(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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76話 塩の大地Ⅸ

 

 

「これが“塩の杭”の内部……」

 

「まさか中に入れるなんて思わなかったわ」

 

 龍神兵を操っていた女の子をシャロンに任せ、一同は巨大な“塩の杭”の側面に開いた大穴の中に入る。

 

「よく誤解されているが、この大きい杭全てが“塩の杭”ではなくて、教会が回収した2.5アージュくらいの大きさの杭が本体だったんだ」

 

「へえ、詳しいのね」

 

 リィンの呟きにアリサは関心する。

 

「ただ当時の記録にはこんな内部構造は記録にない……

 というか、そもそも三日で巨大な杭の方は消失しているから正確な記録はなかったんだ」

 

 ワイスマンから得た七耀教会でまとめられた知識をリィンは語る。

 

「だからここから先は何が起きるか分からない……拮抗薬を飲んでいたとしても異常を感じたらすぐに撤退するんだぞ」

 

「それはリィンにも言える事じゃない?」

 

「そう言うからにはリィンもちゃんと撤退するんだよね?」

 

 フィーの指摘に続くエリオットの疑問にリィンは曖昧な笑みを浮かべて頬を掻く。

 

「リィンさん。とりあえずどういう方法で現状を打破するつもりなのか、サラ教官に説明をした方が良いんじゃないですか?」

 

「そうよ。あれだけ大口を叩いたんだからそれなりのプランがあるんでしょうね?」

 

 クリスの提案にサラが同意する。

 

「そうですね」

 

 ここに来る道中で仲間たちには話しておいたが、サラに知ってもらうためにもう一度説明する。

 

「“塩化現象”をこの太刀に刻んだ《聖痕》に封印します」

 

「…………それで?」

 

「それだけです」

 

「……いや……それだけって……他になんかすごい儀式みたいなことはしないの? お手軽過ぎない?」

 

「本当なら今回の実習でノーザンブリアの“塩”を採取して封印に適した武具を造るつもりでしたし、《聖痕》の調整だって時間を掛けてやるつもりだったんですよ」

 

「それは……えっと……急場しのぎの器で大丈夫なの?」

 

 痛い所を突かれ、誤魔化す様に前向きな姿勢でサラは懸念事項を確かめる。

 

「元々クリスに造っていた武具の理由の一つはこの“塩化”を封じる《聖痕》を作ることを目的もあったんです……

 この太刀は幸いなことに七つのセピスを均一にして造った太刀ですから、あとはぶつけ本番でなんとかします」

 

「それでできなかったらどうするの?」

 

「…………方法はもう一つあります。ただこれはあまり使いたくない方法です」

 

 自分の《聖痕》の容量が後どれくらいなのか具体的な指標が分からない以上、それを行うのは最後の手段にしたい。

 

「場合によってはクリスの武具に負担を散らすために使わせてもらうことになるが」

 

「ええ、構いません。武器なんて代わりを造れば良いんですから」

 

 愛着がある武器だがリィンが必要と言うならクリスは躊躇ず、リヴァルト達を差し出すつもりで頷く。

 

「まずは特異点に辿り着きましょう。話はそこからです」

 

 そう締めくくって一同は“塩の杭”の内部への進行を始めた。

 

 

 

 

 

 白く染まった魔獣を蹴散らしながら進んだ先、長い登り坂の通路から唐突に広い空間に出る。

 

「ようやく来たか」

 

 そこには憲兵団の隊服を纏った青年がサラ達を待ち構えていた。

 

「クレド……」

 

「意外だな。まさかお前がガキ共を引き連れて来るとはな……分かってるのか、ここに来ることの意味を?」

 

「“塩化病”のことなら薬を飲んでいるから大丈夫よ!」

 

「はっ……」

 

 言い返して来たアリサにクレドは鼻で笑う。

 

「おめでたい頭をしてるな。お前達がどんな薬を使ったかは知らねえが、この“塩の杭”の中に来ておいて安全だと思っているのか?」

 

「何ですって!?」

 

 心底見下した眼差しにアリサは激昂して弓を構える。

 

「落ち着きなさい」

 

 それをサラは手で制してクレドに尋ねる。

 

「クレド、あんた達が“塩の杭”と一緒に消えようとしているのは本当なの?」

 

「ちっ……シャンテの奴か」

 

「直接聞いたのはこの子達よ。あたしはさっきまであんた達の思惑通り、あんた達を全員殺して止めるつもりだったわ」

 

「その言い方、カンリリカは殺さなかったか……随分温くなったなぁ“紫電”のバレスタイン」

 

「そういうあんたの方こそ、こんな馬鹿げた心中に付き合うなんて、随分と付き合いが良くなったじゃない……

 “怪人化”……そんな人体実験まで受けて……他人のための献身するなんて似合わないわよ」

 

「は……抜かせ」

 

 言い返して来るサラにクレドは自嘲するように鼻で笑う。

 

「別に大したことじゃねえ……

 俺の目の前でいなくなったリーザの遺言って言う理由もあるが……一番はお前と決着を着けるためだ」

 

「決着ですって?」

 

「対戦成績の話だ。お前が一位で俺が二位……

 一位のお前は猟兵に、二位の俺は憲兵団にそれぞれ行くことになった。あの時の勝負、俺はお前に負けを認めたつもりはねえ」

 

「何年前の話よ」

 

「だが勘違いするなよ」

 

 呆れるサラにクレドはおもむろに手を胸に当て、全身に闘気を漲らせる。

 憲兵団の隊服から翼を模した蒼い装束へと装いは変わり、紫の髪は金色へと変化する。

 

「シャトラールとアプリリスの奴はお前にわざとやられるつもりだろうが、俺は違う」

 

 クレドは双剣を抜いて獰猛な笑みを浮かべる。

 

「どっちにしろここでいなくなるんだ。なら派手に散ってやろうじゃねえか」

 

 血気盛んなクレドの物言い。

 戦場で華々しく散りたいと言う狂戦士にサラは呆れたため息を吐く。

 

「前言撤回……あんたは変わってないわ」

 

「月並みだがここを通りたければオレを倒して行くんだな……

 だが、まあ条件によっては通してやってもいいぜ」

 

「どういう風の吹き回しよ」

 

 胡乱な眼差しを向けるサラにクレドは剣でリィンを指す。

 

「リィン・シュバルツァーって言ったなぁ……

 お前の方が今の腑抜けたサラよりも断然そそるぜ」

 

「……はぁ」

 

 分かりやすい獰猛な目を向けられてリィンは思わずため息を吐く。

 

「どういう理屈か知らないがお前も“怪人”になれるんだろ?」

 

「俺のそれは貴方達の“怪人化”とは違うんだけど」

 

「クカカ……別に何だって構いやしねえ。“塩化病”が進むから怪人同士でやり合うことはなかったからなぁ……

 まあ、聞くまでもなく相手をしてもらうつもりだがッ……!」

 

 そう言うやいなや、クレドは突撃する。

 

「っ――」

 

 リィンはすぐにそれに反応して太刀に手を掛け――

 双剣は双銃剣によって受け止められた。

 

「フィー!?」

 

「みんなは先に行って、こいつの相手はわたしがする」

 

「あん……?」

 

 双剣を止められたクレドは怪訝な顔をして一旦離れて、不機嫌を隠さず言葉をぶつけてくる。

 

「引っ込んでろテメエのようなチビガキはお呼びじゃねえんだよ」

 

「むっ……」

 

 興味ないと言外に言われフィーは顔をしかめながら、リィン達に提案する。

 

「わたし達には制限時間がある……ここで全員で戦って足止めされるよりも、一人残ってリィンとサラを先行させるべき」

 

「そうかもしれないけど……」

 

「一人じゃ戦術リンクが使えないんだよ。それであんな人と戦うなんて無理だよ」

 

 その提案にアリサとエリオットは渋る。

 

「問題ない。あの程度すぐに倒して追い付くから」

 

「は……言ってくれるじゃねえか。雑魚の分際で」

 

「その言葉、そっくりそのまま返すよ」

 

 そう言い返すとフィーは徐に腕を交差するように構え――

 

「はああああああっ!」

 

 その小さな体に翠の闘気を溢れさせた。

 

「これはもしかしてウォークライ!?」

 

「いや……それをベースにした気法。軽功を取り入れているな?」

 

「正解。リベールでアネラスに教えてもらった」

 

 体格、そして気質から猟兵のウォークライをフィーに合わせて改良したフィー専用のウォークライ。

 

「へぇ……」

 

 雑魚と見縊っていたクレドは変わったフィーの気配に舌なめずりをする。

 

「前言撤回だ……ここを通りたければお前達全員でオレをどかしてみせろ!」

 

「じゃ、遠慮なく」

 

 そう叫ぶクレドに応える声は彼の目の前から。

 十分に保っていた間合いにも関わらず、クレドが構え直すよりも速くフィーは一瞬でその間合いを詰めて脚甲を纏った回し蹴りでクレドを横に蹴り飛ばす。

 

「行って」

 

 クレドの背後にあった奥へと続く通路への道をこじ開けたフィーは短く一同を促す。

 

「――行くわよ」

 

「みんなここはフィーに任せよう」

 

 逡巡はわずか、サラとリィンはすぐに判断して駆け出した。

 

「え……でも……」

 

「せめて僕だけでも――」

 

「行こう。二人とも」

 

 アリサとエリオットは初めて見るフィーの本気の速さに驚きながら躊躇うが、クリスがそんな二人を促して走らせる。

 

「任せた」

 

「…………え?」

 

 すれ違ったリィンが掛けた言葉にフィーは困惑して振り返り、リィンの背中を呆然と見送る。

 

「はっ……やってくれるじゃねえか」

 

 そしてリィン達が行くのを待っていたと言わんばかりに壁に叩きつけられたクレドはダメージを感じさせずに立ち上がる。

 

「それにしてもウォークライか……

 猟兵が使う技だと聞いたことはあるが…………こう、か?」

 

 深く息を吸ったかと思うと、クレドはその身に紅い闘気を纏う。

 

「っ――」

 

 容易くウォークライを真似してみせたクレドにフィーは思わず目を見張る。

 

「クカカ……俺に一発入れた褒美だ。ひとまずテメエで我慢してやるよ。せいぜいオレを楽しませろチビガキ」

 

「上等……」

 

 敵の強大さを改めて思い知るフィーだがその口元には小さな笑みが浮かんでいた。

 

「言っておくけど、今は誰にも負ける気がしない」

 

 任せる。と言ってくれたことに気持ちが高揚する。

 兄達にも、父親にも言われたことのない初めての言葉。

 猟兵としてなら一つの戦場を任せるという一人前と認めた、フィーが終ぞ言われたことのなかった言葉。

 リィンにそんな思惑はなかっただろうがそれでも認めてもらえたようで、フィーは静かな闘志を練り上げる。

 

「ひゅう……言うねぇ」

 

 強気なフィーの発言にクレドは気を良くして双剣を構える。

 

「速攻で潰す」

 

「こっちの台詞」

 

 翠と紅の闘気が立ち昇り《妖精》と《鷹》の戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

「フィー、大丈夫かな?」

 

 走るエリオットは何度も背後を伺いながら、一人残ったフィーの心配をする。

 

「そうよ。何で教官もリィンもフィーを一人で戦わせたのよ。確かにフィーがあんなに速く動けるのは驚いたけど何も一人で戦うことないじゃない」

 

 エリオットに同調するようにアリサもフィーを残した不満を口にする。

 前を走るサラとリィンには聞こえていないのか、それとも意図して無視しているのか二人は何も言ってこない。

 

「ねえ教官、リィンも――」

 

「アリサ、フィーが残ったのは戦略的に見ても正しいよ」

 

 愚痴るのではなくはっきりと言ってやろうと声を上げたアリサをクリスが止める。

 

「何でよ? 私達みんなで戦った方が確実に勝てるじゃない。そりゃ一人にこの人数はちょっと気が引けるけど綺麗ごと言っている場合じゃないでしょ?」

 

「僕達の勝利条件はクレドに勝つことじゃないよ……

 儀式が完遂するまでにリィンさんを特異点に辿り着かせるのが最低条件だ。その上で条件を付け加えるならどれだけリィンさんを消耗させずに送り届けることができるかが重要なんだ」

 

 リィンがいくら凄くても、全力で戦える回数は限りがある。

 “塩の杭”の封印にどれだけの力が必要か分からない以上、できる限りリィンを戦わせないというのは間違った判断じゃない。

 

「それともアリサはリィンさんと一緒じゃないと戦うのが怖い?」

 

「なっ!?」

 

「別に僕達はそういうことを言いたいんじゃなくて、フィーだけじゃなくせめて僕達の内の一人でも残るべきだったんじゃないかって思うんだ」

 

「それこそ必要ないよ」

 

 エリオットの反論をクリスは一蹴する。

 

「フィーのあの速度をついて行けるのはここではリィンさんとサラ教官だけだよ……

 下手に誰かが残っても戦術リンクのデメリットでフィーの動きを鈍らせることになる」

 

 フィーの目にも止まらない動きを思い出して二人は口を噤む。

 

「どうする? 僕としてはこの後に出てくる三人の内の一人を引き受けて、リィンさんを先に行かせるつもりだけど」

 

「クリス!?」

 

「でも僕はフィーと違ってまだ一人で彼らと戦うには力不足だ……僕が用意した“奥の手”も君たちがいなければ役に立たないものだしね」

 

「本気なのね?」

 

「肩を並べて仲良く戦うことが仲間じゃない……

 少なくとも僕は最終局面をのんびり見物するくらいなら“礎”になって戦っていたいよ」

 

 本音を言えばクリスもリィンの戦いを特等席で見たい。

 だが、彼の仲間として振る舞うなら少しでもリィンが戦い易くすることが自分の役割だとクリスは割り切る。

 

「それで君たちはどうする?」

 

 クリスの提案にアリサとエリオットは――

 

 

 

 

 

「辿り着いたか……」

 

 次の広間で待っていたのはシャトラールだった。

 

「シャトラール……」

 

「その様子……どうやらシャンテから話を聞いたようだな」

 

「ええ、この先にアプリリスとティアはいるのね?」

 

 シャトラールが護る様に立つ背後の奥へと続く道を一瞥してサラは呟く。

 

「その通りだ。儀式は滞りなく進んでいる」

 

 悪びれた様子もなくシャトラールは微笑みを浮かべてサラの言葉に応える。

 

「本気みたいね……だけどちょっと杜撰な計画じゃない?

 あたしを“英雄”に祭り上げるつもりだったみたいだけど、それで他の国が本当に黙ると思っているの?

 特に“塩の杭”なんてアーティファクトを使ったことを七耀教会が黙っているとは思えないわ」

 

「私としても百点満点と言える計画だとは思っていないさ……

 だが26年分の膿を切り取ることは誰かがやらなければならないことだ」

 

「それにしたって急ぎ過ぎじゃない」

 

「計画を早めた要因は二つ……

 年々過激になっていく“北の猟兵”の仕事ぶりを考えての判断だ」

 

「……どういう意味よ?」

 

「難しいことではない。稼ぐことを目的として仕事を選ばなくなってきた彼らをいつか、どこかの国が疎ましく感じ、対処に乗り出す日が来るだろう……

 “北の猟兵”の滅びはノーザンブリアの滅びに繋がる。そうなる前に“北の猟兵”をノーザンブリアから解放する必要があっただけだ」

 

「だからって……やって良いことの限度があるでしょ!?

 しかも後始末をあたしに全部押し付けるつもりとか無茶なこと言ってんじゃないわよ」

 

「その事についてもある程度は手助けを残してある」

 

「何ですって?」

 

「七耀教会の不正の証拠。これをあの《鉄血宰相》に渡せば少なからずの譲歩を引き出せるだろう」

 

「なっ!?」

 

 予想していなかった劇薬にサラは絶句する。

 

「鉄血宰相は領土拡大主義者だ。ならば七耀教会の権威を地に落とすこの情報に良い値を付けてくれるだろう」

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

 思わずサラはシャトラールの言葉を止める。

 鉄血宰相、ギリアス・オズボーンはサラにとって帝国の遊撃士協会の活動を止めた不俱戴天の敵。

 そんな男と取引しろと言い出す旧友の神経に文句を言いたくなるが、七耀教会の不正と言う言葉は聞き流せない

 

「不正の証拠っていったい何の事よ?」

 

「サラ……26年前にノーザンブリアから回収された“塩の杭”の本体は今どうしていると思う?」

 

「そんなのアルテリア法国で厳重に封印されているに決まっているじゃない」

 

「残念ながらその答えは0点だ」

 

「は……?」

 

「七耀教会はあろうことか“塩の杭”を女神の恩寵と捉え、暗殺の道具として利用している」

 

「は……?」

 

 シャトラールがもたらした真実にサラは間の抜けた言葉を繰り返した。

 

「そ、そんな馬鹿な!」

 

「残念ながら真実だ。その証拠もある……それにサラ、君の後ろにいる人物こそ、その生き証人だ」

 

 シャトラールの指摘にサラは恐る恐る振り返り、そこにはリィンがいた。

 

「あ……」

 

 実習先を発表した時、リィンが語った“塩の杭”に貫かれた経験のことがサラの脳裏に過る。

 あの時リィンはレプリカだと言っていたが、話を振られた彼は否定せずに言葉を返す。

 

「情報源は《身喰らう蛇》ですか?」

 

「ふ……胡散臭い組織だが信じるに足るだけの証拠を見せられてしまってはな」

 

 どうしたものかと、リィンは思案する。

 教会が自分を害したことへの口止め料はもらっているのだが、ワイスマンを“塩の杭”で暗殺した記憶についてはその範疇ではない。

 そもそもリィンのは記憶だけで物証もないので、余計な波風を立てないためにもあえて黙秘していたことでもある。

 この場合は迂闊に結社に証拠を握られた教会の落ち度としか言いようがない。

 

「これは許されざる裏切りだ。この事実を公表すれば七耀教会に非難の矛先は向かうだろう……

 何だったら今回の錬成は教会が行ったことだと公表しても良いだろうな」

 

「七耀教会に罪を擦り付けると言うんですか?」

 

 堪らずクリスが口を挟む。

 

「先に世界を欺いていたのは七耀教会だ。それとも君たちは国を滅ぼせる災厄を聖なる武具と崇めている彼らに何も感じることはないと?」

 

「っ……」

 

 そう返されてしまえば黙るしかない。

 この短いやり取りでクリス達も七耀教会への不信感を否定することはできなくなっていた。

 

「それにこの“塩の杭”は儀式が終われば消滅する……

 人は消えた物よりも目に見えた脅威の方に自ずと目を向ける。矛先をすり替えるには実に都合のいい相手だ」

 

「そんなやり方で本当に良いと思っているの?」

 

 理不尽に振り回された恨み言をぶつけてやろうと思っていたアリサは気付けば、その感情を忘れて尋ねていた。

 

「もちろん、私たち自身も出来る限りの努力はしてきた……

 だが、ノーザンブリアが26年の澱みはもう普通の方法では排除できない程に腐っている」

 

「だとしても――」

 

「バルムント大公を蹴落として設立した議会もその時の流れによってかつての高潔さはない……

 何の進展もしない話し合い、責任の擦り付け合い。果ては“英雄”が稼いできてくれた外貨で私腹を肥やす……

 そんなことばかりしている議会では例えノーザンブリアが“塩化”から解放されたとしても遠からず滅亡するだろう」

 

 シャンテから聞いていた話だが、シャトラールの口から語られる言葉には抑え切れない程の怒りを感じた。

 

「そんな故郷の腐敗を知らずに今なおこの地のために献身を捧げてくれている“英雄”達のためにも、私はノーザンブリアの現状をこれ以上見過ごすわけにはいかない……

 サラ達が外で血を流して私たちを生かしてくれたように、今度は私達が血を流す番だ」

 

「シャトラール……」

 

「例え人の道を踏み外したとしても、私達はこれ以上同じ過ちを繰り返すわけにはいかないのだ」

 

 計画の是非はともかく、シャトラールの想いの強さに一同は反論を挟むことはできなかった。

 それだけ彼が語る言葉には熱があり、そこに向けた真摯な思いを否定することなどできはしない。

 

「…………貴方がただの悪人だったら良かったのに」

 

 反発心だけでなんとかその言葉をクリスは絞り出す。

 

「君たちを不当に扱ったことは申し訳なく思っているよ……

 君達には現政権がおかしいことを知ってもらい、バルムント大公に会って欲しかった……

 もっとも、いくつか用意した扇動の材料の中からあれを引き当て、あそこまで醜態をさらしたのは私にとっても予想外だったがね」

 

 自嘲するようにシャトラールは笑い、サラに改めて視線を送る。

 

「終焉は近い――サラ、剣を取れ」

 

「…………あたしにあんたを殺せって言うの?」

 

「それがノーザンブリアを存続させる唯一の方法だ」

 

 はっきりと断言するシャトラールにサラは黙り込む。

 

「殺せないと言うのなら、もう一つ理由を作ってやろう」

 

 そう言うとシャトラールは懐から白い錠剤を取り出した。

 

「それはまさか《グノーシス》?」

 

 リィンがその正体をすぐに言い当てるが、シャトラールはサラ達に見せつけるようにそれを飲み込む。

 効果はすぐに現れる。

 シャトラールの体が見る間に白く染まり、それに応じて闘気が高まっていく。

 

「オオオオオオオオッ!」

 

 結晶化した体は膨張するように広がり、一回り大きくなり異形の存在へと移り変わる。

 

「これも怪人化なの……?」

 

「いや、その原型の魔人化だろう」

 

 慄くエリオットの言葉にリィンは冷静に訂正を加える。

 

『さあ、始めようか。サラ・バレスタインとトールズ士官学院Ⅶ組。私の最後の戦い、付き合ってもらうぞ!』

 

 巨大な体躯にそれに見合う大剣を携えた魔人が戦意を漲らせて咆哮を上げる。

 

「…………っ」

 

 サラは歯を食いしばり、ブレードと導力銃を抜いて――

 

「待ってください、サラ教官。彼の相手は僕達がします」

 

「クリス……だけどこれはあたしの……」

 

「まだ諦めるには早いです。ノーザンブリアのどうしようもない事情は分かります……

 だけどまだ希望はあります。そう僕達には“超帝国人”と言う希望が――あいたっ!」

 

 神妙に説得しようとしたクリスの頭にリィンの拳骨が落ちる。

 

「悪いがその提案は却下だ。あの魔人化はクレドのものとは違って一方通行のものだ。その分力の増幅も段違い……

 とてもじゃないがクリス達三人で抑え込める相手じゃない」

 

「これを見てもそう言えますか? アリサ、エリオット」

 

 クリスは彼女たちの名を呼ぶ。

 

「ええ!」

 

「戦術リンク、オン」

 

 クリスの合図でアリサとエリオットは二人の間に戦術リンクを繋げる。

 そこにクリスは自分の《ARCUS》を手に叫ぶ。

 

「導力魔法《オーバーライズ》」

 

 クリスの《ARCUS》を触媒に二つのラインをクリスはアリサとエリオットとの間のラインを維持したまま、自分とのリンクを成立させる。

 

「…………よし」

 

 ぶつけ本番になったが確かな手応えにクリスは拳を握る。

 《ARCUS》を使った最初の戦いで全員の意識がリンクした現象を何とか再現できないものかとシュミット博士に相談して組み上げた導力魔法。

 まだ未完成ではあるが、ペアからトリオでの連携を可能とするその力はこれまでの戦術リンクでの戦闘の一歩先を行くことは間違いない。

 

「クリス……いつの間にそんなものを……」

 

 《鉄機隊》の“星洸陣”と同等のリンクを成立させていることにリィンは驚く。

 

「僕だって毎回リィンさんから施しをもらうだけじゃ情けなさ過ぎますから」

 

「そういう事よ。私達だって戦えるって証明してやるわよ」

 

「ここは任せて、リィンと教官は先に行ってください」

 

 クリスの“奥の手”に便乗したアリサとエリオットがリィン達を促す。

 

「ああっ! そのセリフ僕が言いたかったのに!」

 

 そんなエリオットの言葉にクリスが声を上げて嘆く。

 

「真面目にやれ……」

 

 そんなクリスにため息を吐いてリィンは考える。

 三人で構築した戦術リンクの力は未知数。

 ぱっと挙げられる欠点はクリスの《ARCUS》の導力魔法を使う領域にリンクのプログラムを並列させているため導力魔法を使えなくなっていること。

 もっともこのメンバーで考えるならクリスは前衛であるため《ARCUS》を介した導力魔法を使うことはないのであまり欠点にならないだろう。

 

「…………サラ教官。ここはクリス達に任せましょう」

 

「リィン?」

 

「少なくても一方的な展開にはならないはずです。なら後は信じましょう」

 

「…………」

 

「ここが終点じゃありません。儀式はこの上で行われているんです。だから――」

 

「分かったわ」

 

 リィンが並べる説得の途中で遮ってサラは彼らの提案を承諾する。

 

『ふ……そう言われて道を譲ると思っているのか?』

 

「それが僕達がここにいる役目。貴方がそれを阻むならその道を切り拓いてみせます!」

 

 クリスは《ブリランテ》を構えて啖呵を切る。

 

「舐めないでよね。私達はリィンとサラ教官のオマケじゃないって思い知らせてやるわ!」

 

「援護は任せて!」

 

 それぞれが自身を奮い立たせ《魔人》との戦いが始まった。

 

 

 

 




在りし日のリベール

アネラス
「フィーちゃんには猟兵のウォークライはあまり向かないと思うの」

フィー
「そんなにダメ?」

アネラス
「ダメってわけじゃないけど、あれって体力をがっつり減らすから動きの速さに影響が大きくでちゃうでしょ?
 体力の総量って言う点でも小さくて可愛いフィーちゃんはどうしても劣る部分があるしね」

フィー
「それじゃあどうすれば良いの?」

アネラス
「そうだね……とりあえずうちの流派の《軽功》を混ぜて速度アップできるようにして、あとは持続時間が長くできるように体力の消耗が少ない呼吸の仕方を覚えたら良いと思うけど」

フィー
「ん。じゃあそれで」

ラウラ
「むう……」

クルツ
「ガイウス君はどうやら潜在的な霊能力がありそうだね。良かったら私の方術を覚えてみないかい?」

ガイウス
「よろしいのですか? そう言った技術は門外不出と聞きますが」

クルツ
「私が教えられることは基礎の部分だけだよ。教本を後日送るとして今日は君の中の力を自覚する訓練をしよう」

ガイウス
「よろしくお願いします」

ラウラ
「むうう……」

アネラス
「えっと……ラウラちゃんは……」

クルツ
「アルゼイド流として基礎が完成されているから私達が下手に口を挟んでしまったらその土台を壊してしまうだろう……
 君に必要なのは多くの戦闘経験だろうね。二人より大目に手合わせの時間を取るとしよう」

ラウラ
「ええ、分かってます。お気遣い感謝します…………………はぁ……」




NG
クリス
「今の僕達じゃフィーの足手纏いだ……
 そう、アクションバトル(イース)システムで戦うフィーに対して、アクティブターンバトル(軌跡)システムで戦う僕達じゃついて行けないんだ」

アリサ
「貴方だってやろうと思えばできるんじゃないの? 剣はあるんだし」

クリス
「無理だよ。いくら同じ例え同じ次元(3D)でも今の僕(Ⅵ)じゃリィンさん達(Ⅸ)と違いすぎるから」

エリオット
「クリスって時々何を言っているのか分からなくなる時があるよね」



補足説明
導力魔法オーバーライズ
《ARCUS》の戦術リンクを構築するための内部クォーツをMクォーツとしてセットして、自由領域で戦術リンクのプログラムを走らせることで常備システムと並列させて二本のラインを構築させています。
リィンに対する対策はまだできていませんが、それも課題の一つとクリスは考えています。
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