(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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前回のNG

アプリリス
「ほう、喚くことなく魔弾の力を受け入れるとは……
 その姿……さしずめ……さじずめ……むぅ」

リィン
「サラ教官……」

クリス
「くっ……何て痛々しい姿に」

アリサ
「私は何も見ていない。私は何も見ていない。私は何も見ていない」

フィー
「さしずめ“まじかるサリー”? 痛いね」

エリオット
「フィー、はっきり言い過ぎだよ」

サラ
「よし……殺す」






71話 塩の大地Ⅳ

「ここがダンデリオンか……」

 

 昼下がりのハリアスクの街に白髪の少年が一人いた。

 

「クリス達が無事に辿りつけていると良いけど」

 

 基地から脱出した際に倒れて意識を失ったサラをリィンはクリス達に任せてハリアスク駐屯の憲兵隊に陽動を行った。

 黒髪のまま身体能力を抑えて家屋の屋根を駆け回り、帝国側への門へと目立つように追い駆け回されて、頃合いを見て撒き、髪と目の色を力を使って変えてマントを羽織って服装を簡単に隠して今に至る。

 

「体は……大丈夫か……」

 

 イオから聞いた《鬼の力》の副作用に関しては今のところ目に見えた変化はない。

 そもそも自分の《鬼の力》は純粋な《黒》の力ではなくなっているのだから取り越し苦労の可能性の方もあるだろう。

 

「それにしても……」

 

 駆け回っていた時に見た街の様子をリィンは思い出す。

 

「ここはクロスベルで言う所の旧市街だろうか?」

 

 昨日歩いた中央通りから離れたその場所はお世辞にも管理が行き届いているとは言えない家屋が並んでいた。

 中央の街並みはそれなりに整備されているというのに、荒れるがままにされたその光景はノーザンブリアの貧富の差を如実に表していた。

 

「ダンデリオンは……中央広場にあるって言ってたな」

 

 後ろ髪を引かれる気持ちを抑えながらリィンは歩き出す。

 

「さて、大通りに出たけど――ん……?」

 

「あー……」

 

 リィンは前から舌足らずな声を上げて近付いて来る女の子に首を傾げた。

 

「……ん」

 

 女の子は手に下げた籠の中から一輪の花をリィンに向けて差し出した。

 

「…………どうしたのかなお嬢ちゃん? お花を買って欲しいのかい?」

 

 言葉を発せずに訴える眼差しにリィンは胸の痛みを感じるが押し隠して女の子の意を汲む。

 

「ん……」

 

 リィンの言葉に女の子はその通りだと頷く。

 

「いいよ。いくらだい?」

 

「んっ……」

 

 女の子は嬉しそうに顔を綻ばせながら籠を掛けた手を開いて見せる。

 

「5ミラだね……はい」

 

 ミラと交換する形でリィンは花を受け取る。

 

「じー……」

 

 それで終わり、すぐに離れて行くと思いきや女の子はリィンをじっと見つめると徐にマントを掴んで引っ張った。

 

「どうしたんだい?」

 

「ん……」

 

 尋ねると女の子は先程とは違う花をリィンに差し出した。

 

「……これも買って欲しいのかい?」

 

「んんっ」

 

「もしかしてオマケしてくれるのかい?」

 

「んっ」

 

 こくりと女の子は頷いてリィンにその花を渡す。

 

「はは、ありがとう」

 

「んっ……」

 

 御礼を言ってリィンは彼女の頭を撫でると嬉しそうに笑ってくれる。

 

「マヤ」

 

 女性の呼ぶ声に女の子は反応すると満面の笑顔を浮かべて、その声の方へと駆け出した。

 が、女の子は一度振り返るとリィンに向かって大きく手を振った。

 

「こんな場所なのに元気な子供だな……」

 

 ふりではなく本物の失言症なのだろう。

 一言も話さなかった女の子は“あの子”とは似ても似つかないのだが思わず懐かしさを感じてしまう。

 

「…………それにしても……」

 

 リィンは顔をしかめて女の子がくれた花に視線を落とす。

 塩害の中でも咲く強い花なのかもしれない。真っ白な純白の花は確かに観賞用として美しい。

 しかし、リィンの記憶が確かならその造形は《グノーシス》の材料となる《プレロマ草》に他ならない。

 

「いったいどうなっているんだ。この国は……」

 

 

 

 

 まだ準備中という札が下げられたその店に入ると風変わりな男がリィンを出迎えた。

 

「ごめんなさい。まだ準備中なの――ってもしかしてあなたがリィンちゃん?」

 

「……え?」

 

「黒髪の男の子って聞いていたけど……まァまァ、聞いていた以上にかわいい顔をしているじゃなーい」

 

 風変わりな男はリィンに近付いてじっくりと顔を見ると満足そうに頷く。

 

「とくにこの鎖骨のラインがとっても……ス・テ・キ!」

 

「…………」

 

 ――ミシェルさんの同類……変人であっても変態ではなさそうだな……

 

 しなを作る動きに口調はクロスベルの知り合いによく似ている。

 言動も軽薄で独特な馴れ馴れしさはあるものの、こちらの意志を無視する“彼ら”のような雰囲気もなければ市長邸で向けられた悪感情もない。

 わずか一秒にも満たない時間でリィンは彼を安全と判断する。

 

「初めましてリィン・シュバルツァーと言います。その様子だとサラ教官たちを匿ってもらえたようですね」

 

「あら……?」

 

 動じずに握手の手を差し出して来たリィンに男は目を丸くする。

 大抵の人間は自分のこの仕草や口調に驚き呆然とする。

 現にリィンの前にやって来た彼のクラスメイト達はそうだった。

 

「ふふ、どうやらさっちゃんの生徒の中でも貴方は特別みたいね」

 

「買い被り過ぎです。あなたのような知り合いがいるから驚かなかっただけです」

 

「あらそうなの? その方とは是非会ってみたいものね……

 と、失礼。自己紹介が遅れたわね」

 

 男は一歩リィンから離れ気取ったポーズを取って名乗る。

 

「アタシの名前はシャンテ。この店、《ダンデリオン》の店長を務めさせてもらっているわ」

 

「申し訳ありません。こんな形で押しかけてしまって」

 

「良いのよ。バルムントおじい様の紹介なんでしょ?

 それに、むしろ謝るのはアタシの方よ。うちの国がとんだ迷惑を掛けちゃったわね」

 

「いえ、貴方のせいではないですから気にしないでください。ところで……」

 

 リィンはおもむろにシャンテから視線を外して店の奥へと視線を向ける。

 

「もう何でよ。今度こそリィンが驚き慌てふためく顔が見れると思ったのに」

 

「やっぱりすごいやリィン。あれくらいできないと帝国男児じゃないのかな?」

 

「リィン、鉄壁過ぎ」

 

「だから言ったじゃないか。リィンさんはミシェルさんって言う同じ属性の人と知り合いだから驚いたりしないって」

 

 奥から聞こえて来る小声のにぎやかな声にリィンは少しだけ居たたまれなくなった。

 

 

 

 

 

「それじゃあシャンテさんはサラ教官と同期なんですか?」

 

「ええ、アタシとさっちゃんは同じクラスだったのよ」

 

 お腹を空かしているだろうと貴重なはずの食料を振る舞ってくれたシャンテはそのままサラの昔話をしてくれる。

 

「さっちゃんもバレスタイン大佐に引き取られたとはいえ、あの人は“英雄”として外で活動していたからね……

 ノーザンブリアでは“猟兵”として鍛える前に、国に残った憲兵団の候補生と一緒に訓練するの……これが当時の写真よ」

 

「うわ……サラ若い」

 

「フィー、そこはせめてちっちゃいって言って上げようよ。それじゃあまるで今は若くないみたいに聞こえるよ」

 

 壁に飾られた当時の写真を見てフィーが率直な感想をもらし、エリオットが窘める。

 

「でも本当にちょっと見違えたかも……こんな真面目そうでかわいい子が今は……」

 

 寮での彼女の生活を思い出してアリサは時間の流れは残酷だと嘆く。

 

「サラ教官の隣にいるのはもしかしてアプリリスっていう人ですか?」

 

 クリスはサラを含めた七人の男女の中から、サラの隣に立っている黒髪の少女を指して尋ねる。

 

「あら? もしかしてもうあっちゃんと会ったのかしら?」

 

「え、ええ……」

 

 あっちゃん、それにサラのことをさっちゃんと呼ぶシャンテに違和感を抱きながらクリスは頷く。

 

「アタシたちの班ではさっちゃんとがっちゃんの二人だけが“北の猟兵”への参加を認められてね……

 他の子たちは憲兵団、アタシは訓練中に膝を壊しちゃって今じゃさびれた宿酒場の店長っていうわけ」

 

「膝を壊したって、そんなに厳しい教練だったんですか?」

 

「ええ、そもそも“猟兵”志望の子を振るい落とすための訓練でもあったから、才能がないと思い知らすためにバレスタイン大佐は特に厳しくしごかれたものよ……

 例えばさっちゃんがアタシたち六人との多対一をやって負けて泣いちゃった写真が――」

 

「やめなさいシャンテ」

 

 楽しそうにアルバムを引っ張り出そうとするシャンテを店の奥から出て来たサラが止める。

 

「あら、さっちゃん。おはよう、相変わらずお寝坊さんね」

 

「さっちゃんはやめてって言ってるでしょ……」

 

 げんなりと項垂れてサラはテーブルに着く。

 

「サラ教官、もう立って大丈夫なんですか?」

 

「銃創はなかったけど、アーツみたいなのを撃たれた感じだったよ」

 

「そうみたいね。ったく何をしてくれたんだが」

 

 撃たれたはずの胸を、大胆にもその場で服をめくって確かめるサラに男たちは明後日の方角を向く。

 

「ちょっとサラ教官!?」

 

「はいはい、それより状況は?」

 

 諌めてくるアリサを適当に流してサラは尋ねる。

 

「今日は脱獄した翌日です。サラ教官はあれから半日ほど眠っていました」

 

「憲兵を撹乱するついでに街の様子を見てきましたが、あまり騒ぎになっていませんでした」

 

 クリスの説明に続いてリィンが付け加える。

 

「それからサラ教官、悪い知らせが一つあります」

 

 そう言ってリィンは女の子がくれた花をテーブルの上に置く。

 

「あら、ティアちゃんのところの花じゃない。もしかしてマヤちゃんから買ったの?」

 

 ノーザンブリアにとってありふれた花なのか、シャンテは特に驚いた様子もなく口を挟む。

 

「失言症の女の子がマヤっていう子ならその通りです……

 シャンテさんはこの花のことを知っているんですか?」

 

「知っているも何も、塩の大地にも咲くお花よ……

 見ての通り綺麗だから飾るのも良いし、何よりも食べると元気になれる花だから重宝しているのよ。アタシのお店でもいくつかメニューに――」

 

「すぐにやめてください」

 

 思わずリィンは声を大にしていた。

 

「え……何どういうこと?」

 

「ちゃんと説明してリィン。ノーザンブリアでは雑草だって貴重な食糧なのよ。いきなりそんなこと言われても困るわよ」

 

 突然のリィンの反応にシャンテは目を丸くして、サラが追及する。

 ちなみにその横で……

 

「雑草が食料……」

 

「もしかしてさっき食べたのも……」

 

「意外と美味しかったですね」

 

「何を気にしてるの?」

 

 Ⅶ組一同はそれぞれの感想を呟いていた。

 

「この花は《プロレマ草》と言って、色違いですがとある宗教団体の麻薬の原料になっていた危険な植物なんです」

 

「なっ……!?」

 

「麻薬……」

 

「それってまさか《グノーシス》?

 シャンテ、この花はいつからノーザンブリアに咲き出したの? あたしはこんな花見たことないわよ?」

 

「いつって……五年前よ……

 当時、偉い学者様がノーザンブリアに来て塩の大地でも咲くものだって種をくれたことが始まりだって聞いているわ」

 

「五年前……」

 

「教団殲滅作戦が六年前ですから、そこからヨアヒムの様に落ち延びたのかもしれません……

 ワイスマンが語らなかったのは、知った上で黙っていたのか、本当に知らなかったのかは分かりませんが……

 シャンテさん、他に五年前から変わったことはありませんか?」

 

「そうね……《塩化病》で死ぬ人が減ったことくらいかしら?」

 

「《塩化病》って何ですか?」

 

 聞きなれない病名にクリスが首を傾げる。

 

「《塩化病》はノーザンブリア特有の風土病よ……

 ある日、体が端から塩の結晶になって砕けて死に至る病のことをそう呼んでいるの……

 この病気も貧困と同じくらい、ノーザンブリアを苦しめているものよ」

 

「そんな病気が……」

 

「《塩化病》はずっと前からあるわよ。それより、よりによって《D∴G教団》の残党……」

 

 新たに発覚した情報にサラは頭を抱える。

 六年前、ゼムリア大陸の各国の軍隊や遊撃士、非公式ながらも《身喰らう蛇》と《星杯騎士団》が総出になった掃討作戦。

 本体こそ壊滅させることができたが、その残党はまだその全容を把握し切れていない。

 身を隠すという点ではノーザンブリアはうってつけかもしれない。

 しかし、政府の暴走と“北の猟兵”との繋がりを認める発言、それに加えて《D∴G教団》の残党を匿っていた事実。

 

「終わった……このことが全部他国に知られたらノーザンブリアは確実に終わる」

 

「ちょっとさっちゃん!?」

 

「何でこんなことになってるのよ!?」

 

 思わずサラは激昂する。

 

「アプリリスはっ! シャトラールはっ! クレドはっ!

 あいつらは憲兵団に残ってこの国の治安を守っていたはずでしょ!? それがどうしてこんなことになっているのよ!?」

 

「…………ごめんさないサラちゃん、みんなあの日からこのお店に来てくれなくなっちゃたから、アタシは何も知らないの」

 

「あの日、ですか?」

 

「ええ……バレスタイン大佐が亡くなって、さっちゃんが“北の猟兵”をやめた時……

 ねえ、さっちゃん。どうして貴女は“北の猟兵”をやめたの?」

 

「それは……」

 

 シャンテの質問にサラは水を掛けられたように黙り込む。

 

「安心して責めるつもりじゃないの。バレスタイン大佐はアタシたちにとってもお父さんだったみたいな人……

 貴女の気持ちはアタシだって分かるつもりよ……」

 

「違う……あたしは……あたしは……」

 

「サラ教官……」

 

「サラ……」

 

 情緒不安定になるサラにアリサ達は言葉を失った。

 こんなに弱々しいサラを見るのは初めてであり、何と声を掛けて良いのか迷う。

 

「サラ教官――」

 

 そんな中、リィンが口を開いた瞬間――

 

「邪魔するぜ」

 

 鍵を掛けてあった店の扉が何者かによって蹴破られた。

 

「なっ!?」

 

「――っ!」

 

 素早くⅦ組一同はそれぞれの武器を乱入者に向けて身構える。

 

「よう……久しぶりだな。サラ」

 

 二本の剣を携えた紫髪の青年はサラを見つけると獰猛な笑みを浮かべる。

 

「あ……」

 

「クレド!? あなたどうして!?」

 

 サラよりもシャンテの方が反応するが、それに構わず青年――クレドはサラに向けて剣を突きつける。

 

「随分と腑抜けた顔してるじゃねえか? どうやら喝を入れねえとダメなようだ――なっ!」

 

 挨拶もせずに青年は戸惑うばかりのサラに向かって襲い掛かる。

 その振り下ろされた凶刃は――リィンが抜いた太刀によって受け止められる。

 

「いきなり出て来た何なんだお前は!?」

 

 まじかで見た彼の顔は先程シャンテが見せてくれた写真に並んでいる一人だと気付く。

 

「ほう……俺の剣を止めるか……良いじゃねえか」

 

 割って入ったリィンの反応にクレドは口角を釣り上げて獰猛な笑みを深くする。

 リィンはその笑みを良く知っている。

 その笑みは戦闘狂が獲物を見つけた時の喜びの笑みだと。

 

「動かないで、それ以上動いたら撃つわよっ!」

 

 横から矢を番えた弓を構えてアリサが警告を発する。しかし――

 

「遅え」

 

 クレドは鍔迫り合いをやめると一瞬でリィンから離れつつ、剣を突き出しその衝撃破をアリサに向けて繰り出す。

 

「――っ」

 

「させない」

 

 迫りくる突きの剣閃にアリサは無防備に立ち尽くし――クリスがその一撃を防ぐことを見越して、矢を放つ。

 

「へえ……随分と良い度胸してるじゃねえか……いや今の連携、何か仕掛けがあるな」

 

 危なげなく矢を切り払ったクレドはアリサの胆力を褒めつつ、タイミングが良過ぎるクリスの防御をクレドは冷静に分析する。

 

「随分余裕だね」

 

 そこにフィーが追い縋り、双銃剣を縦横に振る。

 

「クカカッ! サラの生徒だけあってやるじゃねえかっ!」

 

「うざい」

 

 フィーは一言そう漏らすと身を翻し、剣を躱しながらその場でバク宙をして、体を使ってクレドの視界を塞ぐ。

 直後、フィーの背に隠れるように身を屈め跳んだフィーを掻い潜る様にリィンがクレドを強襲する。

 

「ちっ」

 

 クレドから見えたのはリィンの足元だけ、しかしそれでも斬撃の軌道に当たりを付けて双剣を盾にする。

 しかしリィンはクレドの視界に入った太刀をおもむろに手放して――

 

「破甲拳っ!」

 

 リィンの手から離れて落ちていく太刀に目を奪われたクレドはその一撃に貫かれた。

 

 

 

 

「やったぁ!」

 

 リィンの拳の一撃を受けて吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられたクレドにエリオットは歓声を上げる。

 

「いや、まだだ」

 

 リィンは太刀を拾い直し、拳に感じた手応えから倒し切れてないと判断する。

 

「派手に飛んだけど、自分から跳んでいた?」

 

「ああ、そうみたいだ」

 

 フィーの言葉にリィンは頷き、一同は警戒を緩めずにクレドを包囲する。

 

「クカカ……良いぜ。テメエら……」

 

 壁に背中を預けたクレドは堪え切れないと言わんばかりに震え出す。

 

「これなら――本気を出しちまっても構わねえよなっ!」

 

 そう言うとクレドは胸を抑えて、吠える。

 

「オオオオオオオオッ!」

 

 リィン達の目の前でクレドの姿が変わる。

 紫の髪は金色に、服装も鳥を思わせる青い装束へと変化する。

 

「変身した。まさかリィンさんと同じ超――」

 

「さあっ! お楽しみの時間だ!」

 

 青の闘気を纏いクレドは剣を振る。

 彼が剣を突き出す度にそれを取りまく青い闘気の剣閃の刃が一同に襲い掛かる。

 

「きゃあっ!?」

 

「うわあああっ!?」

 

「こいつで最後だっ! 消し飛び――」

 

「させるかっ!」

 

 最後の一閃が振り切られるよりも早くリィンが間合いを詰めてその刃を抑え込む。

 

「っ――」

 

 腕に走る凄まじい衝撃は変身前の比ではない。

 

「クハッ……まさかこの状態の俺の一撃を受け止められる奴がいるとはな」

 

「それはどうも……褒められても全然嬉しくないけどな」

 

 剣を止めながら器用に肩を竦めたリィンはロックオンして来る視線に嘆く。

 

「確か帝国の英雄様だったか? ガキだと思っていたが良いじゃねえか。テメエはここで俺が斬る――と言いたいところだが、おいサラッ!」

 

「な、何よ……?」

 

「腑抜けたテメエにはやってもらわなくちゃならない役目があんだよ! いつまで間抜け面さらしてやがる!」

 

「なっ!?」

 

 あまりに一方的な罵倒にサラは絶句する。

 

「さっさと“力”に目覚めやがれっ!」

 

「何を言ってるのよアンタ?」

 

「でないと俺がこいつらを皆殺しに――」

 

「お前、はしゃぎ過ぎだ」

 

「は……?」

 

 目の前の予想していなかった変化にクレドは間の抜けた言葉をもらす。

 鍔迫り合いの向こうで黒い髪は一瞬で白く染まり、瞳は血の色へと変化する。

 

「っ――」

 

 本能が告げる警告にクレドは迷いなく従ってその場から飛び退くが、クレドが逃げる速度にリィンは余裕で先回りして太刀を一閃する。

 

「がっ――」

 

 先程までの比ではない峰打ちの一撃にクレドは威力を殺す余裕もなく吹き飛ばされる。

 

「終わりだ」

 

 壁に叩きつけられてバウンドしたクレドにリィンはさらに追い縋り太刀を振るう。

 

「――っ」

 

 しかしその一撃はクレドの前に突然現れた障壁に弾かれた。

 

「ちっ――」

 

 クレドはその一瞬の隙を逃さずに窓を破ってその場から脱出するのだった。

 

「…………どうやら術士が隠れていたみたいだな」

 

 取り逃がしてしまったことにリィンは溜息を吐き、彼女の名前を呼ぶ。

 

「フィー」

 

「ん、了解」

 

 その呼び掛けにフィーは迷わず頷くとクレドが破った窓から外へ出て追い駆ける。

 リィンはそのまま周囲を見回ると言って外に出て、取り残されたクリスは剣を納めてシャンテに尋ねる。

 

「……シャンテさん、今の人はサラ教官の昔の写真に一緒に写っていた男の人ですよね?」

 

「ええ、バレスタイン班の一人のクレドよ……

 さっちゃんと一緒に“猟兵”として合格を貰った子なんだけど、一身上の都合でノーザンブリアに残って憲兵団に入った同期なんだけど……」

 

「その時から彼は超――じゃなくてあんな“力”を持っていたんですか?」

 

「いいえ、アタシが知る限りあんな風に変身するのは初めてよ」

 

「そうですか……」

 

 荒れた店内を見回し、クリスはエリオットに保護させたサラの下へと向かう。

 

「サラ教官、大丈夫ですか?」

 

「…………また情けない姿を見せちゃったわね……」

 

 自嘲するようにサラは項垂れる。

 流石にクリスもこのサラを取り巻く状況に同情する。

 故郷の暴走に、姉妹からの銃撃、果てにはかつての仲間からの要領を得ない発破。

 目まぐるしく変わる状況は第三者のクリス達からしても混乱を極めている。

 

「シャンテもごめん……あたしのせいでお店を滅茶苦茶にして」

 

「水臭いこと言わないでよさっちゃん、悪いのは人の知らない所で何かを始めているあのバカ達よ……

 それよりも貴方達はここから早く離れた方が良いわね……

 クレド達が憲兵を抱え込んでいるかもしれないけど、あれだけの騒ぎを起こしたんだから」

 

「いえ、おそらく何処に行っても同じだと思います……

 ここでは僕達は余所者。どれだけ注意を払っても痕跡は消し切れないと考えた方がいいとでしょう」

 

「それじゃあどうするの?」

 

「さっきの剣士を追ったフィーの成果次第ですね……

 このまま逃げるのか、それとも打って出るのか、二人はそれで良いかな?」

 

「ええ、それで構わないわ」

 

「うん、正直……もう一杯一杯だけど」

 

 翻弄されるがままのアリサとエリオットはクリスの提案に頷くのだった。

 

 

 

 




注意:以前の帝都でクレドによく似た人が出ていますが、全くの別人ということにしておいてください。



レグラムA班リザルト
デュバリィ
「ふん……やはりその程度でしたか……
 リィン・シュバルツァーとは比べるまでもありませんでしたわね」

ラウラ
「ぐぬぬ……」

ミリアム
「あはは、たしかに今のボクとがーちゃんじゃ勝てないかも」

アイネス
「所詮は雛鳥か……今の自分に満足しているような者ではリィン・シュバルツァーの足を引っ張るだけだろう……」

ユーシス
「言わせておけば……」

ガイウス
「これ程の差があるとは……」

エンネア
「悪いことは言わないわ、リィン・シュバルツァーとは距離を置くことね……
 彼は貴方達には想像もできない戦いと宿命を持っている子なのだから、それとも貴方達には彼と同じ覚悟があるとでも?」

エマ
「それは……」

マキアス
「そんなことは分かっている……分かっている……けど……」

アリアンロード
「どうしました? そのガランシャールは飾りですか?
 疾くと立ちなさい。それともこれで終わりですか? リィン・シュバルツァーなら立ちますよ」

ヴィクター
「くくく……この年で年下の少年を引き合いに出されるとはな……
 ええ、もちろんまだやれます。私の、そしてこの新生したガランシャールの全てを引き出させてもらいますよ槍の聖女殿っ!」


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