(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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140話 交渉

 

 それは一枚の色紙だった。

 この半年ですっかり慣れたものとなったそれをリーシャは呆然と見つめる。

 

「どうして……」

 

 色紙の一番上に書かれた言葉はそれとは似つかわしくない題目と文面。

 

「借用書……」

 

 それがリィンからリーシャに渡されたものだった。

 内容はイリア・プラティエの治療に対して、劇団アルカンシェルは代金として以下の対価をリィン・シュバルツァーに払うこと。

 リーシャ・マオを含めたアルカンシェル一同での帝都の劇場での出張公演。

 なおこれが為されなかった場合、十億ミラの違約金を払うことを約束する。

 

「なんで……」

 

 規則正しい契約文に書き加えられているのはそれぞれのサイン。

 

『早く戻ってこないとオレがリーシャ姉の役を奪っちゃうからな』

 

「シュリちゃん……」

 

『リィン君のおかげでイリア君は元気だ。帝都で公演ができれば壊れた劇場を建て直す資金にもなる』

 

「アバン劇団長……」

 

『隠すものがなくなったなら、リーシャ・マオの本気の動きをみせてくれるんだよね? 待ってるよ』

 

「先輩……」

 

 そして――

 

『あんたにとって、一番大切なものはなに? その大切なものを前にして頑張らずにいられるの?』

 

「イリアさん……」

 

 契約書に書かれた寄せ書きにリーシャは俯き、震える。

 復讐を理由に飛び出したが、それは半分劇団から離れる口実に過ぎなかった。

 かつて《銀》の正体を知られたことでリーシャはリィンを殺そうとした。

 《痩せ狼》によって劇団員に観客たち、不特定多数の人間にリーシャの本質を知られることとなった。

 

「どうして……こんな……」

 

 一番怖かったのは、あの暖かだった劇団の人達からの恨み言。

 公演を滅茶苦茶にされ、劇場は倒壊、イリアは瀕死の重傷。

 その全ての原因は《銀》であるリーシャの存在に他ならない。

 そして身勝手なことにリーシャは復讐を理由に、その責任から逃げ出した。

 しかし、リーシャに届いた劇団の言葉は彼女が想像していた言葉は一つもなかった。

 

「どうして私なんかに……全部私のせいなのに……

 血塗られた私が……闇の中に生きて来た私なんかがこんな温かい言葉を貰って良いはずがないのに……」

 

「そんなのみんながリーシャさんのことが好きだからに決まっているじゃないですか」

 

 思わず零れたリーシャの弱音にリィンが彼らの言葉を代弁する。

 

「リーシャさんが凶手だったとしても、それは変わらなかった。それはいけないことなんですか?」

 

「リィン君……それでも私は……」

 

「復讐を否定するつもりはありません……

 だけど、自分が死ぬための復讐だと言うなら、はっきり言って邪魔です」

 

「っ――」

 

「俺からはそれだけです」

 

 一方的に言って背中を向けたリィンにリーシャはただその場に立ち尽くした。

 

 

 

 

 

「随分と厳しいことを言うんやな」

 

 リーシャを置いて歩き出したリィンに独特な訛の声が掛けられる。

 

「だけど誰かがちゃんと言わなければいけなかったことだと思います……

 リーシャさんは無意識に凶手である自分が誰かに好かれるはずがないと思い込んでいるところがありましたから」

 

「…………なるほど……あの別嬪さんが凶手とはなあ……

 それにしてもリィン君、すっかり説法も板についているやないか、ルフィナ姉の薫陶の賜物か?」

 

「そんな大層なことは言っていませんよ。ケビン神父」

 

 らしくないことをしているとリィンは自嘲しながらケビンに向き直る。

 

「それで帝国のクロスベルの侵攻に七耀教会が協力するとはどういうことなんですか?」

 

「それはなぁ」

 

 明らかに無理をしている顔のリィンにケビンは彼にこそ、神父のありがたい言葉を告げるべきだと理解しつつも、守護騎士として答える。

 

「君のお父さんが頑張ったせいや」

 

「…………この場合、テオ父さんではなくギリアス・オズボーンのことですよね?」

 

 リィンの確認にケビンは頷いて続ける。

 

「クロスベルの独立宣言から色々と調べ取ったみたいでな……

 うちには協力要請、遊撃士協会には《風の剣聖》のことで抗議文を送りつけてな。今は連絡が取れなくなったクロスベル支部のことでエステルちゃん達はレマン自治州に出頭させられとるんや」

 

「そんなことになっていたんですか……」

 

 ケビンが教えてくれた外の国の動きにオズボーン宰相の周到さに感心する。

 

「ここだけの話やけど、ディーター大統領は《幻の眷属》の末裔みたいでなぁ……

 失われた《幻の至宝》を復活させるために《D∴G教団》を影から操っておったらしい」

 

「それは俺も知っています」

 

「ま、オレ個人としてもクロイス家のやり方は気に食わんのや……

 他人の手を汚させて、自分はその罪とは無関係な顔をしてヒーロー気取り、これならあのワイスマンの方がなんぼかマシちゅうもんや」

 

「ほほう、それは嬉しいことを言ってくれるね。ケビン・グラハム」

 

「げっ――」

 

 噂をすれば影と言わんばかりに現れたワイスマンにケビンは顔をしかめる。

 

「ふふ、君とこうして顔を合わせるのは《リベル=アーク》のあの時以来かな?」

 

「なあリィン君、本気でこんな奴と手を組んどるのか?」

 

「言いたいことは分かります。だけど現在のクロスベルの内部の情報を持って来てくれたのは彼ですから」

 

「せやけどな……」

 

「そう邪険にしないでくれたまえ。今の私はリィン・シュバルツァーに誓って殺生は控えているのだから」

 

「俺に誓われてもなあ……」

 

 ワイスマンの言葉にリィンは思わず遠い目をする。

 

「まあこんなことを言っても信じてもらえないのは分かっているよ……

 しかし、ならばここはお近づきの印として君が知りたい情報を一つ提供しよう」

 

「な、なんやと?」

 

 ケビンは思わず身構える。

 

「クロスベル独立国は民間人に《グノーシス》を服用させている。名はヴァルド・ヴァレス……

 旧市街にたむろしていた所謂街の不良で、これは関係ないかもしれないが友達にワジ・ヘミスフィアと言う青年がいるらしい」

 

「…………は……?」

 

 ワイスマンの言葉にケビンは二重の意味で驚く。

 

「なあリィン君……《教団事件》の時に押収した《グノーシス》ってどないしたん?」

 

「クロスベル警察が責任をもって保管・処分すると言っていたので任せました」

 

「そうかそうか……ワジが何か隠しとると思ったけどそういう事やったんやな」

 

 リィンの答えにケビンはうんうんと頷く。そして――

 

「アホかクロスベルっ!?」

 

 ケビンの叫びが蒼い空に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 クロスベル市を覆う半球状の不透明な結界。

 許可された者だけの通行を許し、認められない者は拒む。《零の至宝》の力によって作り出された絶対障壁。

 例え帝国軍や共和国軍が《神機》を潜り抜ける事が出来たとしても、その“結界”が彼らの侵攻を阻む最強の盾となっていた。

 

「ソーニャ司令、本当にベルガード門を放棄して良かったんですか?」

 

 結界の境界に防衛ラインを構築したノエルは指揮官であるソーニャを振り返る。

 

「アリオス長官からの指示よ。帝国の《灰の騎神》に対して国防軍の通常戦力ではベルガード門は護り切れないという判断は間違っていないわ」

 

「それは……そうかもしれませんが……」

 

 理屈は理解できるが、結界に立ち往生する敵を撃つだけの一方的な陣形にノエルは強い違和感を覚えずにはいられない。

 

「心配し過ぎだノエル。俺達には“勝利の女神”がついているんだ。帝国の悪魔になんて負けるはずがないだろ」

 

「そうだぜ。共和国の爆撃機を落とすために撤退するしかなかったけど、あのままやっていれば《神機》が勝っていたのは間違いなかっただろ」

 

「ああ、戦車なんかなくても俺達は二大国に勝てるんだ」

 

「みんな……そう……ですよね」

 

 気軽い調子で笑っている同僚たちにノエルは浮かない顔をする。

 

「ノエル少尉、切り替えなさい」

 

「ソーニャ司令…………はい」

 

 呑み込み切れない不安をソーニャの一言でノエルは思考から追い出す。

 

「私たちが……私たちがクロスベルを帝国から守らないと」

 

 何度もノエルは言い聞かせ、落ち着きなく導力ライフルに触れる。

 帝国は列車砲では飽き足らず、それ以上に恐ろしい《騎神》を造り出していた。

 その力をクロスベルに向けられることに憤りを感じずにはいられない。

 

「来たぞっ!」

 

 誰かが街道の向こうを指差して声を上げる。

 西クロスベル街道を我が物顔で歩いて来るのは二ヶ月前に同じことをした《灰の騎神》。

 

「合図を出すまで撃たないように」

 

 ソーニャが逸る軍人たちを諫める。

 その言葉に導力ライフルを構えようとしたノエルは引き金から指を外す。

 

「ここまで帝国軍は結界まで辿り着けなかった……これに阻まれて引き返してくれるなら良いけど」

 

 果たしてディーターが絶賛していた結界は彼にどれだけ通じるのか、ソーニャは不安を感じながらマイクに向かって言葉を作る。

 

『こちらは『クロスベル独立国』、ベルガード門司令ソーニャです……

 帝国軍に告げます、貴方達がしていることは領域侵犯であり、直ちに引き返さなければ武力を持って迎撃させてもらいます』

 

 半分は強がりでソーニャは警告する。

 国防の要だった神機達が彼によって撃破されてからまだ時間は経ってない。

 新生した《神機》についても大統領からの情報はなく、結界越しに一方的に攻撃できる利点がなければとてもではないがただの人間に相手ができるわけない相手。

 

『こちらは帝国軍臨時武官リィン・シュバルツァー』

 

 ソーニャの呼び掛けに《灰》は足を止めて応える。

 

『帝国政府はクロスベルの独立を認めておらず“独立国”を認めていない。よってその要求には正当性はないと判断する……

 エレボニア帝国の要求は今回の事件の扇動者であるディーター・クロイスの引き渡し……

 彼には《D∴G教団》の繋がりがある可能性を疑われている……

 資産凍結から始まる非を認め、速やかな武装解除を宗主国であるエレボニア帝国代表としてクロスベル属州国に要求する』

 

 聞こえてくる少年の言葉にソーニャは眉を顰める。

 陣形を保つ軍人たちはあまりにも一方的な帝国の言い分に憤りを露わにしてソーニャに射撃の許可を求める。

 

『あ、あー。こちら七耀教会の者なんですが』

 

 一触即発の空気を破ったのは独特な調子の声で《灰》の肩に立ち上がった七耀教会の神父だった。

 彼はその手にマイクを持ち、少年に代わって交渉を始める。

 

『クロスベルの独立を認めておらんのはアルテリア法国も同じでしてな……

 根拠としては色々あるんやけど、貴方達が国防の要として使っておる《神機》などの技術が《D∴G教団》に由来する代物であることが一番の理由や……

 更にはその結界に閉じこもって儀式を行おうとしているという情報をオレらは独自のルートで入手しておる……

 クロスベルが潔白だと言うなら、すぐにこの結界を解いて調査に協力して欲しい』

 

『…………アルテリア法国は帝国に組したと言う事かしら?』

 

『エレボニアとクロスベルの関係にアルテリアは口を挟むことはあらへん……

 せやけど《D∴G教団》の問題は別や。これに関しては教会も遊撃士も強制捜査を行う権利を有しておる……

 正式な令状だってここにあるんやで』

 

 その令状を掲げて見せる神父にソーニャは唸る。

 本来なら国家元首となったディーターを狂信者と見做すことに異を唱えるべきなのだが、《神機》の存在、クロスベルを守る“結界”。

 そして半年前の教団事件の中心にいたキーアの存在が七耀教会の神父の言葉に信憑性を感じてしまう。

 

『あんたらにとって今は自分達を中心に世界を変えているええ気分なのかもしれへんけど、冷静に考えてもらえんかな?』

 

『残念だけど警備隊にせよ、国防軍にせよ《文民統制》の原則は変わらないわ……

 問題があるとはいえ、『クロスベル独立国』が成立して大統領という国家元首がいる以上、私たち軍人は、勝手な判断で武力を行使することは許されない』

 

『それはちゃうやろ。大統領が間違っていると思ったのなら他の誰でもないクロスベルの中の誰かが立ち上がって正さなければならない……

 オレやリィン君ではディーター・クロイスを捕まえることはできても、クロスベルが第二の《D∴G教団》となっていないことを証明することはできへん……

 あんたら軍人が護るべきものは国家の体裁じゃなくて、そこに住んでいる人じゃないんか?』

 

『それは……』

 

『それからな、あんたが言っとるディーター大統領はクロスベルの市民に《グノーシス》を使わせておる』

 

 その言葉に国防軍がざわめき出す。

 

「そんな馬鹿な!」

 

「デタラメを言うな!」

 

『デタラメとちゃうで。ヴァルド・ヴァレスってディーター大統領の私兵の男がそうだってちゃんとこっちも調べとるし、裏取りもしてある』

 

「どうしてそれをっ!? あ――」

 

 神父の言葉に反応してしまったノエルは失言だったと口を噤むが、吐いた言葉は戻せない。

 同僚たちの視線がノエルに集中し、思わず立ち竦む。

 

『これで分かったやろ?

 ディーター大統領に国家元首としての“正当性”はあらへん……

 せやからもう一度言わせてもらおう、冷静に何が正しいのか、間違っとるのか、クロスベルの市民を護るための判断をして欲しい』

 

 真摯に訴えかけてくる神父にソーニャは苦虫を噛み潰したように唸る。

 

「ソーニャ司令! 構うことないですよ! 所詮は帝国に組した奴等なんだ!」

 

「そ、そうだ七耀教会がなんだって言うんだ。元はと言えばあいつらがクロスベルを属州国として認めたせいでもあるんだ」

 

「クロスベルを盟主にした新しい秩序が生まれようとしている今、七耀教会は必要なんですか!?」

 

「クロスベルの独立を認めない国なんて全て滅ベば良いんだ!」

 

『やめなさいっ!』

 

 暴走しようとする国防軍人たちにソーニャはマイクを使って制止する。

 

「何で止めるんですかソーニャ司令?」

 

 ソーニャの背後でノエルが疑問をぶつける。

 

「あたしたちは警備隊で《国防軍》で……あたしたちがクロスベルを護らないといけないんですよ?」

 

「ノエル少尉?」

 

 ゆらりと覚束ない足でにじり寄って来るノエルにソーニャは悪寒を感じる。

 

「帝国軍は本当にあの恐ろしい列車砲を撃ったんですよ? 命中したら何百もの犠牲者が出たかもしれない大量破壊兵器を……

 そして今、その列車砲よりも恐ろしい“悪魔”がクロスベルを滅ぼそうとしている」

 

 気付けばいつからだろうか、彼女たちの足元には黒焔色の不気味な花が咲き乱れている。

 

「ソーニャ司令はクロスベルを帝国に売るって言うなら、あたしは……あたしは……」

 

 ノエルは体を震わせながら導力銃を固く握り締め、その銃口をソーニャに向ける。

 

「貴女……その目……」

 

 ノエルの目に赤い色が揺らぐ。

 資料で知っている《グノーシス》を服用した者の特徴。

 ベルガード門で怪しげな薬は出回っていなかったと断言できるのに、ノエルだけではない国防軍たちの瞳は程度の差はあっても次々に赤に染まっていく。

 

「まさか本当に……」

 

 それが《グノーシス》を服用したせいではなく、クロスベルの結界内に充満した《零の至宝》の神気による充てられたせいだとは何の知識もないソーニャには判断することはできなかった。

 ただはっきりしているのはノエルを始めとした国防軍はもはや正気ではないこと。

 

「あたしがクロスベルを護る……あたしが……わたしが……俺達が……《零の至宝》がクロスベルを護ってくれる……だから邪魔しないで」

 

 何かに背中を押されるようにノエルはソーニャに向けた導力銃の引き金を――

 その瞬間、凄まじい轟音が響き渡る。

 

「何が!?」

 

 音に振り返れば、いつの間にか《灰》から降りた少年が結界を斬りつけていた。

 

「あ、あはは、見てくださいソーニャ司令! あのリィン・シュバルツァーにもクロスベルを護る結界は破れないんですよ!

 だったら何を畏れる必要があるんですか!? もう帝国にも共和国にも法国にも遊撃士協会にも畏れる必要なんてないんですよ! あはははっ!」

 

「ノエル少尉……」

 

 狂ったように笑うのはノエルだけではない。

 ノエルと同じように哄笑を上げる部下たちにソーニャは恐ろしいものを感じずにはいられない。

 身に余る“力”を振りかざした反動。

 かつて帝国で錬成された《鋼》のように、《零》もまた人の手の中で納まる道理はない。

 

『聞きなさいリィン・シュバルツァー! この結界の解き方は――』

 

 ソーニャは手に持っていたマイクに向かって叫ぶ。

 それに反応してノエルが、国防軍が一斉に導力ライフルを向けて来るが、ソーニャは構わず続ける。しかし――

 

「ヴァリマールッ! ケビン神父っ!」

 

『応っ!』

 

「どうなっても知らんからな!」

 

 リィンの力強い声が彼女の声を掻き消し、彼は斬り損ねた結界に構え直す。

 その背後で《灰》が両手を前に突き出し、装甲をスライドさせて増幅器を回転させ、生み出された“力”を起動者に送る。

 

「我が深淵に煌く蒼の刻印よ……天に上りて煉獄を照らす光の刃と化せ」

 

 神父の背に青白い《聖痕》が浮かび出現し、彼が纏う光はリィンへと送られる。

 

「――っ」

 

 胸を押さえるリィンは注ぎ込まれた“力”に苦し気に呻く。

 

「――神気…………合一っ!」

 

 自分の力、騎神の力、そこにオリジナルの《聖痕》の力を混ぜ込み昇華させる。

 禍々しい聖痕がリィンの胸から広がり、顔まで浸食する。

 ソーニャに見えたのはそこまでだった。

 遠目にも関わらずリィンの姿を見失い、結界を斬りつける音と衝撃が連続して炸裂する。

 どれだけの斬撃を繰り出したのか、一息の呼吸の限界かリィンは斬撃を止める。

 目にも止まらない無数の斬撃を受けたにも関わらず、結界は依然とクロスベル国防軍とエレボニア帝国軍を隔てていた。

 しかし――

 

「――八葉一刀、無仭剣・滅」

 

 リィンが太刀を納めた瞬間、クロスベルを護っていた絶対障壁は音を立てて砕け散った。

 

「………………え?」

 

 無敵を誇るはずだった結界の消失に国防軍たちは我が目を疑う。

 

「あれ……あたしは……何でソーニャ司令に銃を向けて……」

 

 “結界”が壊れたことでその衝撃により足元の花草は吹き散らされて正気に戻ったノエルは直前に自分がやろうとしていた“愚行”に震えて導力銃を取り落とす。

 

「司令……あたし……あたしは……」

 

 頭を抱えてノエルは狼狽する。

 いくらソーニャがケビン神父の、ひいては帝国の侵攻を受け入れようとしていたとしても、そこにあるのはクロスベルの安寧のためだった。

 それは分かっているはずなのに、ノエルは“魔が差した”ようにソーニャを裏切り者として撃とうとした。

 短絡的に尊敬する上司を手に掛けようとした“自分が信じられない”。

 それはノエルだけではなく、国防軍も同じで――その明確な隙をリィンは――リィンと彼女は逃すことはしなかった。

 

「「合技・比翼鳳凰撃っ!」」

 

 リィンとリーシャの合わせ技が国防軍たちを蹂躙した。

 

 

 

 




契約

イリア
「なるほど霊薬の対価に帝国での公演ね」

シュリ
「ごめんなさい、イリアさん、アバン団長。勝手なことをして」

アバン
「いやいや、帝国で公演するだけでイリア君の命を救ってもらえると言うのなら何の問題もない……
 むしろ倒壊した劇場を建て直す間の場繋ぎにもなるし願ったりだ」

イリア
「って言うかこの条件ってあくまでも取って付けたようなものでリィン君にとってはあまり利益になる様なものじゃないのよね」

アバン
「うむ、帝都公演の売り上げの一割をリィン君の取り分として、余りは全て私たちの懐に入れて良いと言われているからね……
 再建費用を考えるとありがたいが、逆にここまでしてもらうと心苦しくなってしまうな」

イリア
「しかも帝国での公演についての交渉もリィン君に任せることになるわけだし、対価を支払うために負担を強いるなんて本末転倒よね」

アバン
「とりあえず形だけも対価を支払って欲しいというわけで、帝都での公演をしなかった場合としての違約金の額を一億ミラとしてみたんだがどうかね?」

イリア
「あら団長、私の命の値段が一億ミラだなんてけち臭いこと言わないでよ、はい一億ミラプラスね」

ニコル
「条件にリーシャも付けるなんてどうだろう? リーシャがこのことを知れば一度くらいは戻って来てくれるかも」

イリア
「良い案ね、ついでにもう一億プラスしておきましょう」

テオドール
「あくまでも違約金だからな。公演すれば払わなくて良いんだし、リーシャは必ず戻って来てくれるからもう一億プラスしても良いんじゃないかな」

プリエ
「それに帝都の劇場に行けるってことはオペラ歌手のヴィータ・クロチルダに会える可能性もありますよね?
 彼女の技術を間近で見ることができるチャンスと思えばもう一億プラスしてもいいんじゃないかしら?」

シュリ
「ア、アバン劇団長、みんなを止めないと――」

アバン
「では違約金は切りよく十億ミラとするとしよう」

シュリ
「劇団長!?」

イリア
「流石、話が分かるわね……
 そう言えば、リーシャが戻って来たら流石に敬語使わなくちゃダメかしら?」

シュリ
「イリアさんいきなり何を? 悪いものでも食べた?」

イリア
「シュリは知らないでしょうけど《銀》って言うのは以前、うちに脅迫状を出してきた東方の凶手のことでね……
 まあ、それは偽物だったんだけど。本物の《銀》は百年以上前から存在している不老不死だとか」

シュリ
「不老不死ってそんな……いや、どんな怪我もすぐに治した“霊薬”が存在しているんだから、そんな薬があってもおかしくないのかな?」

イリア
「そう、つまりリーシャは私たちより遥かに年上のリーシャお婆ちゃんだったのよ!」

アルカンシェル一同
「「「な、何だってぇ!?」」」


 ………………
 …………
 ……

リィン
「違約金? 一、十、百、千、万…………十億ミラ……
 《グラン=シャリネ》…………2000本……なんで?」


 ………………
 …………
 ……

リーシャ
「くしゅんっ! やっぱり今頃みんなは私の事を責めているのかな……?」



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