T S 転 生 物 作:ブラバ界のレジェンド
どうも、こんにちは。
俺は反逆者“グスマン”改め、目が死んでいると村で評判の幼女“マナ”でございます。前世では「リース」王国の反逆の皇太子でしたが、今世ではリースの辺境で両親の営むパン屋の看板幼女をやっています。
おぼつかない足取りで、店の看板を持って玄関付近をうろつく幼女。そりゃあ良い客引きになるね、両親は実に商売上手だ。
俺はもう皇太子ではない。平民として、家業の手伝いくらいするさ。いくらでも。
ただね、
「マナ、その服可愛いぞぉ」
「……解せぬ」
ピンクでフリフリなリボンだけは勘弁して欲しかった。ああ、生きるのが辛い。
さて。改めて今の俺の現状をまとめてみよう。
生まれ変わった俺の名前はマナと言うらしい。今世の俺の性別は女性であり、つまり今の俺は幼女である。
今生の俺の両親は、リース国境付近の小さな集落でパン屋を営んでいる平民。店はそこそこに流行っているようで、昼頃になると客が列をなす。
昼時は、俺も最後尾と書かれた看板をもって客の整列を手伝ったりしている。
店の作りとしては、質素な二階建ての白い壁の店舗だ。2階は俺達の居住スペースであり、1階でパンの作成・販売を行っている。
この店は従業員を雇わず、俺の両親2人だけで店を切り盛りしている。元々は父方の祖母が首都でパン屋を営んでおり、ウチの両親が独立し姉妹店としてこのパン屋を建てたんだそうだ。
そんな大忙しの2人に俺という子供が出来てさぁ大変。母親のリゼ育児でかかりきりになると、父親のベンの仕事が2倍になり店が立ちゆかなくなる。とは言え、従業員を雇ってレシピを盗まれたら大変だ。
そこで父が考えついたのは、俺を店の中で面倒を見ながら仕事をすると言う方法。乳児期はずっと父か母の背中でおんぶして貰い、歩けるようになったら店の手伝いをさせる。
やってることは、先ほど述べた整列だったり、暇な時間帯では入り口付近をヨタヨタと歩きながら客に”いらっしゃいませ”と頭を下げて客寄せをしたり。
ハッキリ言おう。これ多分、俺に前世の知識が無かったら絶対に上手くいってなかったぞ。2、3歳の幼児が店の手伝いなんぞおとなしくするもんか。多分、店のパンを食い散らかして顰蹙を買うかワンワン泣き出して煩かったかのどっちかだ。
そして、もう一つ。残念なことに、俺は無表情で目が濁っている不気味幼女である。
これで集客効果は得られる筈もない。父親のベンは俺を溺愛していて気付いてないが、客からはときどき胡散臭い目で見られている気がする。
年齢不相応に大人しく店の手伝いをする目の濁った幼女。悪魔の生まれ変わりかな?
一方で、母であるリゼは俺の死んだ瞳を受け入れ、客から疎まれている事を察した上で愛してくれてる気がする。ベンと比べ、常識的な感性を持った人の様だ。
「……しゃいませ」
そんな俺が不気味に見られるのを理解した上で大人しく店の手伝いをしている理由は、ずばり親からの信用を得るためだ。俺は逆らわないよとアピールして、子供として愛して貰う必要がある。
望まれない平民の子供は、簡単に売られてしまうからな。
それに、前世では信用があったから、俺は最期までベルンやメイリース達に信じてもらえた。あいつらにまで反逆者扱いされ侮蔑されていたら、心が折れていただろう。
……父さんを斬った時点で、俺の心は折れていたのかもしれないけど。
「……もうちょっと愛想が出ないもんかねぇ」
「これはこれで可愛いから良い!」
「バカ。うーん、ウチの手伝いで少しは外に興味持ってくれると思ったんだが。あの子、自分にしか興味がない性格になりそうで怖いよ。もっと同い年くらいの子と遊ばせるべきかねぇ」
……そんな俺を見て父さん達が何か言っているけど、気にせず仕事しよう。いらっしゃいませー。
「……しゃいませ」
うーん。我ながら元気がない。まだ前世のことを引きずっているのだろうか?
女々しいな、俺。死にたくなってきた。
「と、言う訳で。お友達を紹介するわマナ、こちらは肉屋のブラガ君よ」
「オィイーッス!」
次の日。看板幼女としての職務に休暇を言い渡された俺は、街の広場で1人の男の子と対面していた。
「いつもお前の家のパン食ってるぜ! ブラガだ、好きなパンはレーズンパンだ、よろしく!」
知らねぇよ。というか肉屋の子なら、肉使ったパンの名前出せ。確かウチで作ってるホットドッグの肉の仕入れ元だよな、お前の家。
「……マナ、です」
「声ちっちぇ! あはははは!」
笑うな。デカい声出せねーんだよ、今の身体。声帯が細いのか、メンタル的な問題なのか。
「よし、今日はお前に面白い遊びを教えてやろう! マナとやら、ついてこい!」
「……あ、ハイ」
「夕御飯までには迎えにくるからね。この広場から、出ちゃダメよ?」
「任せてくれ、パン屋さん! 俺がついてるから!」
「うふふ、頼もしいわ。よろしく、ブラガ君」
ワハハと笑う、ブラガ少年(推定5歳)。この年頃の子供は勢いがすごいな。そのテンション、おじさんにはちょいと辛いよ。
そんな元気いっぱい腕白坊主なブラガ君に手を引かれ、俺は街の共有イベントスペースである広場の奥へと誘拐された。
母さん。こんなテンションのガキと一日遊ぶ羽目になるなら、働いていた方がましです。
決闘のデュエルフィールド! 略して、KDF!
丸い円状のリングの中で2人の戦士が睨み合い、取っ組み合い押し合う真剣勝負!
闘いのルールは簡単、魔法と打撃以外の方法で敵の戦士をリングの外へ弾き出した方が勝ちだ! 武器の使用は禁止、顔面への攻撃も禁止!
そして、負けた奴は勝った奴に絶対服従! 力こそが全てなのだ!
「コレが、今流行ってる“戦士ごっこ”! マナもやってみろよ」
「おおブラガ、この娘は新しい仲間かの?」
「なんか弱そう」
「目が腐ってて雑魚っぽいです」
ブラガ少年に手を引かれ連れて行かれた先にいたのは、4人の同世代の子供達だった。見たところ、5歳前後のグループの様だ。平民の子供同士、仲良くつるんでいるのだろう。
「こんなのと押し合ったら、地の果てまで飛んでいかんかのう?」
「ダンゴムシと喧嘩しても負けそうです」
と言うか、俺はソコまで散々に言われるほど弱そうなのか。
「そんな貧弱なマナに、俺達が戦士としてのいろはを教えてやるよ! スゲー楽しいぞ」
「ま、頑張れや。強さに応じて“称号”が手に入るから、出世したくば強くなれい」
「例えば、おれは“狂犬”の称号を持ってるピョートルだ。ヨロシクゥ!」
連れ込まれた先の広場で代わる代わる子供に囲まれ、話しかけられた。
自分よりデカいヤツに囲まれるのは結構怖いもんだな、ちょっとは気を使ってほしいもんだ。まぁ、この子らに悪気はないんだろうけど。
「そんで、俺達は“リース自警団”を名乗ってる。この国の平和を守るために日々“戦士ごっこ”で修業してる訳だ」
「僕達はこの国を守ってる自警団って訳ですよ。かっこいいでしょう?」
リース自警団、ね。無邪気な事だ。
前世で本物のリース国軍を率いていた身としては、格好良くも何ともない。闘いってのは死の香りに溢れた、残酷な世界だ。
「よーし、まずは一戦やってみろよマナ! そうだな、ピョートル辺りが初戦の相手してやれ。俺はマナの隣でアドバイスしてるから」
「分かったぜ。くくく、新入りぃ。貴様には負けた罰として“三回廻ってワン”をさせてやるぜ……」
「年下の女の子にも容赦ない仕打ち……。さすがは“狂犬”のピョートルだ」
「マナ、気をつけろ。正面からやると体格差で押し負ける、小柄な体格を生かして戦え」
とはいえ、子供にそんなことを諭すののは無粋。せっかく遊びに誘ってくれたんだ、乗っておいてやろう。
要するに押し合いをして相手を線の外にたたき出せばいいのだな。幸い目の前のピョートルと呼ばれた子供は俺よりはでかいが、体格的にそこまで差はない。ちょい年上くらいだろう。
だったら、後は身体の使い方だな。押し合いをしながら左右へと相手の体軸をずらし、ふらついた瞬間に一気に押し込む。
その結果、「狂犬」ピョートルはあっさりと尻もちをついて、線の外へと押し出されてしまった。俺の勝ちの様だ。
「やるじゃねえかマナ!」
「ピョートルがこんなにアッサリ!? コイツ……タダモンじゃありません!」
「待て、いつも負けて狂った様にワンと言わされているピョートルが弱すぎただけじゃ。狂犬の名は伊達でじゃないっちゅう事じゃ」
狂犬って、そんな意味だったんかい。あー、だから俺の最初の相手に選ばれたのか。
「くく、弱そうな女だからと少し手加減が過ぎたようですね。こうなったら「四天王」のココロが、ここで社会の厳しさって奴を刻んで差し上げますよ!」
「ココロが出るのか……、マナ、死ぬんじゃねぇぞ」
「ガッハッハ。ここらでワシ等の強さって奴を教えてやれぃココロ!」
……全員で4人しかいないのに、四天王ってどういう事だ。まぁ、子供のいう事をいちいち真面目に考えちゃダメか。きっと強そうだからとかそういう理由で四天王と名乗ってるんだろう。
さて、ココロちゃんとやらは同い年くらいの女の子だった。僕っ娘なだけあって、気が強そうで快活だ。運動神経もよさそう、正面から当たると競り負けるな。
今世の身体、実際かなり貧弱だからなぁ。ここは少し汚いが、敢えて線の近くまで下がって……
一気に距離を詰めて来たココロを、ゴロリと寝ころびながら巴投げで線の外まで投げ飛ばした。良かった、前世で散々体にしみこませた体術は今なお健在のようだ。魂にまで刻まれているのだろうか。死んでしまったお師匠に感謝だな。
「う、嘘じゃろ……四天王のココロが負けちまった!」
「お、落ち着けゲン! 所詮は四天王、幾らでも替えが効く捨て駒よ」
彼らは四天王を何だと思っているのだろう。
とはいえ、立て続けに二人を撃破した俺は警戒されたようで、一番デカい子供がノソッと俺の前に立った。俺の倍くらいの背丈はありそうだ。
「マナと言ったかの、おどりゃなかなか出来るようじゃの。じゃがそろそろ負けて貰わんと、このリース自警団の名が廃る」
「破壊神と呼ばれた漢……ゲン。もうお前が出るのか」
「オイオイオイ、死にましたよあの新入り」
改めて近くで見ると、デカい。年齢の差も有るからか。いやーキツいな、コレは。
肉体強化魔法ってどうなんだろう。魔法を使って敵を外に出したら反則、つまり肉体を強化するだけならセーフ……? いや、多分ダメだろうな。魔法を使える事なんて考慮して無いだろう子供相手にソレは卑怯すぎる。
なら、純粋な体術で勝負するしかない。体格差があるんだ、ちょっと本気で闘っても文句は言われないだろう。
試合開始と同時に、俺はゲンと呼ばれた少年の腕に飛びついた。俺は3歳の子供、筋力は無くとも体重はそこそこにある。
飛びついた勢いを利用して遠心力を加え、グルリと関節を決めながらゲンの右腕を俺の両足で挟み込む。そしてその勢いのまま、ゲンの肩を地面に叩きつけた。
試合開始の、僅か数秒後。ゲンは線の外へブン投げられ、そこで俺に関節を極められて蹲っていた。
「あ、あ、あ………」
「嘘でしょう? 何者ですかコイツ」
「スゲェ! マナ、スゲェよ!」
「不覚じゃ……」
どやぁ。小さいからって舐めてはいかん。なるべく優しく投げたし、ゲンに怪我もないだろう。完全勝利と言う奴だな。
「仕方ねぇ、ゲンが負けたなら俺が出るしかねぇな」
「ブラガ、頼む。このままじゃ終われん……」
「きゃー、兄さん頑張ってください! 可愛い妹の敵討ちですよ!」
「まさか、こんなに早くお前と戦うことになるとはな、マナ。リース自警団“最強”の男、団長のブラガ! 新入りに稽古を付けてやるぜ!」
お前がラスボスか。ゲンよりは少し小さいけど、ソコソコの体格をしているし強敵の予感がするぜ。
それに、なんだか魔力も感じる。まさかブラガは平民の癖に、魔力を操る術を身につけているのか。ああ、だから魔法禁止のルールが有るのね。
ユラリ、俺の前に立ったブラガは呼吸を整えると全身に魔力を流し、深呼吸している。気を高めているのだろうか、徐々に体の中の魔力が渦巻き、全身の筋力を鋼の様に強化し……
ってソレ肉体強化じゃね!?
え、良いの? お前が禁止って言った魔法だぞソレ!?
いや、意識してないのか、コレが魔法だって。きっと無意識に魔力をコントロールして、肉体を強化しているのだろう。ブラガ少年に後ろめたそうな気配はないし。いやー、天然で魔力コントロールできるのか。
中々の逸材だなコイツ。
……そして、お前が肉体強化を使うんならこっちも使っても文句は言われんだろう。
「はぁっ!」
「……ふっ」
そのままブラガと真正面から取っ組み合い、そして力押しでブラガを線の外へと追いやる。予想外だったのか、ブラガは目を白黒させながらも必死で抵抗するが、如何せん魔法の完成度が違う。
無意識に習得した肉体強化と、キッチリ理論立てて発動している俺の肉体強化では完成度に比べようもない。
やがて、堂々と正面からブラガを押し出し、俺は勝利を掴んだ。
「ブ、ブラガが……力負けした?」
「そ、そんな、兄さんが!?」
「……新たな、リーダーの誕生だ……」
年季が違う、年季が。前世で軍人として訓練を受けた俺が、幼女になったとて片田舎の子供に負けるほど落ちぶれてはいない!
指を1本、天のお日様を指しドヤ顔を決める。
「……あいあむ、ナンバーワン」
「うおお! マーナ! マーナ!」
「マーナ! マーナ! マーナ!」
その日、俺はガキ大将になった。