(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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75話 塩の大地Ⅷ

 

 

 

「っ……」

 

 ずれたマフラーを口元に直しながらサラは塩が降り積もって固まった道を全力で駆ける。

 次の瞬間、サラの左右に衝撃波が通り過ぎ、背後の辛うじて原型を保っていた家屋が粉砕された。

 

「紫電一閃っ!」

 

 鋭い爪から繰り出された五条の衝撃波の隙間を掻い潜って接近したサラは雷輪を巨大なガーゴイルの足に向けて放つ。

 

「鳴神っ!」

 

 同時に雷の闘気を込めた弾丸を連射する。

 大型魔獣と戦うセオリーとしてまずは足元を崩すために攻撃を集中させる。

 

「ソルッ!」

 

 龍神兵の肩に乗る少女が指示を出すような号令を出すと、龍神兵は翼を広げて風を巻き起こし接近したサラを吹き飛ばす。

 

「くっ」

 

 塩を含む風に突き飛ばされ、せっかく詰めた距離を無駄にされサラは歯噛みする。

 

「無駄ですサラ先輩。ソルは私達の最高戦力です。貴女には倒せません」

 

「言ってくれるじゃない新兵の分際で」

 

 偉そうに自慢する少女にサラは苛立ちを感じながら言葉を返す。

 

「あんたはシャトラール達が何をしようとしているか分かっているの!?」

 

「もちろん分かっています」

 

「帝国に喧嘩を売って本気で勝てるつもりだって言うの!?」

 

「そのためのこの子と“塩の杭”です」

 

 少女は背後の壁とも思える巨大な“塩の杭”を一瞥して答える。

 

「……ふざけんじゃないわよ」

 

 嘆く様に押し殺すようにサラは躊躇わずに言い切られた答えに反論を絞り出す。

 

「戦争を仕掛ける……“塩の杭”を使う……どれだけの悲劇が生まれるか分からないって言うの?」

 

「私も志願兵です。煉獄に堕ちる覚悟はもうとっくにできています……

 サラ先輩だって、その覚悟があったから“北の猟兵”に参加したはずです」

 

「それは……」

 

「ノーザンブリアはもう限界なんです。貧困の問題だけじゃありません……

 “塩化病”という死病が少しずつ広がっているこの大地で、もうみんなは生きる希望を失っている。だから私たちは立ち上がらないといけないんです」

 

 言い淀むサラに少女は捲し立てる。

 

「サラ先輩はこのままノーザンブリアのみんなに滅びを受け入れろって言うんですか!?

 先達のこれまでの戦いを貴女は否定するんですか!?」

 

「そうやって血と硝煙にまみれたミラで生き永らえても行き着く先は滅びよ」

 

「ノーザンブリアはそうやって生き永らえて来た。これからも、この先も。もうそれ以外の方法を選ぶなんてできません!」

 

 頑なな態度に思い出すのはサラが団を抜けようとした時の事。

 引き留める同期。志を失った落伍者と後輩に罵られた。

 

「それでも私は――」

 

「安心してください。“塩の杭”は示威行為にしか使うつもりはありません……

 このソルがいれば、どんな軍隊でも一網打尽にできます」

 

「……大した自信ね」

 

「はい。大きさはそれだけで力です……

 大型魔獣でもここまで大きいものは滅多に現れませんし、この子の飛行能力なら飛行艇にだって負けません」

 

「確かにそうだけど……」

 

 情報が古いとサラは少しだけ呆れる。

 龍神兵《ソル・ガルヴァ》は確かに魔獣と比べれば遥かに大きな体躯を持ち、独自の導力魔法に似た能力も有してその戦闘力は既存の戦車や飛行艇を凌駕している。

 しかし、今の帝国には残念なことにその巨大な魔物に対抗できる“力”が存在している。

 

「その証拠にあの“紫電”と呼ばれたサラ先輩をこうして圧倒出来ているのが何よりの証拠です」

 

 しかしサラの心情を知らずに少女は勝ち誇る。

 

「慢心が過ぎるわよ……」

 

 小さくサラは呟く。

 とてもではないが龍神兵が騎神に勝てる姿を想像することはできない。

 ほとんど人間と変わらない動きをする騎神と比べてしまえば龍神兵の動きは遅い。

 躯体そのものの差もあるだろうが、操者である少女の練度もリィンと比べてしまえば多くの部分で劣っている。

 それに何度か攻撃を仕掛け、サラの中ではすでに攻略方法を一つ見つけている。

 

 ――隙だらけなのよね……

 

 剥き出しの操縦者である少女を見ながらサラは何とも言えない気分でそう考える。

 サラが気付かない防御結界でも用意しているのかもしれないが、それにしてはこうして話している最中に導力銃を動かしてみても警戒する素振りはない。

 

 ――倒すのは簡単だけど……

 

 左手に握った導力銃に視線を落として考える。

 遊撃士になった時から導力銃の出力は絞って殺傷能力は抑えてある。

 せいぜい自分が殴ったくらいの衝撃を与えるだけの威力だが当てることは容易い。

 しかし、下手に当てて落ちれば下がいくら塩が降り積もった地面と言っても最悪死に至るには十分な高さがある。

 

「そ、それにしてもあの“紫電”がこの程度だったんですね」

 

「生憎だけど挑発に乗るつもりはないわよ」

 

「悪いことは言いません。ノーザンブリアのことは私達に任せて貴方は帝国に帰ってください」

 

「はい、そうですかって退くわけにはいかないのよ」

 

「意地を張っても貴女はソルに勝てません。遊撃士なんかになって人殺しができなくなって日和った貴女にいったい何が護れるって言うんですか!?」

 

「っ――」

 

 少女の指摘にサラは思わず息を呑む。

 

「儀式が完了するまであと三時間、絶対にここを通すわけにはいきません」

 

「三時間……」

 

 少女が漏らしたタイムリミットにサラは目を伏せる。

 あと三時間。

 悠長に戦い方を選んでいる時間などないと突き付けられた気持ちになる。

 

「…………それでもこんな愚行を見逃すわけにはいかないのよ」

 

「りょ、猟兵を引退したロートルは引っ込んでろ――です……サラおばさん」

 

「あんっ!?」

 

 申し訳なさそうに最後に付け加えられた言葉にサラは目に力を込めてリーザを睨む。

 

「ひっ」

 

 たったそれだけで居丈高な態度を取っていたリーザは竦み上がり、龍神兵に縋りつく。

 

「随分と生意気な口を叩くじゃない後輩」

 

 殺さないで無力化を考えていた思考は一瞬で彼方へと飛び去った。

 

「ええ、そうよね。今この時に至ってまだあんた達を殺さずに説得しようとしていたあたしが甘かったわ」

 

 “塩の杭”を実際に錬成させたこと。

 そこから察することができるシャトラール達の本気度。

 サラはまだ心のどこかで説得できると考えていた。

 

「あんたとクレド、シャトラール、そしてアプリリス……移動時間を考えて、ついでにそれ以外もいると考えれば三時間は短過ぎるわよね。それに――」

 

 白く染まり始めている指先を一瞥して、サラはゆっくりと確かめるように導力銃のリミッターを外す。

 それに伴い、意識もスイッチを変えるように“遊撃士”から“猟兵”へと切り替える。

 

「良いわ。特別に見せて上げるわ……これが“北の猟兵”サラ・バレスタインの《紫電》よ」

 

 おもむろにサラは導力銃をあらぬ方向へ向けて引き金を引き、少女の視界から消えた。

 

「えっ――?」

 

 一つ目の銃声に続いて二発、三発の銃声が鳴り響く。

 そして次の瞬間、サラは十アージュはある龍神兵の肩――少女の目の前に現れた。

 

「ソ――」

 

「遅いっ!」

 

 彼女が叫ぶより速くサラがブレードを一閃。

 だが、彼女の叫びよりも速く動いていた龍神兵の手が少女を覆い隠す様にサラのブレードから彼女を守る。

 

「ちっ――」

 

 舌打ちするサラに龍神兵はもう一方の手で拳を作りサラに向けて振る。

 空中にいるサラにはその一撃から逃れる術はないのだが、サラは焦らずに再び導力銃をあらぬ方向へと向けて銃撃をするとその場から消えた。

 

「こ、これが《紫電》の由来……」

 

 龍神兵の指の隙間からかつては家屋だった塩の塊の上に着地したサラを見つけて少女は戦慄と共に呟く。

 

「大した技じゃないわよ。撃った弾に紐をつけて引っ張ってもらうだけの移動用の戦技よ」

 

 サラはそれを示す様に導力銃を適当な方向に向けて撃つ。

 銃声と同時にサラの姿が消えて、導力銃を向けた先にサラが現れる。

 

「本当に雷の速度で移動しているわけじゃないし。あたしを引っ張っているから弾速も結構落ちる。直線でしか動けない欠点だらけの技なんだけど――」

 

 銃声が鳴る。

 それも一発ではなく、立て続けに何発も。

 少女の目に捉えることができたのは“紫電の道”の残光の軌跡だけ。

 難なく少女の背後に現れたサラは恐ろしく冷めた目で彼女を見下ろす。

 

「あたしからは何人たりとも逃れられない」

 

「あっ……」

 

 眼前で叩きつけられた殺気に少女はそれだけで腰を抜かす。

 しかし同時に自分の役割を達したことに安堵する。

 

 ――やりました。第一段階クリアです……

 

 自分を終わらせる刃に少女は取り乱すことなく受け入れようとする。しかし――

 

 ――やっぱり死ぬのは怖いよ……

 

 そんな思考が唐突に過る。

 遠からず自分が“塩”になって死ぬことは分かっていた。

 それでなくても儀式が完遂すれば“怪人”となった自分がどうなるかの保証もされてない。

 むしろ“あの人”と同じ所に行けるならと“死”を望みさえしていた。

 それでもせめて意味がある“死”を望み、この役割を貰った。しかし、いざその時になると恐怖が湧いて来る。

 

「………………リーザ姉さん、わたしは――」

 

 思わず出て来てしまった素の自分の言葉。

 だが、サラはそれを聞く素振りも見せずに凶刃を振り下ろし――少女が見れたのはそこまでだった。

 

「何をやっているんですかサラ教官!」

 

 少女の視界を遮ったのは黒い髪の少年の背中。

 

「リィン、何であんたがここに!?」

 

 少女を背中に庇ってブレードを受け止めたリィンにサラは目を見開く。

 

「俺の事はどうでも良いでしょ。それよりも今の一撃、本気で殺すつもりでしたね?」

 

「っ――ええ、そうよ。シャトラールもこいつも死んでも止まる気はないなら殺してでもあたしが止めてみせる。それが故郷を捨てたあたしのケジメなのよ。それよりも何で来たのよ」

 

 リィンの登場もあって冷徹な思考は一度鳴りを潜め、サラは彼の身体を気遣う。

 この場は七耀教会が禁足地に指定した“塩化の中心地”。

 しかも錬成された“塩の杭”の影響で自分でさえいつ“塩”になっていなくなるか分からない危険な場所。

 すでにその兆候が出ているサラは例え今から退いたとしても、遠くない内に“塩”となる未来が待っている。

 それに巻き込ませたくないと思ったからこそサラはリィン達を置いて来たというのに、自重して他のメンバーを抑えてくれると思っていたリィンが真っ先に来るとはサラは思っていなかった。

 

「その事ですが、シャロンさんが持って来てくれた塩化病の拮抗薬を服用して来たから大丈夫です」

 

「へ……? 拮抗薬? あのクソメイドが来てる?」

 

 龍神兵の上でするには場違いなことを言い出したリィンにサラは虚を突かれて間の抜けた言葉を返す。

 

「よ、余計なことしないでくださいっ! ソル!」

 

 サラが再起動を果たすより先に我に返った少女が叫び、龍神兵は大きく動いてリィンとサラを振り落とす。

 

「っ――」

 

「ちっ――」

 

 十アージュ程の高さから落とされたリィンとサラは危なげなく着地して、そこに一台の導力車が到着する。

 

「サラ教官!」

 

「あんた達まで……」

 

 シャロンが運転する導力車から降りて来た生徒達にサラは思わず呆然とするが、すぐに気持ちを立て直してリィンに向き直る。

 

「改めて聞くけど、これはどういうつもり?」

 

 サラはリィンの胸倉を掴み上げて続ける。

 

「分かってるの? あんた達は『戦場』に足を踏み入れたのよ!

 ここは軍人でも猟兵でもない、あんた達が来て良い場所じゃないのよ!」

 

「サラ教官……」

 

「クリスやアリサにも言いたいことはある……

 フィーもエリオットも危険だって分かっているのにどうして止めなかった?

 それに何よりリィン……何であんたまで一緒になって暴走してるのよ!?」

 

「サラ教官、実はシャロンさんが塩化病の――」

 

「拮抗薬のありなしじゃない! あんたは“あの子”の死に何も学ばなかったって言うの!?」

 

 思いの丈を叫び、息を荒くするサラの言葉をリィンは静かに受け止めて――

 

「……ふざけるな」

 

 次の瞬間、リィンはサラの腕を乱暴に振り解いて、自分がされたようにサラの胸倉を掴み上げる。

 

「だから黙って“大切な人”が死にに行くのを見送れって言うんですか!?

 『それじゃ、元気でね』なんて……そんな言葉だけで俺達が納得できる薄情者だと本当に思っているのか!?」

 

 ここまで我慢していた鬱憤をリィンがサラに爆発させる。

 

「くっ……あ、あたしは……あたしはそもそもあんた達に尊敬されるような教官じゃないのよ」

 

 二年ぶりに見たリィンの激しい感情、そして真っ直ぐな眼差しにサラは思わず目を逸らしてたじろぐが、それでも言い返す。

 

「あたしの手は血塗られている……

 戦場で兵士を殺しただけじゃない。罪もない人を殺したことだってある……

 そんなあたしが誰かを教え導く“教官”になるなんて“欺瞞”だったのよ」

 

 サラはリィンの手を振り払い、俯いて言葉を続ける。

 

「貴方達の目の前にいるのはそういう救いようのない人間なのよ……

 おまけにこの“災厄”を繰り返そうとしているノーザンブリアの人間」

 

「それは教官のせいじゃないでしょ」

 

 思わずアリサが口を挟むが、サラは頭を振ってそれを拒絶する。

 

「あたしはパパを死なせた責任を取らなくちゃいけないのよ!

 お願いだから……これ以上あたしをそんな目で見ないで……そんなことをされたら……あたしは……」

 

「盛り上がっているところ悪いけど、わたしはあまりサラのこと尊敬してない」

 

 懺悔するように言葉を絞り出すサラにフィーが容赦なく水を差した。

 

「…………」

 

 固まるサラ。気まずい空気が流れる。

 

「ちょっとフィー」

 

「わたしが来たのは散々振り回してくれたあいつらに落とし前をつけるため……

 “猟兵の流儀”で言えばやられたら徹底的にやり返す。サラは関係ない……だいたいサラは基本的に不真面目だし」

 

「…………休息日はいつも昼まで寝ているよね」

 

「…………それにさっきは良くも閉じ込めてくれましたね」

 

 フィーに便乗してクリスとアリサは普段のサラの生活態度を思い出して呟く。

 その言葉に反応するように固まったサラは一回、二回と痙攣するように体を震わせる。

 

「本来なら教官がやる仕事をトワ会長やリンに押し付けていますよね」

 

「ふ、二人とも……リィンまで……」

 

 フィーに便乗する三人にエリオットが必死にフォローの言葉を考える。

 

「エリオットもこの際だからサラに何か言ったら?」

 

「え……うーん……共用のシャワールームで下着を忘れて行くのはやめて欲しいかな」

 

 フィーに促され、もらしたエリオットの言葉をきっかけにサラはその場に膝から崩れ落ちた。

 

「えっと……」

 

 言い過ぎたかと思うもサラの生活態度にそれぞれ思うところがあった一同はここぞとばかりに言う。

 もちろん、自分を除いた問題児たちばかりのⅦ組をまとめている重労働を思えば、多少のだらしなさも十分に挽回されるのだが何となくそれを直接口にするのを憚ってしまうのがサラへの評価だった。

 

「あんた達ねぇ……」

 

 せっかくシリアスに極めて猟兵の時のものに切り替えていた思考から毒気を抜かれてしまったサラは嘆く。

 

「それは一先ず置いておくとして、サラ教官。僕達は何も教官の援護に来たわけじゃありません」

 

「は……? 何言ってんのよ?」

 

「教官は彼らを殺してでも止めるつもりなんでしょうけど、僕達の考えはサラ教官もシャトラールさん達も全て救うつもりです」

 

「全部救うって……そんなこと……」

 

「サラ教官の意見は聞くつもりはありません。教官が選べるのは――」

 

「シャロンに縛られて私達の戦いが終わるのを待ってるか、私達に全面協力するかのどっちかです」

 

 クリスの言葉を引き継いでアリサが条件を提示する。

 

「“死線”のクルーガー」

 

「ふふふ、今のサラ様なら簡単に無力化できそうですわね」

 

 護身用と言うには不気味なダガーを携えてシャロンは不敵な笑みを浮かべる。

 

「さあ、選んで――」

 

「私を無視しないでくださいっ!」

 

 クリスの言葉を遮って少女の声が響く。

 

「リィンさん」

 

「そうだな。あれは俺が適任だ」

 

 クリスの呼び掛けにリィンは頷く。

 

「リィン、まさか“アレ”を呼ぶの?」

 

 サラの問いに応えずリィンは会話の輪から外れて一人で龍神兵の前に進み出る。

 

「貴方はサラ先輩の教え子ですね……

 貴方に用はありません。死にたくなかったら引っ込んでいてください」

 

「気遣いありがとう。そっちこそ、そこを通してくれるなら手荒なことはしないよ。お嬢さん」

 

 戦場に場違いな気安さでリィンは少女に話しかける。

 まるで子供扱いするような口調に少女は顔をしかめて言い返す。

 

「本気ですよ! ソルに掛かれば貴方なんて一瞬でぺったんこなんですから! サラ先輩を――」

 

「悪いがここから先は俺達トールズ士官学院Ⅶ組が相手になる……

 サラ教官を利用した君達の自殺を俺達は容認するつもりはない」

 

「――っ、ソルッ!」

 

 こちらの事情を知っていると匂わせる言葉に少女はムキになって龍神兵に命令を出す。

 

『オオオオオオオオオッ!』

 

 少女の本気の命令を受け、龍神兵は先程のサラとの戦いよりも速く、そして強い力でその腕を叩きつける。

 龍神兵の一撃は塩の大地を放射線状に割り、地震と遜色ない地響きを起こして周囲の建物だった残骸を倒壊させる。

 

「ふ、ふん……関係ないのにしゃしゃり出てくるから」

 

 少女は気丈に振る舞って言い訳じみた弁解を口にする。

 それに対する応えはすぐ近くから。

 

「四の型《紅葉斬り》」

 

 サラと違い、音もなく目の前に現れたリィンは鞘から太刀を抜き放ち一閃する。

 

「あ……」

 

 驚く暇もなく振り抜かれた一閃は、目測を誤ったのか少女の眼前を空振った。

 

「お、驚かせないでください。というか今のを当てられないなんて程度が知れて――」

 

 強がった言葉は唐突に途切れた。

 

「あれ……?」

 

 唐突に龍神兵との霊的な繋がりが途切れ、それに伴って少女の“怪人化”が解ける。

 金髪から桃色の髪へ、そして一回り小さくなった体に変身――元に戻った姿に女の子は困惑する。

 

「どうして“怪人化”が…………あ……」

 

 そう呟くが、考える思考は保つことはできずに女の子は全身から力が抜けていく強烈な虚脱感に意識を保つことができずに気を失う。

 糸が切れた様に仰け反って後ろへ轟音を立てて倒れる龍神兵。

 その光景にサラは呆然として、その彼女たちの前にリィンは女の子をお姫様だっこして音もなく着地する。

 

「えっと……とりあえず聞くけど、リィン」

 

「何ですかサラ教官?」

 

「あたしはてっきり《騎神》を呼ぶのかと思ったんだけど?」

 

 サラの質問にクリス達は一様に頷く。

 

「必要ありましたか?」

 

 仰向けに倒れて動かない龍神兵を振り返って一瞥したリィンは首を傾げて聞き返す。

 

「いや……確かにあたしも操縦者を潰せたけど……何て言うか……

 突入前の騎神戦と言うお約束が…………って言うかそもそも何をしたのよ?」

 

「この子と龍神兵との霊的な繋がりを切っただけですよ」

 

 そう言えばそういうことができたんだったとサラは頭痛を感じた。

 

「それでサラ教官、どうしますか?」

 

 そんな風に頭を抱えるサラにクリスが薬の瓶を見せて尋ねる。

 ちなみにその背後ではシャロンが鋼糸――ではなく荒縄を手にして良い笑顔をして微笑んでいた。

 

 

 

 





 その頃の帝都

導力ラジオ
『本日、午前九時。ノーザンブリアに26年前に現れた“塩の杭”の発生に、帝国政府は緊急事態宣言を発令しました』

ギリアス
「これは由々しき事態ですね。オリヴァルト皇子」

オリヴァルト
「ええ、聞けば特別実習に赴いたⅦ組も初日から行方不明となっているそうです」

ギリアス
「それは心配ですね。確かセドリック殿下の班だったはず、もし殿下の身に不幸なことが起きていたとすれば、どうしたものでしょうね」

オリヴァルト
「貴方はまさか……この状況を利用してノーザンブリアを――」

ギリアス
「ふ……さあどうでしょう。ともかく今は現れた“災厄”に備え、各地の領主を集めて緊急会議を行わせていただきます……
 場合によっては皇子、貴方が用意している新たな“翼”のお披露目を前倒しにすることを御了承願いたい」

オリヴァルト
「ああ、認めよう。だが代わりにこれだけは教えてくれないかな? どこまでが貴方の予想通りなのか」

ギリアス
「さて、何の事やら……それでは失礼します。オリヴァルト皇子」

 ………………
 …………
 ……

ギリアス
「これは一体どういうことだ!? 答えろイシュメルガ、こんな事象は“黒の史書”になかったはずだ!」

イシュメルガ
「こ、これは預言にないこと。つ、つまり取るに足らないよ、予定調和内のことでしかない」




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