(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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131話 士官学院祭Ⅰ

 

 

 10月23日、土曜日。士官学院祭一日目。

 

「――学院生の皆さん、そして来場者の皆様方。大変長らくお待たせいたしました……

 これより第127回トールズ士官学院・学院祭を開催します……

 どうぞ心行くまで楽しんで、みんなで盛り上がってください!」

 

 生徒会長のトワの挨拶を合図に士官学院の門が開かれ、学生たちや来場者たちからの歓声と拍手で士官学院祭は始まりを告げる。

 

「――さてと、僕達の出番は明日の午後だ……

 今日一日、ステージのことは忘れて学院祭を満喫することにしよう」

 

 訪れた来場者たちを眺め、副委員長のマキアスが仕切る。

 

「……忘れるなんてそんなの無理ですけどね」

 

 遠い目をして肩を竦ませるエマだが、すぐに取り繕わせる。

 

「ごめんなさい……

 え、えっと、クラブの手伝いをする人もいるでしょうから今日は終日、自由行動になります……

 ですが、備品のチェックもあるので帰りには一旦集まりましょう」

 

 マキアスから引き継いでエマが本日のⅦ組の予定を決める。

 

「そうだね。導力楽器の搬入タイミングも確認したいし」

 

「ジョルジュに任せているとは言え、簡単なチューニングくらいは自分でやった方が良いだろうからね」

 

 そんなエマの方針にエリオットとアンゼリカは同意し、アリサとラウラも頷く。

 

「ええ、分かったわ」

 

「得物の手入れは重要だろう」

 

「んー、それにしてもみんなけっこう冷静だねー?

 クロスベル方面で結構大きなニュースがあったばかりなのに」

 

 その会話の流れを空気を読んでいるのかいないのか、ミリアムは昨日のニュースのことを切り出しぶった切る。

 

「クロスベルの独立宣言だね」

 

 ミリアムが言わんとしていることをフィーが答える。

 それに対してマキアスは腕を組んで考え込む。

 

「確かに気にはなるが……正直、現実味が薄いからな……

 《国防軍》などと言ってもまともな軍隊すら無いはずだし」

 

「そして、誇りと独立とは実力をもって勝ち取るもの……

 口先だけで独立を宣言してもすぐに撤回するのがオチだろう」

 

「それにしたってあまりに急過ぎる。この後の動き方次第ではクロスベルの状況に同情的だったリベールやレミフェリアさえも敵に回しかねないと思うけど」

 

「ふむ、一理あるが……」

 

 ユーシスの主張にクリスが自分の考えを補足してラウラが頷く。

 

「ま、シャーリィ達には関係ないでしょ。そんなことよりお祭りを楽しもうよ」

 

「他人事みたいに……」

 

 《赤い星座》による襲撃事件も今回の独立宣言に関わっているというのに無関係を装うシャーリィにアリサは呆れ、振り返る。

 

「そうですか……アリオスさんが……」

 

 Ⅶ組の輪から外れ、《ARCUS》を使って何処かと連絡を取っているリィンの表情はⅦ組と違って焦燥に駆られていた。

 

「……リィンの《ARCUS》だが、以前も疑問に思ったがどうしてクロスベルまで繋がるんだ?」

 

 連絡先はクロスベルの遊撃士協会。

 本来ならそこまで導力波は届かないことにガイウスは首を傾げる。

 

「なんか博士たちに改造してもらったみたいよ。導力波を単純に飛ばすんじゃなくて、導力ネットを介して通信しているから国際通話も可能なんだって」

 

 勝手に仕様変更をしているリィンにアリサは呆れたため息を吐く。

 

「…………実はミシェルさんに話したいことがあります。通信越しでは話せないことなので今からそちらに――」

 

「はい、そこまで」

 

 リィンの手からサラが《ARCUS》を抜き取り、強引に会話を止める。

 

「久しぶりね、ええ……そうよ……先週のクロスベルで何があったか聞いているわよ……

 そういうことだからリィンは行かせないから、貴方達で何とかしなさいよ。――うん、それじゃあ」

 

「サラ教官」

 

 勝手に話をまとめ、通信を切ってしまったサラにリィンは顔をしかめる。

 

「弁えなさいリィン。これはクロスベルの内政に関わることよ……

 遊撃士はそれに関わる事はできないし、だいたいあんた士官学院生っていう身分なのよ」

 

「だけど――」

 

「前の時は人命が掛かっていたから見逃したけど、今回のクロスベルの問題は国同士の問題よ……

 それにあなたの我儘で今日までの頑張りを台無しにするつもり?」

 

「っ……」

 

 サラが差したⅦ組の仲間たちを見せられてリィンは歯噛みする。

 教官の言い分は理解できる。

 対岸の火事のように危機感の薄いクロスベルのことで温度差ができていることも分かる。

 しかし、リィンは知っている。

 クロスベルが強気な暴挙に出た理由を。

 アリオスやキーアは任せてくれと言っていたが、果たしてそれを信頼して良いのか葛藤が揺れてしまう。

 

「明日のライブのこともあるけど、同好会の出し物に明日は妹さんも来るし、ノイやリンも楽しみにしていたんでしょ?

 クロスベルのことはそこにいる人達に任せておけば良いの。分かった?」

 

「…………分かりました」

 

 サラの念押しにリィンは葛藤を押し込めて頷く。

 アリオスは《剣聖》。そしてキーアも決して悪い子ではない。

 だからこの二人が揃っているのなら最悪なことにはならないはずだとリィンは無理矢理自分を納得させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 士官学院祭は様々な展示や屋台が並び、盛り上がりを見せていた。

 校舎の周りの屋台には様々な飲食物が揃って来場者たちを呼び込む。

 グラウンドでは二年の有志による乗馬体験と簡単なタイムアタックレース。

 一年Ⅱ組による教室を使った庭園。ステラガルテン。

 一年Ⅲ組は巷で流行っている“ブレード”というカードゲーム場。

 一年Ⅳ組は帝国では見ることのない東方風の喫茶店、東方茶屋。

 その他にも吹奏楽部による音楽教室など、様々な模擬店は来場者たちを楽しませた。

 そして、その中にそれはあった。

 

「これはいったい……」

 

 廊下には《灰》の騎神の様々な角度から撮られた写真が張り出され、さらには四つのモニターが設置された一室には物々しい五つの機械の塊が並んでいた。

 

「ここって《灰色の騎士》様の出し物があるって話だけど」

 

 噂の英雄の姿を一目見ようと集まった来場者たちは用途不明な導力器の部屋に首を傾げる。

 

「ようこそおいで下さいました」

 

 教室に入ることを躊躇っている一団に対して、リィンが教室から迎え出る。

 

「歴史研究同好会による出し物は《プロジェクト・ティルフィング》という、《騎神》の搭乗体験のアトラクションになります」

 

「え……? 俺達もあの《大いなる騎士》に乗れるって言うのか?」

 

「正確には《騎神》ではなく、こちらの《機械仕掛けの巨人》になります」

 

 リィンの説明に合わせて廊下に設置したモニターが起動する。

 そこに映し出されたのは蒼い装甲の機械人形が佇んでいた。

 

「皆さんにはあれに乗って仮想世界の帝都を脅かす《暗黒竜》と戦ってもらいます。頑張って帝都の平和を守って下さい」

 

「いや……いきなり乗って戦えって言われても、俺は導力車も運転したことはないのに」

 

「安心してください。ティルフィングは操縦する必要はありません……

 こちらが用意している《ARCUS》という戦術オーブメントを介して、機体と貴方達を繋げることで身体を動かす感覚で動かすことができます」

 

 その言葉を示すようにモニターの中の機神は体操を始める。

 腕を回し、脚を屈伸させる。

 大剣を構えた、振り回す様は機械とは思えない程に滑らかだった。

 

「でもボク、剣なんて使ったこともないし、けんかもつよくないんだけど」

 

「大丈夫だよ」

 

 興味はあるが自信がなさそうにする子供にリィンは笑いかける。

 

「フィー。やってくれ」

 

「ん、了解」

 

 教室の中、稼働しているオーブメントにリィンが呼びかける。

 少女の声に合わせて、モニターの中の機神が大剣を構え――

 

「――洸刃乱舞」

 

 静かな声と共に機神が連続で大剣を振る。

 

「今のはあの有名なアルゼイド流の技です……

 音声入力によって決まった動作を繰り出してくれます。また機体に搭載した人工知能が間合いやタイミングを合わせてくれるので戦ったことがないという人でも大丈夫です」

 

「じ、人工知能?」

 

『はーい!』

 

 聞きなれない言葉に戸惑う来場者たちに応えたのはスピーカー越しに聞こえて来た少女の声。

 

『みなさんの戦いはボクたちがサポートさせてもらいます』

 

 リィンの背後に突然現れてそう言ったのは、彼らが授業で使っている戦術殻。

 ふわふわと漂う不思議なそれは両手らしきものを動かしてアピールする。

 

「武装は大剣、ライフル、魔導杖を用意しています……

 導力魔法についても音声入力式で使用することができます」

 

「でも、戦うなんてやっぱり怖いわ」

 

「そういう方はこちらをどうぞ……

 飛行ユニットを搭載したティルフィングにより、三分間の帝都の空の自由飛行を楽しんでいただけます」

 

 モニターが切り替わり、翠の機神が蒼い空を自由に飛び回る姿が映し出される。

 

「戦闘シュミレーションの方にはハイスコアを取れた方には景品も用意していますので、頑張ってください」

 

『がおーっ!』

 

 そして最後にモニターは漆黒の竜が映し出され、その咆哮が廊下に響き渡った。

 

 

 

 

「それにしても凄い人だったね」

 

「ええ、俺一人だったら捌ききれなかったかもしれません。ありがとうございますジョルジュ先輩」

 

 教室の前の受付でリィンとジョルジュは使われたばかりの《ARCUS》の初期化と次の参加者への調整に勤しんでいた。

 

「はは、別に構わないよ。博士たちに表側で働いてもらうわけにはいかないからね……

 それに開発に関わらせてもらっているから、先輩としてこれくらいはしないと」

 

 朗らかに笑うジョルジュにリィンは恐縮する。

 今頃隣の教室では稼働データからのバグ取りやシステムの最適化のためにティータを含めた開発陣がリィン達以上の作業量で動いているだろう。

 それでなくても、士官学院の出し物なのだからリィンが受付をするのは当然なのだが。

 

「それにリィン君自身も凄い人気だね」

 

「それは……」

 

 ジョルジュの指摘にリィンは困ったように頬を掻く。

 列の整理中など、事あるごとに写真を撮らせてもらえないかとお願いされているだけに否定できない。

 

「なんかミシュラムのみっしぃになった気分ですよ」

 

 時の人となっている自覚はあるが、ある日のトラウマを刺激される視線に生きた心地はしなかった。

 

「ともかくトワ会長には感謝ですね」

 

「そうだね」

 

 学院祭開始早々に長蛇の列を作ることになった歴史研究同好会のブースにいち早く対処して、解決策を提示してくれた生徒会長に二人は感謝する。

 リィンへの撮影の申し込みに関しては貼り紙をして対処。

 長蛇の列はタイムテーブルを作って整理券を配布して解消された。

 廊下に設置したモニターは端末室や外の開けた空間に映写機を用意して人だかりを緩和させてくれた。

 それらの手配を素早く振り分けた仕事ぶりにリィンは改めてトワが生徒会長なのだと実感させられた。

 

「技術棟の裏で展示することになった“蒼”のティルフィングの管理も生徒会に任せてしまいましたし、本当に悪いことをしてしまいました」

 

「はは、トワは頼られると嬉しいみたいだから大丈夫だよ。その代わり後で何か差し入れをして上げるといい」

 

「そうですね」

 

 今日は屋台のもので差し入れを済ませるしかないが、明日の差し入れにはちょっと気合いを入れて用意しようと決意するリィンだった。

 

「それはそうと翠の操作アシストはノイちゃんとリンちゃんに任せて本当に大丈夫なの?」

 

「ええ、あの子たちがやりたいと言って言い出したことですから」

 

 暗黒竜に四人で挑む戦闘はこれまで実技テストやクリスの随伴などをやってくれていた戦術殻たちに。

 空の旅をナビゲートするのはノイとリンの二人。

 最初は人見知りだった二人も、今では知らない人間と接することができるようになった成長にリィンは嬉しくなる。

 

「意外だったのは戦術殻たちの方だね。あの子たちも自分達から協力したいって言って来たんだよね?」

 

「どうやら二人が彼らに自慢したみたいで、それで自分達も何かやりたいって言い出したんです」

 

「おかしいなそんな判断機能はついていないはずなんだけど」

 

 戦術殻の思わぬ行動にジョルジュは首を傾げる。

 

「エリカ先生が人の言葉を喋れるように改造してから、好奇心旺盛になったと聞いていますよ」

 

「それにしたってねえ……」

 

 納得がいかないとジョルジュはしきりに首を傾げる。

 

「…………でも、これでクロウと向き合えるのかな」

 

 ジョルジュは教室の中で駆動しているオーブメントを眺めてぽつりと呟く。

 

「ジョルジュ先輩」

 

 物思いに耽るジョルジュにリィンは何と声を掛けて良いのか迷う。

 クロウ・アームブラストとはあまり接点もなく、不真面目な先輩だというのがリィンの印象でしかない。

 もっとも不真面目と言っても、人となりは良く表向きでは死んだことになっている彼を悼んだ先輩達は多い。

 そんな彼が何故テロリストになったのか――とは疑問に思わない。

 リィンも一度復讐の焔に身を委ねようとしたことがあるからこそ分かる。

 

「復讐は理屈ではないんです。ただそれでも、守らなきゃいけない一線があるんだと俺は思います」

 

「リィン君……はは、ごめんね。せっかくの学院祭だって言うのに変なことを言って」

 

「いえ、俺の方こそ生意気を言ってしまって、すみません……

 でもクロウ先輩に届くとすればそれは俺の声ではなく、先輩達の声だと俺は思います」

 

「そうだね、届くと良いな……おや?」

 

 廊下の方から聞こえて来た喧騒にジョルジュは首を傾げる。

 

「この気配は……」

 

 近付いて来る覚えのある気配にリィンもまた意外そうな顔をする。

 賑わう来場者たちは彼女のために自然と道を開け、そのまま彼女を先頭に引き連れてやってくる様は異様の一言に尽きるがそれだけのカリスマをあると納得させられる。

 

「これが噂の“ティルフィング”という機神か」

 

「来ていたんですかオーレリア将軍」

 

「ああ、何とか今日までに仕事を纏めてな……

 一目《灰の騎神》を見物するつもりで来たのだが」

 

「申し訳ありません。ヴァリマールは現在修復中で展示することはできませんでした……

 でも技術棟の裏の広場でこの“ティルフィング”の展示しています。十二時にはラウラが殺陣を披露するので是非見て行ってください」

 

「うむ、妹弟子の晴れ舞台というわけか。後で見せてもらうとして、シュバルツァー」

 

「申し訳ありません。今日の分の整理券の配布は終了しています」

 

 機先を制するようにリィンはオーレリアの申し出に対して頭を下げた。

 

「え……いや……」

 

 当てが外れたオーレリアは珍しく狼狽えてリィンと今暗黒竜と戦っているティルフィングが映るモニターを交互に見据える。

 

「整理券はないのか?」

 

「はい。伯爵でも、皇子だろうと特別扱いはできません」

 

「……そうか」

 

 しょんぼりと肩を落とすオーレリアにリィンは安堵する。

 帝国貴族だから、そして戦うことに見境がない故に、今並んでいる人達の整理券を譲ってもらうと言い出さないかと警戒したが、杞憂で済んだようだった。

 故に――

 

「ただ一般参加はできませんが、特別枠に関しては先方次第ではオーレリア将軍に参加してもらっても構いませんよ」

 

「何!?」

 

 その提案に勢いよく顔を上げたオーレリアはリィンに詰め寄る。

 

「それはどういう意味だ?」

 

「ラウラの殺陣の後に、ゲストとしてヴィクター・アルゼイド子爵に乗ってもらう予定です……

 子爵閣下はマテウス卿に声を掛けて来るとは言っていましたが、他に参加者がいなかったらⅦ組から――」

 

「シュバルツァー。師たちは何処に?」

 

 がしりと肩を掴みオーレリアはリィンにさらに詰め寄る。

 

「えっとヴィクター卿なら先程ラウラと一緒にギムナジウムの方に――」

 

「ギムナジウムだな。了解した」

 

 最後まで聞かずにオーレリアは踵を返し、共闘の許可を得るために親子水入らずの場に突撃しに行くのだった。

 

「あ、あれが《黄金の羅刹》? なんか聞いていた印象とは随分と違うね」

 

「ええ、そうですね」

 

 ジョルジュの戸惑いにリィンは深く同意した。

 

 

 

 






 ゲスト戦闘

オーレリア
「ほうほう四種類の異なる機体か……」

ヴィクター
「では私から――ラウラが調整を手伝っている《蒼のティルフィング》を使わせてもらおう」

オーレリア
「む……」

マテウス
「では私は《紅のティルフィング》に乗るとしよう」

オーレリア
「むむむ……残りは琥と翠……重量級の砲戦機と飛行タイプの銃撃タイプ……」

トヴァル
「うう、何で俺はこんなところに……えっとオーレリア将軍、どうしますか? 俺はどちらでも良いんですが」

オーレリア
「しばし待て……ううむ」

リィン
「ちなみに皆さんには先に教えておきますが、相手の《暗黒竜》は一般人用の複製体ではなくイオに直接動かしてもらいます」

ヴィクター
「それはつまり本気でやって良いと言うことかね?」

マテウス
「ほう……本物の暗黒竜と戦えるとは光栄だ」

トヴァル
「よく分からないがガチだというのだけは分かった。恨むぜサラ……」

オーレリア
「シュバルツァーよ。本当にこの四機の中から選ばないといけないのか? できれば私も《蒼》が良いのだが」

リィン
「デモンストレーションなので、全部の機体を使って欲しいんですが……
 仕方がないですね。ヨルグさん、ビームザンバーのデータを入れることはできますか?
 ダブルバスターキャノンはこの際そのままで良いですから」

ヨルグ
「ふむ……良いだろう。三分待て」

リィン
「ということで、機体の重量はそのままですが、一応剣を使えます」

オーレリア
「すまない、この恩はいつか必ず返す」


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