(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~ 作:アルカンシェル
9月19日、日曜日、自由行動日。
「やあリィン君。おはよう」
「アンゼリカ先輩? どうしたんですかこんなに朝早くから?」
「ちょっとリィン君に頼みたいことがあってね、ナユタ君もルフィナさんもおはよう」
「あうっ!」
「ふふ、おはようアンゼリカさん」
アンゼリカの挨拶にルフィナに抱かれていたナユタは元気よく応じる。
「ふむ……リィン君。やはりこの子は――」
「それ以上ナユタに近付いたら破甲拳ですよ。アンゼリカ先輩」
邪で真剣な顔をするアンゼリカにリィンは拳を握って牽制する。
「ぐぬぬ……」
「それよりも朝食がまだでしたら用意しますが?」
「いやそれには及ばないよ」
「そうですか……あ、そういえばアンゼリカ先輩達は今日の夕方から暇ですかね?」
「ん? 私達ということは他にはトワとジョルジュのことかな?」
「ええ、実はノーザンブリアでの実習の時にサラ教官をとある秘境の温泉に招待する約束をしたんです、だけどせっかくならⅦ組のみんなと――
あ、いえやっぱり聞かなかったことにしてください」
目を輝かせたアンゼリカにリィンは失言だったと察して先の発言をすぐに撤回する。
「いやいやリィン君。何を水臭いことを言っているんだね。私とリィン君は共にリベールの武術大会に出た仲じゃないか」
一歩距離を取ったリィンの間合いにアンゼリカはすかさず踏み込み、肩に腕を回してリィンを捕まえる。
「いや、持つべきはできる後輩だね。トワに関しては私から言っておくよ。どんな手段を使っても時間を作らせてみせるさ」
「えっと……ジョルジュ先輩は――」
「男は知らん」
いっそう清々しい程にアンゼリカは言い切った。そして――
「おや?」
そしておもむろにリィンの背後に視線を送り目を丸くした。
「どうかしましたか?」
リィンはアンゼリカの視線を追って振り返るが、そこには誰もいない。
首を傾げつつ、リィンは視線を戻す。
「アンゼリカ先輩、何か――」
「だーれだっ♪」
次の瞬間、リィンの視界は背後から誰かに抱き着かれるようにして覆い隠された。
「こ、これはっ!? まさか伝説の後ろから『だーれだっ?』――くっ……リィン君そこを変わってくれたまえっ!」
「っ……」
視界が塞がれているが、きっと今のアンゼリカは血走った目をしているだろうことは容易に想像できる。
「その声はレンか?」
「ふふ、正解」
答えを告げるとレンは楽しそうに笑ってリィンの顔から手を放す。
「リベールで会った時から一ヶ月くらいか……また綺麗になったな」
「ふふ、当然よ。なんたって今のレンは成長期なんですから」
自然と褒めてくるリィンにレンは誇らしげに応える。
「通商会議の時はありがとう。おかげでみんなを守ることができたよ」
「御礼を言うのはレンの方よ。ありがとうリィン。あの人達を守ってくれて」
「……どういたしまして」
リィンは微笑を浮かべてレンが礼を言って下げた頭を優しく撫でる。
「それでね。リィン、御礼なんだけど――」
次の瞬間、リィンは一瞬でレンから距離を取り、口元を腕で隠す。
「お、御礼なんて別に良いよ」
「あら、リィンたら何を想像したのかしら?」
レンはクスクスと笑い、意味深に自分の唇を指で触れる。
「リィン君。ちょっと話を聞かせてもらえるかな? 場合によっては私はまた修羅を降ろさなければいけないと思うから心してくれたまえ」
「あ、アンゼリカ先輩?」
壁際まで逃げたリィンを追い駆け、アンゼリカは壁に両手をついてリィンの逃げ道を塞いだうえで血走った目を寄せてくる。
「リィン君っ! 君は――」
「あら、お姉さんもレンの御礼が気になるのかしら?」
激昂しようとしたアンゼリカだったか、いつのまにか間合いを詰めていたレンが背伸びをして彼女の耳元で囁き、妖しく息を吹きかける。
「はふっ……いやいや、私はこの程度で屈したりは――」
「へえ……」
目に小悪魔な光を宿しレンはアンゼリカのうなじ、頬をゆっくりと撫でて行く。
「がっ――ぐっ……否っ! 私は美少女を愛でたいのであって、私が愛でられたいわけじゃない!」
レンの手が動く度に身悶えしていたアンゼリカは気合いでその誘惑を跳ね除けて吠える。
「あら、残念。もっと凄いことをして上げようかと思ったんだけど……」
「もっと凄いこと……ゴクリッ」
「あーっ! そこまでにしてくれナユタの前で変なことはしないでくれ」
エスカレートしそうな空気にリィンは手を叩いて雰囲気を壊す。
「は~い。また遊びましょうねお姉さん」
「くっ……これで勝ったと思わないでもらおうか」
余裕の笑みのレンに対してアンゼリカは悔し気に負け惜しみを言う。
そんなアンゼリカにレンは背を向けて、ルフィナに抱かれているナユタを覗き込む。
「ふふ、この子がノーザンブリアの……くすっ、可愛い……」
「レン……」
「大丈夫よ。リィン……レンは大丈夫」
レンは笑顔で振り返り、持っていた鞄をリィンに差し出した。
「これは?」
「クロスベルを守ってくれた御礼よ。中身はフェンリル――」
「なっ!?」
「――を基にしてレンが図面を引いた騎神用のパーツよ。後はおじいさんの意見を聞いて造ってもらいましょう」
驚いたリィンにいたずらが成功したと言わんばかりにレンは笑う。
「騎神のパーツ?」
差し出された鞄を複雑な気持ちになりながらリィンは受け取る。
「そう……騎神の欠点は燃費の悪さ……
過剰な力を流せばすぐにオーバーロードするし、全開の戦闘をすれば霊力が枯渇して動けなくなる。そうでしょ?」
「ああ……」
「フェンリルは言ってみれば導力ジェネレーターを爆弾に変えた物。その爆発の機構を取り除けば結構な出力の増幅器になるわ……
これを騎神に取り付ければ、霊力の消耗を防げるし、過剰な霊力の供給に関しても回転体で受け流すことができるようになって機体への負担を減らせるでしょうね」
「それはありがたいな」
一秒でも長く、少しでも機体が頑丈になって戦えるという効果は《銀》の強化プランを聞いたばかりのリィンにとってとてもありがたい内容だった。
「そうでしょ? それじゃあおじいさん達のところに行きましょうか?」
「ああ……って先にアンゼリカ先輩の用が――」
「ふむ、面白そうだから私も一緒に行っても良いかな? 私の用は特に急ぐことではないからね」
「まあ、来てもアンゼリカ先輩にとっては退屈な話になるかもしれないですけど」
アンゼリカが良いと言うのならとリィンは受け入れて、一同は旧校舎へと向かうことになる。
「それじゃあ行ってきます。ルフィナさん、ナユタ」
「はい、いってらっしゃい」
「あうあう~」
「ふふ、またねナユタちゃん」
「くっ……私にはトワがいるというのにこのときめきは何だ!?」
ルフィナとナユタに見送られて三人は第三学生寮を後にするのだった。
*
「まずは私からだな」
そう言って旧校舎の一室でシュミットは教壇に立ち、導力プロジェクターでそれを映す。
「これが私が図面を引いた新たな機械仕掛けの神“ティルフィング”だ……
ノーザンブリアから回収された7トリムのゼムリアストーンだが、一機を作るだけならともかく五機の機神を作るのは不可能だろう……
そこで骨格の重要部分のみをゼムリアストーンで作ることにした……
フレームだけをゼムリアストーンにすることで何とか五機のフレームを作ることができるだろう」
「次はワシじゃな」
続いてアルバート・ラッセルが教壇に立つ。
「ワシが用意したのはアルセイユに使っていたエンジンの改良型じゃ……
本来ならリィン君が生成してくれる“雲のクォーツ”待ちなのだが、《箱庭》の特殊重力環境を利用して生成した高純度のクォーツをサブに搭載することでカレイジャスに使った導力エンジンを出力をそのままに半分の体積にさせることができた……
まだサンプルとして一基しか作れておらんが、ツァイスに送って残りの四基を組み上げてすぐに持って来てもらう予定じゃな」
ラッセル博士と入れ替わり、ヨルグが教壇に立つ。
「わしからはシュバルツァーが考案したセピス鋼を利用して再生装甲を作ることに成功した……
この装甲は例え損傷しても大気や大地から七耀の力を取り込み、自動修復する機能を持っている……
生産体勢についてもクロスベルの工房に用意し、必要なセピスに関しても結社から貰っておいた」
「さあ、ティータ行きなさい」
「は、はいっ!」
そしてエリカに促されてティータが教壇に立つ。
「えとえと、お母――じゃなくてエリカ博士の代わりに報告させてもらいます……
“ティルフィング”の操縦方法については導力車や飛行艇のような操縦桿を使ったシステムではなく、《ARCUS》を利用して騎神の操作システムを採用しました……
これにより起動者は機体を操縦する必要はなくなり、機体と同調することで自分の身体のように使うことができるようになります……
ですがシステム上、全てをこの操作では行えないので、人体に存在しない機構については操作するための操縦桿は設置する予定です」
そして最後にレンが教壇に立つ。
「レンが用意したのはあくまでも草案と簡単な図面だけ……
フェンリル式アクセラレータ。騎神を一秒でも長く戦わせ、起動者や機体の負担を軽減させて出力を上げて導力機関回復を促進させるシステムだけどきっと“ティルフィング”にも使えると思うわ……
これによって今まで導力不足で搭載を断念していた兵装や装備を載せることができるはずよ」
以上、五名のプランが“雲の五機神”の製造プランだった。
「どうよ?」
一通りのプレゼンテーションが終わったところでエリカが爛々と目を輝かせて
「どうって言われても……楽しそうですね」
「ええ、すっごく楽しいわよ」
「……俺……雲の機神の話をしたのは木曜日だったはずなんですけど……」
たった三日で“雲のクォーツ”以外のものを用意した博士たちの手腕にリィンは褒めて良いのか、呆れるべきなのか悩む。
「まあ俺としては仲良く喧嘩しないで開発してくれるなら文句はないんですけど」
釘を刺すようにリィンは問題児四博士たちを睨む。
「何を言っておるシュバルツァー。私達は決して仲違いをしているわけではない」
「うむ。現にこうして握手もできるしのう」
「だから安心してお前は“雲のクォーツ”を作ることに専念するといい」
示し合わせたようにラッセル達は仲が良いとアピールする。
「あ、そのことなんだけどリィン君。こっちから一つ要望を出しても良いかしら?」
「エリカ先生?」
「まず前提の確認なんだけど造る“機神”は五体で良いのよね? “雲の力”は七分割にするって言ってたと思うけど」
「ええ、その内の一つはヴァリマールに組み込んで、もう一つに関しては七耀教会に預けようと考えています」
「七耀教会……? 何であいつらに?」
エリカは嫌そうに顔を歪めて聞き返す。
「古代遺物ではないですけど“至宝”に準じる力ですからね。無視すると後々うるさくなるってルフィナさんが言っていました」
「それは……たしかに……」
「大丈夫です。何も本当に欠片を渡すつもりはありません。互いの折衷案は一応考えてあります」
「そう……なら良いけど、とにかく私達が造る“機神”は五体……
そしてここには私を含めて、それなりの博士が四人いるのよね」
「…………何が言いたいんですか?」
嫌な予感を察したながらリィンはエリカに先を促す。
「えっとね……五体目の機神はちゃんと合作にするから四体は私たちの自由裁量に任せてちょうだい」
手を合わせて、拝むようにエリカはそんなことを宣った。
「エリカ先生……」
「だってこれだけのものなのよ!? 一から十まで私色に染めた機体にしたいと思うのは当然よね!?」
呆れるリィンの視線を振り払い、エリカはラッセル達に同意を求める。
「ラッセルの娘のくせに中々良いことを言う」
「まあ確かに邪魔されずワシだけの一体を組みたいとは思うな」
「異論はない」
「ねっ! 爺たちもこう言ってるからさ。何よりも私達にとっての仲良くって言うのはお手々繋いで一つのものを造るとかじゃなくて、それぞれの技術のぶつけ合いのことを言うと思うのよ……
もちろんさっき発表したそれぞれの技術プランは共通させた下地にすることが前提よ……
その上で四体の機神でそれぞれの技術を擦り合わせしてから、五体目を合作にする方が効率的にも技術的にも良いと思うの。だからお願い」
「あう~お母さん、ずるい……」
「仕方ないわよ。レン達じゃおじいさん達程の技術力はないんだから」
楽しそうな計画の蚊帳の外にされたティータはエリカを恨めしそうにいじけ、レンがそれを慰める。
リィンはため息を吐き、博士たちを見回す。
誰も彼もエリカの提案に異を唱えることなく、むしろそうして欲しいと目が訴えている。
「分かりました」
「よしっ!」
リィンの了承の言葉にエリカは拳を握って喜ぶ。
「あ、あと操縦系に《ARCUS》を使うからⅦ組の中でテストパイロットしてくれる子を紹介してくれないかしら?」
「それなら俺がやりますよ?」
「それは良いんだけど、やっぱりできるだけ多くのデータが欲しいのよ」
「そうですか」
エリカの答えにリィンは候補を考える。
真っ先に浮かぶのは《紫の騎神》への復讐心を抱えているエリオット。
次いで《緋》があるものの、操作そのものに慣らしておく意味がありそうなクリス。
他にはラウラやシャーリィ辺りが興味を持つかもしれない。
「だけど今は学院祭の準備もあるんですけど? というか学院祭が終わったら帰るって話、忘れてないですよね?」
「大丈夫大丈夫。何とかするから」
気軽に言うエリカにリィンはマードックに謝罪の手紙を送ることを決める。
「ふむ、ならば私が立候補して良いのかな?」
と、それまで黙って会議を聞いていたアンゼリカが挙手した。
「そういえば先輩達も《ARCUS》を持っていましたね」
「ああ、私にも“騎神”と戦う理由があるからね。学院祭のことも二年生は有志での参加だからリィン君達ほど忙しくないからね」
「と言っていますが?」
「そこら辺は造りたい機体コンセプトと立候補者の数次第でしょうね」
「うむ、今はそれで良いさ。だがタダで候補者にしてもらうと言うのも些か心苦しいのでリィン君、君達Ⅶ組はまだ学院祭の出し物を決めていないんだったね?」
「はい、そうですけど」
「ならその手伝いをすることを対価にさせてもらうのはどうかな? ちょうどⅦ組に合いそうな企画を私は知っているからね」
抽選
エリカ
「じゃあ最後にクジ引きで誰がどの機体を担当するか決めるわよ」
地の機神ティルフィングY。ヨルグ・ローゼンベルグ。
水の機神ティルフィングB。エリカ・ラッセル。
火の機神ティルフィングR。アルバート・ラッセル。
風の機神ティルフィングG。G・シュミット。
ヨルグ
「地属性か……ダブルバスターキャノンを持たせるには膂力が必要になるか……さてどうしたものか」
エリカ
「うふふ、水か。いろいろ汎用性が高い属性だからいろいろ試せそうね」
アルバート
「火属性……放出出力が群を抜いておる属性だが……カノンインパルス……衛星砲を……いやここは魔導杖をベースに考えてみるのもありか」
シュミット
「風か……風のセピス鋼は他の属性よりも軽量。ならば飛行機能を――いやここは可変機構に挑戦するべきか」
騎神強化プラン(仮)
デウス・エクセリオン・エインヘリアルモデル。
ヴァリマール、テスタ=ロッサ
フェンリルの技術を搭載し、燃費問題の解消と共に起動者と機体の負担を軽減し長期戦はもちろん瞬間的な短期出力にも強化した機体。
メタ的な表現をすれば各所に設置された加速器で複数の補助アーツを並列に常時展開することで常にバフを掛けている状態となる。
これによりヴァリマールはリィンの“雲”にも耐えられるようになり、テスタ=ロッサは“千の武具”を使っての霊力消耗を気にせずに戦う事が出来る。
デウス・エクセリオン・トランザムモデル
オルディーネ、ゼクトール
アルベリヒが改良したフェンリルを用いた新たな騎神の姿。
コンセプトは起動者、機体の負担を度外視して敵を確実に倒すための強化。
エインヘリアルモデルと構造はほぼ同じだが、こちらは同種補助アーツを直列に発動させて攻撃力を高めている。
例としてはゲームではバフ上限がありますが、フォルテをその上限なしで重ね掛けしての強化できるという感じです。
魔煌獣搭乗
アルグレオン。
外付けの移動補助ユニットであると同時に外部バッテリーの増設機。
基本性能に大きな変化はないものの、前の二つと同じ理由で燃費問題を解決している。
また星洸陣をベースにしたオーバーライズが可能になるかも?
案の一つとしては本来CP200のSクラフトが、四人合わせたCP800のグランドクロスになるとか?
デウス・エクセリオン・マクバーン
エル・プラドー。
マクバーンと言う炉心を得て燃費問題が解決。
しかし、機体に掛かる負担は凄まじく通常の《灰》《蒼》《紫》では一度で爆発四散しており《金》だからこそ耐えられている。
一戦ごとに装甲が溶解するので本人はエインヘリアルモデルへの換装を切に願っているかも?
なお、ここまで強化してもまだ騎神としての性能は《黒》が一番上と考えています。
ギリアス
「イシュメルガよ。お前は“黄昏”に向けて何かしないのか?」
イシュメルガ
「ふ……鉄屑共がいくら強化を重ねたところで既に私が勝つという因果は確定している。奴等の足掻きなど無駄な徒労でしかない」
ギリアス
「……」