(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~ 作:アルカンシェル
このお話は閃Ⅲの裏側で進行していると想定しています。
また今回の話はあくまでもIFなので予告なく変更される可能性もあります。
七耀歴1206年 エレボニア帝国帝都ヘイムダル。
再開発から取り残された東部の旧市街のオスト地区。
その一角に場違いな清楚な少女が歩いていた。
戦術オーブメント兼多目的端末として普及した《ARCUS》に導力ネットから地図を表示し、時には人に尋ねて少女は旧市街の奥へ奥へと入って行く。
「……この建物で間違いないみたいですね」
目的地に辿り着き、少女は何の変哲もない建物を見上げる。
特に外に看板が出ているわけではない。
あるのは剥き出しの階段だけで、地下の方には《ノイエ・ブラン》という看板があるだけ。
少女の目的地はそちらではなく、二階へと進む。
その先の扉には表札のような質素な看板でこう書かれていた。
『ジークフリート解決事務所
訳アリ客以外はお断り 』
「…………ここが……」
少女はその名前を確かめて頷くと、意を決してノックする。
その音に反応して、扉の向こうで動く気配を感じる。
そのまま待つこと数秒、徐に扉は開く。
「……………あ……」
寝起きだったのか、出て来た青年は少女を見て呆ける。
「……………あ……」
対する少女も出て来た青年の姿に淑女らしからぬ間の抜けた言葉を漏らしていた。
青年は一言で表すなら《白》。
真っ白な白髪に灼眼の瞳。
着ている服も白を基調としたものであり、どこか貴族然とした姿は旧市街とは場違いなものだった。
――何故、貴族がこんなところに?
そんな感想を抱きながらも少女は彼を目の前にして奇妙な胸がざわめきに困惑する。
「……………もしかしてお客様かな?」
青年は目を細め、固まる少女に尋ねる。
「は、はいっ……!」
少女は青年の眼差しに胸の鼓動を高鳴らせながら頭を下げる。
「こちらのジークフリート解決事務所にお願いしたいことがあって伺いました!」
自分の内心を誤魔化すように少女は用件を切り出した。
*
廊下から部屋の応接室に場所を変え、少女は改めて名乗る。
「――初めまして。エリゼ・シュバルツァーと申します」
黒髪の少女はそのまま自分の身分を明かす。
「サンクト地区にある――」
「帝都きって、いや帝国きっての名門女学院《聖アストライア女学院》の生徒会長……」
「……御存じでしたか」
言葉を遮って告げられた肩書にエリゼは驚く。
「君については隣にいる人がとにかく目立つからね」
青年は苦笑してエリゼの疑問に答えを出し、なるほどとエリゼは納得する。
半ば付き人と周囲から公認されていることもあり、エリゼの知名度は男爵家の令嬢でありながら有名である。
「俺は…………」
「……?」
てっきり名乗ると思ったのに、不自然に固まる青年にエリゼは首を傾げる。
「いや……僕のことはジーク……そう呼んでくれ」
「はぁ……」
名乗ることにどこか諦観を滲ませる青年にエリゼは困惑する。
が、その疑問を押しやるようにジークは本題――彼にとって仕事の話を切り出す。
「どういうツテでここに辿り着いたかは知らないけど、僕の肩書が何かも知っているんだね?」
「はい……」
エリゼは頷き、続ける。
「鉄道憲兵にも、今はない遊撃士協会にも相談しにくい事を引き受けてもらえるという“請負人”……
『裏解決屋』――そう呼ばれていると伺っています」
「半分アタリで、半分外れだね」
エリゼの答えにジークは苦笑を浮かべて訂正する。
「“相談しにくい事”だけじゃない……
“相談できない事”を引き受ける時もある……
非合法スレスレのグレーな稼業……そういう人種だって分かっているのかな?」
「っ……」
軽い惚けた口調の中に混じったかすかな威圧。
裏の世界に踏み込もうとしているエリゼを咎めるように、引き返せと言わんばかりの気遣いに息を呑み込みながらエリゼは毅然と言葉を返す。
「分かっています」
「なら構わないよ。まずは話すだけ話してもらえるかな? 引き受けるかどうかは話次第だからね」
「はい――」
エリゼはジークに促され、テーブルの上に八枚の写真を並べる。
「これは……指輪と首飾り?」
「お願いしたいのは他でもありません……
こちらの宝飾品の捜索を手伝って頂きたいんです」
写真に写っているのはそれぞれ大きな七耀の宝石を中心に据えた指輪とそれらの宝石を円のように配置された首飾り。
「その内の指輪の方は先日、わたくしの後輩の姉がバリアハートで購入したものになります」
「………………」
エリゼの説明にジークは沈黙を返し、写真を睨んでいる。
「ですが、一週間前それらの宝石を受け取る前に盗難されてしまったそうです」
「この首飾りは?」
「そちらは二年程前に同じように盗難されてしまったものになります」
「…………そうか……」
ジークは目を伏せて写真をまとめると、エリゼに差し返す。
「悪い事は言わない。鉄道憲兵隊にでも相談した方が良い」
「え……?」
「写真越しでも分かる。それらはただの宝飾品なんかじゃない……
盗まれたことを含めて厄介な連中が絡んでいる可能性が高い。君が個人で人を雇うというには危険が大きいだろう」
「…………流石ですね」
仕事の拒否の言葉にエリゼは動じず、むしろ賞賛する。
「これらの宝飾品に使われているものは全て《女神の聖獣》が作り出した七耀石だと聞いています」
「…………そうか……」
「最悪指輪の事は良いんです。一番重要なのはこちらの首飾りの方でした……
後輩のお姉様の話ではこれが世界の命運を握る鍵になるという話だそうです」
「……世界の命運とは大きく出たね」
「何分二年前に盗難された首飾りなので帝国国内にあるか分かりません……
ただ特殊な魔法――導力魔法を用いれば、私が持っている宝飾品とこの七つの指輪から首飾りを見つけることができるそうなんです」
「そうか…………そうか……」
エリゼの説明を吟味するようにジークは同じ言葉を繰り返す。
「帝国の国外への出張に掛かる費用はこちらで負担します……
私は男爵家の令嬢でしかありませんが、この話はアルフィン皇女殿下からの依頼でもありますので依頼料なども心配ありません……
ですからどうかお願いします」
無茶な依頼だと言う事は承知でエリゼは頭を下げる。
指輪だけならともかく、二年前に盗難された首飾りまで探し当てるなど雲を掴むような依頼だとエリゼも、彼女たちも理解している。
しかし、それでも探さなければいけない。
後輩の姉が言う世界の終焉を防ぐため。
それ以上にエリゼにはこれが大切なものだという何かを感じずにはいられないから。
「………………分かった」
長い沈黙の末、ジークは短い言葉でエリゼの依頼を引き受ける。
「本当ですか?」
「ああ……」
ジークは立ち上がり、壁に掛けたあった木剣を手に取って腰に佩く。
帝国では珍しい東方の“太刀”を模した木剣――木刀。
柄の部分に“崑崙”と達筆な字が特徴的なのだが、エリゼは一抹の不安に駆られる。
「あの……それは?」
「僕の武器だよ。文字は姉弟子が書いてくれたものだけど……まあそこらの剣には負けたりしないから安心してくれて良いよ」
「はぁ……」
鉄や特殊な合金が武器の素材で使われる世界で木が素材の武器など訓練用にしかならない。
木刀を佩いた青年の佇まいはお世辞にも強そうには見えない。
護身術目的でエリゼも多少は剣を扱えるが、自分よりも弱いのではないかと思えるジークに彼に依頼したことを早くも後悔しそうになるエリゼであった。
木刀“崑崙”
龍來の土産物屋で100ミラで売っている木刀にとある女剣士が気合いを込めて一筆入れただけの木刀。
帝国版 裏解決屋、もしくは万事屋ジークフリート?
この話だとミュゼがアルフィンとエリゼに協力を要請しています。
そもそもですが、
貴族連合主宰カイエン公の姪、ミルディーヌ。
籠城までした敗残の将、オーレリア。
内戦で貴族連合に組して暗躍していた結社の使徒、ヴィータ。
この三人が揃っている旗印では《千の陽炎》をするために各国へと呼び掛けても、内戦でのリベンジに世界戦力を利用しようとしているようにしか見えないのではないでしょうか?