまた手加減された焔の剣閃の威力に冷や汗を禁じ得ない。

 

「おいおい勘違いしないでくれねえか。 あれは“ジリオンハザード”じゃねえ。今のは“ファイアボルト”だ」

 

「すーちゃん、すーちゃん。なーちゃんの耳がおかしくなったのかな? あり得ないことが聞こえてきたんだけどー」

 

「奇遇だな。俺も信じられない言葉を聞いた気がする」

 

 同じ導力魔法をナ―ディアもスウィンも使ったことはある。

 確かに使用者の精神力次第で威力が変わるのがアーツだが低位アーツが高位アーツの規模のようになるのはどんな術者であっても見たことはない。

 

「俺は剣術もそうだったが、焔に関しても勘で使っているもんが多くてな……

 試しにこの戦術オーブメントの術式でアーツって言うのを使ってみたら見ての通りだ」

 

 “ファイアボルト”を撃ったつもりで“ジリオンハザード”級の火球が出て来たのはマクバーンにとっても予想外であり、試し打ちした時は自分でも驚きあきれた物だ。

 

「では君の必殺技は……?」

 

「まだ試行錯誤中だな。安心しろ後ろからお前達を焼くヘマはしねえよ」

 

 “魔人化”する気もねえしな。

 そう付け加えられた言葉にチームメイトである三人は改めてマクバーンの力を実感する。

 敵となれば恐ろしい存在だが味方であるならば頼もしい。

 しかし、予めリィン達と交わしていた協定を考えると笑えない。

 

「ククク……レーヴェの阿呆は当然として、もう一人のチビも全然動じてねえな。これは退屈しないで済みそうだ」

 

 先程の“焔”の反応にするロランスチームの振る舞いを観察し、マクバーンは嬉しそうに頬を釣り上げる。

 

「あれ~なーちゃんいつの間に神話の世界に入ったんだろう~」

 

「改めてとんでもない人を暗殺しろって言われていたんだな俺達」

 

 リィンは当然として、他の二人もマクバーンの“ファイアボルト”に感心こそしても怖気づく様子はない。

 

「さて、いつまでも尻込みしていないでそろそろ始めようか。ナ―ディア君、どの作戦で行くかね?」

 

「んー、付け入る隙があるのはⅦ組のあの女の人だね……

 あの人はさっきの“焔”になーちゃんと同じように驚いていたし、まだ気持ちが立て直せてないからできるだけ早く倒して数の利を――」

 

 言葉の途中でロランスチームの方で動きがある。

 イオと名乗った少女がロランス達の輪から前に踏み出し、こちらに歩いて来る。

 彼女の身の丈を超える二つの曲刀を持った少女の戦闘スタイルはどういったものなのか。

 第一回戦ではリィンが無双してしまったため、情報収集ができなかったこともありナ―ディアは警戒心を強め――

 

「それじゃあ行くよっ!」

 

 闘技場の中央、大きく振り被った曲刀をイオは地面に叩きつける。

 それを中心に魔法陣が枝分かれするように広がる。

 

「この術式――エンシェントグリフッ!? 下から来るよ!」

 

 大した駆動もなかったが広がった魔法陣から高位アーツと判断してナ―ディアは警告を飛ばす。

 巨大な石柱を生み出し敵に叩きつけるアーツの起点は自分達の足元。

 次の瞬間、石柱が地面から隆起する衝撃に四人は宙に跳ね飛ばされた。

 

「くっ――これ程の規模のアーツを一瞬で駆動するとは恐れ入る」

 

 ルーファスは思わず言葉を漏らすが、そのアーツはそこで終わりではなかった。

 地面からせり出した石柱に、いくつもの魔法陣が浮かび上がると先程と同様に新たな石柱が隆起して彼らを襲う。

 

「しゃらくせいっ!」

 

 襲い掛かる石柱をマクバーンが焔で薙ぎ払う。

 しかし燃やされた石柱は崩れても、新たに増殖した石柱が彼らを呑み込んだ。

 普段競馬場として使われていた広大な空間に突如として現れた石柱群の山。

 

「…………へえ……」

 

 石に呑み込まれた時はまとめて周囲を吹き飛ばすかと考え、チームメイトのことを考えて自重したマクバーンは石の中から吐き出されたその空間に笑みを作る。

 観客席よりも少し高い位置の石柱群の頂上。

 広さは駆け回るには十分あり、下に向かって撃たない限り流れ弾の心配をする必要がないのは彼にとってありがたい配慮だった。

 

「で、お前さんが俺の相手か?」

 

 いつの間にかそこにいた小さな少女に向かってマクバーンは尋ねる。

 派手な見た目に反してほとんど痛痒を感じさせない脆い石柱攻撃の意図は分断。

 石柱群の山から下を見下ろせば、横に突き出した石柱が重なる不安定な足場の中腹にはスウィンとナ―ディアが《剣帝》と対峙し、山の下ではルーファスとリィンが対峙している。

 

「意外だな。俺とタイマンをするならシュバルツァーかレーヴェのどちらかだと思っていたが」

 

 チームの分断、各個撃破までは理解できる。

 だが自分の力を知っているあの二人のどちらでもないことは意外だった。

 もっともあの二人が送り出していること、足元の石柱の山を作り出したアーツのこと、それらから判断しても見た目通りの存在ではないことが目を凝らすまでもなく分かっている。

 

「あの二人はそのつもりだったけど、あたしがじゃんけんに割り込んで勝ったからね」

 

「おいおい、じゃんけんって……マジかよ」

 

 あの二人がじゃんけんをしている様と、そんな雑に対戦相手を決められたことにマクバーンは思わず喉を鳴らす。

 

「アタシの実力は今見てもらった通り、まあリィンやロランスには劣るけど不服かな?」

 

「いや……別に構わねよ」

 

 それなりにできるだろうが“アツく”なるには足りないだろうとイオを品定めしながら彼女の申し出をマクバーンは受ける。

 そもそもこの武術大会は“アツく”なるためではなく、“愉しむ”ために参加している。

 もしも彼女がつまらなければそれこそ、早々に脱落させて改めて下の二人と遊べば良いだけの事。

 

「まっ……いつまでも喋ってないでおっぱじめるとしようぜっ!」

 

「いいね、ドーンと言ってみようっ!」

 

 軽口を交わし合い、マクバーンは黒い剣を空間から抜き、イオは二つの曲刀を構える。

 

「執行者No.Ⅰ《劫炎》のマクバーン」

 

「二代目“大地の聖獣”イオ・イクルシア」

 

 その名乗りにマクバーンは虚を突かれるが、すぐに口元に笑みを作り――そして二人は激突した。

 

 

 

 

 

「《剣帝》……」

 

「久しぶりだなスリー」

 

 乱雑に詰まれた石柱の山の中腹でスウィンはナ―ディアと共にその男と対峙していた。

 

「すーちゃんの知り合い?」

 

「ああ……ずっと前に…………エースと組んでいた時の最後の任務でターゲットが競合した相手だ」

 

 強く緊張するスウィンは躊躇いながらもナ―ディアの疑問に答える。

 

「知り合いという程ではない。道ですれ違っただけのようなものだ……

 もっともお前達が“結社”に来る可能性もあったがな」

 

「え……?」

 

「それって?」

 

 《剣帝》の言葉に二人は疑問符を浮かべる。

 “組織”と“結社”の繋がりはない。

 故に脈絡のない《剣帝》の言葉を理解できないでいると、彼はそんな二人の様子に苦笑する。

 

「これはただの気まぐれだ」

 

 そう言って《剣帝》は背負っていた巨大な剣を構える。

 それは彼が使っている“ケルンバイター”ではなく、錆だらけのバスターソード。

 

「なっ――」

 

 それを目にした瞬間、スウィンは絶句する。

 

「何で……何であんたがその剣を……?」

 

「あの日、“エース”は“組織”の情報を手土産に“結社”に下るはずだった。俺は奴の横でその話を聞いていただけに過ぎない」

 

「っ――まさか……お兄ちゃんは――」

 

 突然語られた兄の存在にナ―ディアもまたスウィンと同じように言葉を失う。

 

「残念だが、奴が生きていたと言う事はない……

 俺がしたことはお前達が去って行った後、奴が事切れる瞬間に立ち会って最後の言葉を聞いただけだ。そしてこの剣は奴の墓標にしておいたものだ」

 

「墓標……お墓……」

 

 その言葉をナ―ディアは呟く。

 “組織”の実情を知ってから期待をしていなかったし、自分の末路もそれとは無縁だと思っていただけに兄の墓の存在に動揺する。

 

「すーちゃん……」

 

「……たぶん嘘じゃない。確かに俺はエースを殺したけど、あの時は無我夢中だったし、すぐにエンペラーが来たから……」

 

 吐き気を呑み込み、スウィンはその時のことを思い出す。

 点撃爆発でエースの半身を吹き飛ばしたことは流石に刺激が強過ぎると口を噤む。

 死体の確認は、あの損壊で生きていることはないと自分もエンペラーもしなかった。

 

「…………あなたがお兄ちゃんの最後を看取った人だって言うのは分かった……

 でも、貴方がこれ見よがしにお兄ちゃんの形見を持って来てなーちゃん達の前に立ち塞がる意味が分からないんだけど?」

 

「言っただろ気まぐれだと……俺自身もエースのことなど昨日まで忘れていたからな……

 それに最後の言葉ももはやお前達には意味もないだろう」

 

 思わせぶりな言葉を使う《剣帝》の真意を探ろうとナ―ディアは思考を回転させるが、早々に切り上げる。

 

「すーちゃん」

 

「ナ―ディア……」

 

 不安に振れているスウィンの声にナ―ディアは苦笑する。

 

「状況は良く分からないけど、お兄ちゃんの形見を取り返すのを手伝って。話はこの試合が終わった後」

 

「っ――ああ。背中は任せた」

 

「ふふん、初めての共同作業だねすーちゃん♪」

 

「――ってお前なぁ」

 

 気の抜ける言葉にスウィンは脱力しつつも気持ちを切り替える。

 そんなある意味で裏社会の人間らしくないやり取りをする二人に《剣帝》は目を細める。

 《結社》と大差ない《組織》という煉獄の中で奇蹟的に維持している人間性。

 その二人の姿を見ていると《剣帝》はもしもを考えずにはいられない。

 弟分の本質を見抜けなかったこと、子を捨てた親に勝手に見切りを付けて真実から目を逸らしたこと。

 クォーツの盤面しか見ていなかったのは自分だったのだと、全てが終わって痛感させられた。

 

「我ながら女々しいものだ」

 

 こんな回りくどいことをして理由を作らなけば遺言も、“組織”に関する情報も伝えられない不器用な自分に《剣帝》は自嘲する。

 それらの感情を呑み込み、《剣帝》は錆びた大剣を突き付ける。

 

「来い――《3と9》!」

 

 

 

 

「これはしてやられたかな」

 

 一瞬で積み上げられた石柱の山を見上げてルーファスは肩を竦める。

 ルーファスの位置からでは上の様子は分からないが、戦闘音に客席の戸惑いから一転した歓声にどの戦場も盛り上がっているのだと判断する。

 

「それにしても私の相手が君とは……この前の学院ではユーシス達の相手をしていて時間がなかったからユミルの時以来か」

 

「ええ、その節はお世話になりました」

 

 生真面目に頭を下げるリィンにルーファスは苦笑し、開始位置から動いていないエマを一瞥する。

 

「彼女は?」

 

「エマにはやってもらうことがあります」

 

 ルーファスの問いにリィンはそれだけ答える。

 

「それにしても派手にやってくれる。後で整地するスタッフのことを考えて欲しいものだね」

 

「こうでもしないと闘技場が火の海になりかねなかったですから大目に見てください」

 

 会話で探り合い、その間にもルーファスは後ろ手にアーツの駆動を試みるが、見透かされた眼差しに中断する。

 

「ふふ……」

 

「何がおかしいんですか?」

 

「失礼……こうやって勝つために試行錯誤するというのは思いの外面白くてね」

 

 地味な駆け引きさえも面白いとルーファスは笑う。

 

「ところでリィン君、君はマクバーンと約束を交わしていたね……

 互いに《異能》は使わない。ロランス君も含めて」

 

「ええ、ここが無人の荒野ならともかく俺達が本気でぶつかり合ったら余波だけで観客が危ないですから」

 

「結構……ならば“私”は出し惜しみなく使わせてもらうとしよう。《ARCUS》駆動――」

 

 これ見よがしにルーファスは戦術オーブメントを駆動してマスタークォーツに刻まれた術式を立ち上げる。

 

「“焔神招来”」

 

 戦術オーブメントから“黒い焔”が溢れてルーファスの身体に纏わりつく。

 

「っ――思っていたよりもきついが……なるほどこれが君の見ている“世界”ということか」

 

「無茶をしますね」

 

 術式として見れば火属性の補助アーツの“フォルテ”だろう。

 “黒焔の加護”は従来のものを超える恩恵をルーファスに与えている反面、彼自身を焼いているようにも見える。

 

「私は自分の身の程を弁えているつもりだ……

 こうでもしないと君との実力差を埋められない。だから彼の力を借りたまでだ」

 

「それでも――」

 

「これは私にとっての“試し”だよ。リィン君……

 この“力”に飲まれるか、それとも飲み干して“理”を掴むことができるのか。どうか付き合ってくれたまえ」

 

 普段と変わらないルーファスだが、そこにオーレリアのような武人の影を感じてリィンはため息を吐く。

 

「意外と熱い人だったんですね。ルーファスさん」

 

「はは、私も自分の意外な発見に日々驚いているよ」

 

 “黒焔”に焼かれながらも優雅さを崩さないルーファスにリィンは流石と褒めるべきか呆れるべきなのか悩む。

 

「さて、私達も闘いを始めよう……彼らばかり目立たせると父上から叱責を受けてしまうかもしれないからね」

 

「分かりました……」

 

 リィンは無駄だと割り切って太刀を抜く。

 

「ルーファスさんには悪いですが、その力は人の身に余るものです。なので出来るだけ早く終わらせます」

 

「ならば私はそれに諍ってみせるとしよう」

 

 

 







在りし日との邂逅 秘密組織の黒と白

レーヴェ
「…………何をしている?」

ワイスマン
「おやレーヴェ、実は先程競合した暗殺者と偶然出くわしてね。“結社”の就労条件を話していたのだよ」

レーヴェ
「就労条件……だと……?」

エース
「マジかよ。末端の下っ端に最新の機動兵器を支給って、それに任地への移動は高速艇を利用しても良いだと」

ワイスマン
「君が気にしている扶養家族手当については応相談と言ったところだが、何悪いようにはしないさ」

エース
「この執行者に与えられる自由って、どれくらいの自由なんだ?」

ワイスマン
「ふふ、その言葉通り彼らには盟主直々にあらゆる自由が約束されている……
 これは幹部である“使徒”にも覆すことはできない約定なのだよ」

エース
「本当かよ……」

ワイスマン
「信じ難いかもしれないが本当の事だ……
 証拠と言えるかは分からないが、“使徒”も相応の自由が許されていてね。中には帝国の劇団で副業をしている者もいるくらいだ」

エース
「いやいや裏世界の組織がバイトって吹かし過ぎだろ」

レーヴェ
「遺憾なことながら事実だ」

ワイスマン
「まあ君が執行者に至れるかの問題もあるが、末端の工作員にも現場での独自の判断を認めている……
 例え失敗しても挽回のチャンスも与える程に寛容で理不尽に首を切る“組織”ではない……
 去る者は追わず来る者は拒まずが“結社”の方針だからね……
 それに私の直属の工作員を長期任務に派遣したばかりでその穴埋めができる人材を探していたのだけど、気が乗らないというなら構わないさ」

エース
「っ……待って!」

ワイスマン
「おや? まだ何か?」

エース
「本当に家族を“組織”から護ってくれるんだろうな?」

ワイスマン
「それは君の働き次第だろう」

エース
「…………分かった。俺は転職するっ!」


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