(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

59 / 156
閃の軌跡で思ったこと。
前日とはいえ、国際会議が開かれるのに国境線の基地で軍事演習をするのはどうかと思いました。

そして蒼の騎神でオルキスタワーを強襲しなかったのは、貴族連合にとっての切り札であり、身元を誤魔化すことができないと考えたからでしょう。
決してクロウの学年が下がって特別実習への参加を余儀なくされてたから、ではないのでしょう。


御質問を一つ、章分けを勧められたのですが必要でしょうか?
活動報告の方に場を作りますので、良ければご意見を聞かせて下さい。





59話 旅行前日

 八月初旬。

 本格的な夏が始まる時期、帝都から帰還し、五日間の夏季休暇を明日に控えたリィンは旧校舎にいた。

 

「それで何か分かりましたかローゼリアさん?」

 

 ヴァリマールの顔を覗き込んでいたローゼリアはリィンの呼びかけに我に返る。

 

「はあ……全くよもやこのようなことが起きるとはな」

 

 小さく愚痴りながらローゼリアはヴァリマールから飛び降りる。

 

「リィンよ。ちょっとこっちに来るが良い」

 

 手招きをしてローゼリアはリィンを呼ぶと、そのまま屈ませて額を合わせる。

 

「ローゼリアさん?」

 

「抵抗せず、しばし待て……」

 

 一方的な言葉だがリィンは言われたまま、されるがままに任せる。

 

「……どうやら《灰》と《緋》の意識は《箱庭》の聖痕に紛れて何かと繋がってしまったようじゃの」

 

 リィンの中に感じる三つの力にローゼリアは顔をしかめる。

 

「御主……《箱庭》に何を入れている?」

 

 ローゼリアの質問にリィンは額を合わせたまま惚ける。

 

「何のことですか?」

 

「惚けるでない。《灰》と《緋》の力の受け皿になっている何かが存在しておる……

 今のこの騎神はヴァリマールであり、テスタ=ロッサでもある。本体は御主の《聖痕》の中にある何かと混ざり合っておるようじゃ」

 

 ローゼリアの指摘にリィンは心当たりがあった。

 特別実習の時にノルドで回収した《大地の至宝》の器。

 エリンの里から帰る寄り道で向かったブリオニア島で回収した《焔の至宝》の器。

 《鋼の至宝》の分体である騎神が干渉するとしたらその二つ以外は考えられない。

 

「答えられないか? まだ妾達のことが信用できないということか」

 

「いえ、そういうことじゃないんですけど」

 

 肩を竦めて額を離すローゼリアにリィンは何と説明すれば良いのか迷う。

 

「まあ良い。とりあえず要望通り、転移術式はこのクォーツに組み込んでやったぞ」

 

 ローゼリアはそれ以上の追及をやめ、作ったばかりのクォーツをリィンに渡す。

 

「ありがとうございます」

 

「それにしてもヴァリマールがこんな姿になってしまうとはのう」

 

 リィンにマスタークォーツを投げ渡したローゼリアは振り返ってヴァリマールを見上げて呟く。

 旧校舎の地下。

 元々ヴァリマールを安置していた場に膝を着いて座るその姿はかつてローゼリアが封印に立ち会った時とは見る影もない。

 意匠を凝らした装甲は溶けて固まったように、原型を留めていない。

 その姿は戦闘の激しさを物語っており、ローゼリアは驚きを通り越して呆れてしまう。

 

「自己修復で直せないことはないんですけど、ヴァリマールの意識がない状態ということで一応様子を見る事にしているんですけど」

 

「うぅむ……そんな機能はついてないはずなのだがのう」

 

 思わずローゼリアは唸る。

 騎神に自己修復機能があるのは確かだがそれは長い時間を掛けて行うものであり、機体のゼムリアストーンの合金を瞬間的に増殖させてするものではない。

 

「それよりも、魔女の方で何か分かりましたか?」

 

「いや、あれから色々調べてみたがそんなことについての記録は何も残っておらなんだ……

 やはりお主の推測通り、《黄昏の相克》は《黒》が造り出した儀式だろう」

 

 先祖たちの不始末とこれまでの自分の怠慢にローゼリアはため息を吐く。

 

「《黒》についても里には書き記した古文書は一つとして見つけることはできなかった……

 共同開発だったとは言え、他の騎神についてのものは残っていたというのにだ。ああ、これが頼まれておった他の騎神の資料じゃ」

 

 ローゼリアはリィンに古びた本を渡す。

 受け取ったリィンはその場で軽く流し読む。

 

「へえ……《蒼の騎神》は飛行能力に優れていて、《紫の騎神》は膂力に優れているんですか……

 こうして見ると騎神にも個性がちゃんとあるんですね」

 

「そこら辺は地精の趣味じゃの。ヴァリマールは一番最後に造られ手を加える暇もなく《鋼》の封印作業に移ったから素の機能しかないらしいが……

 この程度しか情報提供できなくてすまんのう」

 

「いえ、これだけでも十分です」

 

 全くの未知の敵と戦うことの大変さは《緋》と暗黒竜の戦いで身に染みた。

 ローゼリアが用意してくれた資料は多くはないが、《蒼》の奥の手など有益な情報がないわけではない。

 

「ところでリィンよ」

 

「何ですかローゼリアさん?」

 

「あれは……何をしておるのじゃ?」

 

 ヴァリマールの隣、天井から鎖で吊り下げられている魔煌兵だったものにローゼリアは視線を向ける。

 

「あれは第四層を攻略した時に試しとして用意しておいたオル・ガディアのはずじゃが……」

 

 かつてこの旧校舎を造る時にドライケルスと話し合って考えた思い出を頭に浮かべながらローゼリアは尋ねる。

 中世の錬金術師が騎神に対抗するために作り出した魔煌兵。

 そして旧校舎の試練に利用した魔煌兵は獅子戦役の頃にローゼリアが外部操作して《灰》と《銀》と並び立たせて戦わせたもの。

 弾避けや壁役程度に利用したものを修復して試練の守護者にしたのだが、ローゼリアの魔煌兵はヴァリマール以上に無残な状態だった。

 装甲は全て剥がされ、《核》にはいくつものケーブルが張りつけられて計測器に繋がれている。

 愛着があったわけではないのだが、その姿にローゼリアは複雑な気持ちになる。

 

「えっと……あまり気にしないで下さい」

 

 そんな彼女の事情を知らないリィンはそんな言葉で誤魔化す。

 

「そう言われてものう……」

 

 周りを見回しても誰もいない。それがいっそう不気味に思える。

 

「それよりもエマとセリーヌのことなんですけど、どうします?」

 

 ローゼリアを呼ぶ前にエマとセリーヌにもヴァリマールの診断を頼んだが、ローゼリア以上に何をして良いか分からずに謝らせてしまった二人のことを思い出しながら尋ねる。

 

「二人とも、魔女の使命を背負うにはまだまだ修行が足りんからのう……

 巡回魔女として最低限の水準を充たした途端にヴィータの奴を追うと出て行ったのだから仕方がないと言えば仕方がないことなのだが……」

 

 それ以上に目の前の規格外の少年が起動者になったことにローゼリアはため息を吐く。

 今回のヴァリマールの診断もリィンは最初エマ達に頼んだのだが、エマとセリーヌは何も分からないと白旗を上げてローゼリアを呼び出した。

 それも無理もない話である。

 長である自分でさえ、未知の領域のことに四苦八苦しているのに半人前がどうにかできる問題ではない。

 

「というか暗黒竜とエンド・オブ・ヴァーミリオンを単機で倒すとは、どこまで妾達を驚かせれば気が済むのじゃ?」

 

「暗黒竜はこちらの能力がうまく嵌ってくれたおかげです……

 《緋》に関してはアリアンロードさんならできたんじゃないですか?」

 

「…………まあ、今のあやつならできるだろうな」

 

 それを想像してローゼリアは頷く。

 250年前の私と一緒にするなと叫んで元気にグランドクロスをぶち込んでいる姿を容易に想像できてしまう。

 

「しかしいくら何でも至宝の力を騎神に下ろすのは反則ではないか?」

 

「そう言われても使えるものは全部使わないと《相克》を勝ち抜くなんてできませんよ。俺はただでさえ出遅れているんですから」

 

「まあリアンヌと戦うことを視野に入れたら、それくらいせんと勝てないと思うのは分かるがのう」

 

「ええ、だけど即興でプログラムを組んだせいか、それとも力に耐えられなかったのか……

 オーブに至宝の力は定着しなかったので造り直さないといけないんですよね。なかなか思う通りには行きませんよ」

 

「焦る気持ちは分かるが、無茶だけはするでないぞ」

 

 ずっと前を見据えるリィンにローゼリアは肩を竦めて忠告する。

 

「分かっています。だけど後二年しかないんです」

 

 拳を握り締めるリィンにローゼリアはため息を吐く。

 

 ――エマでは足を引っ張るだけのようじゃな……

 

 リィンとヴィータから聞かされた《黒》が引き起こそうとしている《黄昏》。

 ローゼリアはリィンの導き手としてエマを成長させるつもりだったが、それはリィンの覚悟を損なわせると考えを改める。

 実力の差はまだ良い。

 だが、姉を捕まえることが一番の目的になっているエマではリィンと向いている方向が違う。

 

「のうリィンよ。良かったら妾がそなたの“導き手”になってやろうか?」

 

「いえ、間に合ってます」

 

 ローゼリアの提案にリィンは即答した。

 

「ちょ!? せっかく魔女の長自らが“導き手”となると言っているのに即答で拒絶はあんまりではないか!?」

 

「そう言われても……目標は決まっているので今更“導き手”と言われても……

 それに具体的にローゼリアさんは何の役に立つんですか?」

 

「ほ……ほれ、今回の様に騎神の術式をいじって出力調整ができるぞ。妾が一緒に乗れば三割増しは固いのう」

 

「ヴァリマールの操縦席は一人用ですよ……

 まあローゼリアさんの身体の大きさなら膝の上に乗ってもらってというのもできそうですが」

 

「妾はそれで構わぬぞ……

 御主はどうもドライケルスに似たところがある……

 一人にするとどこまでも突き進んでしまいそうな危うさ。どれだけ妾達が振り回されたことか……

 《灰》の起動者だからといってそんなところまで似なくても良いと思うのだが」

 

「えっと……ドライケルス大帝と似ているなんて光栄です?」

 

「褒めとらん」

 

 困ったように誤魔化すリィンをローゼリアは半眼で睨む。

 

「それに本気でリアンヌに勝とうと思っているのなら、利用できるものは全て利用するのだろう?」

 

「それは……」

 

「妾も“呪い”という魔女の領分にも関わらず妾を頼ろうとしないリアンヌの阿呆には言いたいことがある……

 それに《鋼》となった焔の行く末を見届けるのは“聖獣”として使命であり、《黒》を作り出してしまった焔の眷属の長として――いやこれは言い訳だな」

 

 頭を振ってローゼリアは言い直す。

 

「“聖獣”として“魔女の長”としてよりも先にリアンヌとドライケルスの“友”として妾は戦いたいと思っておる」

 

「それがローゼリアさんの“根拠”ですか?」

 

「エマやヴィータが御主と先に友誼を深めていたのなら妾も裏方に徹していたかもしれんが、今ならそこまで遠慮しなくても良さそうであるからな」

 

 むしろ事あるごとに泣きつかれるくらいなら、その方が良いのではないかとさえ思う。

 

「まあ、今すぐ決めてくれとは言わん。だが考えてもらえるとありがたい」

 

「……分かりました」

 

 押し付けずに引いたローゼリアにリィンは頷く。

 

「失礼します」

 

 と、そこに第三者の声が響く。

 

「あら……ローゼリアさんも来ていたんですか?」

 

 旧校舎の広間に入って来たクレアはリィンと並んでいるローゼリアに目を丸くする。

 

「御主は確かクレアだったの。久しぶりじゃの」

 

 クレアの登場にローゼリアは話題を切り上げて応える。

 

「ええ、半年ぶりでしょうか……まだ話が途中ならば私は外で待ちますが」

 

「大丈夫です。もうそんな時間ですか? すみません、出迎えもせずに」

 

「いえ、私が少し早く到着しただけですから気にしないでください……

 ところでリィン君、ちゃんと休んでいるんですか?」

 

 慌てるリィンを宥め、クレアは持ち前の能力を駆使していろいろ察する。

 

「え、ええ……それはもちろん……」

 

「嘘ですね」

 

 リィンの答えをクレアは切り捨てて、その首根っこを掴む。

 

「え……クレアさん?」

 

「この時間なら学食がまだ開いていますね。話はそこでしましょう。ローゼリアさんも一緒にどうですか?」

 

「う……うむ、せっかくだから一緒に行かせてもらおうかの」

 

 クレアに妙な既視感を覚えながらローゼリアは頷く。

 そしてクレアに引きずられていくリィンを見てローゼリアは呟くのだった。

 

「案外エマとの相性は悪くないのかもしれんの」

 

 

 

 

 

「良いですか。まだリィン君は病み上がりなんですから、しっかり栄養を摂って休まないといけなんですよ……

 確かに《騎神》の事もあってやることは沢山あるかもしれませんが、それで体を壊したら元も子もないんですから」

 

「はい……すみません……」

 

 クレアの小言にリィンは肩を小さくして頭を下げる。

 その様子に学生食堂で談笑していた生徒達は珍しいものを見たと言わんばかりにざわめく。

 

「本当に反省していますか?」

 

「はい……」

 

 経験則から、解せないと思っていても反論せずリィンはクレアからのお叱りを黙って受け入れる。

 リィンの殊勝な態度にクレアはため息を吐き、訪ねた用件を切り出す。

 

「それで《騎神》の調査についてですが」

 

「はい。資料は作ってありますので後でお渡しします……

 ここで簡単に説明させてもらうとクレアさんには帝国の各地で地図に記した場所に用意した杭のオーブメントを地面に刺してもらうだけです」

 

「それだけで良いんですか?」

 

「はい。後は導力ネットを通じて、オーブメントが観測したデータはここに届く様に設定されていますから」

 

「魔女の秘術でも似たようなことはできるが、導力文明も随分と進んだものだのう」

 

 あまりに簡単な作業に拍子抜けしてしまうクレアに対して、ローゼリアは感心する。

 

「分かりました。それでは地図とオーブメントは後で受け取るとして、私からはこれを渡しておきます」

 

 そう言って鞄から取り出したのは二つのファイル。

 

「こちらが《通商会議》で行われる会議の議題についての内容をまとめたファイルになります……

 それからこちらがリィン君に頼まれた閣下の経歴についてまとめたファイルです」

 

「ありがとうございます」

 

 差し出されたファイルを受け取るリィンだが、クレアは手を離さずに質問を重ねる。

 

「ですが、どうして閣下の経歴の資料も?」

 

「護衛官が護衛対象について何も知らなかったら恥ですし、オズボーン宰相に恥をかかせることになりますから、深い意味はありません」

 

「本当にそうですか?」

 

「他にどんな理由があるんですか?」

 

 疑いの眼差しを向けてくるクレアにリィンは聞き返す。

 要求した資料は何も部外秘になるものではなく、調べれば誰もが知ることができるレベルのもの。

 出来る事なら部外秘の情報も調べたいのだが、今の忙しさからそこまで手を伸ばす気はない。

 

「…………明日から特別実習班でリベールに行くようですが、いつこの資料を読むつもりですか?」

 

「えっと……移動中の国際船の中で読むつもりですが?」

 

 妙なプレッシャーに慄きながらもリィンは素直に答える。

 

「…………リィン君、ちょっとリベールでの予定を教えてくれませんか?」

 

 リィンの言葉に含みを感じてクレアは尋ねる。

 

「ク、クレアさん? いったいどうして?」

 

「いいから教えてください」

 

 笑顔で凄まれ、リィンは渋々といった様子で答える。

 

「一日目はほぼ移動になります」

 

「そうですね……

 リベールの高速巡洋艦なら半日足らずでグランセルまで到着できますが、定期飛行船だとほぼ一日掛かりますね」

 

「到着したら、帝国大使館に顔を出してからアリシア女王陛下に謁見……

 その後はルーアンに用意してくれた宿泊施設に移動して一日目は終わりです」

 

「では二日目を教えてください」

 

「二日目からは俺だけみんなと別行動を取ります……

 朝一番定期船でツァイスに行って、マードック工房長にラッセル博士から預かった残留についての手紙と定期報告を提出する予定です……

 その後はレイストン基地に行って、カシウス准将と面会した後にヴァレリア湖に船を出してもらうことになっています」

 

「軍事基地に帝国の学生を……いえ、それは良いとして船……ですか? それはまたどうして?」

 

「ヴァレリア湖に沈んでいるリベル=アーク――浮遊都市の探索をしようかと考えています」

 

「浮遊都市は水の中に沈んでいるんですよね?」

 

「大丈夫です。中に入る当てがありますから……

 それが終わったらボース側の岸に降ろしてもらって、ボース市に行ってメイベル市長と面会してボースで一泊する予定です」

 

「…………三日目はどうするつもりですか?」

 

「まずラヴェンヌ村、古竜の被害があった村を見に行くつもりです。その後は霧降りの谷という所でその古竜を探すつもりです」

 

「む? レグナートに会ってどうするつもりじゃ?」

 

「実はリベールにいた時に俺は彼と会っていないんですよ……

 彼には“大崩壊”の時の話を聞いてみたいのと、あとはカシウス師兄のように一度腕試しに胸を貸してもらおうかと考えています」

 

「“聖獣”に腕試しとは」

 

「先日の“暗黒竜”の件がありますから。俺がもっとうまく立ち回れたら《テスタ=ロッサ》を使われずに治める事はできたはずです……

 あのサイズの魔獣と戦う経験はなかなかできませんから、ただまだ霧降りの谷にいるかは分かりませんが」

 

「………………それで四日目はどうするつもりですか?」

 

「四日目はロレントに行ってエステルさん達と会うつもりです……

 その後はルーアンに戻ってみんなと合流してからグランセルの祝賀会に行くつもりです。それで次の日はそのまま帰りの国際船に乗るだけですね」

 

 締めくくったリィンの予定にクレアとローゼリアは押し黙る。

 

「それで……移動中はこの資料を読み込むのか?」

 

 過密スケジュールに呆れながらローゼリアはテーブルの中央に置かれた薄くない二つのファイルを見下ろす。

 

「エマからは修学旅行の名目でほぼ遊びに行くと聞いていたのだが?」

 

「ええ、Ⅶ組のみんなには俺の挨拶回りに付き合わせるのは悪いですから、リベールでは完全に別行動ですね……

 みんなの予定は二日目にルーアンで海水浴をするつもりみたいですね」

 

「その予定を本当にこなすつもりなのか?」

 

「大丈夫です。兄弟子のアリオス師兄から効率の良い時間の使い方を実地で教わりましたから、何の問題もありません」

 

「問題しかありませんっ!」

 

 胸を張って言い張るリィンにクレアを思わず声を上げて反論していた。

 

「ク、クレアさん……?」

 

「リィン君……」

 

 クレアは冷笑を浮かべてリィンに言う。

 

「たしかサラ教官が引率という形で同行するんでしたよね? いますぐここに呼んで下さい」

 

「え……いや、でも……」

 

「呼んで下さい」

 

「…………はい」

 

 有無を言わせない圧力に屈してリィンは《ARCUS》を取り出すのだった。

 

 

 

 




クレアお姉ちゃん

サラ
「そうなのよね。リィンがあのスケジュールで動くつもりみたいだったからリベール旅行を《特別実習》にできなかったのよ」

クレア
「だったら諫めるべきじゃないんですか? 仮にも引率で同行するわけなんですから」

サラ
「リィンだって子供じゃないんだから私がとやかく言うことじゃないわよ」

クレア
「ですが、こんなスケジュールで動けば体を壊してしまいます」

サラ
「リィンはそんなに柔じゃないわよ……
 それにその程度のスケジュールなんてアリオスさんやクルツとか優秀な遊撃士なら割とやっているわよ……
 私だって現役の頃なんてそれはもう依頼をいくつも掛け持って分刻みに働きまくっていたし……
 ま、軍人のクレア大尉には分からないでしょうけど、遊撃士ならこれくらいできるわよ」

クレア
「サラさん、そんなあからさまな嘘をつかないでください」

サラ
「嘘じゃないわよ! あんた私が元A級遊撃士だって忘れてるんじゃない?」

クレア
「そういえばそうでしたね……
 人伝に聞いた生活態度からすっかり忘れていました」

サラ
「ぐぬぬ……だいたいワーカホリック振りであんたがリィンをどうこう言う資格はないでしょうがっ!
 特別実習の時、ミハイル大尉が愚痴っていたわよ」

クレア
「くっ……ミハイル兄さんは後で締めるとして……
 とにかくリィン君のスケジュールは再考するべきです」

サラ
「っていうかどうしてそこまで喰いついてくるのよ。前はもっとドライだったじゃない」

クレア
「べ、別に他意はありませんよ」


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。