(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~ 作:アルカンシェル
映画館よりディスク派なのでようやく蒼穹のファフナーの新しいのを見たんですが、閃Ⅳでやろうとしていることがマークアレスに近かったりします。
馬術部の出し物が片付けられたグラウンドには二つの篝火が灯る。
学院祭の締めとなる後夜祭。
篝火の炎に疲れ切っていた学生たちはようやく学院祭が終わったのだと安堵する。
「ではアルフィン。まずは景気づけと行こうか?」
「ふふ、承知しましたわ」
オリヴァルトの誘いを受けアルフィンは彼の手を取ってダンスを始める。
「さあ諸君たちも参加してくれたまえ」
理事長として、皇族として先陣を切ったオリヴァルトは呆けている生徒達やこの時間まで残っている来場者たちを促す。
「ふふ、無礼講ですからとにかく楽しみましょう」
アルフィンの言葉にようやく生徒達が動き出し、来場者たちもそれに続く。
グラウンドの至る所で即席のカップルができて、ダンスを始めていく。
「クローディア殿下、良ければ私と最初に踊って頂けないでしょうか?」
「え……?」
「弟君!?」
意外な人物の、普段とは違う紳士的な振る舞いにクローディアは目を丸くする。
「リィン君、いったい……?」
「リベールからの賓客を持て成すのは当然でしょう。本来ならオリヴァルト殿下がお相手すべきなのでしょうが、御二人は……」
リィンは言葉を濁す。
オリヴァルトとクローディア。
この二人は一度、縁談の話が巷に流れたことがあるだけに過渡な交流は周りに邪推されてしまう。
そこでオリヴァルトの代理に個人的な交流があるリィンに白羽の矢が立った。
「殿下をお借りしてもよろしいですか二人とも?」
リィンは卒なくクローディアの護衛であるユリアとアネラスに尋ねる。
「ああ、君なら私達も安心だ」
「くっ……こんなに立派になって、お姉ちゃんは嬉しいよ」
リィンの人柄をよく知っている二人は快く二人を送り出す。
「それではクローディア殿下、御手を――」
「は、はい……」
リィンに促されてクローディアは初めて見るリィンの紳士的な対応に面を喰らいながらエスコートされる。
「…………まったく、随分と女たらしになったんですねリィン君?」
オリヴァルト達とは別に周囲の注目を浴びながらクローディアは手を取り合ったリィンに文句を呟く。
「人聞きの悪いこと言わないでください」
先程までの紳士的な物腰から一転して情けない顔でため息をつくリィンのギャップにクローディアは思わず笑う。
「リィン君、改めてクロスベルでは助けて頂きありがとうございました」
「御礼なら会った時に聞きましたよ?」
「あれはクローディアとしてです。今のはクローゼとしての言葉だと思ってください」
「…………あの御礼ならどうしてそんなに凄んでいるんですか?」
「あら、何のことですか? 私はちゃんと笑顔ですよ」
外交用の笑顔を向けて来るクローディアにリィンは思わず腰が引ける。
しかしダンスのために取った手の力は思いの外に強く意味はない。
「本当に心配したんですよ」
「で、でも《灰の起動者》は二年後の《黄昏》のために生かされている因果があるから、生き残れる可能性は高かった――」
「リィン君」
「はい、ごめんなさい」
言い訳を撤回してリィンは素直に謝罪する。
「ふふ、冗談です。でも本当に自分も大事にしてくださいね。リィン君が死んで悲しむ人は沢山いるんですから」
「クローゼさん」
クローディアの言葉に少しだけ肩の荷が軽くなった気持ちになる。
「それにしても学院祭と言えば初めて会った時を思い出しますね」
「そう言えばクローゼさんと初めて会ったのはジェニス王立学園の学園祭の時でしたね」
「あの日はいろいろあって後夜祭に出られませんでしたけど……
ふふ、まさかリィン君とこうして踊る日が来るなんて思っていませんでした」
「俺にとってあの時の記憶も出来事もできることなら抹消したいんですけど」
正確には学園祭の記憶ではなく、その後の事件の記憶。
徹夜明けのテンションと、勢いに任せた若さの暴走により今でも付き纏う黒歴史を作ってしまった瞬間でもある。
「そうですか? そう名乗るのに相応しい実績を重ねているような気がしますが、《超――」
「やめてください」
懇願するようにリィンはクローディアの言葉を遮る。
年下の少年らしい反応にクローディアは微笑み、切り出すべき本題に入る。
「実は無理して来たのはクロスベルの問題とは別に個人的に確かめておきたいことがあったんです」
「確かめたいこと?」
「はい、あの時ゲオルグ・ワイスマンはリィン君のことを“雲の至宝”と呼んでいました……
リィン君の聖痕が《フェンリル》を呑み込んで進化したそうですが、二年後のあの話はどうなったんですか?」
クローディアの質問にリィンはまず周囲を確認する。
注目こそ集めているが会話は聞かれていないことを確認して答える。
「どうなるかは結局、その時になってみないと分かりません」
「そうですか……」
「術の全容を解明するために、俺を解剖するなんていうのは本末転倒ですから」
「………………リィン君、リベールに亡命するつもりはありませんか?」
「クローゼさん?」
「帝国に《リベル=アーク》に相当する至宝が存在していること、リィン君がその因果の中に囚われてしまっているのは分かっています……
でもだからってリィン君が全部を背負う必要はないはずです」
「…………」
クローディアの指摘にリィンは沈黙を返す。
「投げ出して逃げ出しても良いじゃないですか……
オリヴァルト殿下はリィン君の味方かもしれませんが、オズボーン宰相のようにリィン君の敵の方が帝国には多過ぎます」
「ありがとうございます、その気持ちだけで十分です」
「……そういうところは変わってないですね」
最初からその答えを予想していたクローディアはため息を吐いて肩を落とす。
「こればかりは性分ですから」
リィンは微笑を返して続ける。
「確かに俺は最初から起動者に選ばれる因果を持っていました……
でもヴァリマールに乗ることを拒否することはトールズ士官学院に進学する前にできたんです」
リベールで交わした彼との契約は正式なものではなく、旧校舎で正式に契約を交わすまでリィンは仮の起動者だった。
「俺がこの道を選んだのはノイを受け入れたからとかじゃないんです……
同じ後悔をしないために、あの子や大切な誰かを二度と見殺しにしないために戦うって決めたんです……
だからこればかりは逃げるわけにはいかないんです」
「ええ、リィン君ならそう言うと思っていました」
そこで一巡目の音楽が終わり、リィンとクローディアはどちらともなく離れる。
「でもこれだけは忘れないで下さい。リベールはリィン君の味方だと言う事を」
「……はい」
クローディアの申し出にリィンは素直に頷くのだった。
「さて、ではクローディア殿下。次はボクと踊って頂けるかな?」
「リィンさん、よろしければ次はわたくしと踊って頂けないでしょうか?」
最初の相手のダンスを互いに済ませたと言う事で、オリヴァルトがクローディアを誘い、アルフィンがそれに便乗してリィンを誘う。
二曲目は互いのパートナーを入れ替える形で踊り――
「ねえねえリィン君。良かったら私のお姉ちゃんと踊ってくれない?」
「ちょっとヴィヴィ」
三曲目には平民クラスの双子の姉妹が姉を押し出す形でダンスの相手に立候補させる。
それを皮切りに音楽が一巡する度に貴族、平民問わずリィンをダンスに誘う。
「ぐぬぬ……リィン君、ボクと言う者がありながら」
その光景にオリヴァルトが悔しそうな怨嗟を漏らす。
「くっ……私の小猫ちゃん達が……」
「あはは、まるで去年のアンちゃんみたいだね」
「確かに、っていうか乱闘はやめてよね」
先輩達はその光景に悔しがる者と、懐かしむ者に分かれる。
「やれやれ……まさかここまでの人気とは、いったい誰に似たのだろうな?」
ヴァンダイクが隣に立って、共に後夜祭を楽しむ生徒達を見守りながらギリアスに話しかける。
「ハハ……シュバルツァー卿の薫陶があればこそでしょう」
苦笑交じりにギリアスはヴァンダイクに返す。
「閣下」
そんな独特は空気のやり取りをする二人に割って入ってクレアが話しかける。
「どうしたのかね? もしや君も彼と一曲踊りたくなったかな?
護衛については、帝国の猛者たちが集う場だ。一曲くらい席を外しても問題はないだろう」
茶化すようにギリアスはクレアにそう提案してみる。
「いえ、リィンさんとはユミルで練習相手をしていましたから結構です。それより憲兵隊本部からクロスベルで動きがあったと報告がありました」
「ほう……」
ユミルでの出来事に興味はそそられるが、ギリアスは宰相としての顔でクレアに向き直る。
「私は席を外した方がよろしいかな?」
「いえ、できればヴァンダイク学院長にも聞いて頂きたいと思います。後夜祭を締めくくる時に来場者たちに注意を促して頂きたいですから」
クレアの進言にヴァンダイクは顔をしかめる。
「どうやらただ事ではないようだな」
「はい。本日夕刻、東部国境にある《ガレリア要塞》が壊滅……
いえ、原因不明の異変により“消滅”してしまったそうです」
クレアの報告にギリアスとヴァンダイクは息を呑む。
その報告は彼らだけではなく、この場にいる軍関係者や帝国の重鎮たちにもそれぞれ個別の連絡が届き、後夜祭の和やかな空気は物々しいものへと変わって行く。
ヴァンダイクが後夜祭の締めくくり、来場者たちへの注意を促す。
それを尻目にギリアスはクレアを伴い、一人の士官学院生の前に立つ。
「《灰色の騎士》リィン・シュバルツァー。帝国政府を代表して君に要請しよう」
「っ――」
厳格の言葉にリィンよりもその周囲にいたⅦ組の仲間たちが気押されるように息を呑む。
「子細はまだ掴めていないが、ガレリア要塞を“消滅”させたクロスベルの兵器に対抗するために君の力を貸してもらいたい」
その要請にリィンは瞳を揺らし、諦めたように肩を落とし、頷いた。
「その要請――しかと承りました」
その頃のクロスベル
ロイド
「………………何てことを……」
クルト
「第五機甲師団が……それにガレリア要塞まで……」
ランディ
「…………あり得ないだろ……」
エリィ
「……私たち……夢でも見ているの?」
ティオ
「残念ながら……現実みたいです……」
アリオス長官
「――その通りだ。そして《奇蹟》の後にも現実は待ち受けている」
ロイド
「え……?」
ノエル
「抵抗は無駄です。既にミシュラム一体は国防軍が制圧しています。どうか……大人しく投降してください」
ランディ
「ノエル、お前……」
ロイド
「……どうして……」
アリオス長官
「御苦労、シーカー少尉。私はオルキスタワーに戻る。彼らの拘束は任せたぞ」
ノエル
「了解しました!」
………………
…………
……
キーア
「ゴメンね……今までありがとう。大好きだよ――みんな……ゴメンね、リィン」
通信越しに聞こえて来た彼女の言葉の意味をロイド達はその時に理解することはできなかった。