(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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 原作ユーシスはガレリア要塞について否定的でしたが、ここでは少しその考えを改めさせています。


 創の軌跡
 オズボーンに従ったクレアさんには監視がついて、解放戦線のリーダーだったクロウは悠々と故郷に里帰りしているってどうなんでしょうね?

 今更だけどアリオスさんは遊撃士としてクロスベルの独立に尽力するらしいけど、遊撃士の「国家権力への不干渉」に抵触するんじゃないのかな?




85話 ガレリア要塞Ⅰ

 

 

 

 

 

 

 8月29日。トールズ士官学院Ⅶ組の教室。

 

「それじゃあホームルームを始めるわよ」

 

 教壇に立ったサラがそう切り出す。

 

「知っての通り、明日から貴方達には今月二度目の“特別実習”に行ってもらうわ」

 

「聞いていたとはいえ、気が重いな」

 

 サラの発表に前回の実習の疲れを感じてマキアスがため息を吐く。

 

「昨日がレポートの提出期限だったからね……正直だるい」

 

 その呟きにフィーは同意する。

 

「残念だけど、どんなに愚痴ってもやることは変わらないわよ」

 

 全体的な疲れ、そして“前の実習”から“次の実習”までうまく気を緩める事が出来ていなかった様子が容易に読み取れるがサラは特に指摘せず職務を全うする。

 

「じゃ改めて発表するけど、次の“特別実習”は全員でガレリア要塞に行ってもらうわ」

 

「《ガレリア要塞》……帝国正規軍の一大拠点にてして東の脅威に備える巨大な防壁か」

 

「馬鹿馬鹿しいほどに巨大で大仰な要塞らしいな。かの《列車砲》が二門格納され、演習場も併設されているという」

 

「《列車砲》……グエン老が悔いていた兵器か」

 

 ラウラとユーシスの呟きにガイウスが反応する。

 

「ええ、東の共和国方面……

 正確には緩衝地帯である《クロスベル自治州》を射程に入れた化物じみた大きさの導力砲らしいよ」

 

「うーん、あれは凄いよねー。まさに鉄のカタマリって感じでボクも圧倒されちゃったもん」

 

「ってミリアム……?」

 

 被せてきたミリアムの言葉にクリスは軽く驚く。

 

「《列車砲》をその目で見たことあるんですか?」

 

 エマに聞き返され、ミリアムはうんと頷く。

 

「オジサンに案内されてクレアやレクターと一緒にね……

 『大崩壊以降、人が持つに至った最大級の破壊力を秘めた兵器だ。それがこの場所に置かれたことの“意味”を考えてみるといい』

 そんなことを言っていたかなー」

 

「この場所に置かれた“意味”か……」

 

 彼女を通して尋ねられた言葉にラウラは真面目に考え込む。

 

「ふん! “意味”なんてクロスベルへの恐喝行為以外あるわけないじゃない」

 

 不機嫌さを隠さずにアリサはその答えを出す。

 

「アリサ……」

 

「それは言い過ぎではないか?」

 

「言い過ぎなもんですか。兵器は所詮“人を殺す”道具よ……

 たった二時間で人口50万人のクロスベルを壊滅できる虐殺兵器以外に何て言えばいいのかしら?」

 

「もちろんその側面を否定するつもりはない……

 《列車砲》に限らずガレリア要塞の戦力を高めることはクロイツェン州へ睨みを利かせている意味合いもあるが、東の脅威を重く見ていることも事実だ」

 

 荒ぶるアリサに対してユーシスは落ち着いた様子で自分の肯定的な考えを口にする。

 

「それはどういう意味?」

 

 気持ちはアリサと同じだったエリオットはユーシスの意見に思わず聞き返す。

 

「《列車砲》がガレリア要塞に配備されたのは1199年の頃、おそらくは開発はその数年前から始まっていたと考えるなら切っ掛けはやはり《百日戦役》が切っ掛けなのだろう」

 

「《百日戦役》……リベールと帝国の戦争よね? それがどうしてガレリア要塞の《列車砲》に繋がるのよ?」

 

 アリサの質問にユーシスは肩を竦める。

 

「あの戦役においてリベールの智将、カシウス・ブライトによって飛行船を用いた戦略の有用性を証明してしまった。それが一番の理由だ」

 

「そうか。カルバード共和国の主力は“空挺機甲師団”……

 リベールの反攻作戦で痛手を負わされた帝国が、カルバードのその部隊を危険視するのは当然か」

 

 たったそれだけで結論に辿り着いたマキアスにユーシスは頷いて補足する。

 

「飛行船の発着場所はそのまま飛行距離、つまりは射程距離となる……

 クロスベルをカルバード側に抑えられでもしたら、クロイツェン州はもちろん帝都ヘイムダルにチェックを掛けられたことになる……

 だからこそ、帝国はクロスベルを経済的な面以上にカルバードに取られるわけにはいかない。もしくは取られてもすぐに制圧できるような兵器が必要だった」

 

「しかし今はカルバードの首都と帝都を繋ぐ直通の飛行船があるではないか、その理屈はおかしいのではないか?」

 

 ガイウスが疑問を挟む。

 

「今は飛行船の技術も向上し一度の飛行距離も格段に伸びているが、それでも《列車砲》の抑止力が大きな価値を持つのは変わらないだろう」

 

「で、でも……不戦条約が……」

 

「不戦条約がリベール女王の名の下に締結されたのは二年前、逆に言えばそれ以前は切っ掛けさえあればいつ戦争が起きてもおかしくはなかったということだ……

 現にクロイツェン州はその《列車砲》が配備されたおかげでカルバード共和国の侵略の可能性という目に見えない緊張から解放されている……

 ルーレに住んでいたお前には分からないかもしれないがな」

 

「なっ――何ですって!?」

 

「はいはい、議論はその辺にしておいてもらおうかしら」

 

 ユーシスの余計な一言で激昂したアリサをサラが手を叩き、機先を奪う。

 

「とにかく実習先はガレリア要塞……

 今話題になった《列車砲》の見学も予定しているから各自思うことはあるでしょうけど、実物を見て改めて考えてみると良いわ」

 

「むぅ……」

 

 アリサは言葉を呑み込んで席に座り直す。

 感情的にはサラもアリサ側だが、クロイツェン州出身のユーシスの意見も一理あると考えながらサラは続ける。

 

「今回の“特別実習”はこれまでと違ってⅦ組だけじゃなく、一学年全体が参加するわ……

 それについて貴方達Ⅶ組にはそれぞれ二人一組になってそれぞれのクラスのリーダーとして引率してもらうことになるわね」

 

「二人一組……今はリィンさんがクロスベルに行って、ミリアムが入ったから人数的には丁度良いかもしれないけど」

 

 クリスの呟きに一同の視線はそのミリアムに集まる。

 

「うん? どうしたの?」

 

 無邪気に首を傾げるミリアムに一同は不安になる。

 

「サラ教官、大丈夫なんですか?」

 

 ミリアムはまだⅦ組に編入してきてそれ程時間は経っていない。

 学院にあっと言う間に馴染んでしまったが、それは小さな子供として扱われているからであり周りが大人な対応をしているから。

 それに加えて性格的にもリーダー役が務まるとは思えない。

 

「そこのところもちゃんと考えているわよ……

 とりあえず、組み分けを発表するわよ。まずはⅠ組、ユーシスとエマ」

 

「まっ順当だろうな」

 

「頑張らせていただきます」

 

 貴族クラスでも地位の高い者が多いⅠ組にアルバレア公爵家のユーシスを宛がうのは当然として、エマは学院の首席という地位があるからこその選定。

 

「Ⅱ組、ラウラとガイウス」

 

「うむ、承った」

 

「俺が貴族クラスを……果たして務まるだろうか?」

 

 ユーシスと同じ理由で貴族クラスが納得できるラウラ。そして成績こそ平凡であるがⅦ組の中で一番とも言える懐の深さを持つガイウスならば貴族クラスでも対応できると期待しての選定。

 

「Ⅲ組、アリサとエリオット」

 

「はい、分かりました」

 

「精一杯頑張ります」

 

 Ⅲ組以降は特に予想できる生徒の問題はなく、ここではむしろ積極性のあるアリサと消極的なエリオット。

 

「Ⅳ組、マキアスとフィー」

 

「よろしく頼む」

 

「ん……」

 

 アリサとエリオットの組とは逆に、真面目なマキアスとサボりたがりのフィー。

 

「そうなると僕は……」

 

「ええ、Ⅴ組はクリスとミリアムに担当してもらうわ」

 

 サラの言葉にⅦ組の教室は静まり返る。

 

「正気か? クリスにこれの世話を任せるなんて」

 

「考え直した方が良いんじゃないでしょうかサラ教官」

 

 普段、ミリアムに散々振り回されているユーシスとマキアスはクリスの本当の身分のことも考えて再考を進言する。

 

「ブーブー、ボクだってそれくらいちゃんとできるよ」

 

 唇を尖らせて抗議するミリアムだが、彼女が編入して来てから散々振り回された一同の評価は変わらない。

 

「だから考えてあるって言ってるでしょ。入ってきなさい」

 

「うーっス」

 

 そんな気の抜けた返事が教室外から聞こえてくると緑の制服の上級生がⅦ組の教室に入って来た。

 

「え……」

 

「あれっ……」

 

「2年のアームブラスト先輩……?」

 

 一同の困惑を他所にクロウは悠々と教壇の前に立つ。

 

「――クロウ・アームブラストです。今日から《特別実習》のみ皆さんと同じ《Ⅶ組》に参加させてもらいます」

 

 普段の彼を知る人から見れば信じられない程に丁寧な挨拶。

 しかし、次の瞬間には素行を崩して笑みを浮かべる。

 

「てなワケで、よろしく頼むわ♪」

 

「ええっ!?」

 

「ど、どういう事ですか?」

 

 突然のクロウの参加にアリサは驚きながら尋ねる。

 

「いや~これには非常に深刻かつ、デリケートな事情があってだな」

 

「はあ、よく言うわよ」

 

 勿体付けるクロウにサラはため息を吐く。

 

「コイツ、前期の期末テストでよりにもよってあたしのテストで赤点を取ってくれたのよ……

 しかも必修科目だからこのままじゃ卒業できないって慌てて泣きついてきたの……

 まあ去年と帝都での“特別実習”に協力してもらったわけだから、特例として今回以降の特別実習に参加することを補習扱いにすることにしたのよ」

 

「……なんだそれは……」

 

「思いっきりどうしようもない理由じゃないですか……」

 

「おいおい馬鹿にすんなよ。赤点を取っちまったのは解答欄が一つずつズレちまっていたせいで、俺が馬鹿なわけじゃないぞ」

 

 蔑む目を向けられたクロウは慌てて弁解する。

 

「そういうことだからクロウにはクリスとミリアムと一緒にⅤ組の引率を担当してもらうわ……

 ああ、別に敬語とか使う必要ないわよ。もしかしたら来年はあんた達と同級生になるかもしれないし」

 

「怖いこと言わないでくれ」

 

 サラの言葉を想像してクロウは蒼い顔をして肩を竦ませる。

 

「ま、そういうわけだからよろしく頼むぜ。坊ちゃんよ」

 

「え、ええ……よろしくお願いしますクロウ先輩。だけど坊ちゃんはやめてください」

 

 突然のクロウの参加にクリスは驚きながら、差し出された手を取り握手を交わすのだった。

 

 

 

 

 

 8月30日。

 鋼鉄の巨壁とも言えるエレボニア帝国最大の軍事基地、ガレリア要塞。

 その巨大な建築物にトールズ士官学院の一年生たちは列車から降りて、外に出て整列し改めてその見上げる巨壁に圧倒される。

 そんな生徒達の前にナイトハルトが立つ。

 

「ようこそ《ガレリア要塞》へ、士官学院の諸君」

 

 一度言葉を切り、生徒達を見回したナイトハルトは学院にいる時とは異なる雰囲気を纏って名乗る。

 

「改めて――帝国軍・第四機甲師団に所属するナイトハルト少佐だ……

 今回はⅦ組だけではなく、君達士官学院生には“軍隊”というものの本質、その“チカラ”がどういったものであるか見てもらう」

 

 その言葉に生徒達の空気に改めて緊張が走る。

 

「本日、14:00.本要塞に付属する演習場で第四機甲師団、第五機甲師団による合同軍事演習が行われる。お前達にはそれを見学してもらう」

 

 第四機甲師団。

 その名前が出て来たことにエリオットは驚く。

 

「それまでは各クラスに分かれて今回の演習で使われる兵器についての“特別講義”を行う。私の方からは以上だ」

 

 そう締めくくり、学生たちはそれぞれの担当教官に先導される形でガレリア要塞へと入って行った。

 

 

 

 

 

 演習で使われる主力戦車《アハツェン》を始め、旧型の戦車に軍用飛行艇を始めとする講義を受ける。

 昼には質素な食事に貴族クラスが騒ぐというアクシデントがあったものの、概ね大きな問題は起こらずカリキュラムは消化されていく。

 そして今、クリス達は演習場にて“軍事演習”を目の当たりにしていた。

 

「うーん……すごいな。写真を撮るのはダメだって言われたけど、ラジオのネタにしても良いのかな?」

 

「写真……写真か……実際のとは違うけどこれが戦場の光景みたいなもんなんだよなぁ」

 

「これが砲撃……」

 

「うーん……あの粗食、この基地の食事はあえてそういう風にしているみたいやけど、なら売り込める物は……ぶつぶつ……」

 

「これが帝国正規軍の軍事力ですか」

 

 クリスが担当するⅤ組の面々は体の芯に響く轟音と振動に戦々恐々と言った様子で圧倒される。

 若干、一名は商魂たくましい方向に思考をやっているが、概ねそれがⅤ組に限らず、他のクラスも同じようなものだった。

 

「すっごいねー」

 

「あんなんが、正規軍には数百台も配備されてんだろ? 正直やってらんねーよな」

 

 そしてミリアムが歓声を上げ、クロウは愚痴を吐く。

 

「…………うん、そうだね」

 

「どうした坊ちゃん? まさか漏らしたのか?」

 

「そんなわけないだろ!」

 

 呆然としていたところにからかってきたクロウの言葉にクリスは猛然と抗議して睨む。

 

「ただ、あの新型戦車《アハツェン》も先月のテスタ――“暗黒竜”に太刀打ちできなかったんだなって思い出しただけです」

 

「…………ああ、あれか」

 

「そしてそれに勝ったリィンさんの《灰の騎神》……

 僕達はこうして戦車の破壊力に驚いているけど、リィンさんにはもしかしたら脅威でも何でもないのかもしれないと思ったんです」

 

「確かにな……《騎神》を使えば戦車がいくらあろうが簡単に蹴散らせるだろうよ」

 

「クロウ先輩?」

 

 クリスの呟きに応えるクロウの言葉に違和感を覚えて振り返る。

 

「ん……? どうした?」

 

「……いえ、何でもありません」

 

 違和感の正体に気付かずにクリスはその疑問をスルーする。

 

「リィンって言えば、今頃クロスベルにいるんだよね?

 んー、やっぱりこっちからじゃ要塞の影になっちゃって見えないね」

 

「見えない? ミリアム、何を見ようとしているんだ?」

 

「ほらほら、例の《オルキスタワー》って建物! 通商会議が開かれる超高層ビルなんだけど」

 

「ああ……帝国時報やラジオでも話題になっていた……

 今日が除幕式だって聞いているけど、ここからでも見えるのかな?」

 

「《列車砲》の辺りならよく見えると思うよ。ねえねえ後で見に行かない?」

 

「馬鹿なことを言ってないで、今は軍事演習をちゃんと見なさい」

 

「えー少しくらい探検してもいいじゃん」

 

「おっ、面白そうじゃねえか。見学が終わったら自由時間らしいし、俺もオルキスタワーってのに興味があるから行くか?」

 

「二人とも」

 

 自分達の立場を忘れて楽しもうとしているミリアムとクロウを諫めてクリスはため息を吐く。

 

「リィンさんか……」

 

 ガレリア要塞の鉄の壁を振り返ってクリスは考える。

 明日が通商会議の本会議なのだが、今日はノーザンブリアの異変についてリィンが各国への説明を行っているはず。

 自分も関わっていただけに各国がノーザンブリアの併合に納得してくれたのか、気にならないわけではない。

 

「今頃何をしているんだろう……」

 

 呟いてクリスは首を振って雑念を払い、まだ続いている軍事演習に集中するのだった。

 

 

 

 

 

 特別実習一日目の終了が宣言され、就寝時間までの自由時間が許された中でエリオットは一人、オーラフ・クレイグに呼び出されて応接室にいた。

 そして父の口から聞かされることになった言葉にエリオットは声を上げて聞き返した。

 

「どういうこと父さんっ!? 何で急に……」

 

「言葉通りの意味だ。お前が望むなら今からでも音楽院への転入を認めよう」

 

 戸惑うエリオットにオーラフは用意しておいた書類をテーブルに置いて繰り返した。

 

 

 

 

 







今頃のクロスベル

イリア
「それじゃあリィン君が来てくれたから最後のリハやるわよ」

リーシャ
「リィン君こっちに、本番まで時間がないですから急いでください」

リィン
「はいはい、分かってます……はあ……」



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