(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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82話 取引

 

 本来、宰相直属の護衛官として西ゼムリア通商会議に同行するだけのリィンには準備をすることなどほとんどなかった。

 しかし先のノーザンブリアでの“異変”の当事者ということもあり、各国首脳への状況説明する役目を任されることになったリィンは多忙な時間を過ごすことになった。

 一日増えた日程でリィンはノーザンブリアでの《特別実習》について報告することとなった。

 その資料作りから講義の練習など護衛対象の鉄血宰相の監修の下で予行練習を何度も行うこととなった。

 

「――ふむ、まあそれで良いだろう」

 

「ありがとうございます」

 

 三日かけてようやくもらえた及第点にリィンは安堵のため息を吐いた。

 学院で行っている仲間内での報告会とは違い、言葉尻一つ注意され、揚げ足を取られ、さらには言外の威圧を掛けられるなど、本番さながらの練習にリィンも流石に疲れを感じていた。

 

「ところでリィン・シュバルツァー」

 

「はい。何でしょうか?」

 

 厳かな口調で名前を呼ぶギリアスにリィンは自然と警戒心を高めながら言葉を返す。

 この三日間、鉄血宰相として厳格な態度で接して来たギリアスだったが、そんな彼らしくない態度でリィンに質問をする。

 

「あの子…………いや、代わりの太刀はちゃんと準備できているのかね?」

 

 てっきりナユタのことを追究してくると思いきや、ギリアスは言いかけた言葉を引っ込めて太刀のことを尋ねて来た。

 

「ええ、大丈夫です」

 

「そうか……」

 

 ギリアスはそれだけ返すと黙り込む。

 リィンも退出する機先を制されてしまい、奇妙な沈黙が二人の間に訪れる。

 

 ――気まずい……

 

 先日の実技テストで剣を合わせた時に彼が実父だと確証を得たが、その時にはそれ以上のやり取りはなく改めてこれが実の親子の対面となった。

 が、この数日はギリアスの方が毅然とした態度を取っていたため、リィンもそれに合わせて帝国宰相と男爵の嫡男として接していた。

 その一種の張り詰めた緊張状態はここに至って限界を迎えようとしていた。

 

「…………テオから聞いたが、あの子をシュバルツァー家の養子にするようだな?」

 

「ええ、少し出生が特殊なので施設に預けるわけにはいきませんから……

 オリヴァルト殿下に保証人になってもらいましたから、今度は俺の時のような誹謗中傷を受けることはないでしょう」

 

「そ、そうか……その子の事だが――」

 

「ナユタと名付けました。それ以上の事はプライベートになるので宰相閣下とは言えお話しすることはできません」

 

「そうか……」

 

 執務机に両肘を着いて組んだ手で口元を隠した姿勢を取っていたギリアスは心なしか落ち込んだ声を返して来る。

 

「しかし、書類上ではテオの養子だが君が育てるつもりらしいではないか。君はまだ学生、そこのところはどう考えているのかね?」

 

「俺には託された責任があります。とりあえずあの子を取り巻く環境が安定するまで学院を休学することも視野に入れています」

 

 《幻の至宝》でもあるナユタを狙う勢力は想像するだけでも結社、教団、そして七耀教会と候補は上がる。

 彼らがどんな行動に出るか分からないこともあるが、引き取った自分が後の世話を両親に任せて自分が学業に専念するというのはあまりに無責任だろう。

 

「いや、そもそも退学させられる可能性もありますけど」

 

「その心配はないだろう。オリヴァルト殿下が学院の理事をしておられるのだから」

 

「いえ、これはオリヴァルト殿下にもどうすることも出来ない問題ですから」

 

 確かに理事長であるオリヴァルトになら認められるかもしれないが、問題は周りの風評被害。

 拾って来た子供を親に任せず、自分で育てようとするリィンを周囲がどんな目で見るか。権力に頼れば悪評はそれこそオリヴァルトに波及してしまうかもしれない。

 もちろんリィンが身を退いて退学してもその風評は変わらないが、その場合はリィンだけで納めることができるだろう。

 

「なるほど……よく考えているようだな」

 

「テオ父さんにはどちらにしろ迷惑を掛けることになってしまいますが、全てを丸く治める方法はありません……

 それに後二年しかないんですから、のんびり学生生活に浸っているわけにはいかないでしょう」

 

「いや……それは生き急ぎ過ぎではないのかな?」

 

 覚悟が極まっているリィンにギリアスは窘めるように進言する。

 

「君さえ良かったら私からも援助をして上げても良いんだが」

 

「御冗談を……」

 

 ギリアスの申し出をリィンは一言で拒絶する。

 

「鉄血宰相に援助されても自分には返せるものはありません」

 

「それは――」

 

 ギリアスは咄嗟に出そうになった言葉を呑み込む。

 

「安心してください。貴方が何者であろうとも通商会議での仕事は全うします。では、そろそろ時間ですので失礼します」

 

 言葉を濁らせたギリアスに好機と締めの言葉を言って退出する。

 その背中を見送ったギリアスは扉が閉じると同時に深々とため息を吐いた。

 奇しくも執務室から退出したリィンも同じタイミングでため息を吐いていた。

 

「何を考えているんだろうな……」

 

 この数日間、ふとした拍子にナユタの事について探りを入れてくるギリアスにリィンは警戒を強めていた。

 彼女が《幻の至宝》の後継者だと言う事に気付いているのか、鉄面皮の表情もそうだがこちらを見透かしていると思う厳しい眼差しは対峙するだけでも精神力を疲弊する。

 

「…………あの子は《黄昏》に巻き込むわけにはいかない」

 

 彼女は《黄昏》には関係ない存在。そして頼るには幼過ぎる。

 

「父さんたちに宰相をナユタに接触させないように頼むか……」

 

 何をされるか分からない以上、不用意な接触は避けさせることをリィンは決めて踵を返す。

 

「きゅい」

 

 そこに宮殿の中だと言うのに鳥の鳴き声が響いた。

 呼ばれたような気がして振り返ると、そこには見覚えのある青い鳥がいた。

 

「グリアノス?」

 

「きゅいっ!」

 

 リィンの呼び掛けにグリアノスはもう一度鳴くと、差し出したリィンの腕に止まる。

 

「何でここに――手紙?」

 

 足に筒状に止められた手紙をグリアノスは器用に咥えてリィンに差し出した。

 

「もしかしてヴィータさんから――いたっ!?」

 

 手紙を受け取ったリィンはそのまま嘴で額を突いて来たグリアノスの不意打ちを受けるのだった。

 

 

 

 

「のう、リィンよ。放蕩娘が呼び出した店と言うのは本当にここであっておるのか?」

 

「ええ、ここで間違いありません」

 

 夜の帝都。

 ナユタをルフィナに任せ、グリアノスが持ってきた手紙に記されたレストランにやって来たリィンとローゼリアは見るからに高級そうな佇まいの店に尻込みする。

 

「確かこういう店はドレスコードとやらが必要のはずじゃったな? まさかこんな方法で妾を除け者にするとは謀ったなヴィータめ」

 

「いや、ドレスコードを言われたら俺も似たようなものなんですけど」

 

 今のリィンの服装はラフなもの。とてもではないが目の前の店に釣り合う格好ではない。

 

「どうしましょうか?」

 

 途方に暮れるリィンとローゼリアだったが、彼らの様子を見越してなのかタイミング良く店の扉が開く。

 

「はぁいリィン君、それに婆様。待っていたわよ」

 

 リィン達に負けず劣らずのラフな姿のヴィータ、否ミスティが二人を出迎えた。

 

「ここは私が良く仕事で使っているお店でね。奥には個室があるから秘密の話をするのに重宝しているのよ」

 

「むう……こんな高そうな店に入り浸る成金になどなりおって」

 

 ローゼリアはヴィータに白い目を向ける。

 

「というかその恰好はらじおぱーそなりてぃーという奴だったか?

 オペラの歌姫と言い、結社の魔女と言い、ちょっと働き過ぎではないか?

 ユミルの頃から少しやつれたのではないか? ちゃんと食べているのだろうな?」

 

「あーあー聞こえない」

 

 耳を塞いでヴィータは子供のようにローゼリアの追及を無視する。

 そんな微笑ましいやり取りを苦笑を浮かべて見守るリィンだったが、それを横目で見たヴィータは不機嫌そうにリィンを睨んだ。

 

「そもそも私がやつれたのはリィン君のせいよ」

 

「俺の?」

 

 心当たりがないリィンは首を傾げる。

 

「そうよ! 先月の帝都でのエンド・オブ・ヴァーミリオンと言い、先週のノーザンブリアでの《虚神》の現出と言い。何をやってくれているのかしら?」

 

「それは言い掛かりです。テスタ=ロッサが出て来たのは帝国解放戦線のせいですし、デミウルゴスも俺のせいじゃありません」

 

 流石結社の一員、情報が早いと思いながらリィンは自分は悪くないと弁護する。

 

「…………」

 

「それに“劫炎”を嗾けて来たのはヴィータさんですよね? 暗黒竜の復活はもしかして……」

 

「あれは彼らの独断よ。私だって驚いたんだから!」

 

「…………嘘じゃなさそうですね」

 

 弁明するヴィータにリィンは疑いの眼差しを解く。

 

「ところでさっきグリアノスに嘴で額を思いっきり一突きされたんですけど?」

 

「ぷい」

 

 リィンの指摘にヴィータは明後日の方を向いた。

 

「誤魔化した」

 

「誤魔化したのう」

 

「今日の私はただの仲介よ」

 

 白い目を向けてくるリィンとローゼリアの視線を無視してヴィータは本題に入る。

 

「リィン君に用があるのは私じゃなくて彼女よ」

 

 そう言ってヴィータは高級レストランの最奥の扉を開けた。

 

「よく来てくれました、リィン」

 

 リィン達を出迎えたのは《鋼の聖女》アリアンロードだった。

 

 

 

 

 

「まず小さな用事を済ませるとしましょう」

 

 雑談を交えた食事の後。

 アリアンロードは空気を引き締めるように用件を切り出した。

 

「貴方が《風の剣聖》から譲り受けた《黒耀石の鍵》を譲る、もしくは破壊してもらえないでしょうか?」

 

「いきなり随分な要求ですね? この鍵の来歴を聞いても良いですか?」

 

 予感があったから一度トリスタに着替えや代わりの太刀を取りに行く時に一緒に持ってきておいた《黒耀の鍵》をテーブルの上に置いてリィンは尋ねる。

 

「今は失われた古代の遺跡を目覚めさせる本来の鍵の合鍵、と私は聞いています」

 

 古代遺跡と言われて、影の箱庭でアリオスと巻き込まれて現出したもののことを思い出してリィンは顔をしかめる。

 

「すでに本体は失われているそうですが、万が一を考えてその遺跡にまつわるものは抹消しておきたいというのが盟主の願いのようです」

 

「そちらの事情は分かりました。壊すことについては異論はありません」

 

 あの騒動によりアリオスも鍵の処分に関してはリィンに一任している。

 

「ただ、結社にそんな鍵を譲渡するつもりはありません。かと言って破壊は難しいんですがどうするつもりですか?」

 

「失礼、鍵をこちらに」

 

 差し出された手にリィンは訝しみながら渡す。

 アリアンロードはその鍵をじっと見つめると無造作に握り締め――そのまま握り潰した。

 

「これで問題ありませんね?」

 

「…………え?」

 

 折ろうとしてもびくともしなかった鍵を簡単に握り潰された事実にリィンは目を丸くする。

 

「リアンヌ……」

 

「まさか本当にやるなんて」

 

 力任せな解決に二人の魔女は呆れる。がそれを無視してアリアンロードは話を続ける。

 

「話が前後してしまいましたが、黒の鍵の放棄に対して結社が支払う対価としてこのようなものを用意しました」

 

 そう言ってアリアンロードがテーブルの上に置いたのは拳大の“黒耀石”。

 

「…………リアンヌさん……それはまさか……?」

 

「はい。結社が所有していた“時の聖獣”がこの世に生み出した黒耀石です。ブルブランに言われて半分に切断しておきましたがよろしかったでしょうか?

 これが気に入らなければサンドロット家から唯一持ち出した――」

 

「いえ、それで良いです」

 

 リィンはこれ以上の何かを出そうとしたアリアンロードを止めるために妥協する。

 とうとう揃ってしまった七つ目の聖石。

 聖痕の触媒として欲しかったと喜ぶ半面、揃って欲しくなかったと嘆くのが半分。

 

「確かこれで七つの聖獣が造り出した七耀石が全て揃ったんじゃったか?」

 

「ええ、ブルブランから預かってきたけど。すごいわねリィン君」

 

 ローゼリアの呟きを肯定するようにヴィータは傍らに置いてあったトランクケースを開け、中に整列させた六つの七耀石をその場に見せる。

 

「それについて盟主から御言葉と、貴方の偉業を称えてこちらを預かってきました」

 

「まだ何かあるんですか?」

 

 さらに何かを取り出したアリアンロードにリィンは嫌そうな顔を隠さずに聞き返した。

 

「こちらになります」

 

 そう言って黒耀石の隣に置いたのは無色透明の石だった。

 

「これは?」

 

 聖獣の石と違い、何の力も感じない――それこそガラスの塊にしか見えないそれにリィンは首を傾げる。

 

「それはまさか」

 

 大きな反応したローゼリアはテーブルに身を乗り出して、その無色透明な石を凝視する。

 

「分かるんですかローゼリアさん?」

 

「ううむ……七耀の力が欠片も感じない……これは自然にできるようなものではない代物じゃぞ」

 

「その通りよ婆様。それは盟主が“外の理”を用いて造り出した無色の七耀石。いわば蛇の聖石とでも呼べば良いのかしら?」

 

 ローゼリアの考察をヴィータが肯定する。

 

「そんなものをどうして俺に?」

 

 特殊な七耀石だと言う事は分かった。しかしそれを敢闘賞としてリィンに差し出して来た意図が読めずに尋ねる。

 それにアリアンロードは今日の本題とも言える太刀を石の隣に並べて続ける。

 

「貴方は聖獣達の加護をこの太刀にまとめるつもりだったそうですね?」

 

「ええ、貴女の槍。劫炎のアングバールと打ち合える武具が今後の戦いに必要になりますから、俺が用意できるものとして聖獣の石を使うつもりでした」

 

 とは言えリィンは七つの石を集めるつもりなどなく、聖石に見合う聖痕が完成したら行うつもりだったのでこうして七つの石が集まるのは予想外だった。

 

「盟主からの御言葉をそのまま伝えます。その試みは間違いなく失敗します」

 

「…………理由を聞いても良いですか?」

 

「単純に物理的な問題です。例え話になりますが貴方の手が足りないそうです……

 貴方がやろうとしていることは七つの穴が空いている水道管を手で塞ごうとしているようなもの……

 せいぜい二つまでなら問題なく聖痕に落とし込めるそうです」

 

「そうですか……」

 

 まるで全てを見透かしたような言葉。

 ならば妥協して二つの聖獣の加護だけで良いかと考えたリィンの思考にアリアンロードは続く言葉で待ったをかける。

 

「ですが、盟主も奇蹟的に集まった七の聖獣の加護を持った武具の誕生を見てみたいと仰っています……

 そのためにそれぞれの七耀石に内包する力をこちらの無色の七耀石に一度統合してから聖痕にすることを勧められました」

 

「そう……ですか……」

 

 敵に問題を指摘され、その改善策まで提示されたことにリィンは複雑な気持ちになる。

 

「ところでリィン」

 

「まだ何か?」

 

 どうするべきなのか決めあぐねているリィンにアリアンロードはさらに続ける。

 

「この太刀ですが実はまだ銘はありません」

 

「え……?」

 

 対面に座っているはずのアリアンロードだが、心なしか身を乗り出して来たような圧を感じる。

 

「聖獣達の加護が合わさった一刀に相応しいと思える銘が私にあるのですが、もし良かったら受け入れてもらえないでしょうか?」

 

 いつかの時のように聖女は無表情のまま、リィンに有無を言わせないプレッシャーをかけてくる。

 

「リアンヌ……はしゃぎすぎじゃ」

 

「ふふ、おかわいいこと……」

 

 魔女二人からの言葉にアリアンロードはこほんと、咳払いをして佇まいを直す。

 

「もちろん貴方がすでに決めた銘があるというのなら無視して構いません」

 

「いえ、まだ決めてないですけど……その銘を聞く前に、その太刀を受け取る交換条件を提示しても良いですか?」

 

 このままだと押し付けられると考え、リィンは強引に交換条件を提案する。

 

「そうですね……そういう話でしたね。では貴方がこの太刀を受け取るために、私に何をさせたいのですか?」

 

「まず前提として俺はノルド高原とブリオニア島にあった《ロストゼウム》と《アークルージュ》の器を回収しておきました」

 

 リィンの不意打ちの告白にヴィータとアリアンロードは思わず固まる。

 が、それを無視してリィンは続ける。

 

「今、ここに持ってきていませんが、それぞれの欠片を内包した騎神用の剣を俺は用意しています……

 俺からの要求は《銀の起動者》にその剣で俺との“相克”に臨んでもらうことです」

 

「至宝の欠片を剣に……?」

 

「リィン君……貴方は何を考えているの?」

 

「なるほど、そのためだったか……」

 

 驚く結社の二人を他所に、ローゼリアはその目的を察する。

 

「もちろんその“相克”では俺も用意した片方の剣を使って戦うつもりです……

 机上の空論になりますが、この二つの剣を“相克”に紛れ込ませて一つの“鋼の剣”にできれば“黒”に対抗できる力になると俺は考えています」

 

 リィンがもたらした提案、黒への対抗策にアリアンロードとヴィータは黙り込んで考え込む。

 

「リィン君、確認させてもらうけどそれってもしかして“鋼の器”を錬成しようとしているのかしら?」

 

「そうです」

 

 躊躇うことなく頷かれた肯定に三人は改めてリィンの意図を理解する。

 理解したからこそ頭を抱える。

 

「そうよね……器が錬成に取り残されていたと考えたら、そっちの方からアプローチを掛けるのは間違いじゃないわよね」

 

「どうやら私たちは騎神の存在に意識を取られ過ぎていたようですね」

 

「若いもんはこれだから怖いのう」

 

 そんなリィンの計画に三者三様で賞賛の言葉をもらす。

 

「リィン・シュバルツァー……

 是非もありません。その計画、むしろ私の方からお願いさせていただきたいくらいです」

 

 武を高めること以外、大した指標もなかった己の道。

 それを恥じるつもりはないが、明確な光明が見えたこと。それが“あの人”の子によってだと思うと感慨も一入だ。

 

「《幻焔計画》……もしかしたら一度練り直さないといけないかもしれないわね」

 

「幻焔計画……」

 

 ヴィータがこぼしたその名前にリィンは直前のノーザンブリアで行われていた計画を思い出して微妙な気持ちになる。

 

「それで剣は今どこに?」

 

「トールズ士官学院の旧校舎にあります。今は忙しいのでクロスベルから戻ってから受け渡しで良いですか?」

 

「構いません」

 

 リィンの意見にアリアンロードは首肯する。

 

「ところでリィン君」

 

「何ですか、ヴィータさん?」

 

「貴方、明後日からクロスベルに行くらしいけど。何も起こさないわよね?」

 

「いや……だからそれを俺に言われても困るんですけど」

 

「お願いだから、これ以上不確定要素を増やさないでね、お願いだから」

 

「ですから文句はテロリスト達に言ってください」

 

 凄んで念を押して来るヴィータにリィンは肩を竦めてそう答えるしかなかった。

 

「ふむ……話はまとまったようじゃが、リアンヌよ。結局お主はこの太刀にどんな銘をつけるつもりだったのだ?」

 

 最後にローゼリアが太刀の話題を引き戻す。

 

「リィン・シュバルツァーが持つに相応しい銘です……

 七つと一つの石の加護を得た一刀。その名は――“八耀”」

 

 

 

 





鉄機の徽章
デュバリィ
「ふおおおっ!」

エンネア
「マスターこちらは?」

アイネス
「ゼムリアストーン製の徽章ですか?」

アリアンロード
「ええ、私のかつての槍を砕いた素材で作ったものです……
 余り物で申し訳ないのですが、今まで良く尽くしてくれた礼、そしてこれからもよろしくと意味で受け取ってもらえますか?」

デュバリィ
「もちろんですマスター!! このデュバリィ。一生この徽章を肌身離さず持ち続けてます!」

エンネア
「ねえ、もしかして……」

アイネス
「言うな。余り物と言っていたがマスターに彼と我らに順列をつけているわけではないだろう……
 せめてあいつにはこのまま夢を見せてやる方が良い」

エンネア
「たしかに今水を差すのはやめておいた方が良いわね」

デュバリィ
「~~♪」




取引前

ヴィータ
「好きなものを頼んで良いわよ。ここは私が奢って上げるから……
 あ、婆様はダメよ。婆様の分は私が選ぶから」

ローゼリア
「はぁ!? それはどういうことじゃヴィータ?」

ヴィータ
「だって婆様。デザートばかり頼むでしょ? 私にあんなこと言うくせにどうせ里では偏食しているんじゃないのかしら?」

ローゼリア
「うぐ……それは……」

リィン
「偏食はダメですよローゼリアさん。そんなことじゃ大きくなれませんよ」

アリアンロード
「好き嫌いは相変わらずのようですね」

ローゼリア
「ええいっ! そんな目で妾を見るなっ!」

ヴィータ
「安心してここのシェフは一流よ。野菜嫌いの婆様でも美味しいと言わせる絶品料理を出してくれるから」

ローゼリア
「ふんっ! どんな風に料理されようが妾は屈したりしない!」


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