(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

146 / 156
146話 《零の至宝》

 

 

 

 

 そこは一面の白で覆い尽くされた場所だった。

 

「私はこう思うのだよ……」

 

 何処とも言えない場所に佇んでいたリィンに話しかけてくるのはゲオルグ・ワイスマン。

 しかしその姿はヨアヒム・ギュンターのものではなく、元の姿だということでそこが《影の国》に近い世界だとリィンは判断する。

 

「不思議に思わないかね?

 何故“雲の至宝”は“鋼”や“零”のような力を持っていないのか」

 

「それは結局、“雲の至宝”はお前が言っているだけでそこまでの“力”がなかっただけなんじゃないのか?」

 

「いいや、それはないだろう……

 人工的に造られたという点では突発的という差はあっても、“零”の錬成陣を利用して生まれた“力”なのだから」

 

「だとしても“雲”の力は“零”程の力を持ってはいなかった」

 

「持っていないのではなく、“雲の至宝”はまだ完成に至ってないのだよ」

 

「完成していない……?」

 

「《焔》と《大地》は守護神を、《幻》は文字通り神を眷族たちは望み……

 《零》はおそらく今のクロスベルの人間たちの願い、すなわち帝国と共和国を打倒することを望まれて生まれた存在だと言えるだろう」

 

「それが正しかったとしたら、そもそもあの“力”は至宝と呼ぶには相応しくないんじゃないか?」

 

「フフ、それがそうでもない……

 私の仮説では《七の至宝》は女神より賜れた時、その姿は全て同一のものだったのではないかと考えている……

 《輝く環》も《紅き聖櫃》も《黒き巨槌》、そして《虚ろなる神》も全て眷属たちが望んで、それぞれの姿や形になったことがそれを物語っている……

 故に《鋼の至宝》が闘争を、《零の至宝》はクロスベルの独立を人々が願ったからこそ、今の形になったと言えるだろう」

 

「……つまり“雲の至宝”はまだその無垢で、何にも染まっていない状態だって言いたいのか?」

 

「その通りだ。だから《鋼》と違い“力”を分割することが簡単にできたのだろう」

 

 クククとワイスマンは喉を鳴らし、続ける。

 

「話は変わるが、私が提示するキーアを救う手段は難しいことではない……

 人の器を捨てさせ、私と同じようにプレロマ草を触媒にした精神体として生かす、ただそれだけだよ」

 

「それは……」

 

 その方法にリィンは顔をしかめる。

 

「十三工房の力を借りれるならば、ホムンクルスを作り新たな器にその精神を移す手段もあるのだが、ホムンクルスの技術はアルベリヒが独占していて私ができることはここまでだよ……

 もっとも、これ以上の奇蹟はそれこそ女神の御業に縋るしかないのだがね」

 

「…………俺にキーアちゃんのようになれと言うのか?」

 

 前の話題からキーアの話。

 そこに込められた意図をリィンは確認するように口に出す。

 

「《雲の至宝》はキーアと違い、ただ一人を眷族として、本体でもある……

 彼女の様に他者の想念に侵されることはなく、不特定多数の願いをすり合わせた漠然とした“力”を超越する可能性を秘めていると私は確信している……

 私が提示した結末を超える最良を求めるならば、《雲の至宝》を完成させることだけが唯一の可能性だろう」

 

「…………」

 

 無表情を保つリィンにワイスマンは笑みを深めて告げる。

 

「私は《雲の至宝》を完成させるのは《黄昏》まで温存しておくべきだと思うが、決めるのは君だよ」

 

 その言葉を最後に周囲の白に意識が溶け込むように視界が白に染まり――リィンは暗闇の中、目を開いた。

 

「…………ここは……?」

 

 頭を振ってリィンは直前の記憶を思い出す。

 

「たしかリアンヌさんと“相克”を行って……ヴァリマール、無事か?」

 

『…………ああ、各部の損傷は激しいが動くことはできる』

 

「そうか……」

 

 改めて周囲を見回し、ヴァリマール越しに感じる水の感触に自分の現在地を理解する。

 

「エルム湖の底か……」

 

 閃光で眩んでいた視界も、雷鳴で潰された聴覚も回復していることからそれなりに時間が経っていると考えてリィンは《ARUCS》の時計を確認する。

 時刻はまだ深夜の零時を過ぎたばかり。

 それ程の時間が経ってないことに安堵しながら、その“力”に気付く。

 

「どうやら“碧の大樹”が錬成されたみたいだな……」

 

 リィンは倒れたまま、周囲を見回し気配を探る。

 手には《焔の剣》はなく、周囲にそれらしい気配もなければ《銀》の姿も見えない。

 

「…………失敗か……」

 

 元々必ずできると思っていたわけではないので落胆はない。

 

「後は……」

 

 夢で交わしたワイスマンとのやり取りを思い出す。

 《鋼の剣》の錬成は不発に終わってしまったが、《零の騎神》を倒す方法は存在している。

 

「…………行くぞヴァリマール」

 

『リィンよ。まさか《零の騎神》とこのまま戦うつもりなのか?』

 

「ああ、いくら自滅すると分かっていてもやっぱり見過ごすわけにはいかないからな」

 

『…………しかし…………了解した』

 

 何か言いたげな沈黙の後に了承してくれるヴァリマールにリィンは感謝する。

 ぎこちない動きで立ち上がり、背中の《空の翼》を広げるが展開されるのは片翼だけ。

 

「飛ぶにはこれでも十分か……」

 

 機体を直すことを考えるが、《零の騎神》の攻撃力を考えれば“力”を温存した方が良いとリィンは判断する。

 

「行くぞ! ヴァリマールッ!」

 

『応っ!』

 

 リィンの言葉に《灰》は頷き、夜のエルム湖から光が飛び立った。

 まだ暗い空に飛び出すと、青白い光を宿す巨大な大樹がすぐ目の前にあった。

 それを見てリィンは……

 

「ヴァリマール、一つ頼みたいことがある……」

 

『むっ……』

 

 唐突に口に出して来たリィンのお願いにヴァリマールは戦々恐々という様子で言葉を返すのだった。

 

 

 

 

 

「これが真実よ、ロイド」

 

 クロスベル市から南西に位置する湿地帯に突如出現した幻想的な大樹。

 その最奥で、ミシュラムに軟禁されていると聞いていたエリィに突きつけられた真実にロイド達は愕然とする。

 

「そんな……」

 

「キーアちゃんが……もうすぐ死ぬ?」

 

「…………」

 

 言葉を失うロイドとクルトに対して、ワジはあり得ないことではないと無言でその真実を受け入れる。

 

「う、嘘ですっ! そんな馬鹿な話があるはずがありません!」

 

 ノエルは怯みながらも声を上げて否定する。

 

「あら失礼ですわね……

 貴方達が知りたいと喚くからせっかく教えて上げた真実だと言うのに、人を嘘吐き呼ばわりするなんて」

 

 やれやれとエリィの傍らに立つマリアベルは肩を竦める。

 

「ロイド君、真実は決していつも納得できるものではないのだよ……

 だが悲観することはない。《零の至宝》はリィン・シュバルツァーとの戦いを経て新たな領域へと進化しつつある……

 それこそ寿命の問題という因果なども、君達を助けて生まれた因果の歪みを断ち切ることも可能になるだろう」

 

 イアンは背後に膝を着いて鎮座している《零の騎神》を振り返り、興奮した様子で語る。

 

「だからって……」

 

「でしたら貴方達はどうすると?

 先程キーアさんを返せなどと言っていましたが、とんだ筋違いですわ……

 今のキーアさんは進んでわたくしたちの計画に協力してくれているのですから」

 

「やれやれ、大した面の皮の厚さだね……

 だけどエリィがそっちについたって言う事はあながち間違いじゃないのかな?」

 

 肩を竦めるワジに睨まれ、エリィは身を竦ませるものの気丈を振る舞って言い返す。

 

「だって……だって仕方がないじゃない……

 キーアちゃんが私たちのために……そして私たちのせいでクロスベルが滅んでしまうって言うんだから」

 

「ええ、エリィは何も悪くない。そうですわよね」

 

「ベル……」

 

 蒼褪めた顔をしていたエリィはマリアベルに耳元で囁かれて空ろな瞳になって安堵する。

 

「っ――エリィに何をした!? まさか《グノーシス》を使ったんじゃないだろうな!?」

 

 陶酔し切った様子のエリィにロイドは声を上げる。

 

「人聞きの悪いことを言わないでもらえます? 

 エリィとわたくしは親友同士、この数週間じっくりとお話して分かってもらった。それだけですわよ」

 

 クスクスと笑うマリアベルにロイドは強い不快感を覚える。

 

「キーアさんについてもあなた方よりもわたくし達の方が良く知っていただけの事……

 むしろ表面的な部分しか見ずに理解したつもりになっていただけのあなた方がキーアさんの何を語れると言うのかしら?」

 

「それは……」

 

「第一、キーアさんの“力”の恩恵を一番受けているあなた方がわたくし達のしていることを批難する資格があると言うのかしら?」

 

「ぐ……」

 

「キーアさんの“力”を否定するならまず、あなたが自害するべきではないのかしら?

 フフ、そうすればクロスベル全土に広がった滅びの因果を解くことができるかもしれませんわよ」

 

「そんなことできるわけないだろ!」

 

 自殺を示唆する言葉にロイドが言い返すと、マリアベルは深々とため息を吐く。

 

「本当にあなたは不愉快な人間ですわね」

 

「――っ」

 

「口を開けば“真実”や“正義”……

 でも実際はその言葉の裏にあなたの信念なんてない。ただ綺麗な言葉を口にしているだけ……

 賢しげに粗を見つけるのが得意みたいですが、何も出来ないまま、何もしないまま、ただ誤りだと囃し立てることがあなたの“正義”だと言うのだとしたらわたくし達はあなたのことを買い被っていたようですわね」

 

「な、何を……」

 

「それにこれはあなた達が望んだことでもあるはずですわよ」

 

「俺が望んだ? デタラメを言うなっ!」

 

 反発するロイドにマリアベルは妖艶な笑みを浮かべ、禍々しい杖を振るう。

 そうして彼女たちにロイドの幻影が現れる。

 

「――っ」

 

 その場から飛び退いてロイドはトンファーを構える。

 しかし幻影のロイドは襲い掛かることなく、口を開く。

 

『憎い……』

 

「なっ――!?」

 

『兄ちゃんを殺した犯人が……帝国と共和国が……憎い……』

 

「これがあなたが警察官になろうとした切っ掛けですわよね?」

 

 楽しそうに笑うマリアベルにロイドは言葉を返す余裕はなかった。

 それは確かにロイドの胸の奥で燻ぶっていた負の感情。

 幻影はロイドが目を逸らして来た感情を白日の下にさらけ出す。

 

『クロスベル警察は役に立たない……なら俺が……俺が事件の真相を暴いてやる』

 

「あらあら、もしかしたら他の誰でもないあなたが一番クロスベル警察を信用していなかったのかしら?」

 

「っ――」

 

 マリアベルに突きつけられた言葉をロイドは否定できなかった。

 

「あなた方も、心の底ではキーアさんがガレリア要塞を消滅させたことに胸が空いた気持ちになったのではないかしら?」

 

「それは……」

 

「くっ……」

 

「……勝手なことを言わないで欲しいね」

 

 ノエルはまさに図星を突かれ、クルトは目に余る同胞の暴力の象徴が、そしてワジも立場を超えてあの威圧的な列車砲がなくなったことに心の何処かで安堵を感じていた。

 

「キーアさんに一番影響を与えていたのはクロスベルの民衆ではなく、特務支援課の方々……

 あなた達が心の底で溜め込んでいた憤りや憎悪をキーアさんは代弁して立ち上がってくれたに過ぎないのですわよ」

 

「ベル……それ以上は……」

 

「エリィもずっと帝国と共和国を憎んでいましたものね……

 二つの大国のせいでマグダエル家は離散、恩師のアーネストさんまで歪んで壊れてしまった。そう全ては帝国のせい――」

 

「やめてベルッ!」

 

「ああ、かわいそうなエリィ。大丈夫、大丈夫よ……

 全部キーアさんに任せておけば、おじ様もおば様もきっと戻って来てくれるわよ」

 

 マリアベルはエリィを抱き締めて、あやすように優しい言葉を言い聞かせる。

 

「それはどうだろうね」

 

 言葉を失い立ち尽くしてしまっているロイドに代わってワジが質問を投げかける。

 

「既に君たちの悪行はリィン君が暴き、導力ネットでゼムリア大陸中に知れ渡っている。この期に及んで君達に何ができると言うんだい?」

 

「フフ、分かっていませんわね……

 キーアさんの“力”を使えば、そんなこといくらでも“なかった”ことにできるんですわよ」

 

「限定的とは言え、特務支援課を救うことで因果を組み替えることが実際に可能であることは証明されている……

 これを利用すれば帝国と共和国にクロスベルが従属・翻弄されている現実を組み替え、クロスベルがその二国の上位にある“宗主国”として君臨する現実に組み替えることも可能だろう」

 

「うふふ、素敵でしょう?

 こんな素敵なものがあればもう何も恐くない!

 世界の全てに幸福を与え、哀しい思いをすることもない!

 人はあらゆる不安から解放され、“善きもの”だけを追求できる!

 まさしく錬金術の奥義――《大いなる秘法》というものですわ!」

 

「…………やれやれ、ここまでとは……」

 

 あまりにも簡単に言い切るイアンに、悦楽に笑うマリアベルにワジは肩を竦める。

 守護騎士として何度も見て来た“アーティファクト”の全能感に酔った典型的な狂信者の目。

 根本的な問題として、リィンが存在する限り改変は確定されない問題点が残っているはずだが、もはや話し合いは無意味だとワジは判断する。

 しかし、戦闘態勢を取るよりもワジはロイドの背中に視線を送った。

 

「ロイド、どうする?」

 

「…………」

 

 ワジの質問にロイドは沈黙を返す。

 

「ロイドさん……」

 

「っ……」

 

 クルトとノエルの視線もそこに集まるが、その視線を感じながらロイドは重くなった口を開き――

 

「もういいよ。ベル……」

 

 マリアベル達の背後の《騎神》が光ると、その胸から光の塊が降りて来てキーアがその場に現れる。

 

「キーア……」

 

「ふふ……」

 

 呆然とするロイド達を他所にキーアは無邪気な笑みを浮かべ、マリアベル達が立っていた祭壇を駆け下りてロイドの胸に飛び込んだ。

 

「どーんっ!」

 

「うおっ!?」

 

 場違いな無邪気な声と共に飛び込んで来たキーアにロイドは狼狽えながらもなんとか踏んばって受け止める。

 

「キ、キーア……?」

 

「えへへ……」

 

 青白い光と黒い近未来的なスーツを纏ったキーアは嬉しそうに笑う。

 その特務支援課にいた時とは変わらない笑顔にロイドは思わずほっと胸を撫で下ろす。

 

「キーア、よか――」

 

「もう大丈夫だよ。もうロイド達が因果に殺されることはないから、キーアが護るから」

 

「…………キーア」

 

 無邪気な声の中に狂気を感じてロイドは背中が冷たくなるのを感じる。

 

「リィン・シュバルツァーを消滅させるための力は十分に溜まったから、キーアはもうロイド達に守ってもらわなくてもいいくらいに強くなったんだよ」

 

「キーア……」

 

「その力も、ロイドがお願いしてくれたら何倍も大きくなるの……

 だから願って帝国と共和国を“ホロボセ”って、クロスベルを《楽園》にしよう」

 

「キーアッ!」

 

 無邪気な声のまま、紡がれる言葉を掻き消すようにロイドは声を上げる。

 そんな反応にキーアはきょとんと目を丸くする。

 

「どうしたのロイド? だってそれはロイド達がずっとずっと誰かにして欲しかったことでしょ?」

 

 やはり無邪気なまま首を傾げるキーアにロイドは自分達がいかにキーアに間違ったことを教えていたのか実感する。

 何も直接、帝国と共和国を悪し様に語ったわけではない。

 些細な愚痴や態度。

 そんな小さな積み重ねがキーアの中で蓄積され、歪んだ世界観を持たせてしまった結果が目の前にある。

 

「…………ダメだ。ダメなんだキーア……」

 

「ダメじゃないよ。リィンを消さないとロイド達が死んじゃうんだから、だから――」

 

「っ――」

 

 こんな理不尽な選択を強いてしまった弱い自分に怒りが湧き上がる。

 

「もう良い……もう良いんだ。俺達なんかのためにキーアが道を踏み外して――」

 

「良くないっ!」

 

 ロイドの言葉を遮って、キーアは悲鳴のような声を上げる。

 

「キーアにはロイド達が必要なの! ロイド達がいればそれで良いの! 他に何もいらない!」

 

 癇癪を起したように捲し立てるキーアの初めて見る姿にロイドは息を呑む。

 

「キーアの“力”を使えば、もう誰も哀しい思いをしない世界を作れるんだよ?

 みんなが幸せになれるんだよ? 誰にも侵されることがない自由がそこにあるんだよ?

 キーアが“力”を使わないとロイド達はみんな死んじゃうんだよ!?

 それでも……それでもキーア達がしようとしていることは間違っているって言うの!?」

 

「っ――」

 

「答えてよ――ロイドッ!」

 

 胸ぐらを掴み、縋りつくように訴えかけるキーアにロイドは目を伏せ、長い沈黙の末に応える。

 

「それでも…………それでもキーア達は、間違っている」

 

「――――あ……」

 

「もっと早く、キーアには教えなくちゃいけなかった……

 キーアが知っているのはクロスベルという小さな世界の一部だった……

 帝国や共和国にもちゃんと良い人はいる。逆にクロスベルの人だからってそれが全て善人だとは限らない」

 

「違う……」

 

「キーアが作る自由はクロスベルだけの平和だ。どうして帝国と共和国も含めて平和にしようって言えないんだ?」

 

「それは……」

 

 口ごもるキーアに“力”にも限界があるのだとロイドは予想する。

 そしてロイドは目を伏せて、留置場でのことを思い出す。

 

 ――兄貴はマフィアさえも守ろうとしていた。それなら……

 

「クロスベルだけの平和なんて俺は認められない。今は無理でも本当の意味で帝国と共和国と共存できると俺は信じている」

 

 はっきりとロイドはキーアの目を見て告げる。

 

「そこに俺がいなかったとしても、必ず俺の代わりは現れる」

 

「なっ――」

 

 ロイドの言葉にイアンが息を呑む。

 しかし、ロイドはそれを無視して続ける。

 

「だからキーアが作ろうとしている“平和”は間違っている」

 

 真っ直ぐな眼差しで否定されたキーアは呆然と立ち尽くし、後退る。

 

「…………ちがう……ちがう……」

 

 頭を抱えてキーアはロイドの言葉を拒絶する。

 

「あらあら……」

 

 その様子にマリアベルは意味深な笑みを浮かべると漆黒の翼を広げた。

 

「ベル!?」

 

「離れますわよエリィ」

 

 有無を言わさずマリアベルはエリィを抱えて祭壇から飛び降りる。

 

「ちがう……ロイドはそんなこと言わない、ロイドはそんなこと言わない、ロイドは――」

 

「キーア……?」

 

 うわ言のように繰り返す尋常ではない様子のキーアにロイドは思わず手を伸ばし――

 

「っ――」

 

 強い静電気のような衝撃にその手は弾かれる。

 

「いけませんわよロイドさん……

 人々の願いに応えるべく生まれた《至宝》の存在を否定、それも上位権限を持つ者の拒絶は《至宝》そのものを否定することになる……

 うふふ、《幻の至宝》が自己消滅した引き金をロイドさんが引いてしまったようですわね」

 

「何だと――」

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 上から目線で今の状況を解説するマリアベルにロイドは言い返そうとした瞬間、キーアの悲鳴が響き渡る。

 同時に足元から一斉に植物の蔓が伸び、ロイドを――ワジ達、ついでにイアンを締め上げる。

 

「ぐぅっ――」

 

 万力で締め付けられるような力任せの拘束はまるで数ヶ月前のヨアヒムとの戦いの時の焼き直し。

 

「チガウ――チガウ――やめて――チガウ――」

 

 黒い靄をその身に纏わせ、身体におぞましい紋様を広げながらキーアは狂ったように叫ぶ。

 

「キーアッ――ガッ!?」

 

 蔓に絡まれたロイドはキーアが振った腕の一振りに壁に横殴りに叩きつけられ、床に天井に乱雑に叩きつけられる。

 

「きーあハ間違ッテナイ……言エ、帝国ヲ共和国ヲ“滅ぼせ”ト!」

 

 存分に痛めつけ、抵抗を失ったロイドを目の前に持ってきてキーアは再び問う。

 

「…………何度でも言ってやる……お前は間違っている」

 

「っ――オ前ハろいどジャナイ」

 

「それはこっちのセリフだ」

 

 自身を否定する目の前の黒に染まった少女にロイドは言い返す。

 

「お前はキーアじゃない。何をどうやったか知らないが、家族の問題に部外者が出て来るなっ!」

 

「っ――ゾア・ギルスティンッ!」

 

 図星を刺されたのか、黒の少女はムキになったように叫ぶ。

 祭壇の上の《騎神》はそれに応えるように立ち上がり、その手に光を宿し――

 

「うりゃああああああああああああああああああっ!」

 

 何処からともなく降って来た焔の翼の強打が《零の騎神》の頭を直撃した。

 

「なっ――」

 

 蔓の拘束がわずかに緩む、そこにすかさず無数の斬撃が走りロイドやワジ達の拘束が斬り刻まれ、宙に投げ出されたイアンを彼が受け止める。

 対して、《騎神》の頭を強打した少女は危なげなく身を回転させ態勢を直して着地を決める。

 

「お待たせ、ロイド君達!」

 

 振り返った援軍の二人にロイドは驚きの声を上げる。

 

「エステル……それにヨシュア……」

 

「遅くなってごめんね……っていうかどういう状況なのこれ?」

 

 黒く良くない気を纏って一目で正気ではないキーアにエステルは困惑する。

 

「チッ……余計ナゴミガ増エタトコロデ無駄ダ……マトメテ全テ滅ボシテヤル」

 

 黒の少女の声に呼応して、たたらを踏んだ《零の騎神》は立ち直して再び光球を掲げる。

 

「エステル! ヨシュア! 君達だけでも逃げろ!」

 

「大丈夫よロイド君。だってわたし達には――」

 

 次の瞬間、破壊を振り撒こうとする《零の騎神》の背後に音もなくボロボロの《灰の騎神》が現れる。

 

「桜花一槍っ!」

 

 全身の力を一突きに込めた一撃は、リィンの予想に反して《零の騎神》を容易く貫いた。

 

 

 

 

 

 








一応フォローしておくと、捕まってからの数週間エリィはマリアベルにトラウマを徹底的にいじめられて精神を消耗させられています。




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。