(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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90話 西ゼムリア通商会議Ⅴ

「いったい何が起きてるんだろう?」

 

 ユウナ・クロフォードは道を塞ぐバリケードの前でオルキスタワーを見上げていた。

 街の中でも分かった二隻の飛行船による通商会議の襲撃。

 それから程なくしてクロスベルの上空を覆った赤い光と轟音。

 何が起きたのか、首脳たちは無事なのか。

 その報道は未だに市井には公開されず、オルキスタワーは静かにそびえてそこにいた。

 

「ロイドさん達も警備に参加したって話だから大丈夫だと思うけど……」

 

 オルキスタワーに入って行く彼らの背中を見送ったことを思い出し、そこに信頼を感じる一方でユウナは憤りを思い出す。

 

「だいたいクルト君はずるいのよ」

 

 当然のようにロイド達と行動を共にしている帝国の少年を思い出してユウナは愚痴をこぼす。

 自分と同い年なのに、警察学校に通ってないのに、家出少年なのに、帝国人なのに、当たり前のようにロイド達から頼られている彼を思い出すたびにユウナはぐぬぬと悔しくなる。

 ただの家出少年の時は一緒にいたクリスと共に仲良くできていたのだが、クルトが正式に特務支援課の一員となってからはユウナの方が一方的にクルトをライバル視するようになっていた。

 

「…………ロイドさん……大丈夫ですよね……」

 

 百面相をしながらユウナは改めてオルキスタワーを見上げて彼らの――おまけでクルトの安否を祈る。

 

「おいっ! 何だあれは!?」

 

 そう叫んだのはオルキスタワーを背にバリケードの前に立つ警官だった。

 

「突っ込んでくるぞ!?」

 

「え……?」

 

 ユウナが振り返ると同時に突風が吹き荒れる。

 

「あれは《灰の騎神》!?」

 

 一瞬見えた巨人にユウナは驚く。

 帝国がデモンストレーションとして持ち込んだ巨大兵器。

 その姿は《蒼》だったが、詳しい事情を知らないユウナを始めとしたクロスベルの市民にとっては人智を超えたその存在にまず《灰》を連想してしまう。

 《騎神》はオルキスタワーの周りを螺旋を描くように猛スピードで飛翔し、駆け昇って行く。

 

「ミツケタ」

 

 屋上まで辿り着き、《C》は呆然と立ち尽くす怨敵の姿を見つける。

 その瞬間、最後の箍が外れる。

 

「死ねよ。クソ野郎っ!」

 

 そこに他の誰がいるのかも目に入らず、《C》はダブルセイバーに赤黒い闘気を纏わせて交差した剣閃が放たれる。

 

「殿下っ!」

 

「くっ――オリビエッ!」

 

 突然の《蒼》の強襲にそれぞれの護衛官は主を守る様にその場に押し倒す。

 

「オッサンッ!」

 

「オズボーン宰相っ!」

 

 立ち尽くすギリアスをレクターとトワが二人掛かりで押し倒し、《蒼》が放った剣閃は彼らの頭上を掠めて二隻の飛行船と起動を停止した《フェンリル》を薙ぎ払った。

 起爆に時間が掛かる《フェンリル》は問題なかったが、飛行船の内部に仕掛けてあった爆薬がその衝撃によって爆発する。

 

「シュバルツァー以外にも騎神持ちはいると思ってたが……このタイミングで切るかよ」

 

 可能性はあると考えていたが、使えば目立つジョーカーでもある。

 躊躇わず切ってきた帝国解放戦線のなりふり構わない思い切りの良さに、これだから箍の外れた奴はと内心で罵る。

 

「だ、大丈夫ですかオズボーン宰相?」

 

「あ……ああ」

 

 レクターとそして歳不相応な背丈のトワに助けられたギリアスは、らしくもなく呆然とトワの問い掛けに頷く。

 

「よかった……レクターさん! 宰相閣下を連れて逃げてください!」

 

「逃げてってお前――」

 

「ここは私が食い止めますからっ!」

 

 立ち上がったトワはテロリストの襲撃に合わせて預けていた武器――魔導銃を構えて自分を睥睨する《蒼》にその銃口を向ける。

 

「リィン君みたいなことはできないけど、私だって――」

 

 勇敢にも真っ先に立ち向かうトワの身体は誰がどう見ても恐怖で震えている。

 

「そうかよ……お前はやっぱりそっち側かよ……」

 

 《蒼》に――自分に銃口を向ける小さな少女の姿を《C》は冷めた視線で見下ろす。

 奇襲から改めてその場を確認すればリィンの姿も《灰》の姿もない。

 さらに言えば、戦っただろう同志の姿もない。

 命を賭けてリィン・シュバルツァーを排除してくれた彼の犠牲に報いるために、《C》はそれを振り払うようにダブルセイバーを振り上げる。

 

「だったらお前も――」

 

「あ……」

 

 振り下ろされた巨大な凶刃にトワは立ち竦む。

 

「させんっ!」

 

 ミュラーがその一撃を剛剣で逸らし、ダブルセイバーはトワの横を掠める。

 

「ひゃっ!」

 

「ここは私達が引き受ける! 君も殿下達と共にタワーの中に逃げるんだ!」

 

「で、でも――」

 

「良いから行くんだっ!」

 

 ミュラーを前にしてユリアがトワを下がらせようとする。

 

「行かせるかよっ!」

 

「ぐっ!?」

 

 ミュラーが繰り出す猛攻を《蒼》は煩わしいと言わんばかりに弾き、タワーの中へと逃げ込もうとするギリアスに向けて《蒼》を走らせる。

 

「ちっ……だったら――」

 

 しかし間に合わないと悟った《C》は目の前のユリアを左腕で弾き、未だに前線から退こうとしなかったトワを掴み掲げる。

 

『逃げるなギリアス・オズボーンッ! 逃げればこの女を殺すぞっ!』

 

「なっ!?」

 

「正気か!?」

 

 殴られた身を起こしたユリアとミュラーは《C》の叫びに耳を疑った。

 

「貴様、女子供を人質に使うとは、帝国男児として恥ずかしくないのか!?」

 

『生憎だが、元々は帝国出身ではないのでね。既に煉獄に堕ちる覚悟などできている……貴様らもそこから動かないでもらおうか』

 

 威嚇するように《蒼》は握り締めたトワを突きつけて、その手に力を込める。

 

「く……ああっ!」

 

 全身を潰そうとする圧力にトワは悲鳴を上げ、そこで《蒼》は彼女を落とさない程度に力を緩める。

 

『さあ、どうする鉄血宰相? お前が決めろ。この女を見殺しにするか、お前が命を差し出すかを』

 

 《C》はトワをギリアス達に向けて選択を迫る。

 

「馬鹿馬鹿しい、一学生と宰相閣下の命を天秤に掛けるなど考えるまでもない」

 

「閣下、それに殿下も早く中へ。彼女も士官学院の一員です。誰を優先するべきか分かっているはずです」

 

 帝国の将校は《C》の言葉を一考することなく切り捨てて、ギリアスとオリヴァルトの安全を優先する。

 

「いや……それはダメだ」

 

 オリヴァルトはそんな将校の働きを拒絶する。

 善性であるオリヴァルトは、人質を取られて逃げれるほどに割り切ることはできなかった。

 例え《C》の要求に自分が入っていなかったとしても、この局面から尻尾を巻いて逃げることはできそうにない。

 

「ですが、ここは危険です! あんな化物はリィン・シュバルツァーの《騎神》に任せるべきです」

 

「っ――」

 

 将校の叫びにオリヴァルトは息を呑む。

 

「リィン君は……リィン君は……」

 

 彼がヴァリマールで飛び立つ瞬間をオリヴァルトは見たわけじゃない。

 だからまだその実感ができていないだけに、それを口にするのを躊躇ってしまう。

 

「殿下の言う通りですね。ここは私に任せていただきましょう」

 

「え……?」

 

「閣下!?」

 

「君たちはそこで待機していたまえ」

 

 そう言って、ギリアスは軽やかな足取りで屋上へと舞い戻った。

 

『なっ…………』

 

「さあ、要求通り来てやったぞ。まずはその少女を解放したまえ」

 

 巨大な《蒼》の存在に物怖じすることなくギリアスはトワを放せと言い切る。

 その堂々とした態度に、《C》の感情を示すように《蒼》はたじろぐ。

 

「どうした? まさか本当に出てくるとは思っていなかったとでも言うつもりか?」

 

『くっ……』

 

 図星を言い当てられて《C》は怯む。

 悪逆非道な《鉄血宰相》ならまず間違いなく、一学生など見捨てて我が身可愛さに逃げると思っていた。

 そうしてくれれば大義名分を得たとして《C》は彼女を――そして彼女を見捨てた宰相を遠慮することなく殺せるはずだった。

 なのにギリアスは《C》を始めとするそこにいる全ての人達が驚くほどに簡単に《蒼》の前に姿をさらした。

 

「ふ……《帝国解放戦線》の《C》か……

 騎神越しとはいえ、初めて顔を合わせるがどうやら思っていた以上に小物だったようだな」

 

『……何だと?』

 

 失笑するギリアスに怯んでいた《C》の心に焔が宿る。

 

「事実であろう?

 理由を作らなければそのような婦女子一人も殺せない。どころか私を殺す千載一遇のチャンスだというのに棒立ちしている貴様をそう言わずに何と言えと?」

 

『ふ――っざけんなっ!?』

 

 《C》は激昂と共にダブルセイバーを振り下ろす。

 が、ダブルセイバーはギリアスから逸れてコンクリートを砕いて、石つぶてを彼に浴びせるだけに終わった。

 

「――っ……それが貴様の限界だ」

 

 無数に浴びた石つぶてにギリアスは怯みもせず、目の前に迫った《蒼》を睨む。

 

「貴様は《騎神》という力を得た子供に過ぎん。騎神に選ばれ、世界に選ばれた特別な存在と浮かれ、自分の行いこそが正義と酔っているだけの子供だ」

 

『だまれ……』

 

「貴様の中には帝国のためだという大義などはない。私を選んだ理由も所詮取って付けたような理由に過ぎないのだろう?」

 

『黙れっ……』

 

「その程度の心持ちでこの《鉄血宰相》の前に立とうなどとは十年早いわっ!」

 

『――っ』

 

 ギリアスの一喝に《蒼》は今度こそ明確に一歩後退った。

 

「あ……」

 

 《蒼》の腕の中でトワは小さく呻き、《蒼》の顔を凝視する。

 

「もしかして……クロウ君?」

 

 機械越しに変えられた声。それにテロリストのリーダーとして振る舞う口調は彼のものではない。

 しかしそれでも、トワはその事実に直感だけで行きつき、確かめるように口にしていた。

 それが聞こえたのは《蒼》越しの彼だけだったが、ギリアスに言葉攻めされた以上の反応を《蒼》の手の中でトワが感じて確信する。

 

「やっぱりクロ――ぐっ――」

 

『うるさい……うるさい……うるさいっ!』

 

 テロリストのリーダーの顔を取り繕うのを忘れ、《蒼》の手に力を入れてトワの言葉を黙らせる。

 彼女にそのままその名を口にされたら、これまで取り繕ってきたものが全て瓦解してしまう予感。

 

『俺は……オレは《帝国解放戦線》のリーダー。《C》だっ!』

 

 これまで積み重ねてきたものを振り払うように《C》はトワを屋上の外へと投げ捨てた。

 

「なっ!?」

 

「何てことを!?」

 

 突然の暴挙にミュラーとユリアは絶句し剣を投げ捨て、トワを追い駆ける。

 だが、追い付くことはできずトワは地上40階の空へと投げ出された。

 

「あっ――」

 

「っ……」

 

 しかし、屋上の縁で足を止めてしまったミュラーとユリアの間をすり抜けてトワを追って飛び出した影が一つ。

 

「なっ!?」

 

 トワを追って空に身を投げ出した存在にそこにいる誰もが目を疑った。

 

「閣下!?」

 

 帝国の内外から畏れられていた《鉄血宰相》は臆することなくその身を投げ出した。

 

「どうしてっ!?」

 

「黙っていたまえトワ・ハーシェル」

 

 空中でトワの身体を捕まえたギリアスはその小さな体を抱える。

 いかな超人でも物理法則に諍うことなどできず、二人はそのまま地上へと落ちる。

 

「どうして……私なんかを……」

 

「ふ……私は帝国を背負う者……帝国市民を見捨てることはありはしないさ」

 

 そう建前を口にしながらギリアスは別の理由を考えていた。

 

 ――君もああしてリィンを庇ったのだろうか……

 

 誰よりも早く、自分を庇おうとした彼女の姿にギリアスは亡くした者の面影を見た。

 そう感じてしまったのならギリアスにはトワを見捨てる選択肢はなくなっていた。

 それにこの墜落もギリアスにとっては何の脅威にもならない。

 

「安心したまえ、当然私もこのようなところで死ぬことなどない」

 

「え……」

 

 不思議そうに自分を見上げてくるトワにギリアスはいつもの不遜な笑みを作り、トワを小脇に抱えるようにして己の心臓に右腕を当てる。

 

「来るがいい――っ……!?」

 

 唐突に胸に走った痛みにギリアスは思わず呻く。

 ギリアスの自業自得が招いたとはいえ、この窮地において拒否するような感覚。

 

「見放したか……いや……これは……」

 

 繋がりを通して感じる《黒》の感情は拒絶ではない。何かに怯えるような恐怖。

 前世を含め、あの哀れにも感じる傲慢な“存在”がそのような感情を見せたことなど一度もなかった。

 

「何故、今……?」

 

 霊力の昂りを感じる、もう見えなくなった屋上では異様な霊力が高まっている。

 だが、果たしてそれは《黒》が怯える程のものなのだろうかと困惑するギリアスの背後で――起動者にとって馴染み深く、滅多に見ることのない剥き出しの“核”が音もなく現れた。

 

 

 

 

『くくく……はははは……はっはっはっは!』

 

 トワを投げ捨てた《C》は黒い陰の気を纏いながら笑っていた。

 この二年で作り出してしまった余計なしがらみ。

 思えば復讐を誓ったあの日から随分と余計な不純物が増えてしまったと振り返る。

 

『いらねえよ……俺には《蒼》とこの胸の中の《焔》だけあれば良かったんだ』

 

 その不純物の最たるものを捨てた。

 おかげで迷いがあった心を決める事が出来た。

 それに伴い《C》の気に当てられてオルディーネにも変化が現れる。

 装甲が開き、一時的に出力を向上させる形態とは違う、一本だった角が二本に増え、流線的なフォルムは禍々しいものへと変わる。

 それは今の《C》の心境を表すかのような《修羅》――鬼の姿だった。

 

『それにしても……まさかあんたがこんな手で勝手に死んでくれるとはな』

 

 もっともその力を使う機会がなくなったことがさらに笑いを誘う。

 まさかあの血も涙もない怨敵が、何の関係もない少女のために身を投げ出すとは欠片も想像していなかった。

 だが、肩透かしを喰らった気分だが、実に気分が良かった。

 惜しむらくは彼が今どんな表情で地上までの最後の時間を過ごしているのか気になるところだったが、《C》はそれを確認するよりも《蒼》を振り返らせてその場にいる一同を睥睨する。

 

『この力は同志たちの仇討ちにでも使わせてもらうとするか……どうやら派手に殺してくれたみたいだからな』

 

 かつてスポンサーが語った《鉄血宰相》を殺した後の展望。

 自身も同志たちも興味はなかったが、接待する気持ちで聞き流した“ゼムリア大陸統一計画”。

 これまで支援してくれた礼としてせっかく得た力を振るってやろうと衝動に突き動かされるまま、《C》はオリヴァルトやクローディアに刃を向ける。

 

『…………うぅっ……その声は同志《C》か!?』

 

『あん?』

 

 何処からともなく聞こえて来た死んだはずの同志の声に《C》は周囲を見回す。

 

『その声は《G》か? まさか生きていたのか?』

 

『助けてくれっ! 暗くて狭くてここが何処か分からないが、私はここにいるぞ同志《C》!』

 

 みっともなく喚き出した音源は屋上の一角に誰も見向きもせずに放置されていたひしゃげたコックピット。

 

『まさかそれで生きているとはな。女神の――いやこれも悪魔の加護か』

 

 一人でも生きていたことに《C》は安堵し、そのコックピットを《蒼》の左手で掴む。

 

『せめてもの情けだ。死ぬ順番くらいは選ばせてやるよ』

 

 機嫌を良くした《C》は改めてオリヴァルト達に刃を向ける。

 

「何と身勝手で傲慢な……」

 

「オリビエ、今からでもクローディア殿下を連れて逃げろ」

 

 《C》の勝手な言い分にユリアとミュラーは憤りを感じるどころか呆れる。

 

「はは、逃げろと言って何処へ逃げるんだい? 下手に逃げたらエレベーターがボクたちの棺桶となってしまうよ」

 

「そうです。私も戦います」

 

 ユリアとミュラーの進言を却下して、オリヴァルトとクローディアは勇ましく導力銃と剣を構える。

 

『くくく……勇ましいことだ』

 

「っ……貴方達は狂っています」

 

 向けられた嘲笑にクローディアは屈するつもりはないと言わんばかりに睨み返す。

 

『ああ、そうだな。それがどうした?』

 

 小人の批判など知ったことではないと言わんばかりに《蒼》はダブルセイバーを振り上げ――突然現れた“ソレ”の横撃を喰らった。

 

「…………え……?」

 

「これは《騎神》……」

 

 くすんだ鋼色の装甲に光で構成される翼。

 見たこともない。《灰》でも《緋》でもなければ、《銀》や《紫》、《黒》でもない新たな騎神の登場にオリヴァルト達は呆ける。

 《蒼》を横撃して屋上から突き飛ばした《騎神》は振り返り、膝を着いて両手で守る様に抱えていたトワとギリアスを下ろす。

 

「宰相、それにトワ君も!? 無事だったのか!?」

 

「え、ええ……地上に叩きつけられる前にこの機体に助けられました」

 

 ギリアスは二人の生還を喜ぶオリヴァルトに困惑しながら頷き、自分が知らない《騎神》を見上げた。

 

「何だ……この機体は……?」

 

 胸に感じるのは恐怖。

 《黒》を超える存在感を持つ、圧倒的な“格”を感じさせる存在。

 一つ分かることはこの存在は人がどうこうできるものではない。

 《黒》が怯えているのが何よりの証拠だろう。

 

「くくく…………」

 

「ははは…………」

 

 ギリアスと同様に困惑するだけだったオリヴァルト達の背後で二つの笑い声が上がる。

 振り返るとこれまで懸命に《蒼》に向けて導力銃を撃っていたクロスベルの警備隊と警官が同じように腹を抱えて抑え切れないと言わんばかりに破顔していた。

 

「これだ……私が見たかったのはこれだ! よもやこのようなものがこの世に誕生するとはっ!」

 

「はははっ! その口調、話には聞いていたが貴方か! 実に同感だ! やはり君は最高の素材だ! 超帝国人っ!」

 

 二人の哄笑が響き、オリヴァルト達はさらに困惑する。

 

「貴方達はいったい……?」

 

「超帝国人……ってまさか……」

 

 その事実に一筋の希望を持ってオリヴァルトは《騎神》に振り返る。

 だが《騎神》は何も応えずに浮き上がり、オリヴァルト達の前から残像を残して消えた。

 

「カルバード製の破壊力だけなら至宝に匹敵する“風”と“水”の導力爆弾……

 そして“人工の至宝が生まれる因果”を持つこのクロスベルの地」

 

 抑え切れないものを堪えるようにその警備隊員は叫ぶ。

 

「“風”と“水”が練成されることで誕生せし新たなる“巨イナル一”っ!

 名付けるとするならば……そう“雲の至宝”っ! “雲の騎神”アンヘル・ヴァリマールッ!」

 

「“巨イナル一”だと……」

 

 警備隊員の言葉にギリアスは絶句するが、同時に納得もする。

 それだけあの《騎神》が持つ力は圧倒的だった。

 

「見ているか《黒》よ! 《零の御子》よっ! 《空の女神》よっ!!

 これが、これこそが超帝国人リィン・シュバルツァーが紡ぎ出した“奇蹟”だっ!」

 

 高らかに叫ぶ警備隊員の声が静かになったオルキスタワーの屋上に響き渡った。

 

 

 

 

 

「くそっ! いったい何が!?」

 

 オルキスタワーの屋上から突き飛ばされた《C》は憤りを露わにして体勢を立て直す。

 

「がっ!?」

 

 次の瞬間、《蒼》は見知らぬ《騎神》に頭を掴まれたかと思うとエルム湖に叩き込まれていた。

 

「何なんだっ!」

 

 苛立ちを募らせながら《蒼》は湖から飛び出して《C》は絶句する。

 正面に見えるのはクロスベルのテーマパークのシンボルである観覧車、背後には直前までいたはずのオルキスタワーが遥か遠くに見える。

 体感にしてまだ十秒も経ってないはずなのに、一瞬で遠く離れたこの場所に引き吊られてきたことに困惑する。

 

「オルディーネの起動者よ」

 

「っ……」

 

 目の前に立つ見知らぬ《騎神》が声を掛けてくる。

 

「悪いことは言わない。ここで退け。でなければ私の起動者が何をしでかすか分からない」

 

 流暢な言葉で撤退を促す《騎神》に混乱していた《C》の思考は苛立ちと憤りに再び支配される。

 

「識別コード……《灰の騎神》……」

 

 計器が示す目の前の存在の正体に《C》はその熱をさらに強くなる。

 

「どこまでも俺の邪魔をしやがって……」

 

 恨み言を漏らし、《蒼》はダブルセイバーを構える。

 

「お前が消えろっ!」

 

 計器が示す《騎神》の霊力はほとんどない。

 下手をすれば量産している秘密兵器以下の力しかない見掛け倒しの《騎神》に《C》の苛立ちは加速する。

 

「…………警告はしたぞ」

 

 そんな《蒼》の姿に《騎神》は憐憫を感じて黙り込む。

 己の起動者と二人の準起動者はどちらも消耗が著しく、すぐにでも生命維持の機能を使わなければ危ない程に消耗している。

 だが、それでもまだ意識をか細い糸として繋ぎ止めているのが、起動者である。

 正直、ヴァリマールは自分の身に何が起きているのか少しも理解できていないのだが、この状態の起動者が最も危険だと言う事は身に染みて知っている。

 

「お…………オオオオオオオオッ!」

 

 案の定、どこにまだそれだけの力が残っていたのか、起動者は雄叫びを上げて力を振り絞る。

 そして何処からともなく《騎神》の前に二本の剣が現れる。

 機械的な装甲で継ぎ接ぎされた武骨な剣は内部の欠片から漏れ出る“呪い”に染まり――《騎神》が触れたことで抑え込まれる。

 鉄に覆われた二つの剣は内側から浸食するようにそれを染め上げる。

 紅き焔の剣、黒き大地の剣。

 その内の一つを起動者は投げ捨て、《焔の剣》を構える。

 

「うおおおおおおおおっ! デッドリークロスッ!」

 

 悪鬼と化した《蒼》が繰り出す十字の一撃。

 

「八葉一閃」

 

 進化を遂げた《灰》が繰り出す八葉の一撃。

 二つの力が交差し、その日クロスベル市民はエルム湖が二つに割れた姿を見る事となった。

 

 

 

 

 

 ほのかな計器の光が照らす“核”の中。

 朦朧とする意識の中、自分が何をして、何と戦っていたのかも理解していないリィンはただ衝動に任せるままに呟いた。

 

「…………たしかに守ったぞ……キーア……」

 

 それを最後にリィン・シュバルツァーは完全に意識を堕とすのだった。

 

 

 

 




補足説明
“雲”風と水より練成されし、“巨イナル一”
フェンリルは簡単に言えば、《焔》と《大地》のぶつかり合いを再現した導力爆弾です。
爆発したら帝国のオスギリアス盆地みたいなことになります。
これに“人工至宝が生まれる”という予言している“黒の史書”に割り込みを掛けて、幻のわずかな力から“鐘”に干渉してクロスベルの術式を利用しました。
無理矢理でいろいろな部分を省略したりしていますが、二柱の聖獣と空の至宝、鋼の至宝の意志がそれを補助する形で足りない部分が補われています。
なお“雲”の力は“鋼”に対する+と-の関係なのでノイの復活にへ影響しません。

流石のキーアも自身と同じ存在を生み出す因果が成立していることには気付きませんでした。

なお通商会議は8月31日なので8月と9月の気絶ノルマ達成?

ワイスマン
「私が何をしたか気になる?
 私がしたのはせいぜい《フェンリル》と《蒼》が何をもたらすか見せて、彼女の懺悔の声を聞かせて上げただけだよ……
 彼女にも彼にも、誓って私は何をしろとは言っていないよ……フフフ……
 覚えておくといい《零の御子》よ。人の中には誰かのためと言って、普段の力を何倍にも引き出す人種が存在する……
 そういう人間に心当たりがあれば是非ともこう言って上げると良い、『リィン・シュバルツァーならできたのに』と……」


“雲の騎神”アンヘル・ヴァリマールのイメージは最終相克が終わった状態のヴァリマール。
 色は原作よりも黒っぽくなって鋼色。また銀の翼はなく、その代わり任意展開できる光で構築された翼を持っています。
 なお“雲”に紐付けされていますが、相克に巻き込まれた場合、対消滅か鋼を超えた何かになる予定です。


各国首脳陣の感想
ロックスミス大統領
「これが《灰の騎神》の万全な姿というわけか……フェンリルが回復薬扱いとは……ううむ。我が国でも至宝を探すべきか」

クローディア
「もう……本当に無茶ばかりして」

オリヴァルト
「くっ……僕としたことが美のライバルどころか、彼にさえ遅れを取るなんて……
 だがそれでこそ僕のリィン君だ。痺れる憧れるっ!」

アルバート大公
「ともあれ帝国の“巨いなる騎士”の力とは凄まじいものでした……
 歴史に名高いかのドライケルス大帝も彼のような存在だったのでしょう」

オズボーン宰相
「いやいやいやいや……」

ディーター市長
(大した力だが、クロイス家の至宝こそがゼムリア一に決まっている)





スーパー騎神大戦

ギリアス
「どうやら私はお前を誤解していたようだ……
 《銀》を鉄くずと称していたのは相克に物足りなさを感じていたからなのだろう?
 自分よりも強い者と戦いたいと言うのは武人としての性。私にも理解できる。全てを水に流すことはできないが、共に諍ってみせようではないか」

アリアンロード
「零の御子。三機の神機で私と戦っていただけないでしょうか?
 帝国と共和国の侵攻ですか? それなら私が引き受けます。いい準備運動になるでしょう」

ルーファス
「くくく、なかなか気分が良いものだな。勝算を気にせず、ただ己の全力をぶつけるという感覚はっ!」

マクバーン
「礼を言うぜルーファス・アルバレア。こんなアツイ戦いに横槍じゃなく、ど真ん中に巻き込んでくれるとはなっ!」

シャーリィ
「あははっ! やる気がないならシャーリィにその席と“王様”の看板を譲ってよ、死にぞこないっ!」

シグムント
「そういうことだ。それに兄貴はもういないのなら、貴様は俺が喰っても良いんだよな!?」

ルトガー
「おいおい、そんなこと言われたら……本気になっちまうじゃねえか!」

セドリック
「みんなの力を僕に分けてくれっ!」

《C》
「出し惜しみしてんじゃねえ。使ってやるからもっと力を寄こせっ!」

リィン
「まだだ……まだ足りない。もっとだっ!」





イシュメルガ
「…………」

アルグレオン
「………………」

エル・プラドー
「……………………」

ゼクトール
「…………………………」

テスタ=ロッサ
「………………………………」

オルディーネ
「……………………………………」

ヴァリマール
「…………ま……だ……?」


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