(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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141話 支援課の真実

 

 

 

 

「今頃リィン君はクロスベルに突入している頃か……」

 

 クロスベルへの侵攻準備で慌ただしくなっている帝国軍を尻目にロイドは更地となったガレリア要塞から結界が消えた空を眺める。

 時刻はロイドの気分を示すような黄昏時。

 東に位置するクロスベルの空には既に夜の帳が落ち始め、もうすぐ夜が訪れることが分かる。

 

「ロイドさん……」

 

「すまないクルト、折角帝国に脱出させて上げられたのに――」

 

「それ以上言わないでください」

 

 何度目かになる謝罪にクルトは嘆息する。

 

「気遣ってくれているのはありがたいですが、いつまでも子供扱いしないでください……

 僕だってまだ特務支援課のつもりですから」

 

「……そうだな」

 

 クルトの言葉に頷いてロイドはクロスベルに向けて出発した戦車を振り返る。

 

「クロスベルはどうなるんだろうな?」

 

「…………こんなこと本当は言うべきではないんでしょうが」

 

 ロイドの呟きにクルトはそう前置きをして答える。

 

「クロスベル問題の根本の原因は二つの大国がその権利を主張し合っていたことが原因です……

 どちらか一方に統治が委ねられれば、僕達が憤りを感じていた問題の大部分は解決するでしょう」

 

「そうか……そうだな……」

 

「そしてどんな形であれ、民衆はディーター大統領を選び、帝国と共和国に弓を引く道を選びました……

 その選択に、僕達が口を挟む権利はないでしょう」

 

「ああ……」

 

「帝国政府はクロスベルの《零の至宝》を《D∴G教団》の御子と既に公表して各国に働きかけています……

 恐ろしいことにオズボーン宰相はもうクロスベルを占領するための絵を描き切っていたんでしょう」

 

 アルテリア法国や遊撃士協会を巻き込み、もう帝国が内戦を理由にここから手を引いたとしてもクロスベルはその二つと戦わなければならない。

 果たしてクロスベルの独立に賛同した小国や自治州は帝国と共和国に敵対する覚悟はあっても、七耀教会と遊撃士協会の二つと争う覚悟はあるのだろうか。

 そして本当に恐ろしいのは、オズボーン宰相が倒れても各国がクロスベルを第二の《D∴G教団》と認識する流れを変えることはできないと言う事だろう。

 

「リィンさんがいるから、とかそういう次元の話ではありません……

 もう準備の段階で帝国がクロスベルを占領する大義名分が整っているんです」

 

「…………本当に俺達にできることはもうないんだな……いや……」

 

 この期に及んで逮捕するべき敵はアリオスとディーターしか見れない自分にロイドは呻く。

 

「クルトはこれからどうする?

 さっきの話とは別に、帝国でも内戦が始まってクリスが狙われているかもしれないんだろ?

 護衛役として気にならないのか?」

 

「もちろん気になりますが今は護衛役の任は解かれていますし、自分が関わった子供を放り出して駆け付けたら、それこそセドリックや父に逆に怒られるでしょう」

 

「…………羨ましいな」

 

「え……?」

 

「離れていてもちゃんと通じ合っている。俺は……あんなに近くにいたのにキーアのことを何一つ理解して上げることはできなかったのに」

 

「ロイドさん……」

 

「あの時、俺はロクな言葉を返せなかっただけじゃない……

 キーアが思い詰めていたことにさえぜんぜん気付いていなかった。キーアの素性や兄貴を殺した犯人もちゃんと突き止めようと誓ったはずだったのに……

 ノエルの事にしたって、俺は彼女の気持ちに共感して上げることはできなかった」

 

「……それは僕達も同じです……

 特に僕は一番キーアと一緒の時間が長かった……

 それに教団事件の時、あの人を呼んだのはレンちゃんですが僕たちはあの人に頼らなければ事件を解決できなかった……

 それなのに実際の手柄は特務支援課に譲ってもらった形にしてもらって……」

 

 その悔しさもあって、特務支援課は各自のスキルアップを目指すために一時解散した。

 キーアは解散の日に合わせて日曜学校に通うことになったが、振り返って見ればあの時から自分達のことばかりを優先していたかもしれない。

 

「…………つくづく保護者として失格だな」

 

「ロイドさん……だったら貴方の踏んばりどころは“ここ”じゃないんですか?」

 

 憔悴して、自嘲するロイドを見兼ねてクルトは激励するように告げる。

 

「クルト?」

 

「何もかも投げ捨てて逃げ出したい気持ちは良く分かります」

 

 かつてリィンに負けて誇りも自信も砕け散ったことがあるからこそ、クルトは今のロイドの気持ちを理解できる。

 

「僕達にできることは限りなく少ないのも事実です……

 でも、リィンさんにキーアを斬らせないのは僕達にしかできないことじゃないんでしょうか?」

 

「キーアを斬らせない……?」

 

「ロイドさん、まさか本気でリィンさんがキーアを斬りたいと思っていると考えているんじゃないでしょうね?」

 

 間の抜けた言葉を返すロイドにクルトはジト目を向ける。

 あの日、特務支援課に残されたリィンがキーアに贈ったジャケットやアクセサリー。

 そこに込められた導力魔法で施された加護の数々。

 教団事件の時にキーアの身を案じたリィンの過保護な装備に彼が無条件でキーアを護る対象だと思っていることは間違いない。

 

「帝国軍人としてのリィンさんにとっては戦うしかない相手だとしても、僕たちはそうじゃない……

 話し合いは通じないかもしれないし、説得ができたところでクロスベルを取り巻く情勢はもう変えられない。だけど、まだ失われてもいないのに“護る”ことを諦めるなんてヴァンダールとして認めることはできません」

 

「クルト……そうだな。俺達がキーアを諦めるわけにはいかないよな」

 

 真っ直ぐな眼差しを向けて来るクルトにロイドは言葉を失う。

 特務支援課設立から間もない頃に家出少年として保護した少年の成長にロイドは感慨深いものを感じずにはいられない。

 そしてそれはロイドだけではなかった。

 

「アハハ、君も隠れ熱血少年だね。全く誰に似たんだか」

 

「え……?」

 

「この声は……」

 

 二人が振り返るとそこには、自分達が捕まったあの日に別行動をすると姿をくらませていたワジが蒼い騎士装束を纏って立っていた。

 

「ワジ、どうしてこんなところに……その格好、もしかしてお前――」

 

「フフ、七耀教会、星杯騎士団所属。守護騎士第九位《蒼の聖典》ワジ・ヘミスフィアさ。改めてよろしく頼むよ」

 

「なっ――!?」

 

「まさかあのワジさんがケビン神父と同じ七耀教会の守護騎士!? 聖職者!? ワジさんが!?」

 

「ハハ、良いリアクションしてくれるね、クルト」

 

 驚愕する二人にワジは楽しそうに笑う。

 

「改めての自己紹介は時間がないから後にするとして、君達がリィン・シュバルツァーを追い越してキーアと話したいと言うなら僕が足を用意しよう」

 

「ワジ……」

 

 突然拓いた道にロイドは戸惑う。

 

「ワジ、ランディ達の事については何か知っているか?」

 

「一通り彼らがどこに監禁されているかは調べはついているよ。ただ集合は諦めてもらえるかな?

 悠長にみんなを集めていたら、リィン・シュバルツァーが先にキーアの所に辿り着いてしまうからね」

 

「無事なんだな?」

 

「それは保障するよ」

 

 その答えにロイドは安堵し、改めて考える。

 ワジが七耀教会の守護騎士だったことにはロイドも驚いたが、特務支援課としての仲間であることには変わらない。

 相変わらず説明は少なく斜に構えた態度だが、彼ができると言うならば信用しない理由はない。

 

「分かった。俺達をキーアの所に連れて行って――」

 

「それは待ってもらおう」

 

 一度は挫けたはずの心に火が灯る。

 しかし、そんなロイドに水を差す新たな声がその場に現れる。

 

「お前はヨアヒム――いや、ゲオルグ・ワイスマン……」

 

「貴方はリィンさんと一緒に行ったんじゃなかったのか?」

 

 現れたワイスマンにロイドとクルトは警戒心を露わにする。

 

「ふふ、生憎と私はリィン・シュバルツァーに背中を任せてもらえる程に信頼はされていなくてね……

 それに見学するならやはり最前線より特等席の方が良いだろ?」

 

 同意を求めるワイスマンに三人は一様に顔をしかめる。

 

「もしかしてリィン君に俺達が動くなら止めるように頼まれたのか?」

 

「いやいや、むしろそれに関しては好きにするようにと言っていたさ……

 むしろ出発するまでに立ち直っていれば、彼も君達を受け入れるつもりでいたくらいだからね」

 

「っ――」

 

 キーアに至るための可能性を自分から潰していた判断の遅さにロイドは今日何度目になるか分からない後悔をする。

 

「だったら僕達に“最悪の破戒僧”が何の用だい?」

 

「《碧き零の計画》……先程君達に歴史改竄の計画だと説明したが実はそれは全てではないのだよ」

 

「何……?」

 

「これはリィン・シュバルツァーにも話さなかったことだが……

 歴史改竄はあくまでも黒幕が求めたクロスベルのための計画。《零の御子》の望みは別に存在しているのだよ」

 

「…………キーアの望み、それはいったい?」

 

 思わずロイドは前のめりに尋ねていた。

 その反応にワイスマンは口の端を釣り上げて笑みを浮かべる。

 

「ロイド・バニングス。クルト・ヴァンダール、そしてここにはいないがランドルフ・オルランド、エリィ・マグダエル。そしてティオ・プラトーの計五人」

 

 順番に名前を上げて行くワイスマンにロイドは首を傾げる。

 クルトは少し時期はずれるがほぼ初期の特務支援課メンバーである五人。

 

「キーアにとって最初の特務支援課メンバーだね、それがいったい何だって言うんだい?」

 

 呼ばれなかったワジは急かすように続きを促す。

 

「君たちは既に死んでいるのだよ」

 

 ワイスマンは促されるまま、あっさりと答えを告げた。

 

「…………は?」

 

「僕達が……死んでいる?」

 

 名指しされたロイドとクルトは思わず顔を見合わせる。

 当然のことながら、二人の顔は至って健康的である。

 

「正確に言うならば、因果の段階で既に死ぬ運命だった存在という事だよ」

 

「因果……死ぬ運命だった……?」

 

「それはいったい……」

 

「……キーアの力は歴史の改竄……成程、そういうことか」

 

 意味深な言葉に首を傾げるロイド達に対してワジはワイスマンの言葉の意味を理解する。

 

「流石第九位と言った所かな……

 そう、本来の歴史において特務支援課は教団事件の際に皆殺しにされるはずだった」

 

「だけどロイド達は生きている。つまりキーアが歴史改竄を行ったというわけか」

 

「そう本来なら、身の程を弁えずにヨアヒムの逮捕に向かった君たちは成す術なく殺されていた……

 君達がこうして生きていられるのは、彼女がレンを切っ掛けにリィン・シュバルツァーを因果に巻き込んだおかげだ」

 

「そんな……」

 

「確かに僕達はヨアヒムに負けそうだったけど……」

 

 その時のことを思い出して二人は苦い顔をする。

 

「残念なことにそれだけではないのだよ」

 

 そんな彼らにワイスマンは更に追い打ちをかける。

 

「カルバード共和国に逃げた私の元憑代だったアーネスト・ライズにロイド・バニングスは殺されるはずだった」

 

「なっ!?」

 

「通商会議の時、帝国解放戦線の凶弾から仲間を庇ってクルト・ヴァンダールは死ぬはずだった」

 

「っ――」

 

「ランドルフ・オルランドはシャーリィ・オルランドに……

 他の二人はもちろんヘミスフィア卿、君も一人で《鋼の聖女》に挑み、彼女の部下たちに負けて命を落とすはずだった……

 君達が生きてこうしていられるのは《零の御子》が君達を護り導いて来たからに他ならなかったのだよ」

 

「それじゃあキーアにとっての《碧き零の計画》というのは……?」

 

「因果律の修正力と言うべきものなのかな?

 さながら帝国の黒の史書による預言の様に、君達の死を回避すればする程、その後の事件では多くの人を巻き込んで君たちは死に至る……

 《零の御子》の目的はそんな死の因果の鎖に囚われている君達を解放すること」

 

 ロイド達は明かされた真実に一様に言葉を失う。

 

「フフ、どんな気持ちだい?

 護るべき少女に護られていた気持ちは?

 もっと言えば特務支援課が民衆に認められたことさえも、彼女が人々の感情をそう仕向けたからに他ならないのだよ」

 

 そんなロイド達にワイスマンは愉悦の笑みを浮かべて追い打ちをかける。

 

「…………ここで僕達がキーアの所に向かっても犬死すると貴方は言うのか?」

 

 何かを言わなければ折れると、クルトは思いついたことをそのまま口にする。

 

「いやいや、君達が今回の事件で死ぬことはないだろう」

 

「それはやっぱりキーアが俺達を守ってくれているからか?」

 

「いいや。《零の御子》が《鋼の聖女》や《赤い星座》にロイド達を傷付けないで、とお願いしているからだよ」

 

「…………」

 

 今度こそロイド達は完全に言葉を失う。

 

「ふふ、そういう意味では確かにリィン・シュバルツァーよりも君たちの方が彼女たちを倒せる可能性は高いかもしれないな……

 何と言っても彼女たちは《零の御子》に手加減をお願いされているのだから」

 

「っ――」

 

「くっ……」

 

「言ってくれるじゃない」

 

 その三人の表情にワイスマンは満足そうに頷き、さらにもう一つの真実を明かす。

 

「フフ、実は《碧き零の計画》には一つの問題がある」

 

「…………問題……?」

 

「帝国には《零の至宝》と同じ《幻》の力を持つ存在がいる……

 その“力”を預かっている代行者を排除しない限り、完全な因果の改変を確定させることが《零の御子》にはできなかった」

 

「それは……まさか……」

 

「そう、君達を生かす因果を成立させるためにはリィン・シュバルツァーという存在が邪魔なのだよ」

 

 

 






原作と違い、キーアの動機を肉付けしました。
原作だとズルと言っていますが、よくある修正力などがなかったりするので今一つズルと言うには弱いと思ったので修正力により、碧のシナリオ上でロイド達は何度も死んでいてその度にキーアによってリセットしていることになります。
これは事件だけではなく、不幸な交通事故なども含まれており、ロイド達はいつ発動するか分からない“死の宣告”のバッドステータスを付けていることになります。
これを解除するためにキーアは“力”を完全に使える“至宝”になる必要がありました。



布教活動

ワイスマン
「ちなみにリィン・シュバルツァーは二年前、一人で《鋼の聖女》を打倒している」

ロイド
「二年前!?」

クルト
「それも一人で!?」

ワジ
「小耳に挟んだことはあるけど。まさか本当だったとは」

ワイスマン
「それに加え、リベールでは君達が負けた《赤の戦鬼》をサンドバックのように一方的に殴り続けて倒したという噂もある」

ロイド
「あのシグムントをサンドバック!?」

クルト
「僕達が七人がかりでも膝を着かせることができなかったのに」

ワジ
「しかも一方的につくづく規格外な存在だね彼は」

ワイスマン
「さらに今年の初めには《風の剣聖》と手合わせをして一撃で彼を気絶させた」

ロイド
「アリオスさんまで!?」

クルト
「リィンさん、貴方は何処まで……」

ワジ
「ハハ、ここまで差を見せつけられると笑うしかないね」

ロイド
「二年前と言えばリィン君はまだ15歳くらいだったのに……」

クルト
「今の僕と同い歳で《鋼の聖女》や《赤の戦鬼》を倒すなんて」

ワジ
「その時はまだ彼には“至宝”の力はなかったはずなのに、いったい何者なんだろうね?
 もしかしたらクロイス家みたいに至宝に所縁のある血筋なのかも?」

ワイスマン
「ふふ、知りたいかね?
 彼こそが帝国の伝説の始祖となる《超帝国人》なのだよ!」

ロイド
「《超帝国人》……前にランディとティオがそんなことを言っていたけど」

クルト
「皇帝陛下を差し置いて、そんな二つ名を名乗るは畏れ多いことなんですが……その……」

ワジ
「これ以上ない渾名だね」


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