(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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26話 鉄道憲兵隊Ⅱ

 

 バリアハートからケルディックへと向かう道中の運転はエリオットが担当することになる。

 最初は緊張してハンドルにしがみ付くように運転していたが、今では肩の力を抜いて運転できている。

 

「そういえば導力車の運転には免許が必要ではなかったのだろうか?」

 

 今更といったところでラウラが質問する。

 

「ええ、ですが免許の交付も交通法に伴ってまだ完全なものとは言えません……

 資格試験も最低限の運動能力があるかを判断するものですし、それにこうして何処かで実際に運転をする訓練ができる施設もまだありませんから」

 

 クレアは前を見たままラウラの疑問に淀みなく答える。

 

「導力車が一般の家庭でも普及されるようになってだいぶ時間は経ちますが、まだまだ見直さなければならない法案は沢山あります」

 

「そういえばクロスベルでは取り締まりが緩いせいで好き勝手に導力車を乗り回して遊んでいる人達がいましたね」

 

 クレアの説明にクリスはクロスベルにいた時のことを思い出しながら頷く。

 

「本当なのかそれは?」

 

「ええ、クロスベルは帝国と共和国の二つを宗主国として成り立っている自治州ですので、両国の人達を厳しく取り締まることはできないんです……

 それを良いことにクロスベルでは貴族の子息が遊び場みたいに公共の場で導力車を乗り回していたこともありました。共和国人はともかく同じ帝国人としていたたまれませんでした」

 

「その気持ちは良く分かる」

 

 思わぬところで出て来たクロスベルの話にラウラは顔をしかめる。

 ラウラも帝国貴族として恥じることのない振る舞いを心掛けているが、士官学院の中でも平民生徒に対して横暴に振る舞う貴族生徒は存在している。

 

「他国での振る舞いは自分だけではなく、帝国人全てに悪い印象を持たせてしまう。まったくもって遺憾なことだ」

 

「ああ、まったくその通りだ」

 

 ラウラの言葉にリィンは強く、強く頷いた。

 

「とは言ってもその問題はクロスベルだけではないんですよね」

 

 クレアは鏡越しに後方を見るとエリオットに指示を出す。

 

「エリオット君、車を左に寄せて速度を落としてください。後ろから来た車を先に行かせます」

 

「え……? はい」

 

 突然の指示にエリオットは面を食らうが素直に言われた通りに速度を緩める。

 すると後ろからやって来た導力車は目前になっていきなり速度を上げた。

 

「え――っ!?」

 

 ぶつかると思った直後、導力車は急ブレーキを掛けてハンドルを切り、衝突するギリギリの軌道でその横をすり抜けて行った。

 

「帝国でも暴走車はいるんだな……貴族の権力が強いクロイツェン州だからこそなのかもしれないけど」

 

「すまない……同じクロイツェン州の貴族として恥ずかしい限りだ」

 

「っていうかあの運転手は馬鹿なの? TMPの車を煽るなんて」

 

 後部座席に並ぶ三人はすれ違った導力車を冷静に見送った。

 

「な、何でみんなそんなに落ち着いているの?」

 

 衝突する恐怖に胸を抑えたエリオットは冷静なリィン達に振り返る。

 

「別に本当にぶつけに来ていても抜け出す自信があっただけ」

 

「殺気を感じなかったからな」

 

 あっさりと言うフィーとラウラの言葉にエリオットは言葉を失う。

 

「クレア大尉、今の導力車を取り締まることはできないんですか?」

 

「ええ……明確な速度違反をしているわけではなく、実際に事故を起こしたわけではないので逮捕することはできません……

 それに街道の治安維持は領邦軍の管轄です……

 例え彼らが私たちの導力車にぶつけて来たとしても、過失をこちらに擦り付けてきます」

 

「それって……」

 

「言ってみれば領邦軍の遠回しな嫌がらせです……

 とはいえこんなことをするのはクロイツェン州くらいですけど」

 

「先月の実習でも感じましたがここまで貴族のモラルが落ちているんですね」

 

 難しい顔をしてクリスは落ち込む。

 彼が何を考えているのか容易に想像できるがリィンもクレアも特に何も言わなかった。

 

「ではエリオット君、気を取り直して行きましょう」

 

「は、はい……」

 

 クレアに促され、エリオットは止めてしまった導力車を発進させた。

 

 

 

 

 北クロイツェン街道の穀倉地帯を目前にしたところで先程追い越して行った導力車が停車していた。

 彼らは三人のグループの青年たちは先程のTMPのジープを肴にして談笑していた。

 

「見たかよさっきのTMPの車の運転手の顔、まじ傑作だったな!」

 

「俺らくらいのガキだったけど、TMPにはあんなのがいるのかよ。よっぽど人手不足なんだな」

 

「あいつだけすっげえビビりまくってたな。あの顔と来たら、思い出しただけでも笑えてくるぜ」

 

 三人は何一つ悪びれもせずに笑う。

 

「それにしてもTMPの車を挑発するのも飽きて来たな。今度クロスベルにでも行ってみるか?」

 

「良いなそれ」

 

「こんな何もない街道よりずっと面白そうだな」

 

 次の遊び場に思いを馳せて笑っていた内の一人は先程追い越したTMPの導力車が近付いてきたことに気が付く。

 彼らにとって亀のような速度で走る導力車を指差して笑っていると、その内の一人が何かに気付いて突然その導力車の前に飛び出した。

 

「なっ!?」

 

 エリオットは急に目の前に飛び出してきた青年に面を食らいながらも急ブレーキを掛ける。

 

「何をしているんですか貴方は死にたいんですか!?」

 

 走行中の導力車の前に飛び出して行為にクレアが怒鳴りつけるが、その青年は意に介さず運転席のエリオットに近付くとその顔をまじまじと見る。

 

「もしかしてエリオット・クレイグか?」

 

「え……?」

 

 見知らぬ青年から名前を呼ばれたことにエリオットは面を食らう。

 

「何だよ。そのビビりとお前知り合いなのか?」

 

「エリオットって……その顔で男かよ。はは、まじかよ。女かと思ったぜ」

 

 一人目の青年に続き、エンジンが掛かっている導力車の前に無造作にたむろし始める。

 

「ちょっと貴方達――」

 

「何だ。たかが憲兵隊の分際で私たちの会話を邪魔する気か?」

 

「これだから平民は困る。それでどういう関係なんだ?」

 

「去年、帝都の夏至祭のジュニア部門のバイオリンコンクールにいたやつなんだけどさ。これが笑えるんだ」

 

「いい加減に――」

 

「こいつは栄えあるコンクールに粗悪品を持ち込んでさ……

 それで優勝目指してるとか何の冗談かって思ったよ。しかも案の定、予選落ちしてるし」

 

「っ――」

 

「は、まじかよそれ。あはははっ!」

 

「ま、貧乏人にはその程度の楽器しか持てなかったのだろうさ。笑ってやるな、ククク」

 

 声を上げて嘲笑する三人に対して、リィン達は眉を顰める。

 

「最悪……貴族ってこんなのばっかり?」

 

「一緒にするな」

 

 フィーの呟きにラウラが嫌悪を滲ませて弁明する。

 

「音楽院にいないからどうしたんだと思ったけど、自分に才能がないって分かって逃げたのか?」

 

「お前達――」

 

「クリス、落ち着け」

 

 荷台から乗り出そうとするクリスをリィンが制止する。

 

「おい、そこのお前。貴様、今私に向かって“お前”と言ったか?」

 

「どうやら貴様も貴族のようだが身の程を弁えろ。私たちはクロイツェン州の子爵家の者だぞ」

 

 身分をひけらかし、居丈高な物言いでクリスは見下され眦を挙げる。

 

「お前たちの方こそ――」

 

「クリスッ!」

 

 先程よりも声を大きくしてリィンはクリスを諫める。

 

「だけどリィンさんっ!」

 

 言い返すがリィンに睨まれてクリスは口を噤む。

 感情に任せてそれを暴露して目の前の不届き者を這いつくばらせたいという思いをクリスは拳を握り締めて我慢する。

 しかし、クリスの我慢に反して彼が漏らした名前に青年たちは顔を蒼くさせた。

 

「リィンだと……まさかあのリィン・シュバルツァー!?」

 

「ああ、そのリィン・シュバルツァーだが、何か?」

 

 穏やかを装って青年の言葉に応じると、それだけで青年たちは怯む。

 

「おい、行こうぜ・リィン・シュバルツァーには関わるなって父上に言われているんだ」

 

「ちっ……分かってるよ」

 

 先程までの傲慢な態度が一転して及び腰になる青年たちにリィン達は目を丸くする。

 

「覚えてろよっ!」

 

 何を、と突っ込む間もなく青年たちは逃げるように彼らの導力車に乗り込むと急発進してバリアハートへ走り出した。

 

「…………流石リィン。男爵家なのに皇族に伝手があるからもしかして結構偉い?」

 

「うむ、当然だ。なんと言ってもリィンだからな」

 

 疑問符を挙げるフィーにラウラは我がことのように嬉しそうに頷く。

 

「俺としては、誰かの権威に借るつもりはないんだけどな」

 

 苦笑してリィンは運転席に視線を向ける。

 

「エリオット大丈夫か?」

 

 呼びかけに対して応えはない。

 

「エリオット……エリオット!」

 

「え…………あ、何……?」

 

 三度の呼びかけでようやく顔を上げたエリオットの顔は今にも倒れそうなほどに蒼褪めていた。

 

「クリスと交代だ」

 

 いけるなと目配せして尋ねるとクリスは黙って頷いた。

 

「で……でもケルディックまでは僕が運転するって――」

 

「そんな状態じゃ無理だ。とにかく今は少し休んだ方が良い。良いですよねクレア大尉?」

 

 了承を求めてリィンはクレアに尋ねるが、何故か彼女もまたエリオットと同様に反応は鈍かった。

 

「クレア大尉?」

 

「あ……す、すみません。何ですか?」

 

 エリオット程ではないが明らかに顔色が悪いクレアの様子にリィンは前言を撤回した。

 

「すみません。どうやら車酔いをしたようなので、この辺で一度休憩を取ってもらえませんか?」

 

 

 

 

「人里離れた街道か……ちょうどいい」

 

 街道の隅の広場に導力車を停め、長閑な穀倉地帯に吹く心地よい風をその身に受けながらラウラは一つ頷くとフィーに向き直った。

 

「フィー、私と勝負をしてもらえないだろうか?」

 

「いきなり何を言っているの?」

 

 突然のラウラの言葉にフィーはめんどくさそうに声を返す。

 

「失礼を承知で言わせてもらえば私はそなたの存在を認めることはできなかった……

 その体格でリィンに匹敵する実力、常に冷静で的確な判断力、そしていざとなれば人殺しも躊躇わない胆力……

 それらは全て私の“武”の常識から余りにもかけ離れていた」

 

「リィンに匹敵するって……嫌味?」

 

「違うのか? 模擬戦では私や周りのみんなに合わせて力をセーブしていただろう?

 足手まといがいなければ、そなたはもっとリィンといい勝負ができると私は思っている」

 

「…………まあいいや。それで?」

 

「正直に言わせてもらえば、《猟兵》という存在、その在り方にも良い感情は持っていなかった……

 騎士を“正道”とするならば、猟兵は言わば“邪道”……

 己の価値観に反しているからこそ、私はそなたと心が合わせられないのだと思った」

 

「ん……それは間違ってない」

 

「いや、それは間違いだった」

 

 自分は闇の住人だと認めるフィーをラウラは否定した。

 

「力は所詮力でしかない。父上に言われた言葉なのだが、その意味がようやく理解できた……

 力に善悪はなく、騎士の剣も猟兵の技も突き詰めれば同じ目的に集約される」

 

「同じ目的……?」

 

「“勝つ”ことだ……

 不意打ちが卑怯だ。正々堂々戦えと言う言葉こそ、戦場では卑怯極まる物言いだったと気付いた」

 

「それは当然だね」

 

 ラウラの言葉にフィーは頷く。

 

「……それでどうして勝負なの?」

 

「私はどうやら筋金入りの馬鹿だったようだ……

 そなたを知るために、私を知ってもらうには剣を交える他ない。もちろんフィーが嫌なら断ってくれて構わない……

 ただ私の我儘を言わせてもらうなら、勝ってそなたに伝えたい言葉がある」

 

「そういうこと……報酬は自分の手で掴み取りたいってこと……でもわたしにメリットはないけど」

 

「それなら……ふむ……こういうことは初めてなので勝手が分からないのだが……」

 

 こほんっとラウラは恥ずかしそうに咳払いをして大剣を片手でフィーに突きつけて言った。

 

「フィ、フィーのばーか」

 

 恥ずかしそうに、らしくない挑発の言葉を使ったラウラにフィーは目を細める。

 

「あほ……お、おたんこなす……えっとチビ」

 

 フィーのその眼差しの圧に思いつく限りの悪口を言ってみるが、まったく反応しないフィーにラウラは居たたまれなくなる。

 

「…………オッケーその挑発乗って上げる」

 

 慈悲の笑みを浮かべてフィーは双銃剣を構える。

 

「うむ、望むところだ」

 

 ラウラはフィーの気遣いに気が付かず、挑発が成功して嬉しそうに大剣を構える。

 

「ところでラウラ、戦う前に一つ良い?」

 

「うむ、何だ?」

 

「この猪突猛進クソ雑魚へっぽこ剣士」

 

「何だとっ!?」

 

 フィーの言葉にラウラは激昂し、それと同時にフィーが仕掛けた。

 

 

 

 

「それじゃあクリスはエリオットの方を頼む。俺はクレアさんの方に行くから」

 

 ラウラとフィーの決闘を尻目にリィンとクリスは二手に分かれる。

 

「大丈夫ですかクレアさん?」

 

 街道の脇の休憩所のベンチで俯くクレアにリィンは声を掛けて、水筒を差し出す。

 本来なら気分が悪いと言い出したリィンこそが気遣われる立場なのだろうが、そもそも建前なのだからおかしくはない。

 

「ええ……ごめんなさい。気を遣わせてしまって」

 

 恐縮してクレアは頭を下げ水筒を受け取る。

 監督役としては失格なのだが、今のクレアにはそれを取り繕う余裕はなかった。

 

「いつもあんな風に貴族から因縁を付けられているんですか?」

 

「あそこまであからさまなのは珍しいですね」

 

 そもそもあの程度の嫌がらせで動じるクレアではない。

 やられたらやり返すのがクレアのやり方であり、《氷の乙女》異名を使ってあらゆる手を尽くして追い詰めると脅すことだってできたはず。

 なのにそれをしなかったのは、自分に向けられたわけでもない言葉だった。

 

 ――粗悪品の楽器……

 

 それが本当に自分と関係あるものなのかはあの会話の中では判別できなかった。

 仮にもしもそうだったとしてもクレアが気に病む必要はないのだが、全ての発端となったものを簡単に割り切ることはできそうにない。

 

 ――それだけでこんなに動じてしまうなんて……

 

 それ程までに緩んでいたのだろうかとクレアは自問自答して、その通りだと自嘲する。

 死んだはずのリィンが生きて戻ってきてくれたこと。

 そして彼とクリスに勉強を教えるという名目でユミルに滞在した日々は、家族の温もりを忘れていたクレアにとって心から笑うことができた日々だった。

 《特別実習》でリィン達とまた会えることを嬉しく感じてもいた。

 しかし、そんな風に浮かれていたクレアに過去を忘れるなと言わんばかりに、それは影をちらつかせてきた。

 そう思えば今朝のミハイルの奇行も浮かれていた戒めだったのではないかと思える。

 

「クレアさんが落ち込む理由はエリオットの楽器ですか? 帝国の楽器メーカーといえばリーヴェルト社ですけど、クレアさんの家名と同じですよね」

 

「…………流石ですね」

 

 同じ系統の能力を持っているだけにリィンはわずかな情報だけでクレアの消沈の理由に辿り着く。

 それにリィンには既に、リベールで自分の罪を告白している。

 だからなのか、クレアは少しだけ心の軽さを感じながら、あの時説明し切れなかった自分の生い立ちを語り出していた。

 クレアの実家が大手の楽器メーカーだったこと。

 導力車の事故に巻き込まれて両親と弟を亡くして自分だけ生き残ったこと。

 その事故が詐欺行為を隠蔽するために叔父によって仕組まれたこと。

 オズボーンと出会い、復讐の仕方を教わり、あらゆる方法を駆使して叔父を極刑にしたこと。

 

「憎悪に取り憑かれ、一切の慈悲もなく叔父を極刑に追いやった血も涙もない《氷の乙女》……それが本当の私です」

 

 あの時と同じ言葉で締めくくったクレアの言葉にリィンは首を横に振った。

 

「それは違います」

 

「え……?」

 

「慈悲はあったじゃないですか。最初に問い詰めた時に叔父さんが罪を認めて自首すれば良かった……

 でもそれを振り払ったのはその叔父さんなんです。そこにクレアさんが責任を感じるのはおかしいじゃないですか」

 

「でも――」

 

「近くにいたミハイル大尉だって、父親の罪もクレアさんの苦しみにも気付いていなかった……

 復讐の仕方を教えたオズボーン宰相だって、もっと穏便に済ませることができたはずだ」

 

「リィン君……」

 

「クレアさんが悪くなかったとは言いません。もっと他にやり方はあったのかもしれません……

 でも、クレアさん一人だけが悪かったと責任を感じるのはおかしいです」

 

「そうかもしれない。でも私は……」

 

「知っていますかクレアさん? 憎悪に取り憑かれるっていうのは本当にそれ以外考えられないんです」

 

 リィンは胸を押さえて、その時のことを思い出す。

 

「胸を焼く黒い焔が自分を焼き尽くしても構わない。あいつを殺せるならば後の事なんて知ったことじゃない、それこそ自分が死んだって構わない」

 

「っ……」

 

 にじみ出すどす黒い威圧感にクレアは息を呑み、似つかわしくない昏い笑みを浮かべるリィンに自分の目を疑った。

 

「頭に浮かぶのはどうやってそいつをこの手で殺してやろうかという考えだけ……

 一秒でもそいつがこの世で同じ空気を吸っていることが嫌で、一瞬で殺すべきだと考える一方で、あの子が負った苦しみを少しでも分からせるように体の端から斬り刻むことを考える……

 理性なんて欠片も残らない、それが憎悪に取り憑かれるっていうことです」

 

 次の瞬間、どす黒い気配は掻き消え、暗い笑みを浮かべていたリィンは何事もなかったようにクレアに笑いかける。

 《彼女》の死はクレアも知っている。

 ユミルに行った時には、彼女の遺灰が埋葬されたお墓にリィンと一緒にお参りだってした。

 しかし、クレアは先程のリィンの顔を見たのは初めてだった。

 

「クレアさんはちゃんと感情に流されず司法に判決を委ねることができたんですよね?

 なら、クレアさんはちゃんと憎悪をコントロールできていたということになりませんか。俺なんて、カシウスさんに何度もぶん殴られても頭を冷やせなかったくらいですから」

 

 おどけた口調で事も無げに言うリィンにクレアは眩しそうに目を細める。

 垣間見たリィンの憎悪の片鱗。

 それをどうやって呑み込めたのかクレアには想像できない。

 

「本当に……大きくなりましたね」

 

 リベールの時と比べて改めてクレアは思う。

 

「白状すると貴方の事を弟と重ねていたんです。同じくらいの歳だったんですよ」

 

 年齢が近いことしか共通点などないはずなのに、弟が生きていたらこんな風になっていたのではないかと思っていたが、それはあまりにもリィンに失礼だったとクレアは思う。

 

「ごめんな――」

 

「はは、それは光栄ですね。それじゃあ弟として一言良いですか?」

 

「え……?」

 

 謝罪の言葉を遮られたクレアは目を丸くしてリィンの顔を見る。

 

「お姉ちゃんのことを悪く言うのはやめてください」

 

「っ……」

 

「お姉ちゃんは確かに一度間違いを犯したかもしれない……

 だけど、お姉ちゃんの良い所は僕が良く知っている。お姉ちゃんのことを何も知らないくせに馬鹿にしたら僕が許さない。例えそれがお姉ちゃんだったとしても」

 

「リ――エミ……ル……」

 

 リィンが弟の口調を真似たわけではない。

 それでも真っ直ぐに見つめてくるリィンの眼差しが亡き弟や両親たちのものが重なる。

 

「あ……」

 

 気付けば涙が零れ落ちていた。

 あの事故から枯れ果てたと思っていた涙がとめどなく溢れてくる。

 そんなクレアにリィンは手を伸ばす。

 

「クレアさん……本当に憎悪だけだったんですか?

 大好きだったから、大切だったから許せないという気持ちは憎悪とは少し違うと俺は思います」

 

 嗚咽を抑えて涙を流すクレアの頭をリィンは優しく撫でて続ける。

 

「誰が何と言っても、クレアさんは家族のためにちゃんと怒ってくれる優しいお姉ちゃんですよ」

 

「っ――」

 

 クレアはリィンの言葉に応えず、顔をリィンの胸にうずめる。

 

「……ごめんなさい……少しだけこのままでいさせてください」

 

「はい……」

 

 それ以上何も言わず、リィンはクレアが落ち着くまでその胸を貸すのだった。

 

 

 

 





 休憩終わり

リィン
「お疲れ、二人とも蟠りは解けたか?」

ラウラ
「うむ。何とか引き分けに持ち込めた……できれば勝って、ちゃんとあの時の助けてくれた感謝を伝えたかったが、言いたいことは言えた」

フィー
「ま、とりあえず戦術リンクは安定すると思うよ」

リィン
「そうか、それはよかった」

クレア
「それでは皆さん、ケルディックまであと少しですから頑張ってください」

ラウラ
「……なあリィン。クレア大尉の様子がおかしいのだが何をしたのだ?
 休憩前は悲し気な匂いを纏っていたのに今は幸福な匂いを纏っているような」

フィー
「笑顔が三割増しになってる? あれの何処が《氷の乙女》?」

クリス
「くっ……この短時間でクレア先生の攻略を完了させるなんて、流石リィンさん」

エリオット
「あはは……リィンに姉さんを会わせないようにしよう」

リィン
「ちょっと待て……他はともかくエリオット、何か変な誤解をしてるだろ!」

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