(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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閃の軌跡Ⅲで思った事、トワ先輩の弟分がコウ君じゃない。








51話 緋の帝都Ⅲ

 

 

 ヴェスタ通りに店を構える《ハーシェル雑貨店》

 そこは両親を亡くしたトワを引き取った彼女の叔父夫婦が営む店だったが、昨夜泥棒に入られた調査依頼が出ていたにも関わらず店は何事もなかったかのように営業していた。

 

「あれ……?」

 

 実家から出された依頼を見て動揺したトワはジョルジュに隊長を代行してもらって駆け付けたのだが、通常営業している実家の姿に肩透かしを食らってしまう。

 

「ここがトワ隊長の実家ですか……見たところ普通に営業していますね」

 

「うん……そうだね。でも依頼が来たのは確かだから話を聞いてみよう」

 

 ひとまず被害が目に見えてないことに安堵してトワは後輩たちを促す。

 

「あ、それと叔父さん達の前で隊長って呼ぶのはやめてね」

 

「分かりました」

 

「あ、はい」

 

「うむ、了解した」

 

 リィンとエリオット、そしてラウラはトワの忠告に頷いてハーシェル雑貨店に入った。

 

「いらっしゃい――あら、トワじゃない。お帰り」

 

「お帰りじゃないよ。泥棒に入られたって依頼が来た時にはびっくりしたんだからね」

 

 朗らかな笑顔で出迎えてくれたマーサにトワは安堵しながらも答える。

 

「え……どうしてトワがそのことを?」

 

 トワが現れることを考えていなかったマーサはバツが悪そうに目を泳がせる。

 

「学院の実習で憲兵隊の仕事をいくつかを請け負っているの……

 その依頼の中にうちからの依頼があって急いで来たんだけど」

 

 改めて店内を見回しても荒らされた形跡はない。

 そこに不信を感じる前に、マーサはトワに向かって頭を下げた。

 

「ごめんなさい。トワちゃん」

 

「お、叔母さん?」

 

 突然謝られてトワは狼狽える。

 

「こんなことになってしまって本当に何て言って良いか……せめてあなたに知られる前に解決してもらおうと思っていたんだけど本当にごめんなさい」

 

「落ち着いてください。マダム……

 そんな突然謝られてもトワ先輩も困っています。とりあえず経緯を教えていただけますか?」

 

「え……あ……そうね。ごめんなさい」

 

 リィンに諭されてマーサは顔を上げ、リィンを見て顔をしかめた。

 

「貴方は……」

 

「申し遅れました。俺はトワ先輩の後輩のリィン・シュバルツァーと申します。こちらは同じクラスのエリオットとラウラ……

 以後、お見知りおきを」

 

「え、ええ……御丁寧にどうも」

 

 名乗ったリィンに対してマーサはより警戒心を強める。

 

「リィン、何かしたの?」

 

「いや、心当たりはないんだけどな」

 

 耳打ちして来るエリオットにリィンは首を傾げる。

 マーサによって説明されたのは昨日の夜の出来事。

 その日はたまたま外に食事に出掛け、帰ってきたら裏口の鍵が壊されていた。

 警戒して調べてみれば、店内には不審者たちがいてマーサ達の声を聞くなり、店側の出入り口を中から開けて逃げて行った。

 憲兵隊に通報し、調べてみれば店が少なからず荒らされ、導力レジのミラが抜き取られ、さらには二階の居住スペースのトワの部屋から天体望遠鏡が無くなっていた。

 そしてその代わりに残されたのが一枚のカードだった。

 そこに書かれていたのは――

 

『怪盗B、参上っ!』

 

「《怪盗B》って、あの――」

 

「ふむ、エリオットは知っているのか?」

 

「う、うん……帝都では結構名の知れた盗賊だから」

 

「そうだね……

 『美の解放活動』って自称して数年前から世間を騒がせてるんだけど……

 帝国軍から、導力戦車を盗み出したことがある凄い盗賊だよ」

 

「いや、今回の犯人は名前を騙っているだけの偽物ですね」

 

 《怪盗B》のカードを見て深刻な顔をするトワ達にリィンは迷いなく言い切った。

 

「そんな、どうしてそんなこと言い切れるの?」

 

「まず鍵を壊されていたこと、彼に掛かれば壊さないで錠前を開けることくらい簡単にできる……

 年代物の天体望遠鏡が彼の琴線に触れた可能性は確かにあるけど、ミラに手を出している以上、彼の犯行じゃないって断言できる」

 

 リィンからすれば名を騙るならもう少し努力しろと呆れているのだが、エリオットは自信満々に言い切るリィンに思わず言葉を返していた。

 

「随分詳しいんだねリィン」

 

「ああ……まあいろいろあってな」

 

「でもそっか……リィンって《怪盗B》のファンだったんだ」

 

「………………は?」

 

「《怪盗B》の手口は大胆かつ華麗。一部には熱狂的なファンがいるらしいけど、リィンがそうだったなんて思いも――」

 

「エリオット……」

 

「ひっ!?」

 

 同い年らしくないリィンにようやく見つけた人間らしさに喜んだのも一瞬、エリオットはこれまでにない殺意を叩きつけられその場に竦み上がる。

 

「誰が……誰のファンだって?」

 

「あうあうあう……」

 

 微笑みを浮かべるリィンに感じるのは命の危機。

 言葉足らずだったとしても決して間違ってはいけないことがある。

 

「次にそんなことを言えば、どうなるか分かるな?」

 

「こくこくこく……」

 

 壊れた人形の様にエリオットは何度も頷く。

 

「《怪盗B》とはリベールで敵対したことがあるだけだ」

 

 それに数ヶ月前に来たブルブラン男爵がその正体だということは黙っておく。

 

「とにかくこの件は《怪盗B》の犯行の可能性は低いと思います……

 盗まれたのが天体望遠鏡というのはらしいですけど、そもそも一般人に気取られている時点で奴の可能性はありません」

 

「そうなんだ……でもどうして叔母さんは謝ったの?」

 

「ほら、荒らされたのはトワの部屋で盗まれたのは天体望遠鏡だったからトワに知らせない内に犯人を捕まえて欲しかったのよ……

 でも、来たのがトワだったから。本当にごめんなさい」

 

「そんなこと気にしなくていいのに……それより叔父さんとカイ君の姿が見えないのは」

 

「ああ、あの人は泥棒を追い払う時に腰を痛めちゃってね。今はお医者さんに診てもらいに行ってるよ。カイは……」

 

「ただいま」

 

 噂をすれば影というようにその子の名前を話題にしたら男の子が帰って来た。

 

「カイ君」

 

「あ、トワねーちゃん……」

 

 消沈した男の子はトワを見ると目に涙を浮かべる。

 

「ごめん……おれ……トワねーちゃんが大事にしている望遠鏡……取り戻せなくて……ぐす……」

 

「泣かないでカイ君……大丈夫。お祖父ちゃんの望遠鏡は私が取り戻すから」

 

「でも……」

 

「大丈夫。お姉ちゃんには頼もしい仲間もいるんだから」

 

 トワはカイに笑いかけて、リィン達に視線を向ける。

 

「特にリィン君は遊撃士の資格を持っている凄い子なんだよ」

 

 後輩を自慢するトワだが、彼女の意に反してマーサとカイはリィンに胡乱な眼差しを向ける。

 

「ちょっとトワ。こっちに来なさい」

 

「叔母さん?」

 

 手招きされたトワは首を傾げながらマーサに近付き、耳を寄せる。

 

「あの子、大丈夫なの?」

 

「あの子ってリィン君のこと?」

 

「トワは知らないのは無理もないけど、リィン・シュバルツァーって言ったら帝都で有名な――」

 

「フン……お前みたいなペテン師にトワねーちゃんはわたせねーかんな」

 

「え……ペテン師?」

 

 突然カイから向けられた罵倒の言葉にリィンは目を丸くする。

 

「カイ君っ!? それに叔母さんまで何を言ってるの?」

 

 慌ててトワがその場を取り成すが、帝都の市民の中では年末の御前試合においてリィンの噂は悪い方向へ尾ひれがついていた。

 

 

 

 

「うう……ごめんね。リィン君」

 

 ハーシェル雑貨店での聞き込みを終え、犯人の目撃情報を探しに歩きながらトワはリィンに謝った。

 

「良いですよ。聞けばあの人達が言いふらしたわけではないですから」

 

 噂とは良くも悪くも面白く、そして信じやすい出来事の方が伝わりやすい。

 帝国三強との試合、その中で《光の剣匠》を不意打ちして秒殺してしまったことで、彼のファンたちからの顰蹙を買ってしまったことも原因だろう。

 

「それよりも今は泥棒のことですが。ここまでの聞き込みによると怪しい四人組を見掛けたと証言がありましたけど……」

 

「ああ、白い貴族風の男に黒いスーツでサングラスの男も一緒だったらしいね」

 

「それから東方の着物みたいな服の女性もいたらしい」

 

「あと、フリルがたくさんついた女性の四人だね」

 

「…………………何だろう。凄く嫌な予感がする」

 

 目撃情報を聞くたびにリィンの中で嫌な予感が大きくなっていく。

 

「マーテル公園でその四人組の目撃情報は途切れているが、とにかくその公園を調べてみよう」

 

 そうして見つかったのは地下道に続く隠し扉。

 中に入って探索を続けると、そこには――

 

「ほう、よくぞこの場所を突き止めた。この《怪盗紳士》が褒めて遣わそう」

 

 白い貴族風の服に目元を仮面で覆い隠した男がリィン達を出迎えた。

 ただし、貴族風の服はサイズが合っていないのか、鍛え上げられた体によって突っ張っていた。

 

「ククク、わざわざこの《痩せ狼》の餌になりに来るとは命知らずな奴だ」

 

 黒いスーツにサングラスの痩せた男は獰猛な笑みを浮かべ両手にダガーを握ってリィン達を威嚇する。

 

「ふふ、大方若さゆえの蛮勇かしら? 良いわ。この《幻惑の鈴》が現実を教えて上げる」

 

 東方の着物を身に纏った女性が導力ライフルを肩に担いで舌なめずりする。

 

「リベールで王国軍を蹴散らしたこの《殲滅天使》の力、見せて上げる」

 

 そしてフリルがたくさんついたゴスロリ服の女が大剣を手に粋がる。

 

「あー」

 

 敵を前にしたのにリィンは思わず天井を仰いだ。

 

「《怪盗紳士》……《怪盗B》じゃなかったの?」

 

「ふっ……《怪盗B》は数ある名前の一つに過ぎん」

 

 聞き返したエリオットに《怪盗紳士》は自信満々に言い切る。

 

「リベールの王国軍を蹴散らした……まさか貴様たちは《結社》という組織の者達か!?」

 

 そんなリィンを他所に彼らの言葉を真に受けたラウラは緊張した様子で大剣を構える。

 

「ククク……俺達のことを知っているか……

 そうだ。二年前の《リベールの異変》で王国軍の雑魚共をちぎっては投げ、ちぎっては投げて壊滅させたのは俺達だ」

 

 自信満々に《痩せ狼》は言い切る。

 

「それよりあなたたちがお祖父ちゃんの望遠鏡を盗んだの!?」

 

「フフ……まさか憲兵隊ではなくあの店の者に追い付かれるなんて。だけど悪いわねお嬢ちゃん、ああいう骨董品は貴族様が良い金額で買ってくれるから返して上げるわけにはいかないの」

 

 激昂するのを抑えたトワの言葉に《幻惑の鈴》は妖艶な笑みを浮かべながら答える。

 

「お前達が結社……」

 

「ふふふ、貴方は私達の恐ろしさが理解できたようね……

 私たちの事を見なかったことにしてすぐに帰るなら見逃して上げるわよ」

 

 一人、身構えずに呆然とするリィンに《殲滅天使》は派手に大剣を床石に突き刺し、委縮させるように大きな音を立てて提案する。

 自信満々な四人の盗人たちにリィンが思ったことは一つ。

 

「こいつら自殺志願者なのか?」

 

「リ、リィン君?」

 

 盛大にため息を吐いて気力を低下させたリィンにトワが振り返りその名を呼ぶ。

 と、それまで粋がっていた泥棒達は揃って固まった。

 

「リィン……?」

 

「まさか……リィン・シュバルツァー?」

 

「ぎゃあああああああああああっ! 何で!? 何でこいつがここにいるのよっ!?」

 

 一瞬前まで威勢よく吠えていた泥棒達は一斉に壁際まで後退って悲鳴を上げる。

 

「リ……リィン?」

 

「……この者たちにいったい何をしたのだ?」

 

「…………まあ、色々と」

 

 彼らの反応に大まかな事情をリィンは察する。

 おそらく彼らは《リベールの異変》の時にリィンを始めとした遊撃士の首に掛けられた賞金目当てにやってきてリィン達が蹴散らした猟兵団の内の一つ。

 ブルブランに限らず、他の執行者達の真似を曲がりなりにもできているのは、あの時王国軍が彼らにやられる光景をどこかで見ていたからと説明がつく。

 

「ひいいいいっ!」

 

「謝るから、もう武器はないから殴らないでっ!」

 

「女神様っ! お助けをっ!」

 

「取り乱すんじゃあない!」

 

 異様に怯える三人に《怪盗紳士》は声を上げて一喝した。

 

「冷静に考えてみろっ!

 ここは帝国で、リベールの遊撃士だったリィン・シュバルツァーがこんなところにいるわけがないだろ!」

 

「お、親分っ!」

 

「それによく見たら赤毛も《死神》じゃないわ」

 

「フフフ、よくも脅かしてくれたわね」

 

 《怪盗紳士》の一喝により戦意を取り戻した泥棒達は我に返って武器を構え直す。

 

「だが、これはチャンスだ。リィン・シュバルツァーの偽物を倒してあの日のトラウマを乗り越えるチャンスを女神さまが授けてくれたに違いない!」

 

「おお! 言われてみれば。それにリィン・シュバルツァーの首を取ったと猟兵に返り咲けるっ!」

 

「貴方に恨みはないけど、リィン・シュバルツァーと同じ顔をしていた己を恨むのねっ!」

 

「ま、まあ……泣いて命乞いをするなら見逃して上げないこともないけど」

 

 先程の無様をなかったように振る舞う泥棒達にようやくラウラ達もリィンの気持ちを理解する。

 

「これがフィーと同じ猟兵なの?」

 

「何と言うか……哀れだな……

 というか、エリオット。これとフィーを比べてやるでない。流石に失礼だ」

 

「何でも良いけど、やるっていうなら私も相手になるよ。私だって怒っているんだからね」

 

 戦意を漲らせる元猟兵の泥棒達にトワ達もそれぞれの武器を握り締め――

 

「ドラグナーハザードッ!!」

 

 別の依頼課題により、トワ達とは別の入り口から地下道に入り手配魔獣を探していたアンゼリカ班の班長による怒りの一撃が泥棒達に背後から襲い掛かるのだった。

 

 

 

 




《会長の探し物》
エリオット
「それにしてもあの泥棒達、元猟兵だったみたいだけどリィンに凄い驚いていたね」

ラウラ
「ああ、《猟兵百人斬り》の異名は伊達ではないと言うことだろう」

リィン
「いや、斬ってないし。一人で戦ったわけじゃないから」

ラウラ
「百人と戦ったのは否定しないのだな」

リィン
「それはそうだけど、ラウラはあんなのを百人倒して誇れるのか?」

ラウラ
「それは……うむ……すまない」

リィン
「それよりも……」

エリオット
「うん……」

ラウラ
「ああ……」

トワ
「大丈夫だよ。確かに壊れちゃったけど、元々年代物の天体望遠鏡で壊れていたからそんな土下座して謝らなくても――」

アンゼリカ
「いいや、このアンゼリカ・ログナーの名に懸けて、その天体望遠鏡は必ず修理してみせるっ!」

エリオット
「天体望遠鏡の修理か……
 年代物だから新しく買った方が安く済むと思うけど、そういう問題じゃないよね?」

ラウラ
「うむ。しかし、ラッセル博士たちに頼めば何とかしてくれると思うが……アンゼリカ先輩も借金をすることになるのか?」

リィン
「ラウラ、嬉しそうだな」

ラウラ
「そ、そんなことないぞ」

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