「おはようございます。朝ですよ、お嬢さま」
「う~ん、もう少し……」
なにやら主従と思わしき少女が二人。
主と思われる少女は起きようともせず、寝返りを打って相手に背中を向けた。
長いブロンドの髪だけが見えている状況であるが、それだけでも美しくどこか絵になる。
従者らしき少女は主の反応に対して表情一つ変えない、いつものことなのだろうか。
短い黒髪に紫の瞳、顔つきは凛々しく主の自由さとは対照的な繊細な美しさを感じさせる。
「疲れが残っているのに夜更かしをなさるからです」
そんなことを言いつつ黒髪の少女は無慈悲にカーテンを開き、主の寝室には爽やかな朝日が入り込む。
日に照らされた家具たちは煌びやかでお嬢さまと呼ばれるだけはある内装だ。
「もうっ、千夜ちゃんのいじわる」
主の少女は気だるげに起き上がりながら不満を口にしている、日の光を薄目で眺めるその瞳は淡い赤色に輝いている。
ただ、出てきた言葉は軽い不満であるが少女の表情はどこか楽しそうである。
「原因はお嬢さまの不摂生にあります、体調不良を起こされても困りますので睡眠は十分に取っていただきたいのですが」
「今のままでも十分じゃないかしら」
「お嬢さま……よもや休学して私と同じ学年にでもなるおつもりですか?」
「……その発想はなかったな……面白いから千夜ちゃんの案採用♪」
「さすがにそのようなことになれば、あいつが口うるさく言ってくると思いますが」
「ふふっ冗談♪ 大丈夫、魔法使いに心配させるようなことはしないから。ああでも、心配するあの人は見てみたいかもしれない」
主の少女は楽しそうに語っているが、千夜の表情は険しくなっていく。
冗談とは言っているものの留年することを嬉々として語る姿を見ればそうなるのは当然ではある。
仕える身としては心配なのだろう。
「……そうですね、顔面蒼白になって憔悴するあいつの顔はたしかに拝んでみたくはあるかもしれません」
千夜がそんなことを言って賛同すると、珍しいことなのか主の少女は少しだけ驚いてから嬉しそうに微笑んだ。
いつの間にか険しかった千夜の表情も穏やかなものへと戻っている。
「なんだか面白いね、千夜ちゃんが他人にそこまで興味を持つなんて」
「お嬢さまの戯れに対してどう反応するのか、私との違いを見てみたいのだと思います」
「なるほど……たしかに、あの人を振り回すのは楽しそう♪ 私の指揮で魔法使いがどう舞うのか楽しみね」
「…………」
楽しそうに話を続ける主の少女を眺めながら、千夜はなにか不穏なものを感じ取ったのか浮かない顔をしている。
さすがに少女も気づいたのか話を止めた。
「千夜ちゃん、どうかした?」
「……いえ、巡り巡って私に無理難題が降りかかるのでは、と」
どうやら少女が魔法使いと呼ばれる人物を振り回していたらなぜか矛先が自分に向かってくるのではと考えたようだ。
油断をしているときに限って災難が襲ってくるというのはよくある話……かもしれない。
「大丈夫、きっと千夜ちゃんならなんでもできるから」
冗談でも言っているように明るく笑いながら少女は言葉を返す。
しかし、どこか本心からの言葉であるように感じられる。
「買いかぶりです」
「私はそう思わないけどなあ」
「……おや、もうこんな時間ではありませんか」
「長話をしすぎた?」
「そのようです。学校が終われば事務所に向かわなければなりません、今日も長い一日が始まりますよ、ちとせお嬢さま」
主の少女――ちとせに語りかける千夜の表情は微かに楽しそうに笑っていた。
「そうだね、楽しみだな」
千夜の表情につられるようにちとせも笑顔になる。
それだけ今が満たされているのだろう。