(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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115話 紺碧の海都ⅩⅣ

 

 

 

「剣よっ!」

 

「風よっ!」

 

 竜巻に魔力で編まれた剣が踊り、蒼い巨鳥に殺到する。

 

「キュイイイイイッ!」

 

 美しい翼を傷付けられるものの巨鳥は負けじと傷付けられた翼を羽ばたかせて光の波動を放って剣と風を押し返す。

 

「エマ、俺の後ろに!」

 

 そう言いながら既にガイウスは光の波動からエマを庇う様に前に出て、エマもそんなガイウスに合わせて防御のアーツを駆動し、付与する。

 

「――隙ありだっ!」

 

 壁を駆け上がり、ラウラは重力の加速を合わせて大剣の一撃を見舞う。

 その一撃は根元から翼を断ち切り、巨鳥は悲鳴を上げる。

 

「たたみ掛けるよ、がーちゃん!」

 

 血の代わりに霊力を傷口から噴出する巨鳥をアガートラムが殴り倒す。

 

「今だよユーシスッ!」

 

「任せるが良い」

 

 音を立てて横倒しになった巨鳥にユーシスは練り上げた氷の闘気を解放する。

 翼を再生しようとさせる巨鳥が氷で包み込み、その動きを止める。

 

「《ARCUS》の霊的リンクを強化します! 皆さん止めを!」

 

 ガイウスとの戦術リンクを切り、エマが二つのリンクの強化に徹する。

 戦術リンクの感応を意図的に最大にし、ラウラとガイウスが、ユーシスとミリアムが渾身の力を込めた必殺の連撃を折り重ねるように繰り出す。

 その隙間のない波状攻撃に巨鳥は耐え切れず、膨らませた風船が破裂するように光を伴い爆発した。

 

「ピュイ」

 

 巨鳥は消え失せ、小さな蒼い鳥は一度エマ達の上を旋回すると、どこかへ飛び立っていってしまった。

 

「まさかあのような魔獣まで現れるとはな」 

 

 難敵を退け、ガイウスは残心を解いて息を吐く。

 

「ノルドでもそうだったけど、上位三属性が働く場所だとああいう大きな魔獣が育つのかな?」

 

「……ええ、そうですね」

 

 感想を呟くミリアムにエマは目を逸らしながら頷く。

 

「気を抜くのには早いぞ。各自治癒や応急処置を済ませたらすぐに行くぞ」

 

 ユーシスの指摘に一同は緩みかけた意識を引き締める。

 まさにボスとも呼べる巨大な敵だったが、本命は“降魔の笛”で異変を起こしている帝国解放戦線。

 むしろここからが本番だと改めて気を引き締めて、ラウラが気付く。

 

「待ってくれみんな」

 

「どうかしましたかラウラさん?」

 

 ラウラは目を瞑り、聴覚に集中する。

 それに合わせ、上位三属性の場であり発現している獣の耳が動いて音を聞く。

 

「やはり笛の音が消えている」

 

「む……言われてみれば、戦いに集中していて気付かなかったがいつのまに?」

 

 確かめるようにガイウスも耳を澄ませて探るが、ずっと聞こえていた禍々しい音色は消えていた。

 

「それに――」

 

 スンっとラウラは鼻を鳴らす。

 

「この先から血の臭いが漂って来る……どういうことだ?」

 

「ボクたち以外でも誰かが動いてるってことかな?」

 

「……分からん。間に合わなかったのか、それとも……上で戦っているリィン達が負けたとは思えないが……急いだ方が良いだろう」

 

 与えられた任務をこなせなかったという不安にユーシスは顔を歪め、それでも状況把握のために一同を促す。

 大敵との事後処理を手早く済ませて、一同は地下道を進む。

 辿り着いた最奥。

 そこは先程蒼い巨鳥と戦った広間と同じくらいの広さの空間だった。

 中央には黄金の焔が溢れるように燃え盛っている宝珠。

 そしてその前には倒れている《S》と帝国解放戦線のメンバー、そして呆然と立ち尽くす女の子。

 彼女たちと対峙しているのは帽子を深く被った女性だった。

 

「…………まさか私達を裏切ると言うの?」

 

「勘違いしないでくれるかしら? 私は最初から貴女達の味方になったつもりはないわ……

 私は“彼”と契約をしていただけ、その契約も勝手に破棄してくれて、私はこれでも怒っているのよ」

 

 導力銃を《S》の額に突きつけ、ヴィータは言葉とは裏腹に微笑む。

 味方を装って近付き、《S》とその仲間たちを背後から銃撃して無効化したとは思えない程にその笑みは穏やかだった。

 

「そんなことは今はどうでも良いの。それよりアルベリヒはどこ?」

 

「アルベリヒ……さあ、何処だったかしら? 詳しくは聞いてないけど――がっ!?」

 

 会話に応えながら、落とした《降魔の笛》ではなく腰に差した法剣にゆっくりと手を伸ばす《S》は至近距離から肩を撃ち抜かれた。

 

「まあ良いわ。元々貴女達に期待なんてしていなかったから」

 

 更にヴィータは《S》の仲間たちの手足を撃ち抜く。

 その都度、悲鳴が上がるがヴィータは無視して導力銃のバッテリーを交換して女の子と向き合う。

 この状況において不気味な程、無反応な女の子にヴィータは銃口を突きつけ、穏やかな笑みを歪める。

 

「…………ごめんなさい。どうか安らかに」

 

 多くの言葉が脳裏に過ったものの、グリアノスの足止めを突破した彼女たちが近付いていることもありヴィータはそれだけを言って引き金を――

 

「にゃあっ!」

 

「っ――」

 

 跳びかかった白猫の爪に引っかかれ、導力銃から撃たれた弾丸は地下広場の天井を穿つ。

 

「姉さんっ!」

 

 そのタイミングでエマ達は広場に突入する。

 そして転移術で呼び出し先行させていたキリシャの目を使って見て姉の凶行を止めるべく、エマはアーツを放つ。

 

「くっ――」

 

 ヴィータは後ろに跳び退きながら、銃を連射する。

 

「フシャアアアアアアアッ!」

 

 女の子を狙った凶弾はキリシャが張った障壁に弾かれる。

 

「ちっ――」

 

 思わず舌打ちしたヴィータの前にエマは立ち塞がり導力杖を構える。

 

「姉さん……貴女はたった今、自分が何をしようとしたのか分かっているの!?」

 

 義理の姉の蛮行を咎めるようにエマは叫ぶ。

 

「どきなさい。その子は殺しておかないといけないのよ」

 

 グリアノスが足止めした広間から、予想以上の早さで辿り着いた義妹の成長にヴィータは感心しながら、冷えた言葉を投げかける。

 

「姉さん……」

 

 先日の再会では気付かなかった姉の変わりようにエマは沈痛な面持ちになる。

 

「ふむ……この者がエマの姉君なのか、聞いていた人物像とは随分違うが……」

 

 遅れてエマの横に並び、ヴィータと相対したラウラは想像していた印象と異なるヴィータに首を傾げる。

 

「姉さん、いえ……背信者ヴィータ・クロチルダ……魔女として私は貴女を止めますっ!」

 

 こんな場所にいるのだから彼女が普通の女の子ではないことはエマも察している。

 だが、それを差し引いても幼子さえ手に掛けようとする義理の姉を止める決意をしてエマが宣言する。

 

「う゛ぃーた……えま……」

 

「もう大丈夫ですよ。貴女は私が――」

 

「ダメッ! エマ!」

 

 女の子に振り返ろうとしたエマにヴィータの叫びが飛ぶ。

 しかし、そんなものにエマの動きを止める力はなく、妙に焦ったヴィータの声を不思議に感じながらエマは振り返って女の子の顔を見た。

 

「…………え?」

 

 無感情な目で自分を見上げる女の子と面識はないはず。

 なのにエマが感じたのは懐かしさだった。

 

「う゛ぃーた……えま……う゛ぃーた……えま……う゛ぃーた……えま……」

 

 うわ言のように女の子は二人の名前をたどたどしく繰り返し、徐に足元の白猫を見下ろして呟く。

 

「あなたが……せりーぬ?」

 

「……え?」

 

 ここにはいない、闘技場の監視に務めているはずの使い魔の名がその口から出て来てエマは困惑し、エマ以上にヴィータが驚く。

 

「お師様……?」

 

「え……?」

 

 そして驚きの余り漏らしてしまった言葉にエマは耳を疑った。

 

「貴女は……」

 

 思わず尋ねるが、女の子はおもむろにエマに背中を向け、黄金の焔が燃え盛る宝珠を見上げる。

 その宝珠が音を立てて砕けると、何かを解放するようにその地下の広間に風が吹き荒れる。

 

「儀式の見届けを確認、これより帰投します。アロンダイト」

 

 機械的な呟きが女の子の口から流れ、手をかざすと少女の背後に蒼い戦術殻が現れる。

 

「くっ――」

 

 ヴィータはⅦ組一同がその光景に目を奪われている間に横に回り込んで女の子を銃撃する。

 

「姉さんっ!?」

 

 エマが叫ぶが銃弾は戦術殻が張ったバリアに受け止められる。

 女の子は戦術殻の腕に跳び乗り、踵を返して――そこでエマは振り返った。

 じっと無言で見つめてくる女の子の顔にエマはやはり奇妙な感覚に襲われる。

 

「貴女は……貴女は……」

 

「エマやめさない!」

 

 ヴィータの叫びがエマを止めるが、それを無視してエマは女の子に尋ねていた。

 

「貴女は……誰……?」

 

「わたしは《OZ80》イソラ・ミルスティン……」

 

「っ!?」

 

「エマ、ヴィータ……次に会う時は私を殺しなさい」

 

 そう言い残してイソラは姿を消した。

 

「イソラ・ミルスティン……姉さん! これはどういうことっ!?」

 

 激昂するエマにヴィータは肩を竦め、蒼い羽を取り出した。

 

「そんなの私の方が聞きたいくらいよ。今見たことは忘れなさい。それが貴女のためよ」

 

「姉さんっ!?」

 

 止める間もなく、羽に宿った魔力を使って転移術を起動したヴィータはその場から消える。

 

「エマ……」

 

 後に残ったのは事情を全く理解できずに途方に暮れるしかないⅦ組と、撃たれて呻く帝国解放戦線の者達。

 そして――

 

「そこまでだテロリスト共っ!」

 

 気まずい空気を破って現れたのは兵を自ら率いてやってきたカイエン公爵だった。

 

 

 

 

 

 激しい闘争の想念の渦から《金の起動者》が選定される。

 250年前からの《銀》に、この時代で初めて選定された《黒》。

 そしてこの数年で《蒼》《灰》《紫》が続き、ここに《金》まで揃った。

 《緋》の選定はまだだが、既に条件は整った。

 眠りにつくことおよそ千年。

 《黄昏》を“鋼の至宝”の復活を阻止するために、人を捨てたその存在は役目を果たすために海の中から浮上する。

 それは巨大な球体。

 海から浮上したそれは当たり前のように空に浮かび上がる。

 

「何だ……あれは?」

 

 《金》の起動者は達成感に浸る間もなく現れたその存在に困惑する。

 そして、その球体の内側から殻を破る様に鋼鉄の腕が出て来た。

 その球体はまさしく卵だった。

 球体から突き出た腕は殻を破るように広げられ、それは産声を上げる。

 

「おいおい、こりゃたまげたな」

 

 ルトガーはその巨大さに思わずため息を吐く。

 卵から這い出た“ソレ”は海の中に立つ。

 沖合にも関わらず、平然とたたずむ巨人の姿に、儀式が終わり正気を取り戻した市民たちは至る所で悲鳴を上げる。

 

「あれは……魔煌兵なのか?」

 

 それを見上げたリィンは目を疑いながら呟く。

 大きさにしておよそ百アージュに届く超大型魔煌兵。

 幻想移動要塞《トゥアハ=デ=ダナーン》から生み出された、千年の月日を費やして生まれた魔煌兵が《黄昏》を阻止するために動き出した。

 

 

 

 




なぜなにゼムリア

ノイ
「ねえねえリン、《トゥアハ=デ=ダナーン》ってあの閃の軌跡Ⅳの最後で出て来た機動要塞のことだよね?」

リン
「ええ、ここではアルベリヒが回収する前の移動要塞となっていますが」

ノイ
「つまり、どういうこと?」

リン
「作者はいきなりできて来た機動要塞に何ができたのかと首を傾げたので、いろいろな来歴を考えたみたいです」

ノイ
「うんうん」

リン
「ここでの《トゥアハ=デ=ダナーン》はいわゆる魔煌兵を作り出す製造工場です……
 《黒》もしくは《鋼》に対抗するべく“最後の地精”がおよそ千年の時間を掛けて精霊回廊や地脈を移動して霊力を蓄えた最高の魔煌兵を作ることを目的とした施設です」

ノイ
「おおー、なんかすごそうなの」

リン
「貯えている霊力という点では騎神に引けを取ることはないでしょう……
 ちなみに大戦のおりに現れる野良魔煌兵は《トゥアハ=デ=ダナーン》の情報収集用の端末でもあり、騎神のデータをそこから取り込んで常にリファインしています……
 簡単に例えるならDBのセルですね」

ノイ
「セル? 何それ?」

リン
「気にしないで下さい……
 原作では《トゥアハ=デ=ダナーン》は目覚める前にアルベリヒに発見、鹵獲されました……
 しかし“最後の地精”はそんな時のために自己崩壊プログラムを用意しており本体は消滅。アルベリヒは仕方がなく外側の殻の部分を機動要塞に改造したことになります」

ノイ
「ねえねえリン、“最後の地精”って何? それってアルベリヒのことじゃないの?」

リン
「正確に言うと“最後の善き地精”です……
 暗黒竜の事変の時まで魔女と友好な関係を築いていた一派になり、彼らからするとアルベリヒは一族の裏切り者、《黒の眷属》になります」

ノイ
「むぅ……でも“大地の眷属”なんだよね?」

リン
「地精の中でもちゃんとローゼリア達のように反省し、共生を考える人たちがいたということです……
 ですが残念なことに彼らは自分の黒の右腕の地位を奪われることを畏れ、アルベリヒが暗黒竜事変の際に彼らを間引きしました」

ノイ
「やっぱり大地の眷属って最低」

リン
「彼らはもちろん対抗しましたが、《黒》の因果律の操作の前に一人、また一人と散って行きました」

ノイ
「それでどうなったの?」

リン
「当時の“大地の長”は仲間の最後を看取った頃には不死者になっており、アルベリヒの予備となるように迫られましたがそれを拒否……
 彼女は自身で自分を魔煌兵に封印することで《黒》の支配から逃れ、千年後に起きる《黄昏》に“大地の眷属の末裔”としての責任を取って戦うために眠りに着きました……
 ちなみに封印した場所はノルドの石切り場、後に言い伝えに残された“悪しき精霊”とは蜘蛛のことではなく“彼女”のことになります」

ノイ
「そうつながるんだ」

リン
「そして“悪しき精霊”の伝説を作ったのはアルベリヒです」

ノイ
「やっぱりアルベリヒって最低」

リン
「ちなみに《トゥアハ=デ=ダナーン》というのは元々はケルト神話で語られる神の一族、女神ダヌ(ダーナ)を母神とする神族のことを指すそうですね」

ノイ
「んん? それってどういうこと?」

リン
「つまりはそう言うことです」

ノイ
「???」

リン
「長々と語りましたが今回の“なぜなにゼムリア”のコーナーはここまでとなります。機会があればまた何処かで」

ノイ
「ばいばーい!」


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