T S 転 生 物 作:ブラバ界のレジェンド
「静かに」
いかにも神官な出で立ちをした友が、冷酷な表情で木槌を叩く。
「これより反逆者グスマンへの判決を言い渡す」
彼は淡々と、感情を込めずに目の前に記された紙を読み上げる。きっと、裁判が始まる前から書かれていたであろうその判決を。
「グスマン。貴様は……民の前でその罪の重さを示せ。断首にて、貴様の顔が醜く朽ち果てるまで晒し首だ」
「……そうか」
俺の判決は、処刑。無理もない、俺はれっきとした反逆者なのだから。
「な、納得できません! なんで、グスマン様が動かなければ今頃この国は……っ!」
「静かに。異議は認めない、これは既に下された判決である」
淡々と判決を読み上げる俺の友を、親の仇のように睨みつける少女。キッチリと結い上げられた金髪を振り乱し、俺をかばおうと此方に駆け寄ろうとして、兵士に取り押さえられていた。
メイリース。彼女は俺の従姉妹であり、この裁判で自分の立場を危うくしながらも俺の弁護を買って出たお馬鹿だ。
こんな、結果の決まりきった出来レースのような裁判に、よくもまぁここまで熱を込められる。法治国家として、反逆者である俺の存在など許してはいけないだろうに。
「分かった。俺は大人しく刑に服そう」
「当然だ」
そんな俺の返答を聞き、手枷に付けられた縄が強く引かれる。少し仰け反りそうになりながらも、縄を引く兵士に逆らわず俺は被告席から降りた。
「待って、待てって! こんな、こんな事が有ってたまりますか! 彼は英雄ですのよ! やい兵士、その人を連れて行くな、戻れ、裁判をやり直せ!」
「……メイリース様。お気を確かに」
「私の気は確かですの! 貴方こそ……貴方こそ、グスマン様の無二の友を名乗っていたでしょう!? 何をしていますの、このままでは!」
「……奴の目をご覧下さい、メイリース様。これ以上は、奴の矜持を……傷付けるだけでしょう」
「矜持? 矜持ってなんですの!? 彼は讃えられるべきでしょう、語り継がれるべきでしょう? そんな彼に大罪人の謗りを与えて、これ以上の侮辱がありますか!?」
「彼は、グスマンは、反逆者です。この国にとって、彼は決して許容できる存在ではない」
そう言った友の顔は、形容しがたい表情だった。無理してやがるな、アイツ。
そもそもヤツは、友を殺せるほど冷酷になりきれる男ではない。俺がどうあがいても助からないと知っているから、せめて最後のひと時まで俺と会うことのできる神官を買って出たのだろう。
本当に、俺はいい友を持った。
「ありがとな、ベルン」
「……何をしている。グスマンを連れて行け」
「はっ! 了解しました」
俺は、裁判所を後にする時に小さく感謝を呟いた。
ベルンの耳には入っただろうか。
「親殺し!」
「よくも国王を!」
裁判所を出て、檻の中に閉じ込められ俺は護送される。
「殺せ! 殺せ! 殺せ!」
「苦しめて殺せ! 生まれたことを後悔させろ!」
護送の最中、道に溢れかえる民衆から大量の石が投げつけられた。無理もない、俺は彼等にとって憎むべき敵なのだ。
檻の鉄格子の隙間から石が幾つも投げ込まれ、縛られて動けない俺の体を打ち付ける。
「悪魔だ、この男は悪魔の化身だ!」
「覚悟しろよ、正義の鉄槌をお前に叩きつけてやるからな!」
俺が命を賭して守った民衆達。
後悔がないと言えば嘘になる。実の父親である国王を殺してまで守った民からは、忌み嫌われて石をぶつけられる現状に。
でも、何もせずこの国の民が蹂躙された方が、きっと後悔したと思うから。
俺は、甘んじてこの屈辱を受け入れよう。
俺の父は、国王は、国を売っていた。
自身と家族の身の安全と引き替えに、国民を隣国に売り渡そうとしていた。
隣国とは、軍事力で大きな差がある。まともに戦争したら、きっと敗北して国王の一族は処刑されるだろう。
それを回避するためとは言え、国が丸ごと奴隷となるようなふざけた条約を国王は勝手に結ぼうとしていた。
隣国の人間は、いつでも俺達の国の人間を奴隷として徴用出来る。そんなふざけた条約が結ばれようとしている。
俺は、たまたまソレを耳にして父に問い詰めた。そして、その条約が事実だったことを知る。
その代わり。父や俺は、隣国において貴族として暮らしていけるそうな。
その日、俺は父親を斬った。
この事実を知られてはならない。
ただでさえ、隣国はこの国を侵略しようと虎視眈々機会をうかがっている状態なのに、国王が民を売った事が知れ渡ればたちまち内乱となる。
そんな状態になれば、数日でこの国は蹂躙されるだろう。
“国王の息子が、クーデターを企て、国王を殺した”
今回の事件は、ソレだけで納めないとならない。この緊迫した情勢で、絶対に国家と民の間の不信感が生む訳にはいかないのだ。国王の跡継ぎは継承権通りに兄が。それで、さしたる混乱は起こらないだろう。
「だから、俺は殺されなきゃならん」
「……グスマン。良いから、逃げろ。ここに居る連中は、お前の成した正義を理解しているから」
裁判が終わり、処刑される前夜。俺は神官として俺を見送りに来たベルンに薄く微笑む。
「俺は、これ以上無い神輿だ。俺が逃げ出したと言う事実が存在するだけで、俺の偽物を担ぎ出した反乱が起きるだろう」
「だったら影武者をお前として殺す。グスマンは死んだ、そしてお前は別の人間として生きてくれ」
「ベルン、もう良いんだ」
やはり、この男は俺を殺すつもりは無かったらしい。幾らかの路銀と食料と共にベルンは獄中の俺を訪ねてきた。
だが、俺はベルンの助けに乗るつもりは無かった。
「俺は曲がりなりにも、父親を殺した。罪は罪だ、償わなきゃならん」
「グスマン、格好つけるな」
「俺さ、城下町が好きでさ。しょっちゅう酒場に忍びで繰り出してたのさ。影武者なんかすぐバレちまうよ。だからさ、もう良いんだ」
どうせなら、徹底的に。親を殺しまでしたんだ、つまらない生存欲でケチが付いたら馬鹿らしい。
クーデターを企て親を殺した悪魔は、民の前で処刑される。それで良いじゃないか。
「そんなに死にたいのかよ、お前」
「そうかもな。……そっか、俺ってば死にたかったのか」
「何納得してやがる! 今なら逃げられるって言ってんだ、とっとと荷造りして逃げろよ馬鹿野郎!」
何かと理由を書いてきたが、ベルンに言われてようやく理解した。
「国王は、父さんはさ。最低の王だ」
「……我が身可愛さに、国を売った王だからな」
「でもよ、父さんはきっと、家族を守るために国を売ったと思うんだ。父さんの家族への愛情は、きっと本物だったと思う」
ヤツは、忙しい仕事の合間を使って、出来るだけ俺や母、兄弟達に積極的に関わってきた。
国王の癖に、一人の親として立派にやってたんだ。今回もきっと、自分の身が惜しかったと言うより家族の身を案じて国を売ったのだろう。
「父さんは最低の王だけど、俺の親をしっかりとやってた。俺は一方的な正義感で、そんな父親を殺したんだ」
「お前は間違っちゃいねぇよ。保身のために国を売るなんて、やっちゃいけない」
「でも、父さんは親だったんだ。そっか、そうか。俺、死にたいんだ」
父さんは家族を優先して、俺は国を優先した。
父さんは本当に大切なモノを選んでいたけれど、俺は青臭い正義感に突き動かされ父を殺した。
その罪は、きっと重いから。
「殺してくれ、ベルン。俺は、それで良い」
「本当にそれで、良いんだな?」
「その方が良いだろ。無理に俺を生かしても、争いの種になるだけさ」
「分かった」
そう言って何かを諦めた表情の友は、ぷいと俺から顔を逸らした。
「それでも俺はよ、お前に生きて欲しかったぜグスマン」
「ありがとう、ベルン」
コレが、俺とベルンの今生の別れとなった。
その翌日。俺は衆人環視の中、石を投げられ、蔑まれ、詰られ、ギロチンにかけられた。
俺の首は、死後しばらく首都の大通りに晒される事となったらしい。
コレが、愚かな反逆者“グスマン”の、その最期である。
「天使はここに居る! お前だぞ、マナッ!」
「……」
とまぁ、何で死んだ俺が自分の死後のことを淡々と語れるのかというと。
「パパ、マナが嫌がっているわ」
「そんなことはあり得ないぞ! マナは天使だからなぁ!」
「……」
どうやら神様というヤツは、死にたがりをそう簡単に死なせてくれない存在らしい。首が飛び意識が消え、これで何もかも終わりかと思ったら、死んで新しく始まるモノも有ったのだ。
「ほら、マナが死んだような目をしているじゃ無い」
「いつもこんな感じの気怠い目をしてるだろう。ソコがまたキュートじゃないか!」
「……」
ここは、俺が命を賭して守った国の片田舎。
俺は、1度は皇太子として戦場に立った事もある偉丈夫だった。
それが今は、幼女として生まれ変わり平民の親になすがまま愛玩されている。
転生というのだろうか? 生まれ変わった俺は、目が死んでいる女の子でした。
……俺の罪は、ここまで重かったのか。
「ほら、頬ずりしても微動だにしない! マナが嫌がっていない証拠さ」
「今、更にドロッと目が濁ったわ。パパ、やめてあげて」
「……」
……死にてぇ。