(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~   作:アルカンシェル

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91話 西ゼムリア通商会議Ⅵ

 

 

 

「はぁっ!」

 

 敵の真っただ中にクルトが飛び込む。

 導力を刃にした双剣が一閃、二閃して敵の連携をかき乱す。

 

「このっ! ガキッ!」

 

「させるかっ!」

 

 クルトの背中から斬りかかったテロリストの一撃をロイドが受け止める。

 

「テンペストエッジッ!」

 

 攻撃を止めた一瞬でクルトはロイドと背中合わせに位置を入れ替えて双剣の乱舞を叩き込む。

 

「調子に乗るなっ!」

 

 斬り伏せられた仲間と入れ替わるように新たなテロリストがクルトの双剣を大剣で受け止める。

 

「ロイドさんっ!」

 

「おおっ!」

 

 阿吽の呼吸で、今度はロイドがクルトと位置を入れ替わりトンファーによる雷撃を伴った一撃が敵を昏倒させる。

 

「距離を取れっ! 奴等を近付かせないように弾幕を張るんだ!」

 

 近接戦闘では分が悪いとテロリストが声を上げる。

 

「はっ! 遅ぇ――っ!」

 

 そのテロリストをランディが大型のブレードライフルに装填した術式弾を撃ち込む。

 着弾した弾丸はアーツのように導力魔法の起点となってピンポイントで術の効果を発生させ、テロリストの半身を氷で包みその動きを止める。

 

「何だあの化物みたいな獲物は!? 警察が持つ武器じゃないぞ!」

 

「それよりいったい何処から出て来た!? 隠し持てるような武器じゃないのに!?」

 

「言ってる場合か! こうなったら奥の手だ!」

 

 テロリストが何かの端末を操作すると戦場にクラクションの音が鳴り響く。

 

「何だ!?」

 

 そこに撃ち込まれたミサイルにロイド達とテロリストは二分にするようにその場から跳び退く。

 

「ス、スマートミサイル!?」

 

「クロスベル警備隊の装甲車がどうして!?」

 

 突然乱入して来た装甲車にノエルとエリィは驚きを露わにする。

 

「てめえら……どこで手に入れやがった!?」

 

「はは、中々便利な協力者がいるものでな!」

 

「やれ! 奴等を轢き殺せっ!」

 

 気分よくそう命じる声に応えて、装甲車はロイド達に向かって猛スピードで発進する。

 

「皆さん、わたしの後ろに」

 

 そう言ってティオが前に出ると導力杖を片手で構え、逆の手を突進してくる装甲車に向けて掲げる。

 

「《エイオンシステム》解放します。異層空間にアクセス。絶対障壁個別展開。ゼロ・フィールド!」

 

 防御結界が突進を受け止めて抑え込み、ティオはそのまま結界越しに装甲車に触れる。

 

「アクセス…………コントロールを奪い返しました」

 

「……へ?」

 

 防御結界を破ろうとそのアクセルを吹かしていた装甲車は突然停まったかと思うと、上部に設置されている回転砲塔がぐるりと回ってその銃口をテロリストたちに向ける。

 勝ち誇っていたテロリスト達は間の抜けた声をもらし次の瞬間、彼らの眼前に威嚇するようにガトリングの弾丸が掃射される。

 

「な……な……いったいどうなっているんだ!?」

 

「撤退だ! これ以上こいつらに構っていられるか!?」

 

 そう叫んでテロリスト達は閃光弾を取り出して投げつける。

 

「くっ――」

 

 閃光から目を守り身動きを止めるロイド達に背を向けてテロリスト達は最後の疾走と言わんばかりに全力でその場から離脱する。

 

「はい。残念」

 

 ロイド達から離れて伏兵として身を隠していたワジがビリヤード球を投げてその出鼻をくじく。

 

「ここまでだな」

 

 倒れたテロリスト達にロイドはトンファーを突きつけて宣言する。

 

「テロ活動、破壊工作の現行犯及び要人暗殺、大量虐殺未遂などの容疑であなたたちを逮捕する!」

 

「くっ……」

 

「女子供ばかりの警察と油断さえしなければ」

 

「たかが自治州の警察ごときが我らの大義を邪魔するか!」

 

 膝を着くテロリスト達は口々に不平不満を漏らし、ロイド達を罵る。

 

「ふ、ふざけないで! 貴方達こそ、どれだけの人を巻き込むつもりだったの!?」

 

「やれやれ、いるんだよね。大義名分と自分に酔っちゃって周りが見えなくなる連中って」

 

 テロリストのあまりに身勝手な物言いにノエルは激昂して、ワジは呆れて肩を竦める。

 

「くっ、黙れ!」

 

「誇りを忘れて空しき繁栄を貪るだけの愚民どもがっ!」

 

「っ……」

 

「反省する気、ゼロみたいですね」

 

「我々とて無関係の者を巻き込むのは本意ではない。だが、これ以上あの親子を放置すれば帝国は滅茶苦茶になってしまう」

 

「あの親子……?」

 

 あまりに身勝手な言葉だが、ロイドはその言葉を思わず聞き返していた。

 

「ギリアス・オズボーンとリィン・シュバルツァーの二人の事だ!

 奴等を野放しにしておけば、事はゼムリア大陸全てを巻き込むことになる」

 

「なっ……!? オズボーン宰相とリィンさんが親子……?」

 

 テロリストがもたらしたその事実に二人の事を知っているクルトが絶句する。

 

「おいおい、適当な情報で混乱させようったってそうはいかないぜ」

 

「ふん……これはある筋からの確定情報だ……

 奴等親子は皇族にうまく取り入って、帝国を乗っ取るつもりなのだろう……

 どうだ今からでも遅くない。我々と手を組まないか? 奴等さえいなくなればクロスベルを独立させることも夢ではないぞ」

 

 武力では敵わないと思い知ったテロリストは懐柔と言う方法でその場から乗り切ろうと試みる。

 

「…………」

 

 その提案にロイドは即答を返すことができなかった。

 もちろん、クロスベルを独立させることを考えての事ではない。

 リィンの昨夜の不審な行動。

 帝国政府と契約を結んでいる《赤い星座》との接触が意味することは何なのか。

 リィンがオリヴァルトと同じようにクロスベルの味方だというのなら、何故事情を予め説明してくれないのか。

 様々な疑問がロイドの口を重くする。

 

「ロイド……?」

 

「大丈夫だ……貴方達の事情は署でゆっくり聞く。とにかく今は――」

 

「それ以上近付くな!」

 

 手錠を掛けようと近付いたロイドを制するようにテロリスト達は一様にそれを掲げて威嚇する。

 

「戦術オーブメント……この期に及んでまだ抵抗するんですか?」

 

「往生際が悪いね」

 

「くくく、何とでも言え……

 すでに駆動は完了している。後は意志一つでこの自爆術がこの周囲を吹き飛ばすぞ!」

 

「なっ!?」

 

「正気か!?」

 

 自身の命を盾にした脅迫にロイド達は絶句する。

 

「自爆アーツ……昔規制された導力魔法を何故……なんてテロリストに言っても意味ないか」

 

「お前達は自分の命を何だと思っているんだ!?」

 

「元より“捨石”になる覚悟はできている! さあ、命が惜しければそこをどけっ!」

 

「くっ……」

 

 迫られた選択にロイドは逡巡する。

 テロリストを見逃すことは論外。だが十人近くのテロリスト達を駆動を完了させている導力魔法を発動させない一瞬で制圧する手立てはロイド達にはない。

 しかし、答えは別の所から――

 

「――撃て」

 

 横からの銃弾の雨がテロリスト達の末路だった。

 無数の弾丸は容赦なく彼らを引き裂き、戦術オーブメントを砕き、一片の慈悲もなく彼らを蹂躙する。

 

「あ……」

 

 瞬く間の一瞬で作り出された凄惨な光景に一同は呆然と立ち尽くす。

 

「やめろ」

 

 鳴り止まない銃声の中にも関わらず、聞こえてきた言葉で機銃の掃射はピタリと止まる。

 ロイド達の前には一瞬前まで人だった者達が無数の銃弾に穿たれ絶命した姿で転がっていた。

 

「途中までは良かったが、テロリストなどの言葉に耳を貸してしまったことは減点だな」

 

 そう言いながら、その戦場の跡に悠然とした足取りで踏み込んで来たのは隻眼の大男だった。

 

「シグムント・オルランド……」

 

「――叔父貴ィィッ!」

 

 呆然とするロイド達だったが、誰よりも早く立ち直ったランディが絶叫してシグムントの胸倉を掴んだ。

 その声に反応してエリィとワジは吐き気を堪えて目の前の死体を確認する。

 

「だ……駄目……」

 

「どうやら全員、事切れてるみたいだ」

 

 しかし一人として生存者がいないことに項垂れる。

 

「…………っ……」

 

「くっ……」

 

 ひどい光景にティオは口を押えて目を逸らし、ノエルはこの惨状を作り出した彼らを睨む。

 

「……何なんだアンタたちは……なんでこんな非道なことを!」

 

 憤りを隠せずロイドはシグムントに向かって吠える。

 だが、若者のそんな激情をシグムントは興味ないと言わんばかりに受け流して律儀に答える。

 

「言っただろう、ビジネスだと……

 帝国宰相、および皇族を狙った不届きなテロリストを処刑する……

 それが今回、帝国政府から俺達《赤い星座》が請けた依頼ってわけだ」

 

「帝国政府からの委任状もちゃんとあるよ~

 これがあればシャーリィたちに手出しはできないんだよね~」

 

 シグムントの言葉を補足するように彼に付き従って来たシャーリィが楽しそうに答える。

 

「だからと言ってこんな一方的な虐殺が許されるなんて……」

 

「自治州法第19条3項……

 帝国、共和国政府によるクロスベルでの公的執行権はこれを認めるものとする」

 

 反論するしようとするクルトを諫めるようにエリィがその委任状の意味を説明する。

 

「クク、その通りだ。つまりこの件に関しては俺達は帝国政府の代理――正式な処刑人ってわけだ」

 

「くっ……」

 

「用意周到じゃないか……」

 

 大義名分を掲げるシグムントにロイドとワジは拳を意味もなく握りしめる。

 だが、そこで我慢の限界を迎えたランディはシグムントに掴みかかり、激情を叩きつける。

 

「だからって……何で殺した! 何で殺しやがったんだ!?

 あのタイミングなら……アンタらなら殺さずに無力化できただろうが!? なのにどうしてっ!?」

 

 そんなランディにシグムントは呆れたように肩を竦ませ、次の瞬間ランディをその野太い腕で殴り飛ばしていた。

 

「がっ――!?」

 

「言っただろう。“処刑”を請け負ったと。それにこの程度の殲滅戦、貴様には珍しくもあるまい?」

 

「…………ッ……」

 

 すぐに身を起こしてシグムントを睨むランディだったが、その言葉に思わず目を逸らす。

 

「何より死を畏れぬ《死兵》だ……

 自爆術を仕込んでいた奴等が他に何の準備をしていないとでも? 確実に無力化するのなら殺すことが一番だと言う事はお前も分かっているはずだ」

 

「ぐっ……」

 

「報酬で人を殺すことさえ請け負う。それが猟兵の在り方だ。まさかそれさえも貴様は忘れてしまったと言うのか?」

 

「それは……」

 

 それが猟兵だと言われてしまえば反論のしようはない。

 例え、どれだけの力差があっても依頼人が殺せと命じれば女子供さえ殺し、殺すなと言われれば己の感情がどうであっても依頼人に従うのが猟兵の在り方。

 そこに私情を挟むようなことをしないということは、ランディが一番よく知っていた。

 

「そもそも、貴様らが奴等の時間稼ぎに付き合って戦術オーブメントの駆動を見逃したのがそもそもの原因だ……

 俺達を罵るよりもまず自分達の無能さを反省するんだな」

 

「どうやら最初から見られていたみたいだね」

 

 シグムントの言葉にワジはしてやられたと肩を竦める。

 

「ふん……それにこいつらがしでかしたことを思えばこの程度生温い……

 ましてや地下の警備をおざなりにし、俺達をここまで素通りさせてしまった貴様たちに責められる謂れなどない……

 俺達が帝国政府の代行ではなく、テロリスト側に着いていたらどうするつもりだった?」

 

 暗にここでこうなっていたのはロイド達の可能性があったと示唆され、遅まきながらその可能性に気が付く。

 

「むしろ感謝してもらいたいものだな……

 ここまで貴様たちがこいつらを捕まえるのを待っていてやったのだから。もしも取り逃がしていたらせっかく上げた特務支援課の評判もどうなっていたことか」

 

「…………ッ……」

 

「ついでだ。これは貴様らにくれてやる」

 

 そう言ってシグムントは分厚いファイルをロイドに向けて投げた。

 

「……これは?」

 

「リィン・シュバルツァーが一晩で調べた。この一ヶ月の間にオルキスタワーに運び込まれた用途不明のコンテナを記したファイルだ……

 良かったな。運び込まれていたのは人形兵器だけで爆発物がなくて」

 

「なっ――!?」

 

 思わぬところで出て来た名前にクルトが絶句する。

 

「リィン君が貴方たちの虐殺を容認したと言うのか?」

 

「ああ、それとなく確認を取ったが黙認したな……

 まあクロスベル消滅の危機を前にすれば当然の判断だろう」

 

「クロスベル消滅……?」

 

 聞き捨てならない言葉にロイドはオウム返しに聞き返す――

 その瞬間、ジオフロントを震わせる地響きがロイド達を襲った。

 

「何!? 地震!?」

 

「かなりの大きさです。皆さん注意してください!」

 

 クロスベルでは珍しい地震にエリィが驚き、クルトは一同に注意を促す。

 

「くっ……」

 

 突然の地震に困惑し、揺れに対抗するように膝を着いてその場に堪えるロイド達に対してシグムントを始めとする《赤い星座》はまるで知っていたと言わんばかりに動じた様子はなかった。

 

「どうやらリィンの方はうまくやったみたいだな」

 

「っ……それはどういう意味だ!?

 お前達は――帝国はこのクロスベルで何をしようとしているんだっ!?」

 

「フフ、それくらい自分で考えろ」

 

 激昂と共にロイドが問い質すが、突き放すように応えるとシグムントは振り返って号令を出す。

 

「引き上げるぞ! 報酬も入ることだし、今夜はパーッと行くか」

 

「了解!」

 

 シグムントの言葉に一糸乱れぬ返事が返る。

 

「それじゃ、まったね~!」

 

 無邪気に手を振って、未だに余震を警戒して及び腰になっているロイド達にシャーリィ達は背を向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 8月31日、18:00――オルキスタワー35階会議室。

 

「そうか……分かった。こちらはもう安全だ。安心してくれたまえ」

 

 ディーターはエニグマから伝えられたダドリーからの連絡を切って、ため息を吐く。

 

「テロリスト達の方は?」

 

 黙り込んでしまったディーターを急かす様にマグダエルが尋ねる。

 

「共和国の一団は《黒月》という貿易会社の社員に囚われたそうです。何でも共和国政府の逮捕状を持っているとの事でした」

 

「おお、それは重畳! 彼らは我々の友人でしてな。身分は保証しますから御安心を」

 

 ディーターの報告にロックスミスが得意気になってその功績を自慢するが、会議室に満ちた雰囲気を払拭することにはならなかった。

 

「そして帝国からの一団は……帝国政府による委任状の下に《赤い星座》なる猟兵団に全員処刑されたそうです」

 

 共和国側の報告以上に物騒な報告だったが、それに難色を示す者はいなかった。

 唯一、それでも勢いはないもののオリヴァルトがギリアスを咎める。

 

「宰相。いったいどういうつもりか? 帝国政府が処刑などの名目で国外で猟兵団を運用するとは」

 

「ええ、確実を期すために。私はともかく皇子殿下を狙った罪は万死に値すると言わざる得ません……

 先月の夏至祭での彼らの蛮行を考えれば当然の用意と言えるでしょう」

 

「くっ……」

 

 引き合いに出された事件のことを思えばオリヴァルトは口を噤むことしかできなかった。

 

「確かに自治州法では認めざるを得ませんが……」

 

「だが、これはあまりに――あまりに信義にもとるやり方ではありませんか!?」

 

「御言葉ですが皆さん。テロリスト達の凶悪さは身を持って体験されたはずでは?

 人命を尊ぶ考えは素晴らしいが、リィン・シュバルツァーがいなければこのクロスベルが消滅していたか、私達はこのオルキスタワーと共に瓦礫に埋もれていたことも考慮してもらいたいものですね」

 

「それは……」

 

「むぅ……」

 

 ギリアスの言葉に難色を示したイアンとマグダエルに言葉を呑み込む。

 空を赤く染め、二つ目の太陽と思えるほどの爆発を知らしめた導力爆弾。

 そしてその直後に、街の警備隊を鎧袖一触にして強襲した《蒼の騎神》。

 その脅威はギリアスが言う様に十分に理解できた。

 

「しかし、それらはともかくまさか逃げたテロリストさえ自力で捕縛できなかったというのは些か買い被っていたようですね」

 

「そうですなぁ……図らずとも証明されてしまいましたな?

 この程度のアクシデントですらクロスベル自治州には自力解決できない事が」

 

 ギリアスの言葉にロックスミスが示し合わせたかのように頷く。

 

「ふむ、まんまとテロリストを会議の場に近づけた挙句……

 無様に取り逃がし、結局は我々の配慮によって逃亡を阻止できたわけか。確かに、先程の議案の良い事例と言えるであろうな」

 

「ええ、失礼ながら実際に命を狙われた皆様方にとって……

 先程の駐留案、もはや真剣に検討せざるを得ないのではありませんか?」

 

「宰相……貴方は――」

 

「帝都で襲撃したテロリストについて特に情報規制を敷いておりません……

 奴等の襲撃を予見できなかったのはクロスベル側の怠慢としか評価できませんね」

 

 行き過ぎた言い掛かりにオリヴァルトが諫めようとするが、ギリアスはそれを制するように主張する。

 

「それに聞けばタワーのシステムを奪い返したのはクロスベルに所属している技術者ではなかったようですな?

 それに加え、遊撃士を除外すればテロリストを追って地下へ向かったのは本来ここを警備する者達ではなかった特務支援課と警察官が一人だけ……

 これでは人員の質も量も到底満たしているとは言えないでしょう」

 

「くっ……」

 

 クロスベルにとって痛いところを指摘され、今度こそオリヴァルトは反論を封じられる。

 

「教団事件に続き、今回のテロリストの襲撃、よもや次も我が国の英雄の助けを当てにしていると言うのなら相応の立ち位置を決めて頂きたいものですね」

 

 そしてリィンが挙げた功績を示してギリアスは言い切る。

 

「あ、あなた方は……」

 

「……なんと強引な……」

 

「ここまで悪辣な、それもリィン君の功績まで利用するのか……」

 

 この場を支配するギリアスの言葉にそれぞれの首脳は口を挟むことはできなかった。

 が、それまで黙り込んでいたディーターは余裕の笑みを作り口を開く。

 

「宰相閣下と大統領閣下の御意見も拝聴に値しますが……ならばこちらからも一つ言わせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「ほう……」

 

「うむ……今回の襲撃に関してクロスベル市長の意見は是非ともお聞かせ願いたい」

 

 まさか言い返して来ると思わなかっただけにギリアスとロックスミスは興味深そうに頷く。

 

「クロスベルの治安維持能力に疑問があると仰っておりましたが……

 それぞれの国であれ程のテロリスト達を野放しにしている両国が誇る戦力とやらが果たしてどれ程役に立つのでしょうか?」

 

「これはこれは中々痛い所を突く」

 

「確かに今回の事件は早期にテロリスト達を国内で鎮圧できていない私たちの落ち度でもありますな」

 

「ディーター君……」

 

 主張を納める切っ掛けを作り出したディーターの指摘にマグダエルは安堵の息を吐く。

 

「今回の件についてはクロスベル自治州だけに関わらず、帝国と共和国にとっても想定外過ぎる出来事が多かったと思います……

 共和国で開発された導力爆弾について、先程襲撃され一時的とは言え列車砲の制御をテロリストに奪われてしまったことについて……

 それに先程少し話題になった特務支援課のリーダーから興味深い話を聞きました」

 

「興味深い話?」

 

 強引な話題の転換にアルバートが乗る。

 

「ええ、テロリストが言っていた言葉だそうですが……

 リィン・シュバルツァーとオズボーン宰相閣下、貴方達が親子の間柄にあると」

 

「なっ!?」

 

「なんとっ!?」

 

「っ――」

 

「それは本当なのか宰相っ!?」

 

 ディーターの口からもたらされたその真実に各首脳たちは一様に驚いてみせる。

 その中でも予め本人からその可能性を聞かされていたクローディアは動揺が少なく、逆にオリヴァルトは信じられないと言わんばかりにギリアスに詰め寄る。

 

「フフ……テロリストの情報網とやらも侮れないものですね……

 ええ、私にはかつてリィンという息子がいたことは認めましょう」

 

 ギリアスの認めた言葉に一同の中に先程まで感じていたリィンへの感謝の気持ちが揺らぐ。

 

「あえて言わせてもらうとすれば、吹雪の雪山に彼を捨てた時から私と彼はもはや無関係な他人ですよ」

 

 その言葉を簡単に信じるには彼のこれまでの実績が邪魔をする。

 それこそ、ここに至るため息子をあえて捨てたと言われても納得してしまうのがこの怪物である。

 

「しかし惜しいことをしたと思っていますよ……

 まさかあの呪われた“忌み子”がここまで使えるようになるとは完全に想定外でしたよ」

 

「貴方は――っ」

 

 オリヴァルトが激昂しかけた瞬間、彼よりも早くクローディアがギリアスの前に出てその頬を張った。

 

「なっ――」

 

 クローディアの国際問題になりかねない暴挙を見過ごしてしまったユリアは会議室に大きく響いたその音に絶句した。

 

「貴方は……貴方はリィン君のことを何だと思っているんですか!?」

 

 それまでのお淑やかな姫のイメージを払拭するかのような激怒の迫力に頬を張られたギリアスよりも各国の首脳陣たちの方が気押される。

 

「ふむ……クローディア王太女殿下。貴女は――」

 

「おっと宰相。それ以上の言葉はボクが許さない」

 

 何かを言いかけたギリアスの言葉をオリヴァルトが遮る。

 

「君達親子の間に何があったのか、ボク達が口を挟むことではないのだろうけど……

 ボクもクローディア殿下も彼のことは掛け替えのない友人だと思っている。そんな彼を貶めるような発言は慎んでもらおうか」

 

「…………ふふ、確かに少々話し過ぎたようですね」

 

 物怖じせずに睨んで来るクローディアとオリヴァルトにギリアスは何を考えているのか分からない笑みを浮かべたかと思うと踵を返した。

 

「申し訳ない。私も少々混乱していたようですね。この場に出す話題ではありませんでしたね」

 

 そんな騒動になった話題の種を撒いてしまったディーターが謝罪する。

 

「議論が脱線してしまいましたが、それよりも襲撃によって邪魔された私の発言を再開させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 強引な話題転換、リィンとギリアスの親子関係の話題から逸れるならとディーターの発言に各首脳は頷く。

 

「……して、どのような提議を?」

 

「いえ――提議ではなく決意表明というべきでしょうか。迷いもあったのですがこの事件で決意は固まりました……

 今、この場をお借りして一つの提唱をさせていただきます」

 

 ディーターは拳を握り締め、叫ぶように話す。

 

「我々はもはや、他国の思惑に振り回されるわけにはいきません……

 周辺地域の、いや大陸全土の恒久的な平和と発展のためにも――

 私はここに、市民及び大陸諸国に対して『クロスベルの国家独立』を提唱します!」

 

 

 

 

 余談だが、この後クロスベルの市街ではリィン・シュバルツァーがギリアス・オズボーンの実子であるという噂が何処からともなく流布し、通商会議での活躍は全てやらせだったのではないかとまことしやかに囁かれることとなった。

 

 

 







リザルト

 オリヴァルト殿下をヴァリマールを使ってエスコート
 行方をくらませたオリヴァルト殿下のスケープゴート。

 ノーザンブリアの異変についての説明。
 各国首脳陣からの要望に応えて秘匿行動に従事。
 なお、詳細はないが各首脳陣からは絶賛の評価。
 
 通商会議本番におけるテロリストの撃退。
 カルバード製導力爆弾の処理。
 《蒼の騎神》の強襲への対処。

 なお本人は意識喪失した状態のため、ウルスラ医科大学にてメディカルチェックを受けた後、帝都病院に搬送される予定。


ヴァンダイク学院長
「…………………ううむ……」





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