(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~ 作:アルカンシェル
8月31日、火曜日。
この日は丁度、向こう側の《クロスベル自治州》において通商会議の本会議がある日だった。
そんな中、トールズ士官学院生たちはまだ日が昇らない早朝から放送で叩き起こされ広大な演習場をパンパンに膨らんだ背嚢を背負い、導力ライフルを肩に下げ、ヘルメットを被って走らされていた。
「ぜー……ぜー」
「な……Ⅶ組は……いつも……こんな……ことをして……やがるのか……」
「いろんな所に行って羨ましいと思っておったけど……学院の軍事教練より……きついやろ」
「ふふ……いつも学院で偉そうにしている貴族生徒達のあの顔……うぷ……」
「えっと……みんな大丈夫?」
息も絶え絶えに、中には現実逃避をしているⅤ組の面々に同じ装備で身を包み、さらに腰に剣と導力銃を下げたクリスが声を掛ける。
「な……なんでクリスは平気な顔してるのよ?」
「く……Ⅶ組の体力は化物なのか?」
「いや、そんなことないと思うけど」
演習場を見回し、自分達の一団から離れて四つの集団が同じように走っている中のクラスメイト達の顔を遠目に観察してみるがみんな辛そうな顔をしている。
そしてⅦ組どころか学年全体で最も死にそうな顔をしているのは――
「あーうー……ねえガーちゃんに――」
「ダメだって言ってるでしょ」
自分達の集団の最後尾をフラフラした足取りで必死について来ているミリアムが何度目か分からない戦術殻の使用を求め、クリスは却下した。
その答えにミリアムはがっくりと肩を落とす。
体力がないわけではないのだが、《アガートラム》で移動することに慣れ過ぎている彼女にとって限界まで体力を絞り出される持久走はまさに苦行でしかなかった。
「ミリアムちゃん、お水をどうぞ」
「わーい……ありがとうロジーヌ」
直前までの瀕死振りを忘れたかのようにミリアムはロジーヌが差し出した水筒を一気に呷る。
「くくく、だらしねえな後輩共」
「そういうクロウ先輩も遅れていますよ」
「うるせいぞ後輩。俺はお前達の倍の荷物を背負わされているんだぞ!」
「自業自得でしょ」
一人だけ先輩ということもあり、クロウは一年生たちの倍の重さの背嚢を担がされている。
「でもクリスさんは……他の皆さんに比べて余裕そうですね」
「うん、いろんな人から体力だけは付けておけって言われたから……
それに荷物は確かに重いけど、雪山の行軍訓練に比べたら……後ろから追い駆けて来る《人喰い虎》も《羅刹》もいない持久走なんて天国だよ……うん」
他のみんなよりもやれていることに感激するよりも、銃弾も斬撃も背後から飛んでこない行軍訓練の温さにクリスは思わず涙をこぼす。
「――よしっ! 走り込みはこれより最後の一周で終わりとするっ!
各自身支度を整え朝食を摂れ! その後は予定通りのローテーションで動くように!」
ナイトハルトの号令が広大な演習場に響き渡る。
歓声は上がらないものの、終わりの見えなかった持久走の終了に安堵の空気が広がる。
「やっと終わった……」
「今ならあのクソまずい食事も余裕で食えるぜ」
その場にへたり込みそうになるミリアムとクロウにクリスは苦笑し――
「生憎だけどⅤ組は朝食の後は第四機甲師団との戦術訓練だから休んでいる暇はないよ」
「…………マジかよ? 列車砲の見学は? 導力戦車の運転とかもあっただろ!?」
「それは他のクラスが先だね。というかクロウ先輩は僕達の補佐なんですから、カリキュラムの予定はちゃんと把握しておいてください」
「あの……クリスさん」
「ん? どうしたのロジーヌ?」
「ガーちゃんさん……」
振り返ったそこにはぴくりとも動かないミリアムを抱える《アガートラム》がクリスの意見を窺うように待っていた。
*
クリスが率いるⅤ組はその後、第四機甲師団に混ざっての体力トレーニングを始め、陣地を使ったフラッグ争奪戦などの実戦さながらの模擬戦闘。
軍人が運転する導力戦車に乗せてもらうなど要塞ならではの様々なことを体験することになった。
それらを何とかこなして昨日と同じ内容のランチを無心の境地で平らげて、Ⅴ組はようやく要塞内での座学を受けることになった。
その最中でそれは起きた。
要塞そのものを激しく揺らした轟音と地響き。
直後、教壇に立っていたナイトハルトの軍用ARCUSに通信が入る。
「こちらナイトハルト。ワルター司令でしたか……今の震動はいったい……クロスベル方面の空を見ろ?」
突然の指示にナイトハルトは不信に思いながら、座学を中断する。
「お前達はこの場で待機していろ」
「待ってください。ナイトハルト教官! 僕も行きます」
「ボクもボクも」
「生徒代表として今のが何だったのか確認させてくれても良いんじゃないか?」
すぐに同行を名乗り出たクリスとミリアム、そしてクロウ。
「……時間が惜しい。ロジーヌが中心としてⅤ組はこの場に待機」
そう指示を出してナイトハルトは足早にブリーフィングルームから出て行き、クリス達はそれを駆け足で追い駆けた。
「な……何だこれは……?」
クロスベル方面を望む深い峡谷に面した左翼のテラスにてそれを目撃することになったナイトハルトは言葉を失う。
「空が燃えている……?」
同じく右翼のテラスで、ユーシスとエマを伴ってそれを目撃したサラも同じように絶句した。
「何だあれは……まるで太陽が増えたような」
「人が造り出した業火……お婆ちゃん……?」
蒼い空を真っ赤に染め上げる紅蓮の光。
クロスベルはもちろん、遠く離れた地表にまで届く熱波にエマは言いようのない胸騒ぎを感じる。
思わず見入ってしまった二つ目の太陽はそのまま収束して消え、残ったのは雲一つない蒼穹の空だけが残った。
「…………ナイトハルト教官! 兄上と連絡は!?」
あまりの光景に取り繕うのを忘れてクリスはナイトハルトに詰め寄った。
「あ……ああ、待て……」
クリスの声で我に返ったナイトハルトはワルター司令に連絡を取ろうと軍用ARCUSを取り出した。
「はい、こちらでも確認しました。しかし――ミュラーから通信ですか? ええ、そのまま繋いでください」
司令と話している途中で割り込んで来たクロスベルにいるはずのミュラーからの通信。
ナイトハルトは司令部にも聞かせることを許可してそれを受ける。
「どうしたミュラー! 今の上空での爆発はいったい何だ? クロスベルで何が起きている?」
生徒達の前だということを忘れてナイトハルトは通信機に向かって捲し立てる。
帝都での“暗黒竜”、ノーザンブリアでの“塩の杭”に匹敵する尋常ではない事態の予感を感じながらクリスはミュラーからの言葉を待つ。
「…………なんだと……シュバルツァーが……?」
ミュラーからの報告にナイトハルトは絶句しながらも、続く報告に何とか言葉を返す。
「――分かった。こちらでも備えておこう。ああ……ああ。くれぐれも気を付けるがいい」
険しい顔のままナイトハルトは通信を切って、クリス達に向き直る。
「クロスベルで異変が?」
「ああ、その通りだ……
つい先程、会議が開かれていた超高層ビルを《帝国解放戦線》とカルバード側のテロリストが襲撃をしたらしい」
「ふーん……でもただの襲撃じゃあの爆発は説明付かないよね?」
ミリアムの指摘にナイトハルトはいっそう表情を険しくしながら答える。
「カルバードで秘密裏に開発されていた戦略級の導力爆弾が飛空艇で持ち込まれたらしい……
その威力はクロスベルの街を呑み込む程の規模のもの。襲撃者達を制圧できたが時限式のそれを解除する暇はなくシュバルツァーがヴァリマールを使い、空へ……」
「まさか……」
ナイトハルトの口から出て来た言葉にクリスはもう一度空を見上げるが、そこにはやはり雲一つない空が広がっているだけだった。
「やったか《G》……なら俺達も始めるとするか……」
呆然とする一同を他所に昏い笑みを浮かべた“彼”はARCUSでどこかに通信をして、すぐに切った。
それを合図にガレリア要塞は再び揺れた。
*
ガレリア要塞の格納庫から最新の導力戦車が自動操縦で暴走を始める。
演習場で暴れ回り、外側からガレリア要塞へ向けて砲撃を始める戦車の群れの鎮圧に第四機甲師団が駆り出されたタイミングを狙い澄ましたように上空に帝国解放戦線の飛行艇が対空砲火がされないガレリア要塞に乗り込んだ。
「くっ……やはりこちらは陽動だったか」
その光景を下から見ることしかできなかったオーラフは思わず歯噛みする。
とはいえ、隙あらば要塞に向けて砲撃をしようとする戦車たちを放っておくことはできない。
「頼んだぞナイトハルト……無事でいてくれエリオット」
陽動を警戒して残してきた部下と要塞内部で避難しているはずの息子のことを思い、オーラフは一刻も早く暴走する戦車を鎮圧するために声を張り上げる。
「中将っ!」
「どうした!?」
戦車の上で仁王立ちして戦場を見回していたオーラフは中からの声に応える。
「街道から不審な男たちが三人、こちらに歩いて来ます」
「何だと?」
このタイミングで来るのならば帝国解放戦線の増援を疑うが、そうだとしたら最低限導力車で乗り込んで来るだろうと予想していただけにオーラフは虚を突かれる。
「ふぅ……随分と派手にやってるみたいだな」
黒いお揃いのジャケットを纏った三人の男たちの中で中央の男は煙草を吹かしながら騒然としているガレリア要塞を楽しそうに睥睨する。
「はは、帝国最大の要塞も意外と脆かったようやなぁ」
「この程度の襲撃でここまで取り乱すとは情けない」
独特な口調の痩身の男とドレッドヘアの大男は辛口の評価をする。
「最新の導力機器が仇になった典型だな……
しかし因果なものだな……フィーの奴がいるとなると……ま、運が悪かったと割り切ってもらうか」
中央の男は肩を竦ませ、久々の煙草を投げ捨てる。
「あれが《紅毛の猛将》オーラフ・クレイグか……なるほど噂通りの実力らしいな……で、嬢ちゃん。準備は良いか?」
男は自分の背後に付き従う小さな女の子に声を掛ける。
オーラフ達からは丁度男の影にいて見えなかった少女は無感情に男に応える。
「ったく……拾って来たばかりのフィーみたいな受け答えしやがって……まあいい」
徐に男は手を宙に翳す。
「来なっ! ゼクトールッ!!」
その声に応えるように男の背後で光が溢れ、《紫の騎神》が現れる。
「デュランダル――セットアップ」
そして少女もまた男と同じように手を空に翳す。
するとその背後に紫紺の戦術殻が現れると、それは少女を後ろから包み込むように抱き締め光を溢れさせる。
次の瞬間、紫紺の戦術殻は少女と共に巨大なバスターソードと化す。
「なっ!? ヴァリマール……いや《紫の騎神》だと!?」
突然現れた《騎神》にオーラフは目を剥く。
「これも仕事でな……悪いがお前さんにはここで死んでもらうぜ」
《紫》は戦術殻が変化したバスターソードを構え、混迷極まる戦場に乗り込んだ。
*
外で激しい戦闘が繰り広げられている中で、ガレリア要塞内部もまた激しい戦闘が行われていた。
「酷い……」
血と硝煙の匂いが立ち込める通路。
無造作に血だまりの中に倒れる兵士たちにクリスは思わず息を呑んだ。
「んー……ちょっとマズイかもねー」
「マズイっつーか、わりとピンチじゃねえか?」
ぼやいたミリアムにクロウも軽口を返すが緊張は隠しきれない。
「どうやら完全に隙を突かれたようだな。戦車の暴走も含めて全て囮か……」
「ええ、おそらく狙いは二門の《列車砲》――
まさかとは思うけどここからクロスベルの通商会議を狙うつもりかもしれないわね」
ナイトハルトの呟きに外で合流したサラが頷き、テロリスト達の目的を推測する。
「会議場はあの高層ビルですよね? 万が一直撃したら……いいえ、当たらなかったとしてもあんなものをクロスベルの街に撃ち込んだら」
「被害はどれだけ出るか分からん……
それどころか各国の首脳陣を巻き込めばどうなるかも分からないとは……なんて愚かな」
サラの推測に最悪の可能性を考えたエマとユーシスは解放戦線の正気を疑う。
「……なあ教官、他のⅦ組の奴もそうだけど後輩共は大丈夫なのか?」
「っ――Ⅰ組は外の兵舎に待機するように指示を出してあるけど」
「Ⅱ組からⅣ組まではそれぞれ演習場や襲撃されたのとは別の格納庫にいたはず」
「まずいわね。Ⅶ組の子達だけなら何とかするでしょうけど、流石にあの子たちには大勢を守りながら戦う術は教えてないわよ」
「くっ……御丁寧に通信妨害を敷いているか」
《列車砲》の下に急がなければならないところに別の問題が上がってナイトハルトは歯噛みする。
軍人の卵である士官学院生とはいえ軍人が護るべき一般人。
軍人を優先するか、それとも教官としての矜持を優先するか、迷う。
「なら俺がひとっ走りして他の連中を外の兵舎に集めさせるぜ」
「クロウ?」
「俺一人なら機械の魔獣も簡単にやり過ごせるって、そんなわけで特別労働手当てとして単位の方に色を付けてくれると嬉しいんだけどなぁ」
こんなタイミングにも関わらず単位を無心するクロウにサラとナイトハルトは呆れる。
「それにあまり迷っている時間はないだろ?」
廊下の奥から聞こえてくる銃声と悲鳴を窺うようにしてクロウは選択を迫る。
「クロウ先輩の言う通り、時間がありません……
敵は訓練された軍人たちを鎧袖一触に突破するほどの猛者です。《列車砲》が起動する前に追い付かないと」
「クリスさん……」
「当然だな。このような暴挙見過ごすわけにはいかない」
「…………もちろんボクも手伝うよ」
クリスの発言にエマとユーシスは真っ先に頷き、意味深な沈黙を挟んでミリアムも同じ意見を主張する。
「やれやれ、止めても無駄みたいね」
サラは肩を竦めナイトハルトに視線を送り、彼が頷くのを確認してから指示を出す。
「ユーシスとエマはあたしについて来なさい! クリスとミリアムは少佐の指揮に従うこと!」
「それぞれ二手に分かれて右翼と左翼の《列車砲》を押さえる。途中の敵はできるだけ無視して構わん……
これは訓練ではない――実戦だ! くれぐれも気を引き締めるが良い!」
「って少佐は言っているけど、いざという時はリィンが向こうで列車砲の砲弾くらい斬ってくれるでしょうから自分達の安全を最優先に考えなさい」
「――っ」
「サラ教官、それはいくらなんでも……」
「だがあいつならやりかねないか……」
サラのわざとおどけた言葉にエマとユーシスは強張っていた顔で苦笑する。
「んーリィンは――」
「ミリアム黙って」
先程の通信の事を言おうとしたミリアムの口をクリスは塞ぐ。
「ともかく一秒も惜しい。急ぐぞっ!」
そしてナイトハルトもそのことに触れずに号令を出した。
*
「エリクシルッ!」
電撃を纏った突進で通路を塞ぐように横隊を組んでいた人形兵器の陣形にクリスが穴を開ける。
「今です二人ともっ!」
横隊を貫通したクリスを脅威とみなして振り返る人形兵器。
その背後からナイトハルトとミリアムとアガートラムが一斉に戦技を使って一気に薙ぎ払う。
「足を止めるな! 進めっ!」
「そのまま先行してくださいっ!」
《エリクシル》から手を放したクリスは背中に背負った紅耀石の大剣に持ち替える。
「ブリランテ――イクスプロージョンッ!」
振り下ろした炎剣から一直線に炎が地面を伝って走り、炎の刃は体勢を立て直した人形兵器を次々に呑み込み爆散させた。
「っ――それがシュバルツァーが造った魔剣の本領か……」
学院の教練では見ることのなかった魔剣の本領にナイトハルトは目を見張る。
「いえ……これは先日イオさんに精錬してもらったおかげです」
自分でも思った以上の威力が出たことにクリスは戸惑いながら答える。
本来ならそこで終わりだったはずの魔剣だが、セピスを用意することで剣の位階を上げられるとイオが教えてくれたことでまずクリスはブリランテを強化してもらった。
ブリランテでこれなら他の魔剣を強化したらどうなるのか、場違いながらもクリスはワクワクしてしまう。
「それより先を急ぎましょう。今のと同じ技は後一回使えますから、大物が出て来たらそれで潰します」
「――っ……頼もしいものだな」
槍を拾って駆け出したクリスにナイトハルトは苦笑する。
今回クリスが持ってきた三種の魔剣。
それらを駆使して自分の前を走るクリスの勢いは一向に衰えない。
魔剣の力もあるだろうが、人形兵器の種類に応じて素早く的確な攻撃手段を選択しているのは紛れもなくクリス自身の実力に他ならない。
剣と剣でならまだクリスに負けないと言い切れるが、何でもありの戦いとなればもしかしたら危ういかもしれないと場違いながら生徒の成長をナイトハルトは喜ぶ。
「それにしても魔剣か……」
クリスが剣を振るたびに巻き起こる風や炎、そして雷撃。
物語の中でしか見たことのないその存在にナイトハルトは少しだけ羨ましいと思ってしまった。
*
「ようやく戻って来れたか」
つい先程、クロスベルの空を確認するために出た吹き抜けの回廊に戻って来れたことにナイトハルトが一息吐く。
「二人とも、問題ないな?」
「当然」
「はい、大丈夫です」
頼もしい返事にナイトハルトは頷き、激励するように続ける。
「ここを超えればすぐに《列車砲》の格納庫だ……先に伝えておくが《列車砲》の内部には緊急停止用のレバーがある……
状況次第ではお前達のどちらかが――」
ナイトハルトの言葉を遮って重音が響く。
上を見上げればゲートが開き、その中から巨大な《列車砲》が姿を見せる。
「あ、あれが《列車砲》……なんて大きさ」
まだ見学をしていなかったクリスはその巨大さに圧倒される。
「相変わらずでっかいなー」
「くっ、起動が早過ぎる……まさか狙いも付けずに撃つつもりか」
「――ナイトハルト教官っ!」
上を見上げているナイトハルトにクリスは声を上げ、あらぬ方向に武器を構える。
すると中空から大型飛行人形が現れる。
「人形兵器の親玉!?」
「ちっ……時間が惜しい! レンハイムとオライオンがこの場でこいつらを迎撃! 俺は先行する」
「了解っ!」
「任せてよっ!」
明らかに手強そうな人形兵器にナイトハルトはすぐに判断を下す。
クリスとミリアムはそれに応えて、大型人形兵器との戦闘を開始するのだった。
*
「アルカディスギアッ!」
「焼き尽くせブリランテッ!」
アガートラムを纏ったミリアムの拳のラッシュが人形兵器を滅多打ちにし、クリスが突き刺したブリランテが内部から最大火力で人形兵器を焼き尽くす。
「ふう……意外と手強かったね」
「でも何とか倒せた。早くナイトハルト教官を追い駆けよう」
そう応えるクリスの頭上で《列車砲》が再び重い音を上げて動き出した。
砲身を展開し、そのまま仰角を上げて角度を調節する。
「あ……」
「そんな間に合わなかった!?」
さらにジェネレーターの駆動音が響く。
今まさに《列車砲》が撃ち出されようとしたその瞬間――
「ミリアムッ! 僕を投げろっ!」
ブリランテを投げ捨てて、リヴァルトを手に風を纏ってクリスは駆け出した。
「オッケーッ!」
彼の意図をすぐに読み取ったミリアムはアガートラムを纏ったままクリスの後に追従する。
「オオオオオオッ!!」
そのままクリスはテラスの手摺に乗り上げ、蹴りつけて崖から《列車砲》に向けて跳んだ。
当然、人が飛び越えられる距離ではなく、クリスは半分も届かず失速するが、そこでミリアムが空中で彼を掴んで《列車砲》まで運ぶ。
「いっくよー!」
《列車砲》の外側からそこに到着するとミリアムはクリスを思いきり振り被る。
「っ――」
振り回される視界の中で、クリスと同じように外から右翼の《列車砲》に侵入したサラが見える。
「クリスブレイカーッ!!」
即興の名前を付けてミリアムは帝国解放戦線の幹部二人を相手にしているナイトハルトの戦場にクリスを投げ込んだ。
*
「っ――やってくれたな」
それは完全な不意打ちだった。
まさかの《列車砲》の外側からの奇襲。
砲弾のような勢いで乱入して来たクリスの一撃を受けて怯んだ《V》の隙を逃さず、ナイトハルトは《列車砲》内の緊急停止レバーを下げることに成功した。
「全く無茶をする」
まさかあそこからそんなショートカットがあるとは思わず、生徒の無謀な行動に呆れる。
本来なら叱責するべきなのだが、そのおかげで《列車砲》の発射を阻止できたと思えばクリスを責めることはできない。
また同じように動いていた右翼の《列車砲》も沈黙し、サラ達が間に合ったことに安堵する。
「本当だよね。でもそのおかげで間に合ったからいいじゃん」
クリスに遅れて外から格納庫に入って来たミリアムがアガートラムを解いてナイトハルトの横に並ぶ。
彼女の軽い調子の言葉にナイトハルトはため息を吐き、改めて剣をテロリストに向ける。
「《帝国解放戦線》――幹部《V》並びに《S》。貴様らの暴挙は潰えた。大人しく投降しろ」
「フフ……これで勝ったつもりになるのは早いんじゃないかしら?」
ナイトハルトの勧告を《S》は余裕の笑みを持って応える。
「お前らを速攻でぶっ殺してもう一度《列車砲》を動かす。まだ俺達の負けじゃねえ!」
「往生際の悪い奴らめ……」
そんな二人にナイトハルトは侮蔑の眼差しを送る。
「…………どうして……」
仕切り直して一触即発となる空気の中、クリスはおもむろに口を開いて尋ねていた。
「どうしてこんな酷い事ができる?」
周りにはナイトハルトが倒しただろう彼らの仲間の他にも《列車砲》を守っていたガレリア要塞の軍人たちの姿もある。
どれも激しい戦闘の痕が見え、ここに来るまでにいくつも見て来た無残な亡骸と同様に己の血の海に沈んでいる。
「レンハイム……」
「フフ、貴方達がそれを言うかしら? 私たちの仲間《G》を始めとする仲間たちはつい先程、クロスベルの地で皆殺しにされたというのに」
「やはり貴様らの仕業だったか」
「先程通信で連絡があってな。《鉄血》のクソ野郎が雇った同業者に俺の猟兵団の時みたいに無残にやってくれたみたいだぜ」
「うーん、オジサンも結構えげつないからなぁ」
「フン、自業自得だ」
気楽に応えるミリアムとナイトハルトは彼らの主張をその短い言葉で切り捨てる。
「……そんなことのために……あれだけの人を殺したって言うのか……」
「全てはあの男がもたらす恐るべき反理想主義の到来を防ぐため……なんて言っても貴方には理解できないでしょうね皇子様」
「世間知らずの皇子様は引っ込んでな」
「こいつら、クリスの正体を知ってるの?」
「どうやら余計に背後関係を吐かせる必要が出て来たな……レンハイム切り替えろ」
「――はいっ!」
納得できないものを呑み込みクリスはリヴァルトを構える。
「気を付けろ。こいつらは――」
「うふふ、それじゃあ第二ラウンドと行きましょうか」
「邪魔する奴は八つ裂きだ」
そう言う《S》と《V》は次の瞬間、示し合わせたように同じ言葉を叫ぶ。
「「戦術リンク・オン」」
「なっ!?」
《S》と《V》の間に繋げられた霊的なライン。
第四機甲師団のエースと呼ばれたナイトハルトが二人掛かりとは言え手こずった理由。
「ククク……いつまでもお前らの専売特許だと思ったら大間違いだ」
「これで貴方達とのアドバンテージはない。それならどちらが強いかは明白よね」
盗人猛々しく勝ち誇る《V》と《S》にクリスはミリアムの間で戦術リンクを結び、身構える。
そして――
『そこまでだ。目的は達成した撤収しろ』
唐突に外から響いた拡声器越しの声。
「あら残念」
「ちっ、命拾いしたな」
直後、《列車砲》の外からスモークグレネードが撃ち込まれてクリス達は煙に包まれる。
「しまった」
「うふふ、まあいいわ。全ては《C》の狙い通り……クロスベルの作戦についてもね」
「あばよ。世間知らずのおぼっちゃま」
煙の向こうで《S》と《V》はそんな捨て台詞を吐いて気配が遠ざかっていく。
「待て……リヴァルト」
風を巻き起こし煙を払うと二人は列車砲に飛び移り、そのまま峡谷に向かって走り――飛び降りた。
「なっ!?」
「死ぬ気か!?」
慌ててその後を追い駆けようと駆け寄るが、それよりも前に飛び降りた二人とは逆に漆黒の飛行艇が姿を見せる。
『――我が名は《C》。《帝国解放戦線》のリーダーを務めるものである』
飛行艇から拡声器を通じて名乗りを上げる。
『よくぞクロスベルと両面に渡った我らの波状攻撃を凌いだ……とでも言うと思ったか?』
「何だと……?」
まだ何かあるのかとナイトハルトは警戒を強める。
『ここからが本番だ……同志《G》が刺し違えて取った千載一遇のチャンス、その意思に報いるためにこちらの奥の手を使わせてもらおう』
「……そう、使うのね」
「くくく、奴等の度肝を抜かしてやれ《C》」
《C》の宣言に気を良くする《S》と《V》。
そして、その言葉と共にそれは現れる。
「来い――《蒼の騎神》オルディーネッ!」
ガレリア要塞とベルガード門を隔てる峡谷に《蒼》が現れた。
クレイグ一家
オーラフ
「音楽院への転入はすぐに決めろとは言わん……だが改めてちゃんと話したいと思っている」
エリオット
「う……うん」
オーラフ
「そ、そこでだな……来週の士官学院の自由行動日に合わせて私も休暇を取ることにした……
だからその日、家でフィオナも交えて話し合いたいと思っておるのだが……どうだろうか?」
エリオット
「えっと……ちゃんと話を聞いてくれるなら……いいけど」
オーラフ
「そうか……うむ……良かった」
エリオット
「でもこの前のことを許すとかは別問題だからね」
オーラフ
「わ、分かっておる……しかし、あのエリオットが私に意見を言えるようになるとはな」
エリオット
「それは士官学院で会えたみんなのおかげかな……それに関しては父さんに御礼を言っても良いかも」
オーラフ
「おおおおっ! エーリオットッ!!」
エリオット
「はいはい、それはまた今度ね。それじゃあお休み……父さん」