(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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本日2020年、10月22日。
創の軌跡で帝国で今まで武術大会は開催されていなかったと判明したため、武術大会を交流試合と差し替えさせて頂きました。




49話 緋の帝都Ⅰ

 

 

 

 

 

 

 

 7月24日、土曜日。

 特別実習一日目は早朝、ギリギリと本気かふりなのか分からない悔しさにアンゼリカが歯ぎしりする。

 

「ぐぬぬ……トワと二人きりで作業なんて」

 

「アンゼリカ先輩、今日はふざけている暇はありませんよ。これがアンゼリカ先輩のチームがこなしてもらう課題です」

 

 昨日の内にまとめておいた十枚ほどのレポート用紙を手渡し、リィンは同じ量のものをクロウとジョルジュに渡す。

 

「随分あるな……」

 

「これが今日の分かい?」

 

「はい。大まかな依頼をまとめておきました。概要だけを手帳に写して、まずは依頼人に話を聞いて、詳しい内容などを本部に連絡してください……

 その依頼の内容、掛かる時間などの見積もりなどを報告してください」

 

 聞き返して来るクロウとジョルジュにリィンは頷く。

 

「それではトワ隊長に代わって班編成を発表させてもらいます」

 

「リ、リィン君まで!?」

 

「いえ、ですが学院ではないので会長と呼ぶのはおかしいと思うんですが」

 

「それは……確かにそうだけど……」

 

 親友たちと違って真面目な答えにトワは唸る。

 

「今回の特別実習は軍事行動の一環を想定していますから、慣れてください……

 それとも隊長が嫌なら司令や、それともこの実習の間だけでも俺たちの中だけの階級でも作りますか?」

 

「もう隊長で良いよ」

 

 ため息を吐いてトワはリィンの言い分を認めた。

 アンゼリカたちの悪ふざけはともかくリィンの言う通り、この集団の長であることは正しいのだから。

 

「では続けて、班編成を発表させてもらいます……

 今日、司令部としてここに残るのはトワ隊長と俺になる……

 主に導力ネットから更新される依頼の整理や小隊長から上げられる経過報告の処理などが担当になる……

 明日までに俺がサポートのマニュアルを作っておくから、交代した人は後でそれを確認して明日以降はトワ隊長のサポートをしてくれ」

 

「リィン君、私とトワ隊長が二人きりになる場合はあるのかね?」

 

「ありません……

 アンゼリカ小隊長の班はラウラ、ユーシス、ガイウスの三名。最初に西地区の帝都博物館へ行ってもらいます」

 

「うむ、了解した」

 

「続いてジョルジュ小隊長の班はマキアス、エリオット、フィーの三名……

 ジョルジュ班には東地区で多発している置引きやスリに関しての聞き込みをしながら、実習依頼を消化してください」

 

「なるほど、聞き込みなら地元の僕達が適任ということか」

 

「最後にクロウ小隊長の班はクリス、エマ、アリサの三名……

 クロウ班は南地区で起きている“辻斬り”の調査。各地の武芸者が集まる交流試合の参加者を狙って連日“辻斬り”が出没しているそうです……

 依頼をこなしながら巡回してもらいますが、“辻斬り”が襲ってくれば撃退、捕縛してください」

 

「ねえ、リィン……それなら腕っぷしが必要よね? ラウラとフィーじゃないの?」

 

 割り当てられた仕事に感じた疑問をアリサが尋ねる。

 

「“辻斬り”の被害は主に男性が多いことが理由の一つ、後はフィーに街中で銃撃戦をさせるつもりはないからな」

 

 アリサの質問にリィンは淀みなく答え、一同を見回す。

 

「他に質問はありますか?」

 

 質問を促すが沈黙が返って来る。

 

「では最後にトワ隊長、一言をお願いします」

 

 場所を譲られてトワは一同の前に立つ。

 

「えっと……今日から三日間、たぶんこれまで経験してきた《特別実習》の中で一番大変な実習になると思うけど、みんなで頑張ろうっ!」

 

 こうして七月の《特別実習》は幕を開けた。

 

 

 

 

 緋の帝都ヘイムダル。

 人口80万人を超えるエレボニア帝国の首都だが、三日後の夏至祭を目前としたこの時期は地方や外国からの観光客も合わさり、現在の延べ人数は100万人に届いていた。

 帝都ヘイムダルは十六の街区に分かれており、それぞれが地方都市並みの規模を持つこともあり、祭りで浮かれるこの時期はトラブルが絶えなかった。

 時間はあっという間に過ぎ、正午。

 

「むぅ……」

 

 旧ギルド支部に戻って来たラウラは頬を膨らませて、あからさまに不機嫌になっていた。

 

「何かあったのか?」

 

 昼食の準備をしてアンゼリカ班の帰還を迎えたリィンはそんな彼女の様子に首を傾げた。

 彼女たちの班に任せた仕事は帝都博物館での開放前の交通整理。

 博物館の今回のテーマはリィンがクロスベルで入手した《聖女の槍》の展示をメインにした“槍の聖女祭”が行われている。

 展示にはレプリカだけではなく、アルゼイド子爵とヴァンダール子爵からそれぞれ本物の宝剣を貸してもらった豪華な催しに連日、開館前は長蛇の列ができるほどの人気だった。

 

「何があったも何も……あの女が来ていたのだ」

 

 ため息を吐いて答えるユーシス。

 彼が言うあの女にリィンは心当たりはあるのだが、まさかという思いもあった。

 

「あの女って……まさか……」

 

「四月の実技テストの時に最初に現れた女性だ」

 

 ガイウスの補足説明にリィンは思わず天を仰ぐ。

 何故、昨日でも明日でもなく、《特別実習》が始まった今日なのか、結社の休日も一般的に共通な土曜日曜なのか問い詰めたい気持ちになる。

 

「それで、まさかその場で喧嘩を?」

 

 通信による報告では滞りなく開館して、アンゼリカ班は次の依頼に取り組んでいたはず。

 

「多少の言い合いはあったが、何とか自制してくれた……もっともそれからずっとあの調子だがな」

 

「私だって……私だって……“特別実習”さえなければ……」

 

 悔しそうに同じことを何度もラウラは呟いていた。

 

 

 

 

 続いて戻って来たのはジョルジュ班だったが、その中にも一人、肩を沈ませ全身で落ち込んでいると訴えている男がいた。

 

「マキアス……何があったんだ?」

 

「うん、そのことで報告なんだけど」

 

 ジョルジュは困った顔をして事の成り行きを語り出した。

 東地区を中心に起きていた置引きやスリ、それらはどうやら地方から出て来た貴族を狙った犯行だった。

 犯人は意外なことに子供でマキアスの顔見知りだった。

 そして《黒猫》と名乗り、杜撰な変装をしたその子供は盗んだミラを貴族が寄り付かない旧市街でばら撒き“義賊”を名乗っていた。

 さらに面倒なことにその子供は士官学院に入る前のマキアスの影響を強く受けた子供だった。

 

「え……それってあの時のマキアスが小さくなって増えていたんですか?」

 

「いや、流石に入学当時のマキアス君みたいに狂犬みたいに正面から噛みついたりはしてなかったみたいだね」

 

「おふっ」

 

「リィン、ジョルジュ先輩、そんな追い打ちを掛けないで上げてください」

 

 二人の言葉に胸を打たれたように痙攣するマキアスにエリオットは思わず同情してしまう。

 

「犯行の動機は入学式のマキアスみたいに貴族憎しで魔が差して、一回うまく行ったから調子に乗って犯行を重ねている感じだったよ」

 

「それはまずいな」

 

 フィーの補足説明にリィンは顔をしかめた。

 

「何かあったの?」

 

「今日の午前中にまた被害が出たらしくてな……今回の被害者は怒り心頭で犯人を見つけて縛り首にするって息巻いているらしい」

 

「午前中……それって今日僕達が見たのがその人のミラだったってこと?」

 

「待ってくれリィンッ! 縛り首っていつの時代の事を言っているんだ!

 それにその子はまだ日曜学校を卒業していない本当に子供なんだぞ」

 

「だったら責任はその子の親が取ることになるだろうな。ともかく俺達にできるのはここまでだ」

 

「ここまでって何を言っているんだリィン!?」

 

「最初から犯人を捕まえることじゃなくて、調査依頼だと言ったはずだ……

 その調査を元に犯人を捕まえるのは依頼を出した帝都憲兵隊の仕事だ。何か間違っているのか?」

 

「ぐっ……見損なったぞリィン。相手は子供だと言うのに」

 

「マキアス、子供でも犯罪は犯罪だ」

 

「違うっ! その子はそんなことをするような子供じゃなかった! そうだ、これもきっと“呪い”の――」

 

「マキアス・レーグニッツ!」

 

 それまで淡々とした口調でしゃべっていてリィンはマキアスがもらした言葉に苛立ちを含んだ声を上げる。

 

「何でも“呪い”のせいにするな! その子が犯罪に手を染めたのは元々はお前の行き過ぎた貴族への偏見が原因のはずじゃなかったのか」

 

「それは……」

 

 怒りのこもった眼差しで睨まれてマキアスは思わず口ごもる。

 

「はいはい、そこまで。リィン君も言い過ぎだよ」

 

「……そうですね。すみません、トワ隊長。マキアスも悪かった」

 

「あ……いや……僕の方こそ失言だった」

 

 トワに諫められ、頭が冷えたマキアスは感情的になったことを謝罪する。

 

「でもリィン君が言った通り、私達に求められているのは犯人の調査。本来ならもうこの依頼はマキアス君がその子のお家の住所を報告してくれればそれで終わりなんだけど、どうしたいかな?」

 

「どうしたいって……え……?」

 

「リィン君、今日被害にあったのはどういう人なの?」

 

「クロイツェン州の伯爵貴族です。帝都に来たのは夏至祭の間にバルフレイム宮で行われる社交界に出席するためです」

 

「それなら今日一日くらいは大丈夫かな?

 リィン君。ジョルジュ君の班の今日の予定だけど、さっき隊長である私を差し置いて勝手に依頼完了を決めようとした……ば、罰でジョルジュ君たちの班の仕事を一人でやることを命令します」

 

「イエス・マム!」

 

 理不尽な命令されたリィンは反抗を一切口から漏らさずに、敬礼して出て行ってしまった。

 

「え……へ……は……?」

 

「それじゃあ暇になったジョルジュ君達の班だけど、追加の調査をしてもらいます」

 

「あ、あの……トワ隊長……?」

 

「まだ報告には犯人の詳しい潜伏先などは発見できていないので、ちゃんと調査して来てね?

 あとその子の年齢で単独で置引きやスリを何度も成功させているのもちょっとおかしく感じるから、周辺の調査ももう少しやって欲しいかな?」

 

 どこか引きつった笑顔でトワはジョルジュ達の調査の延長を促す。

 

「もしかして、さっきのは仕込み?」

 

「そ、そんなことないよ!」

 

 フィーの指摘にトワは明らかに狼狽えて否定する。

 

「こほん……それともマキアス君はその子をちゃんと更生させる気はないのかな?」

 

「っ……やります。やらせてください」

 

 今更ながらマキアスは落ち込んでいる暇はないのだと気が付く。

 例え嘘吐き、裏切り者と罵られたとしても、マキアスにはその子に向き合わなければならない義務がある。

 

「それじゃあジョルジュ君達はマキアス君のサポートをお願いね」

 

「うん、了解」

 

 トワの指示にジョルジュは素直に頷いて、彼らは午後の実習に向かうのだった。

 

 

 

 

 

「何だトワ一人だけか?」

 

 休憩と昼食を摂りに旧ギルド支部に戻って来たクロウ班は室内にトワしかいないことに首を傾げる。

 

「うん、ちょっとジョルジュ君達の班でトラブルができちゃってリィン君にはそのフォローに行ってもらったんだ」

 

「おいおい、そんな気軽に単独行動させて良いのかよ?」

 

「ちょっと想定外の事件が起きちゃったから……

 でも元々これくらいは想定してたから大丈夫だよ。でもリィン君一人だと心配だからこの後クロウ君達の班と――」

 

 言いかけたところでトワの《ARCUS》が鳴り、トワは通信回線を開く。

 

「はい、こちら本部――あ、リィン君……え?

 もう最初の依頼を終わらせちゃったの? うん……それじゃあ次はアルト通りの依頼に行ってくれるかな?

 うん……うん、よろしくね。でも無理はしないでいいから、リィン君はそのまま依頼をやっていて、今クロウ君の班が戻ってきているからお昼休憩を取ったら合流してもらうから。うん、それじゃあまた後で」

 

「今のリィンからか?」

 

「うん、さっき出たばかりでもう依頼を達成しちゃったみたい……

 クロウ君、戻ってきてもらってばかりで悪いんだけど、お昼休憩は十分で済ませて、それからエマちゃんにはリィン君と交代ということで本部に待機してもらいます」

 

「は、はい。分かりました」

 

 トワのいきなりな提案にエマは頷く。

 

「となると午後はリィンと一緒なのね……」

 

「リィンさんと一緒なら心強いですね」

 

 そしてアリサとクリスはそれぞれの反応をする。

 

「休憩は十分だけって、人遣い荒いな」

 

「あ、それからクロウ君はお昼食べながら、午前中の詳細報告をしてくれるかな?」

 

 愚痴を漏らしたクロウにトワはさらに追い打ちをする。

 

「うえ!? まじかよ……

 いや待て、後輩共俺の代わりに――」

 

「ダメだよクロウ君。隊長なんだからクロウ君が報告してくれないと……ね、クロウ隊長?」

 

 笑顔に有無を言わせない圧力をかけてトワにクロウはがっくりと肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 





 帝国特別実習ダイジェスト

アンゼリカ班、帝都博物館にて
ラウラ
「今から列を作ります。どうか慌てず、走らずに誘導に従ってほしい――って貴様は!?」

デュバリィ
「何ですの? わたくしに何か……その制服は……ああ、たしかアルゼイドの娘でしたわね。こんなところで何をしているかしら?」

ラウラ
「それはこちらの台詞だ! 何故《結社》の貴様がここにいる!?」

デュバリィ
「愚問ですわね。先週から貴族用に先行開催されていた《槍の聖女博》が平民向けに今日から解放されるわけですから、わたくしが来ないはずがないでしょう?
 まあ、この時ばかりは貴族を捨てたことをちょっと後悔してしまいましたが」

ラウラ
「ぐぬぬぬ……」

アンゼリカ
「ほう、なかなか可憐な女性だが君たちの知り合いかね? 是非紹介してもらいたいものだが」

ユーシス
「俺達ではなく、リィンの知り合いだ」

ガイウス
「ラウラ、ここは抑えてくれ」

デュバリィ
「ふふん、アルゼイドの娘にはチケット切りがお似合いですわ。ほら、早く誘導しなさい」

ラウラ
「うぐぐぐ……」





ジョルジュ班、オスト地区にて

黒猫
「貴族の圧政に苦しむ皆さん!
 これは一生懸命生きる皆さんにボクからの贈り物だよっ!!
 キミたちに幸あれっ!!」

マキアス
「君は……自分が何をしているのか分かっているのか!?」

黒猫
「何言ってるのさマキアス兄? あいつらは狡くて卑怯ですぐ嘘を吐く……
 そう教えてくれたのはマキアス兄でしょ?」

マキアス
「それは……」

黒猫
「だからボクはあいつらがボク達から不当に奪われたミラを取り返して上げてるんだ……
 ほら、みんなボクに感謝してくれてる。マキアス兄も嬉しいでしょ?」

マキアス
「…………」

黒猫
「それじゃあ、またね。マキアス兄。ボクはこれからもっともっと貴族から盗むんだ」

マキアス
「………………どうしてこんなことに……」

ジョルジュ
「マキアス君……」

エリオット
「と、とにかくトワ会長に報告しよう」

フィー
「ま、因果応報ってやつかな?」



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