「凛!起きなさい!」
スヤスヤと寝てしまった凛を起こす為にミッドナイトは必死だった。
「どうしようかしら?」
破れたコスチュームは応急処置したもののここは廊下である。騒げば人がくる。悩んでいたミッドナイトに声をかけたのは、
「こ、校長先生!それとオールマイト!」
最悪だった。それと説教が確定した瞬間だった。二人が事情を理解した後、
凛のヒーローコスチュームは、オールマイトの親友であるデヴィット・シールド博士に作られた物である。
お披露目のそれを着た凛を見たミッドナイトは一言。
「本当にヒーローコスチュームなの?」
凛のヒーローコスチューム。それは、
比較すると、まず足元。革靴でよくあるウィングチップの焦げ茶色シューズの様に見える物。ズボンは変わらず黒色のスラックである。それを留めるベルトは、靴に合わせた焦げ茶色のメッシュベルト。シャツは光沢あるワインレッドでその上にズボンに合わせた黒色のベスト。それに
先程まで着ていた物は少しくたびれた私服感満載だったが、コスチュームとしての性能は天と地ほどあり、高校生平均身長より十五センチ高い身長と平均体重より二十キロ重く意外とガッシリしているがスマートに見える体型の凛が纏うとその筋の人に見えたりするのは血筋なのだろうか?
他に今回着てはいないが上記までの物の色違いのシャツやズボン。ベルトや靴もある。さらに各ズボンに合わせたジャケットまで用意された徹底振りであるが、教室の隠しギミックには入り切らないので選んで入れて置く事になる。
ちなみに入学の際提出した被服控除における凛の『要望』は、『今と変わらず動きやすい格好』である。種類の豊富さに呆れない事もないが、後日オールマイトによるデヴィット博士への確認電話によると、「予算が潤沢な割に作成するものにかかる金額が安かったので種類を増やした。それでも予算を使い切れてないから要望があればいつでも言ってくれ」という回答を頂いたので、凛はこっそり『フラン専用コスチューム』を発注。この話には、夏休みの事件でミッドナイトにバレて怒られるという未来があるが、これは凛の自業自得だろう。
その後『八神凛のヒーローコスチュームが私服みたいだった件について。』なんてラノベのタイトルみたいなお披露目会からみんな正気を取り戻し、今授業中じゃね?っと慌てて凛を送り出すのだった。
■
黒い霧の
「死柄木 弔」
「黒霧、13号はやったのか?」
「行動不能には出来たものの散らし損ねた生徒がおりまして・・・・・・一名、逃げられました」
「・・・・・・は?」
素っ頓狂な声を上げて黒霧と呼ばれたを
「流石に何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ。帰ろっか」
まるでゲームで負けて興味を失ったかのような発言をする。そして・・・・・・
「その前に、平和の象徴の矜持を少しでも・・・・・・」
その悪意は蛙吹梅雨に向かって行った。
コンマいくつかの走馬灯。
先ほど自分の担任である相澤先生の腕を破壊した手が私の顔に向かってくる。思い出すのは家族である父や母、大事な弟や妹じゃなかった。あの事件以来離ればなれになった幼馴染みの八神凛、そして幼い頃の約束。
「梅雨ちゃんはヒーローになるんでしょ!なら僕は
「本当に守ってくれる?なら私も凛ちゃんを守るわ」
「うん!」
そんな貴方のことだった。これで終わり・・・・・・痛いのは嫌だなぁ・・・・・・なんて、覚悟決めたのに・・・・・・
予想した痛みはいつまでたってもやって来なかった。
「大丈夫か?」
そんな声と共に私を壊そうとした
「緑谷、説明してくれるか?」
「八神君!」
そこに立っていたのは私の幼馴染みだった。
「あれ?夢じゃない?」
それに、はにかむ笑顔じゃなくいつもの無表情で
■
急いで来て良かった。凛が心の底から思った事だった。普段より動きやすい事にちょっとテンション上がっていて開いていた入口からダイナミックエントリーをしていたのはナイショだ。そのまま梅雨ちゃんに何かしようとしていた死柄木に着地したのは運が良かった。この状況から、途中で飯田っぽいのを見かけたのも見間違いじゃなかったのだろう。
「脳無ぅぅ!殺せぇぇ!」
起き上がった死柄木がそう叫ぶと先程まで相澤を痛めつけていた脳ミソむき出しの
「凛ちゃん!」
先程の反動なのか腰が抜けて動けない蛙吹は叫ぶ事しか出来なかったが、
「ふっ」
脳無の攻撃が当たる、その瞬間逆に脳無が吹き飛んで行った。
「・・・・・・は?」
あまりにも間の抜けた声を上げたのは死柄木だった。
そんな反応を無視して凛は拘束するものがいなくなった相澤に向けて手を握ると、相澤が何かに引きずられるように凛に向かう。
「改めて緑谷。説明してくれ」
「へ?あ、はい。
「落ち着け緑谷。大丈夫だからな」
凛は相澤を柔らかく受け止め、救急セットが入ったトートバッグと一緒に峰田に渡す。
「わ、分かった」
「とりあえず白髪がボスで黒いのがワープ持ちで見慣れないのは全部
「うん」
「んでヤバそうなのは白髪、黒いのとさっきの脳ミソだな。梅雨ちゃんそろそろ動けるか?」
「大丈夫よ。それより相澤先生を」
漸く立ち上がる事が出来た蛙吹は相澤の様子を見る。
「なら、合図したら緑谷と峰田で相澤先生連れて、梅雨ちゃんはその援護しながらここから逃げてくれ」
「なっ!」
批難の声を上げるのは緑谷だが凛は正論で潰す。
「俺の事は聞いてるだろうから言うが邪魔だ。さすがにこのメンツ相手に手加減しながらお前等を守るのはキツイ」
凛は3人を見る。納得してない顔の緑谷。怯えた顔の峰田。そして理解し納得した顔の蛙吹梅雨。
「任せたわよ」
「サンキュー梅雨ちゃん。愛してる」
「えぇ、私もよ」
そんなやり取りを惚けて見ていた死柄木はようやく起動する。
「おいおいこんな所で告白かよ。青春してるなぁ・・・・・・」
「知らないのか?ここは高校だぞ。青春して何が悪いんだ?」
「チッ。皮肉も通じねえのかよ。さっきのお前めっちゃヒーローだったぜ。あの女も落ちたんじゃねぇの」
死柄木との会話で凛は確信した。これは時間稼ぎ。『
「先に言っておくがさっきの脳ミソ程度なら瞬殺出来る。俺の価値観ってやつはこの平和な国だと
そう凛は死柄木に言うと右手を上げ自分から真っ直ぐ出入口のある階段に向けて右手を振り下ろした。
『ズガンッ』そんな衝撃音。そして空気が割れた。
そんな表現が一番適切ではないだろうか。土煙が1m程度の空間を残し左右に広がる。その余波なのか無事だったはずのチンピラ
「さぁ道は作った。行ってくれ」
凛は3人に促す。そして、
「さっさと切り札呼べよ。俺がまとめて相手してやる」
死柄木に対し挑発的に吐き捨てるのだった。