(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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77話 塩の大地Ⅹ

 

 

 空気が痛い。

 シャトラールが待ち構えていた広間を抜けた先から明らかに空気の質が変わる。

 良くある上位三属性が働いている霊場とは違う空気にリィンは息苦しさを感じる。

 

「大丈夫ですかサラ教官?」

 

「……あまり大丈夫そうじゃないわね」

 

 サラは顔をしかめながらリィンに返事をする。

 

「だけど体が“塩化”している様子はないわね。あのメイドが持ってきた薬のおかげって言うのが凄い不満だけど」

 

「あはは……」

 

 その薬の出所を考えるとリィンも同じ気持ちになる。

 

「そういうあんたこそ大丈夫なの?」

 

「ええ、俺は特に問題ありませんね」

 

 カンパネルラにやられた時の外側から“塩”になる感覚もなければ、ワイスマンの記憶にあった内側の芯から“塩”になる感覚もない。

 もっともそれが拮抗薬のおかげなのか、正確なところは分からないが問題なく動けることに安堵する。

 

「それにしても最悪な場所ね……塩気が多過ぎて体がベタベタするわ」

 

「まあ……塩の杭の内部ですからね」

 

「とっとと終わらせてシャワー浴びたい……ギンギンに冷やしたビール飲みたい」

 

「ビールはともかくシャワーは賛成ですね」

 

 最奥に近付いて行くにつれて軽口が多くなってくるサラにリィンは付き合う。

 

「でもシャワーよりも温泉に入りたいですね」

 

「良いわね。それ……そう言えば東方じゃ温泉に入りながらお酒を飲む素晴らしい文化があるらしいわね」

 

「確かにありますね。ユン老師もユミルで良く父さんとやっていました」

 

「ふむふむ……ところでリィン」

 

「何ですか?」

 

 猫撫で声のサラにリィンは二年前のことを思い出しながら聞き返す。

 

「クリス達は《影の箱庭》ってところで温泉を堪能したらしいじゃない?」

 

「……分かりました。これが終わったら場所の提供と《グラン=シャリネ・レプリカ》を出して上げます」

 

「よしっ!」

 

 隣を歩くサラの闘気はさらに一段階凄みを増す。

 現金な物だと思いながら、悲壮感が完全に消えて普段のサラらしさを見れて苦笑する。

 

「まあ未来を見据えてやる気になることは悪いことじゃないな、うん」

 

 場違いなやる気の出し方だが、前向きなことは良いことだとリィンは目を瞑る。

 

「それじゃあ、仕事上がりの一杯のためにもさっさと終わらせるわよ」

 

「…………軽口ですよね?」

 

 意気込み、ペースを上げて前に出るサラにリィンは思わず呟いた。

 

 

 

 

 

「アプリリス、ティアッ!」

 

 塩の杭の最奥で“それ”の準備が整うのを待っていた二人は自分達を呼ぶ声に思わず息を呑んだ。

 

「来たかサラ」

 

「ついにこの時が来ましたね」

 

 サラの声を聞いて二人は複雑な気持ちになる。

 六年前から試行錯誤を繰り返した計画の成就。

 本来ならもう数年は先に決行するはずだったが、ティアの事情とサラの帰国が合わさり運命を感じて強行した。

 

「これで終わりか……」

 

「犠牲になってくれた人たちのためにも必ず成功させましょう」

 

 儀式の成就は自分達の消滅と決まっているのに二人は臆することなく振り返る。

 

「……驚いたな」

 

「え……ええ」

 

 最初に目に入ったサラと彼女に付き従ってこの広間に駆け込んできた少年の姿を見て二人は驚愕した。

 

「来てやったわよアプリリス、ティア! 良くもここまで振り回してくれたわね!」

 

「それはすまなかったと思っている。だがノーザンブリアを解放させるには必要なことなのだ」

 

 怒るサラにアプリリスは申し訳なさそうに謝る。

 その顔はかつて共に過ごしていた時と何も変わらず、勢いに任せて罵ってやろうと思っていたサラは毒気を抜かれてしまう。

 

「ごめんなさい、サラ。元々は私がみんなに無理を言ってこの機会に儀式を早めてもらったの」

 

「ティア……ダンデリオンでクレドを逃がしたのはあんただったのね?」

 

「はい……あそこでクレドさんが返り討ちにされると計画に支障が出ると思いましたから……それにしても……」

 

 ティアはこの場に来るとは思わなかったリィンに目を向けて話しかける。

 

「貴方はリィン君でしたよね? ここは特に“塩化”が激しい場所なのに大丈夫なんですか?」

 

「私達やサラの様に耐塩化処置を受けていない者にとってこの場の空気は毒でしかないはず……そなたはいったい……」

 

 シャトラールやクレドもこの“塩の杭”の中心とも言えるこの場には長くいられず、自分達でさえ息苦しさを感じているというのにリィンは平然とした顔でそこに立っている。

 

「ちょっとあたしはそんな“処置”なんて受けた覚えはないわよ」

 

 聞き捨てならない言葉にサラは突っ込む。

 

「地下道で私がサラに撃った弾丸は、お前と私の間に霊的なリンクを作り出すものだ……

 これによりお前は“塩化”のデメリットを受けることなくその恩恵を身に宿すことになった……

 お前がここに平気でいられるのもそのおかげだ」

 

「勝手なことを……」

 

「だがまだそれでは足りない」

 

 不満をもらすサラの言葉を無視してアプリリスは続ける。

 

「本来ならあの三人をぶつけることで覚醒させるつもりだった“ギフト”。その様子ではまだ発現させていないようだな」

 

「生憎だけどあたしはあいつらみたいにコスプレする趣味はないわよ」

 

「ふむ……そうなのか? うちのタンスの奥に随分とファンシーな――」

 

 威嚇射撃の銃声がアプリリスの言葉を掻き消した。

 

「安心すると良い。お前に与えた“ギフト”は既にこちらで方向性は決めてある……“塩の刃”、私達を殺すための力だ」

 

「あんた……自分を殺す力をあたしに渡したって言うの?」

 

「ああ、そうしなければお前はティアを殺すことはできないからな」

 

 アプリリスは振り返り、背後に控えているティアに視線を送る。

 ハリアスクの街で会った時の何処にでもいる服装ではなく、露出の高い民族衣装。

 しかし剥き出しの肌の大半は白く染まり、その上にはいくつもの紋様が描かれている。

 それだけではなく、白い部分は見ている間にも正常な肌を侵食していく。

 

「ティア……その姿は?」

 

「今の私の身体は《グノーシス》という薬を使ってノーザンブリア中の人達と繋がっています……

 この紋様でなんとか人の形を保たせていますが、私はもうすぐ“塩”の化物になるでしょう」

 

「言ってみればティアはノーザンブリアに散らばった“杭の欠片”を集めて“塩の杭”そのものになる……

 そして第二の“塩の杭”となったティアは“魔獣”となってその体が崩壊し切るまで暴れ回るだろう……

 それこそ26年前と同等の被害と汚染を撒き散らしてな。その“魔獣”を倒すための武具がお前の“ギフト”になる」

 

「アプリリス、あんた正気なの? 友達を、一緒に育った家族を“魔獣”にするですって!? そこまで堕ちたって言うの!?」

 

「サラ、私は全部納得しているの……

 私一人が犠牲になるだけで、ノーザンブリアの人々から“塩化病”を無くすことができる……

 この大地全ての塩をどうにかできるわけじゃないので一時しのぎにしかなりませんが、あの子たちの未来が護れるなら私はこれで良いんです」

 

 ティアの悲壮な決意にサラは俯き、弱々しく反論する。

 

「ふざけんじゃないわよ。だからってあたしにあんた達を殺させるなんて……」

 

「いいや。お前にならできる」

 

 拒絶するサラをアプリリスは否定する。

 

「甘えるなサラ。お前は外で、私達は中で何のためにこれまで命を賭けて戦ってきた?

 故郷の貧しさを、誰かの空腹を、ほんの少しの間紛らわせるために、子供たちを少しでも笑顔にできる……

 そんな二束三文のミラのために、血と硝煙に塗れる生き方を選んだはずだ」

 

「っ……」

 

「そこに生じる“欺瞞”から私たちは逃げて良いはずがない……

 そうじゃなかったら、大佐の……父さんの死は無駄死になってしまうだろ」

 

「アプリリス……」

 

「どちらにしろ私たちはもう長くない。ならばせめてお前の手でノーザンブリアのために活用してくれ」

 

「…………」

 

「それはあまりにも一方的じゃないですか?」

 

 黙ってしまったサラに代わってリィンが口を挟む。

 

「確かにノーザンブリアは非公式とはいえ猟兵家業で生き永らえて来た国かもしれません。だからってその責任をサラ教官一人に背負わせるのは筋違いではないですか?」

 

「君も見ただろう?

 今のノーザンブリアの民の姿を。施しを受けるのが当然だと堕落し傲慢になってしまった彼らを……

 これは彼らの目を覚まさせるためでもある」

 

「それは……あのマヤという女の子も含まれるんですか?

 確かに猟兵の外貨に縋らないと生きていけないかもしれないけど、あの子は喋れなくても懸命に生きようとしていたはずじゃないんですか?」

 

「その懸命に生きている子供達から搾取する腐った大人たちがこの国には多過ぎるのだ」

 

 問題はいくらでもあるとアプリリスはリィンの反論に動じることなく言い返す。

 

「それにただ“塩化”を解決してしまっても問題はある」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

「君たちの国、エレボニアは領土拡大主義を唱えていながらノーザンブリアを積極的に取り込もうとしないのは汚染された大地と疫病のおかげに他ならない……

 忌々しいことにこの二つは軍事力のないこの国を守る最後の砦になってくれている」

 

 アプリリスはため息を吐いて続ける。

 

「“北の猟兵”というこの国にとっての弱味をあの鉄血宰相が見逃すことはないだろう……

 結局どう足掻いてもノーザンブリアはもう詰んでいるのだ。ならば少しでも争いが少ない終わらせ方を選んで何が悪い?」

 

「…………“塩の杭”を錬成させたのは市民の心を折る目的もあったんですね?」

 

「ああ、これで彼らは思い知った――いや思い出しただろう。私達の国が薄氷の上に立っていることを」

 

 揺るがないアプリリスに意志を見てリィンは彼女からその背後に控えているティアへと視線を移す。

 

「ティアさん……貴女も同じ考えですか?」

 

「はい……」

 

「貴方達はそれで良いかもしれないけど、残された人達はどう思うか考えたんですか?」

 

「っ……」

 

 続くリィンの言葉にティアはあからさまに動揺する。

 

「マヤ、それにヴァレリーの二人は泣いていましたよ」

 

「っ……そんなこと分かってます。だけど私はマヤの前で死ぬことはできないんです」

 

 リィンの指摘にティアは弱々しい声で反論する。

 

「マヤの両親はあの子の目の前で“塩”になっていなくなってしまった……

 その時にあの子は“声”を失った。だから私はあの子の目の届かない所で死なないといけない。あの子はそうしないと壊れてしまうから」

 

「友達をサラ教官に殺させることは良いんですか?」

 

「サラは私達と志を同じにした仲間ですから……

 悩んで苦しんだとしても、サラは正しい選択の結末ならちゃんと折り合いを付けられる強い子だから」

 

 買い被りとも取れるサラへの絶対の信頼をティアは言葉にする。

 

「だからって残された――」

 

「――――ふざけんじゃないわよっ!!」

 

 リィンの言葉を遮ってサラが吠えた。

 ここに突入する直前にリィン達にされたが、サラもここに至るまで溜め込んでいたものはリィン達と同じ。

 過大な期待を向けてくる彼女たちにサラはここまでの不満をぶちまける。

 

「どいつもこいつも二言目には殺せだ! ノーザンブリアのためだ! いい加減にしなさいっ!!」

 

「サ、サラ教官?」

 

「そうよあたしはもう猟兵じゃないのよ。今は教官つまり先生、教育者。ついでにあたしは今でも遊撃士のつもりなのよ!」

 

「サラ、お前の本質は猟兵のはずだ。ならば命の取捨選択は――」

 

「ああそうですよ! あたしは所詮猟兵上がりの遊撃士ですよ!

 わざと戦火を広げて追加報酬が出るように立ち回ったり、“守銭奴のバレスタイン”なんて影で言われてるくらいにいろいろやってやったわよ」

 

「お、落ち着いてください」

 

 すわった目で叫び出したサラにリィンは腰を引かせながら宥める。

 

「リィン、もう良いわ」

 

「え……? 良いって何が?」

 

「あいつらはもう何を言っても聞く耳なんて持たないわ……

 だったら説得なんて無駄よ。無駄! 言いたいことがあるならぶっ飛ばしてから説教すれば良いのよ!!」

 

「そ、それはそうかもしれないですけど」

 

「ふ……流石に話が早いなサラ。だが間違ってるぞ。私達はこれで――」

 

「うっさい!」

 

 今生の別れの言葉をサラは遮る。

 

「あんた達の事情なんて聞いてやるもんですか!

 あたしよりも頭が良いあんた達が考えたんだから確かにそれが最善なんでしょうね。だけどあんた達は間違ってるわ!」

 

 根拠のない言葉を叫びながらサラは不意に理解する。彼女たちはかつての父と同じことをしようとしていると。

 

「あんた達はやり遂げたみたいな気持ちで逝けるでしょうけどね! 命を捨ててまであたしは助けて欲しくないわよ!」

 

 あの時はただ泣き叫ぶしかできなかった自分を振り払うようにサラは家族たちにあの時の後悔の答えを叫ぶ。

 感情に任せて叩き返された言葉にアプリリスは目を丸くするが、次に微笑を浮かべる。

 

「それでこそサラだ……だがもう私たちは賽を投げてしまった。今更後には退くことはできないのだ」

 

「ごめんなさいサラ。私達の事は恨んでくれていいわ」

 

 申し訳なさそうに笑ったティアは彼女たちの背後に鎮座していた龍神兵を振り返る。

 外で戦った龍神兵よりも重厚な体躯。そして尋常ではない力が集まっているそれにサラは顔をしかめる。

 

「それがあんたの“異能”ってわけね?」

 

「ガルヴァ・ロア。カンリリカちゃんが受け継いだソルの兄弟みたいなものです。ただ私の場合は――」

 

 龍神兵の胸が開くとそこに現れた《核》にティアは光になって吸い込まれる。

 

「見ての通り、カンリリカとは違って術士を狙うことは不可能だ……

 それからこの龍神兵はティアとリンクしていて儀式が完了すれば“塩の魔獣”となる……

 ティアを止めたければ“異能”の刃を使うしかない」

 

 龍神兵と融合したティアに代わってアプリリスがサラに攻略方法を授ける。

 が、それを無視してサラはリィンに話しかける。

 

「任せて良いかしら?」

 

「そうですね…………本来なら気軽に使うべき“力”ではないですが、相手が“塩の杭”なら仕方がないでしょう」

 

「悪いわね。あたしはアプリリスの方をとりあえずぶっ飛ばすから、大物は任せたわ」

 

 サラはそう言ってリィンから距離を取って空間を開ける。

 

「何を――」

 

 後ろに下がったサラをアプリリスは訝しむが答えはすぐに示される。

 

「来いっ! 《灰の騎神》ヴァリマールッ!!」

 

 リィンの背後に光が生まれ、それはすぐに大きくなって人の形を取る。

 

「…………………は?」

 

 突然現れた巨大な騎士にアプリリスは目を大きく見開いて間の抜けた声をもらす。

 そんな彼女を無視してリィンは先程のティアと同じように現れた巨人に光となって取り込まれる。

 

「な、何だそれは!?」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」

 

 アプリリスとティアの焦った声が広間に響く。そんな二人の様子にサラは思わず口元に笑みを浮かべてしまう。

 彼女たちが優位だと思っていたのは、龍神兵の力にそれだけの自信があったからだろう。

 本来なら戦車や飛空艇のような兵器を使って戦わなければならない巨大な体躯。

 サラが勝つためにはそれこそ“塩”を祓う特効の武具が必要になり、最終的にはそれに縋らなければいけないと高を括っていたから。

 だが突如として現れたのは龍神兵と同等の体躯の騎神。

 アドバンテージはなくなり、計画を根本から崩す存在の登場に動揺した隙を二人は逃すはずもない。

 

「ノーザンライトニングッ!」

 

「八葉一刀流、七の型――無想覇斬っ!」

 

 雷撃の一撃と、一瞬七斬の斬撃がアプリリスと龍神兵に襲い掛かった。

 

 

 

 

「思ったより呆気なかったわね」

 

 アプリリスを縛り、手足を斬り落としてダルマにして転がした龍神兵の上に登って来たサラはそこにいるリィンに声をかける。

 

「どう? 行けそう?」

 

「…………ええ、これで――」

 

 剥き出しの“核”に触れていたリィンは水面に手を突っ込む様にその中に手を入れる。

 

「っ――」

 

「リィン!?」

 

 顔をしかめたリィンにサラは声を上げるが、それに応えるよりもリィンは見えない“核”の中でそれを掴んで一気に引き出す。

 されるがまま、気を失っていたティアは腕を掴まれて“核”から引きずり降ろされた。

 

「ティア……」

 

 改めて近くで見る彼女の姿は痛々しいものだった。

 露出した肌のほとんどが塩のように固まっていて、いつ崩れてもおかしくない。

 

「大丈夫です」

 

 息を呑むサラにリィンはそう一言返して、《鬼気》を使った焔で彼女を一瞬だけ包む。

 それだけで白かった肌は元の人の肌に戻る。

 

「…………もしかして治ったの?」

 

「表面だけです。流石に全部を治すことはできません」

 

 簡単に言ってのけるリィンにサラは改めてリィンが“塩の杭”から生き残ったのが事実なのだと実感する。

 

「それよりも彼女をお願いします」

 

 抱えたティアをサラに押し付けてリィンは改めて“核”に触れる。

 

「どうするつもり?」

 

「見たところこの龍神兵はティアさんと繋がった特異点のようです。だから俺が代わりに中に入って《塩の聖痕》を作ります」

 

「大丈夫なんでしょうね?」

 

「…………やるだけのことはやってみます」

 

「そのことですが、一つプランを提案します」

 

 緊張をはらんだリィンの答えに被せる形で、突然現れたリンがそんな提案をしてきた。

 

「《四輪》を解析して時間・空間凍結が私には可能です……

 力が十分に集まった“塩の杭”を以上の術で停止させ、異空間に封印するのはどうでしょうか?」

 

「それってつまり《リベル=アーク》みたいに封印するってことか?」

 

「はい。リィンの身体を貸して頂けるなら“力”の行使ができますので、この場にデバイスタワーを呼び出すことは可能です」

 

「………………その手があったか」

 

「いやいや、何言ってるの?」

 

 ぽんっと手を叩くリィンにサラは思わず突っ込む。

 

「あ……確かにいきなり《四輪の塔》を借りるのは無理ですよね」

 

「違う……そうじゃない」

 

 ズレた言葉を返して来るリィンにサラは頭痛を感じる。

 

「冗談です。流石にそれはクローゼさん達に迷惑が掛かりますから」

 

「そうですか……」

 

 しょんぼりと肩を落とすリンに、サラは突っ込みを何とか堪える。

 

「とにかくやってみます。もしかしたら案外簡単にできるかもしれませんから」

 

 あえて楽観的に言ってリィンは龍神兵の中に入る。

 

「っ――これはきついな」

 

 中に入った瞬間、身体に掛かった負荷にリィンは顔をしかめる。

 見れば指先から“塩化”が始まっている。

 

「もたもたしていられないな」

 

 周囲を見回してみてもヴァリマールの中のように操縦席があるわけではなく、ただ暗い空間が広がっているだけ。

 リィンは徐に太刀を抜き、精神を集中する。

 

「彼は我、我は彼……」

 

 龍神兵とリンクしている“塩の杭”とノーザンブリアの民との繋がりを把握。

 

「なれど汝は我等に非ず……」

 

 “塩の力”を把握して、それを“聖痕”として太刀に刻む。

 

「八葉一刀流――っなっ!?」

 

 次の瞬間、太刀は音を立てて砕け散った。

 

「これは“塩の杭”の力じゃない――まずいっ!」

 

 それを察した瞬間、リィンは龍神兵の中から脱出し、外で待っていたサラをティアごと抱えてその場から逃げる。

 

「ちょっ! リィン!?」

 

「話は後です。来ますっ!」

 

 驚くサラを一喝してリィンは注意を促し、それは来る。

 ダルマにされ“核”を剥き出しにされた龍神兵の下に変わらず流れ続ける“塩の力”。

 凄まじい霊力が集まり、龍神兵は塩の結晶を内側から増殖させて埋もれていく。

 

「もしかして失敗したの?」

 

「それ以前の問題です」

 

 龍神兵を中から見て触れた分かったこと。

 

「あれは“塩の杭”を作るためのものじゃありません。“塩の杭”はそれを錬成するための通過点に過ぎなかったんです」

 

 今まであった気に留めてなかった符号がようやく繋がりリィンは理解する。

 目の前でゆっくりと塩の結晶で埋め尽くされた龍神兵は起き上がる。

 

「グノーシス……これが目的だったのか」

 

 かつて《D∴G教団》のアジトを整理していた時に知ったグノーシスの原材料プレロマ草のことを思い出す。

 プレロマ草は《幻の至宝》の眼となる依り代。

 つまり《幻の欠片》がそこに含まれており、薬として国民に撒き散らされた“幻の因子”は“塩の杭”の錬成に伴い集束させられた。

 

「サラ教官……教官は二人を連れてここから降りてください」

 

「リィン?」

 

「ここから先は俺の領分です」

 

 緊張を孕んだリィンの横顔にサラは息を呑み、事態の深刻さを理解する。

 龍神兵は中から食い破られるようにその姿を変貌させる。

 

「これが《D∴G教団》が追い求めた“神”」

 

 《輝く環》と融合したワイスマンのような異形によく似た風貌。

 《白の虚神》――デミウルゴスがここに産声を上げた。

 

 

 






 《白の虚神》デミウルゴス

マリアベル
「…………………は?」

ヴィータ
「……………………何なの本当に……もうやだ……」

キーア
「えっと……キーアにとって妹ができたってことなのかな?」

ギリアス
「おい、イシュメルガ……」

イシュメルガ
「こ、こ、これも予定調和の内……」

ワイスマン
「フフフ、ハーハッハッハッハ! アーハッハッハッハッ!!」


補足説明
プレロマ草には今でも幻の因子が含まれてますが、それは本来微々たるもの。
教団はその因子を抽出して濃度を上げて人に投与することで疑似的に“神”に至ろうとしていたと解釈しました。
ここではノーザンブリアの国民に広く浅く幻の因子を撒き散らし、人の中である程度因子を成長させ、塩の杭の錬成に巻き込んで集めることでデミウルゴスを錬成しています。
クロスベルの錬成とは違いますが、力が足りない分は塩の杭で補うようになっています。

全体的なバランスはキーアに負けますが、土壌はノーザンブリアの怨嗟から生まれたものなので狂暴性に関してはこっちの方が上と考えています。


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