(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~ 作:アルカンシェル
一度短編として投稿して一旦消した話になります。
以前たくさんの感想の中でキーアやアリオスを殺しておくべき、リィンの判断がただ甘いだけの馬鹿と多くの指摘をもらったことで書いてみたIFの話になります。
はっきり言えばバッドエンドまっしぐらな暗い話なのでご注意ください。
とりあえずこちらのIFとして置いておかせて頂きます。
「はっ――はっ――はっ――」
息を切らせてロイドは階段を走る。
その後をエリィやティオ、ランディが追い駆けるが、元々の体力の差、武装の重さもあってその差は見る見る広がって行く。
「ロイド……待って……」
ペースを緩めて欲しいと懇願する声が背中に掛けられるが、ロイドは走る速度を緩めない。
オルキスタワーの魔導区画。
幸いなことに彼らの疾走を阻むものはいないが、逆にそれが焦燥を掻き立てる。
「先に行くっ!」
それだけ言うとロイドは更に走る速度を上げる。
ロイドは倒れた魔導ゴーレムの間をひたすらに走る。
ロイドが走る先に散らばっているのは、両断されて機能が停止したクロイス家の施設を護るガーディアン。
どれも一刀の下で斬り伏せられ、それ以外にない戦闘痕は“彼”の実力を物語っている。
「間に合ってくれ……」
ただそれだけを念じてロイドはひた走る。
「っ――」
魔導区画を抜けた先、30Fからの非常階段には分厚い隔壁がロイドの行く先を阻んでいた――はずだった。
「うそだろ……」
隔壁に走る縦横に刻まれた斬痕と斬り抜かれた穴。
中を覗き込めばどれだけ分厚い鉄の扉なのか分かる。
かつて通商会議ではロイド達もこの隔壁に閉じ込められたのだが、それをものともしない存在にただロイドは畏れを感じる。
「無事でいてくれ、キーア」
「待てロイド!」
特務支援課にとっての娘のことを祈り、ロイドが先に進もうとしたところでランディが追い付く。
「待てって言ってるんだロイド! ちっ――ベルゼルガーが引っかかって通れねえ」
ただでさえロイドよりも体格のいいランディは隔壁の穴を通り抜けるのに四苦八苦する。
もがくランディを振り返らず、ロイドは隔壁の穴を抜けて階段を登り、同じように穴がある隔壁を通り抜けて階を上がって行く。
その隔壁も36Fに辿り着くとなくなっていた。
そして、その代わりに一人の女の子が踊り場で立ち尽くしていた。
「シズクちゃん?」
「その声は……ロイドさん?」
振り返った女の子にロイドは違和感を覚える。
「そっか……こんな顔をしていたんですね」
「っ! もしかして目が見えるようになったのか?」
「はい、キーアちゃんのおかげです。不思議な力で、目の神経を繋いでくれたみたいで……
もう光だけじゃなくて、色と形もちゃんと分かります」
「そうか……こればかりはキーアをちゃんと褒めて上げないとな」
理解できなかった少女が自分達が思い描くままであることにロイドは安堵する。
「はい……本当にキーアちゃんにはいくらお礼を言っても足りないくらいで……でも……でも……ううううっ!」
シズクは涙を堪え切れずに嗚咽をもらす。
「シズクちゃん、どうしたんだ?」
「キーアちゃん、笑っていたけどとっても辛そうでした!
これが自分の役割なんだって、自分の望みなんだって無理矢理言い聞かせてるみたいで! お父さんも――」
「…………シズクちゃん。俺達はキーアを取り戻しに来たんだ……
あの子や、アリオスさんたちがどこにいるか知っているかい?」
「――はい。今日は二人ともディーターさんの所にいるはずです……でも、さっき凄い怖い人が――」
「ああ、分かっている」
怯えるシズクを安心させるようにロイドは笑いかける。
「シズクちゃんはここで待っていてくれ。キーアとアリオスさんは俺が連れて来るから」
「あの……ロイドさん、わたしも連れて行ってください」
「シズクちゃん……」
「何だか良くない予感がして、お願いです。ロイドさんの邪魔はしませんから!」
縋りつくシズクを邪険に扱う事を躊躇ったロイドは少し考えて頷く。
「分かった。一緒に行こう」
ロイドが想像する彼ならば、大丈夫だと自分に言い聞かせてシズクの手を取る。
そして二人はオルキスタワーの屋上へと出る。
「っ――」
回廊から顔を覗かせたロイドは飛んで来た何かを反射的にトンファーで叩き落とす。
「大丈夫かシズクちゃん!?」
「は、はい――ひっ!?」
目の前に転がった人の腕にシズクは悲鳴を上げる。
早速、彼女を連れて来てしまったことに後悔するロイドだが、その腕が握っている太刀と残っている赤い袖に息を呑む。
「――ま……まさか……」
顔を上げれば、屋上の中央に倒れた誰か。
そしてその向こうに《白い神機》と戦う少年がいた。
「八葉一刀、無仭剣――滅」
ロイドには何が起きたのか理解できなかった。
彼が太刀を納刀したことを合図に、彼の何倍も大きな《白い神機》は内側から爆ぜる。
「ば、馬鹿な! 《零の御子》が直接搭乗している《神機》が生身の人間に何故!?」
高みの見物をしていたディーターは《風の剣聖》と《零の御子》が敗れたことに声を上げて狼狽する。
そちらを彼は一瞥だけして、崩壊した《神機》に足を向ける。
彼が足を向けた先には《神機》のコアから光となって、白い光を纏う少女が現れ、崩れ落ちる。
「…………何か言い残すことはあるか?」
「キーア達はただ自由が欲しかっただけなのに……それはいけないことなの?」
「その自由は他の誰かから奪った君達だけの自由だ……
そしてその“力”で君は……ナユタやノイたちを消そうとした」
「それは……でも――」
「君の存在は人には過ぎたものだったんだ」
少年は一歩、少女に踏み出す。
「ひっ――」
少女は息を呑み後退るが、背後には《白い神機》の残骸。
「や、やだ……死にたくない。キーアはもっとロイド達と一緒にいたい!」
「君が消滅させたガレリア要塞の人達にも帰りを待っている人がいたんだ」
「…………あ……」
初めてそれを知ったと言わんばかりに少女は顔色を変える。
そんな彼女に少年はため息を吐き――
「せめて苦しませずに――」
「やめろっ! リィンッ!!」
納刀した太刀の柄に少年、リィンが手を掛ける。
ロイドは血だまりに倒れた父に縋りつくシズクを脇に疾走する。
しかし、その疾走は届かず、少年の太刀は抜かれ――血が舞った。
「あ……」
胸から血を吹き出し、仰け反って倒れる少女がロイドにはゆっくりと見える。
「ろ……い……ど……」
白い少女はそれだけ呟くと、己の血で作った血だまりに碧の髪を広げて崩れ落ちた。
「………………キーア……」
それを前にロイドもまた膝から崩れ落ちる。
血に汚れることも構わずロイドは少女の手を取る。
急速に温もりを失っていくその手の冷たさにロイドは拒絶するように頭を振るが、そんなものは何の役にも立たず少女の手はロイドの手を握り返してくれない。
「おとうさんっ! おとうさんっ! お願い目を開けておとうさんっ!」
シズクの声が遠くに感じる。
そして背後には無言で立つ少年の気配。
「何で……何で殺したっ!」
胸の中にあった彼女への“愛情”が爆発するように“憎悪”へと染まる。
その衝動にロイドは諍わず、むしろ同調するように少年に掴みかかる。
「がっ――」
しかし、気付いた時には伸ばした手は掴まれ、足を払われロイドは無様にしりもちを着く。
「言い訳はしない。だけどこれは貴方達、警察が“無能”だったからこうなったんだ」
「ふざけるなっ!」
少年の言い分を受け入れることはできず、ロイドは叫ぶ。
「殺してやる! お前を殺してやる! リィン・シュバルツァーッ!!」
その叫びはクロスベルの空に空しく木霊した。
*
その後、国防の要だった《零の至宝》を失ったクロスベルは帝国軍の侵攻に成すすべなく占領――されることはなかった。
帝国によって奪われたアリオス・マクレイン。
そして誰からも心の底から“愛”していたキーアを奪われたクロスベルは《黒月》から供給される武器を手に取り、大人から子供に至るまで徹底抗戦する道を選んだ。
中立を保っていた七耀教会はワジ・ヘミスフィアがリィン・シュバルツァー抹殺派に鞍替えしたことを切っ掛けに、《箍》が外れたように帝国の糾弾を始めた。
そして遊撃士協会は激化する戦場を見兼ねて――
「ねえ弟君、どうしてアリオスさんを殺したの?
弟君ならもっとうまくできたはずだよね? ねえどうして?」
これが自分が考えた144話でディーターが匂わせていた、リィンがディーターを始めキーアやアリオスを殺した未来です。
ロイド達は主人公属性を捨てて復讐者に堕ちる。
七耀教会もこれ幸いにリィンを糾弾する理由を得て外法と認定するでしょう。
キーア達を殺したことで、内戦で躊躇いを捨てたリィンは最速で内戦を平定し、Ⅶ組からもドン引きされる。
世界中からリィンは危険視されることになるので閃Ⅱが終わった段階で、世界大戦が始まるかもしれないと考えています。
エステルやアネラスも光属性から、広がる戦火に悪気のない愚痴をもらしてしまうでしょう。
血も涙もない誰にとってもバッドエンドになりますが、こんな話を見たいですかね?
本編のリィンは全てではないですが、キーアやアリオス、ディータを殺せばクロスベルの不満が爆発して泥沼の戦争が続くことは気付いていました。
ディーターもまたこの未来をある程度読んでおり、144話でのやり取りで表していたつもりですが、表現し切れずに申し訳ありませんでした。