(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~ 作:アルカンシェル
7月21日、水曜日。
ヴァリマールが復活を果たしたが、帝都で一ヶ月遅れの夏至祭の準備に忙しかったオリヴァルトがすぐにやって来ることはなかった。
そうして迎えた実技テストの日。
武術指南として毎月来てもらっているヴィクター・S・アルゼイドがやって来るのだが、その日は彼一人ではなかった。
「オーレリア・ルグィンである。Ⅶ組の諸君今日はよろしく頼む」
威風堂々たる佇まいで名乗る彼女に慣れを感じていたはずのⅦ組は気押されてしまう。
「オーレリア・ルグィン……ってあの《黄金の羅刹》?」
「領邦軍きっての武人が何故ここに?」
その名を知るマキアスとユーシスは今月のゲストは彼女かと半ば呆れた気持ちで唸る。
「そんなに有名なの?」
「簡単に言えば私の姉弟子に当たる人だ」
「納得……相当できる人だね」
ラウラの説明にフィーは早速オーレリアの佇まいから戦闘力を読み取ろうと観察を始める。
そんな不躾な視線を無礼とは言わず、むしろ楽し気にオーレリアは笑みを浮かべる。
「特化クラス《Ⅶ組》。話には聞いておりましたが中々有望な若獅子たちのようですね。師よ」
「ああ、実に将来が楽しみな若者たちだ」
オーレリアの言葉にヴィクターは頷く。
最初はリィンと手合わせの機会が増やせる下心で引き受けた武術指南だったが、来るたびに成長を感じさせるⅦ組の若者たちの成長を見守るのは楽しみになっていた。
「ふふ……では、仕合うとするか」
顔を綻ばせるヴィクターにオーレリアは期待を膨らませ、それ以上の言葉はいらないと深紅の宝剣を構える。
叩きつけられた覇気。
だが、Ⅶ組は体を震わせながらもしっかりとそれぞれの武器を構える。
そして、オーレリアの放つ覇気に負けないように睨み返す。
「良い目だ……」
その反応に満足そうにオーレリアは頷き、そのまま仕合が始まると思いきやリィンに言葉を投げかける。
「ところでリィン、今日のゲストはいつ来るんだ?」
「どちらかというとオーレリアさんが今日のゲストです」
どこかそわそわとした様子で周囲を窺うオーレリアにリィンは苦笑しながら答える。
「…………そうか、来ないのか」
オーレリアの耳に入って来た情報では四月から毎月、猛者が訪ねて来るということなのでリィンと戦えることと同じくらいに期待していたのだがそれがないと分かって落胆する。
「まあいい……今はお前達と存分に戦うとしよう」
しかし、すぐに気を取り直してオーレリアは獰猛な笑みを浮かべる。
「Ⅶ組総員、敵は《黄金の羅刹》っ! 一瞬の油断が命取りになると思えっ!」
『おおおおっ!』
クリスの激励にⅦ組は声を揃えて応じて、その日の実技テストが始まった。
「ほう……今月はルグィン伯爵が来られていたんですか」
そして授業時間が半ば過ぎ、小休止が取られたタイミングで彼、ルーファス・アルバレアが現れた。
「あ、兄上っ!」
地面にへたり込み、リィンが用意していた疲労によく効くレモネードを飲んでいたユーシスは突然現れたルーファスを見て慌てて立ち上がる。
「はは、そのまま休んでいて構わないよユーシス」
貴族にあるまじき振る舞いだったにも関わらず、ルーファスは特に注意することなくユーシスを労う。
「ほう……」
校舎へと続く階段から降りてくるルーファスにオーレリアは目を光らせる。
「あ、兄上……どうしてこちらに?」
楽にしていて良いと言われながらも、やはり佇まいを直したユーシスは緊張した様子で尋ねる。
「不思議かね? 私はトールズ士官学院の常任理事の一人、学院に顔を出すのは当然のことだと思うのだが」
「それは……そうかもしれませんが」
「それにせっかくそういう立場なのだから、一度くらいかわいい弟の指南をして上げたいと思ったのだが、嫌だったかな?」
携えた剣を見せて笑いかけてくるルーファスにユーシスはたじろぐ。
「そんなわけはありませんが――」
「それに実はリィン君に聞きたいことがあってね」
「っ……」
その何気ない兄の言葉はユーシスの心を逆撫でた。
「兄上は――」
果たしてどちらが本命なのかユーシスは確かめようとして――
「リィン達の試験勉強以来だなルーファス卿」
ユーシスの言葉はオーレリアによって遮られた。
ルーファスがリィンのトールズに入学するための勉強を見ていたことは知っている。
だが、改めて突き付けられた事実にユーシスは自分でも理解できない程に動揺していた。
「ええ、お久しぶりですルグィン伯爵。壮健そうで何よりです」
「互いにな……それよりも先程の言葉だが」
「ええ、私もⅦ組の設立に関わった者として彼らの成長を確かめる機会を頂きたいのですが、よろしいですかサラ教官、アルゼイド子爵閣下」
「あ……はい……」
ルーファスの登場に呆気に取られていたサラは呆けた顔で頷いた。
「ああ、多くの者と戦うことは彼らの良き経験になるだろう」
ヴィクターも異論はないとルーファスの参加を認める。
「ではどちらからやる?」
「ふふ、授業時間も少ないので二人で、というのはどうでしょうか?」
「ほう……そなたと肩を並べて戦うか……あの時は一瞬で終わってしまったが、果たしてついてこれるのか?」
「それはこちらの台詞ですよ」
オーレリアとルーファスが並び立ってそれぞれ剣を構える。
「さあ、休憩は終わりだ。疾くと立つが良いっ!」
オーレリアの一喝して再開を促す。
「ラウラの上位互換とユーシスの上位互換、そんなのあり!?」
「体力も少なくなっているのに、まずいですよね」
ある者はその事実に慄き。
「くそっ! これがリィン補正なのか!」
「よかった後半はリィンと一緒の班で」
ある者はその事実に嘆き。
「ふむ、フィーよ。次は私はこう動くから援護を頼めるか」
「ん、オッケー」
「僕はブリランテでオーレリア将軍を三分は抑えるから、ガイウスとユーシスはエリクシルとリヴァルトを貸すからルーファス卿を速攻で決めてくれるかな?」
「ああ、任された」
「良いだろう。だが、兄上を落とせる保証はないぞ」
ある者は前向きに状況の打開を考える。
一言で表すなら、実技テストの後半戦の結果は控えめに言って煉獄だった。
*
「さて、実技テストも無事に終わったことだし、今週末に行ってもらう《特別実習》について説明するわよ」
実技テストが終わり、教室に戻ったサラは机に突っ伏している一同を見回しながら切り出した。
とりあえず、疲労が限界のようだが話を聞くことはできると判断してサラは続ける。
「今回の実習先は《帝都ヘイムダル》……
班編成についてはちょっと趣向を凝らすことにしたわ」
「趣向を凝らす……どういう意味ですか?」
サラの含みのある言葉にエマが聞き返す。
「ふふん、あんた達入ってきなさい」
教室の外に向かってサラが呼び掛けると、扉が開き四人の生徒達がⅦ組の教室に入って来た。
「トワ会長?」
「アンゼリカ先輩?」
「あと……クロウ先輩とジョルジュ先輩でしたか?」
「あはは、みんな久しぶり」
朗らかな笑顔でトワがⅦ組に応える。
「それじゃあ、後の説明は任せたわよ」
そしてサラは教壇をトワに明け渡して説明を丸投げし、サラの代わりに教壇に立ったトワは三人の先輩達を横に従えてコホンと咳払いを一つして話し始める。
「みんな知っていると思うけど、生徒会長をしているトワ・ハーシェルです……
今回のⅦ組の《特別実習》の部隊長に任命されましたのでよろしくお願いします」
「ぶ、部隊長!?」
「口を慎めレーグニッツ! トワ隊長の説明はまだ終わってないぞっ!」
狼狽えたマキアスが漏らした言葉に過剰反応するようにアンゼリカが一喝する。
「そうだぞ後輩共っ! トワ隊長のありがたい御言葉を心して聞け! そして返事はイエス・マムだっ!」
「二人とも落ち着いて、それじゃあトワ隊長が話せないだろ」
「アンちゃんっ! クロウ君っ! ジョルジュ君まで、それに隊長はやめてよ」
悪ノリする三人にトワは頬を膨らませて抗議する。
「ははは、まあ少し悪ノリをしたことは認めるが、トールズは士官学院、卒業して軍に進むのならこういったやり取りを覚えておいても損はないさ」
「そんなこと言って、からかってるだけでしょ?」
「ふ……それもこれもトワが可愛すぎるからいけないのさ」
「アンちゃん……」
ジト目で睨まれてもどこ吹く風と言わんばかりにフリーダムなアンゼリカは改めてⅦ組に向き直る。
「改めて名乗らせてもらおう。《特別実習》の第一小隊長を勤めることになったアンゼリカ・ログナーだ」
「同じく、第二小隊長のクロウ・アームブラストだ」
「第三小隊長のジョルジュ・ノーム。みんなよろしくね」
次々に名乗る先輩方に最初の言葉もあり、Ⅶ組は黙り込む。
そんな沈黙にトワが慌てた様子で取り繕う様に説明を再開する。
「え、えっとね……今度の《特別実習》のヘイムダルはこれまでみんなが行っていた都市と比べると規模が大きいから人員を増やしてやることになったの……
私たち、二年生にとっては部下を持って行動する実習、Ⅶ組のみんなにとっては突発的な上官に従うことを主眼にしたカリキュラムになります」
「な、なるほど……」
トワの親切な説明に先程の一喝で固まっていたマキアスは息を吐き出すように言葉を漏らす。
「でもそれだと先輩達とは戦術リンクは使えないですよね?」
「それは大丈夫だよアリサちゃん……
私達は去年、《ARCUS》のプロトタイプ試験導入をやっているからみんなの《ARCUS》とも問題なく繋がれるよ」
アリサの疑問にトワは淀みなく答え、話を進める。
「《特別実習》は24日から26日の三日間、ただし23日、授業が終わったら移動して前日に現地入りします……
宿泊先は旧遊撃士ギルドの支部をみんなで使います。何か質問はありますか?」
「班編成はどうするんですか?」
エマが挙手をして尋ねる。
「今回の《特別実習》では固定の班は作りません。ジョルジュ君、あれをみんなに配ってくれるかな」
「了解」
トワの言葉にジョルジュは頷いて、用意していたクォーツとオーブメントを各人に配る。
「これはクォーツと耳飾りのオーブメント?」
「そのクォーツを戦術オーブメントにセットしてもらうと、そのオーブメントに繋がる仕組みでね……
それを使えば《ARCUS》を開かずに導力通信ができるんだ」
「ふーん……両手を塞がれずに通信ができるなんて便利だね」
「うん、それでね……その通信機を利用して今回の実習は行うことになったの……
実習依頼を導力ネットを使って随時更新するから増えた依頼は私が逐次みんなに割り振ります」
「つまり導力ネットと通信を利用した部隊運用が今回の実習の目的ということか」
「会長の班が作戦本部、他の三人が実働部隊。今回の実習は質より量をこなすということか」
マキアスが呟くとラウラが頷く。
「そうなると班編成は三日間で入れ替えていくか、もしくは依頼毎に組み替えるのか」
「うう、何だかすごく大変そう」
ユーシスの推測にエリオットは泣き言をもらす。
「はい。ユーシス君が言った通り、Ⅶ組の皆さんには状況に応じてアンちゃん、クロウ君、ジョルジュ君の三人の班を行き来してもらいます……
人手が必要な依頼があれば一時的に人数を偏らせることも考慮しているからそのつもりで頑張ってね」
「しっかりしろよ後輩共。お前達の仕事ぶりは俺達の単位にも関わって来るんだからな」
「クロウ君、そういうこと言わないの」
脅すようなクロウの言葉をトワがたしなめる。
「ともかく私から言えることは一つだ」
そして最後にアンゼリカが締めくくる様に提案した。
「実習中はトワ隊長と呼ぶことを厳命する。異論は認めない」
「アンちゃんっ!」
*
放課後、リィンは部活棟の歴史研究同好会に割り当てられた部室にルーファスを案内した。
「どうぞ狭い部屋で恐縮ですが、すぐにお茶を淹れます」
「いや、構わないよ。突然押しかけたのは私なのだから」
リィンの気遣いにルーファスは気にしなくていいと言いながら、部屋を興味深そうに見回す。
多くの部活が存在しているトールズにおいて同好会である歴史研究会の部室は小さい。
新設された同好会であり、部員はリィンを含めてたった二人だけであり、そもそも活動自体が緩いため何の問題もない。
「部員はこの時間だと、教会に行っているのでここなら誰にも気にせずに話せます」
「ありがとう……それにしても歴史研究会と聞いていたが、何を調べているのだね?」
壁に貼られているトリスタ周辺の地図、七色の色で不規則な線が引かれているものにルーファスは興味を示す。
「あれはこの周辺の七耀脈の書き記したものですね」
「ほう……これが七耀脈の……良く耳にする言葉だがこのようになっているのか……
しかし、些か線の流れが不自然に見えるが」
「流石ですね。ルーファスさん、トリスタの霊脈はその土地に悪影響がでない程度に人の手によって加工されています。不自然さはそれが原因ですね」
ルーファスの慧眼をリィンは褒める。
「なるほど、その歪みとはもしかして《旧校舎》とそこに眠っていた《騎神》が関係するのかね?」
「…………耳が早いですね」
探りを入れてくるルーファスにリィンはそんな言葉を返す。
「話というのはやはり“大いなる騎士”のことですか?」
その存在を大っぴらにしているわけではないが、《騎神》のことも以前にユーシスに話しているのだからルーファスが知っていてもおかしくはない。
「まあ、気にならないと言われれば嘘になるがね。ああ、ユーシスからの情報ではないから安心してくれ……
だから、今後もあの子を仲間外れにしないようにお願いするよ」
「別にしませんよ、完全な情報統制ができるとは思っていませんから」
「だろうね。おそらくルグィン伯爵が今日、来たのはその探りのためでもあったのだろう」
実技テストが終わって名残惜しそうにしていたオーレリアのことを思い出して、果たしてそれだけだったのだろうかとリィンは首を傾げる。
彼女の意向は一先ず置いておくとして、リィンはルーファスと向き合った。
「…………単刀直入にお尋ねします。ルーファス卿は俺を貴族派に勧誘するために来たんですか?」
雑談を切り上げてリィンは彼が持ってきただろう本題を切り出す。
「いや、そちらはまだ良い」
が、ルーファスはリィンの予想を否定した。
「今日の用事は極めて個人的な理由でね。ユミルで社交界での立ち回りを教導した私が君にこんなことを聞くのはおかしいかもしれないが一つ聞きたいことがあったのだよ」
「はぁ……」
ルーファスの意図が読み切れずにリィンは首を傾げる。
何でも高水準にできるルーファスが自分なんかの何が聞きたいのだろうか。
自分にあってルーファスにないものといえば、《騎神》や《聖痕》のことだがその辺りのことは教えるつもりはないことはルーファスも分かっているはずだろう。
「リィン君、人を愛するということはどういう気持ちなのかな?」
警戒心を強めたリィンに対してルーファスはそんなことを尋ねて来た。
「………………え?」
「自慢するつもりはないが、私は見た目が良く能力もあり家柄も良い……
社交界に出れば貴族諸侯たちが自分の娘を紹介してきて、彼女たちも積極的に私に己を売り込んでくるくらいだ」
「そ、そうでしょうね……」
「しかし、先日ある理由で私が預かることになった少女に呆気なく袖にされてしまってね」
その時のことを思い出したのか、ルーファスはくくくっと声を殺して笑い出す。
「私としては、そんなつもりはなかったのだけど……
まさかいきなり“不埒”だとあんな虫を見るような目を返されたのは初めての経験だよ」
「………………え……?」
「ん? どうかしたのかなリィン君?」
目を見開いたリィンにルーファスは涼し気な表情で首を傾げる。
「いえ…………何でもありません」
一瞬、頭に過った“彼女”をリィンは振り払うように頭を振る。
そんなリィンの苦悩を分かっているとばかりにルーファスは微笑み、続ける。
「“彼女”とは仕事上の関係なのだが、あそこまで無碍にされると逆に気になってしまってね……
これが巷で良く言われる“恋”に落ちたということなのかな?」
「いやいやいや、いきなり話が飛躍し過ぎですよねルーファスさんっ!」
真面目な顔をして天然ボケを全力投球してきたルーファスにリィンは声を上げて突っ込んでいた。
「ふむ……違うのか」
残念そうにするルーファスの顔はどこまで本気なのか分からない。
「まあ、“恋”というのは冗談だが、少々彼女の事が気になっているのは事実だよ……
以前の私ならこんなことは思わなかっただろう。だから少し戸惑っているのだよ」
少し前までの自分なら無感情に従う“彼女”に人間性を感じずに“道具”として扱っていただろう。
それが変化したのはユミルでの生活があったからか、それとも写真の中で見た彼女が彼に向けていた眼差しに羨望を感じてしまったのかルーファスには判断がつかない。
その判断できない自分がいるという新たな発見もルーファスには新鮮だった。
「そうですか……」
対するリィンの心情は混乱を極めていた。
開示された情報は少ないが、《識》を使えばルーファスの言う彼女が“彼女”であるか確かめることはできるかもしれない。
しかし、それを確かめたところでどうなるわけではない。
今の“彼女”はリィンが知っている“彼女”ではない。
――何より、今会ってどうするつもりなんだ……
「っ……」
会わない理由を探そうとした自分の思考に思わずリィンは顔をしかめる。
「実はリィン君」
そんなリィンの葛藤を知ってか知らずか、ルーファスは話を続ける。
「私は“愛”というものを知らないのだよ」
「それはどういう意味でしょうか?」
「これはユーシスも知らない話なのだが、私は現アルバレア当主のヘルムート・アルバレアの息子ではないのだよ」
「…………ちょっと待ってください」
ルーファスの突然のカミングアウトにリィンは思考を止め、深呼吸してから徐に立ち上がり、廊下への扉を開ける。
そこに誰もいないことを確認して、鍵を閉め、さらに指を鳴らす音を使って部屋を“匣”で隔離する。
顧問のように空間ごと切り離すことはリィンにできないが、防音くらいの効果しかないが重要なことである。
「手間を掛けさせるね」
ルーファスには何が起きたのかは分からない。
しかし、人払いに近いものをしたと判断して礼を言う。
「いえ……ですがそれは俺が聞いて大丈夫な話なんですか?」
「アルバレア家としては身内の汚点を晒すことだからまずいのだが……
そうだね……私はこの話を誰かに聞いてもらいたかったのかもしれないな」
どこか遠くを見るようにしてルーファスは自分を、歪んだアルバレア家のことを語り出す。
ルーファスがヘルムートの弟と彼の妻の間にできた不義の子供だということ。
事情を知らなかった幼少期には、ユーシス以上にヘルムートから冷遇されていたこと。
ユーシスがアルバレア家に迎えられてからはヘルムートの最低限だった感心もユーシスに移ってしまったこと。
その時に感じた自分の胸の内は明かさず、ただ淡々とルーファスは事実だけを並べていく。
リィンはただ彼の話に相槌を打ち、聞き役に徹する。
「シュバルツァー家での生活は本当に楽しかったよ」
そこまで事実を述べるしかしなかったルーファスは不意に彼の心情をもらした。
「血の繋がりがなくても君は確かにシュバルツァー家の家族だった……
そしてただの客人でしかない私たちをテオ殿とルシア殿は温かく受け入れてくれた……
私はそこで初めて知ったよ、“家族の団欒”というものを」
ルーファスが尊敬する“彼”への思いが揺らいだわけではない。
ただシュバルツァー家には“彼”とは別の形で惹きつけられるものがあった。
だからなのだろうか、“貴族”の家柄に縛られていた自分の様に、“道具”である役割に縛られている彼女に興味を抱いたのは。
「…………もうこんな時間か……」
気付けば窓の外は日が落ちて暗くなっていた。
「長話に付き合わせてしまってすまなかったね。この件はユーシスには内密にしておいてくれるかな? あの子が受け止めるにはまだ重過ぎる真実だからね」
「ええ、分かっています」
リィンはルーファスの願いに静かに頷く。
「ところでリィン君、今度の特別実習が終わったらバリアハートに来ないかね?
件の“彼女”と会う気はないのかな?」
「それは……」
突然の申し出にリィンは心を揺らす。
「いえ……今はまだいいです」
葛藤の末にリィンはそう答えるのだった。
*
見送り
リィン
「ルーファスさん、これ作り置きしていたアイスなんですが、良かったら食べてください」
ルーファス
「ああ、わざわざすまないね」
リィン
「それからこのペンダント……
身代わりマペットを改造したアクセサリーです。もし良かったら――」
ルーファス
「皆まで言わなくて結構、謹んで受け取らせてもらうよ」
リィン
「あとそれから、戦術オーブメントを使っていますよね。これは俺が作ったマスタークォーツなんですけど――」
アリサ
「まさかプレゼント全達成一番乗りはユーシスのお兄さん!? リィンの本命ってまさか……いやでも……」
ドロテ
「アリサさん、これをどうぞ」
エマ
「ドロテ先輩っ!? どうしてここに!? っていうかアリサさんそれは見ちゃダメですっ!?
ユーシス
「………………(めらり)」
ドロテ
「ルーファス卿とリィンさんとユーシスさんの三角関係………………ブハッ!」
ルーファス卿の強化プランその一。
“愛”に目覚める。
ただし対象によっては聖女戦や黒戦よりも超帝国人のやる気が上がる可能性あり。
この話は最初のプロットだとさらにガイウスの上位互換としてウォレスも参加させるつもりでした。
キャラクターマニアクスには出身地がサザーランド州になっていて、wikiなどには獅子戦役で活躍したノルドの末裔と書かれていたのでその時にノルドから出た一族の末裔だとすれば、彼がノルドで過ごしていた時期があるのか怪しいと思いました。
そうなるとガイウスとの縁って250年越しの血筋で、槍も純粋ノルド産から離れたものになり説明に取られる部分が多くなると思ってカットしました。