(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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閃の軌跡Ⅳで思ったこと
千の陽炎にノーザンブリアは参加してはいけないだろと思いましたね。
不本意な併合だったとはいえ、帝国の資本でそれまで見通しがまるでなかった復興の道筋が立って、塩化現象の除去まで具体的な計画もされていた。
なのに千の陽炎に参加して、その一方で世界大戦後は帝国の帰属を望むとか面の皮が厚すぎないかと思いました。

というか調べたらラインフォルトが塩化除去を取り仕切っているらしいですね。どんな方法なんでしょう?




68話 塩の大地Ⅰ

 

 

 

 ノルドよりも遠い実習地ということもあり、Ⅶ組B班は前日の夜行列車でノーザンブリア州都の国境線となるドニエプル門から首都への移動はそのまま徒歩による行軍となった。

 

「地図で知っていましたけど、ノーザンブリアの首都まで鉄道は整備されてないんですね」

 

 クリスの質問にサラが先頭を歩きながら答える。

 

「十年くらい前に帝国からジュライに鉄道を伸ばす話に便乗してハリアスクにもって話はあったのよ……

 だけど今も残っている塩域に鉄道を敷くことはできなかったのよ」

 

「それはどうして?」

 

「理由はいくつかあるわ……

 鉄道に限らず、塩化した大地は建物を建てることができないのよ……

 地盤からしてダメになっているっていうのもあるけど、塩自体が特殊で鉄とかの経年劣化がとにかく早いのよ……

 だから鉄道網を敷くことはできなかったのよ」

 

「“塩の杭”の影響は26年前の話なんですよね?

 その影響が今でも続いているのはおかしくないですか?」

 

「んー……どういう意味?」

 

「気を悪くしないでくださいよ……」

 

 そう断ってからクリスは自分の考えを口にする。

 

「当時の混乱や国土の消失により国民の半数が亡くなっているんです……

 その後の貧窮した生活事情でさらに犠牲者は増えていたそうですし、その事件を生き残ったノーザンブリアの人間全てが先の見えない国に留まっているとは考えづらいんです……

 悪い言い方をすれば淘汰され、正常な土地に住める人間の数は間引きされて、当時の人口よりも今のノーザンブリアの人口は更に低くなっています」

 

「本当に嫌な言い方ね……それで?」

 

「すみません。ただ今の正常な国土に対してノーザンブリアの人口は決して飽和し過ぎているとは思えないんです」

 

「そうね……まず基本的にノーザンブリアでは作物はほとんど育たないのよ……

 風は常に塩を含んだ風だからとにかく農作業には向かないし、さっきの理由で施設一つ建てるのも苦労しているのよ」

 

「でも26年ですよ。それだけの時間があったのに経済対策の一つも立てずに未だに猟兵の稼ぎに頼っていると言うのはどう考えても健全ではないと思います」

 

「経済対策ね……」

 

「先日サラ教官はノーザンブリア産のお酒を買っていましたよね?

 お酒を造る余裕ができたなら、どうしてまだ猟兵で外貨を稼がないといけないんですか?」

 

「あれはスピリタスだから作れるのよ」

 

 踏み込んで来た質問にサラは苦笑して答えを教える。

 

「そうなんですか?」

 

「さっきは農作物は育たないって言ったけど、全く育たないわけじゃないの

 ただ土地の影響もあって奇蹟的に実ってもだいたい塩味になるのよ……

 だけどスピリタスは何度も蒸留して作るからその工程で塩分を取り除けるってわけ」

 

「へえ……そうだったんですか……すみません。変なこと言って」

 

「良いわよ。そういう疑問を持つのは悪いことじゃないから」

 

 そういえば戦うこと、ミラを稼ぐことばかりを意識して故郷が何をしているのか気にも留めたことはなかった。

 26年掛けても一向に進まない復興作業。

 食べ物に困っていることは常だが、未だにノーザンブリアを蝕む“塩化現象”についても改善の計画についてはサラは聞いたことはなかった。

 

「…………例えばクリスならどんな経済対策が思いつく?」

 

 誤魔化す様にサラは質問に質問を返す。

 

「え…………それは……“塩”を外国に売るって言うのはどうでしょうか?」

 

「いや、ないわー」

 

 逡巡して出て来た回答にサラは呆れて否定する。

 

「そうですか? なんかアーティファクト由来の“塩”なんですから霊験あらたかなありがたい“塩”になると思うんですけど?

 別に毒ってわけじゃないですよね?」

 

「そうかもしれないけど、クリスは知り合いだった人間の“塩”を売り物にできるの? 売り物にされて食べたいと思う?」

 

「あ……すみません」

 

 失言だったと気付いてクリスは頭を下げる。

 

「でも悪くない着眼点ね。ノーザンブリア出身にはできない発想よ」

 

 サラはクリスの成長に笑みをこぼす。

 

 ――入学したばかりは浮かれた皇子様だったけど、随分逞しくなったものね……

 

 ノーザンブリアの情勢もこの数日でそれなりに予習して来たのだろう。

 それにサラの酒のことに気付くなど、目端も効くようになっていて流石はオリヴァルト皇子の弟だと感心する。

 

「ねえ、サラ。ノーザンブリアといったら“北の猟兵”の本拠地だけどリィンが入っても大丈夫なの?」

 

「何よフィー、リィンの心配をしてるの?」

 

 話しかけて来たフィーにも同様のものをサラは感じる。

 

「別にそんなことないけど、リィンはリベールで“北の猟兵”ともやり合ったんでしょ? その時の遺恨はないのかなって思っただけ」

 

「大丈夫よ。“北の猟兵”はほとんどノーザンブリアに帰って来ないし、あいつらだって依頼もなしに喧嘩を売るにはリィンは割に合わない相手だって分かっているはずよ」

 

 リベールでのリィンが行ったとされる“猟兵百人斬り”。その直後に死亡したことになったこともあり、猟兵界ではある種の伝説のようにリィンの存在は祭り上げられた。

 そう祭り上げたのは他でもない“北の猟兵”。

 彼らはリィンの首を討ち取れず彼が死んだと報じられたことを良いことに、リィンから二度も生き残った猟兵団として宣伝して知名度を上げる事に成功した。

 さらに言えば、その事件を切っ掛けに解散した猟兵団も多く、競合相手を排除してくれたという意味でも“北の猟兵”は総じて利益を得ている。

 だから“北の猟兵”には今更リィンを襲う理由はない。

 サラはそう思っていた。

 

 

 

 

 

 首都ハリアスクに近付くにつれて景色には白が混じり始める。

 

「まるで雪化粧みたいだけど、これが全部塩なのか」

 

「ええ……久しぶりに見たけど、変わらないわねこの景色は」

 

 リィンの呟きにサラは感慨深くその光景を眺め、ため息を吐く。

 

「綺麗ですけど……あまり言わない方が良いんですよね」

 

 それは幻想的な光景だが、物悲しさを秘めた寂寥感に胸を締め付けられる。

 

「そこまで気を使わなくて良いわよ。一応こんな光景だからこそ観光客だって完全にいなくなったわけじゃないんだから」

 

 サラにとっては物心着いた時からそうだった光景。

 以前を知らないサラにはむしろリィンが気遣った機微を感じる側ではないことに少し寂しさを感じてしまう。

 

「とはいえ、治安はあまり良くないからスリや置引きには気を付けなさい……特にへばっている二人はね」

 

「そ、そんなこと言われても……」

 

「五時間も歩き通しじゃないですか……」

 

「ふふ、何言ってるの。宿に荷物を置いたら早速今日の《特別実習》を始めてもらうわよ」

 

 息も絶え絶えに疲れ切っているアリサとエリオットにサラは馴染みの封筒を見せびらかす。

 その言葉に二人は言葉を失うのだった。

 

 

 

 

 

 元国家元首バルムント大公邸。

 そこは今、市長邸として装いを新たにしてサラ達を受け入れた。

 元公国軍のバレスタイン大佐の義娘であるサラは市長を始めとした議員たちが勢揃いする形で歓待を受けることになり、サラはリィン達に特別実習の封筒を渡して別行動となった。

 

「それじゃあ確認しよう」

 

 受け取った封筒を開けて、馴染みに用紙をクリスは読み上げる。

 

「一つ目の必須課題はレミフェリア方面の街道の安全確保だね」

 

「安全確保?」

 

 オウム返しに聞き返すアリサにクリスは頷いて続ける。

 

「明日僕達が炊き出しの手伝いをすることになっている遊撃士の輸送車両のための経路確保だね……

 ノーザンブリアの魔獣は気性が荒く飢餓状態に陥りやすいせいで、導力灯を設置しても魔獣除けの作用よりも結晶回路の誘引性が勝って、設置しても壊されてしまうらしい……

 だから定期的に周囲の魔獣は間引く必要があるみたいなんだ」

 

「魔獣退治なら気は楽だね。他には?」

 

 魔獣除けが意味をなしていないことにそんなこともあるのかと頷きながら、フィーは続きを促す。

 次の用紙を見てクリスは顔をしかめた。

 

「どうしたのクリス?」

 

 固まったクリスをいぶかしみエリオットが声をかける。

 

「いや……二つ目の課題は旧ノーザンブリア基地に赴いて、少年兵たちとの模擬戦闘をすること……今日の課題はこの二つだけみたい」

 

「そう来たか」

 

 クリスが読み上げた内容にリィンは唸り、そんな彼にアリサが聞き返す。

 

「そう来たかってどういうこと?」

 

「ある意味、ノーザンブリアの現状が一番良く分かる課題だってことだよ」

 

 そう答えを濁すリィンにアリサとエリオットは揃って首を傾げた。

 

 

 

 

 

 魔獣の間引きと言っても、ハリアスクからレミフェリア方面の国境線までと無茶な範囲ではなく、これまでの特別実習の様にその範囲はおよそ200セルジュ内と定められていた。

 整備された街道はあるが、そこを我が物顔で居座る魔獣たちの姿はリィン達にとって新鮮に映る。

 

「魔獣が多いみたいだけど、あれは食べないのかな?」

 

「ノーザンブリア産の魔獣の肉は“塩化”の影響があって食べられたものじゃないらしいな」

 

 フィーの呟きにリィンは予習して得た知識で答える。

 

「何だか理不尽だね……」

 

 戦闘が一段落して一息吐いたエリオットがその会話に嘆きをもらす。

 

「それだけ“塩の杭”の傷痕が深いってことだろう」

 

 倒したばかりの魔獣が消滅し、残されたセピスをリィンは拾って観察する。

 

「文献にあった通りセピスにまで塩が混じっているんだな」

 

 軽く力を入れれば普段以上に脆いセピスにリィンは溜息を吐く。

 

「何か分かった?」

 

「ここだけだと何とも言えない……できれば国が指定している禁足地の特異点を調べたいんだけど、そこは後でサラ教官と相談だろうな」

 

 元凶の“塩の杭”は教会によって回収され、“塩化”の浸食は治まったものの完全に停まったわけではない。

 禁足地というのは踏み入れば人体が“塩化”してしまう危険地域のこと。

 これは教会関係者でも長く耐えられるかどうかだけで、26年経った今でもその中心点に何があるのかは調査されていない。

 それがどんなものなのか分かれば、その対処手段も講じることができるようになる。

 

「とりあえず今日はひたすら魔獣退治かな……と、今度のは大きいね。あれは指定魔獣かな?」

 

 会話を切り上げて、岩と見間違える程の大きさの魔獣をフィーは発見する。

 

「硬い魔獣だね。ならクリスのブリランテの出番かな?」

 

「そうだね。まずは僕が崩すから、みんなは――」

 

「ちょっと待ってもらえるかしら」

 

 フィーの提案に頷き、クリスが簡単に方針を決めたところでアリサが待ったを掛ける。

 

「先駆けは私にやらせてもらえないかしら?」

 

「アリサが? でもアリサの弓じゃ。あの甲殻は貫けないと思うけど?」

 

「ふふん、実は新兵器があるのよ。本当はこの前の実技テストの時に使うつもりだったんだけどね」

 

 鼻を鳴らしてアリサは指を鳴らして、その名を呼ぶ。

 

「出て来なさい。ダインスレイヴ」

 

 それを合図にアリサの背後に戦術殻が現れる。

 

「え……それって授業で使っている戦術殻だよね?」

 

「ええ、だけどオジ様からもらった特別製よ。ダインスレイヴ、セットアップ」

 

 どこか誇らしげにアリサは答えると、指示を出して戦闘準備をさせる。

 アガートラムのように機械的な返事をするわけではなく、元々そう造られていたように戦術殻は変形し巨大なボウガンのような形へと変形する。

 

「いくわよ」

 

 戦術殻が現れると同時に背中に装備された五本の鉄杭の内の一本をアリサは引き抜き、ボウガンに装填して、弓の様に構える。

 ボウガンが作動して、内部で何かが回転するモーター音が響く。

 

「これが私の切り札よっ! 砕けなさいっ! エレトリックアローッ!!」

 

 引き金が引かれ、導力によって発生された超磁力によって加速させられた鉄杭が矢として解き放たれる。

 電磁加速され赤熱した矢は音を置き去りにして、一瞬で大型魔獣に着弾――魔獣はその衝撃に消し飛んだ。

 貫通した矢はその先の岩場を爆散させてた。

 

「ふふん、どうよ」

 

 得意気にアリサは振り返る。

 しかし返事はなく、その武器のあまりの威力に言葉を失っている仲間たち――リィンの驚いている顔にアリサは満足そうに笑うのだった。

 

 

 

 




その頃のⅦ組A班

ラウラ
「ただいま戻りました父上」

ヴィクター
「うむ。先日顔を合わせたばかりだが、歓迎しようⅦ組諸君……
 ところでリィン君はいないのだな」

ユーシス
「ええ、リィンはB班として昨日の内にノーザンブリアに向かっています」

ヴィクター
「そうか……リィン君は別の班だったか」

ラウラ
「むう……そのリィンから父上に渡して欲しいと預かっているものがあります……
 というか我が家の家宝を気軽にリィンに預けるのはどうかと思うのですが父上」

ヴィクター
「はは、そう硬いことを言うな……
 せっかくイオ殿が暗黒時代の技術を使ってガランシャールを精錬してくれると言うのだから乗らない理由はないだろ?」

ラウラ
「リィンから渡された時から気になっていたんですが、父上はイオと戦ったんですか?
 彼女は力をなくして今は戦う力はないと聞いていたんですが、どういうことでしょうか?」

ヴィクター
「む……それは話せないのだ」

ラウラ
「何故ですか?」

ヴィクター
「リィン君の力に関わる事でな。私の口から勝手に言える事ではない」

ラウラ
「どうしてもですか?」

ヴィクター
「どうしてもだ」

ラウラ
「むー……そうですか。それなら私にも考えがあります」

エマ
「ラウラさん?」

ガイウス
「何をするつもりだ?」

ラウラ
「それでは特別実習があるのでこれで失礼します。子爵閣下」

ミリアム
「あはは、オジサン面白い顔していたけど良いの?」

ラウラ
「ふん、良いんだこれくらいっ! それよりも早く課題を終わらせよう」

マキアス
「あ、ああ……」

 *

ヴィクター
「娘が父上と呼んでくれなくなった……」


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