(完結)閃の軌跡Ⅰ ~鋼の意志 空の翼~ 作:アルカンシェル
――追伸。二年前にレグナートから頂き、王家で買い上げた金耀石を同封しました……
来たるべきリィン君の戦いのためにお役立てください。
このような支援しかできず申し訳なく思いますが、リィン君が無事に帰って来ることを祈っています。
クローディア・フォン・アウスレーゼ
*
「ううむ……」
夕方、届いた小包と同封されていた手紙を読んでリィンは唸る。
――結局クロスベルではちゃんと挨拶をできなかったからな……
通商会議で助けられた御礼と、無茶をしたことについてのお説教がしたためられた手紙にリィンは気まずそうにため息を吐く。
「それにしても……」
手紙にあったように同封されていた金耀石にリィンはため息を吐く。
既にそれぞれの属性の七耀石の契約は終わっているため、これをブルブランに届ける必要はない。
「博士たちに毒されたかな」
少し前の自分なら畏れ多いと遠慮していたが、すぐに金耀石の活用方法を模索していたことに項垂れる。
「あれ? どうしたんですかリィンさん? そんなところで座り込んで?」
二階から降りて来たクリスは郵便受けの前で正座しているリィンに首を傾げる。
「クリス……いや、何でもない」
リィンは立ち上がって首を振る。
クリスを先頭にⅦ組の一同が降りてくる。
「それにしても何なんだ? 水着を持って玄関に集合とは?」
マキアスが朝食の時に言われた約束事に改めて尋ねる。
「ああ、ノーザンブリアでサラ教官と約束したって言うのもあるけど、Ⅶ組が発足して半年……
ミリアムとシャーリィが新しく仲間になった歓迎会も含めて親睦会を――」
「リィンッ!!」
リィンの言葉を遮ってサラが寮の扉を全力で開け放った。
「この日を待ちわびたわよっ! さあ早くっ! 私を楽園に連れていきなさいっ!」
「サ、サラ教官!?」
「何だこの異様なテンションは?」
荒ぶったサラにエマとユーシスは目を丸くする。
「落ち着いてください、サラ教官。ゲストも来るのでもう少しだけ待ってください」
「そんなの後で連れて来ればいいでしょ? 私は休日だって言うのに朝からビールを一滴も――」
「サラ教官――」
「はい……」
リィンに凄まれて一瞬でサラはその荒ぶったテンションを落ち着かせる。
「いったい何なんだ?」
「“紫電”のこの取り乱し様……良く分からないけど楽しいことになりそうだね」
「うんうん、いったい何をするんだろうね」
戸惑うガイウスの呟きを他所にシャーリィとミリアムは期待を膨らませる。
「お邪魔しまーす」
「やあ麗しいⅦ組の諸君。今日はよろしく頼むよ」
「お招きありがとう」
そうしている内に寮の扉が再び開き、トワとアンゼリカ、ジョルジュ。
「リィンさん、お待たせしました。頼まれた映写機も持ってきましたよ」
「ふふ、Ⅶ組のお兄さんお姉さん久しぶりね」
さらにはティータとレンを始めとした四人の博士にダンが続いて入って来る。
「なっ!?」
広めのリビングでもⅦ組と来訪者で二十人を超えた人数では息苦しさを感じる密度となる。
「ふむ……この人数で親睦会と言うならキルシェに行くのだろうか? いやそうなると何故水着が必要なのだ?」
ラウラが首を傾げる。
「それについては移動してから説明するよ」
リィンはおもむろに方石を取り出す。
「少し光るけど、安全なものだから安心してくれ」
次の瞬間、方石が光を放ち集まった一同を呑み込んだ。
「――――なっ!?」
眩しさに目を瞑ったユーシスが次に目を開いた時、星の海とも言える光景に言葉を失った。
「な……な……な……何だこれは!?」
「これは……異空間に強制移動させられた?」
マキアスが絶叫し、エマは冷静に務めようとしてその身に起きたことを分析しようとする。
「うわーなにこれすごいっ!」
「…………あれ? 何か見覚えが……」
「…………クリス達は驚いていないようだが知っていたのか?」
絶景に感嘆の息をもらしながらガイウスは動揺していないクリス達に尋ねる。
「ええ、僕はだいぶ前に」
「わたし達はノーザンブリアの時に教えてもらった」
「牢屋からいきなりだったわよね……」
「僕達もガイウス達みたいに驚いたよ」
先にその存在を知っていたクリス達は改めて周囲を見回す。
「よっしゃー! 待ってなさい《グラン=シャリネ》ッ!」
「落ち着け」
叫びながらどこかへと駆け出そうとするサラの首根っこをリィンは掴み、一同に向き直る。
「こほん…………ようこそ“影の箱庭”へ。歓迎しますよ」
*
“影の箱庭”。
かつて“影の国”と呼ばれた高位次元の世界であり《空の至宝》のサブシステムを独立させてアーティファクト化したものだと説明されたエマはあまりの事に言葉を失った。
「改めてとんでもないですね。リィンさんは」
「はは、ローゼリアさんにも同じことを言われたよ」
内心でエマとセリーヌをちゃんと入れることができたことに安堵しながらリィンは応える。
「そこでどうしておばあちゃんの名前が出るんですか……」
嘆くようにエマは肩を落とす。
「まさかと思いますが。姉さんも関わってないですよね?」
「えっと……」
言い淀むリィンにエマは更なる虚脱感に襲われる。
「と、とにかくエマもみんなと一緒に温泉に入って来ると良い……
ローゼリアさんに想念をもらったからエリンの里の温泉も再現できてるから」
「本当ですか? 寮はシャワーしかなくて実は温泉が恋しかった――ってそうじゃなくて!」
誤魔化されそうになったエマは頭を抱えて吠える。
「何かいろいろすまない。とりあえず話は後で聞くから、温泉に行くと良い」
「………………そうさせてもらいます。ところでリィンさんは何をしているんですか?」
「俺はホストとして食事を作ろうかと思ってな……
大樹から食料は得られても直接料理は出せないから」
「料理って……あの人数をですか? 言ってくれたら手伝いますけど」
「大丈夫だよ。ほら、シャロンさんが手伝ってくれるし――」
「それにちょっとした裏技を使うから」
と、二人になったリィンがエマの申し出をやんわりと断った。
「…………リィンさん……もしかして《分け身》で料理をするつもりですか?」
「ああ、こういう細かい作業を別々にやらせるのが《分け身》の良い練習になるって教えてもらったから」
「そうなのかもしれないですけどね。体術の高等技術をそんなことに使うのはいかがなものでしょうか?」
魔女であるエマにとって専門外ではあるがそれでも高等体術と分かる技をそんなことに使おうとするリィンを怒ろうとして――
「でもシャロンさんは三人になってやってくれているんだけど」
“大樹”の前に設置した調理スペースでは第三学生寮のスーパーメイドが三人になって調理を行っていた。
「…………寮の掃除や洗濯、食事の準備を完璧にしてもらっているのは……もしかして……」
「ああ、シャロンさんが分け身を使って分担しているからだな」
その事実にエマは膝から崩れ落ちた。
*
「いっちばーんっ!」
水着に着替えたミリアムは助走を付けて湯船に飛び込む。
「あははは、プールと違ってあったかいけど、なんかたのしー!」
そうして泳ぎ出すミリアムに一同はため息を吐く。
「この阿呆が……温泉で泳ぐなっ!」
ユーシスが一喝し、取り押さえるつもりで湯船の中に入って行く。
「あはは、ところで良いんですか? リィンさんに頼めばちゃんと男湯と女湯で分けられるのに?」
「ふむ、そうなのか? 東方では裸の付き合いと言って男女一緒に入るものが温泉だと聞いているのだが……
流石に裸になるのは抵抗があるが水着を着ているのだし、温かいプールだと思えばそこまで気にしなくて良いのではないだろうか?」
クリスの提案にラウラは首を傾げて聞き返す。
「それは偏見ですよ」
「湯着っていうのもあるんだけど、慣れてない人がいるから水着も可にしたのよね。本来なら邪道よ」
補足するようにエリカが付け加える。
「そうなのですか」
「まあ、本当の温泉じゃないから今回だけは固いことは気にしないで良いんじゃない?
じゃあ私はあっちのミシュラムのリゾートスパを再現した区画に行くから」
早足で去って行くエリカを見送ってクリスとラウラは苦笑する。
「それにしてもクリスが夜にリィンの部屋に入り浸っていたのはこういう理由だったのか……
温泉……温かい湯に身を浸すのは確かに気持ちいいな」
「いえ、流石に寮の共同生活を無視して温泉を使うなんてしていませんよ」
「うん? しかしリィンは温泉好きだったはずでは?」
「まあ……一ヶ月に一回、ヴィクターさんが来た時に一緒に入るくらいですよ」
「待て。どうしてそこで父上の名前が出てくるんだ?」
「あ……」
失言にクリスは明後日の方向へ視線を泳がせる。
「この“影の箱庭”には温泉以外の秘密があるのだな? 父上はここでいったい何をしているのだ!?」
「ラ、ラウラッ! 近いっ! 近いからっ!」
水着姿で詰め寄って来るラウラにクリスは後退りながら落ち着かせる。
そして――
「ずるい……」
温泉以外の箱庭の機能を知り、それを独占していた父にラウラは毒づいた。
*
「むふふ……」
「嬉しそうだねティータちゃん」
「はい!」
満面の笑顔で湯船につかるティータをトワは微笑ましく声を掛ける。
「ここの温泉はリベールのエルモ温泉を再現したものなんですけど、レンちゃんとまた一緒に温泉に入れたんだって思ったら何だか嬉しくって」
「何よティータ。そんなことで嬉しいだなんて随分と単純なのね」
「えへへ……」
皮肉を交えたレンの言葉にティータは特に気を悪くした素振りもなく笑みを深くする。
「ふん……」
そんな笑顔を向けられてむしろ逆に気恥ずかしくなったのかレンはそっぽを向いてしまうが、温泉から出て行くことはしなかった。
「レンちゃん、後で背中の流しっこしようね」
「はいはい、しょうがないわね」
「ふふ……そうしているとまるで姉妹みたいだね」
そんな二人のやり取りにトワは笑みをこぼし――
「ぐふっ――」
そんな彼女たちのやり取りを少し離れた場所から見守っていたアンゼリカが膝を着いた。
「黄金郷は――ここにあった!」
拳を握り締めアンゼリカは断言した。
「ふーん、お姉さんの本命はあの二人なんだ? 良かったどうやら獲物の取り合いにならないで済みそうだね」
「…………ほう、それはどういう意味かね、シャーリィ・オルランド?」
「シャーリィもそうだけどあんなぺたんこの胸触っても面白くないじゃん?
他人の嗜好に文句をつけるつもりはないけどさ、やっぱり最低限ラウラくらいないと物足りないよね?」
「はあ……君は美のなんたるかを分かってないようだな」
「うん?」
「確かに私もラウラ君やアリサ君、エマ君の立派なものを認めるのは吝かではない……
だが同時にフィー君を始めとしたトワやティータ君、レン君。もちろん君にだって彼女たちに負けない魅力があるのだよ」
「ええ……でもこんな胸触っても面白くないでしょ?」
「否っ! 何故そこで諦める!?」
「いやだってさ……」
「心の目で見ろっ! 心の手で感じ取れっ! 今君は未来の巨乳を育てているのだっ!」
「はっ!?」
アンゼリカの宣言にシャーリィは天啓を得たように身を震わせる。
「シャーリィが……育てる……? そんなこと今までも一度も考えたことなかった……」
「ふ……どうやら分かってくれたようだな。では共に行こうじゃないか我が黄金郷へ」
そしてアンゼリカはシャーリィを促してエルモの湯に――
「はい。そこまで――」
ルフィナの声と共に聞こえた指を鳴らす音に二人の視界は暗転した。
「なっ!?」
「これは!?」
「二人の視覚を遮断させてもらいました。二人とも静かに温泉に入りましょうね」
「そんな殺生な!」
「あらら、残念」
あまりの仕打ちにアンゼリカはその場に膝を着く。
「ちょっ! レンちゃんどこ触ってるの!?」
「うふふ、赤毛のお兄さんのためにレンが良いこと教えて上げる」
「はわわわっ!」
「………………これはこれでありだな」
「ブレないなぁ」
何だかんだで楽しんでいるアンゼリカにシャーリィは学生の中で初めて尊敬の念を抱いた。
*
「はぁ……最高……」
温泉に浸かりながら飲む酒がこんなにうまかったのかとサラはノーザンブリアから溜め込んだ心労がほぐれていくのを実感する。
「ぷはー」
「サラ親父くさい……」
「ふふん、何とでも言いなさい。私はこの日のために三日前から禁酒していたんだから」
ノーザンブリアに通商会議。
リィンが意識不明だったこと、ノーザンブリアでの宴会のこともあって忘れていたのだが三日前にリィンが約束を守ると提案してくれた日からサラはこの日を心待ちにしていた。
「こらっ」
東方の徳利と呼ばれる酒を入れる容器に手を伸ばそうとしたフィーの手をサラははたき落とす。
「けち」
「大人しくあと五年待ちなさい」
唇を尖らせるフィーにサラはこの子も随分と変わったとものだと感慨に耽る。
「あーところでフィー」
サラは水着を着たフィーの肢体を観察する。
ルトガー・クラウゼルの復活を目の当たりにし、それを喜ぶ間もなく突き放された結果フィーはひどく憔悴することとなった。
数日前の朝、リィンの部屋から出て来た騒動があって持ち直したが果たしてそこでいったい何があったのか。
担当教官として、フィーの後見人として一夜の過ちを犯して慰めてしまったのか気になるサラだった。
「……何?」
言い淀んだサラにフィーは小首を傾げる。
普段と変わらない仕草にも関わらず、疑った目で見ると妙に妖しげに見えてしまう。
「で、どうなの?」
「どうって何が?」
「それは……ほら形だけとはいえ私はあんたの保護者みたいなものなんだし。少しくらい話なさいよ」
「…………んー」
絡んで来るサラにフィーは虚空を仰ぎあの時のことを思い出す。
「リィンは……あったかかった……一緒に寝たらラウラ達とは違ってすごく安心できた」
「そういえば前にあんた達、中庭で昼寝してたわね」
真面目なラウラが珍しくフィーとミリアムに付き合って昼寝をしていたことがあったのを思い出す。
「うん……この人のそばにいれば安心できる……ああいうのが“お母さん”なのかな?」
「…………そこはせめて“お父さん”にして上げなさい」
フィーの答えにサラは教育的指導をしなくて済んで安堵するが、リィンのことを思って訂正を入れるのだった。
*
「古代遺物……人智では測れない力を持つものだと知識では知っていたがとんでもないな」
雪景色を一望できる露天風呂にガイウスは感嘆の言葉をもらす。
「“古代遺物”と言えば七耀教会が管理しているという話だが、大丈夫なのだろうか?」
「そこら辺はリィンのことだ。既に話を付けているのかもしれない」
「まあ、確かに……」
ガイウスの意見にマキアスは唸りながら頷く。
「“古代遺物”に“騎神”……“魔女”……改めて思うが世界は俺が思っていた以上に広いものなのだな」
「それは僕も同じだ。トールズ士官学院に入学してⅦ組に参加して……僕は自分の世界の小ささを思い知らされた……
そういう意味では僕は君よりも無智だっただろう」
「それは言い過ぎだ」
「いや、正直ガイウスに言われた言葉はかなり効いたよ」
貴族を敵視するあまり、自分がそれと同じになっていたことを指摘された時のことを思い出してマキアスは肩を落とす。
「いや、あの時は俺の方こそ軽率なことを言ってすまなかった……
愛するものを穢され、蔑ろにされることの怒りの衝動を俺は甘く見過ぎていた」
ノルドでの暴走を思い出し、ガイウスは何故マキアスが貴族に怒っていたのか分かった気がする。
同時に自分の中にも彼と同じ衝動があることも新たな発見だったと言えるだろう。
「しかしノルドか……ガイウスを取り乱させる程のものなら一度僕も見てみたいものだな」
「そうだな……俺もあの時の別の班の者達にも見てもらいたい……
リィンに頼めば、ここでノルドの空を作ってくれるのかもしれないが、やはり本物のノルドを見て欲しいな」
「その時は案内を頼むよ」
「ああ、喜んで」
*
「プロジェクト・ティルフィングですか?」
「何か物騒な名前の計画ね……」
シュミットとラッセル博士の二人から聞かされたリィンが進めている計画を聞いてエリオットとアリサは違う反応を返した。
興味深いと、自分もそれに参加できるのかと目に険吞な光を宿しながらも期待に輝かせるエリオット。
騎神と同等の人型の人形兵器という説明を受けて表情を曇らせるアリサ。
「その話を僕達にしてくれるって言う事は、僕も乗れるんですか!?」
「操縦系には《ARCUS》を利用する予定だからな。それでなくてもクレイグに関しては推薦をシュバルツァーから受けている……
後はこちらの条件と貴様の能力が合致すれば使ってやらんこともない」
「はい……それで良いです」
「うむ……そういえばリィン君に君の魔導杖を改造して欲しいと頼まれておったな」
激情を押し殺すように頷くエリオットにラッセルは思い出したように話題を変える。
「え……?」
「エプスタイン製の魔導杖にある機能らしいが導力を刃に変えるビームザンバーを作ってくれとな、何でも大剣を使いたいらしいな?」
「あ……はい……」
リィンが自分の知らない所でいろいろなことをしてくれていることにエリオットはこれまでの八つ当たりに近い態度をしていたことを恥じる。
「ワシはリィン君が君に何を言ったか知らんが、君の今の気持ちは誰よりもリィン君が一番分かっておる。だから――」
「本当にそうなんですか?」
ラッセルの言葉を遮ってエリオットは感謝の気持ちを持ちながらも、これまでリィン本人に言えなかった心情を言葉にする。
「帝国最強の猛者たちに一目置かれて、あんなに強くて、騎神やこんなアーティファクトまで持っていて……
何だって守れるくらいに強いリィンが理不尽に父さんを殺された僕の気持ちの何が分かるって言うんですか?」
「エリオット……」
溜め込んでいた暗い感情を吐き出したエリオットにアリサは何と声を掛けて良いか迷う。
「ふん……伝えることは伝えた。どうやら私の研究に貴様は合わないようだ」
「おいシュミット」
「義理は果たした。後は好きにしろ」
シュミットはそんなエリオットに興味はないと去って行く。
「やれやれ……」
相変わらずのシュミットのやり方にラッセルはため息を吐いて、エリオットに向き直る。
「リィン君が強いか……」
そんな評価をされていることにラッセルは納得しながらも、今の必死に背伸びをして強くなろうとしているリィンの姿を思い出して遣る瀬無い気持ちになる。
「リィン君が君の気持ちを理解できているのは本当じゃよ……
何と言ってもリィン君はリベールで一人の女の子を守ることができなかったからの」
「え……?」
「それって……」
予想していなかった意外なラッセルの言葉にエリオットとアリサは驚く。
「ちょっと待ってください! その子ってもしかして銀髪の女の子じゃないですか!?」
「おお? アリサ君は知っておったか?
ワシも又聞きでしか知らないが、相当な悪辣な手段でリィン君の目の前で殺されたらしい」
普段の超然としたリィンからは想像できない壮絶な過去を不意打ちで聞かされエリオットとアリサは絶句する。
「一応その時、《鬼の力》に呑まれる寸前にまで暴走したがカシウスに諭されて何とか道を踏み外すことはなかったのだが、それからかのう……
元々そういうところがあったが捨て身な戦い方をするようになったのは」
「捨て身の戦い方……?」
「もちろんリィン君は自棄になってるというわけではない……
大切なものを守るためにただ全力を尽くしているだけなのだろうが、全力を尽くし過ぎていると言うべきか……
なまじ“騎神”という大きな力を得てしまったが故にワシらはリィン君の戦いを支えることが難しくなってしまった……
トロイメライもカレイジャスも“騎神”と比べてしまえばどうしても見劣りしてしまうからの……
この後、戦いがもっと激しくなると言うのなら“ティルフィング”は良いタイミングだったと言えるじゃろ」
「この後……リィンはいったい何を見ているんですか?」
これまで漠然と感じていたリィンと自分達の意識の違いをエリオットは思い切って尋ねる。
「……ワシらも全てを把握しておるわけではないが“リベールの異変”と同じようなことを結社は帝国でも起こそうとしておる……
リィン君はそのための準備をしておるのだ」
「“リベールの異変”……」
「国中の導力が止まった浮遊都市が現れた……
でもいくらリィンが凄くてもあんな事件をリィン一人で解決できるわけないですよね?」
「だが帝国は全ての国民が手を取り合って一致団結するには問題が多過ぎる……
ワシらがリィン君やオリヴァルト皇子に力を貸したいと思っていても他所の国の人間である以上できることは限られてしまう……
だからこそ、勝手なことと承知して言わせてもらうとワシらは君達Ⅶ組がリィン君を支えてくれることを期待しておるのだよ……まあシュミットの奴は完全に我欲じゃがの」
「ラッセル博士……何だかすみません」
何だか急に復讐心だけでリィンとその周りを利用しようとしている自分にエリオットは自己嫌悪を抱く。
「家族を奪われたことがないワシが言える事ではないが、やはり復讐を呑み込むことはできんのかの?」
「………………すみません」
言外に復讐などすべきではないと言うラッセルにエリオットは繰り返し、謝った。
*
「すまないリィン。水をもらえるか?」
「ユーシス? どうしたんだ――ってミリアム?」
親睦会の料理の準備も大方終わったところで転移門からミリアムを背負ったユーシスが現れる。
「きゅ~う……」
赤い顔をして目を回しているミリアムにリィンは事情を察する。
「湯あたりか……ちょっと待ってくれ」
リィンが指を鳴らすとボトルと石造りのベンチにタオルが敷かれる。
「っ――」
何もない空間からものが出て来たことに驚き、ユーシスはすぐに無駄なことだと割り切る。
「それじゃあこれを頼む」
「…………何だこれは?」
「団扇って言うんだけど知らないか?」
「それくらいは知っている東方の扇の一種だろ? それを何故俺に渡す」
「湯あたりの時は扇いで上げると良いんだ」
そう言いながらリィンは手慣れた様子で水で濡らしたタオルをミリアムの額や手足を冷やすように置いて行く。
「あははー……つめたーい……きもちいー……」
のぼせて思考が定まっていないにも関わらず、ミリアムはその状況さえも楽しんでいるように笑う。
「やれやれ……」
ユーシスは肩を竦め、舌打ちをしてうちわでミリアムに風を送る。
――何だかんだ言いながら面倒見は良いんだよな……
リィンはあえてそれを口に出さず、作業に戻る。
「お前は相変わらずのようだな」
「え……?」
「わざわざこんな親睦会を開いて、準備などあの有能なメイドに任せておけばいいものを」
ユーシスは団扇を動かす手を止めず、分け身で三人となって調理をしているシャロンを一瞥する。
「この“箱庭”にしても、ノーザンブリア組には仕方がなかったとしても俺達にまで明かす必要はなかったはずではないのか?」
「そうだな……」
「博士たちが新しく造ると言っていた“ティルフィング”という機械人形についてもテストパイロットを俺達にする理由はないはずだ……
お前は俺達を巻き込むつもりはなかったはずではないのか?」
「…………そうだな」
かつてユーシスに話した“黄昏”についての心構えを指摘され、リィンは自問しながら口を開く。
「今回のノーザンブリアもそうだったが、通商会議とガレリア要塞の解放戦線の二面作戦、そして帝都での戦い……
改めて自分の限界を知ったからかな?」
「あれだけのことをしておいてか? 今ではもう名実ともにお前を得体の知れない浮浪児などと言う者などいないというのに」
「だけど今は“貴族派”と“革新派”の蝙蝠って揶揄されているな」
「それは……知っていたのか?」
「学院の中であんなに堂々と話をされたならな」
リィンの可聴領域を侮って囁かれる陰口。
オズボーン宰相の息子であるといつの間にか浸透していた噂話に、当然疑問に浮かぶのはリィンが“貴族派”なのか“革新派”なのか。
ガレリア要塞の件で歩み寄った“貴族生徒”と“平民生徒”だったが、リィンの立場は新たな対立の火種となっていた。
「それにあれは運が良かっただけだ……」
“緋の騎神”から始まって“白の虚神”も“フェンリル”、そしてリィンの記憶にはないが“蒼の機神”。
どの戦いも今生きていられることが不思議な程の戦いだった。
「俺が戦うことになるのはそれら以上の存在だ……
場合によってはみんなのことを守る余裕なんてないかもしれない」
「っ――」
言外に足手纏いだと言われたユーシスは眦を上げて言い返そうとするが、その言葉を呑み込む。
「どちらかと言えばクリスのためとも言えるな」
「クリスの?」
「クリスも俺と同じ戦いに巻き込まれることはほぼ決まっている……
俺とは違ってクリスならみんなが一緒に戦う理由はあるはずだ。“ティルフィング”はその時に必要になるだろう」
リィンは彼が聖女と相対した時のことを思い出す。
自分の限界を受け入れて、助けを求めた姿は印象深かった。
――俺の時は……いや、そんなことを考えるのはみんなに失礼だ……
陰鬱な思考をリィンは振り払う。
例え力を合わせたところでそれを凌駕する“巨いなる力”に対抗できる限界はある。
それから目を逸らし、みんなで力を合わせて戦えば何とかなるなどという楽観は“自己満足”と“欺瞞”でしかない。
「その言い方ではお前とクリスが“騎神”に乗って戦うと言っているように聞こえるが?」
「そう言っているんだ。俺達が戦うことになったらユーシスは俺とクリス、どちらに着く?」
「そんなのクリスに決まっている」
「ああ、その通りだ」
返って来た即答にリィンは頷く。それが正しい答えなのだと。
“次期皇帝”であるクリス――セドリックと貴族でありながら革新派のトップの息子である半端な“蝙蝠”のリィン。
帝国民なら迷わず前者に付き従うのが自然の理だろう。
「“世の礎となれ”か……」
「ドライケルス大帝の言葉がどうかしたのか?」
「いや……もしかしたら大帝はこうなることを知っていたのかと思ってな」
“礎”とは家屋や橋などの柱の下に据える土台石。または物事の基礎となる大切なもの。
神の領域に進化させた《緋》と戦ったこと。
因果を操る《虚神》と戦ったこと。
そして“鋼”に迫る“雲”の力を得たこと。
その全てが“礎”となるものだとすれば、“灰”の役割は他の騎神の“土台”になるために存在しているのかもしれない。
――俺の役割はクリスやアリアンロードさんのために道を作ることか……
未だに胸奥に残る小さな焔。
まるでいつでも殺せると言わんばかりに存在している魂に絡まった爆弾。
自分にできることは決して多くはないだろう。
「…………やはり俺はお前を認めることはできそうにない」
愁いを帯びた、どこか達観した顔をするリィンにユーシスはあの時と同じ言葉を言った。
その言葉にリィンは力ない笑みを浮かべるのだった。
夢幻回廊・風雲幻影城
ラウラ
「リィンッ!」
リィン
「どうしたんだラウラ?」
ラウラ
「クリスから聞いたぞ! この箱庭ではリィンが戦った敵を魔獣の様に出現して戦えると! 私もやりたいっ! 父上ばかりずるいっ!」
アリサ
「あれ? ラウラってこんなに子供っぽかったけ?」
エマ
「あはは、新しい一面ですね」
シャーリィ
「へえ、そうなんだ面白そうシャーリィも混ぜてよ」
フィー
「シャーリィがやるならわたしもやる」
ガイウス
「鍛えられると言うなら俺も……」
クリス
「あははは……ごめんなさいリィンさん」
リィン
「いや、箱庭に招いた時点である程度の説明するつもりだったから良いんだけど……
そうだな。それならローゼリアさんに相談して旧校舎のシステムをこっちに移して……ロア・エレボニウスを使って……」
マキアス
「リ、リィン……?」
ユーシス
「どうやら触れてはいけないものに触れてしまったようだな」
ミリアム
「わくわく」
*円陣中
リィン
「ルフィナさん。もう一度“影の王”をやる気はありませんか?」
ルフィナ
「あら、面白そうね。ちなみにどこまでやって良いのかしら?」
リィン
「やっぱり“魔剣テスタ=ロッサ”を使いこなせるようにさせるなら実戦が一番ですよね?
ケビン神父にした時はアスタルテを当て馬にしようとしてましたけど、イオさんに代わってもらうのはどうでしょう?」
イオ
「お? もしかして竜種形態の出番かな?」
レン
「あら、それならお城でレンが“金の巨人”の代わりをして上げるわよ」
ルフィナ
「ならローゼリアさんには“紅き聖獣”の代わりをしてもらうのも良いかもしれないわね」
ティータ
「あのあの“黒の幻想”の代わりならわたしができます」
エリカ
「道中ではオーバルギアも投入しましょう。ククク、対赤毛用の兵器群のテストに丁度いいわ」
シュミット
「仮想体として“ティルフィング”を使わせれば実機の数以上にテストができるな」
リィン
「今の俺の力なら“夢幻回廊”として外界との隔離もできると思います」
ルフィナ
「時間を気にしなくて良いのは素敵ね……
Ⅶ組はリィン君を除いて10人。そこにサラ教官とアンゼリカさん。あとトワさんとジョルジュ君も巻き込むと14人でちょっと切りが悪いわね……
副長――いえ、ロジーヌも巻き込んで鍛えるのも良いかもしれないわね」
ヨルグ
「自律型の新しい人形がある。人数合わせが必要なら使うといい」
ノイ
「うー」
リン
「ロア・エレボニウスを私の力を強化して、ノイに使わせるというのはどうでしょうか? 差し詰め“ノイ・ステラディア”」
ノイ
「やりたいっ!」
*
ジョルジュ
「ああ。何で僕達まで博士の実験に参加することが前提に……」
アンゼリカ
「ふ……あのバカに追い付くためにはⅦ組のみんなと行動するのが近道かもしれないのだからちょうどいい」
トワ
「……そうだね。リィン君やクリス君に任せるんじゃなくて、私達がクロウ君のいる場所に行かなくちゃ親友なんて名乗れないもんね」
クリス
「……リィンさんがスパルタとマッドに染まってる……」
ラウラ
「うむ、よく分からないが試練が厳しくなるのは大歓迎だ」
サラ(状態異常:酩酊)
「あははっ! いいぞもっとやれー!」
アンケート
すーちゃん、なーちゃんの利用を考えていますが、どのルートが良いかアンケートを取らせてください。
二人がいつ組織から離反したか細かい時系列が分からないので皆さんの意見次第で検討しようかと考えています。
A、リィン・シュバルツァー暗殺計画(組織在中、プロット完成度30%)
例:リィン「帰って上司に伝えろ。この子達の身柄は俺が預かる」
B、なーちゃんの貧乏脱出計画(組織離反直後、れーちゃんと愉快な仲間たちルート(一時的にるーちゃんも参加あり)、プロット完成度60%)
C、すーちゃん、なーちゃんは閃に出さない方が良い
すーちゃんとなーちゃんを閃に出すか?
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リィン・シュバルツァー暗殺計画
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なーちゃんの貧乏脱出計画
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非参加