(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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閃の軌跡で思ったこと。
原作では八月の特別実習の片割れはジュライでしたが、クロウを敵にするならレグラムよりもそっちを優先するべきだったんじゃないかと思いました。
まあ、そうなるとヴィクターさんの顔見せのタイミングとかが問題になりますが。

そしてジュライに行ったメンバーってアリサ、エリオット、マキアス、フィー、クロウと全員が射撃系の上、フィーだけしか前衛がいないというバランスの悪いパーティーだと思いました。







67話 特別実習八月

 

「と言うわけで、今月の《特別実習》は一週間繰り上げて今週末に行ってもらうことになったわ」

 

 実技テストを終えたその日のホームルーム、サラはⅦ組の一同を前にそう報告した。

 

「今週末なんてそんないきなり……」

 

「急に言われても……」

 

 突然の予定変更にマキアスとエリオットが不満をもらす。

 が、そんな不平不満は想定内だとサラは淀みなく言い返す。

 

「この程度の予定変更なんてかわいいものよ。大人になれば当日にだって急な仕事が入ったりするものよ」

 

「それはそうかもしれませんけど……」

 

 サラの言い分にマキアスは渋々と言った様子で引き下がる。

 

「ですが、この場にナイトハルト教官が同席しているのはどういう意味があるんでしょうか?」

 

「もしかして今回はナイトハルト教官が《特別実習》に参加するんですか?」

 

 帝都では先輩達と共に特別実習を行ったため、今回もその類なのではないかとアリサは考える。

 

「いや、俺がいるのはそちらの《特別実習》についてではない」

 

「そちらの?」

 

 含みのあるナイトハルトの言葉にアリサが首を傾げると、サラが説明の続きを話し始める。

 

「今月の《特別実習》は二回行うことになったのよ……

 一回目はさっきも言った通り、今週末の三日間。これまでと同じようにⅦ組で実習地に行って課題をこなしてもらうわ……

 そして二回目は最初に予定していた月末の日程でリィンを除いた一学年全体での《特別実習》として《ガレリア要塞》に行ってもらう事になったわ」

 

「ガレリア要塞……」

 

「共和国側に備える帝国正規軍の一大拠点……」

 

「しかも一学年全体って……」

 

「Ⅶ組には各クラスの取りまとめ役を行ってもらう」

 

 サラの説明を補足するようにナイトハルトが口を挟む。

 

「今では緩んでいるとは言えトールズ士官学院は軍学校だ。軍事施設の見学は当然のカリキュラムだ……

 当然、お前達にはあの場所ならではの特別なスケジュールをこなしてもらう」

 

「特別なスケジュール……」

 

「へー、なんだか面白そう!」

 

 脅すようなナイトハルトの言葉に慄くアリサとは対照的にミリアムは言葉通り、楽しそうに笑う。

 

「フフ、とにかく気を引き締めておきなさい。ガレリア要塞にはあたしも合流するつもりだから……

 かわいい生徒たちが、頭の固~い軍服のお兄さんにイジメられたりしないようにね」

 

「……自分はカリキュラムを逸脱した理不尽なしごきをする予定はない……

 どこかの気分屋な教官と一緒にしないでもらいたい」

 

「ふん、そこは柔軟って言って欲しいわね……

 あんたみたいな堅物がこの子達の担当教官になったら一週間も持たないわよ。ええ、それはもう……」

 

「む……」

 

 嫌味を返したかと思うと遠い目をするサラにナイトハルトは閉口する。

 が、慰めの言葉を掛けられるよりも早くサラはその思考を振り払って、説明を続ける。

 

「それじゃあガレリア要塞の特別実習の話はこのくらいにして、今週の《特別実習》の方の実習地を発表と行きましょうか」

 

 ガレリア要塞の実習から意識を切り替えさせて、サラは一同にプリントを配る。

 

 A班:ラウラ、マキアス、ユーシス、ガイウス、エマ、ミリアム。実習地:湖畔の町レグラム。

 B班:リィン、クリス、エリオット、アリサ、フィー。実習地:ノーザンブリア自治州ハリアスク。

 

「これって……」

 

 自分が割り当てられた班員、そして実習地にアリサは顔をしかめる。

 

「A班の《レグラム》は確かラウラの故郷だっけ?」

 

「ああ……クロイツェン州の南部に位置する湖畔の町だ。年中濃い霧に包まれ、多くの伝承が残る中世の古城などもある」

 

 フィーの疑問にラウラが頷いて軽く説明をする。

 

「B班のノーザンブリアって……あのノーザンブリアですか?」

 

「そのノーザンブリア以外にどこがあるのよ?」

 

 恐る恐る聞き返して来るマキアスにサラは苦笑して、肯定する。

 ノーザンブリア自治州。

 ゼムリア大陸北部に位置し、かつては『ノーザンブリア大公国』という大きな国家だった。

 しかし七耀歴1178年に“塩の杭”と呼ばれるアーティファクトの出現により、国土の半分が塩化して総人口の三分の一が失われた大惨事に見舞われた。

 さらに当時の大公が国外逃亡したことによりその権威は地に落ち、市民革命により大国は崩壊して、自治州となった。

 《塩の杭》は七耀教会の専門家によって封印・回収されたが、その傷痕は深く浸食こそ広がっていないが塩化した大地は不毛の大地として20年以上経った現在でもそれは変わっていない。

 

「そんな土地、しかも外国なのに《特別実習》を行っても大丈夫なんでしょうか?」

 

「《特別実習》って言っても今回は現地の遊撃士協会の手伝いをしてもらうことになっているわ……

 それに一応あたしも案内役として同行するから安心しなさい……

 ま、今までの《特別実習》とは違って観光半分でいられるのは困るけど、通商会議でも議題に上がるみたいだし、リィンとクリスは見ておく価値があるでしょう」

 

 努めておどけた口調でサラは補足説明を加える。

 

「それにしても“塩の杭”か……わずか三日でノーザンブリアの半分を塩に変えたと言うが」

 

「恐ろしいな。確か触れた物全てを塩に変える代物だったらしいが……」

 

 ユーシスの呟きにガイウスは頷き、ふと思ったことをそのまま口にする。

 

「やはりリィンでも触れたら塩にされてしまうのだろうか?」

 

「ガイウスさん、いくらリィンさんでも流石に――」

 

「ああ、あれはきつかったな」

 

 ガイウスの呟きにエマが苦笑を浮かべて否定しようとした言葉は当の本人の言葉によって遮られた。

 

「え…………え……?」

 

「体の芯から塩に変わって、痛みもないのに体が崩れて行く感覚……正直二度と体験したくないよ」

 

 とはいうものの、リィンの中には二度“塩の杭”に刺された記憶が存在している。

 一度目はカンパネルラがレプリカと称するものを刺された時。

 二度目はワイスマンの記憶で矢に加工したオリジナルを突き立てられた時。

 後者に至っては、本当に絶命した記憶なのでリィンとしては極力思い出したくない事柄なのである。

 

「リィンさん……まさか……」

 

「あれ? もしかしてあの時のことは本に書かれていないのか?」

 

 確かめるようにクリスに振り返るが、彼は首を横に振って否定する。

 どうやら検閲対象になったのか、例の本では事実と異なる描写がされているらしい。

 それに気付き、リィンは失言だったと察するが、すでに時は遅くⅦ組一同からはドン引きした眼差しが送られる。

 

「ちょっと待ちなさいリィン! “塩の杭”に刺された経緯はともかくどうして生きてるのよっ!」

 

「それはまあ《鬼の力》のおかげです。それに刺されたのはレプリカでしたからオリジナルと比べて塩化能力は低かったですよ」

 

「そういう問題じゃない!」

 

 オリジナルと比較できていることに気付かずサラは吠える。

 

「じゃあ何? もしかしてあんたには今も塩化した不毛の大地を元に戻せるって言うの!?」

 

「それは試してみないと分かりません」

 

 リィンの答えにサラは口を噤み、直後大人であること、教官であること、それらのプライドをかなぐり捨ててその場で土下座した。

 

「お願いします。ノーザンブリアを救ってください」

 

「なっ!? サラ教官!?」

 

「あたしにできることは何でもするわ。だから――」

 

「気持ちは分かりますが、落ち着いてください」

 

 真摯に土下座するサラ。そしてⅦ組とナイトハルトの視線に居たたまれなくなったリィンは土下座をやめるように説得する。

 頑なに土下座をやめないサラを説得するのだが、ホームルームの時間が終わっても土下座を続けるサラを見兼ねてナイトハルトが呼びに行ったベアトリクス教官の雷が落ちるまでリィンは針の筵だった。

 

 

 

 

 

 

 クロイツェン州。

 夜のルナリア公園最奥に彼らは集まっていた。

 

「やっぱりクロスベルに行くのは俺だろうな」

 

 傷面の巨漢――《V》はその話し合いに自分こそがと名乗りを上げる。

 

「どうやら奴は護衛に“赤い星座”を雇ったらしい。それにあのリィン・シュバルツァーも奴の護衛に駆り出されているらしいからな」

 

「しかし、捨石になる可能性を考えたら戦闘力が低い私が行くべきだろう」

 

 《V》の提案に《G》が異を唱える。

 

「それに君たちは私と違って直接引き金を引きたいのではなかったのかな?」

 

「それは……」

 

「否定はしないわ」

 

 《G》の指摘に《V》と《S》は口ごもる。

 

「それに帝都での汚名を返上するという意味でも私に譲ってもらえないだろうか?」

 

「だが、あんたにはまだ《笛》が残っている。それはどうするつもりだ?」

 

「《笛》は《S》、君に譲ろう。元七耀教会のシスターなら私よりもうまく使えるはずだ」

 

「あら良いの?」

 

 差し出された《降魔の笛》を《S》は何のためらいもなく受け取る。

 

「それに《C》の話ではリィン・シュバルツァーは私を目の仇にしているそうじゃないか……

 ならばこそ奴等の目を引くと言う意味でも私が適任であり、合理的なはずだ。我らの目的を達成するためにもな」

 

「あんた……」

 

「……まったく。生真面目すぎるでしょう」

 

 自分の死を厭わない覚悟を見せる《G》に二人は感銘を受けたかのように言葉を失う。

 

「フッ……君たちも似たようなものだろう。そうでなければ、こんな闘争にわざわざ身を投じてはいまい」

 

「フフ、そうね」

 

「クク、違いねぇ」

 

 《G》の指摘に二人は何処か誇らしげに笑みを浮かべて頷く。

 そこに新たな声が増える。

 

「――揃っているな」

 

「同志《C》」

 

「来たわね、リーダー」

 

「これで全員揃ったかよ」

 

 仮面の男は自分を迎える三人を見渡して続ける。

 

「同志たちよ、よくぞ集った。既に我らは走り出し、止まる事も、顧みることもない。求めるのは“結果”のみだ」

 

「同意する」

 

「異議ナシね」

 

「言わずもがなだぜ」

 

 《C》の言葉に三人は一様に頷く。

 

「その上で、あえて聞こう……同志《G》。本当にいいのだな?」

 

「フッ……」

 

 呼ばれた《G》は満足そうな笑みを浮かべる。

 

「私の思想と理念は《解放戦線》に息づいている……

 ならば、例えクロスベルでこの身が果てようとも構わない。あの男がもたらすであろう恐るべき反理想社会の到来……

 誰かが食い止められれば我らの勝利となるのだから」

 

「そうか……だが、何か策はあるのか? それがなければ捨石にすらなれないぞ」

 

「それについては考えている……

 所詮は子供、君の情報が確かならまだ人を殺したこともない臆病者。己の手を汚す覚悟もない相手ならこの命を盾に使えばいい……

 それこそ、この体に爆弾を撒きつけた特攻ならば、奴もあの男も同時に討つことが出来るだろうさ」

 

「そこまでの覚悟か……」

 

 命を捨てる《G》の覚悟を《C》は認める。

 

「分かった。女神の――いや、悪魔の加護を……

 事が成ったら四人で祝杯を上げるとしよう。願わくば帝都ヘイムダルでな」

 

「ああ……」

 

「そうね」

 

「ふ……」

 

 《C》の軽口の提案に三人はあり得ないと分かっていても頷く。

 そこには確かな絆があった。

 例え他人からどんな罵りを受けても、そこにいるのは同じ志を持った仲間。

 思えばその付き合いも長くなったと《C》は仮面の下で苦笑をして――

 

「おや、邪魔をしてしまったかな?」

 

 その輪の中に無遠慮な言葉が割って入って来た。

 

「アルベリヒ……カイエン公の相談役が何の用だ?」

 

「おやおや、そう邪険にしないでもらいたいな……折角君たちに耳寄りな情報を持ってきて上げたというのに」

 

「あら、何かしら?」

 

「《C》もそんな怖い声を出すなって」

 

「ふむ……クロスベルに行くこのタイミングで持ってくるとは重要そうな話のようだ」

 

 すんなりとアルベリヒの事を受け入れた三人に《C》は仮面の下で表情を曇らせる。

 彼には“アレ”の整備について日頃から世話になっている。

 “魔女”からも決してこの男には気を許すなと言われている。

 もっともそんな忠告がなかったとしても、《C》はアルベリヒという男が苦手だった。

 

「ふふ、リーダーはやはり私の事を認めてくれてないようだ」

 

「良いから用件を言え」

 

 粗暴な返答にアルベリヒは嘆かわしいと肩を竦め、それを彼らにもたらした。

 

「とある筋からの確定情報なのだが、リィン・シュバルツァー。彼はギリアス・オズボーンの実子だそうだ」

 

 それが告げられた瞬間、自然公園の空気が変わった。

 四人が四人共黙り込み、アルベリヒがもたらした新情報を吟味して呑み込む。

 

「ああ、そうか……そういうことかよ」

 

 その呟きは他の三人と同じ気持ちを表したものだった。

 

「フフ……気力が充実したようでなによりだ……

 ところでリーダー。一つ提案があるのだが、手すきの者を集めてノーザンブリアに行ってくれないかな?」

 

「ノーザンブリアだと?」

 

「そこにある“とある残留物”を取って来てほしい。それを使えば君の“アレ”の武具を強化できる……

 彼を、ひいてはあの男を確実に殺すために役立つだろう」

 

「良いだろう……《S》《V》……」

 

「おうよ。どうせ仕込みの大半はもう済んでいるんだ。構わねえぜ」

 

「そうね。あの男を確実に煉獄に叩き落とすためならその程度の労力は厭わないわ」

 

「やれやれ、私はこれからクロスベル入りすると言うのに仲間外れか」

 

 呼ばれなかった《G》は残念だと言わんばかりに肩を竦める。

 

「それで我らは何を取って来ればいい?」

 

 そう返す《C》の頭にはアルベリヒへの嫌悪はなくなっていた。

 それが彼らが望んだ女神の加護ではない、悪魔の加護だということに誰も気付くことはなかった。

 

 

 






ノーザンブリア復興計画
サラ
「それでどうしてノーザンブリアを助けてくれないのよ?」

リィン
「理由はいくつかあります……
 まず最初に自分のプランは全部机上の空論でしかない事、現地に行って何が原因なのかそれを確かめないと行動には移せません……
 それに偉そうなことを言っていますが、実際はできない可能性だってありますし」

サラ
「それは確かに……」

リィン
「それから個人的な理由として無償の奇蹟を振り撒くことを戒めているからです……
 ただ求められたからと願いを叶えたら“至宝”の悲劇を繰り返すだけです」

サラ
「そうかもしれないけど……だけど……」

リィン
「安心してください。俺も本当に放置するつもりはありません……
 オリヴァルト皇子にはすでに俺にできることは話してあるので、国家間の交渉はあの人に任せるつもりです」

サラ
「それなら良いけど」

リィン
「あと……言いにくいことなんですが、俺自身あまりノーザンブリアに良い印象を持っていないんです……
 サラさんも覚えていると思いますが、“北の猟兵”には何度も狙われましたから」

サラ
「…………そういえば、あいつらって“あの子”を殺す依頼を引き受けてたわね」

リィン
「ええ、それに《導力停止現象》の時も随分と暴れていたみたいですね……
 彼らの境遇には同情しますし、ノーザンブリアの全ての人間がああではないと分かっています……
 だけどルフィナさんが言うには、大義名分を掲げている集団は往々にその理由に酔っている場合が強いそうです……
 ぽっと出の俺が、ノーザンブリアの問題を解決した場合、その大義名分を奪われたと逆恨みをしてくるかもしれないと言われたんです」

サラ
「うわ……否定できない」

リィン
「それから――」

サラ
「まだあるの!?」

リィン
「ノーザンブリアってワイスマンの出身地なんですよね」

サラ
「その風評被害はやめて!」




お土産
リィン
「ラウラ、レグラムに行くならこれを子爵閣下に返しておいてもらえるか?」

ラウラ
「それは構わぬが……何やら見覚えのあるトランクケースだな?
 それにこの重さ。まさか“宝剣ガランシャール”か?」

リィン
「ああ、ちょっとイオと子爵閣下が手合わせをした時に刃毀れしてしまってそれを直したんだ」

ラウラ
「むぅ……あの純白だった美しい白い刀身が……ほのかな陽の色の色をまとい表面が揺らいで見える……
 これはこれで美しいがそれ以上に以前よりも凄みを感じる……クリスのセプチウムの武具とは違うがこれはいったい?」

リィン
「“暗黒時代”にゼムリアストーンと肩を並べて存在していた“ヒイロカネ”っていう金属だ……
 高い生命力を持つ竜種はこの金属で作った武器じゃないと倒せなかったって話らしい。さしずめ“屠竜剣ガランシャール”とでも言えば良いのかな?」

ラウラ
「そんな金属をどうやって?」

リィン
「それはイオが“グラン=シャリネ”三本分のセピスを――いや、気にしないでくれ」

ラウラ
「いや、待ってくれリィン。まさか父上もリィンに借金を――」

リィン
「そうじゃないから落ち着いてくれ。これはあくまでもイオの調子を確かめるためのものだからミラは取ったりしないから」

ラウラ
「しかし“グラン=シャリネ”三本分とはつまり……
 それはつまり“ローゼンベルク人形”が一つ、二つ……たくさん……がくがくぶるぶる」

リィン
「落ち着くんだラウラ。それ以上考えちゃダメだ」




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