(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

125 / 156
125話 プロジェクト始動

 

 

 

 

「それじゃあヴァリマールを学院祭に出すことは無理ですか?」

 

 小旅行から帰った翌日、リィンは放課後の旧校舎でエリカの報告を聞いていた。

 

「ええ、今回も予想外の事態でヴァリマールを使うことになったでしょ?

 またいつヴァリマールが必要になる事態が来るか分からない以上、できるだけ早くフェンリルの組み込みを済ませておくべきだっていうのが私達の見解よ」

 

「言いたいことは分かりますが……」

 

 仮にも帝国政府のそれも皇帝からの勅命としての要請なだけにリィンの一存だけでどうにかなるものではない。

 

「だいたい今の状態のヴァリマールを学院祭に出してもねぇ……」

 

 エリカが見上げたヴァリマールに両腕はない。

 それどころか胸には内部から爆発した痕といい、全身に走った亀裂といい、下手に触れたら壊れてしまいそうな危うさがある。

 

「下の祭壇は一番損傷が激しかったエル=プラドーを置いたから、短期間での修復はまず無理でしょ?

 テロリスト達のことを考えるとヴァリマールを先にするべきなんでしょうけど、理事長の腕の治癒も絡んでいるとなるとねえ」

 

「…………そうですね」

 

 本来なら一番功績を上げているリィンのヴァリマールを一番に修復させるべきなのだが、エル=プラドーを優先したのには訳がある。

 一番の理由は左腕が麻痺しているルーファスの治療のため。

 激しい戦闘で喪失したエル=プラドーの腕に連動して、起動者になったルーファスの腕も機能不全になったのなら逆説的に言えばエル=プラドーの腕を直せば、ルーファスの腕も治るかもしれない。

 そういう理由でエル=プラドーはもっとも霊力が満ちている旧校舎の最奥に安置されることになった。

 

「ま、そういうわけで当分、奥の間が空かないっていうならこのタイミングでヴァリマールの改修を済ませちゃおうってことになったのよ……

 幸い、オルディスでの戦闘でフェンリル式加速器のデータは取れたから、リィン君達が旅行に行っている間にもう完成品の図面は引いちゃったから」

 

「はは、相変わらず仕事が早いですね」

 

「まあね……加速器はティルフィングにも組み込むつもりだから気にしないで」

 

「それは良いですけど……今日は何徹目ですか?」

 

 リィンの指摘にエリカは明後日の方を向いた。

 そんな彼女の反応にリィンはため息を吐く。

 

「博士たちは大人だからとやかくは言いませんが、ティータやレンを巻き込むのだけはやめてくださいよ」

 

「分かってるわよそれくらい……」

 

 リィンの睨みにエリカはもちろんだと頷く。

 

「ともかくヴァリマールの改修については了解しました……

 どの道、この状態で人前に出すのは得策じゃないでしょう」

 

 テロリスト達がこれ見よがしに自滅を装った。

 それはつまりいつ、どこから奇襲をするのか、それを決められる圧倒的なアドバンテージを取ったことになる。

 それに加えてテロリストのリーダーの正体はクロウ。

 地の利があり人混みもある。

 オズボーン宰相も顔を出す噂も流れているので損傷が激しいヴァリマールを人目に晒すことにデメリットの方が多いだろう。

 

「となるとこれから皇宮に顔を出さないとダメか……」

 

 一度引き受けた要請を謝りに行かなければならないと、オズボーン宰相と面談することになりそうでリィンはため息を吐く。

 

「同好会の出し物も考え直さないといけないか」

 

「それだけどリィン。レンに良い考えがあるんだけど」

 

 頭を悩ませるリィンにレンが声を掛ける。

 

「良い考え?」

 

「うふふふ……」

 

 楽し気に笑うレンの提案にリィンは首を傾げた。

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

「えっと……歴史研究同好会の出し物の変更?

 代わりの出し物は……『君も機神に乗って帝都を守ろう! プロジェクト・ティルフィング』?

 どういう企画なんだろう?」

 

 申請された書類に生徒会長は首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

「お――おおっ!」

 

 狭いコックピットブロックに搭乗し、ヘッドセットを装着。

 目の前に広がった光景にラウラは感嘆の声をもらす。

 

『どうかしら違和感はある?』

 

「いえ、問題ありません」

 

 耳元から聞こえて来るエリカの声にラウラは答えながら視線を下に動かす。

 自分の身体は動いていないが、それでも確かに動かした感触を得ながら首はラウラの意志通り動く。

 見下ろしたのは機械の腕。そして機械の体。

 周囲を見渡してみれば自分と同じくらいの背の高さの木々があり、視点は生身よりもずっと高い。

 

「これがリィンが見ている光景か……」

 

『ふふ、できれば感動の余韻に浸らせて上げたいけど時間がないから早速テストを始めるわよ』

 

「――はい」

 

『そんなに硬くならなくて良いわよ。まずは好きなように歩いてみて』

 

「歩く……歩く……」

 

 言われた通り、歩くことを意識して体を動かす。

 ラウラの意思に反応し、《ARCUS》を通じて機械の足が規則正しく動く。

 

「――っ――随分揺れるな」

 

『それは慣れなさい』

 

 無情なエリカの言葉にラウラは閉口する。

 

『武器を出すからそれを使って一通りの型で動かしてみて』

 

「了解した」

 

 目の前に光が溢れるとラウラが慣れ親しんだ大剣が巨人のサイズで顕現する。

 

「――はっ!」

 

 繰り出した技は鉄砕刃。

 機神はラウラの動きを忠実に再現して、骸骨の案山子を両断する。

 

『次――』

 

 両断された骸骨が消えて、機神の周囲に新たな骸骨が現れる。

 

「これは凄いですね」

 

「ラウラの動きをあそこまで再現できるなんて」

 

 ラウラが乗っているコックピットブロックの横に設置されているモニターで機神の動きを外からの視点で観戦していたアンゼリカとフィーは感嘆の言葉をもらす。

 

「まあ、私が作ったんだからこれくらいはね」

 

 二人に褒められてエリカは胸を張る。

 エリカが担当する“蒼耀石”を装甲にした“ティルフィング・ブルー”。

 機体コンセプトはより人体に近い動きの再現。

 《ARCUS》とのリンク強度を突き詰め、より騎神に近づけた自律制御システムによりラウラの生身の動きを忠実にトレースする。

 

「あっ……転んだ」

 

「うむ、紛れもなく人間の様な動きだな」

 

 派手に転んだ蒼い機神の、それこそ人間と寸分違わない転び振りにフィーとアンゼリカは感心するのだった。

 

 

 

 

 

 

「凄いな……これは……」

 

 眼下に広がる広大な大地を見下ろしてガイウスはこれまで体験したことのない感動に震える。

 とてもオーブメントで再現した仮想世界とは思えないほどのリアリティ。

 機械の身体を通して感じる風は本物としか思えず、ガイウスは改めて技術の深淵の深さを思い知る。

 

「俺は今……“風”になっている」

 

『いつまで遊んでいるウォーゼル』

 

 しかしその感動にシュミットの冷めた言葉が水を差す。

 

『機体の運用に慣れたのなら、次の行程に進め』

 

「シュ、シュミット博士……」

 

『遊びのつもりでいるのなら今からでも遅くない。さっさとそこから降りろ』

 

「いえ、申し訳ありません。テストを続行します」

 

 ガイウスは誘惑を振り切って、飛翔を止め空中に滞空して翠耀石の機神ティルフィング・グリーンに長大なライフルを構えさせる。

 ライフルの教練は授業で行っているが、ガイウスの射撃の点数は決して高いものではない。

 しかし、ライフルを構えると視界の中に様々な情報が浮かび上がる。

 予測される弾道のコースに、ターゲットまでの距離、風向きに風力や温度に湿度。

 様々な情報をガイウスはどう処理して良いのか分からず、とりあえず弾道の線をターゲットに合わせて引き金を引く。

 

「――――くっ……外した」

 

『無駄口を叩いていないで撃ち続けろ』

 

「了解しました」

 

 シュミットは気にした素振りもなく、続けることを促す。

 離れた的に向かって規則正しい間隔で機神はライフルを撃つ。

 命中率は悪く十発撃って、一発掠る程度。

 

『次――』

 

 シュミットの声に合わせ、狙っていた的は左右に動き始める。

 

「っ――」

 

 難易度が上がったことに歯噛みしながらガイウスは先程と同じように的を狙って引き金を引く。

 

「ふむ……やはり機甲兵の射撃管制システムをそのまま流用することはできないか」

 

 ガイウスに行わせた悲惨なテストの結果にシュミットは起伏に乏しい呟きをもらす。

 剥き出しのコックピットから降りたガイウスはそのあまりの結果に彼には珍しく肩を落としていた。

 

「あ、あのシュミット博士……」

 

「何をしているハーシェル。次はお前だ」

 

「は、はいっ!」

 

 フォローしようとトワがシュミット博士に声を掛けようとするが、それより先に叱咤されてトワはコックピットに乗り込む。

 

「シュミット博士……」

 

「何だラインフォルトの娘?」

 

 トワが操縦する機神が映るモニターから目を逸らさずシュミットはアリサの呼び掛けに応える。

 

「こう……労いの言葉はないんですか?」

 

 項垂れて落ち込むガイウスに追い打ちを掛けるような放置。

 まるでこちらの心情を意に介さないシュミットの背中にアリサは不快感を感じずにはいられない。

 

「それに何の意味がある?」

 

「意味って……」

 

「貴様は本当にフランツとイリーナの娘か? グエンの奴はいったい何を教えたというのだ」

 

 嘆かわしいと言わんばかりにシュミットはアリサの在り方にため息を吐く。

 

「なっ!?」

 

 返って来た侮蔑の言葉にアリサは絶句する。

 

「文句があるのなら辞退すればいい。お前達がここに来ているのはお前達の意志のはずだ……

 甘やかして欲しいというのなら、ここにお前の居場所などない。さっさと帰るが良い」

 

「そ、それが――」

 

「アリサ」

 

 激昂するアリサの肩をガイウスが掴んで止める。

 

「ガイウス! 貴方は悔しくないの!?」

 

「それは……」

 

「何を馬鹿なことを言っているウォーゼルは十分に役目を果たしている」

 

 言い淀むガイウスだったが、言い返したのはシュミットだった。

 

「…………え?」

 

「機神越しの射撃など本人の問題ではなくシステムの問題だ。こんなものまだ当たらなくて当然だ……

 それを修正していくのが研究と開発というものだ。的当ての点数だけが評価の基準だと誰が言った?」

 

「な……な……だったら最初からそう言えば――」

 

「だから貴様はアホなのだ」

 

 呆然とするアリサにシュミットはやはり振り返りもせず、続ける。

 

「目先のことにばかり囚われ、言われなければ何も理解できない愚鈍さ……ラッセルやヨルグの孫を見習え」

 

「――っ」

 

「アリサ……」

 

「…………大丈夫……大丈夫よ。ガイウス……」

 

 言いたい放題のシュミットの言葉にアリサは反射的に反発しそうになる口を何とか抑える。

 

「ふん、私はイリーナの様に貴様を甘やかすつもりはない。くれぐれも邪魔だけはするなよ」

 

「ぐぬぬ……」

 

 一方的かつ偏見に満ちた言葉にアリサは耐える。

 あくまでも“機神の開発”に関われるのはリィンやシュミットたちの善意であり、絶対にアリサやⅦ組が必要というわけではない。 

 午後の授業が一教科増えたが、それも自由参加の授業。

 出来る事ならエリカの下がアリサにとっては好ましかったのだが、この人選をした誰かをアリサは恨む。

 

「はふー」

 

 そうこうしている間にトワを乗せたコックピットブロックが開く。

 

「アリサちゃん! アリサちゃん!」

 

「どうかしたんですかトワ会長?」

 

 興奮するトワにアリサは首を傾げる。

 

「私、機神に乗って大きくなってたんだよっ!」

 

 機神の身体を体感したトワが見た目相応にはしゃぐ。

 

「何をしているラインフォルトの娘、次はお前の番だ」

 

 そんなトワに癒される間もなくシュミットの叱責が飛ぶ。

 

「……見てなさいよ」

 

 あまりに一方的かつ独善的なシュミットにアリサは対抗意識を燃え上がらせる。

 射撃システムの構築のために外しても良いなどと言っているが、ならば満射を出して唸らせてやろうとアリサは企む。

 

「アリサちゃん、頑張って」

 

「ああ、アリサならきっと俺達より上手くできるはずだ」

 

 純粋な二人の声援を受けてアリサはコックピットに乗り込み、“機神”と一体になって仮想世界を体感する。

 なお結果は前の二人よりも少し良い程度のものだった。

 

 

 

 

「うう、何で僕だけ……」

 

 他のⅦ組が一階の大ホールで作業している中、クリスは一人別の教室に案内されていた。

 本格的に始まった“機神”ティルフィングの操縦訓練に心を持って行かれ、クリスはそわそわと落ち着かない様子で椅子から立って座ってを繰り返す。

 

「これが焦らしプレイと放置プレイという奴なんですね兄上」

 

 いつか兄が語ってくれた境地の一つ。

 当時は理解できなかったがクリスは今なら兄の教えの意味を理解できる。

 

「――待たせたな」

 

「リィンさん!?」

 

 教室の扉が開き、クリスはびくりと身を竦ませて振り返る。

 

「あれ……? ルーファス理事――じゃなくてルーファス教官も?」

 

 入って来たのはリィンだけではなく、今週から教官として士官学院で働き出したルーファスとその付き人の少年少女の四人だった。

 

「どうも……」

 

「やーお坊ちゃん、すーちゃんたちのことは空気だと思っていいよー」

 

 小さく会釈をするスウィンと気の抜けた声で自分達はオマケだと主張するのはナーディア。

 二人はオルディスでリィンの命を狙って返り討ちにされた“暗殺者”。

 今は左腕が動かなくなったルーファスの補助と、ここの旧校舎の警備員として雇われている。

 

「…………」

 

「…………」

 

 クリスとスウィンは無言で睨み合う。

 そんな張り詰めた空気をリィンは手を叩いて霧散させ、さっそく本題に入る。

 

「二人に来てもらったのは他でもない。“騎神”についての知識を教えるためだ――いえ、ためです」

 

「なるほど、それはありがたい。それと敬語は不要だよ。今は私が君から教えを乞う生徒なのだから」

 

 リィンの目的にルーファスは頷き、敬語に言い換えたリィンにフォローする。

 ありがとうございます。とリィンは一礼を返して、続ける。

 

「しかし、起動者になった私は分かるがクリス君は何故この場に?」

 

「それも含めて説明します……

 俺達が“騎神”という大きな流れの中に巻き込まれた行き着く先、敵が誰なのか、どうしてこんな因果が生まれてしまったのか……

 以前にクリスには触り程度には話したが、ルーファスさんが起動者になったこともあるので、改めて情報を共有しておこうと思っています」

 

「その言い方だとクリス君も起動者になるということかな?」

 

「まだ確定しているとは言いませんが、“緋”の起動者はアルノールの血を引くものになるのは確定事項のはずだ」

 

「僕が……騎神に……テスタ=ロッサに乗れる……」

 

 先程まで“機神”のテストパイロットから除外されていた不満を忘れ、クリスは拳を握り込む。

 

「ただし情報共有の代償として二人にはこちらの要求を一つだけ飲んでもらうことになります」

 

「ふむ……」

 

「……よろしくお願いします」

 

 リィンの尋常ではない表情にルーファスとクリスは気を引き締めて向き直る。

 そうして語られたのは帝国史の以前から始まる《焔》と《大地》、二つの眷属の争いから始まる話。

 二つの至宝の衝突から生まれた《鋼の至宝》。

 争いの末に協力するも、その後の眷属たちの“騎神”を巡る覇権争いが原因によって《鋼の至宝》は帝国に“闘争の呪い”を掛けたこと。

 その影響を一番に受け《鋼の至宝》の負の意志に染まってしまった《黒の騎神》によるこの地に《鋼》を呼び戻す儀式となる“黄昏”。

 そしてあと二年で“黄昏”が起きること、そして誰が《黒の騎神》の起動者なのか。

 

「そんな……まさかオズボーン宰相が……」

 

「まだ彼がそうだと確証があるわけじゃないけど、十中八九間違いないだろう」

 

 オズボーン宰相が《黒》の起動者、もしくはその関係者だという真実にクリスは愕然とする。

 彼に憧れを抱いていたこともあり、クリスの動揺は大きかった。

 対するルーファスは表面的には静かに受け止めながら、自分の予想とほぼ違わない状況に内心でほくそ笑む。

 

「以上が俺が知っていることになります……

 騎神に選ばれた“英雄”なんて巷では俺のことをそんな風に評価されていますが、実際は“黄昏”で鋼を錬成するための生贄に過ぎないんですよ」

 

「なるほど……リィン君は今からでも遅くないから私に“エル=プラドー”の起動者を辞退しろと言うのかい?」

 

「いえ、例えここでルーファス教官に起動者から降りてもらったとしても他の誰かが“黄昏”の時までに選定されるだけです……

 もちろんこの話を聞いて怖気づいたというのなら、契約を切る手伝いをしますよ」

 

 挑発的なリィンの言葉にルーファスは微笑を浮かべる。

 

「いや、そんなまさか。世界を滅ぼしかねない“黄昏”。その中心に身を置けるというのに退くなんて勿体ないことはしないさ」

 

「ええー、なーちゃんたちは流石にそこまで付き合いたくないかなぁー」

 

「ナ―ディア……」

 

 乗り気なルーファスに対して、乗り気ではないナーディア。

 背後の声を気にせずルーファスは尋ねる。

 

「そうなると先程リィン君が求めた要求というのは《黒の騎神》に対しての共同戦線を張りたいという提案かな?」

 

「いえ、違います」

 

 思わぬ即答にルーファスは首を傾げる。

 

「ではリィン君は私達に何を要求するのかな?」

 

「騎神の機能の宝珠を一つ。こちらが指定する術式に固定させてもらいます……

 効果は“相克”における戦闘においても、起動者にフィードバックされる死への安全装置です」

 

「リィンさん……」

 

「やれやれ流石はリィン君と言うべきか……しかしそれでは私達が貰い過ぎというものだ」

 

 値千金の情報を出し惜しみせずに公開して引き出す対価が敵となる相手の身の安全だということにルーファスは苦笑する。

 ルーファスには想像もできない善性。

 突き抜けたお人好しが彼の強さの秘密だと言うのなら興味が湧いて来る。

 

「てっきり私は六の騎神、そして今下で開発している“雲の騎神”で《黒》を取り囲むのだと思っていたのだが?」

 

「いいえ、恐らく馴れ合いでまとまった所で《黒》には絶対に届かない」

 

「っ――」

 

「それ程の相手と言う事か」

 

 断言するリィンに気迫にクリスとルーファスは息を呑む。

 

「アリアンロードさんが言うには六の騎神を“相克”で合わせてようやく戦いの土俵に入ることができる。《黒》はそういう存在なんです……だから――」

 

 リィンは少し躊躇って、はっきりと宣言する。

 

「“黄昏”が起きた時、俺は迷いなく貴方達を倒します。安全装置はそのためのものです」

 

 はっきりと宣戦布告するリィンにクリスとルーファスは“鉄血宰相”の面影を見た。

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

「ルーファスさん」

 

 ふらふらとした足取りで教室から退出するクリスを見送り、それに続こうとしたルーファスをリィンは呼び止める。

 

「先程、貰い過ぎと言っていましたね?

 ならこちらからの質問に一つ答えてもらえますか?」

 

「ふむ……何かね?」

 

 ルーファスは振り返り、質問を促す。

 

「どうして嘘なんか吐いたんですか?」

 

 リィンは吊り下げた左腕を見て尋ねる。

 

「あちゃーやっぱりリィンお兄ちゃんにはバレバレだったみたいだねー」

 

 ルーファスより先に反応したのはナーディアだった。

 もっともそれを怒り、訂正する素振りもなくルーファスは肯定するように動かせなくなったと公言している左腕を動かして見せる。

 

「このことはできれば内密にしてもらえるかな?」

 

「どんな意図があるかまで見通すつもりはありません。でもせめてユーシスくらいには教えて上げても良いんじゃないですか?」

 

「そういうわけにはいかないよ。これは私なりの“対決”いや“黄昏”への仕込みでね……

 それにアルバレア家を始めとする貴族としての私の価値を測るために必要なことだったのだよ」

 

 左腕を首から下げた帯に戻しながらルーファスは答えをはぐらかす。

 

「ルーファスさん――」

 

 そんなルーファスを説得しようとしたところで、リィンの《ARCUS》が鳴る。

 

「…………出ないのかい?」

 

 ルーファスに促され、リィンはため息を吐いて《ARCUS》を開く。

 

「もしもし――」

 

『リィンッ! 良かった繋がったっ!』

 

 聞こえて来たのは聞き覚えのある少女の声。

 その鬼気迫る声は教室に大きく響き、こっそりと抜け出そうとしたルーファス達の足を止めた。

 

「その声はシュリか? どうしてこの番号を知っているんだ?」

 

『それはリーシャ姉が教えてくれて、リィンなら助けてくれるはずだからって……だから、だから……』

 

「シュリ、落ち着いて。深呼吸して何があったのか教えてくれ」

 

 リィンは通信越しにシュリを宥めるが、大した効果はなく嗚咽交じりの声でシュリの叫びが響く。

 

『イリアさんを助けてっ!』

 

 

 

 







 五番目の機神

ロランス
「これがシュバルツァーが言っていた“雲の機神”か……」

レン
「ええ、そうよ……主導力のコアに“雲”のクォーツと空のレグナートから貰った金耀石を使った他の機神よりも高性能になる機体……
 リィンはこれを貴方に使って欲しいみたいよ」

ロランス
「…………」

レン
「オルディスで別れた時から様子がおかしかったってリィンから聞いていたけど、どうしたのレーヴェ?」

ロランス
「大したことではない」

レン
「もう……そういうところは兄弟よね。レーヴェとヨシュアは」

ロランス
「むぅ……しばらく見ない間に随分と強くなったレン」


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。