(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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剣の相克について
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147話 《碧の虚神》

「なっ――!?」

 

 背後からの強襲。

 ダメもとの一撃は予想外な軽い手応えで《零の騎神》を貫いたことにリィンは驚く。

 

「どうして……」

 

 黒に染まったキーアもまた、その瞬間は正気を取り戻したように胸を背中から貫かれた《零の騎神》を呆然と見上げる。

 

「これは……」

 

 触れて分かる《零の騎神》の歪さ。

 外側の霊力は漲っているが肝心の中身はスカスカ。まるで張りぼてのような木偶人形にガレリア要塞で戦った時の凄みはない。

 

「………………遅かったか」

 

 既に《黒》によって《零》の力は奪われ、残りカスとも言える状態にリィンは歯噛みする。

 

「…………だめ……」

 

 貫いた刃が引き抜かれ、《零の騎神》は膝を着き、光の粒子を立ち昇らせるように消え始める。

 

「ダメッ! 消えないで!」

 

 悲痛な叫びを上げてキーアは手を伸ばす。

 

「キーアはまだロイドを、エリィを、ランディもティオもクルトも誰も助けてない!」

 

 そこにロイドを痛めつけた時の狂気はない。

 

「キーアが……キーアがみんなを助けないと……守らないといけないの! だから……だからっ!」

 

 ただ純粋に救いを求める女の子は祈るように光に手を伸ばす。

 その悲鳴に応えたのか、《灰の騎神》に流れていた光はその方向を捻じ曲げるようにしてキーアに注ぎ込まれる。

 

「あ……アアアアアアアアアッ!」

 

「キーアッ!」

 

 光が爆発し、そうして現れたのは《碧の神》。

 

「碧いデミウルゴス……」

 

 かつてノーザンブリアでリィンが遭遇した色違いの《虚神》。

 しかしその姿は歪で今にも崩れ、内部のコアが剥き出しに、それに纏う《神気》も頼りない。

 

「………………たおす……りぃんを……」

 

 《碧の虚神》はうわ言を漏らしながら朽ちた体を《灰》に向ける。

 

「きーあが……ろいどたちの……みらい……まもる……まもる……まもる……」

 

「キーア……くっ――」

 

 繰り返される言葉にロイドは彼女にどれだけのものを抱え込ませてしまったのか、自身に憤りを感じずにはいられない。

 そんな彼らを他所に《碧の虚神》は何を思ったのか自分の胸に手を突き刺し、コアを抉り出して掲げる。

 

「キーアちゃんっ!」

 

「いけませんわエリィ」

 

 そして飛び出そうとしたエリィの手をマリアベルが掴む。

 

「放してベル!」

 

「フフ、どうやらキーアさんは覚悟を決めたようですわね」

 

「それはどういうこと!?」

 

 明滅するコアにマリアベルはキーアがしようとしていることを察して、転移の魔法陣を作る。

 

「キーアさんはこの場を自爆させて《灰の騎神》を倒すつもりのようですわね」

 

 横目で確認すれば、《灰の騎神》は足元を木の根に呑み込まれ、その場から動けなくされている。

 少し契約とは異なるが、問題はないだろうとマリアベルは逃げる準備を整える。

 

「じ、自爆っ!?」

 

「《灰の騎神》を倒すために“大樹”に内包する霊力を全て使った“大崩壊”……

 本当に愚かですわね。敵を倒すために守りたい者を巻き込むなんて、所詮は道理を知らない人形だったということかしら、それとも“魔”が差したのかしら?」

 

「ベル……貴女……」

 

 まるで他人事のように振る舞うマリアベルにエリィは顔をしかめる。

 

「エリィ、貴女がキーアさんに感じている愛情は偽物ですわよ」

 

 だから気にするなとマリアベルはキーアの真実を告げる。

 

「“あれ”はクロイス家が《教団》に託した本物の魂を持たない人造人間……

 教団が犠牲にした数多の魂を継ぎ合わせただけの紛い物の人形……

 そして彼女には無意識のうちに周りの人間の心と魂を掴む力がある」

 

「力……?」

 

「誰もがキーアさんを愛し、守るよう。因果と認識を操作する。エリィがあれに感じている“愛”はそういう紛い物なんですわ……

 だからエリィがあれの死に心を痛める必要なんて欠片もありませんの」

 

「ベル……」

 

「ふふ、良い子ですわねエリィ……

 貴女が望むなら、後で貴女だけの“キーア”を造って差し上げますわよ」

 

 この実験が終われば結社の《人造人間》の技術を譲ってもらうことになっている。

 それとクロイス家に伝わる秘術、そして今回の実験結果を用いれば、第二第三の《零の至宝》を造ることは決して不可能ではない。

 既にマリアベルはこの場から次のステージに心を躍らせている。

 

「ベル……」

 

 抵抗がなくなった手にマリアベルは転移の魔法陣を起動する。

 

「ベルッ!」

 

「え――っ!?」

 

 不意打ちの様にエリィの怒りに満ちた声が上がり、初めて聞く親友の声にマリアベルが顔を上げた瞬間――快音が広間に響き渡った。

 

 

 

 

 唐突だがエリィ・マグダエルはお嬢様である。

 ゼムリア大陸各国に留学し、帰国後にクロスベルを別の視点から見る社会勉強のため警察官を志望。

 クロスベル警察学校への入学はしなかったものの、警察官採用試験においては筆記と射撃で満点を獲得していたことなどから警察官として採用され、特務支援課に配属されることになる。

 正規の教練をうけていなかった彼女は、支援課の発足当初一時間街道を歩き通しただけでバテてしまうくらいにひ弱だった。

 しかし、数々の事件でクロスベル各地を歩き回り、ノエルと言う警備隊員の手解きを受けた体力作りの結果、仲間たちの中ではワースト二位であるものの彼女は警察官として立派なフィジカルを手にしていた。

 そして今、この一年の結果がマリアベルの頬に――炸裂した。

 

 

 

 

 霊力が荒れ狂う広間に、場違いとも言える快音が鳴り響く。

 エリィに頬を叩かれて仰け反ったマリアベルは彼女の手を放して倒れていくが、その姿は転移術の光に覆い尽くされていく。

 

「ベル……今の貴女は最低よ」

 

 果たしてその言葉は届いたのか、次の瞬間マリアベルの姿は転移してその場から消える。

 

「…………っ」

 

 エリィはやるせない気持ちに唇を噛む。

 親友だと思っていた彼女の知らなかったおぞましいとさえ感じた一面。

 大抵のことはそれも彼女の魅力の一つだと割り切ることもできたかもしれないが、キーアを人形として扱うこと。

 そんなキーアをまた造れば良いと臆面もなく言い切るマリアベルをエリィはとても受け入れることはできなかった。

 

「エリィ……」

 

「ごめんなさい、ロイド……」

 

 声を掛けて来たロイドにエリィはバツを悪くしながら応える。

 

「話は後でしよう。それよりも今はキーアを助けよう。力を貸してくれエリィ」

 

「っ――ええ」

 

 弁明を後回しにするロイドにエリィは頷き――

 

『邪魔です、下がっていてください』

 

 そんな空気を一蹴するように《灰》は根の拘束を太刀で切り払い、《虚神》が溢れさせる霊圧から彼らを守るように間に立つ。

 

「リ、リィン君……だけど……」

 

『だけどじゃありません。あの存在に貴方達に何ができると言うんですか?』

 

「だけどあそこにキーアがいるのに――」

 

『自惚れるな』

 

 食い下がろうとするロイドにリィンは冷めた言葉をぶつける。

 

『気持ちだけで何ができると?

 失敗したら、ここにいる全員の命が消える。その責任の重さを貴方は分かっているのか?』

 

「それは……」

 

『キーアの狙いはあくまでも俺です、もう貴方達の出る幕じゃない……

 そもそも貴方達に何ができると言うんですか?』

 

「言ってくれるね……

 まともな手段では近付くことさえもできないのは認めるけど、そういう君に対抗手段があるとでも?」

 

 《碧の虚神》からの圧力に対してワジは自分達の無力さを認めた上でリィンに尋ねる。

 

『…………俺にできることは“斬る”だけです』

 

 “大崩壊”を起こす前に本体を斬る。

 単純明快な答えにロイド達は絶句する。

 

「そんな……」

 

「それじゃあキーアは……」

 

『っ――だったら、他に方法があるんだったら言ってみろ!』

 

 責めるような眼差しにリィンは苛立ちを爆発させて言い返す。

 

『何もできないくせに文句ばかり。お前達クロスベルはいつもそうだ!』

 

「リ、リィンさん……」

 

 温厚なリィンが激情を露わにする様にクルトは面を喰らう。

 

『それに言ったはずです。キーアを“斬る”覚悟は既にしてあると……

 そういう貴方達はキーアとクロスベル、どちらを取るつもりでここにいるんですか?』

 

 コアに集まる“力”をざっと見積もれば《フェンリル》を軽く凌駕する力が集まっている。

 もしもマリアベルの言った“大崩壊”として炸裂しようものなら、被害は自分達や湿地帯だけに留まらない。

 風は澱み、水は腐り、大地は不毛となってとても人が住める土地ではなくなってしまう可能性も十分に考えられる。

 

「それは……それでも……俺は……」

 

『ましてやキーアをここで助けたとして貴方達にあの子の寿命の問題はどう解決できるんですか? それならいっそう――』

 

「リィン君……」

 

 言い淀むロイドにリィンが捲し立てようとしたところで、エステルが口を挟む。

 

「お願い、少しだけ私たちに時間をちょうだい」

 

『むぅ……』

 

 エステルの主張にリィンは眉をひそめて唸る。

 

『…………五分だけなら……

 向こうもすぐに自爆はできないみたいですし、それまでなら俺も“力”を溜めますから好きにしてください』

 

「うん、ありがとう」

 

 あっさりと拍子抜けするほどにリィンは妥協し、エステルはロイド達に向き直る。

 

「ほら、ロイド君。五分だけ好きにして良いって。急いでキーアちゃんの所に行きましょう」

 

「あ……ああ、ありがとう」

 

 あまりにもあっさり前言を覆したリィンに釈然としないものを感じながらロイドは《碧の虚神》に向き直る。

 《碧の虚神》と彼らの間には無数の魔獣のような何かが現れ、ロイド達の前に立ち塞がる。

 

「エステル、君はここでヨシュアと一緒にあの魔獣たちをリィン君に近づけさせないようにしてくれ」

 

「うん、こっちは任せて!」

 

「一匹たりともリィン君の邪魔はさせないから」

 

 頼もしい言葉を背にロイドは仲間たちに向き直る。

 

「みんな……これは無謀な突撃だ」

 

「ロイド……」

 

「リィン君が言う通り、俺にはキーアを止める力なんてない……

 それにあそこまでキーアを思い詰めさせてしまったのは俺だから、例え辿り着けたとしても何て言葉を掛けて良いか分からない」

 

「それはあたしも同じです」

 

 ロイドの言葉にノエルは目を伏せる。

 都合の悪いことに目を瞑り、キーアの恩恵をただ享受しようとしていた己を改めて恥じる。

 

「私もベルの言葉に一理でもあると感じてしまったから、ロイドは責められないわ」

 

「僕達も教会の秘密主義が招いた結果でもあるからね」

 

 エリィとワジもそれに同調するように己の不徳を感じる。

 

「元を糾せば、僕達帝国人の高圧的な振る舞いとも言えますが……」

 

 自分の事ではないが、これまでクロスベルで見て来た帝国人の振る舞いを思い出してクルトは自分の事のように恥じる。

 

「ここにいるみんなが今、ロイドと同じことを思っている。そしてそれはここにいないランディとティオちゃんも同じはずよ」

 

「ああ……」

 

 ロイドは改めて一同を見回して、告げる。

 

「俺達の中の誰でも良い。俺達の思いをキーアに――」

 

「何を言っているのさ」

 

 最後の締めを言おうとしたロイドをワジが苦笑交じりに否定する。

 

「あの子が誰よりも待っているのは君の言葉のはずだ……

 そういうわけだから、僕が先陣を切らせてもらうよ」

 

 そう言ってワジは無数の魔獣の群れに向き直り、力を解放する。

 

「我が深淵にて煌めく蒼金の刻印よ」

 

 ワジの背中に金色の《聖痕》が浮かび上がり、彼の両腕は異形の物へと変容する。

 

「大いなる腕となりて我が両腕に集え」

 

 両腕を引くように構え、そこに魔法陣が広がって二つの球体が生まれる。

 

「オオオオオオオオオオオ!」

 

 ワジは両手に顕現した黄金の砲弾を、目の前で叩きつけて合わせ、一筋の閃光として放つ。

 

「貫け! アカシックアームズッ!!」

 

 金色の砲撃が魔獣の群れを呑み込み、一直線に薙ぎ払う。

 

「くっ――」

 

「ワジッ!?」

 

「僕の事は良いから、早く行けっ!」

 

 力の放出による虚脱感に膝を着いたワジは叱咤するように走れと叫ぶ。

 

「っ――」

 

 心の中で感謝を叫び、ロイドはワジが拓いた道を駆け、仲間たちもそれに続く。

 しかし、その道もすぐに周りの魔獣たちが押し寄せて塞ぎにかかる。

 

「させません」

 

 ノエルは何処からともなくミサイルランチャーを取り出して狙いを大雑把に付けて引き金を引き、撃ち出したそれを投げ捨て、次のミサイルランチャーを取り出して撃つ。

 四連式ミサイルを三度使い、道を塞ごうとする魔獣たちを吹き飛ばし、ロイド達を追い越して魔獣のど真ん中に身を投げ出し両手のサブマシンガンを回転しながら乱射する。

 

「ノエルッ!」

 

「ここはあたしに任せてくださいっ!」

 

 電磁ネットを乱射しながらノエルは叫ぶ。

 とにかく派手に立ち回り、魔獣たちの目を自分に向けることこれがロイドを先に進ませる援護だと信じてノエルはスタンハルバードを振り回す。

 しかし、それで全ての魔獣を引き付けられたわけではなく、ロイド達の前にはまだ多くの魔獣がいる。

 

「ここは僕に――」

 

 そう言ってクルトが先行する。

 抜き放つのは導力の刃を展開する双剣。

 

「ヴァンダールの双剣、とくと味わえっ! ラグナストライクッ!」

 

 双剣の乱舞が押し寄せる魔獣の波を押し返すように次々と斬り伏せ、斬り払われる。

 さらに剣を振るう度に雷光は迸り、魔獣たちを焼く。

 しかし、大型の魔獣がその雷光に耐える。が、クルトは止まらない。

 

「我が全霊を持って無双の一撃を成す」

 

 双剣の刃を消して、柄を直列に連結し一つの大きな刃をする。

 

「うおおおおおおおおっ! 破邪顕正っ!」

 

 巨大な魔獣を一刀両断。

 勢い良く突っ込んだクルトを脅威と判断して魔獣が殺到する。

 

「クルトッ!」

 

「問題ありませんっ!」

 

 ロイドの声に応え、クルトは刃を消したオーブメントを逆に連結し直す。

 

「見よ、これがヴァンダールの風だっ!」

 

 殺到する魔獣たちをクルトは一息に薙ぎ払う。

 その手に握られているのは導力の刃を穂先にした薙刀。

 一つの武器を三種に使い分け、クルトはノエルと同様に道を切り開く。

 

「行ってくださいロイドさん、キーアはきっと貴方の言葉を待っているはずです」

 

 その言葉に背中を押されるようにロイドは駆ける。

 

「キーアッ!」

 

 《碧の虚神》が目前となる。

 しかし、まるでロイドの接近を拒むように結界が展開される。

 

「エリィッ!」

 

「任せてっ!」

 

 短いやり取りだけでロイドは飛び上がり、その背中にエリィは導力銃の銃口を向ける。

 

「「スターブラストッ!」」

 

 導力の砲撃に背中を押されて加速したロイドが結界にトンファーを叩き込む。

 

「オオオオオオオオオッ!」

 

 雄叫びを上げロイドはトンファーを押し込み――結界を貫通してロイドは《碧の虚神》の身体を駆け上がる。

 

「キーアッ!」

 

 コアを掲げる腕の頂上に辿り着き、コアの中のキーアに呼び掛ける。

 しかしキーアはそれに応えることはなく、《碧の虚神》の腕はそれを握り潰そうと力が籠る。

 

『因果ヨリ滅却サレシ幻トナレ――』

 

「っ――させるものかっ!」

 

 ロイドはその腕にトンファーを叩きつけ――砕け散った。

 

「なっ!?」

 

 あと一歩のところで武器が砕ける事態にロイドは言葉を失う。

 

「そんな――」

 

『いえ、まだです』

 

 絶望するロイドに応えたのは勝手に回線が開いたエニグマから。

 

『エイオンシステムと戦術リンクの同調――クロッシング良好……

 エイドロンギアとベルゼルガーとの接続完了。エネルギー臨界120%――視覚情報並びに狙撃座標をランディさんに送ります』

 

『悪いなガレス。お前の記録は塗り替えさせてもらうぜ』

 

 聞こえて来るのはここにいないはずの二人の声。

 

『それじゃあ――狙い撃つぜっ!』

 

 次の瞬間、大樹の壁を貫き一筋の光が臨界を待たずにコアを握り潰そうとしていた《碧の虚神》の頭を撃ち抜いた。

 荒れ狂っていた霊力が静まりかえり、群れの魔獣たちが一斉に動きを止める。

 そして彼らの目の前で《碧の虚神》は体を崩壊させていく。

 投げ出されたコアに包まれていたキーアはそれで解放されず、まるで全てを拒絶するように“白い闇”に呑み込まれ――

 

「キーアッ!」

 

「キーアちゃんっ!」

 

 そこにロイドとエリィは躊躇わずに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

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