(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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今年最後の投稿になります。
長くなりましたが、これをもってオルディス編は終了となります。

今年一年お付き合いいただきありがとうございました。
また来年もよろしくお願いします。

それからいつも誤字が多く申し訳ありません。

皆さん、よいお年を。






119話 火焔魔人

 

 

 

「やめろマクバーン! それ以上はルーファスさんと機体が持たないぞっ!」

 

「はっ、知ったことか!」

 

 リィンの叫びを無視して《金》は右腕と一体化した剣を振る。

 何もかも焼き尽くす黒焔は白刃に受け止められる。

 

「は――」

 

 たった一合、剣を交えた。

 それだけで感じる高揚にマクバーンは笑みをこぼす。

 大型魔煌兵も良い感じだったが、それを超えた闘争の予感に胸が“アツく”なる。

 

「マクバーン……」

 

 惜しむらくは当のリィンがやる気になっていないこと。

 故にやる気を出させるためにマクバーンは言葉を作る。

 

「《幻焔計画》もルーファスの命も知ったことか」

 

「なっ!?」

 

 絶句するリィンに構わずマクバーンは続ける。

 

「俺が誰か忘れたのかリィン・シュバルツァー?

 俺は《身喰らう蛇》の執行者。No.Ⅰ《劫炎》のマクバーンだっ!」

 

「あ……」

 

 名乗りを上げるマクバーンにリィンは気押されながらも、彼が誰だったのか思い出す。

 

「そう……だな……」

 

 近頃“結社”と近付き過ぎていたせいで忘れていた事実を再認識する。

 いくら他の執行者と違って良識的でも同じ穴の狢。

 マクバーンも自分の目的のためなら他人を平気で殺せる“外道”の一人であることは変わりはない。

 

「リィン……?」

 

「大丈夫だ、イオさん……それよりも――」

 

 同乗しているイオにあることを頼み、リィンは《金》と向き直る。

 

「そうだ……それで良いっ!」

 

「っ――」

 

 襲い掛かる《金》に《灰》は白刃で応戦する。

 

「マクバーンッ! どうしてもここで戦わないといけないのか!?」

 

「盟主は《黄昏》で俺の望みは叶うって預言してくれたが、それに何の意味がある!?

 そんな不確かな未来なんて知るか! ようやくだ! 五十年待って、それが今目の前にあるんだよ!」

 

 《金》を通して作り出される焔はマクバーンの意気に呼応してより激しく燃え盛り、ついにはその装甲を粟立たせ溶解を始める。

 再び陥った過負荷状態にも関わらず動かされ、《金》は剣を振るう度に装甲が剥落していく姿は痛々しい。

 そしてその反面、胸を中心に広がるマクバーンの浸食はその範囲を広げていく。

 それに《識》の目で見れば、ルーファスの気が刻一刻と擦り減って行く。

 

「っ――」

 

 その事実にリィンは歯噛みする。

 

「まだやる気が足りねえならこれでどうだっ!」

 

 剣では埒が明かないと《金》は《灰》から距離を取り、右腕の剣を掲げる。

 刀身が二又に開いて焔が立ち昇り、その切先の上で火球が生み出される。

 

「…………何のつもりだ?」

 

 ジリオンハザードは通じないことは分かっているはずなのに、これ見よがしに火球を作り出したマクバーンをリィンは訝しむ。

 しかし、その答えはすぐに理解することになる。

 火球は際限なく膨れ上がり、騎神を――果ては先程の大型魔煌兵を呑み込むほどに巨大化する。

 そしてマクバーンが利用しているのは自分の焔だけではない。

 大量の魔煌兵が霧散して拡散したはずの霊力さえも取り込んで火球の糧にして自身の力以上の火球を生み出している。

 

「外気功……」

 

 それは奇しくもリィンが今回の実習でラウラに教えた技でもある。

 

「はっ――顔は見えねえがその様子だと正解みたいだな」

 

 マクバーンが考えた“鏡火水月の太刀”への答えの一つ。

 それは至ってシンプルにリィンが吸収し切れない規模と威力によるゴリ押し。

 その答えは正しく、リィンはこの火球は“鏡火水月の太刀”では返せないと判断する。

 そして《灰》の背後にはオルディスがある。

 

「マクバーン……お前はここで倒す」

 

「殺すって言えよ……まあその殺気は悪くねえ……戦いはこうでなくちゃな」

 

 向けられた殺気にマクバーンは気を良くする。

 軋む《金》の身体の脆さにマクバーンは不満を感じながら、それでも生涯初めての規模の“焔”を振り被る。

 

「ジリオンハザードッ!」

 

 劫炎の極技。

 術式によって密度と規模を共に強化した灼熱の火球が《灰》に投げつけられる。

 

「――八葉一刀流」

 

 《灰》の背後にはオルディスの街。

 逃げる選択肢はなく、喰らえばリンの加護の上からでも焼き尽くされる究極の焔を前にリィンは心を落ち着かせ、ただ無心になって太刀を振る。

 

「――八葉一閃」

 

 火球と剣閃。

 二つの極技がぶつかり合い、鬩ぎ合い、拮抗する。

 

「オオオオオオオオッ!」

 

 その拮抗する力の中にリィンは《灰》を突撃させる。

 

『な、何を――!?』

 

 《灰》の驚く声を無視してリィンは拮抗する剣閃に二の太刀をなぞる様に放つ。

 拮抗が崩れ、剣閃が押し勝ち《金》を呑み込む。

 もっともジリオンハザードによって威力の大部分を失っていた剣閃は《金》を両断するには至っていない。

 だが、それはリィンが求めたものでもある。

 

「っ――リィン・シュバルツァーッ!」

 

 全身を溶解させながらも《金》は戦意を損なわず叫ぶ。

 リィンはそれに応えず崩れた《金》の頭を掴んで背後に叫ぶ。

 

「イオさんっ!」

 

「まってましたっ!」

 

 騎神の操縦席の後ろで“八耀”を構えたイオが応え、祝詞を上げる。

 

「彼は我、我は彼……なれど汝は我等に非ず……」

 

「っ――テメエ何を――」

 

「七の聖獣の加護をここに! 悪しき“焔”を封じる“檻”となれ」

 

 《金》に触れた手にリィンは手応えを感じて掴み、引き抜く。

 

「オオオオオオオオオオオオオオッ……!!」

 

「顕現せよ! “大地の檻”!!」

 

 マクバーンの悲鳴にイオの詠唱が重なり“聖獣”から引き継いだ秘術を起動する。

 《灰》が掴んだ“焔”に黄金の縛鎖が絡みつく。

 しかし“焔”は猛り狂い、戒めの鎖を拒むように燃え盛る。

 

「ぐっ――」

 

 《灰》は太刀と《金》から手を放し、両手を使ってその“焔”を抑え込む。

 “焔”と“聖獣の気”が鬩ぎ合い。

 そして――そこに《黒》の瘴気が混じる。

 

「ガアアアアアアアッ!」

 

 未来永劫封じられる予感に“彼”は藁に縋る様に手を伸ばし、まるで導かれたようにその“存在”を掴む。

 

「何だっ!?」

 

 騎神を通じて胸に感じた違和感にリィンは声を上げる。

 だが、それが何なのか考える間もなく全身に痛みが走り――《灰》の胸にゼムリアストーンの結晶が増殖し激しい光を輝かせる。

 

「あああああああああああっ!」

 

 悲鳴を上げるリィンを他所に、それは《灰》の中から溢れ出した緋色の結晶が手の中の“焔”の呑み込み――人型を作る。

 それは竜を象った“緋色の騎士”。

 元の騎士の姿に竜の翼と尾を持って新生した怪物――《緋の騎神》テスタ=ロッサが“異界の焔”と“大地の檻”を取り込み、ここに復活した。

 

 

 

 

「…………」

 

 マクバーンは己の腕となった緋い鋼の腕を呆然と見下ろした。

 確かめるように手指を動かせば、その意思に応じて見慣れない腕が動く。

 念じればいつものように焔が現れる。

 だが、それはこの世の《理》から外れた焔ではない。

 

「は……はは……」

 

 胸の奥、《灰》から複製した加速器が炉心となって、顕現させる焔をこの世界に適応させる。

 掌の上で燃え盛る焔はどれだけ勢いを増しても周囲の空間を歪ませない。

 そして、己の焔に耐えられる“器”。

 

 ――タタカエ――

 

 耳元で囁く声に背中を押されたわけではない。

 

「恐怖なんて感じたのはいつ以来だろうな……」

 

 以前に《影の箱庭》で“鋼の聖女”と戦った時でも感じなかった感情にマクバーンは苦笑する。

 何の“因果”か、本来ならマクバーンを受け入れるはずがない《緋の騎神》。

 元々“暗黒竜”の力を与えられ、更に“大地の檻”で強化されたその《器》は《金》のような頼りなさはない。

 

「ククク……ハハハッ! 感謝するぜ女神様よっ!」

 

 自分の全力を出せる。

 そう確信できる手応えにマクバーンは堪え切れず哄笑する。

 そしてその全力をぶつけられる相手が目の前にいることにマクバーンはらしくもなく女神に感謝する。

 

「さあ! シュバルツァーッ! 第二ラウンドだっ!」

 

 そう意気込み、挨拶代わりのファイアボルドを放とうとした《緋》に《灰》は両手を上げていた。

 

「あん?」

 

 降参のジェスチャーにマクバーンは顔をしかめる。

 

「おい……萎える様な事してんじゃねえよ」

 

 出鼻をくじかれた《緋》は右手に溜めた焔を放つのをやめて文句をつける。

 

「どうせ言ってもやめるつもりはないんだろ?

 戦うのは良い、だけどせめて場所を移させてくれ」

 

「あー」

 

 無防備をさらして交渉して来る《灰》に《緋》は彼の背後の街を伺い見る。

 先程までは《金》とルーファスの限界もあり無視したが、器を《緋》に変えたことでその制限はなくなった。

 確かに気は逸っているが、その程度の自制が効かない程切羽詰まっているわけではない。

 むしろその提案はマクバーンにとってはありがたい申し出でもある。

 

「そうだな。だが、どこでやる?」

 

「この先にブリオニア島という島があります……

 あそこには二年後の相克のため、騎神を戦わせるための霊窟がある。そこでなら俺達が全力で戦っても大丈夫なはずです……たぶん……」

 

 少し自信がなさそうにリィンは最後の言葉を付け加える。

 

「は、それで良いぜ。ここでやり合うよりかはマシだろ」

 

 特に異を唱えることなくマクバーンはそれに同意する。

 リィンは安堵の息を吐き、上げた両手を降ろして次の提案を同乗者にする。

 

「イオさん、ルーファスさんのことを頼めますか? 先に戻ってエマ達に事情の説明も」

 

 海に浮かぶ無惨な姿の《金》を見下ろして頼む。

 

「それは良いけど、大丈夫なの?」

 

「…………何とかしてみます」

 

 諦観の念を滲ませるリィンにイオは思わず同情するのだった。

 

 

 

 

 

 ブリオニア島、陽霊窟。

 それは今から二年後の《黄昏》のために地精が用意した人工の霊場。

 “相克”における熱を効率よく留め、騎神同士の融合を補助するための錬金の釜。

 五分程前、本来の目的を前倒しするように二体の騎神が霊窟に入り、陽霊窟は二年早くその役割を果たすために――

 次の瞬間、内側から膨れ上がる二つの焔に陽霊窟は消滅した。

 舞台を霊窟から外に変え、二体の騎神は霊窟の消滅を意に介さず、戦闘を続行する。

 

「オラオラオラオラッ!」

 

 無数の火球が空に撃ち上がる。

 大空を舞う《灰》はその隙間を縫うように飛び、速度を緩めることなく《緋》に接近して太刀を一閃する。

 その一閃は《緋》の胸に小さな斬痕を刻む。

 

「ちっ――」

 

「ちっ――」

 

 互いに舌打ちをして《緋》はそれ以上の追撃を拒むように焔の壁を《灰》の間に作り出して放つ。

 押し寄せる全てを焼き尽くす焔の壁に《灰》は焦ることなく手を前に翳す。

 光の翼が黄金に輝き、《灰》の前に障壁が展開する。

 《灰》が焔の壁を受け止めている隙に《緋》は距離を取って、火球の再装填を行う。

 しかし、その背後から《灰》の分け身が二体、隠形を解いて襲い掛かる。

 

「はっ――」

 

 尾を一閃、二つの分け身は纏めて両断される。

 《緋》はまだ壁の余波にその場から動けない《灰》に向かって火球を放つ。

 壁で相殺した《灰》はその向こうから降り注ぐ火球の弾幕に後退しつつも、難なく回避する。

 

「くそっ――ファイアボルドじゃ遅過ぎるか」

 

 思わず《緋》は悪態を吐く。

 火力に反して《緋》の攻撃は《灰》を捉えることはできない。

 敵が相手の攻撃を棒立ちで受けるわけないので当然なのだが、かすりもしない火球の弾幕に《緋》は焦れる。

 

「かと言って半端に範囲を広げた攻撃は返される。つくづく俺と相性が悪い奴だな」

 

 攻撃を振り切る速度にエネルギー攻撃の反射技を持つ《灰》に迂闊な攻撃をすれば手痛い反撃を喰らう。

 しかし悪態を吐くが、彼の声は愉しさに満ちていた。

 

「どうやって当てるか…………ん?」

 

 いっそう手にした火球を極限まで圧縮してカウンターで叩きつけてやろうかと考えた彼の思考にノイズが走る。

 掌の火球は彼の意志に反して、凝縮されその姿を変える。

 武器で言う所の戦輪――チャクラム。またの名を円月輪。

 

「これを使えってか?」

 

 投擲する武器。それがせいぜい彼に分かること。

 機体に促されるままに《緋》は円月輪を――否焔月輪を投擲する。

 焔の戦輪は大気を斬り裂き、火球と比べものにならない速度で《灰》を捉える。

 

「っ――」

 

 咄嗟に盾にした太刀と回転する焔月輪が激しい火花を散らし、《灰》をその体ごと大きく弾く。

 

「ははっ! 良いじゃねえか! 気に入ったぜ“テスタ=ロッサ”!」

 

 その結果に気分を良くした《緋》は両手に合わせて六つの焔月輪を作り出し、射出する。

 弧を描いて《灰》に殺到する。

 先程まで余裕をもって回避していた《灰》は火球と比べものにならない速度で飛来し、更には追尾して来る焔月輪を必死で回避する。

 

「くそっ――“テスタ=ロッサ”め、変な芸を教えて――」

 

 《灰の起動者》は突然変わった戦術の原因に思わず悪態を吐く。

 

「――捕まえたぜっ!」

 

 焔月輪を焔を纏った刃で両断した《灰》の目の前に拳を振り上げた《緋》が迫る。

 腕を一回り大きくした《緋》は太刀を盾にする《灰》にそのまま拳を振り抜き――打撃の瞬間、篭手に仕込まれた鉄杭が炸裂して太刀を砕き、さらに《灰》の胸を穿つ。

 

「ちっ――浅いか」

 

 《緋》は篭手を投げ捨て、パイルバンカーの衝撃以上に飛ぶ《灰》に追撃するべく両腕を頭上に掲げる、

 生み出された火球は瞬く間に巨大化する。

 

「ジリオンハザードッ!」

 

 太刀を失い、体勢を崩している《灰》に“鏡火水月”はないと判断し《緋》は必殺を繰り出す。

 それに対して《灰》は太刀を修復させずに折れた太刀を投げ捨て、虚空に向かって手を伸ばす。

 

「来いっ!」

 

 声と共に現れたのは“紅い剣”。

 

「鏡火水月の太刀――」

 

 《灰》は身の丈を遥かに超える火球を剣の一閃で両断し、霧散する力を己の剣に乗せる。

 

「――鳳凰烈波っ!」

 

 更には全身に焔を纏って突撃する。

 

「っ――」

 

 《緋》はその手にバスターグレイブを生み出し、正面から灼熱砲でそれを迎撃する。

 

「オオオオオオオオオオッ!」

 

「ハアアアアアアアアアッ!」

 

 二つの焔がぶつかり合い、その勝敗は《灰》に傾く。

 灼熱砲を斬り裂き、鳳凰の羽ばたきは《緋》の半身を削り取る。

 

「は――はは、クハハハッ!」

 

 一体化している彼にその痛みはダイレクトに伝わっているにも関わらず、その哄笑には痛痒を感じない。

 

「良いぜ。シュバルツァー! もっとだ! もっと俺を“アツく”させろ!」

 

 削り取られた腕の切断面からゼムリアストーンの結晶が増殖する。

 無秩序に折り重なって生えた結晶は音を立てて砕け散ると、そこには損傷を修復した《緋》の姿があった。

 

「ちっ――なんて理不尽な……」

 

『…………』

 

 思わずリィンは悪態を吐く。《灰》は意味深な沈黙を保つ。

 

「こうなったら再生する間も与えずに――」

 

 方針を決め、彼が気持ちを切り替えたその瞬間、唐突に《灰》の内部で小さな爆発が起きる。

 

「何だ!?」

 

 急速に落ちる出力にリィンは戸惑い、見えない攻撃を警戒したが原因はすぐに分かる。

 試験的にExオーブとして設置した加速・増幅器が過負荷に耐え切れず暴発。

 

「っ――」

 

 そしてそれを契機にこれまでに蓄積した疲労と負担が一気に噴き出し、リィンの意識が朦朧となる。

 

「隙ありだぜっ!」

 

 突然動かなくなった《灰》を殴り、《緋》はそこで《灰》の突然の不調に気付く。

 ブリオニア島に墜落する《灰》を追って島に着陸した《緋》は焼け焦げた剥き出しの加速器と急速に小さくなっていくリィンの闘気を見て原因を悟る。

 

「ま、ここまで良く持った方か」

 

 途中で《緋》に乗り換えたからマクバーンに余裕はまだあったが、《金》ではそれが原因で堕ちそうになっていただけに他人事ではない。

 

「だがま、運が悪かったと思ってくれよ」

 

 《緋》はその手に黒い剣“アングバール”を生み出し、膝を着く《灰》に悠然と近付いて行く。

 

「あと一歩……あと一歩で全てを取り戻せるんだ」

 

 封じられる恐怖に白熱した戦い。

 その感情は大きくマクバーンを揺さぶり、失われた記憶を感化させていた。

 少々戦いに夢中になり過ぎていたが、あと一歩で全てを取り戻せる予感にマクバーンはここで剣を納める気は起きなかった。

 

「愉しかったぜシュバルツァー。ありがとよ」

 

 長々とした口上は苦手だと、マクバーンは言い訳をして黒焔を纏った剣を振り下ろし――

 膝を着いたままの《灰》が振り下ろされた刃を両手で――白羽取りで受け止める。

 

「おいおい、往生際が――」

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 達成感で記憶を取り戻すはずだったのに水を差され、文句を口にする。

 しかし、雄々しい雄叫びがそれを掻き消し、黒焔に両手を焼かれながらも《灰》は最後の一滴の力を振り絞る。

 

「――――ああ、そうだな……お前はそうでなくちゃなっ!」

 

 その覇気にマクバーンは面を喰らい、そして次の瞬間には彼の足掻きを受け入れて嗤う。

 全力で斬ると《緋》は改めて剣を握る手に力を込め――次の瞬間、《灰》と同じように胸の加速器が爆発した。

 

「ぐっ!?」

 

 《緋》もまた《灰》と同様に一気に各部に過負荷が掛かり、出力が大幅に下降する。

 衰えた力と火勢に《灰》は力任せに両手で掴んだ刃を折る。

 

「このっ――ぐお!?」」

 

 折れた刃をそのまま《緋》の胸の中央に突き刺す。

 

「――破甲拳」

 

 それでも倒れない《緋》に《灰》は突き立った刃を杭に見立てて右の拳を叩き込む。

 

「離れろっ!」

 

 《灰》を突き放すために《緋》は乱暴に腕を振る。

 頭を下げ、その腕を躱した《灰》は左の拳を刃に叩き込む。

 

「――破甲拳」

 

 装甲に突き刺さった刃は一撃ごとに深く打ち付けられ、《緋》は殴られた衝撃にたたらを踏んで後退る。

 《灰》は離れた距離をすかさず踏み込み、さらに拳を重ねる。

 

「――破甲拳っ」

 

「こ――のっ!」

 

 念じれば出るはずの焔が出せない。ゼムリア大陸に発現して初めて感じることになった体力切れにマクバーンは困惑している間に更に拳が打ち込まれる。

 

「――破甲拳! 破甲拳っ! 破甲拳っ!!」

 

 何度も打ち付けた拳に《緋》はついに岩壁に追い込まれる。

 

「――――どうして、そこまでお前は――?」

 

 体力も精神力も共に限界を超えているにも関わらず突き進む《灰》に――リィンの気迫にマクバーンは呆然と尋ねる。

 

「《黄昏》を乗り越えると誓った!」

 

 《緋》を岩壁にめり込ませ、更に拳をぶつけながらリィンは咆える。

 

「あの子たちの未来を守ると誓った!」

 

 左の拳が幾度目かの衝撃に亀裂が走る。

 

「だから! お前如きに立ち止まっているわけにはいかないんだっ!」

 

 右の拳も同様に亀裂が走る。だがそれでもリィンは止まらない。

 

「八葉一刀流――」

 

 左の拳が打ち込んだ衝撃で肩まで弾ける。

 

「八の型――」

 

 左右の連打で練り上げた螺旋の闘気を全て右の拳に集め、引き絞る。

 

「リィン・シュバルツァァァァァ!」

 

 マクバーンの叫びは路傍の石と言われた憤怒か、それとも記憶を取り戻した歓喜によるものか――

 リィンは構わず拳を刃が埋まった《緋》の胸に拳を叩き込む。

 

「――無尽拳っ!」

 

 全身全霊の渾身の拳は《緋》の胸を貫いた。

 岩壁を背に動かなくなった《緋》を確かめ、《灰》は後ろに倒れるのだった。

 

 

 

 

 

 






本日の騎神戦リザルト
ゼクトール
敗因:大型魔煌兵による超重量斬撃
損傷:四肢崩壊による大破、また大型魔煌兵に喰われて行方不明

エル=プラドー
敗因:マクバーンによる自傷
損傷:全身の溶解、左腕の損失、どう見ても大破。

テスタ=ロッサver.2
敗因:無尽拳
損傷:胸の大穴、中破。

ヴァリマール
損傷:オーブ機構の破損、両腕の崩壊。他多数の過負荷、すなわち大破。



補足
無尽拳
ゼムリア版デンプシーロール。
コンボを続けるとヒット数に応じてフェニッシュブローが強化される。

ちなみに八葉一刀流にこんな技はなく、リィンのオリジナルになります。

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