(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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38話 ノルド高原Ⅴ

 

 

 軍用の導力車を運転するジンの助手席に座ったガイウスは石切り場までの道のりを案内する。

 

「浮かない顔だな?」

 

「え……?」

 

 運転の片手間にジンはガイウスに話題を振る。

 

「リィンもお前さん達の事が邪魔だから置いて行こうとしたわけじゃないんだがな、あまり気を悪くしないでくれ」

 

「それは分かっています」

 

 俯いてガイウスはジンに応える。

 

「ただ自分が不甲斐ないと感じたんです」

 

 バックミラーで馬に乗ってついて来る者達、その中でリィンを一瞥してガイウスはその心内を吐露する。

 

「俺はこの地の出身です……

 誰もがそうだと思いますが、オレは故郷の地を愛しています」

 

 目を伏せて、ガイウスは自らが育ったノルドへの思いを反芻する。

 

「風渡る高原、高き山々、蒼き穹、日の出の神々しさ、夕日の切なさ、全てを許してくれるような綺羅の夜空……

 ノルドの地の全てを愛しているんです」

 

「ほう、そいつはまた大きく出たな。しかし、そうするとそれがお前さんを士官学院に進学させた理由なのか?」

 

「おそらく……

 オレ自身、明確な答えを出せているわけではなかったんですが、共和国の基地が築かれ、帝国軍が監視塔を建ててから……

 そして教会の巡回神父から大陸の歴史を教わって思ったんです……

 このノルドの地が平穏であり続ける保証はないと。だからその平穏を護るために《外》に、トールズ士官学院に進学したんです」

 

「その年でそこまで考えられるのは大したものだな。だがその様子だとまだ答えは見つかってないようだな?」

 

 ジンの指摘にガイウスは押し黙る。

 

「馬鹿な話ですよね……

 都会に出ただけで、たった数ヶ月過ごしただけで成長できたと俺は思っていたんです……

 だけど、実際に事が起これば俺は無力で、クラスメイトのリィンは瞬く間に両国の橋渡しをしてみせた……

 俺はいったい何をしていたんでしょうね……」

 

「そう卑下するな。リィンも一人で今回の事件を仲裁したわけじゃない……

 俺やキリカとの伝手、それにアランドール特務大尉とのコネがあったからこそできたことだ。普通の学生が同じことをするには荷が重い話だ」

 

「しかし――」

 

「こんな話を知っているか?」

 

 自分を貶めることをやめないガイウスにジンは別の話題を振る。

 

「ここ数十年、ゼムリア大陸東部の環境は砂漠化や干ばつが悪化して多くの土地が人間の居住に適さない環境になっている……

 その荒廃によって大陸西部の東側に位置するカルバード共和国には大量の東方人移民が流入している」

 

「その話は授業でも聞いたことがありますが、それが何か?」

 

「ノルドは一見すれば確かに占領する価値の少ない土地だが、多くの移民を抱えている共和国にとっては広大な土地というだけでも十分に占領する価値があるんだ」

 

「なっ……それは本当ですか!?」

 

 昨夜グエンから指摘されたこととは違う意見にガイウスは驚く。

 

「お前さんがノルドを出て知ったのは帝国から見たノルドだけだ。それで世界を知ったつもりになるには早いぞ」

 

「……仰る通りです」

 

 ジンの話にガイウスはつくづく自分の未熟さを思い知らされる。

 

「まあ共和国人の俺がこんなことを言っても何を言っているんだと思わせちまうかもしれないがな」

 

「いえ、そんなことはありません。貴重な話をありがとうございます」

 

 《外》を知るならば当然一方では済まない。

 

「それにしてもこの地の平穏を守りたいか……だったら遊撃士に興味はないか?」

 

「遊撃士……俺が?」

 

「遊撃士の理念は地域の平和や安全を護ることだ……

 まあ仕事内容はそれこそネコ探しや落とし物探しなんかもあるし、国家権力には不干渉の規約もある……

 だが、今回みたいな仲裁ならその限りじゃないし、リィンが今回利用したように後ろ盾があるっていうことは何よりの力だ……

 今の帝国は遊撃士の活動は止められているが、ノルドは厳密には帝国領じゃないからな」

 

「遊撃士……」

 

「ま、今すぐ決めろなんて言わないさ。卒業後の進路の一つとして考えてみてくれ。お、あれが石切り場か?」

 

「あ……はい。あれが石切り場です」

 

 ジンの言葉を反芻していたガイウスはそれを確認して頷く。

 

「よし、それじゃあここらで一旦止まって最後の打ち合わせとするか」

 

 ジンは窓から手を出して、後方から馬で追走してきているリィン達と集落にあった導力車に乗っているキリカ達に合図を出す。

 

 

 

 

 

 石切り場。

 千年以上前の巨石文明の遺跡と呼ばれ、巨像の《守護者》に《悪しき精霊》が封じられた場所だと言い伝えが残っている。

 警戒しながらそこに入ってリィン達は周囲を見回すが武装集団の気配はない。

 

「静かね……」

 

「フン……人の気配があるとは思えないな」

 

 緊張した様子で周囲を見回すアリサの呟きにユーシスが頷く。

 

「いえ……そうでもないわ」

 

 が、彼らの感想をキリカが否定する。

 

「石切り場から遺跡の入り口までにいくつか不自然に踏みつけられて戻された草木の跡があったわ……

 今いるかはともかく、ここを拠点にしていたのは間違いないわ」

 

「っ……」

 

「くっ……」

 

 自分たちが見過ごした痕跡を挙げられて二人は押し黙る。

 

「それでアランドール特務大尉。そちらの工作員はどちらに?」

 

「それなんだけどな、わざわざ人数が揃っているんだ。ここは合流しないで伏兵として潜んでもらったままにしておくのを提案させてもらうぜ……

 と言うわけでここは声だけで勘弁してくれ」

 

 そう言うとレクターは反論が上がる前に通信機をかざした。

 

『やっほー! 初めましてボクはミリアム。ミリアム・オライオンだよ』

 

 通信機から聞こえて来たのは無邪気な子供の声。

 

「この声って……」

 

「うむ、子供のようだな。それも私たちよりも幼い」

 

「信用できるのか?」

 

「ああ、まあ確かに見た目も性格もガキンチョだが――」

 

『ぶーぶー、ガキンチョ言うな』

 

 子供らしい反応に益々アリサ達は不安になる。

 

「……大丈夫だ。みんな……彼女の能力については俺が保証する」

 

『んん……?』

 

「何だまたお前の知り合いなのか?」

 

 口を挟んだリィンにユーシスが呆れる。

 

「知り合いと言う程会ってはいないんだけどな。ミリアム、覚えているか? リベールの学園祭で会ったリィン・シュバルツァーだ」

 

『あ! もしかしてりーちゃん? ひさしぶり、よくボクのこと覚えてくれてたね!』

 

「………………りーちゃん……?」

 

 ガイウスがその言葉を繰り返し、一同の視線はリィンへと集中する。

 

「その呼び方はやめてくれ」

 

 その視線に耐え切れずリィンは顔を背けて訴える。

 

「ミリアム、今はそれよりも武装集団のことだ」

 

「レクターさんっ!?」

 

 こんな時、ここぞとばかりに弄って来るはずのレクターが仕事を優先したことにリィンは驚愕する。

 

「それでお前はこの石切り場のどの辺りで武装集団を見掛けたんだ。りーちゃんを基準に方角を示すが良い」

 

「そんなことだろうと思ったよっ!」

 

『えっとね……今のりーちゃんから三時の方向の高台の入り口に一時間くらい前に入っていくのを見掛けたよ』

 

「ふむ……りーちゃんから三時の方向……あの入り口の事か」

 

 ミリアムの言葉に従ってラウラはその方向を見上げるとそこには確かに岩場の中へと続く入り口が見える。

 

『入っていた人数は四人だったけど、実際に中に何人いるかは分からないかな……

 でも武装集団って言っても練度はそこまでじゃないからりーちゃんなら余裕だよ』

 

「そうか、りーちゃんなら余裕なのか……ククク……」

 

 ミリアムの言葉を繰り返し、ユーシスが珍しく声を殺して笑う。

 

「っ……ちょっと見てきます」

 

 居たたまれなくなったリィンはミリアムが示した方向へと踵を返すと駆け出した。

 

「待ってりーちゃん! いくらりーちゃんでもその高さは――」

 

 アリサの制止の声を振り切ってリィンは跳躍する。

 しかし、十アージュくらいはありそうな壁の半ばでリィンは失速する。

 珍しいリィンの失敗にアリサ達は思わず笑みをこぼし――

 次の瞬間、リィンは何もない空間を蹴って、空中で二度目の跳躍をした。

 

「へっ……?」

 

「あら、あれは東方の暗殺者が使っていたという飛空脚か? いつのまにあんな技を会得したんだ?」

 

「いいえ、二段目の跳躍の時に足元が光っていたから純粋な体術ではないわね」

 

「おいおい、また超帝国人が超進化したのかよ」

 

 驚くⅦ組一同を他所にゲストの三人は当たり前のようにその現象を受け入れるのだった。

 しばらくすると当たり前のようにその十アージュの壁の上からリィンは飛び降りて危なげなく着地する。

 

「ミリアムの言った通り、上に複数人が通った真新しい痕跡がありました。それとザイルが上に設置されていたので回収しておきました」

 

「そう……ならもう相手は袋の鼠ね……ところでさっきの方法で全員を運ぶことはできる?」

 

 リィンが差し出したザイルを何の疑問も抱かずにキリカは受け取って導力車の中へと投げ込む。

 

「一人ずつならできますけど……ジンさんやガイウスは流石に無理です」

 

「でしょうね。ならばあの石の扉をどうにかしないといけないわけだけど。どうやって開閉するのかしら?」

 

 キリカはガイウスに尋ねる。

 

「申し訳ない。この石切り場の遺跡の事は昔から知っていますが、父さんの代からその扉が開いているところは見たことがないそうです」

 

「なるほど……それじゃあ気は進まないけど――」

 

「あ、キリカさん。それは俺に任せてもらっても良いですか?」

 

「あら? できるの?」

 

「一応、ヴァルターから教わったので」

 

「そう、なら任せるわ」

 

 キリカは道を譲り、リィンは石切り場の最奥にある石の扉の前に立つ。

 

「何をするつもりだ……?」

 

「もう私は何が起きても驚かないわ」

 

 無造作に扉に触れるリィンにユーシスは訝しみ、アリサは頭痛に顔をしかめて唸る。

 

「ふむ……」

 

「これは……」

 

「コオオオオオオオオ……」

 

 深い呼気の音が大きく響く。

 リィンは石の扉に触れたまま、次の瞬間地響きのような音が響いたかと思うと石の扉に亀裂が走り音を立てて崩れた。

 

「おお、これが破甲拳なのか!?」

 

「なん……だと……」

 

「まさか……」

 

「嘘でしょ……」

 

 崩れ落ちる分厚い石の扉にⅦ組一同はただ唖然とするしかなかった。

 

 

 

 

 

 遺跡の内部にはジンとリィン、そしてキリカの三人が突入し、残ったⅦ組の四人とレクターは石切り場の入り口で待機していた。

 

「あ、あのレクターさん……こんなにのんびりしていて良いんですか?」

 

「あん?」

 

 石切り場の入り口付近の広場で緊張感なく寝転がるレクターにアリサは恐る恐る近付いて尋ねると胡乱な声が返って来た。

 

「って言っても元々後詰で来てんだから、俺らがやることなんてないだろ?」

 

「そうかもしれないですけど……」

 

「リィンの奴が行ったからって私たちも特別実習なんだから――

 なんて考えているなら的外れも良い所だぜ。こんな戦争の仲裁が学院の授業のプログラムに組み込まれてたまるか」

 

 レクターの言い分にアリサは言い返すことはできなかった。

 ゼクスにラカン。

 ノルドでの課題を取り仕切る二人が揃ってアリサ達は帰るように提案し、リィンには何も言わなかった。

 その理由はアリサ達も分かっている。

 ガイウスを探して高原を右往左往している内に、帝国と共和国が一触即発の状況になっていた。

 集落に一度戻ってから、今度はリィンを追ってゼンダー門へと行けば、そこでは基地の通信機を使ってカルバードの基地と交渉をしていたリィンがいた。

 普段の穏やかな態度とは打って変わった強気な態度で交渉を行っていたリィンにアリサはある人物を重ねてしまい、さらに複雑な気持ちを抱えていた。

 

「悪いことは言わねえ。あいつにあんまり深入りしないことだ」

 

「レクターさん?」

 

「あいつが何を抱えているかは俺も全部を知っているわけじゃねえ……

 だけどあいつが進もうとしている先が茨の道なんて生易しい道じゃあないってのだけは分かる……

 お前達は地獄までリィンに付き合う覚悟なんてないだろ?」

 

 レクターの言葉はアリサだけではなく、遠巻きに石切り場を監視していたガイウス達にも聞こえていた。

 

「ましてや色恋沙汰に現を抜かすつもりは微塵もないみたいだから、バラ色の学院生活を期待するだけ無駄だぞ」

 

「な、な、何をいきなり言い出すんですか!?」

 

「ははは、なに人生の先達としてのアドバイスって奴だ。ところで一つ重要な事に気が付いたんだが……」

 

 愉快に笑っていたレクターが突然口調を真剣なものに変え、声を潜める。

 

「何ですか?」

 

 アリサは動揺した気持ちを切り替え、声を小さくしたレクターの言葉を聞くために寝そべる彼に一歩近づく。

 

「このアングルでそこに立たれると……見える!」

 

「え……なっ!?」

 

 レクターの言葉を反芻し、彼の視線がどこに向いているのか気付いてアリサはスカートを押さえてその場から飛び退く。

 

「ははは、ピンクの縞々か。もうちょっと色気のある下着じゃないとあの鈍感を誘惑できないんじゃないか?」

 

 距離を取ったアリサにレクターは体を起こして振り返る。

 

「貴方は――!」

 

 激昂したアリサは手を振り被るが、レクターは素早くアリサの攻撃範囲から離れる。

 

「ふ……甘いなそんな右じゃあ世界を取ることは――」

 

 言葉の途中、頭上から振って来た糸が彼の四肢に絡みついて雁字搦めにする。

 

「うお!?」

 

「レクターさんっ!?」

 

 そのまま一気にレクターは崖の上へと釣り上げられた。

 

「なるほど、いつまで経っても帝国と共和国が動かないと思ったら貴様が邪魔をしていたのか《かかし男》」

 

 レクターが吊るされた崖の対岸から声を掛けて来たのは学者然とした眼鏡の男だった。

 男は笛を下ろして糸で拘束されたレクターに不敵な笑みを浮かべる。

 

「くっ……こいついつの間に……」

 

「おいおい、お前らどこに目をつけてんだよ。まさかリィンが確認した入り口だけが遺跡の抜け道だとでも思っていたのか?」

 

 話しかける男を無視してレクターは焦ることなく眼下の悔しがるユーシス達に呆れた声を投げかける。

 

「ちっ……使えない連中だったが最後に役に立ったな。帝国と共和国の紛争よりも貴様をここで亡き者にできれば“あの男”の鉄面皮も少しは歪ませられるかな?」

 

「さあ、それは無理じゃないか?」

 

 余裕に満ちた顔でレクターはようやく男を見る。

 

「で、お宅が今回の事件の首謀者か? 見たところ《バグベアー》の団長って感じじゃないから依頼人ってところか?」

 

「フッ……御想像にお任せるよ」

 

「そう言うなよ。冥土の土産に名前くらい教えろって」

 

「……我が名はギデオン。もっとも同志たちからは《G》とだけ呼ばれているがね……

 しかし驚いたな。まさかカルバードの要人どころか貴様達が締め出した遊撃士を頼るとは“あの男”の片腕とは思えない程に柔軟な思考をしているようだ……

 それとも面の厚さは親譲りなのかな?」

 

「ははは、恐れ入ったか?」

 

 的外れの賞賛を指摘せずレクターは縛られたまま踏ん反り返る。

 

「む……何を言っているのだ? 一連の根回しは全部――」

 

「ラウラ、少し黙っていろ」

 

 そのことを訂正しようとしたラウラの口をユーシスが塞ぐ。

 その様子にうむとレクターは頷く。

 リィンを含めて素直な人間ばかりのⅦ組にちゃんとブラフを理解してくれて動ける奴がいることに内心で安堵しながらレクターは会話を続ける。

 

「だが、それも今回は裏目に出たな」

 

 ギデオンが勝ち誇り、懐から小さなオーブメントを取り出すとそのまま見せつけるようにスイッチを押した。

 次の瞬間、遺跡の方から轟音が響いた。

 

「なっ――!?」

 

「遺跡の方からだ。まさか……」

 

「まさか遺跡を崩落させたのか!?」

 

「外道が」

 

「カルバードの要人と遊撃士には武装集団と共にこの地で果ててもらう……

 そして当然お前達も生かして帰すわけにはいかん。それに良い機会だ。ケルディックの仕込みを邪魔してくれた報いを受けてもらおうか」

 

 そう言うとギデオンは場違いにも笛を演奏し始める。

 するとギデオンの傍らで大人しくしていた巨大な蜘蛛が咆哮を上げ、アリサ達の前に飛び降りる。

 

「巨大な蜘蛛!? まさかレクターさんを捕まえたのはこいつなの!?」

 

「クク、どうやら太古からこの石切り場で生き残っていた魔獣らしいな……

 目覚めたばかりで空腹らしいから君達はエサになってやりたまえ」

 

「クッ……まさか言い伝えの“悪しき精霊”!?」

 

「この石切り場のヌシということか……」

 

 ガイウス達がそれぞれ武器を構えて巨大な蜘蛛と対峙するが、相手はそれだけではなかった。

 

「ちょっと……」

 

 ガサガサという音にアリサは顔を上げれば、左右の岩場には目の前の蜘蛛を小さくした蜘蛛がいた。

 それも一匹や二匹ではない。

 数え切れない数の蜘蛛達がアリサ達を囲み、威嚇の鳴き声の大合唱が石切り場に響く。

 

「数が多過ぎる……」

 

「くそっ! 俺はまた何もできないのか……」

 

「狼狽えるなっ!」

 

 その圧倒的な数の差に動揺する一同をラウラが一喝する。

 ラウラもまた視界を埋め尽くす魔獣の群れに震えながらも気丈に振る舞って仲間たちを、自分を鼓舞する。

 

「この程度の相手に怯んでまたリィンに助けてもらうつもりか!」

 

 遺跡が爆破され、生き埋めにされた彼らの安否を疑わずにラウラは叫ぶ。

 

「っ……」

 

 ラウラの一喝に戦意を折られそうになっていたアリサ達は何とか気持ちを立て直す。

 

「ユーシスとアリサは中央で広範囲の導力魔法を駆動!

 ガイウス、そなたと私で二人を護るぞ! 蜘蛛は倒さなくて良い、とにかく二人に近づけさせるな!」

 

「分かったわ」

 

「任せるがいい」

 

「了解した」

 

「ならばⅦ組A班、これより蜘蛛退治を開始する!」

 

 ラウラの号令に戦端は切って落とされた。

 そして――

 

「さて……どうするかな……」

 

 糸で身体を縛られ、空中で身動きが取れないままにされているレクターはやはり緊張感なく呟く。

 どうやら操作された蜘蛛達は見せつけるつもりなのか、レクターよりも先にⅦ組達を攻撃目標にしている。

 一匹くらい、来る可能性も覚悟していたが大した統制力だとギデオンの笛の力に感心する。

 もっとも、蜘蛛が糸に捕まったレクターに襲い掛からないのは別の理由があることを察していた。

 

「それで、あんたはこの状況でどうするつもりなんだ?」

 

 レクターは戦うⅦ組達から視線を挙げて空に向かって話しかける。

 だが、その言葉に返事をする者はいなかった。

 

 

 

 

 リィンを除いたⅦ組A班の実力は決して低いものではない。

 ユーシスにガイウス、ラウラはそれぞれ士官学院において上級生と相対しても決して引けを取らない実力の持ち主である。

 だが、この状況において優秀であることは意味をなさなかった。

 

「くっ……次から次へといったいどれだけいるのだ!?」

 

 小蜘蛛を大剣で一刀両断したラウラは息を整える暇もなく、その場を飛び退くと四方から吐き出された糸が斬り伏せた蜘蛛に殺到して糸玉と化す。

 さらにラウラの後を追って糸が殺到する。

 空中で身を捩り、大剣の一振りで斬り払う。

 

「くそ……」

 

 威勢よく啖呵を切ったものの状況は悪いとしか言えなかった。

 だが、そこで思考を止めずにラウラは必死に考える。

 

 ――圧倒的な数の差……リィンなら、父上ならどう戦う?

 

 想像の中での二人はラウラにとって危機的な状況でも難なく対処していた。

 他には――

 

『ふふんっ! その程度の相手に苦戦しているなんてやはり傍流のアルゼイドはその程度ですわね! ざっまーみろですわ! あーはっはっはっ!』

 

 指差して笑う女騎士を想像し、ラウラは苛立ちを晴らすように飛び掛かってきた蜘蛛たちをまとめて横薙ぎに斬り払う。

 

「っ――上だっ、ラウラ!」

 

 ユーシスの声に思考に意識をラウラは顔を上げると空中に浮かんでいた――否、左右の切り立った岩場に張り巡らせた糸の上に乗った小蜘蛛たちが糸を吐き出した。

 

「くっ――」

 

 躱し切れない糸だったが、ラウラの眼前で忠告を飛ばしたユーシスがそれを斬る。

 

「すまない」

 

「礼なら不要だ。それよりも集中しろ!」

 

「すまないっ! アリサ上の蜘蛛を射抜けるか!?」

 

「できるけど、一匹や二匹射抜いても意味ないわよ!」

 

 ガイウスに守られながらアリサは弓で糸の上の小蜘蛛を射貫いて行くが、彼女が射ち落す速度よりも新たな小蜘蛛が出てくる数の方が早い。

 

「ユーシス、戦術オーブメントの導力はどれくらい残っている?」

 

「もう大したアーツは使えん」

 

 小蜘蛛を斬り伏せながら帰って来た答えはさらに状況の悪化を示していた。

 

「くっ……私の《ARCUS》ももう空っぽだ」

 

 剣を振る合間に導力魔法を放っていたが、元々適正が高くないラウラの《ARCUS》ではそこまで多くの魔法を撃つことはできない。

 

「そうだ……高原に出れば――」

 

「無駄だ。もう遅い」

 

 切り立った崖が左右に並び、上も取られた状況を打開しようとラウラが提案するがユーシスが背中を合わせたまま否定する。

 

「何故だ!? ここで何の遮蔽物もない高原ならまだ戦い易いはずなのに」

 

「ああ、そうだろうな……

 だが、すでに石切り場の入り口には蜘蛛の糸が張り巡らされている」

 

「なっ!?」

 

 言われて振り返ると確かに大きな蜘蛛の巣が何重にも石切り場の入り口に張られていた。

 

「俺達はとっくに蜘蛛の巣の中にいたということだ……くそっ! 俺としたことが判断が遅過ぎる」

 

 苛立ちながら、それでもユーシスは降り注ぐ糸の雨を確実に躱す。

 

「ハハハッ! 随分と頑張るじゃないか! だが無駄な足掻きというものだ」

 

 ギデオンはそんなⅦ組を嘲笑い、笛を吹く。

 音に乗せられた黒い瘴気は蜘蛛たちに染み込むように呑み込まれ――複眼を赤く染めて咆哮する。

 狂暴性を増した蜘蛛たちにラウラ達は思わず後退り、四人が背中をぶつけ合う。

 

「…………どうやらここまでのようだな」

 

「ユーシス、そなた何を言う!?」

 

「どうしようもない事実だ。時間を稼ぐ手段も俺達にはない」

 

 自然と時間を稼げば何とかなると思っているのは、遺跡が爆破された程度で彼がどうにかなるはずがないという信頼だろう。

 だがそれでもユーシスの言う通り、ラウラ達の戦いは限界に近かった。

 EPが尽きた《ARCUS》と同じくアリサの導力弓もオーバーヒート寸前。

 ラウラ達の武器には拭っても次から次へと纏わりついて来る糸によって動きが鈍り始めている。

 

「…………ならばガイウス」

 

「何だラウラ?」

 

「私をあの男がいる上まで槍で投げ上げてくれ」

 

「ラウラ……それは」

 

「蜘蛛を操っているのは、親蜘蛛ではなくあの男の笛の音。ならば奴を倒せば済む話だ」

 

「待ってラウラ危険よ!」

 

「勝算はある。剣の間合いに持ち込めば一撃で倒してみせる」

 

「…………分かった」

 

 逡巡している間もなく、小蜘蛛を突き殺しながらガイウスは頷く。

 

「ユーシスとアリサは援護を頼む」

 

「ちっ……やるからには必ず仕留めて見せろ」

 

 もはや聞く耳持たずにやろうとしている二人にユーシスは舌打ちをする。

 だが代案が浮かばない以上、反論する資格はないと割り切ってユーシスは剣に氷の戦技を纏わせる。

 

「クリスタルセイバーッ!」

 

 地面をひっかく様に斬り上げた一閃。

 そこを起点に氷柱が地面から一直線に折り重なって足元の広がった蜘蛛の巣を引き裂き道を作る。

 

「行けっ!」

 

 ユーシスの声に背中を押されてラウラとガイウスは氷が作り出した道を駆ける。

 

「これでもう本当に最後よっ!」

 

 更にアリサがファイヤボルトを駆動して空中の巣を焼き払う。

 

「来いっ! ラウラ!」

 

 ラウラの前を走っていたガイウスは壁際まで寄ると振り返って槍を下に構える。

 その槍の柄にラウラは飛び乗ると、そのタイミングに合わせてガイウスが槍を振り上げる。

 

「オオオオオオオオッ!」

 

 雄叫び一閃。

 ガイウスの膂力によって打ち上げられたラウラはその目論見通り石切り場の壁上に着地する。

 

「むっ!」

 

 笛を吹いていたギデオンは顔をしかめて振り返る。

 彼我の距離は十アージュもない。

 

「もらったっ!」

 

「くっ――」

 

 大剣に洸刃を宿し、ラウラは疾走する。

 しかし、突然大蜘蛛がギデオンを護る様にその間に割って入る。

 

「そこをどけっ!」

 

 構わずラウラは渾身の一撃を込めた洸刃を大蜘蛛に叩き込み――弾かれた。

 

「なっ――!?」

 

 小蜘蛛は洸刃を使うまでもなく両断できていたからこそ、大蜘蛛にも通じると思い込んでいた油断。

 外殻で弾かれラウラの体がその反動で宙を泳ぐ。

 

「あ……」

 

 その光景をラウラはゆっくりと振り上げられた大蜘蛛の腕を見入る。

 無情にもその丸太のような腕はラウラに叩きつけられた。

 

「がっ――」

 

 血反吐を吐きながらラウラは体をくの字に折り曲げ、吹き飛ばされる。

 

「――ラウラッ!?」

 

 ラウラが壁上に飛び込んでわずか数秒、固唾を飲み結果を待っていたアリサは投げ出されたラウラに悲鳴を上げる。

 

「くっ――」

 

 壁の真下にいたガイウスが槍を投げ捨てて頭から落ちてくるラウラを受け止め――その背に小蜘蛛の体当たりを受け壁に叩きつけられる。

 

「ラウラッ! ガイウスッ!」

 

 そのまま襲い掛かる蜘蛛にユーシスは剣を投げつけて串刺しにする。

 アリサはそれを払い除けてラウラに駆け寄り、口を覆った。

 

「ラウラ……」

 

 深紅の制服がさらに赤黒く染まっていく。

 

「す……まない……へた……をうって……しまった……」

 

「喋らないでラウラすぐに治癒術を――」

 

 かなり深い傷。

 導力魔法で塞げるのか、弱気なことを考えながら《ARCUS》を掲げるが導力を使い切ったそれは何の術も発動しない。。

 慌てて腰のポーチを探るが、それをひっくり返してもティアの薬もEPカプセルもそれまでの戦いで使い切り、何も見つからない。

 

「ユーシス! 何か道具は――」

 

「俺の方も打ち止めだ」

 

 返って来た無常な答えにアリサは言葉を失う。

 自分達を庇う様に立つユーシスの背中の向こうにはまだ多い小蜘蛛の群れがじりじりと威嚇の声を鳴らしながらじりじりと間合いを詰めてくる。

 

「…………私たち……ここで蜘蛛の餌になるの?」

 

「っ……」

 

 アリサの呟きにユーシスは滅多なことを言うなと反論したかったが、無責任なことは言えずに黙り込む。

 ガイウスは壁に叩きつけられた時に頭を打ったのか動かない。

 

「早く来てよリィンッ!」

 

 絶体絶命の状況にアリサの悲鳴が空しく石切り場に木霊する。

 

 ――情けない……

 

 そんな仲間たちの姿を薄れる意識の中で見ていたラウラは声にならない言葉を呟く。

 アリサの叫びはラウラも同じだった。

 しかし、そう思うと同時にリィンに頼らなければならない自分が情けなく恥ずかしい。

 ギデオンに接近できたあの場面、リィンならば容易く大蜘蛛を斬り裂いていただろう。

 父、ヴィクターも同様に歯牙にも掛けずに叩きのめしていただろう。

 

 ――だけど……それでも……私は……

 

 ラウラは震える手を無理矢理伸ばす。

 

「女神よ。私はどうなっても良い。だから仲間を護らせてくれ……」

 

 ラウラはそう呟くと、アリサがこぼした手荷物の中にあったセピスを飲み下した。

 

「ぐっ――」

 

 胸の奥に鎮火したはずの焔がそれを切っ掛けに再び燃え上がる。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 胸を押さえ、堪え切れない衝動をそのまま咆哮する。

 ラウラの体から赤黒い闘気が噴き出て、砕けて潰れた体が驚異的な速度で治癒していく。

 

「グルルルルルッ!」

 

 まるで獣のように喉を鳴らすラウラの頭には白い獣の耳が現れ、腰の辺りからは尻尾が現れる。

 そして、琥珀色だった彼女の瞳は蒼く染まる。

 

「ラ、ラウラ……?」

 

「ミンナ……フセロ……」

 

 湧き上がる衝動を無理やり抑えつけ、ラウラは何とかそれだけ口にすると、洸刃が迸る大剣を片手で一閃。

 目の前にいた小蜘蛛はもちろん、十アージュ圏内にいた小蜘蛛の群れはその一閃で全て両断された。

 

「なっ!?」

 

 その結果に絶句する一同を置き去りにしてラウラは駆ける。

 地面の小蜘蛛はその一撃で一掃したが、壁にへばりついた小蜘蛛はまだまだいる。

 ラウラはあろうことか、壁を走りそれらの小蜘蛛をすれ違い様に次々と両断していく。

 もはやそれは蹂躙だった。

 ラウラの疾走にまるで反応できていない小蜘蛛達はただ叩き切られるのを待つだけのかかしでしかなかった。

 壁から壁へと跳躍してまさに縦横無尽に駆け回るラウラに誰もが絶句して思考を止める。

 そうしている内に小蜘蛛は狩り尽くされ、ラウラは先程辿り着いた壁上に改めて着地する。

 

「な、何なんだお前は!?」

 

 ラウラがやった殺戮にギデオンは顔を蒼白にしながら導力銃を突きつける。

 

「グウウウ……」

 

 だがラウラが返したのは獣の唸り声だった。

 

「シャアアアアアアッ!!」

 

 その威嚇に対して大蜘蛛も負けじと威嚇の声を張り上げ――次の瞬間、大剣が右側の腕をまとめて斬り裂いた。

 耳をつんざく大蜘蛛の悲鳴を無視してラウラは今度は左側の腕をまとめて叩き斬る。

 自分の体を支えられなくなった大蜘蛛が地面に転がり、壁上から落ちる。

 

「きゃあっ!」

 

 目の前に落ちて来た大蜘蛛にアリサが悲鳴を上げ、直後に大剣を下にして落ちて来たラウラがそのままの勢いで大蜘蛛の腹に剣を突き立てる。

 大蜘蛛がさらに悲鳴を上げる中で、ラウラは大剣を引き抜くと、そのまま無造作に振る。

 滅多切り。

 動けなくなってもまだ生きている大蜘蛛に何度も何度も斬りつけるラウラに一同はただ体を硬直させて見入ってしまう。

 気付けば大蜘蛛は原型を留めないほどにミンチにされ、何度も乱暴に叩きつけて折れた大剣を片手にラウラは血の海の真ん中で立ち尽くす。

 

「ラ……ラウラ……?」

 

 ようやく大剣を振るのをやめたラウラにアリサは恐る恐る声をかけると、ぐるんとラウラは口元に笑みを浮かべた状態でアリサに振り返った。

 

「ひっ――」

 

 ラウラは腰を抜かしてその場にへたり込んだアリサに向かって踏み出して――

 

「もう良い。もう大丈夫だ」

 

 その前に何処からともなく現れたリィンが割り込む、ラウラの眼前に手をかざす。

 

「水の蒼耀――この者に一刻の安らぎを――」

 

 かざした手から発せられた光を受けてラウラの体から力が抜けてリィンに倒れ込む。

 それをリィンは抱きかかえて受け止める。

 

「リィン……」

 

「遅くなってすまない。みんな、大丈夫か?」

 

 既視感のある光景にリィンは顔をしかめながら、ラウラをそのまま横抱きにしてアリサ達に振り返る。

 

「だ、大丈夫じゃないわよ! 本当に死ぬかと思ったんだから!」

 

 涙目になりながらアリサは緊張が解けて叫ぶように抗議する。

 

「すまない」

 

 もう一度リィンは謝る。

 決して遺跡に突入していたリィン達がサボっていたわけではなく、彼もそれなりに危ない目にあっているのだがそれをおくびに出さず謝罪を重ねる。

 

「すまないじゃないわよ! 私たちが――」

 

「黙っていろアリサ」

 

 生死に関わる緊張から解放された反動で口を滑らせているアリサをユーシスが止める。

 

「それよりもまだ上に蜘蛛を操っていた男が残っている。そいつが今回の犯行の主犯だ」

 

 ユーシスも言いたいことはあるが、元々は無理について来た身。

 後詰としての役割を全うできなかったことを恥じる気持ちの方が強かった。

 

「そっちにはジンさんとキリカさんが行っているから――」

 

 リィンが答えると同時に漆黒の飛行艇が空を駆け抜けた。

 

「あっ……あいつ!」

 

 その飛行艇にワイヤロープでぶら下がるギデオンにアリサは声を上げる。

 だが、そうしている内に飛行艇はあっという間に西の空に消えていった。

 

「逃がしたの……あれだけ苦労したのに」

 

 アリサはぺたんとその場に座り込む、呆然と言葉をもらす。

 

「どうやらお前達が来たところで逃げに徹したようだな……そういえばアランドールは……」

 

「おおい、いい加減下ろしてくれよー」

 

 潔い逃げっぷりにユーシスは感心しながらも、宙吊りにされたままのレクターのことを思い出すがレクターは縛られた状態のまま元気そうだった。

 

「情けない。結局俺達は――」

 

「ユーシス! 後ろだ!」

 

「何……?」

 

 リィンの叫びにユーシスは振り返るとそこにはラウラの猛攻から生き延びた小蜘蛛がいた。

 

「ちっ――」

 

 一度鞘に納めた剣を抜き放つよりも早く糸を吐かれてユーシスは縛り付けられる。

 だが、小蜘蛛はそこでユーシスに襲い掛からず糸を繋げたまま逃げ出した。

 

「くっ――ガイウス、ラウラを頼む!」

 

 抱えていたラウラをガイウスに押し付けてリィンは一目散に逃げようとする小蜘蛛を追い駆ける。

 小蜘蛛が目指すのは崩落した遺跡の入り口。

 人間では進めなくなった通路も蜘蛛ならば通れるそこで餌を抱えて逃げるつもりなのだろう。

 

「くそっ……これ以上足を引っ張ってたまるかっ!」

 

 渾身の力でユーシスは糸を振り解こうとするが、鋼に匹敵する強度の糸はびくともせず空しい抵抗にしかならない。

 ユーシスが引きずられ身動きが取れない状態にさせられているため、リィンも遠距離攻撃で小蜘蛛を仕留めることを躊躇う。

 その躊躇いの隙に小蜘蛛は遺跡の小さな穴に飛び込み――

 

「がーちゃんパンチッ!」

 

 その進路を塞ぐように突然虚空から現れた銀の人形の腕の一振りが小蜘蛛の頭を殴り潰した。

 

「なっ!?」

 

 引きずられていたユーシスは小蜘蛛の慣性に従って空中に投げ出され、縛られた無防備な体で地面に叩きつけられると覚悟する。

 しかし、水色の髪の少女がその幼い体躯でありながら飛んできたユーシスの身体を受け止めた。

 

「っ――」

 

「大丈夫? 怪我はない?」

 

 顔を間近にして尋ねて来る少女の声は先程通信越しで聞いたもの。

 ユーシスは体を縛られ、お姫様だっこされている屈辱を呑み込んで応える。

 

「ああ……感謝する。お前が――」

 

「ミリアムッ!」

 

 ユーシスがそれを尋ねようとしたところでリィンが追い付いて来た。

 

「っ……」

 

 リィンは背後の銀の傀儡に目を見開くと、首を振って雑念を振り払う。

 

「りーちゃん、久しぶり!」

 

「だからその呼び方はやめてくれ」

 

 緊張感のないミリアムにリィンは項垂れるのだった。

 

 

 

 

 





思ったよりも長くなってしまったので短いながらもエピローグ的なものは次に回そうかと考えています。



もう少し頑張りましょう

アリサ
「死ぬかと思った……」

ガイウス
「だが石切り場だったから良かったものの、これが遺跡の中で戦うことになっていたらゾッとしないな」

ユーシス
「ああ、左右の壁と天井、それに加えて入り組んだ鍾乳石の障害物……
 薄暗さを考えると視界も悪かっただろうな。これで守る対象があれば詰んでいただろう」

ラウラ
「数の暴力と地の利がここまで厄介だとは思わなかった」

ミリアム
「それもあるけどみんなちょっと弱過ぎない? レベルが足りなかったんじゃないかな?」

ユーシス
「……そうだな。今後はクリスが旧校舎で行っている秘密の特訓とやらに参加させてもらった方が良いのかもしれないな」

アリサ
「まさか旧校舎探索をしなかった影響がここまであるなんて思わなかったわ」

ガイウス
「ちなみにリィンだったらどう戦っていた?」

リィン
「そうだな……
 《疾風》で撹乱しながら小蜘蛛を斬って、包囲を突破して大蜘蛛を倒す……
 特別な戦術は必要ないだろうな……
 糸の妨害は常に《焔の太刀》を常態で使っていれば防げるだろうし、上に張り巡らせられた巣は《孤影斬》を使えばどうとでもなると思う」

アリサ
「やっぱり余裕なのね……」

ユーシス
「Sクラフトを常態化……つくづくデタラメな男だ」

ガイウス
「だが、俺達にももっとやり方はあったはずだ。帰ったらサラ教官やナイトハルト教官に相談してみよう」

ラウラ
「うむ、そうだな。私もなんとなく《壁走り》のコツが掴めた。練習してこれを確かなものに――」

リィン
「そのことだけどラウラ。またセピスを服用したみたいだな」

ラウラ
「う……そ、それは緊急処置で仕方がなく……やらなければ私も死んでいたのだから見逃してくれぬか?」

リィン
「それはそれだ……とりあえず正座」

ラウラ
「…………はい」



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