(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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戦術殻の日々、その2 園芸部のリン・オーリオール

 

 

 季節は夏。

 トールズ士官学院の校舎裏にある園芸部の花壇を前にして部長のエーデルはにこやかな笑顔で整列した部員たちに告げた。

 

「皆さん、今日は新しいお友達を紹介します」

 

 そう言ってエーデルは肩に乗っている人形に呼び掛ける。

 30リジュ程度の小さな人形はまるで生きているかのようにエーデルの呼び掛けに頷いて、ふわりと浮き上がりエーデルの前に移動して宙空に止まる。

 

「ご紹介に預かりました《リン・オーリオール》です。以後お見知りおきを」

 

 ぺこりと人形――リンは頭を下げる。

 

「ようこそ園芸部に」

 

「本当にリィン・シュバルツァーにそっくりだな……」

 

「かわいいっ! 《魔王》と同じ顔だなんて信じられない」

 

 自己紹介したリンに園芸部員たちは沸き立つ。

 明らかに人と違う存在でありながらも、予め通達されていたこともあり、混乱もなくリンは園芸部に歓迎された。

 

「ねえねえリンちゃんって呼んで良い?」

 

「あなたとシュバルツァー君はどういう関係なの!?」

 

「ノイちゃんとルフィナ様はどの部活に参加するの!?」

 

 矢継ぎ早に、特に女子たちからの質問攻めにリンはたじろぐ――かに思えたが、迫る部員たちにリンは淡々と答える。

 

「呼称は好きに呼んで頂いて構いません……

 リィンは“私”の眷属です……

 現在ノイは部活動に参加する意思はなく、ルフィナは医務室の補佐官として活動することになりました」

 

 流暢な受け答えに一同は驚く。

 サイズが小さいからこそ人形と分かるが、その顔や体の構造はそれこそ人と遜色なく、話すときも口が動き、それこそまるで人と話しているとしか思えない。

 

「とてもじゃないけど、あの戦術授業の戦術殻とは思えないな」

 

「しかしあれはもしかして……」

 

「どうかしたんですか先輩?」

 

 リンに殺到する女子たちの背後で二人の平民生徒と貴族生徒が会話をする。

 

「あれはもしかしたらローゼンベルク人形かもしれない」

 

「ローゼンベルク人形?」

 

「ああ、その業界では有名な人形師の作品なんだが、昔帝都の競売会で500万ミラで落札された人形のことだ」

 

「500万ミラ!?」

 

 貴族の先輩が口にした値段に後輩の生徒は驚きの声を上げる。

 その声に今にもリンに触れようとしていた女子たちは一斉に手を引っ込めた。

 

「500万ミラ……」

 

「これがあの有名なローゼンベルク人形……」

 

「その人形が三つって事は1500万ミラ!? シュバルツァー君って男爵家なのにお金持ちなんだ……ゴクリ」

 

 いろいろな意味で気後れする部員たちだったが、エーデルが手を叩いて場を切り替える。

 

「はい、リンちゃんとまだお話したいでしょうけど、まずは今日の部活動を始めましょう」

 

「あの、部長。それなんですが、シュバ――じゃない。そのリンって子は本当に園芸部で引き受けるんですか?

 園芸部は土仕事が主ですから、その……」

 

 男子生徒は言い辛そうに言葉を濁す。

 しかし、言いたいことは何となく他の部員たちも理解する。

 500万ミラの人形、それに着ている服も精巧で美しく、とてもではないが土仕事に適しているとは言い難い。

 

「ああ、リンちゃんの服の事ね」

 

「それもありますけど――」

 

「それなら心配には及びません」

 

 男子生徒の言葉を遮り、リンはどこか自慢げにそれを差し出した。

 

「土仕事用の装備としてこちらの装備を準備してもらったので問題はありません」

 

 差し出したのは生徒達にとっても馴染みの深い、運動用のジャージだった。

 

「…………リンちゃん、このジャージはどうしたの?」

 

 一人の女子が沈黙する一同の中から代表して質問する。

 

「リィンが作ってくれました」

 

 無表情、淡々とした感情が希薄な口調だがどこか嬉しそうに見えるリンに園芸部一同はほっこりして――

 

「リィン・シュバルツァー君が夜なべしてリンちゃんのジャージを縫っていた?」

 

 ピンクの髪の少女が誰も思っても口にはしなかった想像を呟く。

 

「ぶっ――」

 

 誰かが噴き出すのを切っ掛けに笑いが広がる。

 

「ちょっとヴィヴィ! 変なこと言わないでよ!」

 

「やべえ! 想像しちまった!」

 

「あの《魔王》が人形遊びが趣味なんて……ククク……」

 

「何故、皆は笑っているのでしょうか?」

 

 その笑いの理由が分からずリンは首を傾げた。

 そして――

 

「むぅ……」

 

 その笑いの輪から離れ、一番端に気配を消して整列していたフィーは彼らとは逆に面白くないと言わんばかりに唸った。

 

 

 

 

 

 そうして始まった園芸部の活動だったが、部員たちの懸念は驚くほど簡単にあっさりと裏切られることになった。

 30リジュしかない体長だが、流石は戦術殻と言うべきなのかその小さな体躯からは信じられない力で重い荷物を運んでくれる。

 それでいて細かな作業は念動力でシャベルや如雨露を動かして園芸の作業そのものにはまるで支障はなかった。

 最初こそ、過剰に気遣っていたものの、リンが一人で作業ができると分かると部員たちは肩の力を抜き、自分達の作業を進めながらリンに構い出す。

 

「むぅ……」

 

 その光景にやはり面白くないものを感じてフィーは唸る。

 

「あれれ、どうしたのかなフィーちゃん? ご機嫌斜めみたいだけど」

 

「……別に何でもない」

 

「うんうん、分かるよ」

 

 素気ない返事をするフィーにヴィヴィはお姉さん風を吹かすようにしたり顔で頷く。

 

「昨日まで園芸部のマスコットは自分だったのに、リンちゃんにその座を奪われて悔しい、そして寂しいって思ってるんだよね?」

 

「……全然違うし――」

 

「みんなっ! フィーちゃんが寂しがってるよー!」

 

 人の話を聞かず、ヴィヴィは大きな声で叫ぶ。

 

「だから違うってっ!」

 

「ええ、ほんとかなー?」

 

 からかうようにヴィヴィは含みを持たせた笑みを浮かべる。

 普段は気だるげで他人なんて興味がないと言わんばかりの態度を取っているフィー。

 四月にあったとある事件のこともあり、幼い外見ながらも元猟兵と言う肩書に彼女を畏れた者は多い。

 もっとも園芸部ではエーデル部長の気質もあり、蟠りが生まれることはなかったのだがフィーは積極的に人間関係を作ろうとすることはなかった。

 それでも入部してから数ヶ月。

 それだけあればフィーの気質も部内では知れ渡り、猟兵と言う肩書を持っていても園芸の素人として四苦八苦している彼女の姿に絆されてしまった部員たちも多い。

 

「大丈夫、フィーちゃんもリンちゃんと同じでかわいいよ!」

 

「フィーもそういうことを気にするんだな……ふふふ、やっぱり猟兵って言ってもそういうのは変わらないんだね」

 

 広い園芸スペースからヴィヴィの声に応える形で次々にフィーを気遣う声が掛けられる。

 

「むぅ……」

 

 先程とは違う理由でフィーは唸り、反論することはやめて雑草抜きに没頭することでフィーは周囲の声を無視することにする。

 その姿もまた微笑ましさを誘う者であり、園芸部員はフィーに生温かい視線を送るのだった。

 

 

 

 

「それではフィーちゃん、それにリンちゃん。貴女達に課題を出します」

 

 今日の雑草取りを終え、一通りの作業を終えたところでフィーはリンと共にエーデルに揃って呼び出された。

 

「フィーちゃんはこの数ヶ月、リンちゃんはまだ一日目だけど園芸部の活動は分かってくれたと思います」

 

 園芸部の活動は簡単に見えて難しいものだと言うのがフィーはこの数ヶ月で体感した。

 毎日のように生えてくる雑草の除去。

 どこからか現れ葉を食い荒らす虫の始末。

 ただ水をやれば良いと思っていただけのフィーは楽ができないことに不満を感じながらも、それらの仕事に手を抜くことはしなかった。

 今日、入部したばかりのリンと並べられることにそれこそ不満を感じながら、それでも課題と言う一人前への試験を受けられることにフィーは喜ぶ。

 

「そこで二人にはこの苗を一週間、世話をしてもらいます」

 

 そう言ってエーデルが二人に差し出したのは一抱え程の植木鉢に生えたトマトの苗だった。

 

「見て分かる通り、この苗のトマトはまだ収穫できないの」

 

 エーデルはそこに実った緑色の実を指して説明を続ける。

 

「私がお世話をすればおよそ一週間でこの身は赤く熟すでしょうね……

 だから二人も一週間、その苗を枯らさず、実を赤くさせて収穫できるようにお世話することが課題になります」

 

「なるほど……」

 

「実を育てるだけなら、今すぐでも可能ですが?」

 

 課題の内容を理解したフィーの横でリンがそんなことを宣った。

 

「リンちゃん、リィン君から伝言です。部活動をするにあたり“至宝の力”を使わないようにとのことです。お願いします」

 

「…………むぅ」

 

 エーデルの伝言にリンは顔をしかめて苗に向けた手を下ろす。

 

「良いでしょう。例え“力”を使えなくても私に《リベル=アーク》の庭園を維持していた実績があります……

 この程度の課題など私にとって簡単な課題に過ぎません」

 

 リンは自信満々にそう言った。

 

 

 

 

 ――二日後の早朝活動の集まりにおいて、リンの苗は見るからに萎れ、枯れようとしていた。

 

「……何故、こんなことに……」

 

 隣に並ぶフィーの苗とは違って見るからに元気のない自分の苗にリンは首を傾げる。

 

「ん……何をしたの?」

 

 打ちひしがれるリンにフィーは同じ課題を受け取った身として尋ねる。

 

「昨日は一日中、日当たりが良い場所に苗を移動させ、土を乾かさないように絶えず水を与え続けていました」

 

「日当たりの良い場所……一日中?」

 

 フィーは空を見上げて、蒼い空に浮かぶ太陽を見る。

 昨日に引き続き、夏真っ盛りの快晴な空。

 今日も暑くなりそうだとげんなりした感想を抱きながら、日中は日当たりの良い場所を探して彷徨い、夜は寝ずの番で水を与えているリンの姿を想像する。

 

 ――この子、リィンの顔をしているけどけっこうポンコツだ……

 

 フィーは入部したての頃、水のやり過ぎで根腐れをさせて苗を一つダメにしたことを棚に上げてリンの評価を改める。

 

「何がいけなかったのでしょう?」

 

 そんな生温かい視線に気付かずにリンは思案する。

 フィーは助けを求めるように視線を巡らせて――

 

「あー忙しい忙しい」

 

「うーん、如雨露で虹を作る最適な速度は……」

 

「…………」

 

 わざとらしい言葉を呟き、フィー達からあからさまに視線を逸らす先輩や同級生たちの態度にフィーはため息を吐く。

 この二日間ですっかりマスコットと化していたリンに手助けをしないと様子にこの状況は作られたものだと察する。

 放置しても良いのだが、課題を与えられた時のエーデルの言葉をフィーは思い出す。

 

『頑張ってね、フィー先輩』

 

 学院でも団でも一番年下扱いだったことを思い出すと、その響きは新鮮でありフィーは動かされていることに不満を感じながらリンに声を掛ける。

 

「それ……たぶん根腐れしたんだと思う」

 

「根腐れ?」

 

「それと日光にも当て過ぎだから、葉焼けもしていると思う」

 

「葉焼け?」

 

「えっと根腐れは水の上げ過ぎで、葉焼けは人で言うと日光で火傷した感じ?」

 

 知識不足のフィーはしどろもどろになりながらリンに考えられる原因を伝える。

 

「…………何故、それが原因になるんですか?」

 

「それは……」

 

「水と日光は植物育成のために必要不可欠な要素のはずでは?」

 

「えっと……それは人と同じで食べ過ぎとか良くないってことじゃないのかな?」

 

「人と同じ……」

 

 フィーの説明にリンは萎れた苗を見て考え込む。

 

「えっと……」

 

「この苗はどうしたら元気を取り戻すのでしょうか?」

 

 落ち込んでいるのかと声を掛けようとしたら、リンは前向きな質問をフィーにして来た。

 

「えっと……わたしには良く分からないんだけど……」

 

「ですが、フィーの苗は私のものとは違って元気です……具体的にはどんなことをしているんですか?」

 

 眼前に迫って質問攻めをしてくるリンにフィーはたじろぎ、助けを求めるように視線を彷徨わせる。

 

「あー忙しい、急がないと授業に遅刻しちゃうなぁ」

 

「見て見て、この虹うまくできたでしょ」

 

 振り返ったフィーに反応してそっぽを向いて手が放せないとアピールする先輩と同級生たちの態度にフィーはため息を吐く。

 

「えっと……」

 

 自分がやらかした時に教えてもらったことを思い出そうとフィーは必死に記憶を遡る。

 しかしこの状態の苗を持ち直せるのかフィーには判断はできなかった。

 

「そう言えば一昨日、“力”を使えばどうとかって言ってなかった?」

 

 言い訳を考えながら、フィーは時間を稼ぐために話題を振る。

 

「ええ、七耀の力を作用させて植物の成長を促すことが可能です……

 これを用いて《リベル=アーク》内での限られたスペースで効率よく食料を増産し――」

 

 えっへんと誇らしげに胸を張るリンだがフィーは話の半分を聞き流し、提案する。

 

「それってわたしが使うことはできるの?」

 

「直接は無理ですが。貴女の戦術オーブメントを利用すれば可能かもしれません」

 

「それじゃあそれをやろう」

 

 普通の手段では無理だと早々に見切りを付けてフィーはリンに提案をする。

 

「しかし――」

 

「良いことを教えて上げるリン」

 

 フィーは聞き耳を立てているくせに助け舟を出そうとしてくれない先輩や同級生たちに聞こえないように声を潜めて言った。

 

「ばれなければオッケー」

 

 

 

 

 そう助言したフィーは早くも自分の発言を後悔することとなった。

 授業の合間の昼休み。

 昼食を済ませたフィーはリンから“力”の内容を聞き、既存ではないクォーツを製作するために技術棟にいた。

 

「むぅ……クォーツくらい作ってくれればいいのに」

 

「そうしたかったのですが、私はセピスを所持しておらず、この課題については“力”の使用は禁止されています」

 

 フィーの屁理屈に乗ったものの、律儀に約束を守ることに拘るリンにフィーはため息を吐く。

 

「まあいっか……誰も来ない内に済ませちゃお」

 

 士官学院の授業の中で、クォーツの精練の経験はある。

 技術棟の使用も申請を出せば認められるため、疚しいことはないのだが昼休みは有限のためフィーは急ぐ。

 

「えっと地のセピスを7に水のセピスを2、それから空のセピスが1の割合で……何で空属性?」

 

「それは私の属性だからです」

 

「そう……」

 

 意味の分からない答えにフィーは首を傾げつつも作業をする手を止めない。

 出来上がったクォーツに今度はリンが術式を刻んでいく。

 そんな共同作業にフィーはふと懐かしさを感じる。

 

「ゼノ達と昔、こんな風に弾丸を作ってたことがあったっけ……」

 

 薬莢に火薬を詰め、弾丸を詰め、マガジンに詰める。

 分業した作業や、それ以外でも導力銃の分解などの思い出をフィーは想起する。

 

「――できました」

 

 思い出に耽っているとリンがクォーツの完成を告げる。

 

「ん……それじゃあ放課後、部長たちが来る前に済ませようか」

 

 今すぐにと言いたいところだが、昼休みが終わる予鈴がなったことでフィーはそう提案した。

 

 

 

 

 

 最後の授業が終わるやいなや、フィーは教室を気配を消して一番に出て、中庭に面した窓を開けると飛び降りた。

 

「ん、お待たせ」

 

「では行きましょう」

 

 そこでフィーを待っていたリンが応え、二人はすぐに行動に移る。

 誰よりも早く園芸部の菜園に辿り着いた二人は周囲を警戒しつつも、萎れた苗の鉢を更に奥まった場所に移動させる。

 

「それじゃあ行くよ」

 

「はい、お願いします」

 

「《ARCUS》駆動」

 

 初めて使う導力魔法をフィーは駆動する。

 攻撃用でも補助でもない、分類とすれば治癒術の導力魔法。

 フィー自身は決して導力魔法は得意ではないが、それでも難しい大規模な魔法ではないのでそれは無事に発動する。

 

「《グロウアップ》」

 

 大地の力に働きかけ、植物に活力を与える導力魔法。

 その効果はまさに劇的だった。

 萎れた葉や、下を向いてしまった茎が、力を得た様にみずみずしさを取り戻し、項垂れていた姿が上を向き、緑の実が赤く染まって行く。

 

「成功のようですね」

 

「うん、やったね」

 

 二人は復活したトマトの苗を前に手を合わせ――次の瞬間、赤く熟した実が落ちた。

 

「あ……」

 

「…………もしかしてやり過ぎた?」

 

 肝心の実が落ちてしまったことにリンは呆然とし、フィーはバツを悪くして失敗の可能性を口にする。

 詰めを誤り失敗したことを責められるかとフィーは警戒するが、リンはただ落ちた実を見つめたまま立ち尽くす、いな、浮き尽くす。

 

「えっと……」

 

 慰めの言葉を掛けようとフィーが頭を悩ませていると、それは起こった。

 

「あ……」

 

「ん? どうした――」

 

 リンの呟きにフィーは周囲を警戒する。

 まさかエーデル部長がもう来てしまったのかと身構え――

 

「危ないっ!」

 

 警告の声をリンが発し、フィーは脅威を確認するより早くその場を飛び退き、襲い掛かって来た赤い球を避ける。

 

「赤いポム!? どうしてこんなところに!?」

 

 魔獣除けの導力灯がある街の中で現れた魔獣にフィーは驚くが、リンがそれを否定する。

 

「違います。あれは……」

 

「こんな魔獣みたことないけど……」

 

 しかし見覚えのある外見にフィーは戸惑い、リンが答えを告げる。

 

「あれは先程のトマトです」

 

「トマト……」

 

 言われ、改めてその姿を観察してフィーは納得する。

 気付けば先程落ちた実はなくなり、代わりに赤いポムもどきが現れた。

 その体も、大きな赤い頭に緑のヘタを体にして自立しており、全体的にトマトだった名残が見て取れる。

 

「キシャアアアアアアアッ!」

 

 トマトから生まれた魔獣は頭を半分に割いて雄叫びを上げる。

 戦う気概を見せるトマトマンにフィーは双銃剣を抜く。

 

「目標を確認、制圧を開始する」

 

「サポートします」

 

 フィーとリンが並び、トマトマンとの戦闘が始まる。

 

 

 

 

「制圧完了」

 

「お疲れ様です」

 

 思わぬ生命力を見せたトマトマンの猛攻をフィーとリンは連携して撃破して、息を吐く。

 

「手強い相手だった」

 

「何がいけなかったのでしょうか? 帝国の土に私の《空》の力が馴染まなかったのでしょうか?」

 

 半分に潰れたトマトマンを前にリンは失敗の考察をする。

 

「そんなこと良いからシャワー浴びたい」

 

 疲れたと言わんばかりにフィーはトマトの汁まみれになった自分の姿を見下ろしてため息を吐く。

 しかし、二人の戦いはむしろここからが本番だった。

 

「二人ともこれは何かな?」

 

 トマトマンとの戦闘で荒れた園芸部の菜園を前にエーデルは凄みを感じさせる笑顔で二人に話しかけた。

 

「エ、エーデル部長……」

 

「こ、これは……その……」

 

 彼女の圧にフィーとリンは怯み、その背後で体が半分潰れたトマトマンは力を振り絞り――

 

「しゃあああああああっ!」

 

「あ……」

 

「逃げた……」

 

 脇目も振らずトマトマンは森に向かって一直線に逃げ出した。

 菜園を荒らした罪を擦り付ける魔獣に逃げられたことに二人は固まり、エーデルはそんな二人に笑みのまま無情に告げる。

 

「二人とも、正座」

 

 なお、フィーが浴びたトマトの汁は涙が出る程に苦かった。

 

 

 

 

 

 

「きしゃあああ……」

 

 トールズ士官学院から逃げ出したトマトマン――否ニガトマトマンは短い生涯を森の中で尽きようとしていた。

 しかし、例え彼がそこで朽ちたとしてもその身に宿った種は帝国に根付き新たなトマトマンが生まれる《世の礎》となるのだった。

 

 

 注意:外来種はむやみに放逐してはいけません。

 

 

 

 

 

 

 





 追伸:零ではこの時期にはすでにニガトマトマンがいますが、それは考えないものとします。






今後の予定

 ある日リィンは呟いた。
「温泉に入りたい」
 入浴の文化が薄い帝国において学生寮は当然、シャワー室しかない。
 そこに文句はないものの、度重なる事件に奔走したリィンはその疲れから思わず呟いてしまう。
 そしてそれを聞きつけたのは、リィンの願いを聞きたがっていたリンではなかった。
 リュートを奏でて旧校舎に現れたのはオリヴァルト殿下――ではなくオリビエ・レンハイムだった。



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