(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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 原作クロスベルの対応の問題
 飛行艇二隻の接近をアリオスさんが気付くまで誰も気付かなかったこと。
 (外にいた警備隊は何をしていたんでしょうね)

 屋上に人員を一人も配置していなかったこと。
 (作中でも書きましたが、着陸から突入まで完全な素通りはないでしょう、ガレリア要塞は陽動があったから着陸させてしまったのは仕方がないですが)

 善意とはいえ、各国の護衛たちの手を借りてしまったこと。
 (緊急事態だからと言ってしまえばあれですが、本来ミュラーやユリアは最後の砦なので彼らに頼る、任せるのはあかんでしょう)

 ハッカーがいると分かっていたのに対策をしていなかった。
 (ティオ、ヨナレベルが必要だったから仕方がないかもしれないですが、ティオはまあ良いとしてもヨナは完全に外部協力者、しかも私怨による介入。
 正直、クロスベル側は星座と黒月を雇っていたオズボーン達を責められないでしょう)

 図面を盗まれていたのにその対策を全くしていない。
 (特にジオフロント側の入り口に警備がなかったのは問題でしょう)


 テロリスト達の不明点
 屋上に飛行艇を乗り捨てにした点。
 防衛を人形兵器に任せて逃げるのは良いんですけど、爆弾を置いて飛行艇で逃げて起爆をリモコンでやった方が確実だったのではないか?
 ガレリア要塞の飛行艇はタイミング良く自爆させているのに……
 システムを掌握して閉じ込めたつもりなんでしょうけど、Gさん捨て石になるつもりだったのに脇目も振らずに逃げるんですね。

 ロイド達の減点
 赤い星座の処刑を責めるけど、そもそもその直前の戦闘が終わって悠長に話して取り逃がしたロイド達の非もあるでしょう。
 警察が逮捕を優先するのは理解できますが、星座がいなければそもそも逃がしていた可能性の方が高いんじゃないですかね?


 総評
 ゲームの演出もあるので細かい粗を責めるつもりはありませんが、それでもクロスベル側が頑張った過程が見たかったです。
 例えば屋上に警備隊が返り討ちにされたり、ティオがハッキングを始める前にダドリーが担当と連絡して時間が掛かると返されるシーンでもあればよかったかな?





88話 西ゼムリア通商会議Ⅲ

 

 

 8月31日。クロスベル、オルキスタワー。

 

 13:00――

 地上から35階に位置する会議場には各国の代表が席に着き、ヘンリー・マグダエルの進行で会議は始まった。

 

「――それではこれより『西ゼムリア通商会議』の本会議を開始いたします」

 

 マグダエル議長はまず最初にオブザーバーとしてイアン・グリムウッド弁護士と遊撃士アリオス・マクレインを紹介する。

 こうして始まった《西ゼムリア大陸通商会議》。

 リィン達、帝国の随行団はそれを隣の控室からモニター越しに見守っていた。

 

「ふう……やっぱり緊張するなぁ」

 

「トワ会長はそういうことに慣れていると思いましたけど?」

 

「うん……でも学院とこんな国際会議と比べると……やっぱり私なんて場違いだったんじゃないかな?」

 

「そんなことありませんよ……

 十分な力があるからこその推薦だったはずです。俺みたいに成り行きで参加しているわけじゃないですから……

 トワ会長は俺達トールズ士官学院の代表なんですから自信を持ってください」

 

「……うん、そうだね。みんなを代表している以上、精一杯お手伝いしないとねっ!」

 

 よしっと、トワを両手を握り気合いを込め直す。

 

「それじゃあ議事録のまとめに帝国時報への声明の草案をチェック――

 そうだ、トリスタ放送からの取材の申し込みにも対応しないと!」

 

 覚悟を決めた途端にトワは忙しなく働き始める。

 その姿にリィンは頼もしさを感じながら、視線を《ARCUS》に下ろす。

 結局、あれから目的の情報を得ることはできなかった。

 それはリィンとクレアの能力の限界でもあり、今は遠い地にいる協力者からの連絡を待っている。

 

 ――できることなら通商会議が始まる前に証拠を掴んで起きたかったが……

 

 こればかりは仕方がないとリィンは割り切る。

 連絡が来れば会議場に突入して中断させる覚悟も決めてあれば、最悪を想定しヴァリマールにローゼリアとイオを乗せいつでもタイムラグのない転移の準備もしてある。

 

「そう一人で気を張り詰めるなシュバルツァー」

 

 控室の中で、一人だけ異質な気配を纏っているリィンにミュラーが落ち着けと声を掛ける。

 

「ミュラー少佐」

 

「とはいえ、クロスベル入りしてから働きづめにさせてしまった俺達が言って良い台詞ではないかもしれないがな」

 

「いえ……最終的には自分でやると決めたことですから」

 

「だが立場上、君は拒否することができなかったことも多いだろう……

 それにクロスベル入りする前からもヴァリマールの修復で不眠不休の作業だったと聞くが」

 

「そんなことをしていたのか?」

 

 ミュラーの言葉にユリアが口を挟む。

 

「う……そのことはくれぐれもクローディア殿下には内密に……それにラッセル博士たちが頑張ってくれたおかげで俺には余裕がありましたから」

 

「それでもその余裕の中で君は昨日のノーザンブリアの議題についてまとめていたのだろう?

 少佐……いくら何でもリィン君に頼り過ぎではないのか?」

 

「耳が痛いがその通りだ。本国に戻ったら特別手当てが出せないか相談するつもりだ」

 

「あはは……特別手当ての前にこの会議の後のことが怖いですね」

 

 流石に会議直前ということもあって、合流した時には誰もそのことについては軽く触れる程度で済ませてくれたが果たして会議が終わった後どうなることか。

 会議はおよそ五時間を予定している。

 現在時刻は13時、終了予定は18時。

 当然のことだが、クロスベルにはもう一泊して明日に帝国に帰還する予定になっている。

 それも何事もなく終わればの話だが。

 

「お疲れ様です」

 

 そんな三人の会話の中、控室にノックをして現れたのは特務支援課の面々だった。

 

「ふむ、支援課の諸君か。会場近辺のフロアを警戒してくれているそうだね」

 

 入って来たロイド達をユリアが応える。

 

「はい、何とか捻じ込んでもらうことができました」

 

「それで何か異常はありませんか?」

 

 確認するエリィにミュラーがロイド達の最後尾にいる少年の存在を一瞥して答える。

 

「決して油断は出来ないが至って平穏といったところか。首脳たちも声を荒げる様子もなく、会議自体も順調のようだ……

 このまま無事に終わってくれれば、皇子の肩の荷も少しは軽くなるのだが……」

 

 そこで言葉を止め、ミュラーは肩を竦ませため息を吐いた。

 

「もう少し堂々としたらどうだ? どんな理由であれ、この場に警備の一人としているのならそんな顔をするな」

 

「っ――はい。申し訳ありません」

 

 突然の叱責にバツが悪そうにしていたクルトは顔を上げる。

 

「ミュラー少佐、こちらの少年とはお知り合いですか?」

 

 一昨日のアルセイユでの会合ではいなかった二人の内の一人にユリアは尋ねる。

 

「ああ、私の弟だ。いろいろあって特務支援課に世話になっている……

 エプスタイン財団に行っていると聞いていたが戻っていたんだな」

 

「はい、ティオさんがロイドさん達が心配で帰国を早め――っ」

 

「余計なことは言わなくて良いです」

 

 口を滑らそうとしたクルトの脛をティオが蹴って黙らせる。

 

「はは、どうやらあれから随分腕を上げたみたいだな」

 

 微笑ましいやり取りにリィンは笑う。

 教団事件の時は忙しく、落ち着いて話している余裕もなかっただけにクルトの元気そうな姿に安堵する。

 

「リィンさん……」

 

 クルトはリィンに向き直り、何かを言いかけて言葉を呑み込む。

 

「クリスのことなら大丈夫だ。楽しそうに学院生活を送っているし、武術の腕もどんどん伸ばしている。それこそ君に負けない程にな」

 

「そうですか……いえ、それは良いんですが」

 

 リィンが教えてくれた彼の現状にクルトは安堵するが、次の瞬間にはリィンを非難するように睨む。

 

「と言うかですね……帝都といい、ノーザンブリアといい貴方がいながらどうしてクリスを危険な目に合わせるんですか?」

 

「いや……そこを責められても……俺達はあくまでも巻き込まれただけだから」

 

 それが理不尽な物言いだと言う事は分かっているが、レマン自治州に届いた帝国時報の二つの事件でリィンの顔以上に彼の写真が乗っていることにクルトは心底驚いた。

 

「まあ……リィンさんや今のクリスの立場も分かってはいるんですが……」

 

 それでも一言申したかったとクルトは詫びて頭を下げる。

 

「ふふ、しかしこの部屋には相当な実力者が揃っているみたいだね」

 

 話をそこで切って、ワジが部屋を見回して話題を戻す。

 

「ま、なんつってもほとんどが将校クラスの人間だからな」

 

「ええ、ここにいる方たちだけでも余程の事態に対処できそうですね」

 

「うんうん、それに何よりユリア准佐の剣は美しく苛烈と聞きますし」

 

 ワジに同調するようにランディとティオ、そしてノエルが興奮気味にそれぞれの感想をもらす。

 

「それを言うなら超帝国人もいるしな」

 

「そうですね。やはり超帝国人がいるのが一番大きいでしょう」

 

「ランディ先輩、ティオちゃん? 超帝国人って何ですか?」

 

 突然知らない単語を言い出した二人にノエルは首を傾げる。

 

「それはだな――」

 

「実は――」

 

「ランディさん、ティオちゃん?」

 

 にっこりと笑い、拳を固めて見せるリィンにランディとティオはノエルに耳打ちしようとしていた動きを中断して、素早くロイドの後ろへと退避する。

 

「えっと……」

 

「気にしないで下さい。確か……クロスベル警備隊のノエル・シーカーさんでしたね。俺はリィン・シュバルツァーと言います」

 

「あ……覚えて頂き光栄です」

 

 教団事件の時に名乗るだけでほとんどすれ違った程度の面識がないのに覚えていてくれたことにノエルは年下の少年に対して緊張する。

 

「フフ……とにかく、どのような者が現れようと殿下には指一本触れさせはしない……

 この場は我々に任せて、君達は周囲の警戒に努めてくれ」

 

「ええ、了解しました」

 

 ユリアの言葉にエリィが答え、支援課は控室から退出していく。

 が、最後に残ったロイドはジッとリィンを見つめていた。

 

「ロイドさん?」

 

「リィン君、君は……いや何でもない」

 

 ダドリーから聞いたリィンの怪しい動き。

 恩人を疑いたくないという気持ちとこの場で尋ねることは彼の立場を危うくさせるかもしれないと考え、ロイドは踏み込むのはやめた。

 

「…………ねえリィン君」

 

 ロイド達がいなくなったその控室でトワが徐にリィンに声を掛けた。

 

「超帝国人って何?」

 

「気にしないでください」

 

 リィンは即答で答えるが、トワ以外の随行スタッフは何かを囁き合って頷き合う。

 

「あのですね……それは――」

 

 妙な誤解が広がらないようにリィンは黙殺を諦めて、言い訳を――

 

「それについてはこの俺様が答えようじゃないか!

 超帝国人とはリィン・シュバルツァーがリベールで名乗ったことが起源の――」

 

「破甲拳ッ!」

 

 脈絡なく出て来て戯言を喋り出した赤毛の書記官をリィンは隣の会議室を気遣って無音で沈めるのだった。

 

 

 

 

 15:30――

 会議の前半が終了し、各国の首脳陣はそれぞれに宛がわれた部屋で会議の熱を冷ますようにわずかな時間をくつろいでいた。

 色々あったが最初の名目である宰相付きの護衛官として、彼と共に二人きりでクロスベルを一望できる部屋にいた。

 

「この光景、実に見事だ……

 地上をこの高さから見下ろせるような建築物を人間が作り出せるとは……おっとリベールの巨大な浮遊都市に乗り込んだ君に言うことではなかったかな?」

 

「いえ、あの時はみんな必死でしたから、こうして穏やかな気持ちでこの絶景を望めるのはまた違った趣があります」

 

 クロスベルを一望できる窓辺に立ち話を振って来るオズボーンにリィンは当たり障りのない言葉を返す。

 ノーザンブリアから戻って来て以降、すっかり定着したやり取りと距離感。

 とりあえず今はあの時のようにナユタのことを探るような発言をしていこないことにリィンは安堵する。

 

「随分と上機嫌ですね……特務支援課を呼び出していったい何を御考えなのですか?」

 

「ふ……単なるお喋りだ。もしくは意識調査と言い換えてもいいだろう」

 

「意識調査?」

 

「このクロスベルの地もまた古き因習と愚かな眷属の“呪い”が未だに残っている」

 

「“呪い”……」

 

「帝国を侵すものとは違い、愚かしい人の妄執と言った方が良いだろう」

 

「…………貴方はいったい何を知っているのですか?」

 

「私が知っている事など大したものではない……

 それに分からない事があるからこそ世の中とは面白い。君がそれを体現しているようにな」

 

「買い被りです。俺は目の前の問題にただ全力で立ち向かっただけです」

 

「ふふ……君ならそう言うと思っていたよ」

 

 リィンの答えにギリアスは満足そうに笑う。

 

「――失礼します。オズボーン宰相閣下」

 

「クロスベル警察、特務支援課、お招きにより参上しました」

 

「入ってきたまえ」

 

 会話を切り上げてギリアスはドアの向こうへと言葉を投げた。

 リィンは軽い会釈をしてロイド達を迎え、彼らとギリアスの邪魔にならないように壁際に移動する。

 

「フフ……エレボニア帝国政府代表、ギリアス・オズボーンだ……

 諸君のことはレクターから聞いている。そして我が国の家出少年を保護してくれたことに礼を言っておこう」

 

「うぐ……」

 

 ロイド達と一緒にやってきたクルトはギリアスの指摘に胸を押さえて項垂れるのだった。

 特務支援課と鉄血宰相のお喋りはそれ程長い時間は掛からなかった。

 意識調査と称した、クロスベルがどれだけ持つかと言う話。

 終始ギリアスに気押される形で、結局彼が一方的に話をするだけでその会話は終わってしまった。

 

「フフ、休憩時間も終わりだ。話はここまでとしておこう……

 ああ、どうやら教団事件のことで共和国から勲章を授かるようだが帝国政府からは特に勲章を贈るつもりはない……

 下手に『平民』に勲章を贈ったら貴族勢力がうるさいのでね……

 それにあの事件は確かに君達が解決したことになっているが、それは我が国のリィン・シュバルツァーの功績の方が大きいだろうからな」

 

 リィンに視線をやってギリアスはそう締めくくった。

 

「オズボーン宰相……」

 

 特務支援課が出て行って再び二人きりとなった控室でリィンは先程の会話の中にあった言葉を逆に質問する。

 

「クロスベルがいつまで持つのかという話ですが……

 逆にエレボニアはどこまで持つと貴方は御考えですか?」

 

「ほう……」

 

 リィンの質問にギリアスは嬉しそうにその厳つい表情を緩める。

 

「それを答えるには時間が足りないな……その答えは“宿題”としておこう」

 

 会議の再開もあり、ギリアスはその場で答えることはしなかった。

 

 

 

 

 

 16:30――

 再開された会議は前半の貿易や金融などの議題からクロスベルの安全保障についての議案が提議され、白熱した論争が交わされる。

 隣の控室でもその様はモニター越しに中継されており、誰もが固唾を呑み見守る。

 が、そんな輪から外れてリィンは一人窓際で《ARCUS》で通信を行っていた。

 

「…………《フェンリル》。それがカルバード側で列車砲に対抗して開発された兵器の名前なんですか?」

 

『ええ、周囲の大気に満ちている翠耀と蒼耀を高圧縮して導力器の中に取り込み、加速させぶつけ合わせてその反発力を爆発力に変える反応爆弾……

 あの子が調べてくれた資料が本物なら、破壊力だけならきっと至宝に届く程の威力があるらしいです』

 

 簡潔なクレアの説明にリィンは絶句する。

 

「それほどまでにガレリア要塞を警戒していたということですか?」

 

『そういうことでしょう……

 幸いなことにロックスミス大統領は《フェンリル》の使用については否定的だそうです……

 ですが先日、共和国首都の軍事施設から厳重封印されていたそれを反移民政策主義のテロリストに奪取されて、その足取りはまだ捕えていないようです』

 

「反移民政策主義……帝国でいう所の解放戦線みたいなものですか?」

 

『とりあえずその認識で構いません……

 反移民政策主義者は帝国解放戦線と接触を持った可能性があるというのが憲兵隊では予測されています……

 この場合、クロスベルに《フェンリル》を持ち込む方法は二つ』

 

「飛行艇を利用した空路か、鉄道を使った陸路のどちらかですね」

 

『ええ、威力が威力ですからクロスベルの何処で起爆しても、オルキスタワーを巻き込むことができますから……

 ですが私は陸路の可能性は極めて低いと考えています』

 

「それはどうして?」

 

『帝国解放戦線のメンバーは閣下に強い恨みを持っています。ですからいくら威力のある爆弾でも閣下のすぐ近くで爆破したいと思っているでしょう』

 

「そうなると空路……オルキスタワーの屋上か、前の広場……それともこの高層ビルにそのまま突っ込んでくる可能性もあるか」

 

 可能性を考えればキリがない。

 そもそも小回りが利く飛行艇が普及している社会ではこんな超高層ビルなど逃げ場のない空中の牢獄に等しく、テロの格好の標的になる気がする。

 もしも飛空艇事特攻してくるようなことがあれば、それこそヴァリマールを呼び出して止めなければ各首脳陣を守ることはできないだろう。

 

『私が知っているのは解放戦線のメンバーだけなので、反移民政策主義者の方はその限りではありません……

 ですが、鉄道を始めとする陸路は私に任せて下さい。クロスベル警察と共和国の待機要員に話を着けて、帝国と共和国側から来る列車は一時的に運休させます』

 

「助かりますクレアさん」

 

『それからもちろん《フェンリル》は起動させないのが一番なんですが、もしも起動させてしまっても場合によってはゴスペルによる無効化は試さない方が良いそうです』

 

「それはどうして?」

 

『一度加速させた二つの力の制御が外れるだけなら良いんですが、もしその二つを区切っているシステムまで停止することになれば即起爆する可能性があるみたいです……

 起動から停止までの猶予時間はおよそ十分。それを過ぎてしまえばゴスペルでの停止は逆に危険だそうです』

 

「っ……他に停止させる方法は?」

 

『起動した《フェンリル》を停止させるには26桁の暗証番号を入力する以外はないそうです……

 既存の導力爆弾とは構造も異なるので解体による無力化は難しいでしょう』

 

「そうなると万が一はヴァリマールを使って空に運ぶしかないか」

 

『リィン君、それはあくまでも最終手段です。良いですか、とにかく起動させる前にテロリストを制圧するんですよ』

 

「分かっています。俺だって危ない橋を渡るつもりはありませんから」

 

 念を押して来るクレアにリィンは頷く。

 

『それなら良いんですが……最後に一つ……あの子から言付けを預かっています。そのまま読みますね……

 『お願い、あの人達がいるクロスベルを守って』……だそうです』

 

「……分かりました」

 

 クレアからの伝言を噛み締め、リィンは通信を切る。

 

「さてと……まずは情報共有が必要か……」

 

 まだ後半の会議は始まったばかり、テロリスト達が仕掛けて来るとするのならばこの会議が終わるまでの数時間の何処かだろう。

 

「レクターさん」

 

「おう? クレアとのイチャイチャはもう良いのか?」

 

「向こうの控室に行ってキリカさんを呼んで34階の警備の詰め所に来て下さい」

 

「へいへい、少しは慌てろよなぁ」

 

 つまらんと言わんばかりにレクターは帝国と王国の控室から出て行く。

 

「ミュラーさん、ユリアさん、ちょっとお話があるんですけど良いですか?」

 

 そしてリィンは二人を促した。

 

 

 

 

「何だと!?」

 

 各国の護衛官代表を呼び出し、クロスベルの警備側の代表であるダドリーを交えてリィンは己が調べた情報を開示した。

 

「…………何かをやっていると思っていたけど、こんな大胆なことをしていたとはね……

 リィン君。君がやったことは国際問題になるわよ」

 

「お叱りは後で受けます。それよりもキリカさん、正直に話して下さい……

 カルバードで《列車砲》に対抗する兵器が作られていたこと、それが先日テロリスト達に奪われていたことは真実ですか?」

 

 脅しつけるようなキリカの物言いに動じずリィンは事実確認を優先する。

 その部屋に集まった一同の目がキリカに集中する。

 キリカは肩を竦めて頷いた。

 

「どちらも事実よ」

 

「っ――」

 

 肯定された兵器の存在にダドリーは眦を上げる。しかし彼が口を開くよりも先にキリカが続ける。

 

「言い訳をさせてもらうなら、私もロックスミス大統領もその兵器の運用に関しては反対よ……

 カタログスペックだけでも分かる過剰な火力。戦争ではなく、ただ破壊と汚染を撒き散らすだけの非人道兵器、それが《フェンリル》よ……

 ただ、共和国の中にはどうしても帝国を滅ぼしたいと思っている勢力も存在しているのも事実なの」

 

「だからと言って、そんな超兵器を寄りによってテロリストに奪取されていたことを隠すなど……」

 

「それは共和国内の問題だからよ……できることなら秘密裏に解決しておきたかった。それだけよ」

 

「っ――」

 

「ダドリーさんの憤りはもっともです……

 ガレリア要塞に《列車砲》なんて配備させている俺達《帝国人》が言っても気分を悪くさせてしまうだけかもしれませんが、今は堪えてください」

 

「ぐっ……すまなかった。続けてくれ」

 

 この場で誰がどう見ても最年少であり、有益な情報をもたらしてくれたリィンに謝らせてしまったことにダドリーは何とか感情を呑み込む。

 

「おそらくテロリスト達は十中八九、新型導力爆弾の《フェンリル》を使ってきます……

 大きさは約一アージュの巨大な球体。なので運び込むには飛行艇を用いる可能性が高いでしょう。陸路に関しては既に鉄道憲兵隊にお願いして鉄道を封鎖してもらっています」

 

「いつの間にそんなことまで……」

 

 手際よく自分の仕込みを明かしていくリィンにミュラーは感心すると共に呆れる。

 アルカンシェルの舞台に立つなど、予定外の行動が多かったはずなのに護衛官としての務めを十全以上に果たしていることに驚くしかない。

 

「ではリィン君は我々に何を求めるのかな?」

 

 ユリアがわざわざ自分達を集めた理由を問う。

 

「できればアリオスさんも交えて話したかったんですが……」

 

 すでに後半の会議が始まり、立ち会っているアリオスがこの場にいないことに不満を感じながらリィンは今後の対処方法を提示する。

 

「この爆弾を止めるのはとにかく時間の勝負になります……

 本来なら仮にテロが起きたとしても、対処はダドリーさん達に任せて俺達は首脳たちの直衛に専念するべきなのでしょうが《フェンリル》の対処は時間との勝負になります……

 なのでテロリスト達をどれだけ迅速に制圧できるかが重要だと思います」

 

「対象の暗殺は退路を考えない特攻が一番成功の可能性が高いと聞く……

 もしも奴等が宰相閣下を殺すために自分の命を厭わないとするなら厄介だな」

 

「この爆弾を持ち出して来ている時点ですでに死を覚悟しているかもしれないわね」

 

「その事ですが、実はテロリスト側に一つ抜け道があります」

 

「リィン君、それはいったい?」

 

「このオルキスタワーの地下には万が一の備えとして、耐爆撃用の広大なシェルターが造られているそうです……

 それを利用して《フェンリル》の爆発をやり過ごすつもりなのかもしれません」

 

「っ……地下シェルターのことまで……くっ……」

 

 オルキスタワーの秘匿情報まで知っているリィンにダドリーは歯噛みする。

 

「以上が俺が今日調べてクレアさんと協議した、《フェンリル》が使われることを前提としたテロリスト達の行動パターンです」

 

「十分ね……通常の爆弾だったとしてもそれなら解体は私にも可能よ」

 

「そもそも爆弾があるかないかを早期に確認するのは必要なことだろう」

 

「クロスベルの戦力を信用していないわけではないが、こちらから攻めた方が良いだろう」

 

 リィンの――クレアが考えておいた作戦にキリカやユリア、ミュラーは賛成してくれたことにリィンは内心で胸を撫で下ろす。

 

「だけどリィン君、もしも爆弾にここに来る前に火が入れられていたらどうするつもり?」

 

「その場合は安全圏までヴァリマールを使って遠ざけます」

 

 気になって尋ねたキリカの質問にリィンは即答を返す。

 

「その意味は分かっているのよね」

 

「当然です」

 

 念を押した確認にもリィンは怯むことなく頷き、ダドリー達を見回す。

 

「テロリストが襲ってくるパターンとして飛行艇が使われると仮定した場合、特攻を除外して進入路はおそらく屋上からだと思います……

 ダドリーさん、屋上の警備体制はどうなっていますか?」

 

「屋上か……」

 

 リィンの質問にダドリーはバツが悪そうに俯いて眼鏡を直す。

 

「屋上には……人員を配置していない」

 

「は……?」

 

 その答えにリィンは耳を疑った。

 

「だから……屋上の警備に人は回していない」

 

「…………ばっ――」

 

 思わず罵りそうになった言葉をリィンは呑み込む。

 ダドリーは元々捜査官であり、本業ではない。

 加えてこんな超高層ビルを警備するノウハウなんてないのだから、責めるのはあまりにも酷だとリィンは自制する。

 

「人員は配置していないが、オルキスタワーの屋上には各方面に監視カメラを設置してある……

 不審な飛行艇が近付けばすぐにそこの端末で確認することができる。それにタングラム、ベルガード門のレーダー施設が――」

 

「だからって目視の監視を蔑ろにして良い訳がないでしょう?」

 

 危機管理のなさにリィンは苛立つ。

 最新の導力器に頼ることを否定するつもりはないが、各国の首脳陣を招いている自覚が足りないのではないかと思ってしまう。

 40階建ての屋上という高所から一方的に視界を確保できる利点を捨てていることが信じられなかった。

 

「安心しろシュバルツァー。両門のレーダー施設は最新式だ。国境を超える飛行艇を見逃すはずは――」

 

「ダドリー警部。セルゲイ課長から緊急連絡です! タングラム、ベルガードのレーダー施設が破壊されたようです」

 

「何だと!?」

 

 警備室に詰めていたオペレーターが鳴った通信機を取り、報告を上げる。

 あまりにもタイミングが良かったが、同時にそこにいる者たちはまずい状況に気付く。

 

「やばいな事態の把握と通信の誤差を考えると、もう近くに来ているかもしれねえな……

 しかもこの外の監視カメラの映像……録画されたループ映像にすり替えられているな」

 

「え……?」

 

 レクターの言葉に端末の前で監視していたスタッフが驚く。

 そして、まさにその直後34階の窓の外の下から二隻の飛行艇がリィン達の目の前を過ぎ去って行った。

 

「ちっ――」

 

 二隻の飛行艇はそこから一つ上の階の前にホバリングするとバルカン砲による銃撃を始める。

 

「くっ――」

 

「安心しろ! 砲撃にも耐えられる特注の強化ガラスだ。破られることはない」

 

 ダドリーの言葉を最後まで聞いていたのはそれこそ、彼の部下たちだけだった。

 彼の言葉が終わるよりも速く、各国の護衛官たちは対策室から出ていた。

 エレベーターホールに向かわずに迷わず、非常階段を目指す。

 

「急げ!」

 

 作動して降りてくるシャッターを一同は余裕を持って駆け抜けて、35階の会議室に戻る。

 

「殿下、大丈夫ですか!」

 

 いの一番に会議室に突入したユリアがクローディアの下へと駆け寄る。

 二隻の飛行艇はそのタイミングで銃撃を終えて、急上昇してその窓の視界から消える。

 

「今のはラインフォルトの高速船か」

 

「もう一隻はヴェルヌ社の軍用ガンシップ……どうやらリィン君の推測は間違いなさそうね」

 

「皆さん、御無事ですか?」

 

 ユリアたちに遅れてダドリーも会議室に突入して各首脳陣の安否を気遣う。

 

「ああ、何とか……」

 

「しかし連中はどこへ……」

 

『……ふむ。聞こえているな』

 

 銃撃が止んだことにひとまずの緊張から解放されたところに突然会議室に設置されたスピーカーから声が流れる。

 

『会議に出席されている方々。我々は『帝国解放戦線』である』

 

『同じくカルバードの旧き伝統を守るために立ち上がった『反移民政策主義』の一派の者だ」

 

「なんだと……!?」

 

「帝国と共和国で活動しているテロリスト集団……!?」

 

 名乗りを上げたテロリスト達にアルバート大公とイアン弁護士が慄く。

 

『この度、我々は互いの憎むべき怨敵を討たんがため共に協力することと相なった――

 覚悟してもらおう! 《鉄血宰相》ギリアス・オズボーン! そしてリィン・シュバルツァーッ!』

 

『ロックスミス大統領!

 貴方にはここで消えていただく! 忌々しき東方人に浸食されたカルバードの伝統を守るためにはそのくらいの荒療治が必要なのだ!』

 

 言いたいことを一方的に言って、放送は切れる。

 

「…………今の声は……《G》か……」

 

「おい、シュバルツァー。冷静に行けよ。ガチでクロスベルに血の雨を降らせるんじゃないぞ」

 

 暗い光を目に宿したリィンにレクターは釘を刺す。

 

「大丈夫です……ええ、何を優先するべきかを間違えるつもりはありません」

 

 そういうリィンにレクターは思わず肩を竦めて、テロリスト達の冥福を祈るのだった。

 

 

 

 

 





 会議前半NG

オリヴァルト
「皆さん、新しい議題をこの場で作っても良いかな?」

マグダエル
「ふむ……オリヴァルト皇子、それはいったい?」

オリヴァルト
「迷いもあったのですが、昨日の一件で決意が固まりました……
 今、この場をお借りして一つ提唱させていただきます」

ギリアス
「…………!?」

ロックスミス
「なに……?」

アルバート
「どのような提議を?」

ディーター
「どうやら重大な案件のようですね」

オリヴァルト
「そう……私はここに、西ゼムリア大陸を股に掛けた《超帝国人ファンクラブ》の設立を提唱しますっ!」

クローディア
「えっと…………オリヴァルト皇子……その……後ろ……」

オリヴァルト
「おや?」


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