T S 転 生 物   作:ブラバ界のレジェンド

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よんわ

「成る程ね。マナは、その謎の老人に魔法を教えてもらったのね?」

 

 こくこく、と必死で頷く俺。

 

「そのお爺さん、今は何処にいるかわかる?」

「……住所不明」

 

 ぶんぶん、と首を横に振る。俺の口からでまかせで生まれたその老人が、この世に実在するはずないのだ。

 

 魔法を使ったことを両親に知られ、問い詰められたが俺に前世の事を正直に話すという選択肢はなかった。

 

 そもそも前世の記憶が有ることを信じて貰う事自体がかなり難しい。仮に信じて貰えたとして、幾ら人のよさそうである両親であろうと”国家反逆者”が娘だなんて受け入れきれる訳がない。

 

 となれば、手段は一つ。

 

「で、その何処にいるかもわからないお爺さんがふらっと現れて、何故かマナに魔法を伝授したのね?」

「……うん」

 

 そう、俺は苦肉の策として、旅の老人に教えを乞うた事にしたのだ。そうでもしないと、幼女である俺が魔法を使えるなんておかしすぎる。

 

「怪しいことこの上ないわね、何でそんな人がいた事を教えてくれなかったの! そもそも、何時の間に会っていたのよ!?」

「……お昼にたまに。それにあの爺は信用できる、澄んだ目をしていた」

 

 しかし当然であろう、母上は大層訝しんでおられる様子。確かに、既に色々とおかしいのだが。

 

「はぁー、そういう事にしておきますか。マナ、お約束しましょう。次にそのお爺さんが現れたら私に言いに来ること。」

「……ガッテンだ」

 

 とはいえ。母からしても、他に説得力のある理由なんて思いつくはずもない。俺の幼稚な言い訳を信じるしかないのだ。

 

 微妙な顔をしながらも。リゼは俺の話を信じてくれて、受け入れてくれた。よし、これでコソコソせずに堂々と魔法を————

 

「そして、魔法は私の居ないところで勝手に使わないこと。いいわね?」

「……えぇー?」

「いいわね?」

「……ふぬ、ふぬぬぬぬぬぬ。りょ、了解ぃぃぃ」

「何でそこまで苦渋に満ちた顔するの!?」

 

 そして、やはりというか。母上は俺に魔法禁止を言い渡した。親として、実にまともな判断だろう。子供の操る未熟な魔法が事故につながるのは常識だ。

 

 だが、俺は前世でそこそこに魔道を収めた上級者である。今世では女性として生まれ、体格的にに近接戦闘に難が出るのは予想出来る。

 

 だから魔法をいかに使いこなすかが、俺の力に直結する。魔法は幼いうちから積極的に鍛えておきたい。

 

「絶対よ、絶対に隠れて魔法を使ったりしたらダメだからね。良いわね?」

「……おーけー。……マナは嘘つかない」

 

 よし、こうなれば是非も無し。こっそり隠れて修行をするとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、深夜。

 

 俺は家族が寝静まったのを確認し、寝ボケ眼を擦りながらコッソリと窓から外へ抜け出した。当然、魔法の練習のためだ。

 

 辺境であるこの辺りは、治安があまりよろしくない。特に深夜なんかは、人攫いが出ないとも言えない。あまり家から遠くへ離れるのは危ないだろう。

 

 とはいえ、近く過ぎると音が響いてバレてしまう。そこそこの広さが有り、かつ家からそこまで離れていない場所。

 

 そう考えて俺は、遊び場である広場へと足を向けた。あそこなら広さも十分だし、家に音も響かないだろう。

 

 俺は誰にも見られないように裏道を通りながら、第二の人生における自己の研鑽を始めるべく、灯りのない夜道を歩いて行った。そんな俺を見下す様に、夜空の星が妖しく光っていることに気付かずに。

 

 

 

 

 

 

 

「キミは、誰なんだい?」

 

 結論から言うと、俺は残念ながら広場にたどり着くことは出来なかった。

 

 この時間帯に出歩く者は、犯罪者か、獣か、魔族か。俺は肩に誰かの手の感触を感じ慌てて振り返る。

 

「女の子だね。こんな時間に、1人で出歩くには少々頼りないお年頃だ。親と喧嘩でもしたのかい?」

 

 何処から現れたのだろう。フードを被ったガキが、不敵に笑って肩を掴み、俺に語り掛けて来た。声は中性的だが、恐らく女だろう。年齢は俺よりは年上……だが、まだ幼い。10歳手前だろう。

 

「ふふふ、怖がらなくてもいいさ。私は別に君を取って食おうと言う訳ではない」

「……む」

 

 相手が子供だからと言って、俺は警戒を緩める気は無い。この子自身が、奴隷商人の下僕で同世代の子を油断させおびき寄せる役目かもしれないのだ。

 

 ……このまま戦闘になれば、恐らく勝てる。この女子を服の上から見たところ、筋肉の付き方が戦闘職のソレではない。彼女が魔法使いだったとして、この位置なら俺が近接技で昏倒させる方が早い。

 

 それに、彼女の口ぶりからは敵意を感じない。少し様子を伺うとしよう。

 

「そうだ、おとなしくしたまえよ。私は、この先の広場はガラの悪い男どもの溜まり場になっているから引き返したまえとキミに忠告したいだけさ」

「……ほー。知らなかった」

 

 彼女の口から出てきたのは、忠告だった。

 

「だろう? こんな時間に広場に行くなんて、何か忘れものでもしたのかい? だが、明日に取りに行くのが無難さ、今広場に行けば何をされるか分からないよ」

 

 ……なんと、深夜のあの広場が不良の溜まり場になっているとは。それは危ない所だった、喧嘩になってその不良共をボコボコにしたら、ウチのパン屋に報復が来るかもしれない。

 

 要らぬ喧嘩は買わぬが華。魔法の練習には別の場所を探すとしよう。

 

「……礼を言う」

「どういたしまして。では、気を付けて帰りたまえ」

 

 そう言って笑う彼女に、俺はふと首をかしげる。そう言えばなぜ、彼女もこんな時間に出歩いているのだろうか。

 

 年齢は10を超えていない、飄々とした女子。ゲンさんやブラガより少し上くらいか。そんな彼女が、こんな夜更けに何を————?

 

 

 

 

「――――ソネット、何を油売ってやがる」

「おや、すまない。小さなお嬢さんが道に迷ったようでね、正しい道を教えてあげていたのさ」

「あん? ……何だこのガキ、ソネットの知り合いか?」

 

 ……聞きなれる声に反応し、ふと見上げると。とてもガラの悪い男が、その少女の横に立っていた。

 

「初対面さ。広場に忘れ物でもしたんだろう、一人で広場に歩いて行ってたのを私が見咎めた」

「ああ、そうかい。用が済んだならとっとと来い」

 

 そのガラの悪い、筋肉質な体の男は乱暴にソネットの腕を引っ張る。苦笑したその少女は、おとなしく男に付き従い広場へ歩いていく。

 

「おめぇみてぇなチンチクリンでも、女には違いないからな。いると居ないとでは大違いだ」

「……うん、私がサボると姉さんの負担も増えるしね。子供好きの変態は、私が引き受けないと」

「分かってるなら寄り道せずにとっとと来いってんだ」

 

 そのガラの悪い男は、ソネットの腕を掴んだまま吐き捨てるように恫喝した。

 

「今夜もキッチリ、借金分は身体で稼いでもらうぜ」

「ああ、分かっているさ」

 

 俺はその様を、呆然と目を見開きながら、絶句して見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、あれはまさか。じ、じ、じ————

 

「…‥児童買春!?」

 

 今の会話何!? 身体売ってるの!? あの女の子、ロリコン相手に売春させられてるの!? 闇深っ! この集落、闇深っ!?

 

 駄目だ、そんなのを許容しちゃいけない。助けないと。子供は社会の宝、穢れた大人の欲望の対象になんかじゃあない。子供に借金を返させるなんてそもそもお門違いなんだ! あんな幼い子供の借金は、全て親の責任なんだから。

 

 ……潰すか。広場にたむろしているという悪党どもを、俺が一人で。今の俺の体格で格闘戦は厳しいけれど、魔法なら発動することを確かめた。訓練も受けていない平民のチンピラ程度なら、5歳の俺でもギリギリ勝てる……か?

 

 とは言え、相手はロリコン。不覚を取ってしまえば、俺の身も危ないだろう。彼女自身は受け入れているみたいだし、危険を冒してまで助ける必要はない……?

 

 ……いや、馬鹿か俺は。彼女が嫌がるそぶりをあまり見せなかったのは、きっと諦めて受け入れてしまっているだけだ。きっと、心の奥底では助けを求めて泣き叫んでいるに違いない。

 

 このグスマン、幼女に生まれ変わった身ではあれど、前世ではこの国の皇太子。子供はすなわち、国の宝。

 

 即ち、王族であった俺の宝だ。わが身をの危険を恐れて、助けを求める子供を見捨てるなどもってのほか!!

 

 覚悟を決めろ。俺は前世で訓練を受け戦争にも参加した事のある強者。民を守り、導くのはオレの使命!

 

 待っていろ可哀そうな少女よ。俺が今、助けてやるぞ!

 

 

 

 俺は、肩の震えを押さえながら、変態男どもの狂宴の場へと歩みを始める。

 

 駆逐してやる、無垢な児童に手を出すロリコン野郎を! この世から一人残さず駆逐してやる!!

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