(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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創の軌跡
アリオスさんが遊撃士に復帰しているみたいだけど良いのかな?
閃Ⅳのエンディングでも思いましたが、あの人遊撃士の立場を使って暗躍していたはずなのに。

そういえばユウナの中でアリオスさんの立ち位置って英雄から変わっていないのは何でだろう?
ディーター大統領は悪者、マリアベルは裏切り者、それにアリオスも加担していたはずなのに。





72話 塩の大地Ⅴ

 

 

「それじゃあこれからどうするか決めよう」

 

 ダンデリオンの地下倉庫に場所を移し、クリスはそう切り出した。

 

「今、僕達がやれることは大まかに三つある……

 一つは今、レミフェリアから支給品を届けてくれている遊撃士に保護してもらう事……

 そこには憲兵隊がいると思うし、正直彼らが遊撃士相手にまで敵対をするのか分からないけどどう転んでも孤立している僕達の味方になってくれるはずだ」

 

 ノーザンブリアの人達が配給の手伝いをするはずだった自分達がいないことを彼らにどう説明しているの分からないが、相手が遊撃士なら必ず自分たちの話も聞いてくれるはずなので期待はできる。

 

「二つ目は、僕達だけで帝国へ脱出すること」

 

 遊撃士の助けを借りず独力で帝国へ戻る事。

 これもそこまで難しいことではない。

 何を考えているのか、ハリアスクの門の警備が強化されたわけではなく突破しようと思えば簡単に突破できる。

 もっとも、門にクレドのような“達人級”がいる可能性もあるので絶対とは言えない。

 

「この二つは結局、共通して言えるのはノーザンブリアの中に渦巻いている“陰謀”から目を背けて、解決を他国に丸投げすることになるね……

 そして三つ目は説明するまでもなく、ノーザンブリアで行われている陰謀を暴くこと。当然僕は三つ目を推すね」

 

「本気なのクリス? これはもう明らかに《特別実習》の範囲じゃないよ」

 

 クリスの要約にエリオットは気弱な発言をする。

 これは何もエリオットが臆病だからではない。

 ノーザンブリアの不特定多数の市民から向けられる悪意の眼差し。

 そのストレスはクリスも感じている。

 

「そうよ! だいたいクリスは皇子様なのよ。そんな危険に突っ込むような真似していいの!?」

 

 今更な話なのだが、学院ではこれまで通りに接することに慣れ始めていたアリサはそれを持ち出してクリスを止めようと試みる。

 

「あはは、アリサ。何を言うんだいクリス・レンハイムはしがない男爵家の次男だよ」

 

「っ~~リィンッ!」

 

「覚えておくといいアリサ。アルノールの一族がこんな面白そうな場面で逃げるわけがないって」

 

 リィンに助け舟を求めるが、諦めて何かを思い出すように遠い目をしている彼の姿にアリサは絶句する。

 

「で、でもお忍びとは言え帝国の皇子が他国の騒動に首を突っ込んで良いの?」

 

「エリオット、それも前例があるからダメなんだ」

 

 それでもと食い下がるエリオットにリィンはやはり諦めた様に項垂れる。

 

「わたしもクリスと同意見……

 やられたらやり返す。それが“猟兵の――ううん、やられっ放しはわたしの性に合わない」

 

「フィーまで」

 

 悟り切った様子のリィンは宛にならないと察し、せめて三人で結託しようと考えたアリサだったがフィーはクリスに同調してしまう。

 

「まあ、アリサ達の言い分はもっともだ」

 

「でもリィンさん、僕は学院に通っている間は――」

 

「リベールの時とは違うんだ……

 暗躍しているのは《結社》じゃなくて、ノーザンブリアの国そのもの。武器を持ち出してきたのは向こうだったとしても市民と戦う覚悟はあるのか?」

 

「それは……」

 

「だけどそれはひとまず置いておくとして……

 みんなに一つだけ聞くけどサラ教官を置いて自分達だけ逃げるか、それともサラ教官に協力するのか、結局はそこの選択だと俺は思うんだけど」

 

「ちょっと何でそうなるのよ?」

 

 自分に矛先を向けられたサラが抗議の声を上げる。

 

「サラ教官は最初から俺達だけを帰して自分だけで行くつもりなんでしょうが、そうはいきません」

 

「そうよね……いろいろ問題はあるけど、今のサラ教官を一人で行かせるわけにはいかないわよね」

 

「サラ教官がこんな状態じゃ仕方がないですよね」

 

「ぶっちゃけ今のサラは簡単に死にそう」

 

「うん……怖いけど、サラ教官を見捨てることはできないかな」

 

「あんたたち……」

 

 先程まですぐに帝国に帰りたいと言っていたアリサとエリオットの二人も前言が撤回して残る意志を固める。

 

「ふふ、良い生徒達じゃない」

 

「そうね……あのサラがこんなに生徒に思われる先生になって安心したわ」

 

 地下室に降りて来たシャンテと見知らぬ女性が言葉を失っているサラに嬉しそうな言葉を投げかける。

 

「シャンテ……それにティア」

 

「久しぶりねサラ。帰って来てるなら教えてくれれば良いのに」

 

 蒼く長い髪の女性は嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

「サラ教官の知り合いですか?」

 

「もしかしてさっきの写真の一人?」

 

「初めまして、トールズ士官学院のみなさん。私はサラと一緒にこの国で育ったティアと言います……

 いつもこの子がお世話になっています」

 

 クリスとアリサの呟きに答えるようにティアは名乗って心配そうに尋ねる。

 

「やめて、あんたはあたしのおかんか。というか私にも教官としての威厳が――」

 

「威厳って……そんなのありましたっけ?」

 

「結構な頻度でリィンやシャロンにお酒のつまみを作ってもらってるわよね」

 

「たしか反面教師っていう奴だっけ?」

 

「み、みんな……たしかにサラ教官は自由行動日はお昼まで寝ているけど……ちゃんと僕は尊敬していますよ」

 

「ノーコメント」

 

 取り繕おうとするサラに生徒達は無情のダメ出しを送る。

 

「あんたたち……って言うかティア、あんたまだ生きていたの?」

 

「サラ教官、久しぶりに会った友達にそれは……」

 

 サラの言葉にアリサが顔をしかめるが、その言葉を向けられた本人は気を悪くした素振りもなく微笑む。

 

「良いんですよ。サラと最後に会った六年前から病気で今日まで生きていられたのが奇蹟ですから」

 

「病気? それってまさか……」

 

 思わず聞き返したクリスに答えるように、ティアは腕に巻いた包帯を取って見せる。

 

「っ……」

 

「それってまさか……」

 

 包帯の下の皮膚はまるで岩塩の塊の様に白い結晶となっていた。

 

「はい。私は《塩化病》に侵されています……

 今は薬がありますが、それも進行を遅らせるだけ、お医者様には今年一杯が限界だと診断されました」

 

 悲観した様子もなく笑顔で自分の末路を語るティアに一同は絶句する。

 

「ねえリィン。もう国家間の情勢とか言ってないで、できるなら本当に直して上げた方が良いんじゃないの?

 国土の問題はともかく、《塩化病》だけでも……」

 

「…………ああ、どうやらあまり悠長にしていられる時間はないみたいだ」

 

 アリサの指摘にリィンは頷く。

 《塩害》による二次被害ならともかく、目の前で失われようとしている命まで見捨てる程にリィンは非情になれない。

 

「何の話ですか?」

 

「いえ、こっちの話です」

 

 首を傾げるティアにリィンは咄嗟に誤魔化す。

 

「とにかく、今はサラ教官の同期の人達の話です……

 このままだとノーザンブリアは《塩害》よりも先に他国から見放されます」

 

「そうね。さっちゃん達の話やクレドの様子を見る限り、このノーザンブリアで何かの計画が行われていたのは確かみたいね……

 ティアは何か知らないかしら? 治療で基地に定期的に行っているわけだからアタシより何か知っているんじゃない?」

 

「いえ、私もアプリリス達とは顔を合わせていませんから……でも信じられません。アプリリス達が本当にサラを襲ったなんて」

 

「…………ティアさん、五年前にノーザンブリアにやって来た学者という方の名前は分かりますか?」

 

「え、ええ……ゾラ先生のことですよね」

 

「ゾラ……」

 

「リィン、もしかして……」

 

「はい。教団事件の時に指名手配リストの中にあった名前です」

 

 サラの確かめようとする呼び掛けにリィンは頷く。

 

「確定ね。もはや言い逃れはできない」

 

 サラは諦めた様に自嘲するように小さく笑う。

 

「これが……これがあたし達がやって来たことの結末か……

 もしかしてバレなければ何をしても良いっとでも思ったのかしら? ああ、そう思わせちゃったなら“あたし達”の不始末よね」

 

「サラ教官……」

 

「大丈夫よリィン。あたしは冷静よ」

 

「そんな顔で何を言ってるのよさっちゃん」

 

「だからさっちゃんはやめてって言ってるでしょ」

 

 暗い目をしたサラはその呼び方にすぐに抗議するも、シャンテは構わず続ける。

 

「ねえさっちゃん、今のノーザンブリアの政権がおかしいって言うなら、バルムント大公を助けるって言うのはどうかしら?」

 

「え……?」

 

「バルムント大公が逃げ出したんじゃなくて、今の国会議員に嵌められて弁明の機会も与えられず、不当に拘束させられているわけでしょ?

 なら大公をお救いして、26年前の真実を白日の下にさらすの……

 そして今の議員たちの不正を明るみにして彼らを失脚させることができれば、ノーザンブリアはまだ生き残ることができると思うの」

 

「シャンテ、それは――」

 

「優しいさっちゃんはこの国のみんなが滅んで死んでしまえなんて考えていないでしょ?」

 

「むう……」

 

 シャンテの言葉にサラはやり込められたように唸り――

 

「滅んでしまえば良いんです。こんな国」

 

「え……?」

 

 新しい声にサラは振り返る。

 階段から降りて来た少女はリィン達に近い背格好の少女だった。

 

「シャンテ、誰?」

 

「うちの従業員の一人のヴァレリーちゃんよ……

 バルムント大公のお孫さんらしくて、“悪魔の子”なんて言われてイジメられていたからうちで雇っちゃったの」

 

「初めまして、サラさん。お噂は店長やティアさんから聞いています」

 

 ヴァレリーは礼儀正しくサラに頭を下げる。

 

「お願いです。サラさん、この国を終わらせてください」

 

「ちょ……え……」

 

 それを覚悟したサラだったが、面と向かって年端もない少女にそれを懇願されると気持ちが引ける。

 

「この国は腐っているんです……だから……」

 

「ちょっと落ち着きなさい」

 

 懇願する少女の肩を掴んで顔を上げさせ、サラが見たのは絶望に澱んだ瞳だった。

 

「知っていますか?

 私のことを“悪魔の一族”と蔑んでいる人達は真面目に働かず、“北の猟兵”が外で人を殺して手に入れたミラを使って手に入れたお酒を昼間から飲んで遊び歩いているんです」

 

「っ――」

 

「こんな恥知らずな国なんてさっさと滅んでしまえば良いんです」

 

 自分以上の憎悪を宿した言葉にサラは同調するよりも言葉を失った。

 

「ヴァレリーちゃん、そんなことを言ってさっちゃんを困らせないの、さっちゃんは遊撃士なんだから」

 

「ですが、店長」

 

「ヴァレリーちゃんだってお祖父様の無罪を証明したいでしょ?」

 

「どうでも良いです。そんな会ったこともない人のことなんて」

 

 取り付く島もなく憎悪を――というよりも無関心な嫌悪を滲ませるヴァレリーにシャンテは肩を竦め、ティアに付き添わせて一階に戻す。

 

「ごめんなさい。あの子は先日“猟兵”の試験に落ちたばかりでね。だいぶ落ち着いたんだけど、その……」

 

「死に場所を求めている?」

 

 サラの言葉にシャンテは静かに頷く。

 

「あの子は物心着いた頃から“悪魔の一族”なんて蔑まれてきたの……

 “猟兵”に志願したのもおそらく汚名を濯ぐためなんかじゃなくて死んで楽になりたかったからなんでしょうね」

 

「…………なんだか、本当に複雑な国なんですねノーザンブリアは」

 

 ヴァレリーの生い立ちにクリスは複雑な気持ちになる。

 昨日までは一方的な悪意を押し付けられ、ノーザンブリアに住む全ての人間に悪感情を感じていたが、実際はそうではなく様々な事情が折り重なった末の状況だと分かる。

 現議長たちの様に悪い者もいれば、シャンテやティアのように真面目に生きている者、絶望に暮れて疲れてしまった者だっている。

 それらはきっと他人事ではないのだとクリスは考える。

 

「みんな、僕の意見を言っても良いかな?」

 

 最初の面白そうだからという理由ではない真剣な眼差しにアリサ達は固唾を呑んで彼の言葉を待つ。

 

「結局僕達がここで話し合いを続けても事の真相は何も分かりません……

 26年前の陰謀も、今行われている陰謀も僕達は結局彼らにとってサラ教官のオマケに過ぎないんだと思います」

 

「オマケ……確かにそうよね」

 

「この際、善悪については一先ず置いておいて、ノーザンブリアは《塩の杭の異変》から何かを起こそうとしていることは間違いない……

 僕達は所詮、外国人で余所者で口を出す資格はないかもしれません。でも巻き込んできたのは向こうですから僕達はもう無関係じゃないと思うんだ……

 だから僕はノーザンブリアの人達が何を考え、何を成そうとしているのか。自分の目で最後まで見届けたいと思うんだ……

 例えサラ教官が拒んでも、僕は僕達を利用しようとしている真実を知りたい」

 

「クリス……あんた……」

 

「それに僕達がいることで助けられる人が一人でもいるのなら、それで十分に意味はあるはずだ」

 

「そうね……このまま逃げ帰っても後味が悪いわよね」

 

「こんな僕でも役に立てることがあるなら」

 

 サラが残るなら仕方なくと、消極的に決めたアリサとエリオットはクリスの言い分に前向きに考える。

 

「だってさ、どうするサラ?」

 

「あんた達の言い分は分かったわ。だけどあたしは教官として無事にあんた達を帰す義務が――」

 

「そんなことより戦闘になった場合、サラ一人でどうにかできるの?」

 

「うぐ」

 

 フィーの指摘にサラは唸る。

 ただでさえクレドは生身でサラと同等の戦闘能力を持っている。それに加えて“変身”する異能まであるのだからサラの勝ち目は薄い。

 

「サラ教官にとって僕達は背中を任せられない程に頼りないですか?」

 

「…………………分かった……分かったわよ」

 

 クリスの押しにサラは観念して頷いた。

 

「フフ……本当に良い子たちに巡り合えたのねサラは」

 

 肩を落として生徒に説得されたサラを微笑ましいと、シャンテは安堵の息を吐く。

 

「シャンテさん……」

 

「ん、何かしらリィンちゃん?」

 

「貴方はもしかして……」

 

 シャンテに感じた不信を尋ねようとするが、意味深なウィンクにリィンは肩を竦めて口を噤むのだった。

 

 

 

 





レグラム二日目A班

ゼノ
「なんやトールズ士官学院の《Ⅶ組》が来とるゆうたからてっきりリィン・シュバルツァーが来とるのかと思ったんやけどなあ」

レオニダス
「どうやらフィーと一緒に別の場所に行っているようだな」

ラウラ
「むっ……カイエン公のお付きのようだが何者でしょうか?」

ユーシス
「その風貌……もしや《西風の旅団》の連隊長か?」

ゼノ
「なんやわいらのことフィーから聞いとったのか。思っている以上に懐かれてるみたいやな?」

レオニダス
「まさかとは思うが、手を出すような真似はしていないだろうな?」

ユーシス
「くっ……!?」

ガイウス
「何と言う気当たり」

マキアス
「ぼ、僕達はリィンから聞いただけでフィー君からは何も……」

ゼノ
「なんやそうやったんか?」

レオニダス
「見たところリィン・シュバルツァーに遠く及んでいないようだ……
 フィーと付き合いたければ最低限、あれくらいに至ってもらわなければ困る」

ラウラ
「…………納得がいかない」

エマ
「そうですね」

ミリアム
「どうしたの二人とも?」

ラウラ
「何故、そこまで大事にしていてフィーの前からいなくなった?」

エマ
「そうです。団は家族――そんな風に言っていたフィーちゃんを一人残して」

ゼノ
「……なんや男共よりもお嬢達の方が好感度があるみたいやな?」

レオニダス
「むう……まさかフィーがそちらの道に進んでしまったというのか。団長に何と言い訳をすれば……」

ラウラ
「真面目に答えよ!
 良いだろう。ならばここで叩きのめしてフィーの前に引きずって行くっ!」

ゼノ
「ハハ……良い啖呵やん」

レオニダス
「閣下とアルゼイド子爵の会合が終わるまでの暇潰しとしてなら付き合ってやらんでもない」


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