(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~ 作:アルカンシェル
パトリックの実力はユーシスの少し下くらいを想定しています。
七月四日、自由行動日。
トールズ士官学院には部活動というものがある。
それは上級生や他クラスとの交流の場でもあると同時にもう一つの目的があった。
七月。
新入生が学院生活に馴染んできた時期だからこそ行われる学外行事。
トールズ士官学院を始め、帝都の士官学院などの各地の高等学校の各部で行われる交流会。
文学に関する部活なら発表会。武芸に関する部活なら競技会。
所詮は学園行事だが、やはり目標はモチベーションに関わる。
その日のフェンシング部は来週の交流試合の新人戦に向けて最後の試合が行われていた。
「ふん、実戦ならともかく競技での勝負ならパトリックさんが遅れを取るわけないだろ」
「パトリックさん! リィン・シュバルツァーの腰巾着に格の差を思い知らせてやってください!」
「男爵風情が生意気なんだよ」
「貴方達、静かにしなさいっ!」
部長のフリーデルの一喝でクリスに向けられた野次は鳴りを潜める。
そんな野次にクリスは耳を傾けパトリックと対峙しながら思う。
――笑っちゃダメだ……
自分の目論見通りことが運んでいることにクリスは笑みを浮かべそうになるのを必死にこらえる。
彼らの罵倒はある意味でクリスが望んでいるものではあるのだが、彼らが自分の正体を知った時にどんな反応をするのか想像するだけで顔が緩む。
――兄上の気持ちが分かるな。これは癖になりそうだ……
「何がおかしい?」
クリスの思考に被せ、パトリックは苛立った様子で声を掛ける。
「え……?」
「僕が相手だと退屈だとでも言いたいのか?」
抑え切れない激情を何とか抑え込みながらパトリックはクリスを睨む。
「退屈だなんてとんでもない」
クリスはパトリックの言葉を否定する。
入学してからもそうだが、半年前までは練武場のように整備された平らな空間で剣を構えての稽古ばかりだった。
そのことに少し懐かしみながらも、クリスは油断なくパトリックを見据える。
実戦ではまずあり得ない状況
遊びでしかないと猟兵に一笑された一方で、羅刹にはだからこそ誤魔化しが利かない戦いだとも教えられた。
虚実を作るのはあくまでも剣の中で行わなければならない。
武器の差も状況も、搦め手も使えない。故に地力だけが勝敗を決める戦い。
それにクリスにとって、剥き出しの敵意を向けてくる部活仲間たちでさえも楽しみの一つだった。
「パトリックやみんなと剣を交えるのは楽しいですよ」
純粋に褒め言葉のつもりの感想だったが、その言葉にパトリックは眦を上げる。
「舐めるなっ!」
クリスの言葉を挑発と受け取ったパトリックは探り合いをやめて間合いを詰める。
息も吐かせない連続突き。
その剣捌きは流石大貴族の子息であり、良く鍛えられている。
現に入部した四月にはクリスに慢心があったとは言え、負けてしまったくらいなのだから弱いわけがない。
「舐めてなんかいないさ」
怒涛のパトリックの攻めにクリスは正面から立ち向かう。
以前に負けた事。そして前回の特別実習で感じたリィンとの差。
緊迫状態に陥った二大国の調停をしたこと、果たして自分がリィンの代わりにノルドに行って何ができたのだろうかと考える。
それに加え、ブリオニア島でも《S》と名乗った女性と交戦することになった。
名乗り方から考えてノルド高原で戦争を誘発させようとした《G》の仲間だろう。
撃退はできたものの、特別実習で行った夏至祭に向けて作った祭壇は壊され、Ⅶ組の中ではないが怪我人も出た。
都合よく《剣鬼》が助けに現れることもなく、クリスの胸に残ったのは敗北感だった。
――もう二度とあんな気持ちになるのは嫌だ……
自分の周りには凄い人達ばかりだったから負けて当然だと受け入れていたが、今回のは違う。
あれが負けた悔しさなら、二度とごめんだと。
そう決意しながらも、貪欲に強さを求める。
パトリックの剣は宮廷剣術を基礎としていて、パワーよりもスピードと手数を重視した戦い方を好む。
それは半年前にクリスが習っていた剣であり、ならばとクリスはそれに正面から対抗する。
「これくらいできないでリィンさんに追い付けるものかっ!」
「っ――僕を踏み台扱いにするなっ!」
クリスに負けじと叫び返してパトリックはさらに剣戟を速める。
足を止めて剣を突き出す。
二合、三合、十合、十数合。
息が続く限り、両者一歩も退かずに剣をぶつけ合う。
剣速も剣腕も互角。
意地を張る様な全力のぶつかり合いだったが全力故に長くは続かず、わずかな失速が勝敗を決した。
「そこまでっ!」
フリーデルの号令にクリスはパトリックの眼前に突きつけた剣を引き戻す。
「勝者、クリス」
その宣言にクリスは拳を握り締める。
「そ、そんなパトリックさんが負けるなんて」
「あり得ない。リィン・シュバルツァーならまだしも」
パトリックの取り巻きは口々にその勝敗に不満を漏らすが、フリーデルの一睨みがそれを黙らせる。
それを横目にクリスは立ち尽くすパトリックに声を掛ける。
「いい勝負だった。今日、僕が勝てたのは運が良かったからだと思う」
言いながらクリスは握手を求めて手を差し出す。
それにパトリックは呑み込もうとしていた衝動を爆発させ――
「貴様――」
「クリス、こっちに来い」
その寸前、二年のロギンスがクリスの首根っこを掴んで練武場の隅へと連行する。
「ロ、ロギンス先輩?」
「ったく、何を言おうとしていたか知らないが。勝者が敗者に声を掛けてんじゃねえよ」
「でも……」
「これが試合だったなら礼は必要かもしれない……
だが、新人戦の大将を決める勝負だったんだ。ならお前は胸を張って勝ち誇っていれば良いんだよ」
「それで良いんですか?」
「なら逆に聞くが、お前は負けていい勝負だったなんて相手にフォローされたらどうする?」
「それは……すごく嫌ですね」
例えば幼馴染の双剣士に僅差で負けたと想像してクリスは顔をしかめる。
激昂しそうになっていたパトリックは反発して叫ぼうとした言葉を何とか呑み込んで踵を返す。
「というわけだから来週の新人戦の大将はクリスで決まりね」
部長のフリーデルが締める。
そこに異論を挟む者はいなかった。
………………
…………
……
「僕が大将か…………ふふふ……」
部活動が終わり、更衣室で運動着から制服に着替えながらクリスは顔をにやつかせる。
所詮は学生レベルの中での話でしかないのだが、確かな成長の成果に喜びの感情を抑え切れなかった。
「あーあ、ついにパトリックに勝っちまったのかよ」
クリスの横で同じく着替えていたアランはクリスとは対照的に嘆く。
「そういうアランだってパトリックの取り巻きを押さえて選抜の一人になれたじゃないか」
「それが何の自慢になるんだよ。油断していた奴から運よく一本取れただけだっていうのに」
「その油断を本番で突けたんだから自信を持って良いと思うけどな……
そもそも貴族生徒の大半は幼少期から武術を学んでいるんだから、差があるのは当然だよ」
「そんなことは分かってる」
そう言いながらもアランの顔は晴れない。
「お前は良いよな。そんな才能があって」
「…………え?」
羨む愚痴の言葉にクリスは目を丸くする。
「何だよ?」
そんなクリスの反応にアランは首を傾げる。
「才能がある……僕が……?」
そんな言葉を向けられるとは微塵も思っていなかったクリスは呆然と繰り返す。
「いや……僕程度で才能があるなんて、クルトやリィンさんと比べたら全然なのに」
「クルトって奴は知らないけど、リィン・シュバルツァーはバグだろ」
「バグって……」
あまりの言い方にクリスは思わず苦笑する。
「リィンさんだって相応の努力をしたから今の強さなんだから妬むのは筋違いだよ」
「だから妬んでねえよ。ただ俺もあいつみたいに強くなりたいとは思うけど、そうすれば――」
「そうすれば?」
「な、何でもない」
何かを言いかけたアランは慌てた様子で首を振る。
「ところでクリス、やっぱり女子ってリィン・シュバルツァーみたいな奴が好みなのかな?」
「さあどうだろ? どうして突然そんなことを?」
「何かクラスの女子がな……
双子の女子なんだけど、その内の妹の方がイタズラ好きでシュバルツァーにも何か仕掛けたらしくてな……
俺もやられたことがあるんだけど、妹の方が姉になりすますってイタズラなんだけど、どうにも見抜いた上に反撃くらったみたいでな……
それで女子が騒いでいるんだよ」
「むむ、それは気になる話ですね。パトリックは何か知らないの?」
「どうして僕に振る?」
話しかけたクリスにパトリックは嫌な顔をしながら返事をする。
「いや、貴族クラスの方でリィンさんはどんな風に噂されているか気になって」
「そんなこと僕は知らん……
ただドレスデン男爵家の令嬢が奴のことを褒めちぎっていたな」
「ドレスデン男爵家の令嬢って、あのデブの――」
「アラン、女性に対してその言い方は失礼だよ」
「ふん、これだから平民は」
「っ――えっとあの太ましいドレスデン嬢がどうしたんだって?」
嫌味を含んだパトリックの言葉に対して、不満を呑み込んでアランは尋ねる。
「何でも階段を踏み外して落ちそうになった彼女をシュバルツァーが助けたらしい。それもお姫様だっこで」
「あの巨体を受け止めたって言うのかよ!?」
「リィンさん、やっぱりすごい」
パトリックの話に二人はいろいろな意味で驚く。
「ふん、同じ部活の仲間だからと言って軽々しく話しかけないでもらえるかな……
クリス・レンハイム。今日はたまたま一本取られたが、まだ大会の編成は本決まりじゃないことを忘れるなよ……
そっちの平民も同じ選抜に選ばれたからと言って僕と対等となったと思うなよ」
「はいはい、分かりましたよ……ちっシュバルツァーに手も足も出なかったくせに」
「っ――何だと貴様っ!?」
「やんのか! 剣ならともかく喧嘩なら負けねえぞ!」
「二人とも、こんなところで喧嘩しないで」
睨み合う二人に挟まれてクリスは仕方がなく仲裁する。
どうして副部長のロギンスが更衣室のロッカーをこの三人で並ばせたのか、クリスは思わずため息を吐いた。
「そういえば二人とも、強くなりたいなら今日Ⅶ組のみんなで旧校舎での特訓をやるんだけど二人も来る?」
「ふん、言ったはずだ。僕はお前なんかと馴れ合うつもりはないと」
クリスの提案をパトリックはあっさりと拒絶し、着替えを済ませた彼はそのまま颯爽と去って行く。
「悪い、誘ってくれたのはありがたいけど、今日は午後からブリジットと帝都に行くことになっているんだ」
その瞬間、更衣室の中の至る所から舌打ちの音が連打される。
もっともそれにアランは気付かず、約束の時間が迫っていることに気付いて挨拶もそこそこに更衣室を出て行った。
「うーん」
後に残されたクリスは二人を見送り、新人戦の暫定大将として前途多難だと唸るのだった。
*
「お待たせしました」
フェンシング部の活動を終えたクリスは待ち合わせの校庭に行くとそこにはすでにⅦ組のだいたいのメンバーは集まっていた。
部活動との兼ね合いもあり、メンバーはユーシスとガイウス、エリオット、アリサとラウラ。そしてクリスを合わせた六人だった。
しかし、そこにはまだラウラがいなかった。
「あれ? ラウラは?」
「ラウラは今、キルシェでのアルバイトが終わってこっちに向かっているって《ARCUS》に連絡があったわ」
ラウラの不在の理由をアリサが答える。
「それよりもお前……その格好であのダンジョンに挑むのか?」
ユーシスはやって来たクリスの装備を見て顔をしかめる。
「はい、そうですけど?」
翠耀石の片手剣が腰に、紅耀石の大剣と金耀石の槍が交差するように背中にあった。
「武器を三つも持ち歩くなんて、正気か?」
「しかし金耀石の槍は初めて見るな。やはり空属性の魔法を使えるのか?」
顎に手を当てて、ガイウスが興味深そうにその槍を観察する。
「この槍は翠耀石と金耀石を混ぜて作ったもので雷の魔法を使えるんです」
流れるような動作で背中から槍を取るとクリスは構えて見せる。すると帯電するように槍が音を立てる。
「武器が三つって、それで本当に戦えるの?」
構えは様になっているが、見てくれが不格好過ぎてアリサは心配になる。
「えっと、まだ僕の戦い方は検討中なんで……みんなには迷惑を掛けないようにするから」
「いや、私たちが無理を言って付き合わせてもらっているだけだけだから文句を言うのは筋違いなんだけど……
普段もその格好でダンジョンに挑んでいるの?」
「いえ、この前まではリヴァルトとブリランテの二つだけで、先日エリクシルはできたばかりなんです……
それでも武器の持ち運びは戦術殻に任せていたんですけど、今日はみんなと行くわけだから、自分で持ってみようって考えたんです」
「そ、そう……」
あまりにもあっさりと答えが返ってきて、アリサは困惑して引き下がる。
「しかしクリスは槍も使えたんだな」
「武器になるものなら一通り使い方を教わっているんだ……
でもどの武器も極める才能がないって言われたから、こういう風にいろんな武器を使い回す戦い方をしてみようと考えているんだ」
「たしかにブリオニア島では剣と大剣を使い分けて、凄い戦い方をしていたけど。それ以上持つつもりなの?」
ブリオニア島で遭遇した《S》と名乗った特殊な剣を武器にした女性と敵対した時のことを思い出してエリオットは尋ねる。
「とりあえずは三つまでかな。それ以上は運搬の問題や、状況に応じて持ち替えるつもりだよ」
独特な戦闘スタイルだが、二つの武器を使いこなしている姿を知っているだけにエリオットはそれ以上何も言えなくなる。
「せっかくだからガイウス。ラウラが来るまで一手相手をしてくれないかな?」
クリスは剣と大剣を携えたまま槍をガイウスに向ける。
「俺は構わないが……いや、手合わせは後にしよう。そのラウラが来たからな」
クリスの申し出を受けようとしたが、校舎の方から走って来るラウラの姿を見つけてガイウスは気持ちを抑える。
「すまない。待たせてしまったか?」
「ううん、待ち合わせの時間には間に合っているから気にしなくて良いわよ」
駆け寄って来て謝罪するラウラにアリサが答える。
「では全員が揃ったところで行くとするか」
そしてユーシスが急かす様に促す。
クリスは肩を竦めて槍を背中に戻して、一同に向き直る。
「残念……それじゃあこれから旧校舎のダンジョン攻略に行きたいと思います……
階層は《第四層》。オリエンテーリングの時から結構強くなっているけど、それで良いんですよね?」
「ああ、今お前が挑んでいるレベルで構わない。ところで――」
「ちょっとまったーー!」
言い掛けたユーシスの言葉は突然の叫びに遮られた。
振り返るとそこにはクリスにとっては見慣れた戦術殻達がおり、それ以外には誰もいなかった。
「あれ……ティータちゃん?」
たしかに聞こえた声に首を傾げると、戦術殻が自己主張するように腕を上げて先程の声でしゃべり始めた。
「異議あり! 異議あり! クリスくんのパートナーはボクの役割のはずだよ」
「そうだそうだ。ボクたちだって順番を待ってたんだから、無視するなんてひどい」
「え…………?」
目の前で流暢に人の言葉をしゃべり出した戦術殻たちにクリス達は揃って目を丸くする。
「今の声って……君たちの? どうして喋れるようになっているの?」
困惑しながらクリスは聞き返す。
「リン姐さんにお願いして経験値の並列化をしてもらって、ティータに声をサンプリングしてもらいました」
そう答える声は確かにティータと同じだが、彼女のそれと比べれば抑揚は少なく機械的だったがそれ故に独特な声音になっている。
「どうしてそんなことを?」
「リン姐さんやノイにルフィナさん、あの人達みたいに話せるようになった方が戦闘効率が上がるんじゃないかって考えたんだ」
「あ……うん……確かにあの人達は戦術殻なんだろうけど……」
似て非なるものだと説明するにはクリスは戦術殻のことについて知らなかった。
「それにほら――」
戦術殻α型はこれ見よがしにその場で回って、今までなかった装置をクリスに見せる。
「エリカ博士に頼んだ武器収納ラックも用意して来たから準備万端だよ」
自分の有用性をアピールする仕草。
ティータの声も相まって何とも言えない気持ちになる。
「ごめん、準備をしてきてくれたことはありがたいけど、今日はクラスメイトのみんなで――」
「ボク……もういらない子?」
「ぐっ――」
ティータの声で言われた言葉にクリスは胸を押さえる。
機械的で彼女との違いは分かるはずなのに、その言葉にはとてつもない罪悪感を胸に湧き上がらせる。
「ボク知ってるよ。こういうのを寝取られたって言うんだよね」
別の戦術殻β型が手を挙げ、例の如くティータの声でそんなことを宣った。
「ちょ!? 何でそんな言葉を知っているの!?」
「導力ネットの中にそういうお話があったよ」
「導力ネット……」
授業でも触れることになったゼムリア大陸中に張り巡らせた多様型情報ネットワーク。
まさかそんなところにそんな言葉があるとは思ってなかったクリスは頭を抱える。
「ともかくボクたちの方が役に立ってみせるから、だからボクたちと一緒に旧校舎のダンジョンに行こう」
「ふむ、それは聞き捨てならないな」
自分たちを、と主張する戦術殻にラウラが待ったをかけ、ユーシスも同調する。
「同感だ。授業で何度かお前達の相手はしているが、あの程度の性能で俺達よりも役に立つとは随分と下に見られたものだな」
「むむむ、ボク知ってるよ。こういう時は決闘をして白黒つけるんだよね?」
「それは知識が偏っているから」
思わずクリスは戦術殻の主張にツッコミを入れてしまう。
「いや良いだろう……
この数ヶ月クリスのパートナーを勤めていた者たちだ。相応の実力を示すのが筋と言うものだろう」
が、ラウラは意気揚々と戦術殻の提案を受け入れる。
「え、本当にやるのラウラ?」
「旧校舎での戦いの準備運動だと思えば良いだろう?
私たちがクリスの足を引っ張らないか試すには丁度いい相手だと思うが」
「なるほど、確かにその通りだ」
ラウラの言い分にユーシスは頷き、剣を抜く。
「やれやれ、おかしなことになったものだ」
ガイウスも苦笑を浮かべながら槍を構える。
「うーん……授業の一環と思えば良いのかな?」
「ありえない……どうなっているのよ」
エリオットとアリサは現実について行けないながらも戦闘態勢を取る。
「クリス、そなたは下がって立会人をしてくれ……
ところでそちらは四体で私たちは五人だが、良いのか?」
「問題ないです」
ラウラの指摘に戦術殻は気軽い口調で答える。
「えーっと、それじゃあⅦ組対戦術殻チームの仕合を始めたいと思います」
とりあえずどんな結果になるにしても双方がやる気になっている以上止められないとクリスは投げ槍に仕切る。
「それじゃあ――始めっ!」
クリスの号令に四体の戦術殻が一斉に動く。
両腕を前に突き出すと同時にそれは光を伴って変形し姿を変える。
「ダブル・インパルス・カノン」
「なっ!?」
「へっ?」
一体二門、それが四体、計八門のガトリング砲の銃口を向けられたラウラ達は思わず固まる。
「やあああああああっ!」
一斉掃射。
ティータの声から似つかわしくない凶悪な弾幕がⅦ組に襲い掛かった。
その日、Ⅶ組一同は予定していた旧校舎の探索には望めなかったものの、当初の目的であるレベルアップは果たされたのだった。
作戦A
ジョルジュ
「あ、あのエリカ博士、あまり学院の備品の戦術殻に勝手な改造はしないで欲しんですけど」
エリカ
「ええー……
でも本人たちが言い出したことだし、改造もちょっとあたしの仕事を手伝ってもらうことを条件に約束したから当分戻せないわよ」
ジョルジュ
「約束ですか? 戦術殻と?」
エリカ
「ええ、あの子たちには重要な作戦の一翼を担ってもらうことになっているの……
ククク……さあ来なさい。ティータの声にノコノコ誘われて一網打尽にしてやるわよ……ククク……」
ジョルジュ
「エリカ博士……いったい何を……」
ある日のリィン・シュバルツァー。
美術室にて
リンデ
「あ、リィンさん。もう行って来て下さったんですね」
リィン
「ああ、注文していた花はこれでいいんだよな?」
リンデ
「《スノーリリー》……
はい、この花で間違いありません。どうもありがとうございました」
リィン
「あとこれも……君の妹さんに追加で頼まれた《グランローズ》だな」
リンデ
「え……妹? ヴィヴィに?」
リィン
「あの後、君に変装した子に頼まれたんだよ。それでいつまでそこに隠れているつもりだ?」
ヴィヴィ
「げっ、ばれてる」
リンデ
「すみません。リィンさん、妹はイタズラ好きで……でもよく分かりましたね。ヴィヴィが私になりすましているって」
リィン
「ああ、顔は同じでも気配は違うから……そういう子をちょっと知っていてな」
ヴィヴィ
「ちぇ、うまく騙せたと思ったのに」
リィン
「はは、ところでヴィヴィ、これを受け取ってもらえるかな?」
ヴィヴィ
「へ……何で《グランローズ》がもう一本……え? え……?」
リィン
「いたずらも程々にな」
ヴィヴィ
「…………リィン君、もしかして《グランローズ》の花言葉知っていたりする?」
リィン
「御想像にお任せするよ」