(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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9話 特別実習

 

 

 

 

 

 トールズ士官学院の保健室。

 

「っ……」

 

 全身にだるさを感じながら、リィンは久しぶりとも言える気絶からの覚醒を果たす。

 

「あ、リィン!」

 

 身体を起こしたリィンにすかさず傍に控えていたノイが縋りつく。

 

「大丈夫? いたいところはない?」

 

「大丈夫だよ。それよりもどれくらい気を失っていたんだ?」

 

 例えリィンの意識が途切れても、内蔵されている導力が尽きるまで自律行動が可能なノイが動いていることを考えればそこまで長い時間ではないと考えながら尋ねる。

 

「えっと……」

 

「だいたい一時間くらいね。時間としては最後の授業のちょうど真ん中くらいね」

 

 言い淀むノイに変わってルフィナが答える。

 

「そうか……」

 

 一撃を食らって気絶した。

 それは紛れもなく敗北を意味している。

 思えばリベールで彼女と初めて手合わせした時も、こんな感じだった。

 

「成り行きとはいえ、ルフィナさん達の姿を見られてしまいましたが騒ぎになっていませんか?」

 

 太刀を持って来てもらったこと。

 それにおそらく気絶したリィンを心配して付き添っていたノイのことを考えると多くの人に彼女たちの姿を見られてしまったと想像できる。

 

「心配しなくても大丈夫よ……

 直前に戦術殻を使った訓練をしていたから、言い訳は簡単だったわよ」

 

「ああ、それもそうだったか……」

 

 ローゼンベルグ工房製の戦術殻。

 それにリィンの《聖痕》に宿る意志を乗せたのがノイであり、ルフィナだ。

 なので彼女達の存在はリィンが個人的に所有している戦術殻と言うだけで説明は事足りる。

 

「ふふ、随分と慕われているようね」

 

 そんな彼女たちとのやり取りを見守っていたベアトリクスがリィンに声を掛ける。

 

「見たところ体に問題はなさそうね」

 

「はい。すみません」

 

「謝らなくても良いわ……ただ今期の新入生で一番最初に担ぎ込まれて来たのが貴方だったことに少し驚いているけど」

 

「恐縮です」

 

 トールズ士官学院の武術教練は厳しく、毎年授業中で気絶する者も少なからずいる。

 もっとも、まだ体力づくりを重点して行われているので、それは五月からというのが毎年の恒例だった。

 前回のリィンがⅦ組や他のクラス達と戦った時は運び込む程の重傷者は出していない。

 なので晴れて一年生で保健室の世話になったのはリィンが初ということになる。

 

「お世話になりました」

 

 リィンは頭を下げてベッドから降りる。

 

「あら? どこに行くつもりかしら?」

 

「教室に戻ります。まだ半分は受けることができますから」

 

 まだ終業の鐘が鳴ってないのなら、それこそすぐに戻るのが筋だろう。

 

「その必要はないわ。ルフィナさん、申し訳ないけどリィン君が目を覚ましたとサラ教官に伝えに行っていただけますか?」

 

「はい。分かりました」

 

 ベアトリクスの指示にルフィナは頷いて保健室から出ていく。

 

「え……あの、もう体は大丈夫なんですが?」

 

「それは私が判断します」

 

 優し気な口調に柔和な笑顔のベアトリクスにリィンは有無を言わせてもらえず、ベッドに戻されるのだった。

 

 

 

 

「し、失礼します」

 

 終業の鐘が鳴る少し前、恐る恐るといった様子で一人の少女が保健室を訪ねた。

 

「あら、Ⅶ組のアリサさん。まだ鐘は鳴っていないけど、授業はもう終わったのかしら?」

 

「はい。それでリィンはどうなんでしょうか?

 ホームルームに出られるようなら来るように伝えるようサラ教官に言われたんです。今日は重要な知らせがあるそうなので」

 

「そうね……体に異常はないから

 一応今日一日安静にして、何か異常を感じたらすぐに連絡してもらえるかしら」

 

「一日安静ですか……?」

 

 思わずリィンは聞き返す。

 寮に戻ったらすぐにでも聖女との一戦を反芻したいと思っていた。

 

「そう一日安静です。ちゃんと守って下さいね」

 

「…………はい」

 

 クローゼやアネラスに通じる、あるいはそれ以上の凄みを感じる笑顔にリィンは早々に降参して諦める。

 この手の相手には例え《箱庭》という隔離空間を使えたとしても、見抜かれてしまうことをリィンは良く知っている。

 よろしいと満足気にベアトリクスに頷かれてリィン達は保健室を出る。

 アリサとリィン。そしてリィンの肩にノイが乗って三人はⅦ組の教室へと向かう。

 

「…………」

 

「…………うぅ……」

 

 無言で歩くがアリサが居心地悪そうに唸る。

 

「アリサ」

 

「は、はいっ!?」

 

 リィンが足を止めて呼びかけるとアリサは体をびくりと跳ねさせて振り返った。

 

「な、何よ?」

 

「いい加減、何が不満なのか教えてくれないか?」

 

 旧校舎で彼女を助け損なって恥をかかせてしまった。

 その時のことが尾を引いているのか、アリサのリィンへの態度は他所他所しいものだった。

 もっともそれだけではないだろう。

 アリサ・Rと名乗った彼女の本当の家名を知っていることもあり、警戒心に満ちた眼差しでリィンのことを睨んでいる。

 しかし、それ以外にも感情があることは読み取れた。

 《識》や《観の目》を使えば看破できるかもしれないが、人の心を読み解くのにそれらは使わない方が良いとクレアに忠告されているので自重する。

 

「べ、別に不満なんてないわよ」

 

「まだ旧校舎での事が引っ掛かるなら、何か改めてお詫びをするけど――」

 

「だからそうじゃないってっ!」

 

 謝るリィンにアリサは思わず声を上げて否定する。

 

「そうは言っても納得できてないんだろ?」

 

「それは……」

 

 言い淀むアリサにリィンはさらに踏み込む。

 

「別に無理強いをするつもりはない……

 嫌いなら嫌いで構わないさ。ただ一方的に嫌って何もかもに噛みつかれるのは正直疲れるから、線引きを決めないか?」

 

 アリサならその辺りの妥協はできるだろうと考えての提案だった。

 

「あ……」

 

 リィンの提案にアリサはようやくこれまでの自分を省みて、さらには誰と比較されているのか気付いて頭を抱える。

 

「ごめん……確かに一方的過ぎたわ」

 

 アリサにとっては違うが、リィンにとっては旧校舎だけの問題。

 それもリィンに対して全く非がないことで突き放しているようなものだった。

 それに気付いてアリサは謝罪する。

 いきなり頭を下げたアリサにリィンは面を食らい、そしていつかの時を思い出しながら言葉を返す。

 

「驚いたな……まさか君がそんな風に謝るとは思わなかった」

 

「……どれだけ私の評価は低いのよ」

 

「聞きたい?」

 

「……やめておく」

 

 どちらともなくリィンとアリサは苦笑し、それを見ていたノイは首を傾げる。

 

「言い訳になるけど、別に旧校舎のことを引きずっていたわけじゃないのよ」

 

 歩みを再開してアリサは自分の心境を整理しながら話す。

 

「二年前……リィンは私と一緒で、家出をした子供だったのに随分と差がついちゃったと思ってさ」

 

「というと、まだお母さんとはうまくやれてないのか?」

 

「うん……あれからシャロンと一緒に帰っても心配したなんて言葉もなくて……

 どれだけの人に迷惑をかけたのか、淡々と説明されただけで終わっちゃったから」

 

「そうか……」

 

「士官学院に入学したのも結局あの時と同じなのかもしれないって思ったら、貴方の顔を見るのがどうしても辛くて」

 

「そうか……」

 

 心情を語るアリサにリィンは相槌を繰り返す。

 

「買い被ってもらって悪いけど、俺だってアリサが思っているほど大した成長はしてないよ」

 

「とてもそうとは思えないけど? 私たちどころか、各クラスの代表たちまで一蹴しちゃったくせに」

 

「そんな武力の問題は大した違いじゃない……

 それにアリサにそう見えるのは俺だけが頑張ったからじゃない。リベールでたくさんの人に支えられたから今の俺があるんだ……

 とても一人では答えを出すことなんてできなかったよ」

 

「そうかしら……まあそれはそれとして、私はどうして貴方とシャロンが連絡先を交換していたのかが気になるんだけど?」

 

「レンの誕生会のことか? あれは俺が直接したわけじゃないんだけどな……

 それにあれはレンとシャロンさんが知り合いだったから声を掛けただけだから、俺と関係があったわけじゃないんだけど」

 

 これまでとは違う威圧感を持って睨むアリサの視線にリィンは思わずたじろぐ。

 

「どうかしら……それにしては妙に親しげだったと思うけど……

 もしかして私が知らない所で会っていたりしたんじゃないの?」

 

「まさか」

 

 内心で鋭いと思いながらリィンは惚ける。

 

「もしかしてアリサは俺とシャロンさんの仲を疑ってたから、あんな態度を取っていたのか?」

 

「えっ!? それは……」

 

 リィンの指摘にアリサは口ごもる。

 そんなアリサの反応になるほどと納得する。

 

「アリサはシスコンだったんだな」

 

 家族に急に異性の知り合いができたことに警戒する気持ちはリィンもよく分かる。

 

「ちょ、ちょっと誰がシスコンよっ!」

 

「安心して良いよ。シャロンさんとはそういう仲じゃない。そもそもシャロンさんは俺の好みの女性じゃないから」

 

「好みの女性……ずばっと言うわね」

 

 アリサはリィンの物言いに呆れながらも興味を示す。

 

「やっぱり年下の女の子が好きなの?」

 

「どうしてそうなるんだ?」

 

「だってレンちゃんの誕生会を開いて上げるくらいだし、それにリベールで――あれ?」

 

 ふと、アリサはクロスベルで招待された誕生会に銀色の髪の女の子がいなかったのを思い出す。

 あの時はヨシュアとの再会などでそれどころではなかったのだが、あのリィンにべったりだった女の子があの場にいなかったことに首を捻る。

 

「そういえばリィン。あの銀髪の女の子……名前はえっと……ナディアちゃんだったかな? あの子はどうしたの?」

 

「アルティナのことか? あの子はちゃんと元気にしているはずだよ」

 

 笑顔で応えたリィンにアリサは何故か、それ以上のことを追及することはできなかった。

 

 

 

 

「戻って来たわね」

 

 教室に戻ると、サラに席に着くように促された。

 てっきり教室に入った瞬間にいろいろな質問攻めを受けると覚悟していたリィンは拍子抜けしたように促されるままに席に着き、サラの横にいたルフィナはリィンの元に戻って来る。

 

「さて、いろいろあって話そびれてしまったけど、かなり重要な伝達事項があるわ……

 君たちⅦ組に関する特別なカリキュラムに関してね」

 

 サラは教壇から一同を見回して続ける。

 

「君たちに課せられた特別なカリキュラム……それは《特別実習》よ!」

 

 勿体付けて言われた言葉にリィン達は沈黙する。

 

「と、《特別実習》……ですか?」

 

「……な、なんだか嫌な予感しかしないんだが……」

 

「名前だけだとそのままですよね? 早く内容を説明してもらえませんかサラ教官」

 

 困惑するエマとマキアスの言葉を流しながら、クリスが説明を要求する。

 

「君たちにはA班、B班に分かれて指定した実習先に行ってもらうわ。そこで期間中、用意された課題をやってもらうことになる。まさにスペシャルな実習なわけね♪」

 

 そう説明してサラは一同にプリントを渡す。

 

 A班:エリオット、ガイウス、クリス、フィー、ラウラ。実習地は交易地ケルディック。

 B班:マキアス、ユーシス、リィン、エマ、アリサ。実習地は公都バリアハート。

 

「冗談じゃないっ!」

 

 それを読んで真っ先に声を上げたマキアスは机を叩いて立ち上がり、サラに食って掛かる。

 

「サラ教官っ! これは何のつもりですかっ!? この二人と同じ班だということもそうだが、よりにもよってバリアハート!?

 《翡翠の公都》、貴族主義に凝り固まった連中の巣窟じゃないか!?」

 

「確かにそう言えるかもね。だからこそ君をB班に入れてるんじゃない」

 

「っ……」

 

「ま、あたしは軍人じゃないし命令が絶対なんて言わない……

 でも逆に聞かせてもらうけど誰と、何処なら、君は納得できるの?」

 

「それは……」

 

「それに《特別実習》だけじゃない。学院内での君はリィンやユーシスと組みたくないなんていつも言ってるけど、そんな子供の我儘がいつまでも通じると思っているの?」

 

「で、ですが腹の底で平民だと馬鹿にしているこいつらなんかと組めるわけないじゃないですか!?」

 

 マキアスの入学から変わらない主張にサラはため息を吐く。

 

「馬鹿にしているのはどっちなんだか……」

 

「え……?」

 

「リィンのことは一先ず置いておくとして、ユーシスは貴方以外のⅦ組のメンバーとちゃんと戦術リンクを結べている……

 君が言うユーシスが平民を馬鹿にしているから戦術リンクが結べないって言うなら、君以外もそうでなくちゃ説明できないわよね?」

 

「サラ教官まで貴族の肩を持つんですか?」

 

「そんなつもりはないわよ。私は客観的な事実を言っているだけ……

 でも最初に言ったはずよね?

 Ⅶ組として君は選抜されたけど、やる気のない者や気の進まない者に参加させるほど予算に余裕があるわけじゃない。カリキュラムもハードなものになるって……

 貴族と一緒の班になって実習を行う……

 この程度のことができないって言うなら、今からでもⅦ組参加を取りやめてもいいのよ」

 

「ぐ……ぐぐ……」

 

 正論を返されてマキアスは拳を震わせてサラを睨む。

 

「まあ、いいわ……マキアス、君には話さないといけないことがあるから後で職員室に来なさい」

 

「……分かりました」

 

 何とかその言葉を絞り出してマキアスは着席する。

 

「他に意見がある人はいるかしら?」

 

 サラは一同を見渡して尋ねる。

 文句があったユーシスは先程のサラの言い分を受けて、異議を呑み込んでいた。

 一同を見回して、意見はないと判断したサラは締めくくる。

 

「日時は今週末、実習期間は二日。A班、B班共に鉄道を使って実習地まで行くことになるわね……

 各自、それまでに準備を整えて英気を養っておきなさい。以上――解散といきたいところだけど。リィン」

 

 ホームルームが締めくくられる前にサラはリィンの名前を呼んだ。

 

「はい? 何でしょうか?」

 

「何でしょうか、じゃないでしょ……

 さっきの実技テスト、乱入して来たのはどこの誰で、その人形たちは何なのか説明してもらえないかしら?」

 

「説明しろって言われても……ここでですか?」

 

 リィンは自分に視線を集中させるⅦ組のメンバーを見回して聞き返す。

 

「説明するのは良いですけど、ここで話すような内容ではないと思います」

 

「そうは言っても授業妨害されたわけでしょ? リィンの身内なら説明するのが筋じゃないかしら?」

 

「身内ではありません。あの人達は俺が倒すべき敵です」

 

 もしも彼女と刃を交える前に聞かれていたら曖昧に答えていただろう関係性をリィンは断言して答える。

 

「ノイやルフィナさんも俺が個人で所有している戦術殻です。それ以上の説明が必要でしょうか?」

 

 そもそもノイは《鋼の至宝》の意志だと説明して理解と納得が得られるとは思えない。

 《至宝》の存在にしても御伽噺の類で語られる存在でしかないのだから、説明したところで信じてもらえるだろうか。

 

「君はそんな言い訳が通用すると思っているのか!?」

 

 拒絶の態度を取るリィンにマキアスが眦を上げて口を挟む。

 

「それなら君はどうして貴族をそこまで憎むのか、話してくれるのか?」

 

「何で君なんかにそんなことを言わなければいけないんだ!?」

 

 すかさず言い返された拒絶の言葉にリィンは嘆息する。

 

「ならどうして俺が君の質問に懇切丁寧に答えないといけないんだ?」

 

「それは……」

 

「他の人達ならともかく君に俺はノイ達のことをこれ以上説明するつもりはない」

 

 はっきりと口にした拒絶にマキアスはそれでも何かを言い返そうと口を開き、リィンはそれを無視してサラに向き直る。

 

「ノイ達には今後、学院の中では出て来ないように言い聞かせます。それで良いですか?」

 

「はあ……まあ、あたしは別にそんなことで目くじら立てるつもりはないんだけど……

 それに話を聞きたがっているのはあたしじゃないのよ」

 

 サラの疲れたため息にリィンは首を傾げる。

 

「…………リィン……」

 

 それまで無言を貫いていたラウラが席を立ち、怒気で周囲を威圧しながらリィンの前に立つ。

 

「ラ、ラウラ……」

 

 そういえば一番良い所でデュバリィの横槍が入ったことを今更ながら思い出す。

 最後に戦術リンクで感じた彼女の感情には蟠りがなかったが、デュバリィとのやり取りを見るとそれも怪しく感じてしまう。

 

「リィン……《鉄機隊》とは何だ? あの槍使いはいったい何者なんだ?」

 

「何者だって言われてもな……」

 

 彼女たちのことはノイ達と同じでどこまで話して良いのか悩む。

 

「一言ではうまく説明できないが、リベールで会った俺の敵になる人たちだ」

 

「何故《鉄機隊》を名乗っている?」

 

「それは知らない」

 

「あの槍使いと《槍の聖女》との関係は?」

 

「…………」

 

「答えられないか?」

 

「ここで答えたら俺の頭がおかしいって疑われるからな」

 

「なるほど……しかし先程彼女たちはリィンの敵だと言っていたな……

 つまりいつかリィンの前に立ち塞がると考えて良いのか?」

 

「ああ、それは間違いないよ」

 

 ラウラの考えをリィンは肯定する。

 

「ならばリィン。頼みがある」

 

「頼み?」

 

「私を鍛えてほしい」

 

「…………え?」

 

 予想外の申し出にリィンは間の抜けた声をもらす。

 

「此度のことで私は自分が井の中の蛙だったことを痛感した……

 《神速》を名乗る女性もそうだが、《槍使い》に至っては父上すら凌駕する実力の持ち主……

 アルゼイド流を傍流と蔑まれたが、悔しいが今の私にはそれを否定する力はない。そうだろ?」

 

「……ああ。ラウラには悪いが今のラウラじゃ、相手にもならないと思う」

 

「聞けばリィンはクリスと旧校舎で秘密の特訓をしているそうではないか。私もそれに参加させて欲しい」

 

 ぐいぐいとこれまでの余所余所しさが何だったのかと言わんばかりに迫って来るラウラにリィンは冷や汗を掻いてたじろぐ。

 

「異議ありですラウラさんっ!」

 

 そんなラウラにクリスが抗議の声を上げる。

 

「次こそ単独でボスを攻略して《ブリランテ》を使わせて貰うんです」

 

「《ブリランテ》……名前からするとクリスが使っている《風の魔剣》と同じようなものだろうか? リィン、大剣の《魔剣》はないのか?」

 

「っ――分かりました。ラウラさん、貴方に《ブリランテ》を賭けて決闘を申し込みますっ!」

 

「お、おいっ!? クリス!?」

 

「是非もない……実はそなたとも手合わせしたいと思っていたのだ」

 

 宣戦布告をするクリスにラウラは活き活きとした様子で受け止める。

 入学してからの約一ヶ月。

 鬱屈とした表情ばかりだったラウラが初めて見せた笑みは彼女の姉弟子を彷彿とさせるものだった。

 

 

 




 彼女の一日


アリサ
「よし、ちゃんと謝ったんだから今日こそはちゃんとおはようって言うのよ……うん、いけるっ! お、おは――」

ラウラ
「おはようリィン。今日から私も食事の準備を手伝わせてもらおう。何分初めてのことだから至らぬところもあると思うがよろしく頼む」

アリサ
「…………」



アリサ
「……リィンを学食に誘って、あの時のお詫びとして奢る……これなら……リ、リィ――」

クリス
「リィンさん。今日はいい天気ですから屋上でお弁当を食べましょう」

アリサ
「………………」


放課後
アリサ
「今日はラクロス部は休み。この機会に――」

クリス
「リィンさん、今日はフェンシング部が休みですから旧校舎探索をしましょう」

ラウラ
「リィン、私と手合わせをしよう」

クリス
「ラウラさん……僕の方が早かったです。遠慮してください」

ラウラ
「ふむ……だったら私もその旧校舎探索に同行させてもらえないか?」

クリス
「むう……」

リィン
「ところでラウラは部活動はしないのか?」

ラウラ
「ああ、今は剣に邁進したいからな」

リィン
「そうは言うけど、せっかくだからなんかやってみたらどうだ?
 気持ちは分かるけど、あまり張り詰めていてもよくないぞ」

ラウラ
「ふむ……そうか……考えておこう」

アリサ
「……………………」



サラ
「こういうのも両手に花って言うのかしら? もてもてねリィンってば」

エマ
「アリサさん……ほろり」

ドロテ
「子犬系金髪美少年……ぶはっ!」



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