(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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前話は一話ズレていますが、まさしくクロスベルが炎上してしまったみたいですね。






128話 執行者たちの日々

 

「すまなかったっ!」

 

 かつて特別実習で訪れた宝飾店に入ったリィンを迎えたのは見るからに職人といった風貌の男の土下座だった。

 

「お、落ち着いてください。ちゃんと事情は聞いていますから」

 

 そんな歓迎を受けたリィンは困った顔でまず土下座をやめさせる。

 

「それで盗難にあったらしいですけど……」

 

 周囲の棚を見回してリィンは顔をしかめる。

 特別実習の時はあまりそちらの方に興味を持たないリィンも見事だと感嘆させた宝石たちはない。

 割れたガラスケースに壁際の棚も全て中身は空であり、荒らされた店内はまさに物盗りの跡だった。

 

「領邦軍に連絡は?」

 

「もちろんした……だがおそらく無駄だろう」

 

 工房主のダボスは諦観を滲ませたため息を吐く。

 

「レン……?」

 

「ダメね。時間が経ち過ぎていることもだけど、いろんな因果で踏み荒らされてるからここだけで見通すことはできないわね」

 

「そうか、俺もだ」

 

 《識》の目で店内を見たリィンも既に憲兵隊の調査が入ってしまった室内から手掛かりを見つけることはできなかった。

 

「ええいっ! 何をそんなに悠長にしているんだね」

 

 そんな二人のやり取りに、珍しく焦った様子のブルブランが声を上げる。

 

「完成し、お披露目を控えた至宝を人目に発表する前に盗み出すなど“美”の冒涜でしかない!

 領邦軍など当てになるものか! 私自ら罪深き下手人から至宝を取り戻してやろうっ!」

 

 もうこいつ一人で良いのではないかと思う程のやる気に満ちているブルブランだが、そうすると今回の犯人を文字通り八つ裂きにしそうな気もする。

 

「マイスター! 何か犯人に繋がる手掛かりはないのかね!?」

 

「実は犯人そのものは誰かは既に分かっているのだ」

 

「そうだったんですか?」

 

 意外そうに聞き返したリィンの言葉にダボスは頷く。

 

「ああ、領邦軍は一応捜査するとは言っていたが、相手が相手だけに戻って来るのは絶望的だと言われてしまったがな」

 

 領邦軍の怠慢ではなく、それ程の盗人だということにリィンはやはり意外なものを感じる。

 

「それでおじいさん、犯人は誰なのかしら?」

 

 レンも同じことを感じ、その答えを促す。

 

「うむ、犯人は《怪盗B》だ」

 

「…………」

 

「…………」

 

 リィンとレンは揃って白い目をブルブランに向ける。

 

「ま、待ってくれたまえマイスター。それは何かの間違いではないのか?」

 

「いや、《聖獣の至宝》をしまっておいた金庫がなくなり、そこに犯行声明のカードが『怪盗B、参上っ!』と残されておったから間違いないだろう」

 

「…………」

 

「……そのカードはどちらに?」

 

「領邦軍が証拠として持って行ってしまったわい」

 

「金庫ごと持ち出したのね……これだけの大きさの金庫を盗み出すのは確かに《怪盗B》じゃないとできないかしら、クスクス」

 

 店の奥を覗き込み、レンはなくなっただろう金庫の跡を確認し、リィンから借りたオーバルカメラで現場の写真を撮って行く。

 

「奴は“美の解放”と称して帝国の各地で盗みを働いておる……

 今回は《聖獣の至宝》に目を付けたとしてもおかしくはあるまい」

 

「そ、そうですね……」

 

 ダボスの言動を見るに、彼は目の前のブルブラン男爵の正体は知らないのだろう。リィンは目を逸らして頷く。

 

「なんて罪深いのかしら“怪盗B”は……ふふふ」

 

 わざとらしく仰々しい声音でレンは笑う。

 

「くっ……誰だか知らぬがどうやら命知らずがいたものだな」

 

「有名税みたいなものだろ。この前帝都の実習でも“怪盗B”の模倣犯が――」

 

 言いかけてリィンは口を噤む。

 帝都の特別実習でハーシェル雑貨店から盗みを働いた自称“怪盗B”。

 その事件は彼だけに限らず、《痩せ狼》と《幻惑の鈴》、そして《殲滅天使》の模倣犯もいた事件だった。

 その時と同じような犯行声明を残している今回の盗難事件にリィンは冷や汗をかく。

 

「リィン? どうかしたの?」

 

「いや、何でもない」

 

 首を傾げるレンにリィンは平静を装って応える。

 

 ――この事件、二人の先を超して解決しないと死人が出る……

 

 まだあの時の猟兵崩れたちと決まったわけではないが、最悪をリィンは想定する。

 

「仕方がない。レン、悪いが先にトリスタに戻ってサラ教官に当分戻れないって伝えておいてもらえるか?」

 

「あら、そんなの《ARCUS》で連絡すれば済むことじゃない」

 

「そうだけど……」

 

 リィンはレンに耳打ちする。

 

「もしかしたら帝国解放戦線が盗んだ可能性がある。あまりこの事は通信でやり取りしたくないから」

 

「帝国解放戦線……」

 

「彼らはノーザンブリアから魔獣創造のクォーツを盗み出した……

 それそのものはオルディスで回収しているけど、コピーを作られている可能性もある。だから――」

 

「聖獣が作り出した七耀石を触媒にして造られた魔獣が現れるかもしれないってリィンは考えているのね?」

 

「可能性だけならな」

 

 嘘であるが、その可能性も決してゼロではない。

 先の模倣犯の可能性、聖石の御利益を狙っての可能性、他にも可能性ならいくらでも想像できる。

 

「…………何か隠してないリィン?」

 

「そんなことない」

 

 レン達の出来の悪い模倣犯のことなどおくびにも出さずにリィンは言い切る。

 

「でも、リィンは今週末のあの実験の準備にトリスタにいないといけないでしょ? 

 それにリィンは早く帰って休むべきよ。だからこの事件はレンとブルブランで解決して上げる」

 

「いや……それは……」

 

 気遣ってくれることは嬉しいがレンの指摘にリィンは狼狽える。

 今週末に行う“雲”の力の分割と封印。

 そのために不本意ながら《結社》と《七耀教会》から手伝いを派遣してもらうことになっている。

 それに合わせた準備もあるので確かに、先行きが見通せないこの事件に関わっている暇はない。

 

「いや、その予定は延期に――」

 

「その必要はないよ!」

 

 リィンがそう決めたところで、店の扉が勢いよく開く。

 

「この事件っ! 美少女名探偵なーちゃんが引き受けたっ!」

 

「ナーディア……お前は……」

 

 そこにはトリスタでルーファスの助手をしているはずのナーディアとスウィン、そして――

 

「…………どうも」

 

 二人に遅れて店内に入って来た銀髪の少女はリィンに向かって小さく会釈をした。

 

「アルティナ……どうして君が……」

 

「命令です。リィン・シュバルツァーは早々に学院に戻れとの伝言です」

 

 咎めるようにじっと見つめて来るアルティナの視線にリィンは思わず怯む。

 

「ルーファス教官が今回の事件を独自の情報で知って先回りするように俺達を派遣したんだ」

 

「ふふふ、特別報酬のためにがんばっちゃうよー」

 

 代わりにスウィンとナーディアが簡単に理由を説明する。

 

「だからリィンさんは安心して学院に戻ってくれて良いですよ」

 

「いや……でもな……」

 

 リィンは一同を見回し、増えた少年少女に目を丸くするダボスの様子を窺う。

 

「ふむ……事情は知らんがどうやら普通の子供ではなさそうだな。儂は構わんが」

 

 自分の主張を封じられた現状にリィンは肩を落とす。

 

「安心してリィン……あの子はレンが護るから……」

 

「レン……」

 

 決意を新たにするレンにリィンは複雑な気持ちになる。

 彼女が《殲滅》ではなく《守護》を意識してくれると言うなら一安心だが、それでも不安は残る。

 

「スウィン、もしもの時は君だけが頼りだ。ブルブランとレンの暴走を止めてくれ」

 

「え!? 俺っ!?」

 

 突然のリィンの懇願にスウィンは困惑するのだった。

 そしてここに帝国探偵団《ナンバーズ》が結成した。

 

 

 

 

 

「はっ――ブルブラン達のものまねとは面白いことをする奴もいたもんだな」

 

「笑いごとじゃないんだけどな」

 

 ため息を吐き、リィンは構えた“それ”を振り下ろす。

 マクバーンは待ち構えてリィンの一撃を受け止め、重ねるように彼が持つ“それ”を続けて振り下ろす。

 

「それでその話はどうなったんだ?」

 

「それより何であんたがここにいるんだ?

 確かテスタ=ロッサから分離した後、盟主やカンパネルラに話を付けに行くとか言い残して後始末を全部押し付けて行ったくせに」

 

 続きを促してくるマクバーンにリィンは白い目を向ける。が、手はそのまま動かす。

 

「それか……まあまだ《結社》にいることにはなったな」

 

「そうか、なら敵ということだな?」

 

「まだオルディスでのこと根に持ってるのか?

 だからこうしてその借りを返すために、ヴィータの誘いを受けたんだが――っな!」

 

 睨まれても気にしないマクバーンもまたリィンと同じように喋りながらも腕を止めない。

 二人の間で鉄を打つ音が鳴り響く。

 

「……本当にどうしてこんなことになっているんだ?」

 

 旧校舎の裏庭を改造して作られた即席の鍛冶場で何故かマクバーンと鉄を打っている現状にリィンはひたすらに困惑する。

 

「どうしてって、その《聖獣の至宝》がまだ見つかってないんで皇子様たちへのプレゼントを用意しないといけないんだろ?」

 

「ああ……剣はダメだけど東方の太刀――もダメかもしれないから懐刀って呼ばれている短剣を作るつもりだったのは確かなんだけど……」

 

 当初は“魔剣”を作る方法と同じ導力加工器を使うつもりだったのだが、クロスベル襲撃の煽りでリィンは預金を引き出せなくなり、そのため十分なセピス買い付けることはできなかった。

 その時点で断念するはずだったのだが、そこに現れたのがマクバーンであり軽く話を聞いた彼は何を思ったのか旧校舎裏にこの即席の鍛冶場を博士たちに造らせた。

 

「ふむ……これが東方の鍛造と言うものか興味深い」

 

「工業加工では再現できないものが往々にして作られるという話だが、ふんお手並み拝見とさせてもらおうか」

 

「マクバーンの“劫炎”で鍛えた鉄か……実に興味深い……」

 

「ほらリィン君、腰が入ってないわよ! 手を抜かない!」

 

「が、頑張ってください二人ともっ!」

 

 見学する博士たちの野次に混ざるティータの声援のみが唯一の癒しに感じながらリィンは感じる理不尽な苛立ちをマクバーンが押さえる真っ赤に焼けた鉄に叩きつけるつもりで槌を振り下ろした。

 

「はっ――その意気だ」

 

 快音を鳴らす鉄にマクバーンは活き活きした様子で片手のハサミで鉄を押さえ、もう一方の手に持った槌をリィンの一撃の合間に入れて行く。

 普段の気怠そうでチャラい空気はどこに行ったのか、焔と鉄に向き合う彼の目は至って真面目だった。

 そして普段の行いから想像できない程に鍛冶姿は様になっているのが妙に腹立たしい。

 

「ここまで本格的にやるつもりなんてなかったのに……どうして……」

 

「おいおいこの程度で本気とか言ってんじゃねえよ」

 

「だからどうしてそんなにやる気になっているんだ!?」

 

 鍛冶を片手間にいかに焔に空気を送り込んで大きく熱くするコツを語るマクバーンにリィンはやはり頭痛を感じる。

 

「――それで結局ブルブラン達はどうしてんだ?」

 

 話を戻すマクバーンにリィンはため息を吐いて答える。

 

「犯人はすぐに見つかった。だけど《聖獣の石》で作った首飾りはまだ見つかってないみたいでみんなはそれを追い駆けている」

 

 《聖獣の至宝》と共に根こそぎ盗まれたダボス工房の宝飾品は取り戻すことができたが、その中には《聖獣の至宝》は存在しなかった。

 盗んだはずの模倣犯たちもいつの間にかなくなっていたそれに困惑しており、いよいよきな臭くなってきた。

 

「そうか……しかしブルブラン達のものまねか、少し見て見たかったな」

 

「そいつらの写真はないけど、“怪盗B”に《聖獣の至宝》を盗まれて荒ぶっているブルブランの写真ならあるぞ」

 

「はっ――そいつは良い。後で見せてくれよ」

 

「明日の《儀式》で教会の人達と喧嘩をしないって約束してくれるなら」

 

 リィンは特に躊躇わずそれを売りつける。

 

「ああ、それは構わねえが……確か教会からは第五位と第八位が来るんだったか?」

 

「ええ、そして《結社》からはあんたとヴィータさんの二人だ」

 

 ローゼリア曰く、高位の術者は三人で済むはずだったのだが教会と結社が張り合う様に協力を主張してきたため、それぞれ二人ということになった。

 

「教会の第二位はどうするんだ?」

 

「正体を隠しておきたいみたいだから、今回は参加しないらしい」

 

 当たり前のように認知されている守護騎士第二位にリィンは誰に対して忍んでいるのだろうかと首を捻る。

 

「あとは確実を期してこっちから三人の術者を用意している」

 

 三人と言うのはあくまでも最低限の人数。

 四人外部から集められたとなれば、七つに分割するのに合わせて七人の術者を用意した方が確実と言う事でイオとダーナ、そしてアプリリスの三人に来てもらうことになっている。

 ダーナに関してはその時にローゼリアと引き合わせる予定でもある。

 

「しかしもったいねえな……その“雲の力”をわざわざ封印しちまうなんて」

 

「下手に力を解放したらあんたみたいに空間を壊してしまうからな……

 ただそこにいるだけで壊してしまうあんたと違って、こっちは制御が効かないから壊してしまうんだ」

 

「へえ……つまりオルディスでの戦いは全力じゃなかったって事か?」

 

「全力だったさ。俺が扱い切れる範囲で……そういう意味ではテスタ=ロッサの拘束があったあんたと条件は同じだっただろ?」

 

「ま、そうなるか……クク……」

 

 喉を鳴らして笑うマクバーンにリィンはどうせ碌でもないこと考えているのだろうと嘆息する。

 

「ところで……」

 

「あん?」

 

「もうそろそろ良いんじゃないか?」

 

 《識》の目で見た鉄の様子からリィンは進言する。

 

「いいや、あと一時間。鉄が俺の焔に馴染むまでこのまま叩き続ける」

 

「い、一時間っ!?」

 

 槌を振り上げ、振り下ろしながらリィンは絶句する。

 

「その後は半分に分けておいた鉄を同じ時間叩くぞ」

 

「……最初にわざわざ分けていたのは気になっていたけど、どうして?」

 

「皇族の双子に贈るもんなんだろ? だったら一つの鉄鉱石から二つに分けて造る姉弟刀にするのが良いんじゃねえか?」

 

「…………まあ、たしかに……いや、だからなんでそんなに乗り気なんだ?」

 

 割とまともな言い分にリィンは納得しかけるが、やはり妙に乗り気になっているマクバーンに抗議の声を上げる。

 

「そうだな……強いて言うなら浪漫だ」

 

「浪漫じゃ仕方ないのう」

 

「そうだな……浪漫と言われたならやるしかあるまい」

 

「拘ってこその芸術……まさか“劫炎”がその機微が分かるとはな」

 

「やるからには徹底的に、よねー」

 

「えっと……頑張ってくださいリィンさん」

 

 マクバーンの言い分に賛同する博士たちにリィンは槌を振りながら器用に肩を落とす。

 その槌の音に本校舎で鳴った下校時間を告げる鐘が重なる様に鳴り響くのだった。

 

 

 

 





 カグツチ:火を司る神で、鍛冶神としての面も持っている。
 彼のテンションがおかしくなっているのは、記憶が戻った反動による一時的なハイとこれが理由ですね。

 そして「火を“空”気で大きくして、槌の音を“鐘”で奏で、焼けた鉄は“水”と交わる」
 何をとは言いませんが、これが最終目標です。



トリスタからの手紙

エステル
「ぐぬぬ……」

ヨシュア
「どうしたんだいエステル? ああレンからの手紙か」

エステル
「そうなのよ。突然リィン君のところに行って来るって言って、あれから手紙と写真が届いたんだけど……」

ヨシュア
「はは、楽しそうにしているみたいだね。トールズには今ティータ達もいるから安心して良いんじゃないかな?」

エステル
「それはそうなんだけど……せっかくうちの子になってくれたんだから、あたしももっとレンと遊びたいのに!」

ヨシュア
「…………(エステルの遊びって釣りや昆虫採集だからレンとは合わないんだろうな)」

エステル
「ん? 何か言ったヨシュア?」

ヨシュア
「いや、何でもない。それにしてもたくさん写真が同封されているみたいだね」

エステル
「うん……何だか二年前のリィン君を思い出すわね」

ヨシュア
「そうだね……これは例のナユタちゃんで、こっちはリィン君の写真……
 これは《怪盗Bにお宝を盗まれて荒ぶっているブルブラン》?」

エステル
「あははっ何それっ!?」

ヨシュア
「ともかくレンもリィン君も元気そうで――」

エステル
「あ、これってもしかしてレーヴェじゃない? へえ、レーヴェって今トリスタにいるんだ」

ヨシュア
「え、本当!? ――ぐぬぬ」

エステル
「…………ねえヨシュア。レンの手紙によると今月末にはトールズ士官学院で学院祭をやるみたいなのよね?」

ヨシュア
「そうみたいだけど、それで?」

エステル
「たしかクローゼがオリビエに招待されているって言ってたから、護衛としてついていけないか頼んでみない?」

ヨシュア
「少し前はそうだったけど、今はクロスベルでの事件があったからどうなってるだろう?」

エステル
「良し! とりあえず父さんとクローゼに聞いてみようっ!」

 ………………
 …………
 ……

アネラス
「お姫様の護衛の遊撃士の座は例えエステルちゃんでも譲れないよっ!」

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